ブラックサレナとの戦いが終わり、早1週間が経過した。街では残党による犯罪行為が横行したが、仮面ライダー達と秘密警察によってすぐに鎮静化された。
「……ウォルター・クロフォードの刑が決まったな。終身刑だって……」
「ああ、俺達もアイネさんから聞かされたよ。」
ユーリ以外のいつものメンバーは喫茶シオンに集まり、ウォルターのことを話していた。
ウォルターに下されたのは、終身刑。ウォルターが招いた混乱と罪は深い。検察も、世論も「死刑で当然」と声を荒げる中での終身刑……弁護側からすれば「勝ち」とも言える結果だった。
「でも……アイツ、クリスの野郎殺したんだろ?証拠はねぇけど……」
クリスは刃物によってバラバラ死体となって発見された。殺したのは恐らくウォルター……だが、クリスが殺されたと思われる時刻には、ウォルターは拘置所に勾留されていた。殺されたクリス本人もだ。二人とも拘置所から脱走した気配はない。今も警察による調査が続いているが、迷宮入りになるのではないか、との噂が流れている。
「……いまごろアイツ、脱走の計画とか立ててんのかな。」
グリムはボソリと呟いた。逮捕される直前、ウォルターは言っていた。「いつか脱走する」と。ウォルターは自身の目的をまだ諦めていない様子だった。いつか刑務所を脱走し、自身の目的を果たそうとするかもしれない……
「さぁな……それより、そろそろ時間じゃないか?ユーリ君のお見舞い。」
「あ、そうですね!」
ロイドがそう言うと、皆は準備を始めた。
ユーリは現在、ノエルと同じ病院に入院している。あの戦いで腕の骨は折れ、背中に火傷を負い、内臓にもダメージを負った。結果、全治3ヶ月となった。
「そういや、アイツら急にいなくなったよな。英寿の仲間と、ヨル先輩ら助けたっていうガッチャードって奴。」
戦いの後、タイクーン達及びガッチャードはすぐに姿を消してしまった。英寿曰く、「時間切れ」とのこと。ガッチャードは……
「ガッチャードさんは……その、山の向こうに金色の龍?みたいなのを見つけて、『スッゴいガッチャの予感!』って言って、どこかに行っちゃいました。」
「なんだそりゃ……変な奴だな。」
ヨルからの話を聞き、ガッチャードの予想外な行動に皆は呆れ笑いと苦笑いが同時に出た。
───────────────────
そのころ、病院では……
「まさか……同じ病室になるなんてね。」
ユーリの病室はノエルと同じ病室になった。隣を見れば、ノエルの微笑む顔が見れる……ユーリは嬉しくなり、思わずニヤけてしまう。
しかし、ノエルの微笑みはすぐに暗い表情に戻った。
「お兄ちゃん……終身刑になったんだよね。」
「うん……腕のいい弁護士を雇ったんだけど……」
「落ち込まないで、ユーリ君。みんなが『死刑で当然』って言う中で終身刑を勝ち取ったんだから……」
落ち込むユーリを見て、ノエルはすぐさま励ました。
「でも……お兄ちゃん、どうやってクリスを殺したんだろう……」
「多分……クロエが手引したんだ。いや、クロエだけじゃなく、先輩に憧れた後輩達も……」
ノエルの疑問に、ユーリが答え、推理を始めた。
「拘置所の人間に変装して、先輩とクリスを外に出したんだ。そして殺害した……その後は気づかれないように先輩を拘置所に戻せば終わり……」
秘密警察にはクロエを始めとしてウォルターを尊敬する後輩が多い……その後輩達の手を使えば造作もないだろう。
「でも、現場には『次はお前だ』って書き置きがあったって……」
ノエルの一言に、ユーリは少し唸った後、答え始めた。あの書き置きは遺体を発見した者や、テレビを見た者達に向けたものにも見えるが、ユーリの考えは違った。
「……これも僕の憶測だけど、あの書き置きはクリスに向けたものだと思う。多分先輩は……もう妹さんに許しを乞うのをやめたんだ。これから許しを乞うのは、散々人を苦しませて弄んだ……クリスの方……」
ウォルターは妹への償いをやめた。今度はクリスが償いをしなければならない。刑務所ではなく、死んで地獄で……あの世で自身が弄んだ人間達に許しを乞うべきだと……ウォルターはそう考えたかもしれない。あの書き置きはそのためのものだと、ユーリは考えた。
「……先輩、脱走するって言ってたけど……それはきっと、ノエルさんに会うためだよ。」
その一言はユーリの憶測でしかない。だが、あの去り際のウォルターの印象は、どこか優しく見えた。ユーリはその優しさに賭けたかった。
「ありがとう……ユーリ君、優しいね。」
ノエルは礼を言うと、ユーリの手を優しく手を取り握った。
「あ……」
ユーリは思わず頬を赤らめ、そっぽを向きそうになったが意を決してノエルを見つめた。
「丿、ノエルさん……!ぼ、僕……!」
そして、ユーリは告白しようとした。前に言おうか言うまいか迷っていた言葉を……
