最終章やったのにいけしゃあしゃあと帰ってきました。
「……ハァ……ハァ……!!」
その男を追い詰めるように歩み寄る褐色肌で黒髪の青年……
「も、もう勘弁してくれ……」
「……この街で喧嘩売るなら、ちゃんと相手選びな。借金あるんだったら特にな。」
青年は男を睨みながら片手をスッ……と差し出した。すると男は慌てて懐から財布を取り出し、青年に手渡した。
青年はその財布を奪い取ると中身を確認した。
「……ンだよ、ちゃんと金入ってんじゃねぇか。」
ブツブツと呟きながら半分ほど抜き、財布を男の前に投げ捨てた。
「次は支払い遅れんなよ。次遅れたら利子取るってさ。」
「は、はい……!」
青年はそれだけ言うと男をその場に置いて裏路地を後にした。裏路地から大通りに出ると、歩道に1台の黒塗りの高級車が止まっていた。
青年はその車の窓をノックした。
「おう……金は回収したか、グリム。」
「すんません……今、封筒なくて……」
窓が開き、顔を出したのは見るからにマフィアの風貌をした、オールバックにサングラスをかけた男だった。
その男に対し、青年・グリムはさきほど男から徴収した金を差し出した。
「……よし。」
1枚1枚、枚数を数えちゃんと回収できたことを確認すると、その中から2枚ほどの紙幣をグリムに差し出す。
「えっ、いつもより多くないスか?」
渡された額は80ダルク(2万円相当)……いつもは40ダルクなのに何故、と思っているとマフィア風の男はチッと舌打ちを打った。
「嫁さんがいるんだろが。少しはカッコつけろ。」
「……ありがとうございやす、ライドの兄貴!!」
金を受け取り深々と頭を下げるグリム。対しライドはそれを見ずに窓を閉めて早々に立ち去っていった。
「……相変わらずライドの兄貴、優しいのか厳しいのかわかんねぇな……」
青年の名はグリム・ハワード。来年20歳を迎える青年だ。
普段は喫茶店でバイトをしているが、掛け持ちで借金取りのバイトもしている。
それとは別に本職がある。
「っと……“K“か。」
「本日もお似合いのコートです、グリム様。」
グリムの前に現れた紳士服を着た紳士的な態度のロボ、彼は外世界観測用自律型人工知能……通称「K」。
「さきほど『ガーデン』からグリム様に仕事の知らせがありまして……」
「相変わらず『ガーデン』と『WISE』の橋渡しやってんのか?飽きねえな。」
「お気遣いなく。皆さまの行動の観察が私のTaskですので。」
“K“と話しながらグリムは今日の仕事場へと向かった。
そして訪れた先は東国の超高級ホテル……の近くにある倉庫。
「あれ、弟切パイセン。」
「遅いぞ、後パイセンって言うな。」
そこにはすでに先輩である弟切が待っていた。
「今日の“客“は?」
「元ショッカー怪人に多額の金を渡している政治家だ。怪人を使って目障りな他の政治家の暗殺を企てている。」
「ショッカーはもう潰したってのに、悪い奴はどこでも出るもんだな。」
弟切としばらく話した後、グリムは弟切と2人でホテルの中へ入り、最上階の一室へ……
「なんだ貴様ら。ここはお前らが来るところじゃ……」
ドアの前にいたSPが通せんぼするが、グリムは渾身の力でSPを殴り飛ばし、その勢いのままドアを突き破った。
「ひっ!?」
「売国クソ野郎ども……お命、頂戴!!」
グリムの本職……それは“殺し屋“。暗殺組織「ガーデン」の一員で、グリムはその中でも最高の戦闘力を誇っている。
行動をともにしている弟切も「最強」というほどではないが高い戦闘力を誇る。
そんな2人にかかれば要人暗殺など容易い。あっという間に周りを血の海に変え、仕事を終わらせた。
「よし、終ーわりっと……」
「おい、貴様。ターゲットを殺すのに2秒もかかっていたぞ!こんな簡単な任務に時間をかけるとは……腑抜けめ!」
仕事が終わったというのに、弟切はグリムに対してグチグチと文句を言い始めた。
「いちいちうるせーな……」
「なんだその口の聞き方は!?だいたい貴様のことは前々から気に入らなかったんだ!!ガキのクセにいばら姫のポジションを奪い、我が物顔で組織を練り歩く貴様がな!!」
