あの殲滅戦から1ヶ月。
俺は量産のMTやノーマルだけを相手にするのに、物足りなさを感じるようになってきた。
そんな自分に嫌気が差す。
ACや軍用大型MTは装甲が厚く、トドメの攻撃が高火力過ぎない限りAP0による停止で終わる。なので殺している確率は低い。
だが、テロリストなどが用いる安価なMTは違う。
装甲が薄かったり無かったり。そんな機体はハンドガン程度でも著しく破壊される。それを撃破することはすなわち殺していることに等しい。
しかし、それらに抱く感想は「弱すぎて物足りない」だ。
(ふざけてんのか俺は……人殺して思っていいことじゃないだろ!)
自責の念に駆られた俺は、ここ数日アリーナに籠もっていた。ここは相当な事故でない限り、互いに命を落とすことはない。
だが、実力とACに対する理解が深まりつつあった俺は、停滞気味なレイヴンの集まりである79位から71位までをあっという間に抜き去った。
「物足りない……ぁ」
そしてたった今、俺は70位に対して勝利した。
アリーナでも無意識に充足感を求め、結局得られない不満。呟いた自分の言葉にそれを意識させられ、自己嫌悪に嵌っていく。
□
嘆きに沈む練のから離れ、所は変わり周りを自然に囲まれ緑豊かな土地。アナトリア中立コロニー。
U.Nオーエンはその南でACに乗り、待ち構えるように佇んでいた。
依頼が来たのは昨日の夜。別件で隣国にいたオーエンは急いでACごとヘリに吊り下げられると、そのまま揺られながら仮眠を取りそして今に至る。
オーエンは作戦を目前にして、念のため依頼メールの内容を再確認する。
『マクリブ解放戦線から脅迫状が送られてきた。内容はアナトリアコロニーへの直接攻撃。取りやめて欲しければイフェルネフェルト教授の身柄を渡せだそうだ』
『義肢技術で繁栄しているコロニーが、その権威を渡せる訳がない。その為に、レイヴン。君にマクリブ解放戦線を撃退してほしい』
『予想される敵侵攻ルートで待ち伏せし、これを撃破してくれ。全滅させる必要はない。多少はこちらの戦力で対処できる』
『伝説と呼ばれる君にならできると信じている。頼む、オーエン』
オーエンにとってアナトリアからの依頼は、初めてではない。それどころかお得意様と言ってよかった。
ここは数少ない義肢技術、つまり兵器以外で発達した中立コロニーだ。それを、国連とレイレナードに売りつけるものだから、周辺からちょっかいを受けている。
少し前は、GAの支援を受けたテロリストのハイエンドノーマル部隊に襲われていた。GA曰く暴走だったらしいが、それを撃退したのもオーエンだった。
骨があって報酬も良かったが、そういったレイヴン的な目的だけでここの依頼を受けている訳ではない。
オーエンはコロニーになる前のここで生まれた。その頃は、企業に狙われそうにない小さな街だった。
だがオーエンがレイヴンになって少しした時、義肢技術の急速発展し襲撃されるようになったのだ。
故郷に何も感じないほど、オーエンは冷酷な人間ではなかった。
そして友と故郷を簡単に失うほど力の無い人間でもないという自負を持っていた。
『来ました。迎撃を』
「どのくらいか?」
『……第一波。ノーマル3、MT7。戦闘ヘリが4機。第2波のことを念頭に戦って』
「任せろ」
オーエンは中量二脚でありながらある程度空中戦をこなすレイヴン。ヘリと同高度まで飛びあがり距離を詰めることで、ブレがあるリニアライフルをヘリに命中させていく。
エネルギーのぎりぎりで4機を撃墜しきったオーエンは、次に地上部隊のど真ん中へと着地した。
着地の瞬間まで展開されていた弾幕がフレンドリーファイアを経過して急激に薄くなる。もちろんオーエンはそれを承知で着地までの被弾を許容していた。
まずは先頭に陣取っていたノーマル――アルゼブラ製のSELJQ(セルジューク)の細い脚部をリニアライフルの連射で破損させていく。着弾の衝撃に高機動型の設計であるセルジュークは身動きが取れない。
それを好機と見たかパイルバンカーを構えて突っ込んできた2機目に対して、今まで敢えて動かなかったオーエンは一歩ステップを踏むようにブーストジャンプ。隙だらけの2機目にショットガン、リニアライフルの順で撃ちこむ。散弾で脆くした腹部周りを高貫通のリニアライフルの弾丸が貫き腰をへし折って撃破。
