SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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PART.7 謀略Ⅲ:籠の中の鳥

ユーリがまだ秘密警察に入ったばかりのころ……ウォルターと初めて会ったのは訓練場だった。

 

「ぐあっ!!」

「もう一回言ってみろ、新入り。」

 

木刀片手に、ウォルターは切っ先を倒れているユーリに突きつけた。対し、ユーリは悔しそうに歯ぎしりを立てながら、突きつけられた木刀を跳ね除けながら立ち上がった。

 

「な…何度でも言います!ぼくは姉さんのために、ここにいるんだ!!」

「くだらん。」

 

ユーリが構え直した瞬間、ウォルターはまるで居合い切りのように木刀を抜き、目にも止まらぬ速さの一撃がユーリの顎に炸裂した。

 

「ぐっ……!?」

「むんっ!!」

 

顎に一撃を与えたことでユーリの頭が上がり、さらに次の瞬間、鋭い突きが喉仏に炸裂した。

喉に突きをくらったユーリは、体を浮かせて吹き飛び壁に叩きつけられた。

 

「ウ、ウォルター先輩!?流石に喉はやりすぎですよ!!」

「これぐらいで死ぬくらいなら、死なせてやった方がこいつのためだ。」

 

やりすぎだと感じた同僚のクロエが止めに入ったが、ウォルターはそれを押しのけた。

 

「クロエ……アイツを捨ててこい。」

「ま……待て……!!」

 

その時、ユーリは立ち上がりウォルターを睨みつけ、再度木刀を構えた。

その目はギラギラと輝き、相手を絶対に倒そうという目だった。

 

「まだ……まだだ……!!」

「フッ……バカは死ななきゃ治らないか……!」

 

それからユーリは何度もウォルターに挑んだ……が、何回も返り討ちに遭い、結局一度も一撃を与えることもできなかった……

 

───────────────────

 

「……くん……ユーリくん!」

「ん……?」

 

アイネの声が聞こえ、ユーリは車の中で目を覚ました。いつの間にか寝てしまったようだ。

 

「もうすぐつくわよ。」

「すいません、アイネさんにも付き合ってもらっちゃって……ついでにフランキーも。」

「ついでってなんだよ!?」

 

ユーリはウォルターが住んでいたマンションへ向かうつもりだった。それにアイネとフランキーが同行することになった。

 

「いいのよ、気にしないで。私も気になることがあるから。」

「気になること……?」

「秘密警察の資料室から、G4の設計図と企画書……その他G4に関する書類が全部消えていたの。」

「えっ……!?」

 

ユーリは声を上げた。秘密警察の資料は簡単に持ち出すことはできない。特に外部の人間には。それがなくなっているとなれば大事だ。

その瞬間、ユーリの脳裏に嫌な推理が浮かんでしまった。

 

「アイネさん……まさか……?」

「……秘密警察に、内通者がいる可能性があるわ。」

 

考えられる可能性はそれしかない。外部の人間が秘密警察に潜入して資料を盗むことは不可能に近い。ならば必然的に内部の犯行になる。

 

「……あくまで可能性の話よ。」

 

ユーリもアイネも、その可能性は考えたくなかったが頭の片隅に残しておくことにした。

そんな話をしていた時、車がマンションの前に止まった。

ユーリ達は管理人から鍵を借り、ウォルターの部屋へと入った。

中は家具などがそのまま残されており、埃を被っていた。

 

「ウォルターって奴……結構綺麗好きだったのか?埃取り払ったら、そのまま住めそうじゃん。」

「まぁ、綺麗好きだったよ。掃除の時、チリが少しでも残ってたら刀で斬られたから……」

「ヤクザかよ。」

 

他愛のない話をしながら、3人は部屋の捜索を始めた。

しかし、ウォルターはミニマリストだったのか部屋には必要最低限の物しか置いていなかった。

 

「うーん……資料はないわね……」

「でもまぁ、自分の家に残すわけもないか……あっ!」

 

