ラブライブ予選も終わり、結ヶ丘高校スクールアイドル部『Liella!』の面々は新年を迎えた。
結果は予選二位で敗退という苦い結果に終わったものの、このままじゃ終われないと決意を新たに一同はまた一歩足を進み始めた。
────―のだが
「え、休む!?」
「うん」
「……みんな、ちょっと来て!!」
新年最初の部活動の終わりに音羽が休みたいと言ってきたのだ。
もちろんそれ自体は問題ない。
しかし、音羽は何かしらのトラブルに巻き込まれると大体部室に来ない……あるいは来れない状況に陥ることが多いため、Liella!の中では音羽が部活に来れない=何かトラブルが発生したという方式が暗黙の了解になりつつあった。
「すみれ、素直に白状するデス。 今度は何しやがりマシた?」
「ちょっと、なんでいきなり私なのよ!?」
「ごめん、私もすみれちゃんか恋ちゃんだと思ってた」
「なんでったらなんでよ??」
「私もですか!?」
「二人とも前科持ちだからね」
そうなるとやっぱり最初に疑われるのは前科持ちの二人。
もちろん二人に心当たりはない。
かと言って残りの三人にも心当たりはない。
というか少し前までは音羽も含め全員ラブライブ予選のことで手一杯だったので当然といえば当然である。
「とりあえず、可可が聞いてきマス!!」
「あ、ちょっと!?」
こういう時、やはり真っ先に動くのはかのんではなく可可である。
海を渡ってくる行動力は伊達ではないのだ。
「音羽、単刀直入に聞くデス……何かありマシた?」
「へ?」
「とぼけなくていいデス、さぁ……可可に話してみるデス??」
「いや、本当に何もないよ? ……服を買いに行くだけだよ?」
「……へ?」
事は昨日の晩にまで遡る。
普通なら大晦日というのはコンビニやスーパー、デパートなどを除けばだいたいどこも休み。
日々働く大人たちもこの時だけはゆっくりと羽を休めるのだが、学生たちは違う。
友人たちと遊びに行ったり、初詣に行ったりなどとやれることは多い。
音羽も今年は友人が増えたので初詣や遊びに行く……ことができればよかったのだが、恋と可可は父親や家族への挨拶で数日程海の向こうにいるし、すみれと千砂都は実家の神社の手伝いとバイト先が忙しいのでLiella!の面々が集まるのは難しいので正月は各々自由に休むということになっていた。
「炬燵で食べるみかんってなんでこんなに美味しいんだろうね?」
「本当にね、雪見だいふくといい勝負だわ」
東家は毎年、正月は祖母の詠の家で過ごすことになっている。
但し、今年はいつもと違って詠の教え子である美麗がいる。
毎年大人たちの会話には混ざれなくて少し窮屈な時間も……今はない。
「音羽ちゃん、みかん取って~」
「はーい」
そんな二人は今、炬燵で身体を温めながらみかんと雪見だいふくを食べていた。
特に美麗は炬燵が気持ちいいのか、いつもより少し間延びした声でみかんをせがんでくる。
「そういえばさ、冬休みで空いてる日ってある?」
「んー……明日からはスクールアイドル部のお手伝いあるけど、みんなに言えば部活に休むくらいできると思うよ?」
「そっか……じゃあ明後日、ちょっと付き合ってくれない? 服を買いに行きたいのよ」
「……荷物持ち?」
音羽はジトっとした目で美麗を見るが、ケラケラ笑いながら違う違うと言って流す。
「音羽ちゃんには前にも言ったよね、アタシの過去」
「……うん」
「もう?? 折角のお正月なんだから暗い顔しないの??」
美麗は少し腕を伸ばして軽くデコピンをする。
良い音が鳴ったが、そこまで痛くはない。
「ちょっとやってみたかったのよ、友達と一緒に服を見に行って選んだり選んでもらったりするの」
「美麗さん……」
「あら、良いじゃない。 行ってきなさいよ」
二人の背中を押すように音羽の母────詩穂が炬燵に入ってきた。
手土産にお雑煮の入ったお椀が二つ、お盆の上に置かれている。
「はい、出来立てよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「それで、服を買うならお母さんお金渡すわよ?」
音羽の服はこれまではだいたい詩穂と一緒に出掛けた時に買うのがいつもだった。
例外があるとしたら地区予選の曲作りの一環でかのんと共にラッパーっぽい服を探しに行った時くらいだ。
「音羽も高校生だし、そろそろこういうのも勉強していかないとね」
「……わかった、頑張って選んでみる」
「というのが経緯で、美麗さんと一緒にお出かけすることになったんだ」
「ず、ずるい!?」
いつの間にかLiella!のメンバーは全員音羽の周りにいて、音羽が話し終えたら真っ先に恋が叫んだ。
さらに音羽の肩を掴んで揺らし、さらに問い詰める。
「音羽くん、私たちは友達なのでしょう!?なのになんで誘ってくれないのですか!?」
