SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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PART.11 螺旋Ⅰ:復讐と思惑

ノエルは病院に運ばれた。運の良いことに、まだ息があったのだ。最寄りの病院に運ばれたノエルは、すぐに手術室に運ばれた。

 

「……なぁ、姐さん。俺は……さっき見たものが未だに信じらんねぇ。」

「それは私も……」

 

手術室前にある椅子にフランキーとアイネは座りながら話していた。その隣にはユーリがガクリと項垂れていた。

 

「ユーリ!」

 

そこにユーリを呼ぶ声が聞こえてきた。振り向くと、そこにはロイド達の姿があった。

アイネから電話をもらい、仕事をほっぽり出して駆けつけてきたのだ。

 

「ノエルさんの容態は……!?」

「まだ手術中……」

 

その時、手術室のランプがフッと消えた。そして部屋の中から手術医が出てきた。

 

「先生、ノエルさんは……?」

「手術は成功しました。胸を刺されたようですが、刃物は動脈を傷つけず、背中から抜けていました。もし動脈に少しでも傷がついていたら、手術する前に亡くなっていたでしょう。」

 

九死に一生を得たノエル。医師の説明を聞き、ホッと胸を撫で下ろしたロイド達。しかし、医師の話は続いていた。

 

「ただ……出血が多いせいで、まだ意識が……」

「……出血性ショック、ですか?」

 

ロイドの一言に、医師はコクリと頷いた。

出血性ショックとは、出血により体から大量の血液が失われることで、臓器障害が引き起こされる状態のことを言う。

症状は人それぞれだが、ノエルの場合は昏睡状態のようだ。

 

「後は、御本人の生命力に賭けるしか……」

「そうですか……」

 

一通り説明を終え、医師はペコリと一礼してその場を去った。その場に沈黙が訪れたが、その口火を切ったのはグリムだった。

 

「……なんでアイツがこんな目に遭わなきゃならねぇ?……俺、アイツとはあんまり話したことねぇけど、少なくとも殺されてもいいような人間じゃなかった!」

「そうだな……」

 

グリムの一言に賛同するように、フリッドが続けて口を開く。

 

「奴らは自分達は正義だと思ってるんだろうが……冗談じゃない。こんな正義があってたまるか!」

 

さらに、フリッドの言葉にロイドとヨルがウンと力強く頷いた。

 

「そうです……ノエルさんの仇を私達で取りましょう!」

「そうですね、今度はこっちが反撃する番だ……!」

 

皆、ブラックサレナへの反撃を、ノエルの仇討ちをするための意思を固めた。そんな中、ユーリはフラフラと立ち上がり、意思を固める皆を無視してその場を去っていった。

 

「あっ……ユーリ!」

「ヨルさん。」

 

後を追おうとするヨルの肩を、ロイドは優しく掴み、首を横に振った。

 

「今は……そっとしてあげましょう。」

「でも……」

「ロイド君の言う通りですよ、ヨルさん。男には、一人になりたい時があるんです。」

 

フリッドは説得するようにヨルにそう言った。ヨルは納得できなかったが、渋々その意見に従い……ユーリの背を見送った。

その後、外へ出たユーリは目の前に人影があることに気づいた。

 

「あんた……」

「ユーリ・ブライア、お前に見せたいものがある。」

 

目の前にいたのはシルヴィアだった。その手に握られていたのは鞄だった。ユーリはその鞄に見覚えがあった。

 

「その鞄……!ノエルさんの……!」

「そうだ。彼女の鞄だ。……この中に、盗聴器が仕掛けられていた。」

「えっ……!?」

 

シルヴィアの一言にユーリは目を見開いた。シルヴィアは続けて言った。

 

「恐らくブラックサレナの連中が仕掛けたんだろう。それから……鞄の中にこんな物が……」

 

シルヴィアはその鞄の中から一枚の紙が入っていた。それは手紙のようだった。

 

「お前に宛てた手紙だ。彼女が書いたものだ。」

「僕に……?」

 

シルヴィアからその手紙を受け取り、それを読み始めた。

 

『ユーリくん、君がこの手紙を読んでいる時、私はきっと』

 

しかし、その途中で読むのをやめてしまった。それは手紙の内容にあった。

 

(これ……遺書じゃん……!!)

