裏切りのラスボス少女〜主人公君を裏切って憎しみに満ちた目で見られたい〜 作:あへんちんき
「…………」
「ミナ………」
ミナは右手に黒い刀を持って、虚ろな目で俺のことを見つめてきている。
『まさか…………ここまで進行していたなんて………………』
救はまるで自分を責めるかのように、1人そう呟く。
悪魔の乗っ取りがここまで早いとは思っていなかったんだろう。
「ふむ。中々に良い体ではないか。ククク…………。女の身であることは少々残念だが、この人間の体は、このオレ様に相応しい体のようだ。よく馴染む。」
「何で喋って………まさかーーー」
『いえ。まだ完全には乗っ取られていません。ですが、かなり危ない状況です。見たところ、あれは悪魔ベリアル。悪魔の中でも上位の者で、かなりの強敵です。油断せず、細心の注意を払いながら戦ってください。』
今ミナの体で喋っているのは、どうやらベリアルという名の悪魔らしい。
剣になっているため、救の表情はわからないが、余裕のある感じではなさそうだ。
今まで戦ってきた敵とは違う。
そう感じさせるほどの威圧感がある。
「そちらが仕掛けてこないというのなら、こちらから仕掛けるとしよう。」
言うと同時、ミナの姿をした
(っ!速いっ!?)
俺は対応することができずに、体をかなり遠くへと飛ばされてしまう。
見ると、先程俺がいた場所から10m以上も吹き飛ばされていた。
とても華奢な少女の突進によるものだとは思えない。
悪魔による力というのは、それだけ強大なものなのだろう。
「………期待外れだな。この程度のスピードにも対応できんとは。オレはまだ自分の力のうちの半分も出していないぞ?」
まるでお前には武器を使うまでもないとでも言うかのように。
『っ!来ます!!』
「はっ!」
救が警告した後、再び
俺は事前に救から警告を聞いていたため、かろうじて横合いに避けることに成功する。
「ほう。今度は避けたか。どうやら学習能力はあるらしい。」
避けることができても、結局
「しかし、守ってばかりではこの小娘を助けることはできんぞ?」
…………そんなことはわかってる。
ミナを助けるためには、
だが、あれだけのスピードで動き回られたら、攻撃を加えるどころか、
ああ、ここまで、差が開くもんなのか。
今までの悪魔との戦いでは、
悪魔と契約した人の体が傷つくからその発想が浮かばないってわけじゃない。
ただ単純に、
だが、
そもそも俺が攻撃を入れることができるかどうかすら怪しい。
迂闊に近づけば俺が返り討ちに遭ってしまいそうだし、相手から向かってくるのを待つにも、速すぎて対応することができない。
これが上位悪魔。
今まで戦ってきた悪魔とは、明らかに格が違う。
本当に『世界に破滅をもたらすもの』は
だとしたら救のあの焦りようにも納得できるな。
どうすればいい?
どうやって戦えば………
「……け………て……。うん?今口が勝手に動いたな………。」
…………今、もしかしてたすけてって………。
「ああ、そうか。小娘の仕業か。ふむ。まだ意識が残っていたようだな。大した精神力だ。だが、もはや虫の息だ。後少しもすれば、お前の体はオレのものになる。喜べ小娘。このベリアル様に体を使ってもらえるんだからな。」
そうだ。敵わないだとか、そんなこと関係ない。
ミナが。
友達が。
助けを求めてる。
それだけで十分だ。
ただそれだけで、俺は戦える!
「はぁぁぁあぁぁぁぁああああ!!!!」
雄叫びを上げながら、俺は、
「ふ。馬鹿が!そんなに全速力で走って仕舞えば!オレの攻撃は避けれまい!」
『上から来ます!!』
救がそう言うと同時、俺は片方の腕を上に突き出し、相手の攻撃を受け止める。
ゴキッ
「っ!」
いた…………くねぇ!
ミナの苦しみに比べたら、この程度、なんてことはない!
「くらえ!!」
俺は
「そんな攻撃この手で……!な、何だ!?か、体が動かない!?」
「ミナはそう簡単にお前に体を受け渡す気はないってよ!!!!」
「クソ!そんな馬鹿な!!」
ミナの体から、
はじめての上位悪魔との戦いに、俺は片腕を犠牲にしながらも、勝利することに成功した。
^_^
戦いが終わった。
ミナは現在、俺の家のベッドで眠っている。
いや、勘違いしないでほしい。
そんなつもりは一切ない。本当だ。
今まで悪魔と契約した人は、基本的に取り憑いている悪魔を浄化してやればそのまま悪魔に関する記憶を失った状態で目を覚まし、私何してたんだっけ状態に陥るだけなのだが、ミナの場合、上位悪魔に体を乗っ取られかけたせいか、
悪魔との戦いによって眠ってしまったため、下手に病院に連れて行ってもまずいかと思い、一先ず俺の家のベッドに寝かせることにしたのだ。
ちなみに俺は
「ミナちゃんの様子はどうですか?」
実体化した救がそう尋ねてくる。
前まではミナちゃんなんて呼び方はしていなかったが、それはおそらく『世界に破滅をもたらすもの』ではないかと疑っていたためだろう。
『世界に破滅をもたらすもの』なら、流石にあんなにギリギリまで悪魔に体を許すというのはあり得ないと思ったからか、ミナへの疑いは晴れたらしい。
いくら『世界に破滅をもたらすもの』とはいえ、あそこまで進行してしまえば悪魔を食い潰すことは不可能なんだとか。
「特に異常はなし。まあ、まだ目を覚さないのはちょっと心配ではあるが、まあ、すやすやと眠ってるし、多分大丈夫だろう。」
「そっか。ねぇ、
「…………ミナのこと、疑っていたことか?」
「それもあるけど、私、ミナちゃんが悪魔と契約したって分かった時、様子見しようなんて。間に合わなくなるかもしれないのに。間に合ったとしても、待った分だけミナちゃんが苦しい思いをするって分かってたのに。」
普段は敬語で喋っている救が、素の口調で話している。それだけ取り乱しているのだろう。
彼女だって、辛かったのかもしれない。
彼女は、この世界を救うという重すぎる使命を負ってしまった。
『世界に破滅をもたらすもの』探しにあれだけ躍起になっていたのも、自分の選択一つで世界が滅びるかもしれないという恐怖からだろう。
「正直俺は、救の選択は世界を守るっていう観点から見れば正しいと思う。」
そうだ。救の判断は正しかった。
ミナが『世界に破滅をもたらすもの』ではないなんて保証は、あの時はなかったんだから。
「だから、これからも、救は世界を守るために正しいと思う行動をとってほしい。」
「でも、それで今回みたいなことになったら………!」
「大丈夫。俺がそうさせない。」
「っ……」
「だから、救は救が世界を救う上で正しいと思う判断をしてほしい。俺は、俺の周りの人間一人一人の幸せを守るために戦うから。」
「……ふふっ。馬鹿……。馬鹿………ですよ。本当に。わかりました。それなら、私は世界を守ることに全力を尽くしましょう。」
救は深刻な表情を浮かべていたのを、すぐに笑顔に張り替える。
やっぱり皆、辛そうな顔をしているよりも、笑顔でいてくれる方がいい。
そうだ。
俺の周りの人は、誰一人として傷つけさせやしない。
俺が、俺が一人で、全部背負うんだ。
皆のために。
救「なんか悪魔に体乗っ取られそうになっとるな……ほな『世界に破滅をもたらすもの』とちゃうか………」
次回はミナ視点になる予定。