その時、ベッドを調べていたユーリは声を上げた。

 

「どうしたの?」

「それが、ベッドの下に箱が……」

 

ユーリはその箱をベッドの下から引き抜き、中を開けた。中に入っていたのは……ビデオテープだった。

 

「ビデオテープ……?何かの映像かしら。」

「リビングにテープレコーダーが置いてありましたし、それで見てみましょう。」

 

ユーリはさっそくテープを持ってリビングに戻った。

 

「!!」

 

その時、リビングを調べていたフランキーは何故かユーリの顔を見た途端、顔面蒼白になり、手にもっていたあるものを後ろに隠した。

 

「お、おう!なんか見つかったのか?」

「……お前、今何を隠した?」

「べ、別に?」

 

フランキーは明らかに何かを隠していた。それを見たユーリは、テープをテーブルに置き、フランキーの手を掴んで無理矢理引っ張った。

 

「これは……?」

「お、おい!絶対に見るなっ!!」

 

フランキーが持っていた写真立てだった。ユーリはそれに入っていた写真を見て……息を飲んだ。一瞬、頭が真っ白になった。それもそのはず、写真に写っていたのはウォルターと……ノエルだったからだ。

 

「ノエル……さん……?」

 

自分の目で見たものが信じられなかった。目の前の写真に写っているのは間違いなくノエルだった。

 

「それ、ノエルちゃんよね……?まさか、ウォルター君の妹って……」

 

その可能性も頭をよぎった。ノエルは自分のことをあまり語らなかった。それはウォルターの妹であることを隠したかったから……?しかし、そう判断するには材料がない。

その時、フランキーが言った。

 

「な、なぁ……もしかしてだけどよ……G4の資料盗んだのって、ノエルちゃん……」

「いや、それはないと思うけど……あっ!そうよ、テープ!これに何か手がかりがあるかも……!」

 

何かの間違い……そう祈りながら、テープをテレビ近くにあるレコーダーに入れ再生を始めた。

再生映像がテレビに映される……映像はどうやら監視カメラの映像らしい。天井から部屋を映し出している。

映像には複数の男女が”行為”に及んでいた。その光景はまるで酒池肉林だった。

 

「あっ!」

 

その時、ユーリが声を上げた。声を上げると画面の下側……カメラから見て手前側を指差した。

 

「こ、この女性……!」

 

手前に写っていた女性を見て、ユーリはわなわなと震えていた。何故なら、その女性は髪型こそ違うがノエル本人だったからだ。

 

「ノエルちゃん……!?」

「じゃあこの映像は……!」

 

その時、映像の中で変化が起きた。銃声が鳴り響き、悲鳴がこだました。

 

『ひ、秘密警察の奴らが……!!がっ……!!』

 

男が慌てた様子で部屋に入った瞬間、背中が斬られ、血飛沫が飛び散った。そして男を乱雑に捨て、部屋に入ってきたのは……ウォルター。

ウォルターは右手に拳銃を、左手に刀を持ち、部屋にいる男女を次々と殺害していった。

すると……

 

『やめて……!やめてよ、お兄ちゃん!!』

 

画面の下側にいた、ノエルと思わしき女性が声を上げた。その声に気が付き、ウォルターはそちらに顔を向けた。

 

『ッ!?”メアリ”……?何故、お前がここに……!?』

 

ウォルターは自分の目を疑っているようで、手に持っていた拳銃を落とした。

 

『何故お前がテロリストのアジトにいるんだ!?……まさか、攫われてきたのか!?なら、もう大丈夫だ!もう怖くないからな……一緒に外へ……!』

 

ウォルターはメアリという女性の服がはだけているのを見て、テロリストの男達に襲われていたのだと思い、ウォルターは上着を脱いで羽織らせてやろうとした。

しかし……メアリはその手を振り払った。

 

『メアリ……?』

『私は……私の意思でここにいるの!秘密警察を叩き潰して、この世界を私達で変えるの!!』

 

