SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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注意:今回、かなり暗い話かつ残酷な展開となっています。


PART.17 蝸旋Ⅶ:青が赤い闇に染まるまで

クロフォード家に生まれた男は、将来は軍や保安局に就職し、国を守ることに殉ずることを定められていた。

俺も、それが自分の使命だと思った。父は言っていた。

 

「ウォルター、正義を貫き通せ。クロフォード家の男は皆そうしてきた。だからウォルター……正義のために生きろ!」

 

俺はその言葉を守るために生きてきた。

小学生の頃、イジメの現場を目撃した際には教師にそれを報告したし、報復に来たイジメっ子を返り討ちにした。

中学の時は、俺の態度がナマイキだと、上級生達が俺をシメようとした。だがそれも返り討ちにした。二度と俺をシメようなんて思えないように、腕を折ってやった。

高校と大学生時代、チャチな悪さばかりを繰り返すチンピラを半殺しにしてやった。中には半身不随になった奴もいた。

俺のそうした行動に、教師や近隣住民から注意された。だが……俺は間違ったことはしていないと思った。父がそう言ったのだから。

 

「よくやったな、ウォルター!お前がしたことは正しい!何も恥じることはない!」

 

そう、俺は正しいことをした。正義のために行動したのだ。

 

その後大人になった俺は、保安局秘密警察に所属することになった。秘密警察は天職だと思った。

秘密警察なら、俺が望む正義を実行できる。叶えられると思い、思う存分やることをやった。

 

「おい、貴様!貴様は何のために秘密警察に入った!?」

「はい!ぼくは自分の姉さんのために秘密警察に入りました!」

 

しばらくして、ユーリ・ブライアという男が秘密警察に入った。

……ナマイキな男だった。まず、秘密警察に入った理由が「姉のため」だと公言していることだ。

……そんなことはわざわざ言う必要はない。胸の内に秘めていればいい。それをこの男は、口を開けば「姉さん!姉さん!」……それがかえって姉を危険に晒す可能性があることに気づかない間抜けだ。

 

「あっ、何するんですか!?」

「お前にこの帽子は似合わない。」

 

俺はユーリから秘密警察の隊員が被る帽子を取り上げ、それをゴミ箱に捨てた。

 

「秘密警察の帽子は、真に正義を遂行する者が被るべきものだ。貴様のようなシスコンバカが被っていいシロモノじゃない。」

「なんだと……!?」

 

俺はそう言ってユーリの前から去った。これだけ言えば、奴も理解できたと思ったが……奴は事あるごとに俺に噛みついてきた。

 

「一回死ななきゃ分からんのか!この阿呆が!!」

「な…何度言われたって……先輩の言ってることなんて分かりません!!」

 

俺は稽古、特訓と称して、ユーリを何度もボコボコに叩きのめした。だが、奴は何度も何度も立ち上がってきた。

ユーリのタフネスは異常だった。何度倒して立ち上がり、俺に噛みついてくる……こんなしつこい男は初めてだ。

 

それからの俺は、しつこいユーリにウンザリしながらも、秘密警察の一員として正義を遂行し続けた。

だがある日……あの日、全てが変わった。

 

「あそこか……」

 

俺はとあるテロリスト集団を弾圧及び抹殺するため、廃墟になった洋館に単身やって来ていた。

入口の見張りは2人……正面から行けば問題ない。

 

「お前、何者……!?」

「ハッ!」

 

目にも止まらぬ速さで刀を抜き、2人の見張りの首を切り飛ばした。所詮素人同然のチンピラ……殺すのは造作もない。

見張りを殺し、俺は洋館の中に乗り込んだ。

 

「な、なんだお前……!?ぐあっ!!」

「秘密警察のガサ入れか!?」

「死ね、クズ共が……」

 

俺は次々と目の前の敵を斬り殺していった。無論、敵も反抗して銃を撃ってくるが……俺に銃など通じない。刀で銃弾を弾き、懐に入り込んで切り裂く。

そうして俺は、上の階へ上がっていった。

そして俺は……自分でも信じられないものを目撃した……

 

「メアリ……!?」

 

俺は妹を……メアリを見つけた。そこでメアリは、テロリストの男達と”行為”に及んでいた。

自分の目が信じられなかった。何故メアリがこんなところにいるのか、何故知らない男達と”行為”に及んでいたのか……

自分の頭が、脳みそが焼けるようだった。

 

「メアリ……連れ去られたのか?」

 

俺は一つの結論にたどり着いた。メアリはテロリストの連中に連れ去られ、無理やり犯されているのだと。

 

「もう大丈夫だ……お兄ちゃんがいるからな!」

 