「そうデス!! そんな楽しそうなことに何で可可たちを誘わないのデスか!?」
「いや、そんなこと言われても……」
そもそも話題に出したのが今回が初めてで、そうでなくても音羽以外は練習がある。
練習が終わった後も自主練するものもいれば衣装製作・作詞作曲などやることはなんだかんだで多い。
それはサポートをしている音羽もわかっているからこそ、誘うに誘えなかったわけで……
「はいはい、二人ともそこまで」
「とりあえず事情はわかったし休むのはいいよ」
「本当? ありがとう!!」
こうして話は纏まった……のだが、可可と恋がそれだけで終わらせるわけもなく。
「皆さんは気にならないのデスか!? 音羽の選ぶ私服が!!」
「私、すごく気になります!!」
二人して駄々こねだした。
「それは気になるけど……」
「まぁ……変なの選ぶくらいならって思わなくはないけど」
「気になるけど……それも個性なんじゃないかな? それに一人で買いに行くわけじゃないんだし」
可可はこの時点でかのんとすみれは押しきれると思った。
揺らいでいるならつけ入れるスキがあるからだ。
しかし、Liella!メンバーで一番メンタルの堅い千砂都だけは普通のやり方ではまず無理。
だが、今回に限っては可可に秘策があった。
「千砂都、これを見て欲しいデス」
「ん?」
可可が見せたのはLiella!のSNSのアカウント。
更に具体的に言うと某お菓子の名前が付けられた匿名のメッセージが送れるサービスのページだ。
悪口がほぼ入ってこない為、モチベーションを下げることなくメッセージを受け取れるのでスクールアイドルでも使うグループは少なくは無い。
そして今回、重要なのはその内容だ。
『音羽くん、いつLiella!メンバーに入るんですか?』
『あの容姿でやらないのは勿体無い』
『ステージに立ってる音羽くん、見てみたいです』
などと一部抜粋だがLiella!のグループ名を決める際に顔出しして以降、定期的にこの手のメッセージが送られてくるようになった。
地区予選が終わった後はより頻度が増えた。
「……ナニコレ?」
「あの顔出し以降、音羽にもファンがついたみたいなんデス」
「それはわかるよ? わかるけど……いや、これいいの?」
「普通に考えたら男性スクールアイドルなんてあまり聞きませんし現実的ではないデス」
過去にそういうチャレンジ自体はあったような?
という噂を聞くくらいにしか男性スクールアイドルの話は聞かない。
というのも最初期からスクールアイドルは女子生徒ばかりで当時の男子生徒はだいたい軽音部などで事が足りていたため、スクールアイドルは女子生徒限定という暗黙の了解のようなものが出来ている。
なのでやろうとしても茨の道を歩くことになる。
「でも、こんなに多くのファンが付いているのに何もしないのは……と思わなくはないデス」
「それは……まぁ」
「ついでに言うと、この国にはエイプリルフールという嘘をついてもいい日があると聞きマス」
「あー、その日限定ならおとくんがやってもそこまで波風起こらない……のかな?」
可可としてはエイプリルフールのような嘘をついていい日というのは好きではないが、現状ではこういう日でもなければ音羽と一緒にステージに立つことなど無理な話。
「というわけで、それとなーく音羽に似合いそうな衣装を調べたいなと思うのデスよ」
「別にそういうのがなくても休んでもいいんだよ?」
「え"」
「三学期も近いからどこかでみんないろいろ買い物する必要はあるなーとは思ってたし、ちょうどいいんじゃない?」
それにと言いながら千砂都は目線をかのんたちに向ける。
三人ともやはり気になるのかチラチラっと音羽の方を見ている。
今日はもう練習はないとはいえ、明日もこの調子なら練習も身に入らないだろう。
「みんなこの調子だからね……」
「あー……」
翌日、Liella!メンバーの一同と美麗は渋谷に集まっていた。
大晦日でも東京の人混みは変わらず多く、人によっては酔いそうになるほどだ。
「どこも人がいっぱいだね」
「バーゲンセール目当ての客でいっぱいってところね」
音羽は賑わう人々の多さに圧巻され、すみれはちょっとうんざりした顔で見ている。
かのんと千砂都は毎年こんなものだと知っているので特に気にしていない。
逆に可可と恋はいつもよりも客の多い店を物珍しそうに見ている。
「とりあえずみんな揃ったし、そろそろいこっか?」
「それでどこの店から行くわけ? 私、メンズの店ってあんまり知らないんだけど?」
そのすみれの一言に答えるものは誰もいなかった。
なぜなら他の面々もメンズの店を行く機会がほとんどないからだ。
「……とりあえず、調べてみよう」
そう言った千砂都が真っ先に調べる。
そして千砂都の検索結果を後ろから覗き込んだ全員が見て同じことを思った。
(((((((……メンズ店、少なッ!?)))))))