メアリは大声で叫び、ウォルターを突き飛ばしてはだけた服を着直した。

 

『どうして……どうしてそんなことを……!?』

『私は……お父さんとお兄ちゃんが秘密警察のせいで、今まで散々だった!!』

『バカな……!お前、言ってただろ!?俺や親父のこと……「誇らしい」って言ってただろ!!』

 

ウォルターは首を横に振り、メアリの両肩を掴んだ揺さぶった。しかし、メアリはその手を振り払った。

その顔には怒りが現れており、まるでウォルターのことを親の仇でも見るような目で見ていた。

 

『2人が秘密警察のせいで、私には友達ができなかった!!学校のみんなに冷たい目で見られるし、やっとできた彼氏も……お父さんとお兄ちゃんが秘密警察の人間だって知った途端、私のこと捨てた!!』

『そんな……』

『お兄ちゃんは正義の味方のつもりでいるんだろうけど……結局、誰も幸せにできてない!周りの人のことも、家族のことも!!』

 

ウォルターは呆然としていた。ショックを受けているようだった。

すると、メアリはウォルターが落とした銃を拾い……なんと、ウォルターに銃口を向けた。

 

『私の幸せのために……邪魔しないで!!』

 

メアリは叫ぶと同時に引き金を引いた。しかし、銃声が響いた瞬間、ウォルターの刀がメアリの腹を貫いた。

 

『うっ……!?』

『お前……誰だ?』

 

ウォルターは瞳孔が開いた状態で静かに呟き、腹に刺した刀をさらに奥へと突き刺した。

 

『俺の妹はそんなこと言わない……!俺を否定したりしない……!返せ……っ!!俺の妹をォォォォォォォ!!』

 

叫び声とともに、刀を引き抜くと同時にメアリを殴り飛ばし、床に倒した。そして、倒れたメアリの上に馬乗りになり、顔を殴り始めた。

 

『偽物め……!!本物のメアリを返せ……!!返せっ!!』

『い、や……!やめて……!!お兄ちゃ……』

『黙れ……!!』

 

ウォルターはメアリの顔を何度も殴りつけた。映像だと分からないが、恐らく顔が変形してしまいそうなほど何発も殴っているように見える。

そしてウォルターは……首に手をかけた。

 

『死ね、偽物……!!』

『………ッ!!』

 

首を絞められ、メアリは体をバタつかせてもがいた。だが、ウォルターの力は強く振りほどけない。

そして次の瞬間、ゴキッ……という鈍い音が鳴り響き、メアリの体は動かなくなった。

映像はここで終わっていた……

 

映像を見終わり、部屋の空気は静まり返っていた。昨日のブラックサレナの放送を観た時と同じ様な空気だった。

 

「……嘘、だよな……?」

 

開口一番、フランキーが疑いの声を上げた。

映像で分かるのは、ノエルと思わしき女性は「メアリ」というらしく、ウォルターの妹のようだ。次に、昨日の放送でウォルターが言っていた、「テロに加担していた妹を殺した」という発言が本当であること。

だが、謎も残った。まず映像に記録されている日付と見つけた写真の日付を比べたところ、写真の日付は今の映像よりも一ヶ月先の日付になっていること。そして、映像で殺された「メアリ」と、ユーリのガールフレンド「ノエル」が同一人物かどうか……

 

「分からないわ……」

「ノエルさん……君は一体誰なんだ……?」

 

ユーリは写真に写る女性と、頭の中に浮かぶノエルの姿に困惑し、不安に駆られた。

 

「ぼくはどうすればいいんだよ……」

「ユーリくん……」

 

目に見えて苦悩するユーリを見て、アイネは気遣って声をかけようとした。しかし、

 

「お前が気にすることじゃない……」

 

聞き覚えのない声が背後から聞こえ、3人はすぐさま後ろを振り向いた。

そこにいたのは、ウォルター本人だった。

 

「せ、先輩……!?」

「ふん……相変わらずのマヌケ面だな、ユーリ……」

 