弟切は止まらずグチグチグチグチ……文句を言い続け、グリムは聞き飽きたと言わんばかりにため息をついた。
「……じゃあ後、『ガーデン』に連絡しといてくれよ、パイセン。」
グリムはそう言い捨ててその場から立ち去ろうとした。
「ま、待て!!どこへ行く気だ!!」
「うるせー!!帰ってロゼッタのオムライス食べるんだいっ!!」
「こ、子どもかっ!!」
仕事の後処理を弟切に押し付け、グリムはそのまま自宅のマンションへ急いで戻った。
帰ってドアを開けると、そこには…
「ただいま。」
「おかえりなさいダーリン♡」
栗色の髪ににこやかな笑顔、エプロン越しでも分かる豊満な胸と適度にスタイルの良い身体の女性……
グリムを「ダーリン」と呼ぶ彼女の名はロゼッタ。数年前にチンピラに絡まれていたところをグリムに助けてもらったことをきっかけにストーキングし、家に押しかけて同棲している。
「ダーリン、ご飯にする?それともお風呂?そ・れ・と・もぉ……♡」
「いつもので!」
新婚お決まりムーブにグリムは食い入るように言った。一瞬驚いたロゼッタだったが、すぐに笑顔に戻ってリビングに向かい、一人掛けのソファに腰掛けた。
「さぁ……おいで♡」
ロゼッタは上着のボタンを2つほど外し胸元を少し露出させ、自分のところに招く様に両手を広げた。
対しグリムの方は、膝立ちになり、そのまま彼女の胸に飛び込んだ。
「ロゼッタ〜……」
「よしよし♪今日はすごく甘えん坊さんだね。何か嫌なことあったの?」
「……職場の先輩がウゼー……」
ロゼッタの胸元に顔を押し付けながらグリムはさきほど仕事であったことを愚痴り始めた。
「そっかぁ……弟切って人が意地悪するんだ?」
「アイツいちいちウゼーんだよ……この前だって『女といちゃついてるヒマあったら腕を磨け』だの『女に甘えてるからお前はダメだ』だの……一言目には女、女、女……アイツ絶対女の子と付き合ったことねーよ。あの童◯野郎……俺だって……」
ブツブツと愚痴るグリムの話を聞きながら、ロゼッタは優しく、子どもをあやすように頭を撫でる。
「ダーリンかわいそ……ダーリンは頑張り屋さんなのにね。」
「そうだよなー?俺、頑張ってるよな?本職とアルバイト掛け持ちして稼いできてるっ!」
抱きしめられてるせいか、甘えてるせいなのか、それともロゼッタの母親のような振る舞いのせいか、グリムの口調で若干子どものようになっていた。
グリムはさらにロゼッタにしがみつき、さらに胸に顔をグリグリと押し付ける。
「だからもっとごほうびっ!もっとギュ~って!だっこ!!」
「ぁん♡もうそんなに甘えて……赤ちゃんみたい♡」
そんなグリムの行動にキュンッと来たのかロゼッタは嬉しそうにグリムを抱擁し、頭を撫で回す。
「あ〜〜〜っ、もういっそのことこのまま赤ちゃんになりたい……ロゼッタ、おっぱ……!」
「ゴホンッ!!」
これ以上のことを要求しようとしたその時部屋から咳払いが聞こえてきた。胸に顔を押しつけたまま横を向くと、そこにはダイニングテーブルに向かって座るフォージャー一家、フリッド、ユーリ、6人の仲間達がいた。
ロイド、フリッド、ユーリ、アーニャは白い目でグリムを見ていたのに対し、シエルを抱いたヨルはイチャイチャする2人の姿を見て頰を赤く染めていた。
そんな仲間達を見て、グリムはしばらく黙り込んだ。
「…………………何しに来たんだヒマ人ども。」
『今月のアギトの会はお前の家でやるって言っただろうがっ!!!』
ロイド、フリッド、ユーリの3人が声を揃えて怒鳴った。
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その後、グリム達は予定通り「アギトの会」が行われた……とはいっても実際は集まって食事をするのがほとんどで、ただの食事会のようなものだった。
「はい、あーん♡」
「あーん……」
皆が見ているにも関わらず、グリムはスプーンに山盛りに掬ってもらったオムライスを食べさせてもらっていた。
グリム自身、それに動じることなく黙々と当たり前のように食べ続けている。
(……幼児かっ!!)
