ギアンがグリム達に顔を見せてから数日後、ライドはアタッシュケースを持って郊外にある屋敷を訪れていた。
ライドは中に入り、奥へと進んでいき……応接室に入った。
「おう……来たか。」
「お久しぶりです、
応接室にいたのは東国最大のマフィア組織「ブリッツファミリー」のトップ、トネール。
ライドはトネールの向かい側に座ると、アタッシュケースをテーブルに置き、中を開ける。中には大量の札束が。
「今月分の
「おう。」
トネールはそれを受け取り、ケースを閉じた。それを見届けるとライドは立ち上がった。
「なんだ、もう行くのか。」
「ええ、仕事がありますので……失礼します。」
ライドはペコリと頭を下げ、ドアを開けた。
しかし、トネールはライドを呼び止めた。
「待ちな。お前……なんだか変わったんじゃねぇか?」
トネールのその言葉にライドは一瞬目を見開いたが、すぐに真顔に戻った。
「……いえ、俺は何も変わってません。」
「最初に会ったころのお前は、目がギラギラしてやがった。自分のやりたいことに愚直に進む奴だった。結果、金も地位も手に入れた……だが、今のお前は……なんだか渇いちまってる。」
トネールの言う通り、ライドはブリッツファミリーのマフィアとして活躍し、今の
だが……ライド自身はそれを求めていなかった。もっと別のものを、この国で求めていた……
「………そいつは気の所為です、
トネールの返答を聞かず、そのままライドは応接室から出ていった。
そのまままっすぐ外を出て街へ戻ろうとした。だがその時、電話番をしていた下っ端がライドに声をかけてきた。
「ライドの兄貴!ライドの兄貴にお電話です!」
「誰からだ?」
「それが、名前を言わなくて……無視してもよかったんですが、万が一のこともありますし……」
「わかった……」
ライドは少しため息を吐きながら下っ端から電話を代わって出た。
「もしもし?」
『ライドか……私だ。』
「……ギア……いや、バートンか。」
電話の相手はギアンだった。ギアンはライドと電話をするなり、尋ねてきた。
『あれからロージーは見つかったか?』
「いや……あれから隠れてるみたいなんでな……」
そのライドの言葉にギアンは舌打ちを打った。
『なんで部下のマフィアどもを使わん?』
「……今回の一件は、俺が独断でやってる。俺の欲しいもののために、
『欲しいもの……力が欲しかったのではないのか?」
「お前にはわかんねぇよ……」
ライドはフッと笑い、通話を切って外に出た。
(俺が欲しいもの……それは……)
街へ向かっていく中、ライドは昔のことを……東国の兵士として東西戦争に参戦していた時のことを思い出した。
東西戦争が激化していた頃……砲撃と銃撃の嵐の中、自分は武器を持たずに戦場を駆けていた。目の前にいる敵を拳で叩きのめした。
あの拳を敵に叩きつけた時の歪む顔、折れる骨の音、痛みで叫ぶ敵の声、殴る度に痛む自分の拳……
「ククッ……クハハハハハハ……!!」
気がつけば笑っていた。それに気づいた瞬間、ライドは自分が求めているものを再認識した。そして、それをもたらしてくれる者は……
─────────────────────────
そのころ、喫茶シオンではロイド達が集まっていた。
「それじゃあ、みんなが集めた情報を聞かせてくれ。」
「では、私から……」
フィオナが一番手に名乗り出ると、カバンから資料を取り出した。
「これはグリムの出生届……親の欄を見てください。」
出生届の親の欄には、母親のところに当たり前だがヘレン、父親のところにはドノバンの名が書かれていた。
「次に……こちらを。」
フィオナが次に取り出したのは結婚届と離婚届のコピーだった。
「これは市役所に提出されたヘレンとグランツの結婚届と離婚届……日付を見てください。出生届の日付も一緒に。」
フィオナの言う通り、届け出の日付の欄を見た、が……なんと、結婚届、出生届、離婚届の順番で繋がっていたのだ。
「これ……つまり、グリムが生まれてすぐに離婚届が出されたってことか。」
「しかも……結婚届と離婚届の夫の欄……グランツになってるぞ。出生届はドノバンなのに……」
「もしかして……」
その時、フィオナの資料を読んで、ロイドは早速推理を始めた。
「ヘレンさんとグランツの子を……つまり、グリムをヘレンさんとドノバンの子ども……ということに書き換えられた……と考えられる。」
「でも……何のために?」
「それは……これからの情報次第。」
ロイドの言葉に続くようにユーリとノエルが口を開いた。
「秘密警察の方じゃいい情報は見つからなかったけど……かわりに良い物を手に入れたんだ。」