ウォルターは3人を押しのけ、リビングのソファの埃を軽く払って堂々と腰掛けた。

 

「どうした?俺に会いたかったんだろう?」

「え、ええ……まぁ……」

「……お前ならここに来ると思っていた。」

 

ウォルターはそう言って笑った……と同時に、どこか寂し気に見えた。

すると、アイネがウォルターに尋ねた。

 

「ウォルター君……いくつか質問させてもらえるかしら?あなた……どこでG4の資料を手に入れたの?」

「ノーコメントだ。」

「ふざけないで!!」

 

アイネは声を荒げ、ウォルターに掴みかかろうとした。しかし、すぐさまフランキーが羽交い締めにしてそれを止めた。

 

「ちょっ!?アイネ姐さん危ねえって!!」

「あなた……自分が何を作ったか分かってるの!?G4……あれは存在してはならないシステムよ!!」

「自分が開発したものに自信を持て。G4は別次元の存在……誰もG4には勝てない。そして俺はG4の軍団を作り、東西だけでなく全世界を統一する。」

 

3人は耳を疑った。「G4の軍団を作る」……とんでもないことを口走ったウォルター。確かにG4の性能は凄まじい。だが装着すれば必ず死ぬという欠点を抱えるシステム……その軍団を作ったりすれば、敵味方問わず大勢の死者を出すことになる。

 

「……俺は恐怖によって世界を支配する。何者も抵抗できないほどの、二度と戦争など起こさないほどの恐怖を与えてな……」

 

ウォルターは立ち上がり、刀を強く握りしめた。まるで今にも斬りかからんとするように。

その気迫に3人はたじろいだが、ユーリは恐れずウォルターに尋ねた。

 

「先輩……あの映像に映っていた人は……この写真の人は誰なんですか!?」

「俺の妹、メアリ・クロフォードだ。」

「嘘だ……!ぼくはこの女性によく似た人を知ってます!」

「その女は……俺の妹の偽物だ。」

 

ユーリはまたしても頭の中が真っ白になった。ノエルという女性は、ウォルターの妹、メアリの偽物……ならば、ノエルは一体何者なのか……

そんなユーリの疑問に答えることなく、ウォルターはその場から立ち去ろうとドアノブに手をかけた。すると、ウォルターはユーリに尋ねた。

 

「ユーリ、あの女とはもう”寝た”のか?」

「……っ!!ぼくと彼女はそんな関係じゃありません……!友達です……!!」

「……なら、お前に興味はない。」

 

ウォルターはそう言うとそっぽを向き、ドアを開けて部屋を出ようとした。

 

「待ってください!まだ話は終わってな……!!」

 

ユーリはウォルターにまだ話を聞こうと掴みかかった。しかし、ウォルターは後ろを振り向き、目にも止まらぬ速さで刀を抜き、峰の部分でユーリを殴り飛ばした。

 

「ぐはっ!!」

「切った張ったは面倒だ。俺は忙しい。」

「くそっ……!先輩っ!!」

 

ユーリはよろめきながら立ち上がったが、もうウォルターは部屋を出た後だった。

 

「お、追いかけるか…?」

「……追ったとしても、今の私達じゃ彼に勝てない……」

「先輩……」

 

またも空気が静まり返った。同時に、ユーリは自分に対して無力に感じていた。必要な情報を持った相手が目の前にいたのに、力づくで問いただすことができなかった。取調室だったらいくらでも実力を行使できたのに、このザマだ。

その後、3人はテープと写真を回収した。

 

「ユーリくん……ここでいいの?」

「はい……」

 

保安局へ帰る途中、ユーリは頼んで別の場所で降りた。そこはノエルが所属する新聞社の近くだった。

ユーリの手には例の写真が握られていた。

 

「……あの子を傷つけることになるわよ。」

「……わかってます……」

 

ユーリは返事をすると車から背を向けた。それを見て、フランキーは車を走らせて去っていった。

ユーリは新聞社の入口前でノエルが出てくるのを待った。そして夕方ごろ……

 