(一口でかっ……)
(微笑ましいといえば微笑ましいが……)
(わ、私達、ここにいていいんでしょうか……)
(ぱいせんとスイカおねーさんイチャイチャ……)
その光景に仲間達は、見てて不快とは行かないまでも、なんとなくモヤモヤするのだった。
そして食事を終えると皆はソファの方に移動した。
「ロゼッター、膝枕〜」
「はーい♡」
先にロゼッタがソファに腰掛け、その膝の上にグリムは頭を乗せてソファに寝転がる。
「ふぅ……みんな最近どう?」
「待てい。」
膝枕をしてもらいながら皆と喋ろうとするグリムに、ユーリは待ったをかけた。
「なんでお前がソファ占拠してんだよ!?」
グリムとロゼッタがソファを一つ占拠しているせいで、ユーリとフリッドが座れず立ちんぼになっていた。
「普通客人優先だろ!!」
「まぁ、フォージャー一家には世話になったから座らせないわけにはいかないけど……お前ら2人ならいいかなって……」
「殺すぞ……!」
平然と話すグリムにユーリは怒りのあまり歯軋りを立ててしまう。対し、フリッドはため息を吐いた。
「ロゼッタさんも、あまり甘やかさないでください……」
「そんな……甘やかしてなんかいないですよ〜!甘やかしたいんです♡」
「変わらんわっ!!」
ユーリに続いてフリッドがツッコミを入れると、今度はロイドがため息をついた。
「……今日は集まりだけじゃなくて、お前に聞きたいことがあって来たんだ。お前が掛け持ちしてるバイトのことだ。」
ロイドのその言葉にグリムは黙り込み、起き上がって普通にソファに座るとロゼッタの方を向いた。
「ロゼッタ……せっかくロイド達が来てんだ。酒となんかツマミ買ってきてくれよ。」
グリムは財布を取り出すと紙幣をロゼッタに差し出した。
「うん、わかった!」
ロゼッタは疑うことなくその金を受け取り立ち上がった。すると、フリッドは声を上げた。
「もう夜だぞ?女性一人じゃ危険だ!」
「大丈夫です!」
ロゼッタはそう言うとベランダに出る窓を開けた。
「“K“さーん!!」
「お呼びですか?」
窓を開けると“K“がひょこっと顔を出してきた。
「なんでいんだよ!?」
「どうせ私達の観察してるんだろうなーって思ったんだけど……」
「はい。あなた方の行動の観察が私のTaskですので。」
そう“K“は言い終えるとロゼッタを連れて外に飛び出した。ロイド達は呆れながらそれを見守った後、グリムの方を向き直した。
「……この前、お前街でマフィアみたいな男に金を受け取っただろ。そいつがお前のバイトの元締めか?」
「……」
ロイドの言葉にグリムは黙り込むが、ロイドは続けた。
「男の顔には見覚えがあった……東国最大のマフィア組織『ブリッツファミリー』の
グリムが会っていた黒塗りの車に乗っていた男はライドというマフィアの幹部……その事実を皆はすでに知っているようだった。
「ブリッツファミリーのことは保安局でも問題に挙がってる……いつか西国のマフィアと大規模の戦争をするんじゃないかって……」
「私もガーデンにいたころ、店長から聞いたことがあります。東の『ブリッツファミリー』と西の『レーゲンファミリー』は十数年前から睨み合ってるって……」
続けてユーリとヨルから語られる組織の概要……さらにフリッドも証言を始めた。
「しかも聞いた話だと、ライドはバリバリの武闘派で……あの東西戦争にも志願兵として参加し、拳一つで一部隊を壊滅させた……その拳はまるで雷のようで……」
「ついた通り名が、『
語るフリッドを遮るようにグリムは呟き、立ち上がって窓の外を眺めた。
「……で、お前ら何が言いたいんだ?」
「……お前、ロゼッタさんと同棲して幸せなんだろ。見れば分かる……だからこそ、マフィアなんかと繋がりを持つな!裏の世界に首元まで嵌ることになるぞ!」
ロイドの心配はもっともだった。グリムの本職は殺し屋……すなわち裏の世界の人間。すでに人の闇やら汚い部分を見続けている。その上マフィアと関わりを持てば、さらに裏の世界にドップリ浸かることになる……仲間としてそれは阻止したいのだろう。
しかし、グリムはフッと笑った。
「大丈夫だって!俺なりに考えてっから。」
「考えてるって……何を?」
「俺……ライドの兄貴に賭けてみたいと思ったんだ。」
その言葉にロイド達は首を傾げた。
「賭ける……?」
「ああ……ライドの兄貴なら、昔の俺みたいな日の当たらない連中を纏められるボスになれるってな。」
グリムはそう言いながら窓の外を眺める。その視線の先にはゴミを漁っている浮浪者の姿が映る。
「……俺は、昔の家無しだった俺みたいな連中に夢を持てるようにしてやりたいんだ。」
「夢……?」
「ああ、生きていくには夢が必要だ。でも……みんな、夢を持つことができない。環境や生まれのせいでな……」
グリムの話を聞いてロイド達は黙り込んだ。
「夢がなきゃ、人は生きていけねぇ……だから、夢を見せてやれる人間が必要なんだ。」