 

最初の一文だけでも、遺書だと分かってしまう内容だった。同時にユーリは、昨日ノエルが別れ際に言った一言を思い出した。

 

『バイバイ!』

 

あの時、ノエルは「またね」ではなく「バイバイ」と言っていた。ユーリはそのことに一瞬違和感を覚えていたが、結局気にすることはなかった。

 

(まさか……ノエルさん、盗聴器に気づいてて……自分が殺されるって分かってたんじゃ……)

 

ユーリは思った。ノエルは全てが分かった上で、殺されると分かった上であんなことを言ったのではないかと。

 

「どうして……!!どうしてだ……!!」

 

頭の中がこんがらがり、何もかも分からなくなりそうになった。ユーリは混乱し、シルヴィアをその場に残して逃げるように去ってしまった……

 

─────────────────

 

「どうしたんですか?先輩。こんなところまで連れてきて……」

 

ミリーは職場から少し離れたところで、ある人物に呼ばれていた。その人物は、ヨルだった。

ヨルは病院を出た後、以前働いていた市役所へ趣き、ミリーを呼び出した。

その理由は、ミリーに対する疑惑を明らかにするためだ。

 

「ミリーさん……聞きたいことがあるんです。あの日、チャリティーバザーがあった日……カミラさんが殴られましたよね?」

「はい!ヒドいババアどもですよね!カミラ、妊娠してたのに!」

 

プンプンとばかりに怒りを見せるミリーに、ヨルは訝しげな目をしながら、続けて言った。

 

「その時……ミリーさん、青い顔してたって聞きました。」

「……そりゃあ、同僚のお腹に子どもがいたらビックリしますよ。」

「そんな顔してなかったって聞きました。『とんでもないことをした』って顔です。」

 

自分の方を訝しげに見るヨルに、ミリーはため息を吐いた。

 

「……先輩、何が言いたいんですか?」

「グリムくんが聞いたそうです。ミリーさんが、カミラさんが足を引っ掛けるように工具箱を置いたって……」

 

その時、ミリーはそっぽを向いた。まるで、聞きたくないことを聞いてしまったかのような……そして、ミリーは背を向けた。しかし、その目の前に……

 

「待てよ。」

 

グリムが現れ、立ちはだかった。

 

「俺達は信じたくねぇんだ。アンタが、知らなかったとはいえ……カミラの腹の子を殺そうとしちまったなんてよ……」

「……なんのことか分かんない。」

 

プイッとまたもそっぽを向くミリー。その反応に、2人はますます疑いを向けてしまう。

その時、唇を噛み締めていたヨルは、意を決して言った。

 

「ミリーさん……自分が潔白なら証明してください!お父さんの名に誓って!!」

「!!」

 

ミリーは目を見開いた。

2人はこう思った。ミリーは、大好きな父親にも嘘をつけるのか、と。もしこれで「知らない」といえば、諦めがついた。

しかし……

 

「……いつか、こんな日が来るんじゃないかと思ってた。」

 

ミリーの口調が、暗く低いものに変わった。かと思いきや、懐から拳銃を抜き、グリムの方に銃口を向けた。

 

「ミリーさん、そんな……!」

「マジかよ……!」

 

ヨルは信じられないものを見たような目をし、両手を口で抑えた。グリムも「嘘だ」と言わんばかりに首を横に振った。

 

「お願いです、先輩……!私の、私達の邪魔をしないでください!!」

 

ミリーの手は震えていた。ミリー自身も二人に銃を向けたくなかったのだろう。

それを見たグリムは、ミリーに問いかけた。

 

「……撃てんのかよ、アンタに。」

「う……撃てるわよ!でなきゃ、この世界を変えられない!」

「世界を変える……?その手始めが妊婦を転ばせることかよ!?」

 

グリムは叫び、ミリーに近づこうとした。しかし次の瞬間、ミリーはグリムの足元を撃ち抜いた。

 

「カミラのお腹に赤ちゃんがいるなんて思わなかった……!でも、仕方ないじゃない!この先、復讐を果たすためには犠牲なんて考える暇なんてない……!だったらやるしかないじゃない!!」

 

震える手で拳銃を握り、ミリーは叫んだ。そんなミリーに、ヨルは歩みながらフッと呟いた。

 

「そんなの……カミラさんには関係ないです。」

「!!」

 

近づいてくるヨルに、銃口をそちらに向ける。しかし、今度はグリムの方が歩み寄ってくる。

気づいたミリーは、今度はグリムの方に銃口を向けた。

 

「復讐したいって気持ちは分かる。……分かっちまう。でも、その復讐心を放っておいて、そのまま突っ走ったら……また大切なものを失う。俺がそうだ。そのせいで……俺は家族を失った。」

 

その時、ミリーは目を丸くし銃口を下におろした。

そして、グリムはおろされた銃をギュッと掴み、ミリーに語りかけた。

 