レディースの店に比べてメンズの店は少なかった。
さらに予算のことも考えれば候補はさらに減っていく。
メンズ・レディース両方を取り扱っている店もあるが、やはり取り扱いの割合で言えばレディースのほうが多い。
「選択肢が少ないからパッと決めれそうではあるけれど、本当に少ないわね」
「古着屋も候補に入れマスか?」
「いや、古着屋だと良いのがあってもサイズが合わないかもしれないから今回はやめておこ? それにそういう店って年始に開いてるかわかんないし」
「とりあえず近くからでいいんじゃないかしら? 流石に寒くなってきたからそろそろ店の中に入りたいと思うんだけど?」
美麗の鶴の一声とその後に小さくくしゃみをした音羽の姿を見て、とりあえず近場の店から見ていくということになった。
店に入ってからは各々で見て回るという形で落ち着いた。
なので単独で見ているものもいれば集まって見るものもいる。
「美麗さん、これどう?」
そう言って音羽が差し出したのは桃色のニット生地の服。
特に飾りや刺繍などといった特別なものではなく、シンプルなデザインなので値段も比較的に安い。
美麗はその服を見て、一言。
「悪くないわね……白いコートかカーディガンがあれば尚良いってところね」
「白いコートかカーディガンだね? 探してみるよ」
「あ、待って」
追加で服を選ぶ音羽を美麗は呼び止め、服を差し出す。
「持ってくる前にこっちも着てほしいな??」
「え? これ?」
渡された黒い服……というか上着を音羽は袖を通してみる。
ハイネックで首周りの防寒は問題なく、デザインも胸から腹までケーブル編みされたニット生地なのですぐに身体はあったかくなっていく。
今の寒い季節にはぴったりな服だと音羽は思った。
「わぁ……あったかい!!」
「記念に写真撮りましょ!! ほら、近寄って近寄って!!」
そう言って美麗は音羽の腰に手をまわして引き寄せる。
普通なら近すぎる距離感も友達の少ない音羽には普通の距離感というものがイマイチわかっていないので、音羽は照れ臭く感じるだけで特に抵抗することなく受け入れた。
「はい、チーズ」
そうして一枚、ポーズを変えて数枚携帯で写真を撮ったところで音羽は美麗に似合う白い上着を探しに行ったのであった。
上着コーナーで見繕っている音羽に近寄る影が二つ。
忍び足でこっそりと近づき……
「可愛い子はいねーか!!」
「ッ!!?」
後ろから手をまわして音羽の視界を塞いだ。
唐突なことで音羽は叫びそうになったが、店の中であることを思い出して咄嗟に声を殺す。
そして数秒の沈黙の後、気持ちを落ち着かせたら目を覆っている手をどけて振り返る。
「よく声上げなかったね、おとくん」
「ごめんね、おとちゃん」
後ろにいたのはかのんと千砂都だった。
ちなみに先ほどの悪戯の主犯は千砂都である。
かのんはただ隣で見てただけ。
「びっくりした」
「ごめんね、ついやりたくなっちゃって」
音羽はじとーっとした目で千砂都を見るが、千砂都はてへっといった感じで悪びれた様子はない。
少なくともこのくらいで怒ることはないとわかっているからだろう。
「わたしとかのんちゃんで良さそうなの見繕ってみたよ」
「はい、これ」
そう言ってかのんが手に持っていた服とズボンを渡す。
すこし広げて見てみるが、特にネタに走った感じではない……むしろ無難といった感じのデザインだ。
