喫茶シオンに現れた、ブラックサレナの3人……3人はフォージャー一家には目もくれず、それぞれユーリ、フリッド、グリムを睨んでいた。
「先輩……!」
「ガオッ!てめぇ……!」
「グインさん……!」
3人も負けじと睨みつけ、その場に一触即発な空気が流れた。その空気を切り裂くように、ロイドはウォルター達に向かって呟いた。
「……お前達は何しにここに来た?」
「薄々分かってるんじゃないのか?出来損ないの妹を返してもらおう。」
「っ!」
ウォルターの一言に、ユーリは怒りを覚えたのか、ピクリと眉を動かし、より一層ウォルターを睨みつけた。
「出来損ないって……ノエルさんのこと言ってるんですか……!?この……!!」
ノエルを侮辱したウォルターに、ユーリは怒りのまま突進していった。同時に、ウォルターは左手で持った刀の鍔を親指で押し上げ、刀身をギラリと見せた。
「っ!よせ、ユーリ!」
ウォルターの動きを見て危機を察したグリムは、ユーリの服を掴んで止めた。次の瞬間、一筋の閃光が目の前に走った。
「ハァァァァ……」
ウォルターは凄まじい速さで刀を抜いたかと思うと、すぐに鞘に納めた。すると、ユーリのすぐ近くにあった店の椅子が細切れになった。
「……!!」
「無駄な血は流したくない。俺は交渉に来ただけだ。出来損ないの妹さえ返してくれれば、俺達は帰る。」
刀を納めたウォルターは、横にあった椅子に座り、足を組んだ。
「出来損ないって……そんなのひどすぎます!」
その時、ヨルがウォルターに向かって叫んだ。続けてフリッドも声を上げた。
「彼女から聞いたぞ。お前は無関係の人の顔を変えて、無理やり妹にしたんだろ!自分で妹を殺しておいて!」
「それを知ってるってことは、お前達……あの動画を見たんだろう?」
全員、言葉を飲んだ。会議に入る少し前、ロイド達はアイネが持ってきたビデオテープの映像を見ていた。ウォルターの家で見つかった、妹の裏切りと妹を殺す映像を……
「ああいうのを”おぞましい”って言うんだろうな。……あの時、俺は自分という人間が壊れる音を聞いた。それを経験した人間は、良くも悪くも大きく変わる。」
ウォルターはそう言うと、上に羽織っていたコートを脱ぎ、それをグインに突き出した。
「預かります……」
「グイン、ガオ……席を外せ。」
グインにコートを預けると、ウォルターは二人に外に出るよう促した。
二人はその命令に従い、外へ出た。
「そっちもユーリだけにしろ。サシで話をしたい。」
「条件飲むと思うのかよ。」
ウォルターの申し出に、ユーリより先にグリムが答えた。同時に、ユーリを渡す気はないとばかりに他の皆が前に出た。
「一人になってよかったのか?随分余裕じゃねぇか。」
「……お前らを叩き潰すには十分なんだよ。俺一人でな。」
その時、ウォルターは刀の持ち手を掴んだ。その瞬間、皆は身構えた。ウォルターから異常ともいえる殺意が感じ取れた。まるで体中から発せられる殺意が刀に集中させているかのようだ。
「……ぼくなら大丈夫だよ、みんな。」
「本当か?」
「うん……ぼくも先輩とサシで話したい。」
ユーリが言うと、皆はそれに答えて外へと出た。
店の中はユーリとウォルターだけになり、ユーリはウォルターの向かいに座った。
「……先輩、ノエルさんは自分のことを、死んだ妹さんに対する”償い”と”罰”だと言っていました。先輩は……なんのためにノエルさんを”作った”んですか!?」
「……お前と2人きりになるのは……いつ以来だろうな。」
「答えろよっ!!」
はぐらかそうとするウォルターに、ユーリは怒鳴り声を上げた。すると、ウォルターはフッとため息を吐いた。
「……俺はずっと、家族のために死にものぐるいで働いてきた。俺がやっていることは……家族のためになっていると。そう思っていた……なのに、妹は俺を裏切った……!」