「僕も……ノエルさんのこと……大好きだ。」
「ユーリ君……嬉しい……」
告白を受けたノエルもユーリと同様、頬を赤らめた。そして、二人は互いに見つめあい、口と口を近づけてキスをしようとした……が、その瞬間病室のドアが開いた。
『あっ』
病室に入ってきたのは、ロイド達だった。ロイド達に見られた瞬間、ユーリは顔を真っ赤にし、口を金魚のようにパクパクさせた。
対し、ロイドは苦笑いを浮かべ、ヨルは顔を赤くし、アーニャはキョトンとし、フリッドはニコニコ笑い、グリムは呆れたような顔をしていた。
「あー……お邪魔だったかな?」
「ユ、ユーリったら……ここ病院ですよ!?」
「おじとおねーさんいちゃいちゃ?」
「やっとユーリ君にも春が来たというわけか。」
「いや……病院で何してんだよ……」
「あーーーーっ!!」
恥ずかしくなったユーリは思わず大声で叫んだ。
「こ、これは誤解なんだ!いや…誤解じゃないか!?いや誤解か!!?」
「はいはい……オラ、見舞い。」
ため息を吐きながら、グリムは手に持ったフルーツの籠を二人の前に置いた。
「しかし、ノエルちゃんも大変だな。この病院に禁錮刑だろ?」
「はい……私も昨日聞かされました……」
今回のブラックサレナの事件……判決を下されたのはウォルターだけでなく、彼とブラックサレナに協力した全ての人間に刑罰が下された。
ノエルには病院で1年の禁錮刑を言い渡された。禁錮される場所が病院なのは、ノエルが怪我人であることを考慮されてのことだった。
「大変ですね……実質病院に軟禁されてるんですから……」
「いえ、私は大丈夫です。ブラックサレナに協力してたのは事実ですから……」
そう言ってノエルは少し暗い表情を見せた。ヨルの言う通り、ノエルは病院に軟禁状態にある。病院の外、内部に職員や民間人に変装したWISEのスパイ達によって監視されているのだ。
これは、万が一ノエルがウォルターが捕まったことに対する報復に出ても、すぐに取り押さえられるようにするためだった。
ちなみに監視させるように言ったのは法条である。
「すまない……俺の後輩が無礼なことを……」
「だから、私は大丈夫ですって!」
かつての後輩の非礼をロイドが代わりに詫びたが、ノエルは慌てて首を横に振った。
「まぁ、大丈夫そうで安心したよ。じゃ、俺は行くわ。」
そう言うと、来たばかりにも関わらずグリムは病室から去ろうとした。
「えっ?もう行くの?」
「ああ、ちょっと……ガオの墓を作ってやろうと思ってさ……」
その一言に、皆は驚いた。何故ならガオはグリムにとって敵だった。その敵の墓を作ろうと言っているのだ。
驚く皆を見て、グリムは頬を掻きながら説明を始めた。
「……嫌な奴ではあったけど、一応幼馴染だったからな……それに、思い出したんだよ。昔のこと……アイツ、昔からクソ野郎で……俺のこと良くイジメてた。でも……アイツにもいいとこあったんだよ。」
「いいとこ?例えば……?」
「……さぁな。」
グリムは聞かれてもはぐらかし、病室から出ていった。
廊下を歩きながら、グリムはガオとの思い出を思い出していた。
先ほど言った通り、ガオはグリムのことをよくイジメていた。ろくな思い出などなかったが、記憶の片隅に、かすかに残っていた”良い思い出”……
『おいっ!お前ら何してんだ!!』
それはグリムがまだ5歳の時……隣町の不良少年達が、グリムが住むスラム街に乗り込んできたことがあった。不良少年達がグリムを取り囲んでリンチしてきたところに、ガオが出てきて助けてくれたのだ。
ガオ的にはナワバリを荒らそうとした不良少年達に怒っただけ……だが、グリムの目には、その時のガオは優しかった。あの男にもちゃんと良いところがあった……と思いたかった。
「……せめて弔ってやんねぇとな……たった一人でも弔ってやる奴がいねぇと……」
グリムはボソッと呟きながらフッと笑い、廊下を進み、病院を後にしていく。
決して良い人間ではなかったが、そんな人間でも弔ってくれる人間がいるだけでも、少しは救われるはずだろう……
そして、弔わなければいけない人間はもう一人……
「お墓か……」
病室でフリッドはふと呟いた。
「フリッド?」
「いや、グインさんのお墓……作ってあげないといけないと思ってさ。息子さんの隣に……」
弔わなければいけないのは、グインも同様だった。グインもブラックサレナに利用された者の一人……弔ってくれる家族はいない……それならばと、フリッドは墓を作ってやるつもりでいた。
「俺達も手伝おうか?」
「うん……助かる。」
ロイドの心遣いに、フリッドは笑ってお礼を言った。
すると、その時病室のドアが開いた。
「……あれ?」
「よっ!」
ユーリ達の前に現れたのはギーツこと英寿だった。
「さっき、ウォルターと面会してきた。」