「男の子の服ってどういうの選べばいいのかわからなかったから、動きやすさとか色合いで決めてみたんだ」
「無難にまとめたから変にみられることはないと思うよ?」
「とりあえず袖を通してみるね」
そう言って音羽は近くの試着室で渡された服に袖を通してみる。
薄い灰色のパーカーに白いシャツ、青いスリムのズボン。
特にロゴのようなものはなく、飾り気のようなものはないので子供っぽさはほとんどない。
音羽の着てみた印象としてはかのんが言っていた通り動きやすいと感じた。
「えっと……着てみたよ?」
「お、見せて見せてー!!」
特に変な服というわけでもないので音羽は素直に試着室から出る。
「やっぱ無難にまとめただけあって似合うね」
「うん、この服結構動きやすいし……今までの服やズボンと合わせても問題無さそう」
「……足りない」
「「え?」」
「かのんちゃん、やっぱり伊達メガネと腕時計も追加しよう!! ちょっと無難すぎて地味すぎる!!」
伊達メガネは丸メガネであれば尚良しと千砂都は言うがおそらくこれは千砂都の趣味が混ざっているので二人はスルーする。
しかしかのんもやはり地味すぎたかなと思い始めたため、小物の追加を検討し始めた。
二人とも自分の世界に入ったのか、音羽はどうしようか悩んだが……ここでぼっとしていても何も始まらないので元の服に着替えてまた服を探しに行った。
服を探していくうちに音羽は恋を見つけた。
しかし、恋は音羽に気づくことはない……だって視線が展示されている服に釘付けになっているからだ。
視線の先にある服は……スーツだ。
「恋ちゃん」
「あ……音羽くん」
「スーツ、見てたの?」
「はい、昔の音羽くんも大きなコンクールに出るときは子供用のスーツを着ていたのを思い出しまして」
今でこそ乗り越えたとはいえ、昔のことを思い出すと同時に辛いことも脳裏に過ぎるが少し前のように顔を歪めることはない。
むしろ最近ではそんなこともあったな……と思うくらいだ。
それはきっと……
「みんなのおかげかな」
「音羽くん……?」
「なんでもないよ……それよりも、そのスーツ着てみようか?」
「えっと、良いのですか?」
「うん」
そう言って音羽は飾られているスーツと同じスーツをハンガーから探し出して試着室へ持っていく。
袖を通してみた感想は動きやすさといったものではなく、懐かしいというのが強かった。
初めて着たはずのスーツでもどこか着慣れた感じがするからだ。
「おまたせ」
「……」
「恋ちゃん?」
試着室から出た音羽。
近くで待機していた恋とすぐに目があったが、恋はちょっと唖然とした顔をして……数秒の沈黙の後に口を開いた。
「……音羽くん、今度私の家に来ませんか?」
「え?」
「スーツ姿の音羽くんを見てたら久々に音羽くんのピアノが聴きたくなったので、その……」
「……」
恋の言葉を聞いて音羽は確かにと思った。
スーツを着て昔の思い出を少しだけ振り返ったからか、ピアノを弾いてみたい気持ちが少し湧いてきた。
偶には誰かに聴いてもらうのも悪くないかもしれないと思った以上、音羽に断るという選択肢はない。
「恋ちゃん、今度お邪魔してもいい?」
「……ッ、はい、お待ちしてます」
良い話だなーという感じもするが、流石にスーツを私服にするのは難しいので今回は無しとなった。
場所は変わってすみれと可可は言い争っていた。
話題?
