朝起きたら紅美鈴   作:白仮面

3 / 6
2話

女性の服装、トイレどうすればいいの問題。

 

小一時間ブラジャーの選び方などについて調べていたのだが正直面倒くさくなっていた。元々私はマメな方ではない。形が、サイズが、などと色々あるようだが面倒臭くなった私は大まかにサイズをはかり、やや大きめのスポーツ用の下着を上下セットで通販で購入した。動きやすさが一番である。

 

ついでに女性用の服やパンツもTシャツやスウェット、ジャージなどばかりではあるが購入した。あまりファッションセンスには自信がなかったので無難な選択しかできなかったというわけでは断じてない、ないったらない。

 

あとはトイレや風呂ではあるが、女性になってしまったものは仕方がないとして割り切ることにした。

 

というのもおかしな話ではあるかもしれないが、この身体になってからというもののあまり性欲というものが湧いていない。一度風呂場で自分の体について観察してきたがそういうものである、という感想しか湧いてこなかった。

 

元の身体に戻ることができたとしてもEDになってるかもしれない、そう考えると若干物悲しい気分ではある。

 

深く考えたら負けだと思い、それらのことを頭の隅に追いやる。私は改めて身体能力の測定のために外に出ることにした。

 

髪は三つ編みをほどいてリボンでポニーテールにし、パーカーとスウェットを着るだけという簡素なものだが着飾る気もないのでこれでよいのである。

 

「いざ、南無三!」

 

と、まるでどこぞのお寺の僧侶よろしく気合を入れて玄関の外へと飛び出した。元気よく飛び出したところをマンションの同じ階に住んでいるであろう女性に見られて無言で早足になったのはここだけの話。

 

 

閑話休題、公園による途中にウニクロに寄って通販で買ったものが届くまでの間に合わせ用の下着に着替えたり、コンビニでスポーツドリンクを買ったりしていた。この鮮やかな紅髪というのは大変人の目を引くようで道ゆく人に振り向かれるというのは新鮮な体験だった。

 

寄り道をしていたのもあるが公園に着いた時には16時をまわっていて、公園ではちらほらと子供達が無邪気に遊んでいた。そんな子供達が遊ぶ片隅で紅美鈴としてどの程度動けるのかを確認する。

 

さて、私は生まれてこの方武術というものを習ったことがない。空手しかり、合気道しかり、ボクシングしかり、テレビで偶に見る、といった程度だ。紅美鈴が得意とするであろう太極拳をはじめとした中国武術に至っては全くの無知だ。

 

ではそんな無知の素人が紅美鈴という身体をもったとして武術を使えるのかという話である。まぁ無理だろうな、と思いつつもなんとなしに構えを取ろうとしてみる。

 

「んん?」

 

するとどうしたことだろうか。無意識に身体が動き、気付けば腰を大きく落として身体を半身にした構えをとっていた。

 

無意識的に己が理想的な構えをとったことに驚愕する。そして更に驚くことにこの身体はここからどのように動けば良いのかも分かっているらしい。そして私は頭ではなく身体で、感覚的に理解する――

 

どうやらこの身体には武術の神様が宿っているらしい。

 

フゥゥゥと息を深く長く吐きだし、凪いだ海のように辺りが静まり返った次の瞬間、私の身体は動き出していた。

 

流水のように流れるような動きで虚空の敵を討ち払う。拳、肘、膝、足、全身を使いながら流れるように連打を撃ち込んでいく。

 

動けば動くほどどのように動けば良いのか、知識がまるで奔流のように頭の中へと流れ込んでくる。身体に頭が追いついていき、更に動きが洗練されていく。

 

全身で感じる水の流れに身を委ね、荒れ狂う川に心を重ねるのだ――流水はいつしか川となり、川は勢いを増して龍へと昇華する。

 

全てを飲み込む猛々しき龍となりて敵を討ち滅ぼすのみ。

時に激しく、時に静かに龍は天を舞い地を払う。

 

