私はサバンナシマシマオオナメクジ。高校2年生。ヒトである。
今日は修学旅行のためにフェリーに乗ってきたところであったが──。
「ああ! 船が……沈んでいく」
絶賛沈没中である。
呑気にしているように見えるだろうが、一時は絶望感漂う状況下であった。
しかし、非常によく訓練された船員さん達の先導により救命ボートに皆乗ることができたため、ことなきを得たのが現状である。
「いや、サバンナシマシマオオナメクジくんがいたからさ。君が率先して動かなければ大惨事になっていたかもしれない」
同級生の佐藤くんが言う。
褒めすぎである。ただ、まあ、この身が何故かギョッとするほど衆目を集めやすい雰囲気を持っているらしく、そんな私が先んじて避難の道筋をつけたのが一助になったのならば幸甚である。もっと褒めて。
と、その時──救命ボートが大きく揺れた。
「サバンナシマシマオオナメクジくん、危ない!」
佐藤くんが手を伸ばす。ボートの端に座っていた私は下から突き上げるような衝撃に体を浮かせて、そのまま──海に落ちた。
「おいっ、サバンナシマシマオオナメクジくんに海水はいけない! なんかダメな気がするんだ! 塩とか砂糖とかかけちゃいけないような印象があるぞ!」
「わたしも!」
「俺も!」
いいから早く助けてほしい。あっ、これダメ、力が入らなくなってきた──。
こうして私の短い人生は終わった。だが、これがすべての始まりだったとは、この時の私は知る由もなかった。
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私はサバンナシマシマオオナメクジ。ヒトである。ヒトデではない。
私は死んだはずであったが、まだ意識があるということは生きているのだろうか。
夢心地でぼんやりしていると、走馬灯のようなものが見えて──いや、頭に直接入ってきた。
だが、私の記憶にないものばかりで、これは……トレセン学園? ウマ娘? 三女神様?
なんだか別の世界の記憶……いや知識なのか? あ、三女神様がこっち見たヤッホー。
手をプルプルと振ってみる。なんかすごい顔された。
しばらく流れ込んでくる知識を噛み締めながら今後の人生について考察していると、急に目の前が真っ暗になった。
すると今まで意識しなかった重力を感じられるようになり、べシャン、という音とともに私は地面に落ちた。
そう、地面である。当然その反対側には──青い空が広がっていた。
天地があることを認識した途端に気づく。整理された街並み、車の音、話し声、川のせせらぎ、草の匂い……住宅街にいるみたいだ。
私は呆然と空を見上げていた。周囲の人には疲れたサラリーマンみたいに── いつの間にかとってもオシャレな白黒ストライプのスーツを着ていた──見えたことだろう。
これは死の間際に見ている華胥の夢かもしれない。だが、私は文字通り別天地に来たのだと何故か確信を持っていた。そしてここで立派なトレーナーになるのだと……え、これ、洗脳されてないよね?
「あのー、大丈夫ですか?」
……。
「すごいシマシマな服ですね。いやっ! わたしはマシマシに委員長ですが!」
とりあえず。
「はい! なんでも聞いてください!」
ここはどこですか?
「わかりません!」
あなたも迷子か。
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とりあえず世界的迷子な我々はその辺の人に聞き、現在地を把握するという偉業を達成したのだった。
「ほほう、それではあなたはトレセン学園のトレーナーだったのですか」
近くにあった公園のベンチに腰掛けながら、委員長さんは顎に手を添えながら感慨深げにフムフム頷いている。
いや、待ってほしい。根拠もないのにトレーナーを詐称しているわけではない。現在地を確認した後、手荷物検査をしてみたらポッケの中に身分証があったのだ。
びっくりして身体から槍が出そうになった。ヒトなので出さないが。
「ヨシ! では参りましょうか!」
どこへ? と問う間も無く、委員長さんは私の服の裾を掴んで走り出したので、慌てて着いてく……着いてく……着いて……えっ、この子速すぎない?
「バクシン! バクシン! バックッシン!」
私は短い手足──短足とか言わないでほしい──をプルプルさせながら何とか歩調を合わせて着いていく。
「バクシン! バクシン、バ、ク……シ……」
おや? 急にスピードが落ちたようだ。委員長さんの顔色も悪い。まだそんなに走ってはいないはずだがどうしたというのだろう。
ぜえぜえと膝に手を乗せて俯いている彼女に声をかけたいが、何せ息をするのも辛そうなのだ。でも聞いちゃえ。
あの。
「は……ぃ。」
私たちはどこへ向かってるんでしょうか。
「ぜえ……はぁ……どこへ……?」
ん?
「……どこへ……向かっているんでしょう?」
私と委員長さんはしばし考え込んだ後、再び迷子になっていることに気づいたのだった。
ナメクジはヒト。ヒトなんだってば。