本誌のために3本も描き下ろしてくださったので、今回と次回(2本立て)に分けて掲載します。
「えぇ!? おとちゃんがちっちゃくなっちゃったの!?」
結高のとある教室の一角から、そんな素っ頓狂な声が上がる。
ここ、結ヶ丘高校スクールアイドル部の部室にて。Liella! の5人が囲むのは……その場にそぐわない、小学生ぐらいの少年だった。
「はいデス。興味本位でこの薬を飲ませたら……」
「なんてモノ飲ませてるのよ! どれどれ、『Shiki’s Lab』の若返りの薬? 御丁寧に服まで縮めてくれちゃって」
可可の手に握られてるのは、手の平サイズの小瓶だった。すみれが可可から瓶を引ったくり、ラベルに書いてある文字を読み上げる。そう、この少年の正体は……何を隠そう、もう一人のスクールアイドル部員。東音羽であった。音羽はどこか戸惑いの表情を浮かべながらも、当たりをキョロキョロと見渡していた。
「お姉さん達、だぁれ?」
「おとくん……音羽くんは今何歳?」
「七歳……」
「うわぁ……凄いです、あの頃の音羽くんです……」
小さい音羽が両の手の平で数字の七を作る。その小学生然とした仕草に、思わず恋が声を挙げた瞬間。
「あれ? もしかして……恋ちゃん?」
「えっ。は、はい……葉月恋ですけど」
「うわぁ! すごい、すごい! 恋ちゃんがお姉さんになってる!」
そちらの方に興味が向いた音羽はその表情を輝かせ、その場でぴょんぴょんと跳びはねた。恋はと言うと、小さくなった筈の音羽が自分を認識できた事が不思議がっていた。
「音羽くん、私がわかるのですか?」
「うん! だって、恋ちゃんはいつもポニーテールにリボンだったもん!」
「ふふっ。わかってくださって嬉しいです。あのね、音羽くん。実はかくかくしかじか……」
そこでようやく、音羽は自分についての説明を受ける。状況に違わぬ突飛な説明であったが、音羽は自分の身に起きた事をすんなりと受け入れていた。
「じゃあ、僕ちっちゃくなっちゃったの?」
「えぇ。一日経ったら元に戻るって瓶には書いてあるけど……」
恋からの説明を受けた音羽に、すみれが言葉を続けるが……
「恋ちゃん。この人は?」
「ギャラッ!?」
音羽からの思わぬ言葉に、がくっとその身が崩れた。それもそのはず。
「そっか。七歳の頃の音羽くんは恋ちゃんとしかお友達じゃないもんね」
千砂都の言葉を受け、まずは音羽に自分の仲間達を紹介するのが先決だと判断した恋は、彼に向き直った。
「この人は、平安名すみれさんです。私の大切なお友達ですよ」
「すみれ、お姉ちゃん……」
「ギャララッ……! お、お姉ちゃんも悪くないわね」
「おとちゃん……じゃなかった。音羽くん、こんにちは。私、澁谷かのん。いつもみたいに、かのんでいいよ!」
恋がすみれを紹介したことによって、かのん達も負けじとそれに続く。
「可可は唐可可デス! 普段の音羽は“くぅちゃん”って呼んでマスが……そうデスね、くぅお姉ちゃんって呼んでもいいデスよ?」
「私は嵐千砂都! よろしくね!」
「かのんお姉ちゃん、くぅお姉ちゃん、千砂都お姉ちゃん……うん、よろしくね!」
音羽も必死に皆の名前と顔を一致させようと、一人一人を指さしながら皆の名前を今一度反復する。
「かっ、可愛い~!! ね、ちぃちゃん!」
「うん! お姉ちゃん呼び、なんだか新鮮かも!」
その愛らしさに、もはやかのん達一行はメロメロであった。
「くぅお姉ちゃんは、海外の人なの?」
「ハイ! 上海からやってきたデスよ!」
「うわぁ、凄いなぁ!」
そんな音羽の興味は、今度は可可に向いていた。音羽にとって海外、知らない世界の住民はその興味を滾らせるのに十分であった。
「ねぇねぇ、音羽くん。私はいつもおとちゃんって呼んでるんだけど……」
「おとちゃん……! うん、いいよ!」
「やったぁ! ありがとう、おとちゃん」