「これです!」
ノエルが取り出したのは、小さくて四角いスピーカー……録音レコーダーだった。
「前に、ドノバンとグランツが密会してるって記事見せたじゃないですか?その記事を書いた人が見つかったんです!」
ノエルはそう言うとレコーダーのスイッチを入れた。小さなスピーカーから声が聞こえる……
『アンタ……俺があの記事を書いた理由を聞きたいって?そうさな……俺はもう新聞社を辞めた身だし、言ってもいいか。』
『あのころ、ドノバンとグランツ……あの2人の間で人身売買が行われたって噂があってな……その情報を掴んだ俺は、喫茶店で網を張って……写真を撮った。これは特ダネ待った無し……だと思ったが、結局ゴシップ扱いで終わっちまった……』
『……えっ、どこからそんな噂仕入れたって?へへ、実は……ある人から情報もらったんだよ。ちょっと高かったけど……その人、名前なんて言ったかな……えーっと、バートンって言ったかな。』
「今の……バートン……つまり、ギアンが情報を売ったのか!」
「それに、人身売買って……」
今の話を聞くと、グランツがドノバンにグリムを、ひいてはミゲルを売ったように取れる。
すると、フリッドが口を開いた。
「なぁ、俺が見つけた情報がこの音源と繋がるかもしれない。」
「なんですか?」
「グランツは元々、西国保安局のしがない一員に過ぎなかった。だがそこに、当時の署長の娘との縁談が舞い込んだ。どうも、その娘さんがグランツに一目惚れしたらしいんだ。」
フリッドが掴んだ情報に、皆があることに気づき始める。
「じゃあ……グランツはヘレンさんと別れた後、その署長の娘さんと結婚……?」
「十中八九そうだろうな。そうすれば署長から気に入られるだろうし、出世にも繋がる。だが、これが人身売買とどう繋がるか……」
フリッドの言う通り、今の話だけではグランツが署長になるきっかけは掴めても、人身売買の件には繋がらない。
すると、ロイドはある物を取り出した。
「それは?」
「アベルが研究施設として使っていた場所が見つかったんだ。これは、そこで見つかった日記だ。読むぞ。」
ロイドは日記を開き、今回の件と関係がありそうなところを見つけて読み始めた。
《◯月3日》
《超能力研究をしていた私のところに、ドノバン・デズモンドが現れた。ある物を受け取って欲しい……そう言った彼が私に見せたのは、子どもだった。おそらくまだ2、3歳の、物心つく前の……だが、その子どもには身体がなかった。あるのは頭部、左肩、左腕、左胸部……つまり、左半身がなかった。ドノバンは息子を生きられるようにしてほしい……それだけ言って私の元を去った。》
《◯月4日》
《私はあの子どもを手製の培養液に入れ、なんとか命を繋ぎ止めた。だが、ここからが大変だ。この子用の、人工の左半身が必要だ。人工心臓や他の臓器も作らなければならない。》
《△月10日》
《あれから一ヶ月……どうにかこの子の身体は完成し、人間の姿にしてやれた。だが、人工心臓の方は定期的に交換しなければならない。人工心臓の寿命は約3年……スペアを大量に作ろう。そういえば、この子の名前を決めてなかった。そうだ、ミゲルという名前にしよう。》
《△月24日》
《ミゲルの身体が安定したことをドノバンに報告すると、彼はある計画書を突きつけてきた。「超人兵団計画」……超能力者を兵士にし、ありとあらゆる戦場に適応した特殊兵団……その一員を作るため、ミゲルを私に任せたのだ。》
《□月1日》
《ミゲルが目を覚まし、言葉を発し始めた。私は彼に言葉を教え、身体がなじむようにリハビリをさせた。……超人兵団に関してはまたドノバンと話す必要があるだろう。ミゲルをどこから拾ってきたかも気になる。》
《□月12日》
《経過報告を聞きにドノバンがやって来た。私は報告がてらドノバンにミゲルのことを尋ねた。なんと、聞けばミゲルはドノバンの子ではないらしい。グランツとヘレンという2人の間から生まれた子どもだとか。しかし、生まれてきた子どもはなんと、─────だった。当時、グランツには次期署長のポストが待っていた。だが、生まれた子どもがこんな状態ではマスコミが押し寄せてくる。それだけは避けたかったらしい。なんでも、グランツは二股をかけていた。お相手は署長の一人娘……もし子どものことがバレてしまえば、次期署長の件はなかったことにされてしまう。そこにドノバンが現れ、息子とヘレンを買い取った……ということらしい。》
《□月13日》