「先輩と……?」
英寿はウォルターと面会してきた時のことを話し始めた。
────────────────────
「……俺に何の用だ。狐男……」
「そんな言い方はないだろ。俺だってスパイだったとはいえ、一度はお前に味方した立場だ。」
にこやかに話す英寿に対して、ウォルターの態度は冷ややかなものだった。
それからしばし沈黙が続いたが、英寿が口を開いた。
「ユーリには驚かされたな。」
「……まったくだ。アイツは……俺より弱いはずなのに、何故勝てた……?」
「願い続けたからだ。」
英寿の意外な返答に、ウォルターはキョトンと目を開いた。
「アイツには強い願いがあった。大切な家族と仲間……それに大切な人を守りたいって強い願いがあったから、お前に勝てたんだ。」
「俺の願いがアイツの願いより弱いというのか?」
強い願いがあるのはウォルターも同じだった。ユーリに負けないぐらいの願いが……
それを察したのか、英寿はウォルターの疑問に答えた。
「お前の願いも、アイツに負けないぐらい強かったんだろうさ。けど、僅差で負けたんだよ。」
「……そうか。」
英寿の答えに、ただ一言だけ返事をした。どうでもいいと思っているのか、それとも気にしているのかは分からない。
すると、またもウォルターは質問をしてきた。
「……今日は何の用なんだ。俺を笑いに来たのか。」
「お前の裁判、傍聴してたんだ。お前……嘘ついただろ。」
その一言に、ウォルターは黙り込んだ。それを見て英寿は笑った。
「お前、裁判でブラックサレナに利用されてた人達をバカにしてただろ……わざと。」
「……何のことだ。俺は思ったままを言っただけだ。あんな役立たず共……バカにされて当然だ。」
裁判中、ウォルターはノエルを始めとして、クロエやミリー、ブラックサレナに利用された人間達を罵倒した。「役立たず」だの「使えないクズ」だのと、侮辱的なことばかりを口にした。ウォルターが「死刑で当然」と言われた理由はこれが理由の一つだ。
しかし、英寿はウォルターのこの言動をわざとだと言った。
「お前は……自分から悪党になろうとしたんだろう?そうすれば、ブラックサレナに関わった人達の罪が軽くなると思って。」
ウォルターはそっぽを向き、何も答えなかった。どうやら図星のようだった。ウォルターは自分を悪役に仕立て上げて、全ての罪を被ろうとした。そうすれば、巻き込まれた者達の罪が少しでも軽くなると思って……
「そう思いたいなら勝手に思えばいい。根拠なんてないんだからな。」
「……そうするよ。」
ウォルターの反応を見て、英寿はフッと笑った。英寿は思った。ウォルターは”狐”になったと。誰かのために嘘をついて、誰かを守ろうとする嘘つき狐……ユーリに負けて、少し変わったのだと英寿は思った。
そして英寿は立ち上がり、その場から立ち去ろうとした。
「待て。」
その時、ウォルターは英寿を呼び止めた。
「……アイツに、ノエルに渡して欲しいものがある。」
─────────────────────
「……で、渡して欲しいって言ってたのが……コレだ。」
ウォルターと面会した時のことを話し終えると、英寿は手に持った包みを開けた。
中に入っていたのは……折り鶴だった。それも千羽鶴……
「コレ……お兄ちゃんが……?」
「檻の中じゃやることないから暇つぶしで作った……って言ってたぜ、アイツ。」
千羽鶴をノエルに渡すと、何故か英寿はロイドとヨルの肩に手を置いた。
「それじゃ、邪魔者は帰る。」
「は?」
「えっ、ちょっ……?」
英寿はニコニコ笑いながら、半ば強引にロイド達を連れて病室から出ていった。
「お兄ちゃんが千羽鶴……ん?」
折り鶴を手にとったノエルはあることに気がついた。折り鶴の裏側……白い部分に文字のようなものが見えたのだ。
ノエルは折り鶴の一つを紐から千切り、それを元の1枚の折り紙の状態に戻した。
「っ!!」
”それ”を見た瞬間、ノエルは目を見開いた。折り紙の裏側、白い部分には文字が書かれていた。「風邪引くな」と書かれていた……
まさかと思ったノエルは、もう一つ折り鶴を紐から千切り、中を広げた。それにも同じく文字が書かれていた。今度は「健康管理を怠るな」と書かれていた。
「もしかして……!?」
「これ全部……!?」
ノエルは次々と折り鶴の中を開いていく。その全てにウォルターが書いたであろう文字が書かれている。
そして、ノエルは次の折り鶴を開いて涙をこぼした。
そこに書かれていたのは、「どうか、幸せに」という一言だった……
「お兄ちゃん……!お兄ちゃん……!!」
ウォルターは願った。今度は歪んだ願いではなく、誰かを想い、幸せになって欲しいという願い……折り鶴に千の願いと、千の想いを乗せて……
(先輩……!ノエルさんは必ず僕が……!)
