え?ヒロインはシャルかだって?
まあ……それも一つの手かも……?
「だいぶ派手にやられたな」
「本当に酷い目に会いました」
ガレージで整備の方と話をしている。
俺たちは俺たちだけで傭兵をやってるわけじゃない。整備士や仲介人、オペレーターなどいろいろな人に支えられている。
彼もその一人で、オヤジさんと呼ばれてるベテラン整備士だ。
ガタイがいい中年の男性で整備班を仕切ってる。
「すいません。実力不足です」
「ま、ホワイトアフリカの英雄様と渡り合ったんだ。必要経費と考えるか」
そう言うと、ACに向き直る。
「余剰パーツとは言え、元はシャルのパーツなんだ。無駄にはするなよ。今回みたいに全力を出した結果ならそれでいい。」
「分かりました。」
この人たちはシャルさんが人脈を使って呼んだ人達だ。と、いうのもオヤジさんはシャルさんの友人で、一時期はシャルさんの整備チームの一人だったらしい。後発の整備員の育成のため離れて、それが終わったために呼び戻したらしい。
でも、少しおかしい。それはシャルさんのプロフィール。
【3年前に現われ圧倒的な力でアリーナの上位に短期間で食い込んだ。彼女の身元は分かっておらず、友好関係にある人間も少ないため正体は未だにはっきりしない。】
中立なのだから、人脈なんていうほどのものはないはずだ。
それに3年で後発の育成なんて終わらない。ならそれ以前の整備チームに所属していたことになってしまう。
そのうえ、なんでGAの案件を持ってきてたんだ?今さらだが、あんな案件を渡すための使者になるレイヴンが中立でいるはずがない。
一体、シャルさんって何者なんだ?
□
自室の机に向かう。何もない日は、シャルさんに貰った通信教育のテキストに取り組んでいる。
毎日のように依頼がある訳じゃないから、せめて一般教養は学んでおかないと、と義務教育分を頼んでおいた。
できるだけ選択肢を残したくてやっている。もし早く戦場から離れられても、みんなに取り残されて一人というのはごめんだ。
そんなことを考えながら数学のテキストを進めていたら、端末の通知音が響いた。依頼の更新が来た音だ。
見ると、俺のランクでも参加できる依頼が1つあった。
――
【潜伏テロリスト掃討】
『ミッションを説明します。』
『日本に潜伏するテロリストに対し各勢力による掃討戦を行います。』
『日本は中立状態であり、国家そのものやそこに存在する企業は今回の戦争への本格参加をしておらず、逆に侵略を受け付けない状態です。これに侵攻することは条約違反にあたり、各勢力から徹底的に攻撃されます。なにせ戦後の復興基盤にしようと企む勢力は多いですからね』
『しかし、これを気に食わない者たちが潜伏。テロを予定しているとの情報が入りました。これに対し各勢力が彼らを扇動して利益を得ることを互いに警戒。平和的な話し合いの末、これを合同で殲滅する運びになりました』
『機動兵器の破壊があなたの役割です。乱戦となる上、今回ばかりは戦力が特定できませでした。その為、今回は僚機の選択が許可されています。あまり無理をされない方がよろしいのでは?』
『以上です。力を示すにはいい機会だと思います。悪い話ではないと思いますが?』
『いい返事を期待しています。』
――
相変わらずオーメル系列のブリーフィングはムカつく。
しかし日本国内となれば、それなりに参加する意義はある。
しかし珍しいな、オーメルが情報不足なんて。オーメルは企業側において最も高い諜報能力もつ組織でもあり、専用端末から見られるレイヴンの掲示場ではちょっとした騒ぎになっている。
(まあ、受諾っと。)
企業の犬の代わりとしてなったレイヴンだから、選択する余地ない。そこまで考えて日付を見ると、再びの驚愕が俺を襲った。
作戦開始は6日後、それはゴールデンウイークのど真ん中だった。
□
作戦前日、割り当てられた地区が京都郊外だったので、京都で軽く観光することにした。
シャルさんも依頼を受けたけど、地区が長野の山の方らしい。山岳地帯に広く基地を設けられたせいで、こちらの戦力もかなり分散させなければならない。
一人ふらつく。
今後修学旅行で来る機会もあったかもしれないが、生憎望み薄なので今のうちに楽しんでおくつもりだった。
神社仏閣の付近にある昔の街並みを堪能しつつあるくが、連休なだけあって人通りが少し多い。
いろんな人とすれ違う。
そんな中、紫蘭の顔を見つけた。
見つけて、しまった。
(ツイてねえ。)
完全な想定外。どうせ東京にいるだろうと高を括っていた俺はひどく後悔すると同時に自分の不運を呪った。
俺は知らない人を装った。俺はサングラスをかけてる。スポーツ帽も。
雰囲気も変えようと頑張ったつもりだし、病院にいるはずの人間だから他人の空似とあきらめてくれることを願った。
「……ン!……練!」
しかし、希望的観測はことごとく打ち壊され。
「練!練ってば!」
肩を捕まれ振り向かされることになった。
目の前に彼女の顔。この前夢に出た幼馴染。
立上 紫蘭の姿がすぐ目の前にあった。
「どなたですか、いきなり」
「惚けないで」
ぴしゃり、と言い切られる。
悪あがきとばかりにとぼけるが、余り効いてる様子はない。
「世の中には、よく似た別の人が……」
「へえ、あご裏にあるほくろまで一緒なんて凄いですね」
「……」
あ、普段気にしてなくて対策を怠った。
軽蔑の声色と共に、ジト目で睨まれた俺はそれ以上言い返すことができなかった。
