まえがき
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初めまして、壱肆陸と申します。
まずは前編を読んでいただき有難うございます。そして、三次創作の楽しさの余り少々弾けた内容になってしまったことをお詫びします。他の皆さんに比べて一人だけふざけすぎだろあの野郎、となってないことを祈るばかりです。後半は真面目なものを書いたつもりですのでご容赦のほどを……この続きとなる後半もよろしくお願いします。
「……どうする?」
「どうするって……音羽が行きなさいよ」
「えっ、僕……? うん、わかった。すみれちゃんが言うなら……!」
「あ、断れないおとちゃん使った! すみれちゃんズルい!」
「うぐっ……!」
「わかりました。ここは生徒会長として私が……!」
「れ、恋ちゃんは行かない方がいいかな!? なんか話が拗れそうっていうか!」
とある休日のこと。いつも通り練習をするために学校へと足を運んだ、結ヶ丘スクールアイドル部の澁谷かのん、平安名すみれ、葉月恋、そして東音羽。しかし彼女らは部室前で渋滞を起こしていた。その理由を、混乱に耐え兼ねた音羽が今一度声に出す。
「くぅちゃんがグレた……」
部室で一人他の部員を待ち構えるのは唐可可。しかしその恰好は普段のクリーム色の可愛らしい練習着ではなく、
特攻服だった。
少しだけ縮めて「トップク」なんて呼ばれる代物である。
おまけにサングラス+バット(叩いたら音が鳴る柔らかいやつ)に、ガムをやたらと膨らませてヤンキー像構築に余念がない。
しっかりと思い出そう。少なくとも昨日までは彼女は正常だったはずだ。突然起こった劇的ビフォーアフターに、誰もが困惑し部室に入れてすらいない。それが今の状況であった。
「いつまでもこうしてるわけにもいかないよ。やっぱり僕が!」
「あっ、おとちゃん!」
「お……おはよう、くぅちゃん。ところでその恰好は……」
「我是流氓! 我两天没洗过餐具了! 把手放在口袋里走路!」
「ひぃぃぃっ! ごめんなさいごめんなさい!」
「音羽くん!」
「ほら言わんこっちゃない!」
「しっかりしなさいよ音羽!」
軽くノックをしたら中国語で怒涛の反撃が待っていた。何を言われているかは普段通りサッパリだが、勢いで涙目になって委縮してしまう音羽。彼は黒一点でありながらメンバーの誰よりも女々しい。が、その勇気もあって皆も部室にまで脚を進めることができた。
そして、全員が揃ったのを確認した可可も、遂に満を持してその真意を明るみに晒す。
「ふふっ……“待”ってマシたよ、コノ“瞬間”を! さぁ、“勝負”デス。今コソ『Liella!』“最強”を決めるトキ! 日和ってるヤツは黄浦江に沈めテ───」
「いい加減にしなさい」
「あぐっ!?」
一撃での決着。すみれのチョップが可可を鎮めた。エンジンが温まったというべきか、流石は唐可可ストッパー。こうして彼女のLiella! 統一の夢は儚く潰えたのだった。
「……不良漫画にハマったぁ?」
あまりにもあんまりな理由だったので、思わずオウム返しをしてしまったかのん。まぁ純粋な可可らしいとえばそうだが、それにしたっていつも以上に極端で唐突だ。
「ハイ! たまたま無料公開されテタ話題の漫画にムチュウになってシマイ……クク、一睡もしてないデス」
「じゃあ徹夜ってこと!? くぅちゃん大丈夫……?」
「平気デス! ククの心は燃えていマス! アレが日本の不良……漢の“友情”! アレこそクールジャパン! デス!」
「不良……! 話には聞いたことがあります! 確か夜の校舎の窓ガラスを拭いて渡ったり、盗まれたバイクを届けてあげる親切な方々ですよね!」
「キッツい検閲入ってるわね」
「私の知ってる尾崎豊と違う」
恐ろしきお嬢様育ち。恋との認識違いに呆れツッコミを入れながら、すみれとかのんは苦笑いをした。
「で、なんでそんな恰好で来てるのって話よ。私たちは練習をしに来たのよ! ていうかスクールアイドルが不良なんて反社会的イメージ、ショウビジネス的にNGに決まってるでしょ!」
「はあー……全く分かってないデスね、やはり所詮はグソクムシ。かのレジェンド・オブ・レジェンズスクールアイドルは、アナーキーでパンクな悪魔的衣装で人前に現れたという都市伝説もありマス! ハンシャカイだかなんだか知りマセンが、伝説となったスクールアイドルは常に常識を壊す“挑戦”を続けて来たのデスよ!」
「くぅちゃんの意見も確かに……僕はちょっと怖いけど、斬新と言えば斬新かも。こういう特攻服でライブするのはどうかな!」
