人物名解説
椿黒 百合 (つばくろ ゆり)
椿の花言葉
控えめ優しさ、罪を犯した女
椿の英語の花言葉
敬愛、感嘆、完全、完璧
黒椿の花言葉
気取らない優美さ
黒百合の花言葉
呪い、愛、恋
***
……あぁ、またこの夢か……
何度も何度も繰り返し見てしまうこの夢。
―夢の中で自分は1人知らない部屋に佇んでいる。
―足元には無惨な姿で息絶えたリコリスの死体。
―光を失った目がこちらをじっと見つめてくる。
―まだ死にたくない、そんな表情。
―自分は彼女の手にそっと触れる。
―自分は知りたい。
彼女が死の瞬間に何を感じたのか……
彼女が死の瞬間に何を思ったのか……
彼女が死の瞬間に何を考えたのか……
彼女が死の瞬間に何を見ていたか……
―もっと知りたい
彼女は死の瞬間痛かったのか……
彼女は死の瞬間辛かったのか……
彼女は死の瞬間苦しかったのか……
彼女は死の瞬間悲しかったのか……
―自分は罪を犯す。
―他人の死の瞬間を知る。
―他人の死の瞬間で興奮をする。
―それは許されないことだ。
―私は同時に苦しみを味わう。
―彼女が果たせなかった思い。
―彼女がこれまで生きてきた中での思い。
―それら全てを受け止める…………………
―自分の中の興奮が冷めていく……。
―私は新たに1人分の思いを背負う……。
―そうして私は強く、
―そうして自分は弱く、
―なっていく……………………
「起きて下さい、ユリ先輩、。3時っすよ。」
制服姿のなずなの声で目が覚める……………………
「また悪い夢を見たんすかね?」
あぁ、いつも通りの悪夢だった…………………
「今日の分の制服は用意しましたよ。」
今日から名古屋に行かなければならない………………
「もう少し寝るっすか?」
いや、もう寝ない……………
「とりあえずコーヒー淹れますね。」
そうだ昨日のコーヒー…………
「コーヒーマシンはスーツケースの中なんで、今朝はインスタでいいっすよね?」
睡眠薬が入っていたのか………
「ちゃんと眠れましたか?」
眠れてない……
でも、睡眠薬がなければ眠れてなかった…
頭がはっきりとしてくる、そしていつもの様に冷静かつ無表情でどんな時でも理論的に考える私になる。
「特に問題はない。」
「それなら良いっす!朝食はどうしますかね?途中のSAかPAで食べるのはどうっすか??」
「どこか知らべてあるのか?」
「勿論すよ!!」
「なら構わない、好きにしろ。」
「了解っすー!!」
私はゆっくりとベッドから出る。電気ケトルがお湯を沸かす音だけが聞こえてくる。まだ朝とも夜ともつかない時間だ。外からは何も聞こえこない。しーんと静まりかえっている。
カチッという機械的な音がその静けさを壊す。お湯が沸いたようだ。私が毎朝コーヒーを飲むせいでこの静かな時間を台無しにしてしまった。
程なくしてお揃いのマグカップに淹れたコーヒーを手渡してきた。昨日の夜と同じ様に私のベッドに横に並んで座る。
お互い何も話さない。この静かな時間を噛みしめる様に過ごす。何も聞こえないこの世界には時々コーヒーを飲む音がする。
気付けばカップの中身が無くなっていた。
「カップ洗ってくるっすよ。」
そう言って立ち上がると部屋の外に出ていった。
私も立ち上がると制服に着替える。彼女とお揃いのパジャマを脱ぎ下着姿になった。ハイソックスを履きワンピース型の灰色の制服に袖を通す。ベルトの長さを調節して襟元のボタンを留める。
そして赤色のリボンを結ぶ。
なずなが戻ってくると先程まで着ていたパジャマを綺麗に畳んでスーツケースに仕舞ってくれた。そして洗ってきたマグカップは別のスーツケースに入れている。