ウォルターの声に怒気が混じっていた。だが、すぐに落ち着いた声色に戻った。
「だから、俺は”新しい妹”を作った。」
「……何故ですか?」
「死んだ妹に償いをするためだ。新しい妹を作ってから、俺はアイツにずっと謝り続けた。『すまなかった』とな。」
それが、ウォルターの妹に対する”償い”……なら、”罰”の方は……とユーリは思った。
「なら、”罰”の方は?」
「死んだ妹よりも従順で利口な妹を作ることで……死んだ妹に、メアリに味合わせてやるんだ。『お前なんかいらない』と、『これはお前への罰だ』とな。」
ウォルターの、死んだ妹メアリに対する”償い”と”罰”……それは、ノエルをメアリに見立て、謝罪し続けることが”償い”、そして、ノエルを妹そっくりにし、新しい妹を『従順で利口なかわいい妹』にすることで、メアリへの当てつけにする。
言ってしまえば、ウォルターの勝手なエゴだ。ノエルはそれに巻き込まれた。
「そんなの……勝手すぎます!そんなことにノエルさんを付き合わせないでください!」
「お前に何が分かる。俺は……気づいたんだよ。人は人を裏切る……たとえ家族でさえも。それは何故だが分かるか?人間は、粗悪品だからだ。」
その時、ウォルターはスッと立ち上がり、店のカウンターに向かった。そこで、ウォルターはカウンターに飾ってあった写真立てを手に取った。ロイド、ヨル、アーニャ、ボンドが写った家族写真……ウォルターは写真立てからその写真を取り出した。
「改良することが出来ない粗悪品だから……戦争を引き起こし、テロを起こし、犯罪を犯す。嘘だって簡単につき、家族でさえも騙す……!」
ウォルターは再び怒気が混じった声で呟くと、取り出した家族写真を……手で握りつぶし、その場に捨ててしまった。
「だから俺は、そのことを行動で示していく。俺が……この世界を洗浄する。俺がこの世界最後の人間となってな。ユーリ……もう一度言うぞ。”妹”を返せ。あいつは俺達のことをベラベラ喋ったんだろう?”説教”しなければな……」
「ノエルさんは渡しませんよ!」
ウォルターの言葉を聞いて、ユーリは声を上げた。最初からノエルを差し出すつもりなどなかったが、ウォルターの”説教”という言葉を聞き、その意思を強くさせた。
「……好きにしろ。」
拍子抜けな返答だった。ウォルターのことだから、てっきり刀で斬りかかるのとかと踏んでいたユーリ。
それとは逆に、ウォルターはあっさりと引こうとしている。
「ま、待ってください!まだ話は……!」
ユーリが引き留めようとしたその時、銃声が響き、ユーリの足元を銃弾が貫いた。
「うっ……!」
「そんなにいきり立つなよ。」
そこに現れたのは、最近出会ったばかりの…あの男。
「お前……!」
「遅かったな、浮世 英寿。」
仮面ライダーギーツこと、浮世 英寿だった。
「エース……!なんでお前が……!?」
「悪いな、俺はこっちにつくことになった。」
そう言って、英寿は悪びれもなく笑っていた。そんな英寿を見て、ユーリはギリギリと拳を握った。
「裏切ったのか……!!ぼく達を……!!」
「言わなかったか?狐は嘘つきだってな♪」
英寿は片手で狐を作って笑ってみせた。その人を舐めたような態度を見て、ユーリはさらに怒りを募らせた。
「ふざけるなぁっ!!」
ユーリは怒鳴り声を上げながら、拳を握って殴りかかった。しかし、次の瞬間ウォルターは刀を引き抜き、切っ先をユーリに向けた。
「うっ……!?」
「無駄はよせ。今のお前達に……勝ち目があると思うのか?」
今の戦力で有利なのは、間違いなくブラックサレナの方だ。今ここで暴れても、勝ち目はない。
それが分かっているユーリは、その場でたじろいだ。対し、ウォルターは刀を鞘に納めた。
「さらば……ユーリ・ブライア。」