「これは俺の勝手な思い込みかもしれないけど……カミラ、俺の死んだ母ちゃんに似てんだ。怒った顔なんか特にな……」

 

頭の中にカミラの怒る顔が浮かび、グリムはフッと笑った。しかし、すぐに真面目な顔つきに戻り、再度語りかける。

 

「あいつが妊娠したって聞いた時……思ったんだよ。俺の母ちゃんが掴めなかった幸せを、カミラが受け継いでくれたんだって。俺の勝手な思い込みだけどさ。」

 

グリムの銃を握る手の力が強くなった。同時に、グリムはなんとも悲しそうな顔をしていた。

 

「カミラは幸せになろうとしてる。でも、アンタがやろうとしていることは……それを踏みにじるのと同じだ。」

「私……そんなつもりは……!」

「頼む……!アイツの幸せを奪わないでくれ……!」

 

グリムは力強く懇願し、銃を握りしめた。すると、ミリーの目から涙がこぼれた。

 

「ミリーさん……こんなことしても、誰も喜びません。天国にいるお父さんだって……悲しみます!」

「ううっ……!」

 

そして、ミリーはゆっくりとその場に跪き、泣きじゃくった。

すると、ヨルも涙を流し、その場で泣きじゃくるミリーを優しく抱きしめた。ミリーもそれにすがってひたすら泣いた。

グリムはというと、ミリーが手放した拳銃を懐にしまい、空を見上げた。

 

(ブラックサレナ……!!)

 

ブラックサレナへの怒りを滲ませ、拳を力強く握りしめたグリムだった……

 

────────────────────

 

「フリッド、君が遅刻とは珍しいな。」

「すいません……!」

 

フリッドの方では、学校を遅刻したことをヘンダーソンに謝罪していた。

フリッドは教師であるにも関わらず遅刻し、教頭であるヘンダーソンに授業の代理をさせてしまったのだ。

 

「俺の友人が、刺されたんです。ブラックサレナに……」

「そうだったか……」

 

フリッドから事情を聞いたヘンダーソンはフッとため息をつき、窓の外を見た。

窓の外には、生徒達がいた。遊具で遊ぶ生徒、談笑する生徒……和気藹々とする生徒達を見て、ヘンダーソンは微笑んだ。

 

「子どもはかわいいものだ……国の宝だ。」

「仰る通りです。」

 

フリッドも窓の外にいる生徒達を見て、同じく微笑んだ。しかし、ヘンダーソンは途端に沈んだ表情を浮かべた。

 

「アンノウン、ショッカー、神化教団……そしてブラックサレナ……この国では様々なことが起き過ぎている……」

「我慢の限界、ですか……?」

「うむ……だが、一番我慢ならんのは……若い世代の人間が犠牲になることだ。」

 

ヘンダーソンは静かに呟くと、深いため息を吐いた。

すると、フリッドはヘンダーソンに向かって呟いた。

 

「大丈夫……俺が、俺達仮面ライダーがいます。ブラックサレナは俺が必ず止めてみせます……!」

「うむっ……!頼んだぞ、フリッド……!」

 

頼もしく言い放つフリッドに、ヘンダーソンはコクリと頷いて肩を叩いた。

その後、フリッドは何事もなく教師としての仕事を全うしていった。そして放課後……

 

「よし、そろそろ帰るか……」

 

帰り支度をしていたフリッドは忘れ物をしてないか確認を終え、帰ろうとしていた…が、その時職員室の電話が鳴り響いた。

フリッドは受話器を手にとって電話に出た。

 

「もしもし?」

『守衛です。あの、フリッド先生にお客さんが来ています。』

「客?誰かな?」

 

こんな時間に……?と思いながら、フリッドは首を傾げた。すると守衛はモゴモゴしながら答え始めた。

 

『それが……先生の昔の知り合いらしくて……』

「知り合い……?まぁ、とりあえず通してくれないか?何かあったら追い出すからさ。」

『分かりました。』

 

それから数分後、守衛の案内により、その客人がフリッドの元にやってきた。

 

「……どなたでしょうか?」

 

目の前に現れた男は見知らぬ男だった。少なくともフリッドは会った覚えはない。すると……男は自分の顔を掴むと、そのまま力強く引っ張った。その顔はマスクになっており、顔が剥がれて本来の顔が露わになった。

 

「っ!!あなたは……!?」

 

その下に現れた顔は、ブラックサレナの一員……グイン・バーナードだった……

 

「どうも……フリッドさん。」

「一体何をしに……!?」

「あなたに、ブラックサレナに入ってもらおうと思いましてね……」

 

────────────────────

 

そのころ、娼館「ベロニカ」では……

 