「ふふ、かのんお姉ちゃんくすぐったーい」
「可可も混ぜてクダサーイ!」
かのんと可可が思わず抱きついたが、音羽は嫌な顔一つせず、むしろ迎え入れるかのように腕に抱きついていた。
「……音羽、この状況に全然動じてないわね」
「音羽くんは昔から好奇心旺盛ですから。今も楽しんでると思いますよ」
「マウント???」
「はい?」
そんな音羽達を少し離れたところで、すみれと恋はまるで子を見る親のように話している……少々不穏な会話をしている気もするが、当の音羽はつゆ知らず、今度は千砂都のお団子ヘアーに対してその目を輝かせていた。
「千砂都ちゃんのお団子、まんまるー!」
「おっ! お目が高いねぇ。飴あげちゃう! はい、あーん」
「あー、む……美味しい! みかん味!!」
「……と言うか、あんた達! のんきに遊んでる場合じゃないでしょ!」
きゃいきゃいと騒いでいた一同だったが、すみれの一声で、一同我に返る。
「ハッ! そうデシタ!」
「練習、そろそろ始めなきゃだね」
「れんしゅー?」
「うん。私達、スクールアイドルなの。だから、その練習」
「すくーるあいどる……面白そう! 見てみたい!」
スクールアイドルという未知の単語に、音羽は再三その目を輝かせた
「勿論、大歓迎ですよ」
「と言うか、いつも見てもらってるものね」
「よぉ~し! それじゃあ、みんなで屋上にレッツゴーだよ!」
「おー!!」
そんなこんなで、いつもとはちょっぴり違うLiella!の練習が始まったのであった。
────―
千砂都「ワン、ツー、スリー、フォー!」
屋上に、千砂都の掛け声が響き渡る。残りの面々は、彼女の拍子に合わせて歌いながら振りを踊る。
心なしか、全員がいつもより張り切っているように見えるのは……小さな観客がその目をキラキラ輝かせて、彼女達の事を見守っているからだろう。
「ファイブ、シックス、セブン、エイト! どうかな、おとくん? 私達の歌とダンス」
「すごい、すごいよ! あのね、オレンジとか青とか、色とりどりの星がキラキラ輝いてるみたいで……」
「……!」
「まるでね、お星様が演奏してるみたい!」
音羽が発した言葉に、全員が息を吞む。音羽の身に宿った、一種の特殊技能とも呼べる“それ”は……
「……この頃から、あるのね」
「えぇ。共感覚……」
「みんなどうしたの?」
皆の不安げな表情を、音羽は不思議がっていた。音羽は知らないから。皆と一緒でありたいと願う音羽にとって、それはあまりにも不釣り合いな事を。
「ううん、なんでもない! さ、おとちゃん! 次は歌のレッスンだけど、おとちゃんも一緒にやる?」
「うん! やるー!」
「それじゃあ、私の後に続いて歌ってみて! らら~ららら~♪」
「らら~ららら~♪」
咄嗟に気を利かせたかのんが、話題を切り替える。かのんに続いてメロディを紡ぐ音羽は、これまた素敵な歌声で皆を、今度はいい意味で驚かせた。
「うわぁ! とっても上手デスよ、音羽!」
「えへへ~」
「……まぁ、あの子が楽しそうなのが一番よね」
「えぇ。さ、すみれさん。私達も出遅れないように」
「そうねっ。音羽! 次はみんなで一緒に歌うわよ!」
「
屋上に六人の歌声が響き渡る。それは、オーケストラのように荘厳な響きでなくとも。その重なりからは、確かに六人の絆が感じられるのだった。
────―
しばらくして、日が傾いてきた頃。
「さて、今日はもういい時間だしお開きにしよっか!」
千砂都の音頭によって、今日の練習はお開きとなった。
「ぐぅえ~、疲れたデス~……」
「くぅお姉ちゃん。はい、タオル」
「ありがとうございマス……流石音羽デスね」
「えへへ」
音羽が疲れている可可にタオルを渡す。音羽が縮んでいるという違いはあるが、そこにはいつもお馴染みの光景が流れていた。
「で、この子をどうする?」