捨て台詞とともに、ウォルターは店から出ていった。
それからすぐ、外に出た皆が戻ってきた。
「おい!大丈夫だったか!?」
「さっき、エース君が店に入ったように見えたが……」
「あいつ……裏切って向こうについたんですよ!」
ユーリから英寿がブラックサレナについたことを聞き、皆は一様に驚いていた。すると、ロイドはうーんと唸り声を上げた。
「……変だな……」
「何が?」
「『WISE』にネオプラーナのサンプルを送ってきたのは、エースの可能性が高いんだ。宛名に、”嘘つきな狐さん”とあったからな。」
自分のことを”嘘つきな狐”と呼ぶような人間は、英寿以外にはまずいない。英寿のおかげで、ネオプラーナのサンプルは推理をする上で重要な資料となった。
それなのに何故、敵側に寝返ったのか……
「ユーリくん……」
その時、後ろから声が聞こえた。後ろを振り向くと、そこにはノエルと、地下にいたメンバーの姿があった。
「やっぱり……お兄ちゃんが……?」
「うん……でも、もう大丈夫だからね。」
不安そうにするノエルを安心させようと、ユーリは手をとって優しく握った。
すると、フリッドが口を開いた。
「あいつら、今日は退いて行ったが……今度は本気で来るかもな。ノエルさんを殺すために。」
「えっ、どうしてですか?」
フリッドの突然の一言に、ヨルは声を上げた。
「考えてみてほしい。ノエルさんは俺達に協力して、ブラックサレナの情報を漏らした。向こうからすれば、それは許されない行為だ。」
「なら……ノエルさんをどこか安全なところに……」
「じゃあいいトコがあるぞ!」
その時、グリムが声を上げて提案をしてきた。
「ガーデンなら安全なはずだ!俺もカトルに狙われた時、匿ってもらったし!」
「確かに……あそこなら安全ですね!」
「ロイド、電話借りるぜ!」
グリムは店に置かれた電話を使って、ガーデンに電話を掛け始めた。
そんな中、ノエルは申し訳なさそうな顔をしていた。
「ごめんなさい……私のせいで、みんなに迷惑を……」
「だから、ノエルさんのせいじゃないよ!」
「そうだ。気にしないで。」
皆が落ち込むノエルを慰める中、グリムは声を上げた。
「あっ!?おい、こっちは人命が懸かってんだぞ!分かってんのか褐色ジジィ!!……あ、おい!!」
怒鳴り声を上げたグリムは、そのまま乱暴に受話器を戻し舌打ちを打った。
「あのクソジジィ!!」
「どうしたんだ?」
「店長の奴……『ガーデン内部を民間人に見せるわけにはいかない』とさ!」
ガーデン店長の非情な判断にグリムは怒っていた……が、それは仕方ないこととも言える。ガーデンは秘密組織……その内部を民間人に見せるのは、どんな理由があっても許されない。
「フィオナ、『WISE』でノエルさんを匿うのは……」
「無理ね。」
フリッドの意見にフィオナは首を横に振った。
「WISE」もガーデンと同様、秘密組織……断る理由も同じだ。
すると、フランキーが意見を出した。
「そうだ!ノエルちゃんを刑務所に入れるってのは!?適当な罪で逮捕して、牢屋に入れとけば、奴らも簡単には手出せないだろ!」
「それはダメ。」
フランキーからの提案をアイネは却下した。その理由は……
「現時点で誰が内通者なのかも分からない。警察の中にいる可能性もあるのよ?それで迂闊なことをしたら……獄中でノエルちゃんが殺されかねない……」
アイネの言うことはもっともだった。誰が敵で味方か分からない今、迂闊な行動は取れない。
「うーん……っ!そうだ!」
その時、何か閃いたようにロイドは声を上げ、フィオナの方を見た。
「夜帷、長官に連絡して、『WISE』が所有しているセーフハウスの手配を。」
「っ!わかりました、すぐに手配します。」
ロイドの考えに気づいたフィオナは、すぐさま行動に移った。