何はともあれ、俺は妹を助けたのだと思った。だが……メアリは違った。

 

「私は……私の意思でここにいるの!秘密警察を叩き潰して、この世界を私達で変えるの!」

 

メアリは信じられないことを口走った。俺は自分の耳を疑った。

 

「私は……お父さんとお兄ちゃんが秘密警察のせいで、今まで散々だった!!」

「バカな……!お前、言ってただろ!?俺や親父のこと……『誇らしい』って言ってただろ!!」

 

そうだ……メアリは俺や父さんのことを「誇らしい」と言ってくれた……俺はそれがあったから、戦っていけた。なのに、メアリは……

 

「2人が秘密警察のせいで、私には友達ができなかった!!学校のみんなに冷たい目で見られるし、やっとできた彼氏も……お父さんとお兄ちゃんが秘密警察の人間だって知った途端、私のこと捨てた!!」

 

嘘だ……

 

「お兄ちゃんは正義の味方のつもりでいるんだろうけど……結局、誰も幸せにできてない!周りの人のことも、家族のことも!!」

 

そんなの嘘だ……!!

 

「私の幸せのために……邪魔しないで!!」

 

こいつは、俺の妹じゃない……偽物だ。

そう思った瞬間、俺は妹の偽物の腹に、刀を突き刺した。

それから先はよく覚えていない……だが、気がついた時には、目の前には死体が転がっていた。

 

「メアリ……?」

 

俺は自分が何をしたのか分からなかった。だが一つ確かなのは……俺は妹を殺したということだ。

俺はこのことを秘密警察に……長官に報告した。ありのままを。

俺の妹はテロに加担していたと、俺は責任を取って腹を切ると言った。

だが、メアリの死はテロリストの弾圧に巻き込まれた事故死として処理され、俺に下ったのは地方への左遷だった。

 

「何故ですか長官!?何故妹が事故死なんですか!?俺が殺したんだ!!」

「……上からの命令だ。俺もその命令に異存はない。」

「……隠すんですか?都合の悪いことから逃げて、真実を隠すんですか!?あなたはそれでも秘密警察の長官ですか!?」

 

俺の必死の叫びは届かなかった。辞令は決定事項……俺は地方に行くしかなかった。

 

「ふざけるな……!妹は何のために死んだ……!俺は何のために殺してしまったんだ……!!」

 

俺は外に出て、本部の壁を何度も殴った。俺は今まで秘密警察は正義だと思って働いてきた。だが、秘密警察はメアリがテロに加担していたことを隠蔽した。そして口封じとして俺を地方送りにした……!

真実を追い求め、正義を遂行する……秘密警察とはそういう組織のはずだ……!それを臭いものに蓋をして……!

 

「俺は……!俺は今まで何のために戦ってきたんだ……!うおぉぉぉぉぉぉ……!!」

 

俺はその場に膝をつき、四つん這いになって地面を殴りながら叫んだ。

俺がやってきたことは何の意味もなかった……そう思うと、叫ばずにはいられなかった……

そんな時だった。

 

「もしもし?」

 

一人の男が俺に話しかけてきた。最初マスコミかと思ったが、どうやら違うようだった。そいつはえらく高そうなスーツに身を包み、これ見よがしに高級そうな時計やネックレスをつけている。

男の名は、クリスといった。

 

───────────────────

 

「離せぇぇぇ!!俺を……!!俺をどうする気だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

気がついた時、俺は牢屋に入れられ、拘束されていた。俺としたことが……迂闊だった。まさか、連れ込まれた車の中に睡眠ガスを噴射されるとは……

俺は体を拘束している鎖を解こうとしたが、鎖はビクともしない。

そんな俺の前にあの男……クリスが現れた。

 

「いやぁ、すまないね。目が覚めたら暴れてしまうと思ってね。」

「俺をどうする気だ……!?」

「フフッ、君と組織を作りたい。」

 

俺は自分の耳を疑った。組織を作る……?俺と?何を言っているんだ、この男は……

 

「君は、この世界についてどう思う?嘘ばかりの世界だと思わないか?」

「……何が言いたい?」

「人を騙し、人を裏切り、仮初めの平和を矜持する……なんとも愚かしい世界だと思わないか?現に、君は裏切られた。」

 

ニヤリと笑って言うクリスの言葉に、俺は心中を見破られたような感覚を覚えた。だが、認めるわけにはいかない。

 

「組織と妹に裏切られたんだったな……」

「黙れ……!!」

「本当のことだろう?」

「たとえそうでも……俺は正義のために……!」

「正義……?」

 

その時、クリスは声を上げて笑い出した。

 

「これを見てもまだ言えるのかな?」

 