「流石に、このままお家にお返しするわけには……」
「おとちゃんのお父さん達、きっと怒るよね」
「う~ん……」
縮んだ音羽をそのまま、はいどうぞと両親に返すわけにはいかないだろう。一同の間に、沈黙が流れる。
「……でしたら、私のお家にお泊まりというのはどうでしょうか?」
「お泊まり? 恋ちゃんのお家!? 行きたい! あのねあのね、恋ちゃんのお家はすっごいお屋敷なんだよ!」
「ふふ、知ってるったら知ってるわよ」
恋の家にお泊まりとなった瞬間、音羽の目はまた輝き始めた。
「では、早速音羽くんのご両親に連絡を入れておきますね」
「よぉ~し、今日はLiella!のみんなでお泊まり会だ!」
「おー!」
────―
一方その頃……
「大変よ、あなた!」
「どうしたんだ詩穂、そんな血相を変えて」
「あの子が……音羽がLiella!のみんなとお泊まり会するんですって!」
「音羽が、お泊まり会だと?」
「え、えぇ……」
東家では、音羽がお泊まり会をすると知った詩穂がまさしく大慌てと言った表情で湊人に報告していた。いくら音羽と言えども年頃の男子。そんな息子が同年代の女子と一つ屋根の下で一晩を友にするという事実に、詩穂は打ち震えていた。
「……いや、音羽に限ってそんな間違いをおこす事はないだろう」
「そ、そう……よね。はぁ、私ったら取り乱しちゃって」
「まったくだ……でも、あの音羽が女の子達とお泊まり会か……」
まさか自分達の息子が縮んでいるとも思わない二人は、音羽の事が気になって気になって仕方が無いのであった。
────―
練習が終わってから、かのん達は買い出しを終えて恋の家へと集まっていた。
「恋ちゃん、おまたせー!」
「音羽のパジャマも買ってきたデスよ!」
「今晩の食材もね」
「それじゃ、お邪魔しまーす!」
玄関の扉を開けると、葉月家のメイドのサヤが出迎える。
「お待ちしておりました、皆様……あれ? そちらの方は……どこかで……」
ふと、視線を下げるといた小さな来客にサヤは首をかしげた。
「あ、えっと……音羽くんです」
「お、音羽様!? だって、えっ、音羽様って」
「サヤさんだー! こんにちは」
一方音羽はと言うと、サヤの顔を知っているので健気に手を上げてご挨拶。
その光景に、ますますサヤは面食らってしまった。
「こ、こんにちは……恋様?」
「これには海よりも深い事情があるのです! さ、皆さん。どうぞ上がってください」
「おじゃましまーす!」
「あ、サヤさん。今日はキッチンをお借りしてもよろしいでしょうか? みんなで音羽の為にご飯を作りたいんです」
「はぁ……それはかまわないのですが」
「ありがとうございます……あと、音羽の事はあまり追求しないでくださると助かります」
「え、えぇ……」
恋にぞろぞろと続く列の最後に、すみれがサヤへと言葉をかける。
「すみれお姉ちゃん! 行こー」
「えぇ! それじゃあ、失礼します」
「……疲れてるのかしら、私」
この状況を見て、すみれの言葉を聞いて、思わずそんなつぶやきを漏らしてしまうサヤであった。
────―
大広間の食卓に、美味しそうな香りが漂う。
かのん達が腕を振るって作った料理が運ばれてきたのだ。
「うわーっ! どれもこれも美味しそう!!」
「ふふ。それじゃ、みんな手を合わせて!」
「いただきまーす!!!」
今日の献立はオムカレー……音羽の好物であるオムライスとカレーを合わせた、音羽の為にあると言っても過言では無いメニューだ。
「あむ、あむ……おいしー!」
「音羽くんは昔から、オムライスとカレーが大好物ですからね」
「ナチュラルマウントもここまで来ると天晴れね」
「なぁ~にをボソボソ言ってるデスか。ほら、音羽! お口汚れてマスよ」
「ん……ありがと、くぅお姉ちゃん!」
「タオルのお返しデスよ!」
「えへへ。もぐもぐ……あ……」
