翌日……
「局長!」
「おう、どうしたユーリ。」
ユーリは保安局本部に来てすぐ、局長室に押し入った。そして局長室の椅子に腰掛ける局長にずかずかと近づいた。
「……昨日の放送見ましたか……?」
「おお、見たよ。ウォルターの奴、生きてたとはな〜〜!!予想外だ!!」
ゲラゲラと笑う局長に対し、ユーリは眉間に皺を寄せ、拳を机に叩きつけた。
「ぼくはあの人が左遷されてたなんて知らなかった!!しかも、妹がいたなんて……!あの人に妹がいたなんて知らなかった!!」
「………」
「あなた達上層部が、妹さんがテロに加担していたのを隠蔽したというのは本当なんですか!?どうなんですか!?」
怒気を隠しきれずにまくしたてるユーリに、局長は深くため息をついた。
「……しかたなかったんだよ。隠蔽しなきゃ、俺が責任を問われてた。」
「そんなの……臭い物に蓋をしてるだけじゃないですか!!?それが上のやり方なんですか!!自分の身がそんなに……!!」
「大事なんですか」と言おうとした次の瞬間、局長はユーリの頭を掴み、顔面を机に叩きつけた。
「舐めたことを言うなよ小僧!!」
「ぐっ……!」
「ここはお前やウォルターだけの組織じゃない!!ここにはその他大勢の構成員がいる!もし、構成員の妹がテロに加担していたことが世間に知られたらどうなる!?下手したら組織にいる全員が路頭に迷う可能性があるんだ!!それをお前は背負えるのか!?」
その言葉にユーリは何も言えなかった。組織の一員であること……それが今になって嫌というほど思い知らされる。組織にいる以上、絶対に避けられない”しがらみ”……それにがんじがらめにされている自分が情けなく感じた。逆に、フリッドやグリムの様に”組織のしがらみ”がない2人が羨ましく思えた。
「分かったな……?」
局長はユーリが大人しくなったのを見て、頭から手を離した。
「ブラックサレナの件……下手に関わらない方がいい。少なくとも、政府や上の判断を待て。」
続く局長の言葉に何も言えず、ユーリはそのまま局長室を出ていった。
「クソッ……!クソッ!」
ユーリは自分の情けなさに怒りさえ覚え、壁を何度も殴りつけた。
するとその時、
「ユーリ君……」
「クロエ……」
ユーリの前に現れたのは、同僚の女性クロエだった。クロエは暗い表情でユーリの前に現れた。
「昨日の、放送……あれ、本当にウォルター先輩なのかな……?」
「……ぼくだってまだ信じられないよ……」
2人が組織に入ったばかりの頃、ウォルターから直に指導を受けてきた。ウォルターは厳しく、死ぬ思いも何度もしてきたが、それでも「彼について行きたい」と思わせる魅力がウォルターにはあった。
「……クロエ、ぼくは先輩の家のマンションに行ってみる。」
「えっ?」
「まだ経歴書が残ってるはずだ。そこに住んでる場所とか載ってるはずだろ?お前も来い!」
ユーリは共にウォルターの後輩だったクロエも誘って、ウォルターのことを調べようと考えた。
ユーリはウォルターの動機を深堀りしようと考えた。真実を隠した秘密警察に恨みを抱いているのは確かだろうが、それが東西両国に宣戦布告する理由になり得るのか……それを調べようと考えた。
しかし、クロエは首を横に振った。
「なんで……?お前、先輩のこと好きだったろ……!?」
「……っ!!」
ユーリの一言にクロエは目を見開いた。しかしすぐさま目を伏せて、逃げるようにその場から立ち去ってしまった。
「あっ!?クロエ!!……くそっ!1人でいくしかないか……」
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「みんな、おはよう!」
『おはようございまーーす!!』
そのころ、イーデン校ではフリッドがアーニャ達生徒と朝のホームルームを行っていた。
「よしよし、みんな元気だな。」
「先生!」
その時、ベッキーが手を挙げた。