まだ事態が飲み込めていないのか、ノエルはロイドに尋ねた。
「あの……セーフハウスって……?」
「所謂隠れ家。作戦の拠点に使ったり、護衛対象をそこに匿ったりするんだ。」
「でも、それこそ内通者に分かりそうなモンじゃねぇか?」
グリムの疑問に、ロイドはフッと笑って答えた。
「心配ない。長官お墨付きの、誰にも見つからない場所を手配してもらう。」
「それならまぁ、安心か?」
その後、ロイドの予測通り、シルヴィアから特別なセーフハウスの手配を受ける運びとなった。
──────────────────
「来たか……待っていたぞ。」
その後、ノエルはフィオナが運転する車に乗ってセーフハウスに向かった。護衛としてユーリも一緒に乗車した。
そして、たどり着いたのは山の中にある寂れたペンション。その入り口前でシルヴィアが待っていた。
シルヴィアはドアを開け、3人を中へ案内した。
「一応、電気、ガス、水は使えるようにしてあるが……なるべく使わないようにしろ。何がきっかけで敵に見つかるか分からんからな。」
「は、はい。」
「それから……食料はここ。」
シルヴィアは説明しながら寝室の棚を開けた。そこには大量に用意された缶詰や非常食が入っていた。
「缶詰と非常食用のパン、それから味は期待できないが軍用レーションもある。」
「はい。」
「毛布も大量に用意しておいた。寒さはこれで凌げ。」
シルヴィアは床に山積みされた毛布を指差した。それにユーリはコクリと頷いて答えた。
すると、そこにユーリがノエルの元に近づいた。
「ノエルさん……本当に一人で大丈夫?やっぱり、護衛とかつけた方が……!」
ユーリは一度、セーフハウスに何人か護衛をつけようとノエルに提案した。しかし……
「ううん、大丈夫。それに護衛つけたら、『私はここにいます』って言ってるようなもんでしょ?」
「でも……!」
次の瞬間、ノエルは背伸びをしてユーリの後頭部に手を回し、ギュッと抱きしめた。
「っ!?」
「んもう……大丈夫だから。ユーリくんは自分がやるべきことをやって、ね?」
「う、うん……」
突然抱きしめられ、ユーリは恥ずかしさと困惑で赤面しながら返事を返した。
そこに、フィオナが部屋に入ってきた。
「そろそろ行くわよ。いつまでもイチャイチャしない。」
「し、してないし!!」
フィオナの言葉で、ユーリは慌ててノエルから離れた。すると、ノエルは去ろうとするユーリの手を握ってきた。
「丿、ノエルさん……?」
「……あのね、言っておきたいことがあるの。私……ユーリくんと会えてよかった。」
ノエルはそう言ってニコッと笑うと、今度はユーリの両手を握った。
「ユーリくんが仮面ライダーと引き合わせてくれたおかげで、私は新聞記者を続けられたし……津上君や、他の皆とも会えた。そこからは毎日が楽しかったよ!楽しい思い出を作ってくれたのは……ユーリくんのおかげ。」
「ノエルさん……」
ニコニコ笑うノエルに釣られて、ユーリも笑い、手を握り返した。
「これからも……いっぱい思い出作ろうよ。ノエルさんが望むなら、いくらでも休み作るし、遊園地とか動物園とか、行きたいとこ全部連れてってあげるよ!」
「ユーリくん……!」
ユーリの言葉を聞いて、ノエルの目が潤んだ。しかし、ノエルは決して泣くまいと、一度ギュッと強く瞬きをし、もう一度笑顔を見せた。
「ユーリくん、私……ユーリくんのこと『大好き』って言ったの、嘘じゃないから。」
「……ぼ、ぼくも……ノエルさんが……その……」
ユーリもノエルに向かって「大好きだよ」と言おうと思った。しかし、口ごもって言えずにいた。
別に変な意味があるわけではない。「友達として好きだよ」という意味で言うだけだ。何も難しいことはない……それなのに言えなかった。
「ご、ごめん!次会った時に言うから……」