そして、それが涙目になった時、抵抗の意思は完全に叩きおられることになる。
「……心配してた。病院の人に、病気でいつ死んでもおかしくないって言われて。見つけたら、ピンピンしてんじゃない。損した」
もう涙が瞳から零れ落ちそうだった。
「……参った。お前がいるなんて思ってなかった」
諦めて認める。
これ以上、他人のふりをする自信が無かった。
「できるだけこのことは言うな。いろいろめんどくさいことになるから」
小声で耳元にささやく。
この人込みの中でこれ以上やり取りをしていたら一層面倒なことになる。
(アマジークさん。ちょっと違うけど、早速甘さが裏目に出たよ)
天を仰いで俺は的外れな思考をしてしまった。
□
「今まで何してたの?ずっと病気だって聞いてたし、さっきだって無視するし、惚けるし」
裏路地の小さな喫茶店。シャルさんに相談したらここを教えてくれた。
シャルさん達が秘密の話をする時に使うんだとか。店内は静かなピアノと俺たちの会話くらいしか目立った音はなかった。
「企業に捕まってね。その手下さ。父さんたちが人質になった」
「え……嘘、逃げられないの?」
「今はな。そのための人質だろうから」
実際厳しい。あくまでシャルさんがいるからこその今の立場。下手に動けばどうなるか分からない。
「だけど、これでもまだましな待遇なんだ。寸前で助けてくれた人がいてね」
「そう、そうなんだ……。ところでどうしてここに?」
「任務で。詳しくは言えない。お前は?」
「おばあちゃんの墓参り。終わったから観光してた。」
「そうか。油断してたよ」
話が途切れ、ピアノがその間を流れる。
「いつまで京都にいるかはしらないけど」
俺から切り出した。
言っといても罰は当たらないだろう。
「上から聞いた話では明日の夜、日本と企業の合同で潜伏してるテロリストをを掃討するらしい。郊外で戦闘になるだろうから気をつけろ」
「そうなの⁉一応明日午前で帰りだから多分大丈夫。」
「そうか、良かった。」
「あ、そういえばさ……」
そこからいろんなことを聞いた。
最近どうだとか、俺の親がどうしてるか。学校がどうなってるかも聞いた。
最後のは少し避けてくれてたんだろうが、うっかり漏らして「ごめん」と小さく呟いたのを「俺は行けないからとか気にしなくていい」と言ったら続けてくれた。
何してるかは気になってたからな。
「そろそろ、行かなきゃ。父さんと母さんに心配かけるし」
レイヴンになったことは、紫蘭には言わなかった。
怖かったからだ。紫蘭にどう思われるか分からなくて。
「……そうか」
お互いに口惜しそうな顔をする。
「連絡先とかはどうにかならない?」
俺は少し躊躇う。
連絡でボロを出してお互いを不幸にするかもしれない。
だが同時にここで連絡を取れる状況にしないと、それはそれでお互いのことが心配で仕方なくなる。
「偽名だけど、こいつでいいなら。頻繁に掛けるなよ。」
「アキレス、か。判った。」
俺は後者の感情論を取ってしまった。
バレたらバレたでその時、と楽観的に考えてないとやってられなかった。
「まあ、生きてたら適当に連絡する。」
「待ってるね。ま、死なないでね。」
紫蘭が帰る。おれはピアノが響く中、一人残される。
まるで自分が本来いるべき場所にいる「みんな」から置いていかれているかのように。
ネガティブな思考を振り切るべく、俺は飲み切れてなかったカフェラテを飲み干すのだった。
□
京都郊外の臨時ガレージに来た。アセン確認のためにだ。
テロリストだから安いガードボットが主戦力である可能性も高い。
先日借りたリニアライフルはブレて小さい相手には当てられないので、アサルトライフルに変更。
あとはミサイルも自腹で変えた6連小型ミサイルがある。試作品だった散布型ミサイルは戦闘データも含めてすでに回収されていた。
最後にもう1回項目ずつアセンブルを確認すると、ガレージを出る。
外は暗くなっていた。
とっくに自分は誰にも誇れない自分になっていた。
でも生きるため、選んだ。今思えば、途中で逃げても生きるだけならどうにかなったかもしれない。だけど俺はレイヴンで踏ん張ることにした。それは俺の選択だ。
後悔しても、今は進まなきゃ。立ち止まることは出来るけど、時間は戻せない。
□
「あずまッ!!あずまぁッ!!!」
いくら呼びかけても、すでに手遅れだった。腰から下が消し飛んでいるのだから。
昨日まで私たちはこの程度で死ぬ存在じゃなかったはずなのに、彼の命は消えようとしている。
「生きるんだ……僕の……分まで……」
「ッ……はぁ……はぁ……」
こういう時に限って、獏が現れないのは何かしらの嫌がらせなのか。そうシャルは毒づきながら、汗まみれになった体をシャワーで流す。
依頼の準備のために止まっていたホテルの一室、そのシャワールーム。
何年も前、失った彼の記憶は自分の想像以上にこびりついているらしい。あまりにも生々しい感覚に吐き気すら覚えながらシャワールームを出ると、彼女は下着のみのままベットに腰かけた。
日付はとうに変わっている。悪夢で目が覚めた彼女の眼はひどく憎悪に染まっていた。
吐き気を強引に飲み込むよう、コップの水を飲み干して一息つく。
彼女に与えられた任務。しかし、それは同時に彼女の私怨も乗ったものなのだ。
単語集やキャラクター集は必要そうですか
-
私にはそれが必要なんだ
-
単語集だけでいい
-
キャラクター集だけでいい
-
この小説には、不要だ……