そのままバックステップを連続で続けつつ、トリガーを引いたままロックを変えてMTを次々と撃ち抜いていく。そして敵の集団の真ん中から出るころには、MTは2機まで撃ち減らされていてACも中破1と大破1だった。
諦めまいと突っ込んでくる無傷の一機に対して、オーエンは少し飛び上がってマイクロミサイルを発射する。
横にブーストして回避しようとする敵だが、発射したミサイルは高誘導タイプの3連装ミサイル。単純に横に避けるだけでは回避ができず命中する。衝撃に機体挙動が鈍ったところに、オーエンはショットガンを撃ちこみAPを奪って撃破した。
そして残ったMT2機と足が壊れたノーマルに淡々とリニアライフルを当てて第一波を全滅させる。
『第2波、ハイエンド3機です。気をつけて』
「随分と豪華だな」
BFFのAC、044ACのハイエンドタイプがこっちに向かってくる。
機体COMが左から順にα1、α2、α3。と機体識別コードを割り振り、モニター上でオーエンが識別しやすいようにラベルが貼られた。
オーエンとしては距離を離すと不利。早いところ中距離に持ち込みたい。
「ッ……と、危ない」
早速敵がスナイパーキャノンで砲撃してきた。それ専用に開発された機体は、肩武器も速度低下程度で発砲が可能だ。
砲撃の直前、殺気を感じたオーエンは跳躍で左斜め前へと回避することで難を逃れる。
そのまま間合いを詰めるべくオーバーブーストを起動、切り返すように右前に突進を始める。
その切り返しによって2斉射目を躱して接近、すれ違いざまにショットガンをα2に撃ち込みその右手側を通り抜ける。
α2は右腕を粉砕され、一拍を置いさらにその右手が持っていたてスナイパーライフルが爆発した。
「なるほど」
オーエンはオーバーブーストを解除し、急減速しながら振り向く。
視界に映る3機の044AC。そのうちダメージを受けたα2は後退、両翼は包囲を企んでいるのか散開しつつ前進を始めた。
今が最も被弾してはいけないタイミング。なぜならオーバーブーストにより機体が熱を持っているからだ。被弾で加熱させられたらオーバーヒートにより流れを持っていかれる。
そこでオーエンは通常ブーストとはいえ再び吶喊をし始めた。マイクロミサイルに切り替えα2へ追撃を放つ。
こうなれば敵はα2が回避するのを願いつつ、この好機をものにするしかない。
オーエンの左手に回り込んだα3は、これ以上α2への追撃をさせまいとスナイパーライフルで狙いをつける。
「分かってるんだよ」
トリガーにかけた指が引き絞られようとした瞬間、急ブレーキと共にオーエンのAC背部の発光し始めたことに気づき驚愕する。
オーバーブーストだ。それも左へ吹き飛ぶような機動で。短時間で2度目、放熱が終わり切っていないタイミングだったためハイエンドのパイロット達は読み違えた。
まるで突進する気かといわんばかりの機動に、α3は咄嗟にブレーキを掛ける。だがそれはもっともとってはいけない選択肢だった。
ブレーキを掛けたせいで、左に水平移動するオーエンの目の前で止まってしまったのだ。当然オーエンはそれを見越してオーバーブーストを切っている。
ショットガンが無慈悲に連射され、吹き飛ばされるα3。あっという間に装甲をずたずたにされ、パイロットも激しい衝撃によって脳震盪を起こし失神した。
しかし、残りの2機は黙ってみているわけではない。
オーエンの攻撃終了直後に照準が終わったα1は、スナイパーキャノンを発砲。オーエンがわずかに身を反らしたため、その弾丸はショットガンを捉えて粉砕することとなった。
「おっと、簡単に当てられると思うなよ」
反撃にリニアライフルを撃ちながらα1に接近し始める。左手のショットガンの残骸は捨てて、格納していたブレードを装備した。
必死に後退するα1だが、ハイエンドとはいえ砲撃戦を主体とする044ACが中量二脚の前進から逃げられる速度を持っているわけがなかった。
やがてオーエンが牽制に撃っていたリニアライフルが直撃し、衝撃によって動きを止められるα1。
「チェストォッ!」
オーエンがすれ違うように一閃し、腰から上下に両断されるα1。
その一閃の残心を狙うように右腕の無いα2が照準を必死に合わせるが、先ほど回避したミサイルが運悪く一周回って直撃しとどめを刺した。