「それがライド……だっていうのか?」
グリムはコクリと頷いた。その時、皆はふと疑問に思った。なぜ、グリム自身がやろうとしないのかと。
その疑問に感づいたのか、グリムは答えた。
「実は……俺、あの人と喧嘩して負けてよ……」
「グ、グリムが!?」
グリムの一言に皆は啞然とした。グリムは「ガーデン」の中でも最強クラスの殺し屋……それがたかだかマフィアの男一人にやられたと知れば驚くだろう。
「ああ……コテンパンにやられたよ。その時思ったんだ。『この人には力もあれば、カリスマ性もある。俺はこの人を神輿にかついで、皆に夢を持たせよう』ってな。」
グリムの言うことをまとめると、「自分より強くて能力のある人間を見つけたから、その人に自分の想いを託したい」ということだ。
「……お前もちゃんと考えてはいたんだな。」
「ただいまー!」
その時、ちょうどロゼッタが戻ってきた。
その後は飲み会に突入し、夜10時まで続き、ロイド達はグリムの家から去っていった。
「……じゃ、ダーリン。お風呂入って寝よ。」
「ん、ああ……」
その時、グリムの脳裏には先ほどのロイドの言葉が浮かんでいた。
『……お前、ロゼッタさんと同棲して幸せなんだろ。見れば分かる……だからこそ、マフィアなんかと繋がりを持つな!裏の世界に首元まで嵌ることになるぞ!』
……ふと思った。もし自分が悪党になったら、ロゼッタはどう思うのだろうか。マフィアが悪党だと決まったわけじゃないが、世間的に見れば悪党にも見えるだろう。もし自分がそうなった時……ロゼッタは今まで通りそばにいてくれるのか……
「どうしたの?」
グリムの異変に感づいたのか、ロゼッタは彼の頬に触れた。
「あ…あのさ……もしも、俺が悪人だったらどうする?」
グリムは思い切ってロゼッタに問う。ロゼッタは一瞬ポカンとした後、すぐに微笑みグリムの唇にキスをした。
「……ダーリン、覚えてる?私に、自分が殺し屋だって明かしてくれたこと……」
グリムがロゼッタと同棲してから1年ほど経った後、グリムは自分が「ガーデン」の殺し屋であることを打ち明けた。
黙っていてもよかったが、このまま打ち明けずにいるのは自分の意に反する……
結果として、ロゼッタは受け入れてくれた。
「ねぇ、ダーリン。“同族殺し“って分かる?」
「へ?」
突然のロゼッタの言葉にグリムは声を上げた。
「チンパンジーとか、ライオンとか……動物の中には自分と同じ種族を殺してしまうことがあるの。でも、それは全部生き残るため……ダーリンが人を殺したのだって、それと同じ……生き残るためだよ。」
グリムは思わずポカンと口を開けた。殺し屋という仕事をこのように解釈してくれたのもそうだが、ロゼッタがこんな教養がありそうなことを言ったことが意外に感じていた。
「お前……もしかして結構頭いい?」
「……私のことなんてどうだっていいっ!私はダーリンが悪党でも見捨てない!」
ロゼッタはグリムのことをギュッと抱きしめた。グリムも彼女を優しく抱き返した……その時、グリムは思った。
自分はロゼッタの過去を何も知らない。娼婦として働いていた以前のことを。
知りたいとは思ったが、ロゼッタは何も言わない。だがグリムは聞かなかった。きっと知られたくないとロゼッタは思っているから。
だからせめて、ロゼッタのことを全力で愛してやろうと決めた。
「……ベッドいくか。今日も寝かさねぇからな。」
「やぁん♡ダーリンったら絶倫〜♡」
それから2人は寝室へ向かい、グリムはロゼッタを貪り、ロゼッタはグリムを受け入れた。
何時間もの間、2人は愛を育んだ。
だが、この時2人は知らなかった……2人の逃れられない運命が交差しようとしていることに……
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「あれぇ……?もう、どこ行っちゃったんだよ、“ゴチゾウ“……」
そして、その交差する運命に介入する一人のライダーがいた……
おまけ「その後」
翌朝、グリムの家の電話が鳴り響いた。
「はい、もしもし。あ、ロイドさん!……え、もうバイトの時間?あー……」
ロゼッタは後ろで朝食を食べるグリムと時計に目をやった。時計の針はもう10時になっていた。
その様子を見てグリムは言った。
「うーん……後何発かヤリてぇから5時間かかるわ。」
「すいません、後5時間かかります!」
『なげぇよ!!』
後5時間は来ないとのたまる2人に対し、ロイドは思わず怒鳴り声を上げた。そのまま2人はロイドのお説教を受け、グリムは喫茶「シオン」へ向かったのだった。
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ライダーへの変身は次回からになります。
外伝ではグリムとロゼッタが話の中心になるので、相対的に他のキャラの出番は減るかもですが、全員に見せ場は作ってやりたいと思っています。