……もし、自分に知らない過去があったとして、みんなそれを知りたいと思うだろうか。
……少なくとも、グリムにとっては知りたくもなかっただろう。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
グリムは叫び、その場に膝をついて床を何度も殴った。
自分には双子の弟がいて、母親がその弟を捨てた……これだけでも衝撃的ではあるが、一番の衝撃は父親はドノバンではなかったということだ。
「かわいそうな兄さん……」
混乱しながら叫ぶグリムを見て、ミゲルはそばまで近づき抱きしめた。
「でも、もう大丈夫だよ……ぼくがずーっと側にいてあげるよ……」
グリムを抱きしめつつ、ミゲルはグリムのベルトを取り外し、変身を解除させた。
「そこにいる連中を全員消して……さ。」
『!!』
グリムを抱擁しながら、ミゲルはロイド達を睨みつつ包丁の先を向けた。
「だって、こんな奴ら兄さんにはいらないもん。でも、ロゼッタお義姉さんだけは別だよ♪」
ロイド達には殺意の目を向けるミゲルだったが、ロゼッタに対してはにこやかな笑顔を向けていた。
「わ、私?」
「だって兄さんが選んだ相手だもんっ!だったらぼくの家族とおんなじ♪でも他のはいーらない♪ぼくが消してあげる!そうしたら兄さんも後腐れなく……」
その時だった。ミゲルがグリムの方に顔を向けた瞬間、ミゲルの顔に拳が炸裂した。
「いった……!」
「何馴れ馴れしく話しかけてんだコラ……いきなり現れてグダグダわかんねぇこと言いやがって……!!俺が今まで……何のためにドノバンを追ってきたと思ってる……!?アイツがいなきゃ俺は普通に生きられた!母さんだって死なずに済んだ!アイツが父親だと思ってたから……だから追いかけてたのに!!それが違うだと……!?俺の20年は無駄だったのかよ!!?」
どれだけ叫んでも戻らない、今までの人生……生まれてから今までの行動の数……それが全部無駄だったと分かれば誰でもこうなってしまうだろう。
それに対し、ミゲルも負けじと叫んだ。
「なんだよ……ぼくは兄さんのためを思って言ったのに!だから……母さんだって殺したんだ!!」
その言葉に皆は思わず驚いた。2人の母親、ヘレンは自殺したのだと聞かされていた……だが、本当は息子であるミゲルが殺した……それを聞いて驚かないわけがない。
もちろんグリムも……
「なんだと……?」
「本当だよ。だって、当然じゃないか。あの人はぼくを売った人なんだ!殺して当然じゃないか!!」
「……ちょうどいいや……」
ミゲルの話を聞いているのかいないのか、グリムは目を見開いたまま顔に半透明の模様を浮かばせ、オルフェノクの姿へと変身した。
「このぐっちゃぐちゃになった気持ち……発散させるにはなぁ!!」
何かに当たるようにグリムは叫び、ミゲルに襲いかかった。
「ははっ……分かってくれないんだ……ならいいや!兄さんも殺してあげる!!変身!!」
ミゲルは笑い声を上げながら叫び、ルデスへと変身してグリムと戦闘を開始する。
「やめてくださいグリムくん!その人は弟さんでしょう!!」
「うるせぇ!!」
グリムは我を忘れていた。自分の過去に隠された真実を振り払うように、頭の中がグチャグチャになりながらルデスに向かっていく。
そんなグリムを見てギアンは高笑いを上げた。
「はははははは!!お前の彼氏は別のことに夢中みたいだな!」
「ダーリン……!」
ロゼッタは心配そうな顔でグリムの方を見た。真実を知ったグリムが取り乱していることを心配しているのだ。
だが、ギアンは構わずロゼッタに近づこうとする。
「やめろぉ!!」
「よそ見すんなって言っただろうが!!」
ガヴが飛び出してロゼッタに駆け寄ろうとしたが、その瞬間ビターガヴが剣で斬り掛かってきた。だが次の瞬間、ギルスが2人の間に入ってビターガヴの攻撃を止めた。
「いけ、ショウマくん!!」
ギルスが止めている間、ガヴはロゼッタの前に立ってギアンに立ちはだかった。
「叔父の前に立つのか?この私を倒せるのか?いや、倒せるか……自分の兄妹を手に掛けたからなぁ!」
「!!」
その言葉にガヴの手は震えた。ギアンの言う通り、ガヴは大切な人達を守るために自分の兄妹と戦ってきた……もちろん後悔はあるが、自分で決めたことだ。
「確かにそうだよ……でも、俺は迷わない!叔父さん……アンタがロゼッタさんを傷つけようとするなら、俺が許さない!!」
ガヴは啖呵を切り、剣をギュッと握り直しギアンを睨みつけた。
そのガヴの姿に、ギアンは脳裏に浮かぶある男の姿の面影をガヴに重ねた。
(……っ!!またそんな目で私を見てくるのか、ランゴ……!!)
