「おとくーん! こっちこっちー!」
「あ、千砂都ちゃーん!」
ある日の事。千砂都に呼ばれた音羽は、休日の喫茶店へとその身を繰り出していた。
「今日は来てくれてありがとっ」
「うん! それで……用事って、なんだったかな?」
「ほら、地区予選も近いから練習メニューの見直しとかしたくって。おとくんには相談に乗って欲しいからさ!」
そう言って、千砂都は音羽にウインクしてみせる。
「そっか……僕なんかでよければ、全然力になるよ」
「むぅ~。そういう、“僕なんか“って言い方禁止。私がおとくんを頼りたくて頼ってるんだから。ねっ?」
「う、うん……」
「……よし! それじゃ何か注文しよっか! ほら、座って座って」
千砂都に促された音羽は腰を下ろす。ソファのふわりとした感触が音羽を迎え入れた。
「なんだかオシャレな店だね?」
「ふふっ、いいでしょー。最近のお気に入りなんだ。オススメは桃のタルト! あ、でもでも。こっちの新作も美味しそうだなぁ……」
「どれどれ……えっ、みかんのケーキ!? うわぁ、美味しそう……! 僕はこれに……あぁ、でも。千砂都ちゃんのオススメも美味しそうだなぁ……」
「みかん、好きなの?」
「うんっ!」
早速メニューを広げた二人は、数々の魅力的なメニューに目移りし、あれがいいこれがいいと話し合っていた。
5分ほど2人で迷っていると、ふと、千砂都がこんな事を言いだした。
「じゃあさ……お互いの好物を頼んでみるのはどう? 私がみかんのケーキ、おとくんが桃のタルト」
「えっ? でも、千砂都ちゃんは桃のタルトが食べたいんじゃ……」
「私ね、おとくんの好物がみかんだって初めて知ったんだ。おとくんの好きな物の事、もっと知りたいし、私の事ももっと知って欲しいから。ね、いいでしょ?」
「千砂都ちゃんがそう言うなら……わかった! すみません、店員さん!」
そうして店員を呼んでから、数分後。
「うわぁ……とっても美味しそう!」
「こっちも! みかんの一つ一つが、光を受けて輝いてるみたいで……」
自分達の前に運ばれてきた皿に、両者ウットリとしていた。
「それじゃ、食べよっか!」
「うん! せーの」
「いただきまーす!」
二人の声が重なり、それぞれ頼んだスイーツを口へと運ぶ。
直後、二人の顔がパァッと明るくなった。
「あむっ……ん~、美味しい! 千砂都ちゃん、これ凄く美味しいよ!」
「えへへ、でしょー? どれどれ、私も……う~ん! こっちも美味しい! おとくんが勧めてくれたおかげだね?」
「えへへっ。あ、千砂都ちゃん。桃のタルト、一口食べる?」
「えっ、いいの!」
「勿論! 千砂都ちゃんにも食べて欲しいから。今取り分けるね……」
そう言って、音羽が卓上の皿に手を伸ばそうとした瞬間。
「え~っ。いいよ、そんな事しなくて」
「えっ? でも、そうしなきゃ千砂都ちゃんが……」
「あ~ん」
「えっ」
千砂都が身を乗り出し、音羽の方へその口を開ける。食べさせろ……という意味だが、当の音羽はと言うと。
「そんな、恥ずかしいよぉ……」
「ん~?」
そんな音羽に、チラッと片目を開けて目線を送る千砂都。引くつもりはない、という事らしい。
「わ、わかった……はい、あーん」
「あ~、む……もぐもぐ……うん、やっぱり美味しっ!」
ニコッと、笑顔の花を咲かせる千砂都。
「それじゃ、次はおとくんの番ね! はい、あ~んして!」
次は、自分のケーキを切り分けて、音羽に差し出した。
「あ、あ~ん……」
少し顔を赤らめた音羽は、千砂都の言われるがままに口を開ける。
「はいっ、どうぞ~♪」
「あむっ……ん! 美味しい! 美味しいよ、千砂都ちゃん! みかんの甘酸っぱさが、クリームと凄く合ってて……それからそれから、スポンジもふわふわで!」
ケーキを口に入れた瞬間、顔の赤らみはどこへやら。明るい表情でケーキの感想を述べた。
「ふふっ。お気に召したようで何よりだよ♪」
「僕もっ。千砂都ちゃんの好きな物が知れて……僕の好きな物も知ってもらって、嬉しい!」
そのまま二人は、残りもペロリと食べ終わってしまった。
「あー、美味しかった……おとくん、ありがとうね!」
「僕も! 千砂都ちゃんとご一緒できて嬉しかった」
店から出た二人は、思い思いに身の丈を伝え合う。
「なんだか……デートみたいだね?」
「デッ、デート!? ちが、僕と千砂都ちゃんはそんなんじゃ」
「あははっ、冗談だよ、冗談! それに、こんな事言ってたら……かのんちゃんやすみれちゃんに怒られちゃうからね?」
「え? なんで今あの2人が……」
「はぁ……これじゃ、苦労しそうだなぁ。いい、おとくん? ちぃちゃんからのアドバイス、もう少し女の子の気持ちに敏感になること! わかった?」
「えっ? う、うん……」
「それじゃ、今日は楽しかったよ! またね」
「うん、バイバイ」
2人はそのまま、別れようとした。が……
「……あー!! 練習メニューの会議!!」
直後、お互いの方に向き直って声を上げた。
「……ふふっ、ケーキが美味しくてすっかり忘れてたよ」
「え、えとえと。どうしよっか?」
「う~ん……それじゃ、おとくんのオススメのお店、紹介してよ! そこでまたお話しよ?」
「うんっ。わかった! えぇっと、あの店は確か……こっちだよ、行こっ!」
「うぃっすー!」
二人の休日は、まだまだ続く。
にわにわさんのあとがき
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『"好き"の教え合いっこ』
おとちぃです。誰も書かないであろうカプを書きたかった(2度目)。お互いがお互いを「もっと仲良くなりたいっ!」って思ってそうな2人。でも音羽くんは、千砂都の"まる"愛に興味があったり、千砂都も音羽くんを頼ったり、星トラの隠れた名コンビだったりする……かもしれない。これを機会に2人でのお出掛けが増えていて欲しいですね。
以上3作、少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。それではまたの機会に。