SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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Part.9 たとえ自分が犠牲になっても

 

昼間の港……穏やかな風が海を揺らす中、ショウマとミゲルは出会った。

 

「……よくここが分かったね。」

「……ポケット。」

 

ショウマはミゲルのズボンのポケットを指さした。ミゲルはポケットに手を入れて確かめた。

 

「なるほど……この子か……」

 

ポケットに入っていたのはゴチゾウだった。ショウマがミゲルを見つけられたのはゴチゾウのおかげだった。

ミゲルはフッと笑い、ゴチゾウをショウマに投げ返した。

 

「ぼくに何の用なのかな。」

「話し合いに来たんだ。」

 

ショウマの一言にミゲルはキョトンと目を丸くした。

 

「話し合いって……ぼくは敵だよ?」

「敵だけど……ミゲルとは一度話してみたかったんだ。」

 

ショウマは港に設置されているボラードを椅子代わりにして座った。

 

「……あの時、俺達と一緒にいたアーニャって子が……ミゲルがグリムに殺されたがってるって……本当なの?」

「……あの子には筒抜けか。でも、君には関係ない話だろう。」

 

ショウマは首を横に振った。

 

「そんなことない……俺も、お母さんを失ったから……」

 

ショウマのその言葉に、ミゲルは目を見開いた。思わぬ共通点に驚いたミゲルだったが、すぐに真顔に戻った。

 

「そう……だから何?」

「だからその……気持ちは分かるんだ。どうして自分を残したのか、どうして死んじゃったのか……ずっと悩んで……もしかしたら、自分のせいなんじゃないかって……」

「もうやめてくれないかな!そういうそれっぽいこと言うの!」

 

その時、ミゲルは突然声を荒げた。

 

「君にはなんの関係もない……!ぼくに関わってくるな!」

 

怒鳴り声をあげて、その場から立ち去ろうとするミゲル。ショウマは慌てて立ち上がり、ミゲルを呼び止めようとする。

 

「待って!!このままじゃ、グリムは君のことを殺そうとする……そんなのダメだよ!!」

「別にいいよ。ぼくはそれを望んでるんだから……」

「でも……!」

「ショウマくん。」

 

立ち去ろうとするミゲルは、その時足を止めた。

 

「……君は、殺されてもいいと思うくらい誰かを愛したことはある?」

「えっ……?」

 

それだけを言い残し、ミゲルはその場から立ち去った……残されたショウマはただただ戸惑うだけだった。

 

「どういう意味なんだ……?」

 

────────────────────────

 

そのころ、グリムとロゼッタが住むマンションの一室にインターホンが鳴り響いた。

 

「はーい。」

 

ロゼッタはドアを開けた。そこにいたのはロイド達だった。

 

「やぁ、グリムはいます?」

「ダーリンは、その……」

「何しに来たんだよ……!」

 

グリムのことを聞かれて濁そうとするロゼッタだったが、それより早くグリムが割って入ってきた。

 

「帰れよ……ここは俺とロゼッタの場所だ!関係ない奴は出てけよ!」

「関係ないって……私達、ミゲルさんやグランツのことを私達なりに調べてきたんです……」

 

ヨルは慌てながら諭そうとするが、グリムはぷいと顔を背ける。

 

「聞きたくない!」

「すいません……ダーリンもこう言ってますから……今日のところは……」

 

ぺこぺこと謝りながらロゼッタはロイド達を帰そうとする。しかし、ロイドはロゼッタに言った。

 

「すいませんロゼッタさん……席を外してもらえますか?」

「え……」

「失礼ですけど、そうやって甘やかしてもグリムのためにならない。」

 

ロイドの言葉にロゼッタは何も言えなかった。ロイドの言う通り、ロゼッタはただただグリムを甘やかしているだけ……ロゼッタ自身もそれは分かっていた。

 

「てめぇ、ロゼッタに何吹き込んでんだよ!?」

 

怒ったグリムがロイドに飛びかかろうとしたが、フリッドとユーリがそれを止めた。

 

「ロゼッタさん、今のうちに……」

「でも……」

「荒療治も必要です。ロゼッタさんは買い物にでも行っててください。」

 

ロイドに促され、ロゼッタはグリムのことが気になりながらも部屋を出ていってしまった。

 

「ロゼッタ……!待って!行かないで……一人にしないで!」

「何が一人だ!ぼくらのこと忘れるな!ほら、いくぞ!」

 