ふと、箸を進めていた音羽の手が止まる。
「おとくん、どうしたの?」
「お野菜……ピーマン……」
音羽の視線の先には、炒められた緑色の物体が鎮座している。
「こら、音羽。好き嫌いせずちゃんと食べなきゃ」
「ピ、ピーマン……誰、買ってきたの……」
すみれが好き嫌いはいけないと諫めようとしたが、意外なところから好き嫌いに屈しようとしている同胞が出てきた。
「千砂都?」
「……ハッ! な、なんでもないよ!」
「千砂都お姉ちゃんも、もしかしてピーマン苦手?」
「うっ……うん……でも、頑張って食べなきゃ! 音羽くん、一緒に頑張ろう?」
「うん……じゃあ、せーので食べよう!」
二人は恐る恐る、ピーマンを口元に運ぶ。その表情はまるで、強大な敵に挑むかのごとく覚悟に満ち溢れていた。
「それじゃあいくよ……せー、の!」
「あむ!!」
「もぐ、もぐ……あれ? 苦く、ない……」
「本当だ……むしろ、美味しい!」
口に入れた途端、険しい表情をしていた二人の顔がぱぁっと明るくなった。そんな二人の表情を見て、すみれが笑みを浮かべる。
「ふふっ。よかった。ピーマンだって、ちゃんと調理すれば美味しく食べられるのよ」「凄い凄い! すみれお姉ちゃん、魔法使いさんみたい!」
「本当だよ! やったね、おとくん!」
「うん!」
再び和やかな雰囲気が食卓に戻ってきた。しばらく時間が経って、6人の皿には欠片一つの食べ残しも残らなかったのであった。
「ご馳走様でしたー! どれもとっても美味しかった!」
「ふふっ、よかった。さ、おとちゃん! 歯磨きしてお風呂入ろっか!」
「はーい!」
────―
夕飯の片付けを済ませた6人は、浴室へと移動していた。
浴室の広さはと言うと、そこは流石お嬢様の家。6人が駆け回れる程のスペースが確保された大浴場であった。
「お風呂だー! 恋ちゃん家はお風呂も大きいんだね!」
「ふふっ。喜んでいただけて何よりです」
「ほら、音羽。こっちおいで。体洗ってあげるわ」
とてとてと浴場を駆け回る音羽の肩を、すみれが捕まえる。
無論、音羽は嫌な顔一つせず、すみれについて行った。
「ありがとー、すみれお姉ちゃん」
「さ、座りなさいったら座りなさい」
「はーい」
腰掛けた音羽の背中を、ごしごしと優しく撫で回すかのように洗う。
「よい、しょっと。音羽、どう? 痛くない?」
「気持ちいい……すみれお姉ちゃん、上手だね」
「まぁ、昔は妹によくやってあげてたから……」
すみれは音羽の背中を洗いながら、チラッと視線を下げた。今、音羽もすみれも他の皆も、タオル一枚纏わずそれぞれお風呂を楽しんでいる。すみれの視線の先には、小さいながらも、確かに音羽が男であると主張する……
「……やっぱり、音羽って男の子なのね」
「すみれお姉ちゃん、何か言った?」
「ううん。なんでもないわ」
「……すみれちゃんのえっち」
「ひょわっ! か、かのん!? あんたいたの!?」
気づけば、横で身体を洗っていたかのんの視線が刺さる刺さる。
「ずっと隣にいたよ。それより、今絶対おとちゃんのおち……」
「わーっ! わーっ!!」
「ほらそこー! うるさくしないのー!」
「体ぐらい黙って洗えデスよ!」
「わ、わかったわよ! ほら、音羽。今流してあげるから。お目々閉じて」
思わぬ所から横やりが入り、誤魔化すように音羽の背中を流す。少しやんちゃが過ぎたかしら、と反省するすみれなのであった。
「んーっ……ありがと、すみれお姉ちゃん! 次は僕がすみれお姉ちゃんを洗ってあげる!」
すみれの方を振り向いた音羽は、次は自分がとタオルを手に勇んでいた。
「えっ。わ、私はいいわ! 一人で洗えるから……」
「そっかぁ……」
「あーっ。すみれちゃんがおとちゃんを泣かせたー。いけないんだー」
音羽の申し出を断ったすみれと、しゅんと項垂れる音羽。その一部始終を見ていたかのんは、浴室に響き渡るようにわざと声を大にした。