「ベッキーくん、どうしたの?」
「先生は昨日の放送見ましたか?」
ベッキーの言葉に、昨夜の「ブラックサレナ」の公開処刑を思い浮かべ、フリッドはコクリと頷いた。
すると、ベッキーは不安げな顔をし、怖がるように体を震わせた。
「やっぱり悪い人達なんですよね……?私、怖い……!」
「大丈夫だろ。仮面ライダーがいるんだし!おじさ……先生もいるし!」
怖がるベッキーをよそに、ダミアンは自信ありげな顔をして言った。それに同調するように、周りの生徒も「そーだそーだ!」と囃し立てる。
それを見て、フリッドは寂しそうにため息をついた。
「……1時間目は道徳だったな。ちょうどいい……」
フリッドは静かに呟くと、黒板に「
「みんな……今から、『正義』に関して学ぼう。『正義』って……なんだと思う?分かる子はいるか?」
「はい!」
フリッドの質問に、真っ先に手を挙げたのはエミールだった。
「仮面ライダーのことです!仮面ライダーは強くてカッコいいし、悪い奴らを倒してくれます!」
「……他には?」
「はい!」
続いてユーインが手を挙げた。
「犯罪をしない人や、犯罪者を捕まえる人だと思います!」
「……そうか。じゃあ、俺の考えを話そう。『正義』というのは……とても怖いものだ。」
フリッドの口から語られる「正義」の考えに、生徒達はざわついた。
「人は『正義』のためなら、どこまでも残酷になる。多分、戦争もそうやって起こるんだ。敵にも味方にも『正義』があって、みんなそれを貫こうとする。そして……『正義』のために人を傷つける。自分達の『正義』が正しいと思ってるから、それを邪魔するのは『悪』だと認識する。だから『正義』は怖いんだ。」
フリッドの語りを聞き、生徒達は黙り込み、教室はシン…と静まり返った。フリッドは静まり返った教室を見て、フッと笑った。
「だからな、みんなには自分から『正義』を語らないでほしい。そんなものとは関係なしに、みんなには生きてほしい。わかったか?」
『……はいっ!!』
一瞬とまどった生徒達だったが、すぐに元気よく返事をした。それを見てニコッとフリッドは笑った。
しかし、その笑顔はどこか苦しそうに見えた。それにいち早く気づいたのは、ダミアンとアーニャだった。
(叔父さん……どうしたんだろう……?)
(かてーきょーし、なやんでる……?)
アーニャは試しにフリッドの心を読んでみた。
(俺は……俺はあの時……なんてことを……)
あの時、映像でチャップマンが殺されたところを見た瞬間……フリッドは、あの公開処刑を「正しい行動」だと思ってしまっていた。
あれはただの私刑、復讐に過ぎない。しかしフリッドはその行動に「正義」を実感してしまった。子ども達に自分の「正義」に関する考えを語っておきながら、自分は最低なことを考えてしまったと……
(俺も……汚い大人になったもんだ……)
(かてーきょーし……)
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「おっす!」
「あっ、グリムくん!」
そのころ、グリムはバーリント総合病院に入院しているカミラの元を訪れていた。
「ほら、これヨル先輩から。」
「ありがとう、グリムくん!」
グリムはドミニクに見舞いの果物を手渡すと、ベッドのすぐそばにある椅子に腰掛けた。
「どうだ?体は、大丈夫なのか……?」
「うん、私もお腹の子も大丈夫。」
「そっか……よかったぁ……」
緊張が解けたように、グリムはホッとため息をついた。
すると、そんなグリムを見てカミラはクスクスと笑い始めた。
「なんでアンタがホッとしてんのよ。」
「だ、だって、身近な人間が妊婦で、そいつが転んだってなったら……心配にもなるだろ……それに……」
「それに?」
その時、何故かグリムは顔を赤くし、そっぽを向き始めた。
「お、俺が変わったのは……アンタら2人のおかげでもあるし……?」