ユーリとフリッドは暴れるグリムを連れて部屋の奥へ進んでいった。

そのころ、部屋から放り出されたロゼッタの方は行く当てもなく、とりあえず公園に訪れた。

 

「……私、どうしたらいいんだろう……」

 

グリムとどう接すればいいかロゼッタは迷った。そんな時、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「ミスロゼッタ。」

「あ……”K”さん。」

 

顔を向けるとそこには”K”の姿があった。

 

「それと……」

 

その他に2人、元神化教団、現ガーデンの殺し屋のイグニスと、同じくガーデンの弟切がいた。

イグニスとは面識があるが、弟切とは会ったことのないロゼッタは首を傾げた。

 

「ぼくらの先輩で、弟切っていいます。」

「……ふんっ」

 

弟切という名前は聞き覚えがあった。いつもグリムが愚痴っていたのでよく覚えていた。

 

「フリッドさん達から頼まれて……グリムと話す間だけあなたの護衛をしてほしい、と……」

「チッ……なんで俺がイチャつきカップルの護衛なんぞ……」

 

弟切は護衛に不服なのか舌打ちを打っていた。

 

「まぁ、あのグリム(バカ)はいい様だな……女といちゃついてばかりだからこうなるんだ。」

 

弟切のその言葉に、なぜだかロゼッタの胸は痛くなった。

 

「その点、俺はずっと独り研鑽を積み重ねて……ぐふっ!?」

 

自分語りをしようとした瞬間、イグニスは弟切の腹に肘を入れて遮らせた。

 

「この人の言うことは無視していいですから。それより、フリッドさん達から経緯は聞きました……その、何と言えばいいか……」

「私のことはどうでもいいんです……それに、ダーリンがああなっちゃったのは、私のせいでもあるんです……私がギアンと関わらなければ……ダーリンが私と出会わなかったら、こんなことにならなかったのに……」

 

ロゼッタは泣いてしまった。グリムがあんな風に変わってしまったのは自分のせいだと思い込んでいた。

そんなロゼッタに対し、”K”はハンカチを取り出してロゼッタに差し出した。

 

「すいません……」

 

ハンカチを受け取ったロゼッタはそれで涙を拭う。

 

「私……戻ってきてほしいです。昔のダーリンに……強くて、カッコよくて、面白くて、食いしん坊で、でも甘えん坊で……夢のために一直線な人で……私は、昔のカッコよかった頃のダーリンとまた一緒にいたい……!」

 

ロゼッタの涙の訴え……それを聞き、なんとかしてやりたいという気持ちに駆られる……だがその時、

 

「悪いが、お前さんの願いは叶わねぇ。」

 

聞き慣れない声が聞こえ、ロゼッタは顔をあげる。そこには、

 

「ラ、ライドさん……!」

「よぉ、連れ去りにきたぜ。」

 

ライドの姿を見た途端、ロゼッタを守るように他の3人は身構えた。

イグニスは懐に隠した銃剣を抜き、弟切は仕込み杖から刀を抜き、”K”は両手で手刀を作る。

対し、ライドはゴチゾウを取り出した……が、すぐにポケットにしまってフッと笑った。

 

「おめぇらには必要ねぇか……」

「なっ……!?舐めるなぁ!!」

 

3人は一斉にライドへと襲いかかり、ライドは拳を握りしめた……

 

────────────────────────

 

そのころ、グリムとロイド達は……

 

「グリム……いい加減話を聞いてくれ……」

「聞かない!はやくロゼッタのところに行かせろ!……俺が信じられるのは、ロゼッタだけなんだ!」

 

グリムはロイド達の話に耳を傾けようとしなかった。ひたすらロゼッタのことばかりを言っていた。

 

「お前に関係することなんだ!どうしてグランツがヘレンさんを捨てたのか、何故ドノバンが父親を名乗ったのか、ミゲルが何者なのか……」

「お前はそれを知るべきだ!」

「どうだっていい……そんなの……」

 

その時、ユーリがテーブルをドン!と叩いた。

 

「いい加減にしろ!さっきから聞いてれば……何様だお前!!ぼくは、最近お前のことを見直してたんだぞ!」

「こうさせた原因の一つはお前らだろ!!人に隠れて人の過去調べやがって……!!」

「だからそれは、お前が傷つくと思ったから……!!」

 

なんとか宥めようとするロイド達だったが、次の瞬間グリムは叫んだ。

 