「うーん……流石にそれは無いんじゃないかなぁ」
「そっか、僕は結構いいと思ったんだけどな……」
「繚乱デス──ーっ!」
かのんに柔らかく否定され、しょぼくれる音羽。だが、かのんはこの朝一で摂取するには重たいカオスを少しずつ消化しながら考えた。音羽や可可の意見は極端だったとはいえ、全く的外れなことを言っているわけではない。
「……うん、でも可可ちゃんの言う通りかもしれない。『Liella!』の名前を決めたとき、私たちはどんな色にもなれるって話したでしょ? だから思い切って踏み込んで、色んなことを取り込んでみるべきなのかもしれない」
「確かに、そうかもしれませんね。グループとして成立したばかりの私たちが保守的になってばかりでは、きっと生き残れません。そもそも今の『Liella!』にはまだ守るべき伝統もないわけですし!」
「『Liella!』のイメージは結ヶ丘のイメージに直結すると思うんだけど、あんたがそれ言うの?」
「票数は4対1! 千砂都の到着を待つまでもありマセン、すみれの負けデス! と、いうわけで衣装を全員分用意して来まシタ! さぁ皆サン、ククと一緒に“ワル”になるのデス!」
「ちょっと待って可可ちゃん!? 私が言ったのはあくまで方向性の話で……!」
少しでも意見を譲ってしまった多数派は、そこで選択を誤ったと確信した。
寝ていない可可は深夜テンション継続中である。
「うぃっすー! みんな、遅くなってごめ……!?」
Liella!の最後の一人、嵐千砂都が少し遅れて学校に到着。と、同時に言葉を忘れた。普段皆を引っ張る活発少女の千砂都を絶句させた光景、それは自分以外のメンバーと思しきヤンキー集団が屋上でたむろしていた混沌であった。
「オラァ! ワレェ! パラリラパラリラァ!」
「え、えぇ!?」
「スクールアイドル戦国時代に“カチコミ”かける悪童! 目指すは“スクールアイドル統一”! 生まれ変わったクク達は……『離獲羅』! デス!」
「「「「夜露志苦!」」」」
「え……なに?」
至極真っ当な反応である。
「ヨク来たデスよ千砂都! さぁイカれたメンバーを紹介シマス!」
「いつから私たちはロックバンドに……?」
「まずは総長、スバラシイ歌声でテッペン目指す我らが“ドン”! 澁谷ぁぁぁ……かのん!」
「私総長っ!?」
わざわざメンバーのイメージカラーに合わせた衣装を用意した可可。オレンジ色の特攻服に身を包んだかのんは、当然ではあるが衣装に気持ちがついて行っていないらしく、遠慮がちに両手で『離獲羅』の旗を握っていた。
「かのんちゃん、なにこれ。ハロウィンってこの間終わったと思うんだけど」
「うぅ、なんでこんなことに……ごめんみんな、私が下手なこと言ったから……」
「なるほど、これが本当の『澁谷ハロウィン』ってことだね」
「ちぃちゃん、ちょっと面白がってるでしょ」
「うん凄く」
嵐千砂都、実はメンバーの中で一番ノリがいい少女である。既に誰より早く状況に順応し、楽しむ気満々だった。
「では続いて副総長デス! 表に姿を見せず、グループを締める『裏番長』! 東音羽っ!!」
「あ、おとくんそういう設定なんだね」
「…………がんばります……」
「声ちっさ!?」
「マスクと眼鏡つけてるから……昔の癖でつい……」
リーゼントのカツラに加え、マスクとサングラスを付けられた音羽はもう誰なのかわからない有様だった。可可的にはこれで参謀的なイメージらしい。
「音羽、もっと腹から声出しマショウ! ほらドス効かせたセリフを、ドウゾ!」
「ヤンキーって何言えばいいのぉ……!?」
「えっとちょっと待ってクダサイ……そうデスね、『ナニミテンダステゴロダコラ』とか『ナメテットヤキイレンゾテメェ』とか言うとイイとありマス。意味はワカリマセン」
「僕もわかんないよ……何焼きって……? たこ焼き……?」
「いいから副総長らしく堂々としててクダサイ! ほら、4番隊隊長のレンレンを見習うのデス!」
そう言われて音羽と千砂都の視線は恋に向く。言っちゃ悪いが雰囲気的に一番似合わないのに、一番気合が入っているので率直に面白い風貌となっていた。青色の特攻服を着た彼女は、一人だけしっかりと腰を低くしたヤンキー座りで、変な手の形をしながら叫ぶ。
「び……毘盧舎那仏!」
毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ、Vairocana)は、大乗仏教における仏の1つ。華厳経において中心的な存在として扱われる尊格である。密教においては大日如来と同一視される。(wikipediaより抜粋)