赤面しながら言うグリムに2人は目を丸くした。しかしすぐにニヤニヤと笑い始め、グリムの頭を撫でてきた。
「へぇ〜〜〜?アンタがそんなこと思ってたなんてねぇ〜〜〜?」
「ありがとうねぇ、グリムく〜〜ん!」
「ぐぬっ……!言うんじゃなかった……」
2人にからかわれ、グリムは自分が言ったことを後悔したのだった。その時、病室のドアが開いた。
「ごめんなさい、カミラさんの病室はこちらですか?」
病室に入ってきたのは女性だった。その女性とは、メリンダ・デズモンドだった。
メリンダの姿を見た瞬間、グリムはフッと冷めたような表情になった。
「……悪い。俺、帰るわ。」
「えっ?ちょ、グリムくん!」
グリムは2人の撫でる手を振り払い、メリンダを押しのけて病室から出ていった。
「待って!」
メリンダは慌ててその後を追いかけた。
「グリムくん……でしょ?」
「……俺のこと知ってんのか?」
「ダミアンが……息子が言ってたわ。『カッコいいアニキができた』って……」
「チッ……余計なこと言いやがって……」
グリムは舌打ちを打ったが、まんざらでもないような様子だった。
すると、メリンダは急にグリムに対して頭を下げてきた。
「ごめんなさい……ヘレンさんのこと……」
メリンダの口から出た名前に、グリムは拳を握りしめた。
その名を忘れるわけがない。ヘレン……グリムの実の母親の名だった。
「今さら謝っても遅いのは分かってる。でも、ダミアンが明るくなってイキイキとしているのを見てたら……フリッドさんのおかげで変わったあの子を見ていたら……私も向き合わなきゃいけないと思ったの。」
「ホント、今さらだっつの……」
まるで、メリンダの言葉を無視するように、メリンダに背を向けた。それでも、メリンダは続けた。
「もちろん……殴られる覚悟もあるわ。」
「そうかい……じゃあ殴っていいんだな?」
「ええっ……」
グリムの言葉にメリンダは額に汗を掻きながらも、キリッとした顔つきで覚悟を決めた。
そして次の瞬間、メリンダの顔面めがけて拳が飛んでくる。
「!!」
メリンダは咄嗟に目を瞑った。しかし、痛みは一向にやってこなかった。不思議に思ったメリンダは目を開けた。
グリムの拳は眼前で止まっていた。
「どうして……」
メリンダは不思議に思った。グリムは何故自分を殴らなかったのか……相手は自分を恨んでいるはずだ。それなのに、殴らなかったグリムに首を傾げた。
「……アンタが謝らず、ふてぶてしい態度のままだったら……思い切り殴れたのにな。」
グリム自身、メリンダを恨んでいない訳ではなかった。昔はドノバンのことだけでなく、メリンダのことも殺してやりたいほど憎く思っていた。だが、今のグリムは、復讐に囚われていた昔のグリムとは違う。
「……それに、アンタを殴ったら……あのガキがピーピー泣いちまうからな。」
メリンダを傷つけることで、悲しむ人間がいる。それが分かっているからこそ、グリムはメリンダを殴らなかった。
そして、メリンダはグリムのその気持ちを理解したのか、ニコッと笑った。
「……優しいのね。」
「ふん。……つーか、なんでアンタが見舞いに来んだよ?」
その時、グリムは気になっていた疑問をメリンダにぶつけた。
「アンタ別にカミラを殴ってないだろ?来るんだったら、殴ったあのババァが来るべきだろ!」
グリムの言う通り、メリンダはカミラのことを殴った主犯ではない。殴ったのは愛国婦人会の別の主婦だ。ならば、その女性が謝りに来るのが筋というものだ。
「……実は、あの放送に映ってた婦人会の人達の家……襲撃されたの。」
「はっ!?」
メリンダの一言にグリムは声を上げた。
「ち、ちょっと待て!昨日の今日だぞ!?一体どこのどいつが……!?」
「……わからないわ。襲撃って言っても、朝起きて外に出たら生ゴミが家の前に捨てられてたり、急に窓ガラスを割られたり、無言電話がかかってきたり……イタズラ程度みたい。」