「あれ?ユーリくんだ!」

「や、やぁ……」

 

ノエルがニコッと笑っているのに対し、ユーリはぎこちなく笑った。

 

「どうしたの?珍しいね、ユーリくんがここに来るなんて……」

「……実は、ノエルさんに見てほしいものがあるんだ。これ……」

 

ユーリは例の写真をノエルに見せた。その瞬間、ノエルはハッと口を抑え、顔面蒼白になった。しかしすぐに諦めがついたようにため息をついた。

 

「……そっか、見つけたんだね。ユーリくん……」

「……教えてくれる?君が何者で……先輩とどういう関係なのか……」

 

ユーリの言葉に、ノエルはコクリと頷いた。そして二人は、近くの公園に訪れ、ベンチに隣り合って腰掛けた。

 

「……私はね、あの人に作られた人形なの。」

「人形……?」

「私のこの顔……整形なんだ。」

 

ノエルは寂し気に自分の顔に触れ、そのまま話を続けた。

 

「昔の私、戦争で親を亡くして以来”家無し”なんだ。もう写真も残ってなくて、私自身も昔の顔……全然覚えてない。」

「そうなんだ……家無しだった時に先輩と会ったの?」

 

ユーリの質問に、ノエルはコクリと頷き、さらに話を続けた。

 

「うん……あの人から『妹の代わりになれ』って言われて、整形させられたの。顔も、髪も、声も……それから1年くらい一緒に生活したの。」

「……先輩、どんな様子だった?」

「……普段は優しい人。でも、よく殴られた。『仕草がメアリと違う!』とか『言葉遣いを寄せろ!』とか言われて……ちょっとでも妹さんと違うことされると殴られた。」

「あの先輩がそんな……」

 

ユーリはあの時の映像を思い出した。ウォルターは自分の妹を殺した時、精神的におかしくなったのか、妹を偽物だと思い込んでいた。あの時のことを、ウォルター自身も悔やんでいるのかもしれない……と思った矢先、ノエルは言った。

 

「私はあの人にとって……妹さんへの”償い”と”罰”なんだって。」

「償いと……罰……?」

「うん……詳しいことは話してくれなかったけど……」

 

償いと罰……それがノエルと何の関係があるか分からなかったが、少なくともウォルター自身と妹のメアリと関係あるものだろう。

その時、ユーリは気になることを……言うべきか迷ったことをノエルにぶつけた。

 

「ノエルさん……ぼくのことは……前から知ってた?」

 

ノエルがウォルターと繋がっていたなら、ノエルはユーリのことを前々から知っていた可能性がある。もしそうなら、ノエルはユーリのことを知った上で近づいてきたということになる。

 

「うん……知ってたよ。」

 

嘘と言って欲しかった……ユーリはそう思った。

悲しいような、悔しいような……胸の奥が何やらモヤモヤするような感覚を覚えた。

すると、ノエルはユーリの前に両手を差し出した。

 

「ユーリくん……私を、逮捕して……?」

「えっ……!?」

 

ユーリは驚いて声を上げた。対し、ノエルは目に涙を浮かべ始めた。

 

「私……あの人に言われて、ユーリくんに近づいた。ユーリくんを、『懐柔しろ』って……ユーリくんなら、自分の目的を理解できるはずだからって……」

「先輩がそんなことを……?断ることはできなかったの……?」

 

ノエルは首を横に振った。

 

「断ったら、殺されちゃう……それに、私もあの人に拾われた恩を返したい……!」

「それなら……なんで『逮捕してほしい』なんて言うの……?」

 

ノエルの言っていることは矛盾している。

ウォルターに恩を返したいと思っているなら、ユーリに内情を話す必要もなければ、逮捕を願い出る必要もない。隠し通せばいいだけだ。

すると、ノエルは笑って言った。

 

