SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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Part.17 涙が降る前に君が必要

 

ギアンの死から2週間……西国保安局本部の屋上に、グランツの姿があった。

 

「……私を呼んだのは、君かね?」

「ええ、申し訳ありません。お呼び立てして……」

「……君は?」

「あなたが資金援助をしているWISEの一員ですよ。」

 

グランツの前に現れたのは、WISEの構成員“法条“。グランツをこの場で呼び出したのは彼だった。

 

「立場上、自由な時間が短いものでね……本題に入ってくれるかな。」

「それではまず……この間の殺人・人身売買の件の対応……ごくろうさまでした。」

 

法条の一言に、グランツは眉をピクリと動かした。

 

「……だが結局、あれは根も葉もない噂だった。単なるゴシップで終わったよ。」

「確かに、あれにはなんの証拠がありませんでしたからね。」

 

その時、後ろの階段に続くドアが開き、そこから数人の警官らしき男達が入ってきた。

 

「おや、彼らはあなたの部下ですか?」

「私にとって、西国の警官は皆部下だよ。」

「確かに……ごもっとも……」

 

法条はフッと笑ったが、ポケットからあるものを取り出した。それは使い古した手帳だった。

 

「……それは?」

「先週から失踪したギアン(バートン)氏の部屋で見つかったメモ……平たく言えば、バートン氏に買収された者達のリストです。」

「なに……?」

 

法条の発言と突然現れたそのメモにグランツは眉をひそめた。グランツにとって、そのリストはあってはならないものだった。

 

「バートン氏は累計1億におよぶ大金を方々へ送金していたようです。表には出せない賄賂です。その金の流れを逐一記録していたのが、この手帳……というわけです。まぁ、まさかこんなものが出てくるとは……瓢箪から駒というべきか、それとも棚からぼた餅というべきか……」

 

得意気に語る法条を尻目に、グランツは目に見えて額に汗を搔いていた。

 

「おや、少し顔色悪くないですか?グランツ局長。……バートン氏の1億は様々な口座に散らばった後、あなたや他の幹部連中の口座に収まっていました。このリストを元に流れを解析すれば、あなたや他の幹部達が収賄罪でまとめて逮捕……ということになりますね。」

 

法条はグランツに近づこうとした。すると、

 

「こ、この男を捕まえて、持ってる物を全て確かめろ!!」

 

グランツは慌てて法条の後ろにいる警官達に命令した……だが、警官達は動かなかった。

 

「ど、どうした!?何をしている!?」

「いまさらジタバタしても遅いですよ。もうあなた以外のお偉い方にはもう報告済みです。その腰が重くならないように、マスコミの知り合い(ノエル)にこのリストのコピーを送っておきましたよ。」

「ハ、ハッタリだ!そんなことをしてもWISEに何のメリットもないだろ!私がWISEにどれだけ資金援助してやったと思ってる!?」

 

WISEはさんざん世話してやった、と言わんばかりに金の話を持ち込むグランツ。しかし、法条は鼻で笑い、事実を突きつけた。

 

「そのことですが、実は最近……WISEに5億ダルクも寄付してくれた方がいましてね。」

「な……!?」

「私の計算では、この寄付金だけでもWISEは後20年は運営できます。つまり……WISEはもうあなたを必要としていない。」

 

法条はそう言うと、指をパチンッと鳴らした。すると後ろにいた警官達が一斉に動き出し、グランツを拘束した。

 

「これは罠だ!策略だ!私を陥れようとする誰かの仕業だ!!離せ!!私が賄賂を受け入れたのは、民衆のためだ!賄賂で受け取った金で、治安維持を高めていたんだ!!」

 

最後の悪あがきなのか、グランツはとんでもないことを口走ったが、法条は冷静にその言葉を返していく。

 

「……確かに、これまで西国では怪人騒動以外で目立った事件や騒動はありませんでした。そういう点でいえば、賄賂にも意味はあったんでしょう。ですが……それとは別に、あなた自身も自由に使える金を手に入れてたんじゃありませんか?」

「!!」

「賄賂を使って治安維持をしつつ、そこから小遣いも手に入れる……上手いことやりますねぇ」

 

図星だったのか、グランツは何も言えずに唇を噛んだ。そのままグランツは警官に引き摺られていく……

 

「あっ、そうだ!グランツ()局長!WISEに5億もの資金援助をしてくれた人……気になりませんか?」

「は……?」

「あなたがドノバン・デズモンドに売った子ども……あなたが捨てた息子さんですよ。」

 