「チッ、興が削がれた……ライド、ミゲル!戻るぞ!」
「チッ……」
「なんだよ……」
ギアンの一声でビターガヴとルデスは戦闘を止めた。
「今日はこれで去るが……ロージー、次こそはお前を連れ戻すぞ……!!」
ギアンはロゼッタを睨みながら口から黒い煙を吐いた。煙はビターガヴとルデスを包みこんだ。
「待ちやがれ!!」
「またね、兄さん♪」
黒い煙が消えるとともに、3人も姿を消してしまった。
「……!!うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
敵がいなくなったことに安心するどころか、グリムは八つ当たりするように壁やテーブルに拳を振り下ろし、次々と破壊していく。
「もうやめなよグリム!もう敵はいないよ!!」
「うるせぇ!!ちくしょおぉぉぉぉぉ!!」
悔しさのあまりグリムは叫んだ。その姿に、仲間達は何も言えなかった。
────────────────────────
その後、グリム達は喫茶シオンへと戻った……だが、空気は冷え切っていた。
「まさか……グリムに弟がいたなんてな……」
「……でも、俺の親父がドノバンじゃないって知ってたんだろ。」
ふと呟いたフリッドの言葉に、グリムは聞き返した。
その場にいた全員は何も答えずに黙った。グリムは構わず続けた。
「俺のこと……調べてたのかよ。」
「……気になったから……」
「なんで言わなかったんだよ。」
グリムの声色がどんどん恐ろしいものになっていく。それだけで怒っていると察せられる。
「言えば……お前が傷つくと思ったから……」
次の瞬間、グリムの拳がテーブルにドン!と叩きつけられた。
「だったら最初から調べんじゃねぇよ!!こんな大事なこと共有しないで……何が『アギトの会』だ!!」
「グリムくん、落ち着いて……!」
「うるさい!!」
もはや
「もうお前らなんて仲間じゃない!!」
癇癪を起こした子どものように喚きながら、グリムはさらに続けて言った。
「二度と俺の前に顔見せんな!!」
怒鳴り声とともに椅子を蹴り飛ばし、グリムは出て行こうとした。そこにアーニャが恐る恐る声をかけようとしていたが……
「ぱ、ぱいせんまって!ミゲルは……」
「うるせえ!!」
グリムは一蹴して喫茶シオンを出てしまった。ロゼッタは慌てて後を追いかけた……が、その前にロイド達にペコペコと頭を下げてから喫茶シオンを出ていった。
「……出会ったばかりのころに戻っちゃいましたね……グリムくん……」
「なんだよ、あのクソガキ……こっちだって考えてるのに……」
「それより……アーニャちゃん、さっきグリムに何を言おうとしたんだ?」
皆の気分が沈んでいく中、フリッドはアーニャがグリムに言おうとしたことが気になった。
「アーニャ、あのとき……ミゲルのこころよんだ。そしたら……」
『そうだ、兄さん……早くぼくを殺してよ……!!』
「……って言ってた!」
アーニャの言葉にロイド達はざわついた。
「殺してほしい……?嘘をついているということか?」
「だが、思い返してみれば……引っかかる部分はある。」
「なんだよ、ロッティ……」
ロイドは顎に手を当てて推理を始めた。あの時のミゲルの発言を思い返してみると違和感が何個かあった。
「まず……法条が持ってきた病院のカルテには、一人分の出生記録しかなかった。2つ……なぜ今のいままで、ミゲルはグリムの前に姿を現さなかったのか……3つ、どう考えてもミゲルにヘレンさんを殺すことはできないこと……」
次々と疑問点を述べていくロイド。するとロイドは皆の方に顔を向け、キリッとした口調で呟いた。
「フィオナ、法条と一緒に病院の方を調べてくれ。2人の出生には何か裏がある。」
「分かりました。」
(先輩の目が昔に戻った……!)