もちろん、どっちがより音羽に似合う服を選べるかである。
「すみれは冒険しすぎデス?? 確かにお洒落において冒険するのは大事デスが、それは解釈違いというものデス??」
「何言ってんのよ?? 音羽だってあー見えて男なのよ? だったらこういう服だってアリったらアリよ??」
二人には自信があった。
すみれは幼少の頃から芸能界に居たので服飾の勉強をすることはあったし、今でも街で流行りの服を調べることは多かった。
可可はLiella!では衣装制作担当でもあるし、休みの日は時折古着屋に訪れては服を買って手を加えたりしているので他のメンバーよりは詳しい。
何よりお互いの共通認識としてコイツにだけは負けたくないという対抗意識がよりヒートアップさせる。
「二人ともどうしたの?」
そんな中、来てしまった音羽。
二人にとっては非常に都合が良かった。
なにせきっちり白黒付けれそうな状況だからだ。
「音羽、ちょうどいいわ」
「音羽、ちょうどいいデス」
「私と可可の選んだ服、どっちが好き?」
「可可とすみれの選んだ服、どっちが好きデス?」
「……え?」
そう言って二人から提示された服を見る。
すみれの選んだ服は濃い灰色のシャツに薄い茶色のスキニー、そして黒い革ジャン。
音羽の細身の身体を強調させるような服を選んでいる。
可可の選んだ服は茶色のスラックスに猫耳の着いた白いパーカーだ。
とにかくテーマを可愛いでまとめた感じになっている。
「音羽だって男なんだし、こういう服の方が良いわよね?」
「なーに言ってるデスか、音羽は可愛いんデスからこっちの方が良いに決まってるデス」
ジリジリと迫ってくる二人とちょっと怯え気味に後退りする音羽。
せっかく選んでもらったのだから袖を通してみるべきなのだが、今度はどちらが先に着るかで一悶着起きるのが目に見えているので音羽は答えるに答えられない。
「音羽ちゃん」
そんな音羽に救いの手を差し伸べるかのように美麗がやってきた。
手にはお揃いの服が二着ある。
「良いのがあったから向こうでお揃いコーデしてみない?」
「ダメデス!! 音羽はこれから可可の選んだ服を着るんデス!!」
「何言ってんのよ、あんたじゃなくて私の選んだ服よ??」
「いいじゃない、ケチねぇ……」
結局、美麗の参入は二人の争いは火に油を注ぐかのように激化することになった。
今となっては三つ巴状態だ。
「おとちゃん、ごめん……さっきの服をもう一回着てくれない?」
「今度は小物もいっぱいだよ??」
いつの間にかかのんと千砂都が音羽の近くに来ていた。
手にはさっきの服と新しく見繕った小物が多くある。
「ちょっとかのん、ズルいデス!!」
「漁夫の利なんてさせないわよ」
「げ、バレた」
が、可可とすみれの目から逃れることはできずに巻き込まれた。
女が三人集まれば姦しいとは言うが、些かヒートアップしすぎな気もする。
最早音羽の意思がどこにもない。
一人男が混じってるのは気にしてはいけない、いいね?
「音羽くん……」
最後の一人、恋もこの騒ぎに気づいてやってきた。
但し……
「恋ちゃんもなの?」
「はい、これを……」
そう言って出してきたのは燕尾服。
最早私服ですらない。
「レンレン、流石にそれは……いや、似合いそうなのはわかるのデスが……」
「ちょっと今回の趣旨からは外れるわね」
流石にこれはどうなのかと一同は思うが、ここで恋の鶴の一声が上がった。
「でもこんな機会、滅多にないのですから着せたくなりませんか?」
「……確かにそれを言われると見たくなるよね」
六人の視線が一斉に音羽に集まる。
コンクールなどで大勢に見られている経験があっても、ここまでの圧はそうそうない。
「「「「「「さぁ、どれから着る?」」」」」」
「全部着るの確定なの!?」
夜、東家にて。
今日の買い物でくたくたになった音羽は布団の上で横たわっていた。
机には買ってきた服が入った袋や三学期の準備で買ったルーズリーフやシャーペンの芯が置かれている。
「あー、疲れた……買い物ってこんなに大変だったっけ?」
部屋には音羽しかいないので答えるものはいないが、少しの沈黙の後に携帯に〇INEにメッセージが届いた。
一つや二つではなくたくさん。
少し気になった音羽は携帯を手繰り寄せて画面を覗く。
そこには……
『今日、楽しかったね』
『今度は夏にやってみませんか?』
『どうせならその時は水着も見ていく?』
『合宿で海に行くのも悪くないわね』
『いいですね』
といった今日の感想と今後の予定、それと着せ替えの時に撮られた写真が多数映っている。
大変ではあったけど、楽しくもあった。
だからこんな日があってもいいだろうと思いながら音羽はそのまま深く眠りに落ちていった。