「うるさいうるさいうるさい!!!俺にはロゼッタがいればそれでいいんだ!!夢も何もいらない!!ライダーの力もいらない!!どうせ俺はオルフェノク……いつ死ぬか分かんねぇんだから、大切な人と一生そばにいたいと思うことが……いったい何が悪いってんだよ!!」

 

もはや取り付く島もない。諦めかけたその時、家の電話が鳴り響いた。

 

「俺が出るよ……」

 

グリムの代わりに近くにいたフリッドが電話に出た。

 

「もしもし?」

『うぅっ……フ、フリッド…さん……』

「その声……イグニスか?」

 

電話の相手はイグニスのようだが、どうも様子がおかしい。

すると、別の男の声が聞こえてきた。

 

『よぉ……ライドってモンだが……』

「ライド……!?」

 

フリッドの一言を聞き、その場にいた全員が顔を向けた。

 

『グリムはそこにいるか?』

『はやく……!ロゼッタさんが、あぶな……!ぐぁぁぁぁぁ!!』

 

受話器からイグニスの悲鳴がこだまする。

 

「お前……イグニスに何をした!?」

『あんまりうるせぇモンでな……黙らせた。それより……グリムの野郎を連れてこい。嫁さんを攫われたくなかったらな……場所は……』

 

ライドは場所を伝えると一方的に電話を切ってしまった。

フリッドはすぐさまロイド達に事情を説明した。

 

「ロゼッタさんが……!?」

「ロゼッタ……!クソッ!お前らがアイツを外に出すからだ!!」

 

グリムは怒鳴り声とともに外へ飛び出した。ロイド達は慌てて後を追いかけ、ライドが指定した場所である公園へと足を踏み入れた。

そこに広がっていたのは、イグニス、弟切、”K”が傷だらけで寝転がっている光景だった。

 

「イグニス!」

「す、すいません……!こいつ、変身しないで……生身の状態でぼく達3人を……!!」

「こいつは……強すぎる……!!」

 

対するライドの方はというと、ライドは傷一つなくベンチに座ってタバコを吸っていた。隣には俯いているロゼッタの姿があった。

 

「ロゼッタ!!」

 

グリムはすぐさまロゼッタに向かって駆け出した。しかし、それと同時にライドが立ち上がって、グリムの前に立ちはだかった。

 

「邪魔だ!!そこどけやっ!!」

「チッ、ガキが……おい、女ぁ!」

 

ライドに呼ばれ、ロゼッタはビクッと身体を震わせた。

 

「そこ動くんじゃねぇぞ……痛い目に遭いたくなきゃな……」

「俺のロゼッタに……!舐めた口を聞くなァァァ!!」

 

雄叫びとともに顔に模様を浮かばせてライオンオルフェノクへと変身し、ライドに殴りかかった。

しかし、ライドは片手だけでその拳を止めた。

 

「興奮しやがって……ゴリラかてめぇは。」

「この……!変身しやがれ!!」

グリムがそう言うと、ライドは鼻で笑った。

 

「今のお前ごときに変身なんか必要ねーんだよ。中途半端なお前なんて、変身するに値しねぇんだよ。」

「……!!」

 

ライドの言葉を聞いて怒りが湧いてきたが、同時にショックも受けた。その隙にライドはグリムの腹に拳を叩きつける。

 

「ぐふっ!?」

「オラァッ!!」

 

怯んだところで顔面にストレートパンチを繰り出す。しかしグリムはなんとかかわし、灰色の槍を取り出して突きを繰り出す。

ライドは後ろに跳んで突きをかわしたが、背後の電柱に背中がぶつかった。

 

「もらっ……!!」

「ダァッ!!」

 

追い込んだと思ったグリムはもう一度槍を突き出すも、ライドは電柱を蹴ってグリムの背後に周り、後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす。

 

「この……野郎!!」

 

グリムはライドに向かって思い切り槍を投げた。高速で近づいてくる槍を、ライドは軽々つかみ、そのまま回転してグリムに向かって投げ返した。

 

「!!」

 

咄嗟に反応できず、グリムはよけきれずに肩に槍が突き刺さってしまう。

 

「がっ……!?」

「その程度かよ……がっかりだな……」

(お前なら、俺の渇きをなんとかしてくれると思ったんだがな……)

 

グリムとライドが戦っている間に、ロイド達はベンチに座っているロゼッタに駆け寄った。

 

「ロゼッタさん!今のうちに……!」

 