気づけばユーリも涙を流していた。折り鶴に書かれた願いを見てウォルターの真意を理解した。故に、ユーリは涙し、ノエルを守る想いを強くさせた……
ユーリは変わった。そして、ウォルターも変わっていく。折り鶴に託した願いと想いとともに……
Episode:Y「青い瞳と白狐」……END
おまけ「偽物だとしても」
これは、まだノエルがウォルターの”妹”になったばかりの話……
「何度言ったら分かるんだ、この能無しが!」
「ごめんなさい!」
ノエルはウォルターに殴られていた。殴られた理由は、食事の所作が妹のメアリと違うとのことだった。
だが、これはすでに日常茶飯事となっていた。ほんのちょっとの仕草が違うだけで怒られ、殴られた。
ノエル自身、何故自分が理不尽に怒られ、殴られなければならないのか常々思っていたが、あの日、その考えは変わった。
ある日のこと……ノエルは洗濯したウォルターの衣服を届けるため、部屋に入った。
「お兄ちゃん……?」
ウォルターはベッドに横たわり、眠っていた。寝ているところを見て、ノエルは起こさないようにそっとテーブルの上に衣服を置いて出ようとした。その時、
「ううっ……メア、リ……!」
唸るようにウォルターはメアリの名を呼んだ。その声はなんとも苦しそうで、悪夢を見ているようだった。
「ごめん……!ごめんな……!!」
その寝顔は今にも泣いてしまいそうに見えた。普段はまるで孤高の剣士のように映ったウォルターの姿が、今だけ小さく見える。
ノエルは思った。今だけ、この人は自分を殺してきたのだろうと。きっと数え切れないぐらい……気づけばノエルは、ウォルターの頭に手を置き、優しく撫でていた。すると、安心したのかウォルターは落ち着いたように寝息を立てた。
「……参ったなぁ……これじゃあ、憎めないよ……」
ノエルはウォルターの手を握り、同時に思った。この人には支えてくれる人が必要だと。誰かが支えなければ、この人は壊れてしまう。それができるのはノエル自身……自分しかいないと思った。
──────────────────
Episode.Yを振り返って
この章はストーリーがなかなか思い浮かばず、難産でした。3つのエピソードの中で一番でした。
というのも、まだスパイファミリーを読み始めた頃、私はユーリが嫌いでした。「ロイヨルの邪魔すんな!」とか思ってました。しかし、原作を最新話まで読んでいくと、魅力が分かってきたといいますか、良さが分かってきました。
そんなユーリを活躍させるストーリーをどうすればいいか考えた結果、ウォルターという最強の壁と戦い、乗り越えること。
大切な人のために戦い、ウォルターという壁を乗り越える。ベタではありますが、成長劇としてはこれが自分的には一番やりやすかったです。前章のグリム編もそうだったので……
それからストーリーの一部は原作の91話からインスパイアされたものです。91話を読んだ瞬間、「これだ!!」と思い、ストーリーが思い浮かびました。91話なかったらEpisode.Yはなかったと言っていいでしょう。
次回からLAST Episode……の前に、After Episode全体のエピローグが入りますので、お楽しみに……
Episode:Yはいかがでしたか?
-
面白かった
-
ウォルターが魅力的だった
-
微妙
-
面白くなかった