「音羽〜♪」
それは、なんの変哲もない日の出来事。
「うわっ……く、くぅちゃん?」
「えへへ、音羽のほっぺは柔らかいデスね〜」
ここ、スクールアイドル部の部室で、書類作業をしていた音羽に可可が擦り寄っていた。
「んぅ、くぅちゃんくすぐったいよぉ……それに……」
「ほぇ、どうかしマシタか?」
「くぅちゃんは、いいの? 僕みたいな、男にベッタリしてて……こんな事してたら、くぅちゃんのスクールアイドルとしてのイメージが崩れちゃうんじゃ……」
「むぅ〜っ、それは聞き捨てなりマセン」
ぷぅっと頬を膨らませた可可は、音羽にその身を預けながら続ける。
「音羽は音羽デス。可可の好きな音羽だから、一緒にいたいって思うんデス。男の子だから、とかそんなの関係ありマセン」
「くぅちゃん……」
「音羽は可可の事、いやデスか?」
「そ、そんな事一度も思った事ないよ! だって、僕もくぅちゃんが……うぅ、好きだもん!」
少し頬を朱に染め、音羽が可可に伝える。
「ふぁ……えへへ♡ありがとうございマス。んー、おちょは〜♪」
満足げな可可はスリスリと音羽と頬を擦り合わせる。
「むにゅ……ふふっ」
それが、何故かとても心地良く感じる音羽なのであった。
─────
「可可ちゃん、最近おとちゃんと仲いいよね」
練習の合間の休憩で、ふとかのんがそんな事を口にした。
「むふふ、可可と音羽は好朋友デスからね!」
「ふふっ。ありがとね、くぅちゃん」
かのんの言葉を受け、音羽と可可の2人は笑い合う。
「それに、最近音羽といると心の中がホワホワ〜ってするんデス」
「あ、僕もそれなんだかわかるかも。心も体もポカポカしちゃう感じ?」
「うわーっ! お揃いデスね、音羽♪」
「んっ。もう、くぅちゃんってばぁ」
可可はまた、ピタッとその身を音羽にくっつける。音羽も、その頬は朱に染まりつつも、満更ではなさそうな表情でそれを受け入れていた。
「かのんちゃん、これは……」
「うん……2人とも、明らかに好き同士だよね?」
「ほぁ? ハイ! 可可は音羽が好きデスよ?」
「うん。僕も……って言うのは、まだちょっと恥ずかしいけど」
「そうじゃなくって! 両想いってこと!」
「両想い……?」
2人の声が重なる。
「おとちゃんも可可ちゃんも、お互いの事が恋愛的に好きって意味だよ! 違うの?」
「れん、あい、てき……?」
2人は、お互いの顔を見合わせる。直後、2人の顔は真っ赤に染まり、バッと互いから離れた。
「く、可可が音羽を恋愛的に好き!? 你在说什么!?!?」
「そ、そうだよ! 僕とくぅちゃんが、そんな……」
2人はもう一度、お互いの顔を見合わせる……が。
「〜〜〜っ!!!」
一度意識し出したら最後、もう直視する事など出来なかった。
「はぁ……とんだ伏兵がいたものね」
「な、なんデスかグソクムシ! べ、別に可可は音羽なんて……」
「そ。アンタがそう言うなら……私が音羽を貰っちゃおうかしら?」
すみれが挑発的に、グイッと音羽をその身に寄せる。
「ハァ!? そ、そんなのダメデス!!」
すると、可可が再び音羽の腕を掴み自分の方に寄せるが。
「あ……」
さっきよりもその顔は真っ赤に染まり、何故か腕はがっちりホールドしたまま再び互いの顔を背けた。
「ここまで露骨だといっそ清々しいわね」
「あのぉ……さっきから皆さんは何をお話ししてらっしゃるのですか?」
「可可が音羽を好きって話よ」
「まだ好きだと決まったわけではありマセン!!」
「まぁ! 音羽くんにも彼女が……!」
「くぅちゃんはそうじゃないって! ほら、練習再開するよ!」
音羽の音頭により、一旦その話題は打ち切りとなったが。
(ど、どうしよう。ダンスしてるくぅちゃんを見てると、なんだか胸がドキドキして……)
(うぅぅ……音羽を見てるとドキドキしマス。これでは練習になりマセン!)