最後は龍の(あぎと)で喰らうがごとく、両の掌底を眼前に撃ちだして私の演武が終わりを告げた。

 

どれだけ舞っていただろうか。永遠にも、ほんの一瞬だけだったようにも感じる。だが終わってみれば全力で身体を動かしたからか、気持ちの良い疲労感が身を満たす。ぐぐぐ、と伸びをすれば体全体がほぐれる気がして清々しい気分であった。

 

「さて、帰るか……うん?」

 

はて、公園がやけに静かだなと思えば、子供も大人も男女関係なく、誰しもが動きを止めて私に注目していた。何故、と一瞬頭がフリーズしたが考えてみれば当然だ。公園でこのような派手な演武を行えば注目を集めないわけがない。

 

本当はキックの2、3発うって、軽くジョギングでもして帰るつもりだったのについ構えをとって、ついバトル漫画もかくやといった演武を披露してしまったのだ。

 

"まるで紅美鈴という魂に引っ張られるがごとく”、私の身体が動いてしまっていたのだ。

 

やらかした、と内心で頭を抱えるがこのまま逃げ帰るのも不審である。誰も動かないので演武が終わったということを示すためにも仕方なく両手を合わせて深く深くお辞儀をした。

 

すると1人の男の子がパチパチと拍手をしてくれる。

 

それに釣られてか、その場にいる方々が大きく拍手をしてくださった。このように知らない方々から拍手されることなどないのでなんだか照れ臭い。

 

最初に拍手してくれた男の子がタタタッと駆け寄ってきてくれたのでしゃがんで目線を合わせる。まるでスーパーヒーローをみたかのようにキラキラとした目でみつめてくる。やめてくれ、私ではなくこの紅美鈴というキャラクターが凄いだけなのだ。

 

「さっきのとってもすごかった!!アレって何?空手?」

 

「うーん、中国武術、かな?」

 

演武を舞ってなんとなくではあるが私にも武術の知識がおりてきた。

 

だからこそ言えるが、先程のアレは少林拳や八極拳をはじめとした外家拳や太極拳や形意拳をはじめとした内家拳など様々な流派を長い年月によって積み重ねられてきた武術の経験と知識によって統合した紅美鈴独自の流派であろう。

 

だがオリジナルの流派です、というのもなんだか気恥ずかしいし、なにせ子供相手だったので中国武術だと言葉を濁しておいた。

 

まぁ実際に教えるわけでもないのだから適当にごまかしても――

 

「俺もできるようになれる!?姉ちゃん教えてくれよ!!」

「あっ、ずるい!僕にも教えてー!」

「私もー!」

 

他の子供達が集まってきていて、皆が皆、キラキラとした目で私を見つめてきていた。こういう目に私は弱い。こんなに純粋な目をした子供達の願いを無下に断る、というのは私の良心を咎めた。

 

だがこのような異変が起こっているという時に子供達に武術を教えて自由にできる少ない時間を無駄にするわけにはいかない。やむを得ないが子供達のお願いを断ろうと口を開く。すまない、子供達、君達に割いている時間はないんだ。

 

「仕方ない、ちょっとだけだからね」

 

「ありがとー!姉ちゃん!俺も絶対あんな風になれるようになる!」

「やったーーー!!!」

「ほわっちゃあー!!」

 

おかしい――気付けば子供達のお願いを聞いてしまっていた。公園に来てる時に中国武術の手ほどきをしてあげるなんて約束もしていた。

 

朝起きたら紅美鈴になっていたという非現実的な日常と向き合う為にやらなければいけないことは山ほどあるというのに、全くバカなことをしたものだ。

 

だが無邪気に私の真似をする子供達を見てクスリと笑う。こんな純粋な目をした子供達のお願いは断れないよなぁ、と子供達の頭を撫でながら中国武術の基礎を子供達に教えるのであった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。