ベージュ色の制服のリコリス達   作:mai#急行八甲田

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リコリス棟の午後 ③ ……I wasn't born yesterday.

 

新出用語解説

 

・リコリスノ巫女

 リコリスでありながら彼岸ノ巫女でもある少女達。どちらの任務にも対応することができる。

 

・彼岸ノ巫女

 禁厭や神術を使って活動するリコリスのような者達。

 

・神器

 神が宿るという武器。天津神、國津神、八百万神の3種類がある。

 

・器

 天津神が人と同じ様に過ごすために体を使われる者達。その者を器として使える神様は決まっている。神に体を完全に渡すとその者の意識は消滅する。

 

・予備之器

 天津神ならどの神様でも使うことのできる器。ただし、一度でも神様が触れてしまうとその神様しか使えなくなる。大抵の神様は本来の器が見つかったときに直ぐに移れるよう、完全に体の中には入り込まずに神器の状態で拠っている。

 

 

 

 

***

 

 私は全てを話し終わった後、柳から伝えられた話の内容はとても信じられるものでは無かった。

 

 

「私にその話を信じろと言うのか。」

「それは好きにしてくれ。だが俺が話したことは全部本当だぜ。」

 

 

 改めてソファに座る3人を見る。石巣比売神と名乗る高校生ぐらいのリコリス、多岐都比売命と名乗る中学生ぐらいのリコリス、そして天之御中主神を名乗る小学生ぐらいのリコリス。

 

 現実に存在するという神様、神が宿る武器である神器、それを使うリコリスと似た存在である彼岸ノ巫女、日本を守るという結界、どれも空想上のものではないのだ。全くもって理解が追いつかない。聞きたい事は山程ある。だが、一番の疑問は何故このタイミングで私の目の前に現れたかだ。神様が直々に教えた理由は何なのか。

 

 

「何故、私に姿を見せてこれらの事を話したのだ。」

「ふっ、無知だったが優秀な奴だ。」

「大抵の者はどうでも良い事ばかり質問してくるからの。」

「結論から言うとするかの。其方に一時的にリコリスノ巫女の指揮を取って貰いたいのじゃ。」

 

 

 何度見ても小学生にしか見えない、天之御中主神がソファから降りて話し始める。

 

 

「既に彼岸花の阿呆共の処分は終わっておるのじゃ。残るは下っ端共の処理じゃが、此れが面倒での。君影ノ男巫共の失敗の所為で結界に穴が開き、巫女共が苦労して居る。此処暫くは呪に拠るテロも増えるであろう。其れ等にも対応可能なリコリスを一時的に集めて対処するのじや。」

「お前が考えてる1ヶ月後の作戦で取引されるのは銃や麻薬だけじゃ無い。大陸系の呪符もだ。」

「じゃからお主に全てを話したのじゃ。武装組織と共に入り込んで来る呪術組織共も処分して欲しいのじゃ。妾達も今後は介入はしたく無いからの。」

 

 

 一旦、頭の中を整理しなければならない。

 まず、今回の一連の首謀者である彼岸花の上層部の一部の者達は全員処理されている。ただし、その手先であるここの副司令や下っ端の人間はまだである。

 次に1ヶ月後の作戦では銃と薬の取引がされることになっているが、その裏では大陸系の呪術組織によって呪符が取引される予定である。これらには副司令が関わっているため、予定どおりに事を進ませて2つの組織を処理するつもりである。

 最後にこの先1ヶ月はリコリス単独、あるいは巫女単独では対処できない事態が多発するため中部地区にいるリコリスノ巫女、つまり彼岸ノ巫女たるリコリスを集めるためその指揮を取って欲しいということである。

 

 

「ふむ、理解した様じゃな。困った事が有れば柳に聞くと良いのじゃ。」

「最後に質問をしたい。」

「構わぬぞ。」

「私は台本通りに動いていたのか。」

「其うじゃ。其方は唯の替えの効く役者じゃからの。」

 

 

 自分で必死に考えてきたことは全て神様のシナリオだったというのか。自分は裏の人間だと思っていたが、所詮は何も知らない表に生きる者だったのか。

 

 

「さて、妾の器の様子を見ようと思ったのじゃが、姫君を守る彼奴は許してくれなさそうじゃからの。帰るとするのじゃ。」

 

 

 そう言った3柱の神様は一瞬で消えていなくなった。

 

 

 

 

 

 

 司令室の前までやって来た。どうせうちが来たことに気付いてあの神様共は帰ったところだろう。だが柳さんとは話をしておかなければならない。

 副官の制止を振り切り扉を開けて中に入った。

 

 

「入室の許可は出してないぞ。」

「じゃあ、今出してくれないっすかね。」

 

 

 柳さんともう1人がこちらを見ている。

 

 

「貴様、何者だ。」

「俺はさっきまであんたが巫女だってことは気付かなかったんだがよ。どういうカラクリだ。」

「それは秘密っすよ。そっちのリコリスは始めましてっすね。藤 なずな、東京支部のサードリコリスっすよ。」

「柊木だ。」

「じゃ、早速ですが柳さん。あの神様共とはどういう関係なんすか。」

 

 