ロイドのキリッとした目つきにフィオナは密かに興奮を覚えた。その目は、かつて自分が憧れた凄腕のスパイ「黄昏」の目に戻っていたからだ。
「ユーリ君、
「わかった。ノエルさんにも伝えとく。」
ユーリの了承を得ると、次にフリッドの方に目を向けた。
「フリッド、お前はグランツについて調べてくれないか?」
「難しいだろうが……だがわかった。やってみよう。」
フリッドの承諾を得ると、ロイドはコクリと頷き、続けてヨルとアーニャ、ボンド、それとヨルに抱かれているシエルに顔を向けた。
「俺達は……アベルのことを調べよう。」
「えっ、アベルさん……ですか?」
アベルとは、もう亡くなったがアーニャの実の父親であり、超能力研究所所長だった男。
「ええ……アベルは最初、グリムと手を組んでいた……ドノバンとも関わりをもっていた……ミゲルのことだって知ってたはずだ。」
「でも、研究所もお屋敷も……」
ヨルの言う通り、アンノウンが現れた際のゴタゴタで超能力研究所も、アベルが拠点として使っていた屋敷もなくなってしまった。
「前にハンドラーから聞いたんですが……アベルは何回か拠点を行き来していたらしくて……壊されていない拠点があるはずです!その拠点に、ミゲルに繋がる何かが見つかれば……」
「アーニャぜったいみつける!」
「ボフッ!」
「私も……全力で探します!」
これがグリムのためになるなら、と意気込むヨルとアーニャ、ボンド。
すると、ショウマが声を上げた。
「あ、あの、俺……ミゲルを探してもいいですか?」
「は……?ミゲルを……?」
ロイドは疑問の声を上げ、ショウマはコクリと頷いた。
「アーニャちゃんの言っていることが本当なら……一度話をしてみたいんです。」
「だが……」
「大丈夫です!自分の身は守れますから!」
ショウマは笑って言ったが、正直不安は拭えない。あの時、ミゲルは明らかに敵意を向けていたし、取り乱しているとはいえ、グリムと互角に戦えていたミゲルに、ショウマを単身向かわせても大丈夫か不安になったが、ロイドはショウマの言葉を信じ、頷いた。
「わかった……だが、気を付けてな。」
「はい!」
「よし……みんな、明日から行動開始だ。」
『おーっ!!』
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「ダーリン〜〜?帰ってる〜?」
時間は夜9時……グリムの後を追いかけて家に戻ってきたロゼッタはグリムのことを呼びながら中に入った。
リビングを見回すと、テーブルの上には水でも飲んだのかコップが置かれている。乱暴に置いたのか水滴がテーブルに飛び散っている上、コップにヒビが入っている。
いつも着ているコートと靴は寝室の手前で乱雑に脱ぎ捨てられている。
ロゼッタはそれらを片付け、寝室のドアの前に立った。
「ダーリン、いるの?」
ドアをノックしてみるが、返答はない。ドアノブを回してみると、鍵が空いていた。ゆっくりドアを開け、中の様子を確かめる。
部屋の中は真っ暗で、グリムはベッドの毛布にくるまって横になっている。
「ダーリン」
呼びかけるが、返答はなくモゾモゾ動いているだけ……
「さっきのは良くないと思う……後で謝りに行こ?私も一緒に謝るから……」
「行かない。」
グリムの一言にロゼッタの言葉が止まった。
「もう、あいつらとは会わない。」
「……本気で言ってる?」
「本気だ。あんな奴ら……もう信用しない。俺はお前だけいればいい。」
「そんな……」
「そんなこと言ったらダメ」と言おうとした瞬間、毛布の下から手が伸びてロゼッタの腕を掴んだ。
「キャッ!?」
腕を掴まれたロゼッタは、そのままベッドに引きずり込まれ、同時にグリムが毛布を持ち上げて中に引き込んだ。
毛布の中で見つめ合う2人……しばし黙り込んだ後、グリムはロゼッタの方に身体を寄せた。
「……頼む……一緒にいてくれ……」
「ダーリン?そんなこと言われなくても一緒にいるよ?」
「そうじゃなくて……どこにも行かないでほしいんだよ……!ずっとこの家にいてくれ……!買い物だったら俺が行くし、家事でもなんでもやるから……」
いつもと違って弱々しい声を出すグリムに、ロゼッタは戸惑いながらも返答しようとする。
「でも、それじゃお仕事は……?」
「仕事なんて行かない……俺とお前の貯金あるし、金がないなら俺がチンピラから巻き上げてやる。」