クリスは片手に持っていたトランクケースをその場に置き、静かに蓋を開けた。そこに入っていたものを見て、俺は目を見開いた。

 

「メアリ……!!?」

 

そこにいたのは、紛れもなく”メアリ”だった。あの時、俺がこれでもかと何度も殴った痕が残っている。

 

「うっ……うえぇっ!!」

 

俺は思わず吐き気を催し、その場で吐いた。顔や口にゲロが付着する中、”妹”はこちらを見ていた。虚ろな目で、光のない瞳で俺を哀れむように見つめていた……

 

「かわいそうになぁ……秘密警察最強の男と言われた男が、たかだか女一人に発狂してしまうとは……そんなにこの女が大切か?」

「決まってる……この子は俺の……!」

「君を裏切った妹……だろ?」

 

俺が「妹だ」と言うよりも先に、クリスが言い放ち、俺は何も言えなくなってしまった。

 

「気にすることはない……裏切っていたのは妹だけじゃない。君の……父と母もさ。」

 

続くクリスの一言に、俺は頭の中が真っ白になった。

……こいつは何を言っているんだ?父さんと母さんが俺を裏切っていた……?そんなこと、あるはずがない……!

そんなことを思っていると、クリスは俺の前に2枚の写真を投げた。

それを見て、俺はまたも目を見開いた。

 

「母さん……!?」

 

1枚は母さんがホテルで若い男といる写真だった。その写真の中で、母さんは男とキスをしていた……

 

「父さん……!?」

 

もう1枚は父さんが黒いスーツの男から金を受け取っている場面……所謂、賄賂を受け取っている場面だった。

 

「君の母親は他の男と浮気をしていた。だが父親の方はそのことを知っていながら、見て見ぬふりをしていた……つまり黙認していたのさ。」

 

嘘だ……!

 

「そして父親は、犯罪者から賄賂を受け取り、犯罪行為を黙認した!」

 

嘘だ、嘘だ……!嘘だ!!

 

「君の家族は、君を裏切った!それは変えようもない事実だ……」

 

嘘だ、嘘だ、嘘だ……!嘘、嘘、嘘、嘘、嘘嘘嘘嘘……

みんな、嘘つきだった……

 

その瞬間、俺は自分という人間が壊れる音を聞いた。

それからしばらく、失意の日々だった。気が抜けたように牢屋の中でただ縮こまる日々……クリスが用意した食事も喉を通らなかった。

そんな俺を見て、役立たずだと判断したのか、クリスは俺をある場所に連れて行った。

 

「社長さんよぉ、本当にこいつ嬲ったら10億くれるのか?」

「ああ、くれてやろう。」

「へへっ、そりゃいいや。」

 

連れ込まれたのは闘技場のような場所……そして俺の目の前には、刀を持った細身の男とメリケンサックをつけた巨漢の男がいた。

同時にワッと歓声が聞こえてきた。周りを見ると客席に大勢の人間がいた。よく見ると、皆金持ちそうな雰囲気を出していた。

それを見て俺は理解した。俺は、金持ちの道楽で、目の前の2人に殺されると。

 

「オラァッ!!」

 

巨漢の拳が俺の腹に炸裂し、俺はその場で蹲った。すると、すかさず細身の男が俺をボールのように蹴り飛ばした。

 

「弱っ!全然歯ごたえねぇじゃん!?」

「こいつ、本当に秘密警察の人間なのか?弱すぎんなぁ!」

 

細身の男が俺に近づき、刀を抜こうとしている。

俺は殺されるのか……別にいいか。もう疲れたんだ……何もかも……

その時だった。

 

『本当にいいのか?』

 

聞き覚えのある声が聞こえてきた。それは紛れもなく、俺の声だった。俺を殺そうとしている2人には聞こえていないようだ。

 

『何故死ぬ必要がある?』

『殺した妹のためか?』

『愚かな……』

 

その声は一つだけじゃなかった。いくつにも増え、俺に語り掛けてくる。

 

『お前に何の非がある?』

『お前はただ信じることを成しただけだ!』

『なのに命を捨てるのか?お前はそんなに馬鹿な男だったか!?』

 

そうだ……俺は……

 

『悪いのはお前を裏切った家族だ!』

『今こそ、家族という呪縛から解放される時だ!』

『欲しいものを欲せ!!』

『望むままを行え!!』

 

俺が望むもの……俺の欲しいものを……そんなもの決まっている……!俺が欲しいのは……!!