「仮面ライダーと……ユーリくんのおかげだよ。」

「どういう意味……?」

「津上君も、フリッドさんも、グリムくんも……ううん、フォージャー家のみんなも、辛い現実が押し寄せても真正面から立ち向かって、それぞれ幸せを手に入れた。こんな嘘だらけの世界で、人のために自分のために戦ってる。ユーリくんも同じだよ。」

 

ノエルは笑顔で言うと、差し出した手をユーリの頰に触れた。

 

「前に、アンノウンに襲われた時のこと……覚えてる?あの時、ユーリくん言ってくれたよね?」

 

『アンタのアギトの記事……アレのおかげで、みんなはアギトを知った!みんなの心にヒーローが出来たんだ!分かるか……?ノエルさんは、ノエルさんの記事は、みんなに希望を作ったんだ!!』

 

「あっ……」

「私……すごく嬉しかった。認められたような気がしたもん。」

 

その言葉でユーリは思い出した。あの日からユーリとノエルの関係は始まった。友達のような恋人のような微妙な関係……ユーリにとってノエルは大切な存在になった。

 

「私のやってることは……みんなの幸せを邪魔してる。みんなの顔見てたら……余計にそう思っちゃう。だから……私を逮捕して?」

 

ノエルは罪を償うつもりのようだ。だが、ユーリは迷っていた。もし逮捕して秘密警察に連行すれば尋問される。いくらユーリが擁護したとしても、尋問は避けられない。痛い思いをするのは確定だった。

しかし、ノエルの覚悟を無視してもいいものか、ユーリは悩んだ。そして……ユーリは勇気を振り絞った。

 

「……まだ逮捕しない。」

 

その一言に、ノエルは困惑した。しかしユーリはノエルの手を取り、続けて言った。

 

「逮捕するのは……ブラックサレナを全員捕まえてから……いや、世界中の犯罪者どもを全ッッッ部!捕まえた……その後。」

 

ユーリは至って真剣な顔で、覚悟を決めたような顔で、ノエルの手を握りしめながら言った。

ユーリのその言葉に、ノエルはキョトンと目を丸くしていたが、すぐにニコッと笑い……目に涙を浮かばせた。

 

「あはっ……ははは……!それじゃあ……ユーリくん、ずーっと私を逮捕しないつもりだね。」

 

ノエルは泣きながら笑うと、ユーリの胸に抱きついてきた。

ユーリの胸に顔を埋め、すすり泣く。

 

「ありがとう、ユーリくん……!好きだよ……大好きだよ……!」

「……ありがとう……」

 

抱きついてくるノエルに、ユーリは抱きしめ返して頭を慰めるように撫でた。

正直、ユーリ自身まだ迷いがあった。昔世話になった先輩と戦えるのか、圧倒的強さのあの男に勝てるのか……しかし今は、彼女を助けたい……この籠に囚われた小鳥を助けたいと思った。

ヨルのために、姉のためにと思っていた男が、初めて別の女性のために何かしてあげたいと思った瞬間だった……

 

 




おまけ「Episode:Yオリキャラのモデル」

Episode:Yのオリキャラ達は他作品のキャラクターがモデルになっています。以下、その一覧になります。

ロゼッタ……アルテミス(Fateシリーズ)

ガオ・グウェイ……阿久津大夢(ロストジャッジメント)&墨田奏斗(仮面ライダーギーツ)

グイン・バーナード……江原明弘(ロストジャッジメント)

クレマチス社社長・クリス……青木遼(龍が如く7)

ノエル・アスール……井上真由子(うしおととら)

ウォルター・クロフォード……バージル(DMCシリーズ)&緑川イチロー(シン仮面ライダー)

余談ですが、ウォルターの名前にもモデルがあります。
「仮面ライダーアギト Project G4」に登場したG4の装着員、水城史郎の名前を変形させたものです。

水城史郎→「水」「史→四」→「ウォーター」「フォー」→「ウォルター」「クロフォード」→ウォルター・クロフォード

こんな感じに名前を変形させてできたのがウォルターです。

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