「お、運がいい。にしても、この質と量はアナトリアのノーマル部隊にとって荷が重いだろうな」
『そうだったかもね……
「了解」
□
ガレージでオーエンは休んでいた。
想像以上にしっかりとした戦力を相手にしたので、少しだが疲れている。
「お疲れ様。大丈夫?」
「ああ、フィオナか。問題無い。だが、マクリブにも狙われるなんてどうしたんだ?不祥事でもあったか?」
今まで、大規模武装勢力に狙われたことは無い。せいぜい企業後援の中規模テロリストが関の山で、今回のマクリブのような大規模な武装集団が声明を出してくるなど初めてだった。
「これと言ってないの……私達もびっくりして」
「……マクリブといえば、英雄アマジークだな。あ、そういえば、そいつを負かしたやつがいるって話を聞いた」
オーエンが思い出すのはあの少年の姿だ。
先日ちょっとしたニュースとして掲示板を騒がせた、駆け出しレイヴン。
「え?あのアマジークを?興味ある」
フィオナも興味津々だ。
もともとは親の背中を追いかけるように義肢技術者をやっていたのだが、博士がらみの襲撃が増えてからというもの、アナトリア内でのミッションでは彼女がオペレーターをやるようになっていた。
その関係かオーエンの同業者にも興味を持つようになっていった。
「新人のアキレスさ。もっとも、バランサーが壊れて倒れたところでマウントとったらしい」
あいつが本気で奴を撃墜してたら腰が抜けてだだろう。
負かしただけでも十分称賛に値するレベルだ。そこまでの成長速度というのなら、俺は近いうちに抜かされるだろう。
「へぇ〜。でも凄いよ。バランサーが壊れたところを確実に降伏させる判断ができるんだから」
「ま、そうともとれるな」
そのまま最近のレイヴン事情を雑談的に話しながら、二人の会話はしばらく続いていくのだった。
□
アナトリアから少し離れたところに、一機のオーダーがいた。
「それでいい。それで……」
アナトリアに背を向ける。
『いいのか?あれで?』
通信越しに少女の声がする。
彼女、いや彼にとっては正直余計なお世話だった。
「余所者が入るべきじゃない。外野は黙ってて
『分かったよ。そういうんだったら見つかる前にとっとと離脱しろ。元カノの今カレと戦うのも面倒だろう』
パイロットが不服そうに鼻を鳴らすと、白いオーダーはOBで去っていった。
□
「イフェルネフェルト教授、これは後に必要となる技術です。あなたの物のように扱えなければいけませんよ」
「納得できるかッ!私の技術は多くの人達の為にある。戦争に使うなど言語道断だ!」
イフェルネフェルト教授の部屋で、何かを強く叩く音が響く。
彼は怒りに任せて机に拳を叩きつけたのだ。
「戦争が早く終われば、犠牲者が減るんですよ。それとも、あなたはこの半端な管理戦争を続けて、あなたの技術でコロニーが繁栄する事を望んでいると?」
「貴様っ!」
怒りの形相で彼を睨む。
教授は純粋に人を救うべく、幸せにするべく義肢技術を開発しているのだ。死の商人と同様に扱われるのは幾万の侮辱にも等しい冒涜的なものだった。
しかしそれを意に介さない様子で、もう一人の男は飄々としたまま続ける。
「事実を述べたまで。あなたがなんと言おうと、この技術は持っていてもらいます」
「……お前は、何を望んでいる」
部屋を影が出ていく。その男の口元は、笑顔で歪んでいた。
「まだお伝えできません。しかるべき時まであなたが生きていればお話ししましょう。では」
その声を最後にして彼は部屋から離れていき、教授一人が部屋に残された。
「やはり、MTも、ACも、この世界も。すべて奴が……」
所詮義肢研究者でしかない彼には呟くことしかできなかった。
単語集やキャラクター集は必要そうですか
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私にはそれが必要なんだ
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単語集だけでいい
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キャラクター集だけでいい
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この小説には、不要だ……