 うちは柳さんに詰め寄った。こんな時に人並みの感情を持っていれば、怒りとかいったものを覚えたのだろうか。だがそんなものは沸いてこない。あるのはユリ先輩に手を出す奴は誰であろうと許すつもりはない、そんな考えだけである。

 

 

「何を勘違いしてるのか知らねぇが、俺は殆ど知らない下っ端の巫女だぜ。あの神様達は自分でするのが面倒臭くて俺に栗田司令への説明を押しつけてきたんだよ。初対面だぜ、本当に天之御中主神てのは居たんだと驚きだよ。」

「それを信じろってことっすか。」

「それは好きにしてくれ。だが俺はあんたら2人のことを邪魔するつもりはねぇよ。命令されたら、そんときは割り切るけどよ。」

「そうっすか。まあ、取り敢えずこの話はいいっすよ。」

 

 

 今度ほ栗田司令の元に向かう。先程までここで何を話していたかは、詳しい事は後でうちの神様に聞けばいい。うちが栗田司令に求めるのは1つだ。

 

 

「明日からの1週間はちゃんとユリ先輩とデートさせて貰いますからね。」

「それなら心配は無い。但し常に連絡が取れるようにしておいてくれ。救援要請等があれば現場で仕事はして貰う。」

「良いっすよ。なら、うちは帰るっす。」

「君は私よりも知っているのだろう。好きにしてくれたまえ。」

 

 

 早く部屋に戻ってユリ先輩と一緒に居なければ。柳さんとは夜中にでも話せばいい。司令室を出ようと早足になったところを呼び止められた。

 

 

「おい、ちょっと待ちな。まだ話してぇことがあるぜ。」

「うちはあんたの指揮は受け付けないっすよ。後にしてくれないっすかね。」

「俺はこの支部の巫女のまとめ役、一応名古屋支部にいるリコリスノ巫女の長だぜ。まあ、あんまり命令するつもりはねぇけど、他の奴の前では気を付けてくれよな。」

 

 

 再び部屋を出ようとすると扉の前に柊木とかいうリコリスが立っていた。

 

 

「私も貴様に聞きたいことがある。」

「邪魔っすよ。退いてくんないっすか。」

「おい、柊木。帰してやれ。そいつの方が神格も巫女の位も上だ。任務に関係ないことで命令はできねぇよ。」

 

 

 彼女を押し退ける様にして司令室を出た。

 廊下に出て欠伸を1つした。まあ、結局ただの下っ端の巫女達だ。ユリ先輩やうちのことも良く知らないのだろう。

 それよりも明日からはデートが出来る。それだけでいい。

 部屋に戻るとユリ先輩はぐっすりと眠っていた。隣に座って顔を眺める。瞬きもせず、視線を逸らすこともせず、ただひたすらに眺める………。

 

 

 部屋のドアが開いて柳さんが戻ってきた。棚から道具を取り出し紅茶を淹れ始める。

 

 

「この支部では昔、リコリスノ巫女が裏切ってよぉ。そいつ他の支部から移動してきた奴で、処分するときにあいつの好きだった先輩が死んじまったんだ。」

「別に害がなければどうでもいいっすよ。」

「まあ、何度も言うが俺は下っ端の巫女にすぎねぇ。あんたらの事情には深入りもしねぇし、知ろうとも思わねえ。取り敢えずは同僚のリコリスとしてこの1ヶ月間を過ごすだけだ。」

「そうっすね。」

「言い忘れたがあの神様達は今回はもう関わらねぇみたいなことを言ってたがそれは嬉しいことなんか。」

「もちろんすよ。あいつらがユリ先輩に関わらないのが一番いいっす。取り敢えずリコリスとしての役割も巫女としての役割も両方ちゃんとやるっすから、そこは心配要らないっすよ。」

 

 

 柳さんから渡された紅茶を飲みつつ、うちは念話で今回の出来事の表裏全てを思金神から聞いたのだった…………。

 

 

 時刻は20時を過ぎた。柳さんがまだ寝ぼけている一葉さんと茉莉花さんを部屋に運んでくれた。下のベッドにユリ先輩を移動させて隣に座る。

 

 

「もう寝るのか。」

「そうっすね。」

「そうか。じゃあ俺は遅い夕飯に行ってくるぜ。」

 

 

 ドアが閉まると聞こえるのはユリ先輩の寝息だけだった。

 うちは制服のままでベッドに入って先輩に抱き付いた。お風呂に入っていないからか先輩の匂いをいつもより感じる。まるで麻薬だ。あれこれと考えるのが馬鹿らしくなってくる。ずっとこの瞬間が続けばいいのに…………。

 

 …………………………。

 

 ……………………………………………………。

 

 

ーーでもそれだと外でデート出来ないっすね。

 

 先輩に更に強く抱き付くと、自然と眠りに誘われたのだった。

 

 

 

 

 

 食堂にはまだまだ他のリコリスが大勢いる。そんな中に端の方で気配を消すかのように座る6人のサードリコリス達がいた。

 周りに聞こえないように念話で話している彼女達は柳、柊木、小栗、土筆、楠浦、白樺。この支部にいるリコリスノ巫女が全員揃って夕食を食べているのだった。

 

 

 

 




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