2人の意識はまだ、お互いに向き合ったままだった。
─────
練習も終わり、夕日が差し込む部屋で片付けをしていると。
「それじゃ! 私はバイトがあるから! うぃっすー!」
「あぁ! 私もちぃちゃんのバイトの手伝いでもしよっかなぁ!?」
「わ、私もご一緒させてください! すみれさんも!」
「な、なんで私まで……はぁ、音羽ぁ……」
若干1名名残惜しそうな人物がいた気もするが、音羽と可可の2人を置いてすたこら行ってしまった。
「よ、余計なお世話デス! 別に可可は音羽が……あぇ……」
「んっ……」
再三向き合った2人。
「あ、あの……音羽?」
「う、うん! なに、くぅちゃん?」
「……近くに行っても、いいデスか?」
「う、ん……いいよ?」
いつものように、2人の距離が近くなる。
いつもと違って、どこかぎこちない。
「ぎゅっ……てしてもいいデスか?」
「えっ!? う、うん……」
いつものように、2人の距離が0になる。
いつもと違って、心臓が早鐘を打つ音が煩い。
「……音羽の心臓、ドクンドクンいってマス」
「く、くうちゃんこそ……」
「お揃い、デスね?」
いつもの距離感も。
いつもの応酬も。
いつもと違う空気に呑まれてしまう。
「可可達本当に……両想い、なんでショウか?」
「わかんないよ。そんなの、急に言われたって……」
不意に2人の目が合う。
お互いの空色の瞳を、夕日色の瞳を覗き込む。そこに映る自分がどんな顔をしてるのか、確かめるかのように。
「僕の顔、多分真っ赤だ」
「ハイ。でも、可可もきっと……」
「うん。お揃い、だね?」
互いの鼓動が触れ合って。
互いの視線が触れ合って。
互いの吐息が触れ合った時。
「音羽……キス、してみマスか?」
「は……!? ななな、なんで!?」
不意に、可可がそんな事を口にした。
「だって……両想いは、キスをするのデショウ?」
「そう、かもしれないけど……僕たちまだそうと決まったわけじゃ」
「だったら……してみたらわかるはずデス。両想いじゃなかったら、した後にイヤってなるはずデス」
暴論だった。普通なら、はいそうですかと首を振るのはあり得ない。
だがしかし、音羽の脳は。部屋に漂う甘美な空気でとっくに麻痺していたのだ。
「いいよ……くぅちゃん……僕たちが両想いか、確かめてみよう?」
「ハイ。音羽、目を閉じて……」
2人がそっと、目を閉じる。2人の距離はより一層近くなり、まるで吸い寄せられるかのように。
「……ちゅ」
2人の唇が、重なった。
沈黙が、2人の間に流れる。
「んっ……ちゅぅ……んむぅ……」
先に沈黙を破ったのは可可だった。2回、3回と唇を重ねる。音羽も、静かにそれを受け入れていた。
「ぷは……しちゃい、マシタね」
「うん……しちゃった、ね」
しばし、見つめ合う2人。
「音羽のキモチは……可可と、お揃いデスか?」
「うん……お揃い」
「えへへっ……ね、音羽。もう一回……」
「いいよ、くぅちゃん……ふふっ」
どちらからともなく、もう一度。2人の唇が重なった。
にわにわさんのあとがき
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『お揃いのキモチ』
おとクゥです。誰も書かないであろうカプを書きたかった、という心意気で書かせていただきました。今回は恋人同士になるまでの過程を書かせていただきましたが、この2人は恋人同士でなくてもキャッキャしてるのが似合うと思います。音羽くんが唯一渾名で読んでるのも萌えポイント。