「すみれさん……?」
「ひっ……あー、もう! わかったわよ! 音羽、お願いね」
かのんの声により、若干怒気の篭もった視線を恋から向けられたすみれは、泣く泣く音羽に自分の背中を流して貰う事にした。
「やったー! ごーしごし♪」
「んぅ……ふふっ、くすぐったい」
「僕もすみれちゃんみたいにおっきくなれるかなー?」
「ふふっ。音羽もショウビジネスで活躍したいなら、いっぱい食べて美容に気をつけることね」
「音羽にショウビズ願望があるわけないデス。これだからグソクムシは」
「ほら、おとくん達も早く湯船においで。気持ちいいよー」
「はぁーい! それじゃあ、すみれお姉ちゃんのことも流すね」
「んっ……ありがと、音羽。それじゃ、私達もお湯に浸かりに行きましょうか」
「うん!」
すみれは音羽の手を取り、一緒に湯船へと浸かる。
「ふぅ……みんなでお風呂入ると、なんだか温かいね」
「はい! 私、こういうのは初めてでして……」
「僕も! みんなとお風呂、すごく楽しい!」
「ふふっ、私も。じゃあおとくん、みんなで100数えよっか!」
「はーい! いーち、にー、さーん」
「よーん、ごー、ろーく……」
6人の声が、浴室にこだまする。その場に漂うホカホカとした気は、決して湯船から沸き立つ湯気だけではなかった。
────―
「あー、サッパリした!」
「可可はちょっとのぼせちゃったデスぅ……」
「まったく、しょうがないったらしょうがないわねぇ」
「みんなでお布団♪ みんなでお布団♪」
「恋ちゃん。恋ちゃんも客間でよかった?」
「はい。折角ですから、皆さんとご一緒させてください♪」
お風呂から出て、寝間着に着替えた一行は、客間へと向かっていた。今日は、そこでみんなで雑魚寝をしようという話になっていたのだ。
「ふふっ、おとちゃんってば本当に楽しそう」
「うん! だってだって、みんなと一緒にいられるのが嬉しいんだもん!」
「おっ、嬉しいこと言ってくれるデスね~このこの~」
「……僕ね、小っちゃくなったことがわかった時も嬉しかったんだ」
客間の前で、ふと音羽が足を止め恋の方に向き直る。
「音羽くん、どうかしましたか?」
「だってだって、恋ちゃんと僕はずっと親友って約束! 大きい僕と恋ちゃんが一緒にいたって事は、恋ちゃんがちゃんと約束を守ってくれてたからでしょ?」
音羽のその言葉に、恋は少し複雑そうな表情を浮かべた。それもそのはず、幼い音羽は知らないのだ。自分の未来に待ち受ける困難を。そのせいで……最愛の幼馴染みと、離れてしまう事も。一時でも音羽のそばから離れてしまった恋は、何も知らない音羽の言葉にどう答えればいいか、わからなかった。
「恋。あなたが気負う事じゃないわ」
「それに、今日だけでいっぱい! 恋ちゃんのお友達のお姉ちゃん達と仲良くなれちゃった! 最高の一日だよ!」
「えぇ……そう言っていただけて嬉しいです。ありがとう、音羽くん」
恋はただ、音羽をそっと抱きしめた。ずっと小さくなった幼馴染みの為に屈んで、ただ抱擁して。恋に出来るのは、それだけであった。
「ん……恋ちゃん、あったかい……」
「音羽とレンレンは本当に仲良しデスね」
「えぇ、本当に……悔しいぐらいね」
「さ。それじゃあみんなで寝よっか」
客間の扉を開けると、そこにはサヤが綺麗に敷き詰めてくれたであろう布団が6人分あった。
「はーい! 恋ちゃん、お隣で寝よー!」
「ふふっ、はぁい。他の皆さんはどういう風に寝ますか?」
「それじゃ、私も音羽の隣をもらっちゃおうかしら」
「あーっ! 先手取られた!」
「ふふっ。早い者勝ちよ?」
「むーっ……それじゃ、私は恋ちゃんの隣!」
「私はかのんちゃん!」
「しょうがないから、可可がすみれの隣で寝てやるデス。感謝するデスよ」
「はいはい、ありがたいわね。それじゃ、電気消すわよ」