事情を聞いて、グリムは嫌な予感を覚えた。
恐らく、婦人会会員達の家を襲撃したのは「ブラックサレナ」のメンバーの誰かだ。メンバーの誰かが口火を切って、率先して家を襲撃した。それか「ブラックサレナ」が一般人を”サクラ”に使って襲撃したか……
いずれにしても「ブラックサレナ」が噛んでいるのは間違いない。
「アンタのとこは大丈夫だったのか?」
「ええ、私はあの映像に出てなかったから……」
「そういえばそうだな……」
メリンダの言葉で、グリムはあの時の映像を思い出した。彼女の言う通り、あの映像にメリンダは出てこなかった。被害に合ってないのはその為かもしれない。
「でも、いくらなんでも動きが早すぎる……なんでこんな……」
「決まってんだろ。」
その時、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。声が聞こえた方へ顔を向けると、そこにはガオがいた。
「それだけ国民に不満が溜まってるってことだ。」
「ガオ……!」
「そういや、この病院だったよな?カミラって女が入院してんのは。」
ガオは笑いながら、後ろ手に隠していた花束を差し出した。
「あの女に渡しといてくれよ。あの女が妊婦だったおかげで、映像に箔が付いたからなぁ。」
「あ……?」
瞬間、グリムはガオの言葉に怒りを覚えた。
「最初はただ殴られる画が欲しかったんだ。だが、あの妊婦だったおかげでドラマ性が増した。サンキューな♪」
「……っざけんな!」
《SINGLE MODE》
ガオの語りを聞いた瞬間、グリムは怒り、ポケットから取り出したカイザフォンを銃モードへと変形させた。
そして銃口を向けてすぐさま撃った。
「おっと。」
ガオはひらりと身をかわし、光線を避けた。
「下手したらお腹の子も死んでたんだぞ!?それをお礼だと……?ふざけんじゃねぇぞ!!」
グリムは怒り、叫んだ。友人の腹にいる子どもが勝手な思惑のせいで殺されるなど、許せるわけがない。
グリムはベルトを取り出し、腰に巻いた。そしてカイザフォンの「9.1.3」のボタンを押し、続けて「ENTER」のボタンを押した。
《Standing by...》
「変身っ!!」
《Complete.》
ベルトにカイザフォンを装填し、グリムは仮面ライダーカイザへと変身した。変身してすぐ、拳を強く握りしめて構えた。
「殺してやる……!!」
「そうかい……お前も仮面ライダーだったのか。なら話は早いか。」
《SET》
変身したグリムを見て、ガオはニヤリと笑い、デザイアドライバーを腰に巻いた。さらにモンスターレイズバックルを右側にセットした。
「変身!!」
《MONSTER.》
バックルの頭を叩くと、ガオは仮面ライダーダパーンへと変身。さらにスーツの上に青と黄色の鎧を身にまとった。
「昔、お前の顔を見る度に、ぶっ殺してやろうと思ってたぜ……」
「奇遇だな。俺も同じこと考えてた。」
「なら数年越しに叶えるか……お互いの夢をなぁ!!」
次の瞬間、2人は駆け出し互いに拳を繰り出した。凄まじい音と衝撃波とともに拳がぶつかり合い、それが戦いのゴングになった……
おまけ「あだ名」
ユーリ「先輩はすごく強くて……カリスマ性があった。そのカリスマ性から、後輩達から『厨二先輩』って呼ばれてたよ。」
ロイド「それ親しまれてたというより、虐められてたんじゃないのか?」
そのころ、ブラックサレナでは……
ガオ「……なぁ、リーダー。玉座にドクロつける必要あんのか?」
ウォルター「カッコい……威圧感を出すためだ。」
ガオ「……そっか。」
その瞬間、ガオはウォルターが「厨二先輩」と呼ばれていたことの意味を理解した。
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読者の皆様も、よかったらウォルターのことを親しみを込めて「厨二先輩」と呼んでください。