《私は先日ドノバンから聞いたことを正直にミゲルに伝えるべきか迷った。だが、このことは私の胸にしまった方がいいだろう。言えば、彼はショックを受けるだろう。今はミゲルの成長を見届けることが先決だ。》
ここからページが飛び、最後の方まで進めた。
《◯月10日》
《やはり、思った通りだ……津上君が、アギトが現れたことで研究所にいた超能力者達に変化が起きた。それはつまり、ミゲルにも変化が起きたと推測できたが……案の定、ミゲルにもアギトの力が宿った。だが、変身した時の姿は津上君とは違う……アナザーアギトと呼ぶべきか……後日、また経過を日記に記そう。》
《◯月17日》
《戦闘能力のテストをしてみたが、やはり凄まじい……この日はご褒美にミゲルに好きなものをご馳走してやろうと思ったのだが、それに対してミゲルはこんなことを言った。「もし、僕に何かあったら、兄さんのことをお願いします」……ミゲルはそう言った。ミゲルの兄と言える男……グラハムのことは知っていた。元々はミゲルと身体を共有していた。私が驚いたのは、ミゲルがそのことを認知していたことだ。物心つく前に別れたというのに。ミゲルは続けて「兄さんは僕と違って幸せなはずだから、僕のせいで邪魔をしたくない。もし僕のことを覚えていたら、その記憶を消してほしい」と言った。……なんと優しい子だろう。私は、できれば彼の願いを叶えてやりたいと思った。》
《▽月22日》
《ミゲル、すまない。私はお前との約束を守れない……私とグラハムは復讐に囚われてしまった。私は最愛の人を奪ったドノバンを許せない……グラハムも、勘違いとはいえ私と同じ気持ちだ。この復讐心を抑えることはできない。せめて、復讐を遂げられるようにしてやりたい。最後になるが、ミゲル……もしこれを読んでいたら、これだけは伝えておく。グラハムから君の記憶は消しておいた。その約束だけは果たした。本当にすまなかった。兄と会わせてやりたかった。津上君やアーニャとも会わせてあげたかった……》
「……ここで日記は終わってる。」
「パパがミゲルのめんどうみてた……」
「ああ……この日記を元に、今までの情報をまとめてみよう。」
ロイドはホワイトボードに今までの情報を箇条書きにしてまとめ始めた。
・ヘレンとグランツは恋人同士で、2人の間に子どもを身ごもっていたが、グランツは署長の娘と二股をかけていた。
・やがて生まれた子ども(グラハム)にはミゲルがくっついていた。
・子どものことが世間やマスコミにバレると二股が露呈し、次期署長の座を失う。
・そこにドノバンが現れ、グラハムを金で買い取った。その後、おそらく手術でグラハムからミゲルの部分を取り除いた。
・その後、ミゲルはアベルの研究所に引き取られた。
・数年後、アンノウンの事件が起こり、アベルはグラハムからミゲルの記憶を消し、行動を共にする(その間、ミゲルの動向は不明)
「だいたいこんな感じだな……」
「こうして見ると、グランツって外面はいいけど、内面はクソだね……」
「ああ……逆に、ミゲルは兄であるグリムのことを大切に思ってる……アーニャが聞いた心の声のことを考えると……」
ミゲルはあの時、心の中で「ぼくを殺して」と叫んだ。その声をアーニャが聞いた。
このことと今までの情報を合わせると……
「……嫌な予感がする……このことをグリムに知らせた方がいい……!」
────────────────────────
「フーンフーン♪フンフンフーン♪」
鼻歌を歌いながらロゼッタはベッドの上に座っていた。ロゼッタの膝の上にはグリムが眠っていた。
「スーッ……スーッ……」
子どものような寝顔を浮かべ、右手の親指を口に咥えて、まるで幼児のようになっていた。
そんなグリムを見ながら、ロゼッタは優しく微笑みながら頭を撫でた。
「ロゼッタ……ずっといっしょ……どこにもいかないで……」
「……私はどこにもいかないよ……」
(ずっと……このままで良いのかな……)
子どものように眠るグリムに愛しさを覚えたロゼッタだったが、このままでいいのか不安を抱いていた。だが、この不安を拭う方法など見つかる方法など浮かぶはずもなく……その日を過ごすしかなかった……
同時刻……
「やっと見つけた……ミゲル……」
「君は……ショウマくん……」
おまけ「外伝キャラの元ネタ」
今回の外伝に登場するキャラ3人には元ネタというかモデルになったキャラが存在します。
ライド・イスルギ……久瀬大作、阿波野大樹(龍が如くシリーズ)
ミゲル……うちはイタチ(NARUTO)、雪代縁(るろうに剣心)
ギアン・ストマック……千石虎之介、堂島宗兵(龍が如くシリーズ)
だいたい2人ぐらいのキャラがミックスされてできたのがこの3人になります。