顔を真っ赤にしたユーリはそのまま逃げるように退散した。すると、別れ際ノエルは笑って言った。
「ユーリくん……
「あ、うん…またね!」
ユーリはノエルの「バイバイ」という別れの挨拶に、一瞬違和感を覚えた。しかし、その後は特に気にすることなく、ユーリはセーフハウスを後にしたのだった。
───────────────────
翌日の朝……
「よし、忘れ物はない……と。」
仕事着に着替えたユーリはノエルに渡す差し入れを用意していた。出勤前にノエルのセーフハウスに立ち寄るつもりなのだ。
差し入れの中身は小説が2、3本、ラジオ、クッキーなどのお菓子。ユーリはそれを紙袋に入れ、いざ出発……しようとした矢先、足が止まった。
(……ノエルさんに会ったら、昨日言えなかったこと……言えるかな……)
昨日、ノエルに対して言えなかった一言……「大好き」の一言。
別にやましい気持ちなどない。友達として言うだけ、社交辞令のようなもの……それなのに勇気が出せない。
ユーリは試しにと、誰もいないこの場で言ってみた。
「ノエルさん……だ、だ、だいしゅき……だぁぁぁぁぁぁぁっ!!こんなんじゃダメだぁぁぁ!!絶対に変に思われる!!」
一人の状況でも満足に言えなかったユーリは頭を抱えて叫んだ。
「もういい!言わない!!言わなきゃいい話!!」
ユーリはその一言を言うことを諦め、いそいそと家を出た。
マンションの入口を出ると、見知らぬ車がクラクションを鳴らしてきた。同時に窓が開き、そこから顔を出したのはアイネだった。
「アイネさん?」
「おはよう、ユーリくん。」
車には助手席にアイネが、運転席にフランキーが乗っていた。
「ノエルちゃんのとこに行くんでしょ?私達も顔見に行こうと思って。」
「ほら、乗りな。」
ユーリは言われるまま車に乗り込み、フランキーは車を走らせた。
「ユーリくん、ちょっと変わったわね。」
「えっ?」
セーフハウスに向かう途中、笑いながら言うアイネの一言にユーリは首を傾げた。
続けて、フランキーも笑いながら言った。
「本当だよな。ちょっと前まで『姉さん姉さん』だったのに……ノエルちゃんに惚れちゃったかぁ!?ぎゃははははっ!!」
「このまま絞め殺してやろうか?」
フランキーの言い方に腹を立てたユーリは、運転席に座るフランキーの首に手をかけようとした。
「お前もろとも死ぬわ!!冗談だっつの!」
「ったく……でも、初めてなんです。姉さん以外の誰かのために、力になりたいと思ったんです。なんでかは分かりませんけど……」
「何言ってんの!」
その時、アイネは大声を上げた。
「男なんてのはね、好きか好きじゃないかで判断すればそれでいいの!」
「い、いやアイネ姐さん、それはちょっと……」
「でも、そう思ったんなら……その気持ちは大事にしなさい。」
「……はい!」
ユーリは力強く返事をした。
その後、しばらくして3人はセーフハウスにたどり着いた。3人はそれぞれ差し入れを持って玄関前に立ち、ユーリはその玄関ドアをノックした。
「ノエルさーん!」
ノックして声を上げた。しかし、ノエルの返事はなかった。
寝ているのかと思い、もう一度ノックした。今度は強めにドアを叩いた。
「ノエルさーん!?」
さっきよりも大きな声でノエルの名を呼んだが、それでも返事はない。3人は顔を見合わせた。
ユーリはドアノブに手をかけ、ゆっくり回した。
「開いてる……」
ドアには鍵がかかっておらず、ギィッ……と音を立てて開いた。
嫌な予感が胸にこみ上げてくる。ドアを全部開くと、目の前の床には泥に濡れた、男物の靴と思われる足跡が存在していた。
「っ!!」
嫌な予感がさらにこみ上げたユーリは、差し入れが入った紙袋を放り投げ、咄嗟に駆け出した。
(ノエルさん……!ノエルさん……!!)