時計を確認すると時刻は既に3時50分だ。
「そろそろ行こう。」
「了解っす。」
学生が使うサッチェルバッグ、その中身は教科書ではない。それを背負い、互いにスーツケースを2個ずつ持つと、普段生活しているこの部屋にしばらくの別れを告げた。
既にリコリス棟の玄関前には車が待機していた。運転手は職員だろうか、もう1人職員か無表情のまま我々のスーツケースを後ろに積み込んでいく。
我々は後座座席に乗り込んだ。助手席に先程の職員が座ると車はゆっくりと発車する。
朝早くだから見送りはいないと思っていた。だが外を見るといつの間にか司令がいた。車は少しずつ遠ざかっていく。
車は東富士道路、須走道路、沼津バイパスを経由して新東名高速道路を走行していた。
窓の外を眺めていると丁度新清水Jctを過ぎるところだった。出発してから既に1時間が経過している。前に座るDA職員は相変わらず無表情で一言も喋らない。我々2人も景色をボーっと見ているだけだった。
そんな沈黙の世界になずなの声が聞こえた。
「音楽かけてもいいっすかね?」
助手席に座っていた職員が構わないと言う。
「ありがとっすねー、、じゃあ一曲目にドライブにピッタリなの流してその後は適当にシャッフルにしとくっすよ。」
程なくして車内に音楽がかかった。確かにドライブにピッタリな曲だった。
「懐かしいな、その曲。確か風のいるナビシート。」
運転席の男性職員が呟いた。
日本道路公団ハイウェイラジオのテーマソング、風のいるナビシートが流れる。
気が付けばなずなは2人の職員とおしゃべりで盛り上がっていた。本来、職員はリコリスに必要以上に関わらない。よって会話も必要最低限である。だが、向こうは彼女と話したくて仕方ごなかったのだろう。なにせ流れる曲は、エストニア・ソビエト社会主義共和国国歌、大脱走マーチ、熊谷市歌、ハイケンスのセレナーデ、勇敢なる水兵、地平を駆ける獅子を見た、組曲ニコニコ動画、等々、ツッコまずにはいられないラインナップなのだ。
今も競馬の話しで盛り上がっている。
「うちもハルウララの馬のぬいぐるみ、持ってるっすよ。」
「好きな馬っすか……、うちはどちらかというとばんえい競馬なんで、スーパーペガサス、フクイチとかマルゼンバージすかね。」
車は天竜川を渡り愛知県に入っていた。
お腹が空いた。朝食はどこで食べるのだろうか。
「なずな、朝食はどこで食べるんだ?」
「養老SAで食べようと思ってるっすね。近江ス○ヒロ養老茶屋の飛騨牛黄金の牛飯とかどうっすかね?」
「高速を降りる関ヶ原ICの手前じゃないか。向こうは9時までに到着だぞ。」
「大丈夫っすよ!問題無いっす!!」
車は豊田Jctから東名高速道路に入ると小牧ICから名神高速に移る。そして木曽川を渡り岐阜県に入った。
「もう少しで養老SAだぞ。」
牛飯の話を聞いた助手席の職員が声をかけてくる。
牛飯は反対線の上り側だった。それでも彼女は、ここはぷらっとパークなんで歩いて外に出て反対線のSAの利用もできるんすよ、と言って行ってしまった。
程なくして4人分の牛飯を持って彼女ご戻ってきた。
「さぁ、早く車の中で食べるっすよ。あ、時間が微妙なんで2人はうちらを送った後に食べて下さいね。」
牛飯を食べながら目的地の中部本部・名古屋支部を目指す。場所は伊吹山の山中及び地下だ。関ヶ原ICを降りて国道365号線を北上し、関ヶ原古戦場の付近を通ると程なくして到着した。
関東本部・東京支部と変わらないセキュリティーを通り抜け、車は本部・支部共用建物の玄関前に停車した。