そんなこんなで場所を取り合ってから、パチリと音がして部屋が真っ暗闇に染まる。
「あ、夕方電気がいい」
「ふふっ。わかったわ」
が、音羽の頼みによりふんわりとした灯りが6人を包み込んだ。
「この柔らかい感じの灯りもいいよね」
「うん。それじゃ……」
「恋ちゃん……」
かのんがおやすみを言おうとした矢先、音羽が恋の寝間着をキュッと掴んだ。
その表情は……ひどく、寂しそうだった。
「んっ……どうしましたか、音羽くん?」
「明日には僕、元に戻ってるんだよね?」
「えぇ……そうですね」
「少し、寂しいけど……きっと、大きい僕もみんなと離ればなれは、寂しいから……」
気づけば、音羽の目には涙が浮かんでいた。小さい音羽なりに、短い時間の中で色々と考えていたのだろう。
「音羽くん……」
「だからみんなにはちゃんとさようならを言わなきゃだね……それと、ありがとうも! 今日は、本当に楽しかったよ!」
それでも、最後には……いつもと変わらない笑顔で皆に礼を言うのだった。
そんな音羽に続き、皆も次々に言葉を紡ぐ。
「えぇ……私もです。ね、皆さん」
「うん! 小っちゃいおとちゃんと遊べて、私も嬉しかった!」
「いつもみたいに練習も見てくれてありがとうね」
「音羽は小っちゃくなっても、優しい音羽デシタ! タオルのご恩は忘れマセン!」
「背中、流してくれてありがとね」
「かのんお姉ちゃん、千砂都お姉ちゃん、くぅお姉ちゃん、すみれお姉ちゃん……恋ちゃんも! みんな、大好き!」
ギュッと、音羽が恋を抱きしめる。それにつられて、皆もそれぞれ隣にいる面々を抱きしめた。
「えぇ、私もです。それじゃあ、皆さん」
「おやすみなさい」
6人はそっと、夢の中に落ちて行く。夢のようで夢じゃない、今日の思い出を、それぞれ抱きしめて。
────―
「うん……あれ? 僕は今まで……」
翌朝、スズメの鳴き声と共に音羽は起床した。
(確か、部室でくぅちゃんにお茶を出されて……そっから記憶が……)
その体も心も、すっかり元に戻っていた……が、昨日の事は何も覚えていないようだった。
「……えっ!?」
状況確認の為に、音羽が身を起こすと……一瞬にして、音羽の顔は朱に染まった。
それもそのはず、自分の周りでは、5人の少女が寝息を立てていた。しかも、隣にいた恋とすみれは音羽に抱きつくような体勢だったのだ。音羽と言えども年頃の男子、異性に抱擁されて寝ていたという事実を意識しないわけがなかった。
「ムニャ、ムニャ……おとちゃん……」
「あはは、おとくん。その丸は食べちゃダメだよぉ」
「あれ? 音羽、今度は赤ちゃんになってしまいマシタ……」
「う~ん……音羽、ダメよ……私達まだ……」
「ふふっ。音羽くん……ずっと、一緒ですからね……」
「み、みんな!? えっ、これどういう状況!? 取り敢えず、みんな起きて~!!」
客間に、音羽の叫び声が響き渡る。その声で、皆が夢の世界から叩き戻されてからは……また、別のお話。
にわにわさんのあとがき
────────────
初めましての方は初めまして。
ここまで読んでくださってる大半の方は『星達のオーケストラ』、通称星トラの読者であると思います。勿論、私自身もその一人です。自分が星トラを読み始めたのは9月始めですが、読み始めてすぐ音羽くんとその周りが織り成すオーケストラに夢中になってしまいました。以下、そんな私が寄稿させていただいた作品について、分けて話をしていこうと思います。
『幼い星の瞬き』
二次創作(今回は三次創作ですが)の定番ネタ、幼児退行兼オールカプです。ただでさえ純真無垢で無邪気な音羽くんが、幼くなったらどうなっちゃうの!? と、考えながら書くのがとても楽しかったです。クスッと来たり、ウルッと来たり。皆さんも幼い音羽くんに心が動かされていてくれたら嬉しいな。