向かったのは昨日案内され、最後にノエルの顔を見た寝室……
寝室にたどり着いたユーリは、勢いよくそのドアを開けた。
「………!!」
その瞬間、ユーリは自分の目を疑い……その場に膝をついた。
「おい……嘘だろ……ノエルちゃん……!!」
「そんな……!!」
遅れてきたアイネとフランキーも自分の目を疑い、声を上げた……
3人の目の前には、胸を刺され、大量の血を流して倒れるノエルの姿があった……
「うっ……ううううっ……!ぐぅぅぅぅ……!!うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
部屋中に悲しみと怒りが混じった雄叫びがこだました。
言いたかったことを伝えることが出来ず、眼の前で血だらけになって倒れる大事な人に何も出来なかった自分を恨めしく思った。
しかし、幸か不幸か……この事件が、ブラックサレナを倒すための大きなきっかけとなっていくことを……この時、誰も知らなかった。
おまけ「フェチズム」
「あ、あの、フリッドさん……ちょっといいですか?」
「おや、なんだい?」
ユーリはあることを相談するため、フリッドに声をかけた。何故かユーリは頰を赤く染め、不自然に咳払いをしていた。
「あの……ドン引きしないでくださいね?ゴホンッ、ゴホンッ……えーっと、フェチって分かります?」
「知ってるよ。特定の行為とか、女性のとある部分が好きな人のことだろ?」
「は、はい……その、”チラリズム”って分かります?女の子の大事なところが……えっと、チラリと見えちゃうことなんですけど……」
顔を真っ赤にして語るユーリを見て、フリッドはおおよその内容を察しながらウンウンと頷いた。
「前にも言ったんですけど、ノエルさん……ワンサイズ上の服を着る方が動きやすいみたいで……で、そのせいで……あの…」
「おっぱいとか見えちゃう?」
「ぐっ……!!そ、そうですよ!それで、指摘すると……ノエルさん、困り顔で顔赤くして、僕に言うんですよ……『んもう…ユーリくんのエッチ♡』なんて言われちゃって……その瞬間、ぼく鼻血吹き出して倒れたらしくて……」
思い出して恥ずかしくなったのか、ユーリは顔を真っ赤にしたままその場でうずくまった。それを励ますように、フリッドは優しく肩を叩いた。
「落ち込まない落ち込まない!男は誰だってそういうことはある。俺にもあるんだ……いつだったかな……家の中で、フィオナが任務の資料読んでる時、ちょっとイタズラしちゃおうと思って、指で背筋をスーッてなぞったんだよ。そしたら……普段だったら絶対出さないような、クッッッッソかわいい声を出したんだよ!!そしてその後、俺に向かってなんて言ったと思う!?『……スケベ』って言ったんだよ!!可愛くないか!?」
「は、はぁ……」
途中から早口になり、興奮気味に話してくるフリッドに、ユーリは引いていた。それに構わず、フリッドは語り続けた。
「不意打ちを食らって悔しそうに俺を睨みながらの、あの一声……!きっと内心パニックになってあんな言葉しか思い浮かばなかったんだろうなって考えると……あぁぁぁぁぁぁぁっ!!フィオナかわいいよフィオナァァァッ!!」
「……まさか僕の方がドン引きするとは思いませんでしたよ。」
ユーリはこの後、このことをフィオナ本人に密告したという。その後、フリッドがどんな目に遭ったかは……読者のご想像にお任せしよう。
──────────────────
シリアスになった時は、下ネタまじりのギャグが一番いい……銀魂で教わった。