「ロゼッタちゃん、今日も良かったよ〜♪」

「はーい♪また来てくださいねー♪」

 

ロゼッタは娼婦としての仕事に勤しんでいた。ロゼッタは客に愛想良く笑顔を振りまいて別れた。

客が部屋を出た後、ロゼッタは部屋の中の掃除を始めた。

 

(今日もお仕事終わったらダーリンのとこ行こうっと♡)

 

ロゼッタは心の中でウキウキしながら、鞄からハンカチを取り出した。それは以前にもグリムの前に見せた、グリムのハンカチだった。

 

「スーッ……ハーッ……」

(はぁぁんっ♡ダーリンのニオイ……♡普通のオスとは違ってケモノみたいな強い香り……♡癖になっちゃう♡)

 

鼻にハンカチを押しつけ、ハンカチに残っているグリムの残り香を嗅ぐロゼッタ。その顔は人には見せられないほど恍惚としていた。

その時、ドアをノックする声が聞こえてきた。

 

「ロゼッタちゃーん!次のお客様入るよー!」

「は、はーい!」

 

店の者からの一声に、ロゼッタは慌ててハンカチをしまい準備をした。

 

「どうぞ!」

 

ロゼッタのその一声に、ドアが開かれた。

 

「こんにちは~♪今日はご指名ありがとう、ござい……」

 

その時、ロゼッタの言葉は止まった。それもそのはず、現れたのは普通の客ではなかったからだ。

 

「よぉ、ロゼッタちゃん♪」

 

現れたのは、グリムの昔馴染みでブラックサレナのメンバー、ガオ・グウェイだった……

 

「あ、あんたなんで……むぐっ!?」

「あんまり騒ぐなよぉ……」

 

ガオは大声を出そうとするロゼッタの口を塞いできた。

 

「お前の”ダーリン”にひと泡吹かせてやりたくてなぁ……協力頼むわ。」

「むーっ!むぐーっ!!」

 

ロゼッタは抵抗しようとするが、ガオの力が強く、振りほどくことができなかった。すると、ガオはニヤニヤ笑いながらロゼッタの体を見つめた。

 

「へへっ……いいねぇ……男好みの体してらぁ……」

 

ガオはそう言うと、ロゼッタの身体に指を這わせ始めた。ガオに触られた瞬間、ロゼッタは全身に鳥肌が立つのを感じた。

 

「んーっ!んーっ!!」

 

娼婦という仕事柄、男に身体を触られるのは日常茶飯事だが、ロゼッタは明らかに「この男に触られるのは嫌だ」と感じ、身体をくねらせた。

しかし、そんなロゼッタを見て、ガオは嗜虐心を感じていた。

 

「……グリムの野郎にひと泡吹かせる前に、楽しませてもらうかぁ♪」

 

ガオは舌なめずりしながら、ロゼッタの服に手をかけた……

 

 

 




おまけ「母性」

「オッス、見舞いに来たぞー!」
「あら、ありがとね。」

その日、グリムはカミラの見舞いに病院に来ていた。林檎が入ったカゴを窓際に置いた。ふと、グリムはその林檎を見つめた。

「なぁ、一個食っていい?」
「どうぞ。」

カミラから許可をもらい、グリムは林檎を食べようとした。すると、カミラは声を上げた。

「あっ、待って!せっかくだから切ってあげる。ウサギの形に、して。」
「ウサギ?なんだそれ?」
「なによ、知らないの?まあ、見てなさい。」

カミラはグリムが手に取った林檎を取り上げると、果物ナイフで皮を剥き、あっという間にウサギの形に林檎を切り分けた。

「すっげ!本当にウサギだ!」

グリムは目を子どものように輝かせた。荒んだ幼少期を過ごしたグリムにとって、ウサギの林檎は初めて見るものだった。
そして、グリムはカミラの方を見て笑顔を浮かべた。

「ありがとな、カミラ!」

その瞬間、カミラは胸が「キュンッ」となる感覚を覚えた。

(っ!?)

カミラはその感覚に驚き、声を上げそうになったが、必死に抑えた。その後、カミラはそのことをヨルに伝えた。

「……妊娠したせいですかね……最近グリムのこと『かわいい』って思うようになっちゃって……」
「カミラさん、それが母性ですっ!!」

初めて感じた母性に、カミラは困惑した。その後、グリムが見舞いに来る度にキュンキュンッと母性を感じることになったカミラだった……

(こ、こいつを「かわいい」って思うの……なんかイヤだ……!!)

──────────────────

グリムって女性的にはどう思うのかな……「かわいい」って思うんだろうか……書いててちょっと不安。

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