「でも……ダーリン、それでいいの……?ダーリンの夢……叶えられないよ?」
グリムには「みんなを腹いっぱいにしたい」という夢があり、そのために飲食店を持ちたいと思っていた。
だが、グリムは首を横に振ってロゼッタの胸に飛び込んだ。
「いい……俺がやってたことはなんも意味なかったんだ……きっと、俺が店持ったって……なんも意味なんてない……」
「そんなことないよ……」
ロゼッタはグリムを抱きしめ、頭を撫でる。今までも甘えてきたことはあったが、今回のはそれとは違った。今のグリムはただ甘えたいのではなく、本気で慰めてほしいと思っている。
「そういえば……ベルト、取られちゃったね……」
グリムの頭を撫でながら、ロゼッタはカイザのベルトがミゲルに取られてしまったことを思い出した。
それに対し、グリムは……
「別に……どうだっていい……俺、仮面ライダー辞める。」
そのとんでもない一言に、ロゼッタの手が止まった。
仮面ライダーは、グリムにとってなくてはならない存在だったはず……それを簡単に捨ててしまう言動に、ロゼッタは啞然とした。
さすがに止めたほうがいいと思った……だが、言葉が出なかった。
(……ダーリンは傷ついてる……私が側にいなきゃ……)
「うん……いいよ。ダーリンが決めたことなら、私ついて行くから……」
深く傷ついているグリムに生半可な言葉などかけられるはずもなかった。自分がしてやれることは、彼に寄り添い慰めあげることだけ……ロゼッタはそう思った。
「よしよし……ずーっと側にいてあげるね。大丈夫だからね。」
「……ごめん……情けなくて……!」
ロゼッタの胸に抱かれ、グリムは啜り泣きながら謝罪を繰り返した。それに対し、ロゼッタはただひたすら慰め続けるのだった……
───────────────────────
そのころ、
「おのれ……おのれ、ランゴ……!!」
自分達のアジトへ戻ったギアン達。ギアンは応接室のような場所で、怒りのまま椅子を蹴り飛ばした。
「落ち着け。だいたい誰だ?ランゴってのは……」
「……すまない……気に入らん奴のことを思い出してしまってな……」
ライドに諌められて一旦落ち着きを取り戻したギアン。だが、頭の中には自分がもっとも嫌う男の顔と言葉が浮かんでくる。
『こんな簡単な仕事もできないんですか。ギアン、叔父さん……チッ、ショウマの方がまだ役に立ちそうだ……』
(今思い出しても腹が立つ……!アイツ、ブーシュの暗殺だって手伝ってやったのに……!!)
自分への恩を忘れ、自分を邪険に扱ったランゴに怒りが湧いてくる……だが、それをなんとか抑えてライドに尋ねた。
「ミゲルはどこに行った?」
「外だ。だが、正直驚いたぞ……グリムの野郎に弟がいたとはな……どこで情報を手に入れた?」
「聞いたのさ。大事な金づるからな……」
ギアンはニヤリと不敵な笑みを浮かべ、続けて高笑いを上げた。
「私には金がある……情報がある!金と情報で、私は天下を取る!そしてやがて……ストマック家に代わって、グラニュート界を支配するッ!!フハハハハハハハハハ!!!」
(そのためにも……なんとしてもロージーを手に入れてやる……)
高笑いをあげるギアンをよそに、ライドは自分の中に吹きすさぶ嵐を感じ取っていた。それと同時にグリムのことを思い浮かべた。
(アイツはこんなモンだったのか……?いや、アイツはまた俺の前に現れるはずだ……今度は邪魔者無しで、
それぞれの思惑と、残された謎……それが解き明かされたその時こそ、グリムとロゼッタの愛が勝利の鍵となることを、まだ誰も知らない。
おまけ「何考えてんだ」
秘密警察最強の男、ウォルター・クロフォードと“雷狼“ライド・イスルギ……2人がぶつかった時、史上最強の戦いが始まるだろう……
「……」
「……」
2人は椅子に座り、互いに睨み合っていた。
その様子をグリムとユーリは見守りながらヒソヒソ話をしていた。
「お、おい……睨み合ってからもう1時間経つぞ……?」
「す、すごい心理戦だ……」
2人とも大真面目に2人を見ていたが、当の本人達は……
(どうする……)
(どうしたものか……)
((いまさら、「そこの砂糖とミルク取って」なんて言えない……))
この後、話してみたら意外にも意気投合したのだとか……
──────────────────────
作中最強クラスの2人が会話をどうなるのか考えてみましたが……想像つかない……