「恋ちゃん、ヤンキーって難しい漢字を言う人じゃないよ?」
「僕もそう思う……」
「そうなのですか!? 私が調べた限りでは、なにやら難読な言葉を叫んでおられたのでつい……では『ヤンキー』とはいったい何をされている方々なのでしょう……?」
難しい命題に頭を抱えているが、それでもしっかりと『ヤンキー』をやろうとしている辺り真面目だ。育ちが良すぎる彼女から『非行』という単語は多分出ないので、答えは見つからないであろうが。
「で、2番隊隊長の……えー、すみれデス」
「私の紹介だけ雑なんだけど!? やるならちゃんとしなさいったらしなさいよ!」
黄色っぽい緑の特攻服は不思議とすみれのイメージにマッチしていた。流石は芸能の世界で生きてきただけはあり、なんでも着こなせてしまうようで可可が複雑な表情を浮かべる。ただ、千砂都が気になるのは一人だけ背中にデカデカと入った漢字の刺繍。
「“ぎゃくあくしゅう”って……なに?」
「“
「文句とはなんデスか!! わざわざククがすみれのために漢字まで調べたのデスよ!?」
刺繍より漢字調べる手間なんだ……と一同は思った。というかどこで調べたのだろうか、こんな当て字。
「別に気に入ってないとは言ってないでしょ!? そんなことよりなんで私が2番であんたが1番なのよ!」
「可可ちゃんが1番隊隊長なんだ……じゃあ私3番?」
「順当に加入順デスよ。文句言える立場なのデスか、『2番』のクセに」
「じゃあなんで音羽が副総長なのよ!」
「音羽は特別デス」
「そんなの納得いかないったらいかないわよ! 総長は私よ、それなら副総長が音羽でもいいわ」
「はぁぁぁぁっ!?? 言わせておけばグソクムシのクセにナマイキな! 音羽を独り占めする気デスカ!?」
「グソクムシ言うなぁっ!」
2人が本気で立場争いを始めたので、今日一番ヤンキーっぽい展開に。実際は音羽争奪戦になりつつあるのだが。話の中心にいる彼が、こんなことでも本気になれる彼女は凄いなーと、全く嫌味ではない尊敬を覚え始めたところで千砂都が一言。
「うーん……で、なんでこんなことに?」
至極真っ当な反応、パート2である。少し遅いが。
「なるほど」
「これをなるほどで済ませる千砂都ちゃん、凄いね」
事情を聴き終わった千砂都は大きく頷いた。それどころか自分の分のピンク色の特攻服を着て、腕を組んでご満悦の様子。彼女の精神の懐は底が知れない。
「お? なに見てんだぁ? マルにしちゃうぞこらぁ!?」
「ちぃちゃんノリノリだ……」
「これが正しい『ヤンキー』なのですね!」
千砂都が最初からいなくてよかったと、かのんとすみれは深く思った。可可と彼女の勢いで始まっていたら、もっと酷いカオスになっていた気しかしない。
「いやぁでもなんか、たまにはこういうのもいいよね! 新しい試みは私も大事だと思う。それに不良っぽいかのんちゃんって
「ちぃちゃん……! その話はもういいから! しーっ!」
「……?」
音羽はふたりの会話が少しだけ気になったが、自分のリーゼントのカツラが気になって仕方がなかったため、それどころではなかった。今日は一応練習しに来たのだ。このヤンキースタイルはいつまで続くのだろうかと不安になってきたところで、音羽は千砂都が「ふー」と長めに息を吐いたのを見た。
かのんが何かを察したように背筋を震わせる。
「ねぇ可可ちゃん」
「はい、なんでショウ。そうデス千砂都からもすみれにガツンと……ヒェっ!?」
可可の顔から血の気が引き、サングラスがずり落ちた。ついでに未だに言い合いに白熱していたすみれも、それを見ていた音羽も思わず顔を引きつらせる。千砂都の眼が全く笑っていなかったからだ。
「一回聞き逃しちゃったんだけどさ、可可ちゃん、寝てないって聞いたよ?」
「……ハイ」
にこやかに心配するようで、声色は剣呑そのもの。さっきまでの不良ムーブはなんだったのか、可可の心はアウトサイダーから蛇に睨まれた蛙へと切り替わっていた。
「可可ちゃんって、私たちより体力少ないと思うんだ。客観的に見て。そんな体調で練習なんかしたら倒れちゃうって思う」
「おっしゃる通りデス……」
「顔色も悪いし疲れが溜まってるのに、練習に来たのは偉いと思うよ? でも体調管理、できてないよね?」
「…………」
練習においては誰も鬼教官・千砂都には逆らえない。その日は寝不足の可可を家に送り返し、練習は中止となった。
結論。不良より何より、練習中の千砂都が一番怖い。
Liella!に総長がいるとすれば、それは嵐千砂都である。その後メンバーは口を揃えて言ったとか。