ロゼッタを連れて行こうとしたが、何故かロゼッタは動かなかった。

 

「ロゼッタさん……?」

「みんな……ごめんなさい……」

 

ロゼッタは一言謝るとベンチから立ち上がった。そして……

 

「ライドさん!!私……バートン叔父様のところにいきます!!」

『!!?』

 

ロゼッタの選択に、その場にいた全員が驚いた。

 

「ほぉ……来る気になったか……」

「なんだよそれ……!?おい、笑えねえぞ!冗談やめろよロゼッタ!!」

「冗談じゃないよ、”クソ野郎”。」

 

ロゼッタの一言にグリムは頭の中が真っ白になった。ロイド達も同様の反応だった。いつもいつも「ダーリン」と呼んでいたロゼッタからは想像できない言葉だった。

 

「な、何言って……」

「”アンタ”みたいな貧乏人ともう一緒にいれない。叔父様についていけば、贅沢な暮らしできるし……そっちに鞍替えするわ♪」

 

無邪気な笑顔を浮かべてそんなことを言うロゼッタが信じられず、グリムは子犬のように震えた。

 

「それに……私、ずっとアンタのこと気持ち悪いって思ってたんだよねぇ〜。ちょっと顔がカワイイから世話してやったら図に乗っちゃって……めちゃくちゃウザいし、事あるごとに甘えてきてキモかった!」

 

それからロゼッタによるグリムの罵倒は続き……グリムは思わず耳を塞いでその場に蹲った。

自分のことを愛してくれたはずの人がこんなことを言うはずがない……それが瞬く間に壊れていく感覚に混乱してしまう。

 

「だから、私は叔父様のところに行くわ。アンタらも……」

 

その時、ロゼッタはロイド達の方に顔を向けた。

 

「たった一人の女のためにわざわざ無駄足ご苦労さま♪」

 

ロゼッタがそう言い放った瞬間、ロイド達は目を見開いた。決してロゼッタの言葉に動揺したのではなく、それを言い放った時の彼女の表情……ロゼッタは言葉ではバカにしながらも、泣きそうな顔を見せていたのだ。

ロゼッタはロイド達やグリムから顔を背け、ライドに連れられていった。

 

(ロゼッタさん……まさかわざと……!?)

「待ってください、ロゼッタさん……!!」

 

ロゼッタがひどいことを言った

慌てて後を追おうとするが、

 

「追ってくるなら好きにしな……だが、俺を倒すことができるんなら……な。」

 

ライドの脅し文句にロイド達の足は止まった。グリムを一蹴し、イグニス達3人を生身で倒したライド。そんなライドを倒すことなどロイド達にはできない……

迷っている間に、ライドとロゼッタは姿を消してしまった……

 

「うっ……うっ……!!うあぁぁぁぁぁぁぁ……!!!」

 

グリムは泣き叫んだ。愛する人に嫌われ、拒絶されたことによる絶望感、全てを失ったことによる喪失感が襲いかかる……グリムは大声で泣き叫ぶことしかできなかった……

 

そして、泣いているのはグリムだけではなかった……

 

「ん……?」

 

ロゼッタをギアンの元に連れて行く車の中、ライドは隣に座るロゼッタの様子がおかしいことに気がついた。

……彼女は泣いていた。声を殺しながら。グリムを救うために、これ以上周りを巻き込まないために嘘をついた。だが、結果的にグリムを傷つけてしまった。

その罪悪感のあまり、ロゼッタは泣いた。

 

(ごめんね……ダーリン……でも、これでいい……私が犠牲になれば、解決するから……だから、私のことは忘れて……もっと素敵な人と……バイバイ……)

 

 

 

 

 




おまけ「そこは同意します」

「私、ずっとアンタのことあーだこーだ……」
「うぅぅぅぅ……」

ロゼッタの罵倒が始まり、グリムは思わず泣いてしまう。

「ロゼッタさん……なんてことを言うんだ……!」
「それにアンタ、ご飯食べ過ぎ!!一人でどんだけの量食べてんの!フードファイター!?月の食費結構ヤバいんだからね!?」
「それは……ごめんなさい。」

食事の話題が出た瞬間、グリムは泣き止みロゼッタに頭を下げて謝った。

「ロゼッタさんも気にしてたんですね。」
「今までの鬱憤が出ちゃったか……」

────────────────────────

辛い展開にこそギャグをひとつまみ……私の作品恒例のやつ

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