 

その瞬間、細身の男が刀を抜き、鞘をその場に捨てた。その次の瞬間、俺は咄嗟に鞘を拾い上げ、それで細身の男の喉を突いた。

 

「うげっ……!!?」

 

急に喉に一撃を喰らい、細身の男は刀を手放した。俺はそれを掴み、思い切り刀を振るい……ゆっくりと鞘に納める。

 

「……刀を扱うものにとって、鞘は重要だ。三流め……」

 

刀を納め、カチンッと音が鳴った瞬間、細身の男の首が切り裂かれ、鮮血が噴き出した。

細身の男は血を噴き出しながらその場に倒れ、俺は全身に返り血を浴びた……だが、俺にはちょうどよかった。

 

「……ちょうどよかった……今、喉が渇いていたんだ……」

 

あれから一週間、ろくに水分補給もしてなかった。この返り血はいい水分補給になった。

 

「ひっ……!?」

「シャッ!」

 

俺は続けて巨漢に向けて突進し、すれ違い様に刀を抜いた。ズザザ…と足でブレーキをかけながら、刀をまた鞘に納めた。すると、巨漢は声を上げる間もなく細切れになった。

今の一瞬、俺は何回こいつの体を斬ったか分からないが、きっと10回以上は斬っている。

客席に目を向けると、さっきまで騒いでいた金持ち連中が呆然としていた。

それもそうか……さっきまでグロッキーだった奴が急にやる気を出して、2人を瞬殺したワケだからな……

 

「……まだ足りない……」

 

俺は小さく呟くと、壁に向かって一直線に走り、そのまま壁を駆け上った。そして手すりに掴まって客席に躍り出ると、刀を抜き、目の前にいた観客を2、3人斬った。

その瞬間、悲鳴がこだましたが、俺は構わず目の前の”クズ共”を殺し続けた。

こいつらは道楽で俺が死ぬ所を見て、酒の肴にしようとしていた……そんな奴ら、死んだ方が世界のためだ。

 

「ま……まさか、これほどとは……!!」

 

それからどれほど時間が経ったか分からなくなった頃、クリスは額に汗を掻きながら絶句していた。

俺の目の前には、死体の山…否、”死体の川”が出来上がっていた。辺り一面が血で染まり、その血の中に遺体がゴロゴロ転がっている。そんな中で俺も返り血を浴びて真っ赤になりながら、水の代わりに血を啜った。

 

「あ…改めて、君と契約を結びたい……!君の望む物はなんでも差し出そう……!」

 

クリスは引きつったような笑みを浮かべながら、俺に語り掛けてきた。俺は刀を鞘に納め、クリスに近づいた。

 

「……本当に俺の欲しいものをくれるのか……?」

「もちろんだとも!君の欲しいものは……?」

 

そんなの、決まっている。

 

「力だ。この嘘だらけの世界をキレイサッパリ終わらせるだけの力を……!!」

 

あの時、妹を殺したその時、道はもう決まっていたんだ。嘘と欲に染まったこの世界を終わらせること……それが俺の使命……!

 

「それを得られるなら、俺は何人でも殺してやる……!!」

 

何も知らない奴らに思い知らせてやる……何が正しくて、誰が悪かなんて、底の浅い倫理を広げる奴らに地獄を見せてやる……

 

─────────────────────

 

「……夢か。」

 

俺はいつの間にか寝ていたようだ……あの日から今日に至るまで、様々なことが起きた。ブラックサレナの創設、ガオとグインの加入、プラーナの発見、そして……ノエルとの出会い。

本当に、本当に様々なことが起きた……それも、もうすぐ終わる……

 

「もうすぐ、俺は大いなる力を手にする……」

 

その時こそ、俺は使命を果たす……この腐った世界を終わらせる……!

 

 




おまけ「くしゃみたすかる」

普通のくしゃみ
ロイド「ハックション!」
フィオナ「えっくしゃい!」
グリム「文字通り普通だな。」

濁音混じり
ユーリ「ぶーっしょいっ!!」
ヨル「ばーっくしょいっ!!」
フリッド「兄妹はくしゃみも似てるんだなぁ……」
ロイド「ヨルさん、意外と勢いよくくしゃみしますね……」

かわいい系
ダミアン「はっくちゅん!!」
アーニャ「くちゅん!!」
全員『かわいい〜〜♪』

うるさい系
フリッド「エーックシャイエクシャイチクショーッ!!!」
グリム「うるせぇ!!」

あざとい系
グリム「へ……へ……ぺくちょいっ!あー……今日鼻の調子悪いなぁ……」
フリッド、ヨル、ロゼッタ『ごちそうさまです!!』
グリム「何がだよ。」

───────────────────

シリアスなときにこそギャグ展開を……
くしゃみたすかる文化があると聞いたので、おまけはくしゃみネタ。

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