その言葉を聞いた瞬間、グランツは愕然とした。自分が闇の中に捨てたはずのあの子どもが、自分をここまで陥れたという事実にグランツは何も言えなくなった。

 

「フフッ、どんな気分ですか?自分がゴミみたいに捨てた存在に反逆されて、トドメを刺された気分は……」

 

その言葉にグランツはもはや何も言い返すことができず、そのまま警官達に引き摺られていった……

その時、法条の脳裏に浮かんでいたのはロイドの言葉だった。

 

『法条……頼みがある。グランツの奴に……一泡吹かせてほしい。グリムにこの役をやらせるのは……』

 

法条にこの役を頼んだのはロイドだった。グリムに実の父親を追い詰める役をやらせるのはあまりに酷だと判断したからだ。

 

「……まぁ、あの黄昏が、この私に頭を下げた……というだけでも、“良し“ですね。」

 

──────────────────────

 

そのころ、

 

「……ミゲル、今、ブリッツファミリーに5億の上納金納めたとこなんだ。」

 

グリムはロゼッタ、ショウマ、それとフォージャー家の皆とともにミゲル……の墓に報告に来ていた。

皆、喪服を来て墓前に花を供えた。そして、グリムは墓前の前でミゲルに向けて近況を話していた。

 

「まさか、ロゼッタの遺産があんなとこに隠されていたなんて……俺も知らなかったよ。」

 

あれは、今から4日前、ギアンとの戦いから3日後のことだった。

 

───────────────────────

 

「ロゼッタ、君の隠し財産の在り処がわかった。」

「本当ですか!?」

「いったいどこに……?」

「その前に、ロゼッタ……君は万年筆を持ってるか?」

 

シルヴィアからの突然の質問にロゼッタは首を傾げた。不思議に思いながらも、ロゼッタは自分の部屋の棚から万年筆を取り出して持ってきた。

 

「この万年筆……亡くなった両親からもらったものなんです。何があっても、これは失くさないようにって……」

「それが正解だ。なんせ、この万年筆こそが鍵なんだからな。」

 

シルヴィアはロゼッタから万年筆を受け取ると、ペン先を取り外した。取り外されたペン先を見て、皆は目を疑った。

 

「これ……マジで“鍵“だ!」

 

取り外されたペン先の反対側が、鍵の形をしていたおり、万年筆の中に隠されていたのだ。

 

「君のご両親はこの万年筆が鍵だと知っていた……だから君にこれを持っているように伝えたんだ。」

「まさか、こんなのに隠されてたなんて……」

 

その後、シルヴィアはグリムとロゼッタは隠し財産がある場所へと案内した。その場所は、かつてロゼッタが暮らしていた屋敷の跡地……

戦争の影響で屋敷はなくなっていた。シルヴィアは敷地内のとある場所に立った。

 

「資料によると、確か……ここだ。」

 

シルヴィアはある場所の地面を擦った。そこは鉄板を普通の床に偽装していた。

 

「グリム、引っ剥がせ。」

 

言われた通り、グリムは鉄板を力任せに引っ剥がした。鉄板の下には階段が隠されており、地下へと続いていた。その下へ降りると、目の前に鍵の付いた扉が現れる。

ここで出番なのが、件の万年筆。万年筆のペン先を反対にして付け直し、鍵を鍵穴に指して回し……鍵を解除した。

ドアを開くと、そこには大量の金塊の山があった。

 

「なんじゃ、こりゃ……!?」

「こんなのが屋敷の地下に……!?」

「これは予想以上だな……」

 

金塊の山を見ながら仰天する3人。その時、ロゼッタは金塊の側に置かれていた手紙に目が入った。

それを手に取り、読み始めた。

 

「これ、お父様の……!」

《これが読まれているということは、私はおそらくこの世にいないだろう。ここに、バルドナク家の全てを記す。》

 

手紙に書かれていたのは、バルドナク家の繁栄の歴史と罪の歴史だった。

バルドナク家は小さい村の領主だった。裕福ではなかったが、食うには困らない暮らしをしていた。だがある日、バルドナク家の初代当主……すなわちロゼッタの先祖は鉱脈を見つけた。それは金の鉱脈だった。それを見つけた当主はその金で大儲けした。

だが……バルドナク家はあろうことかその鉱脈を独占した。独占するために村に住んでいた住人を無理やり遠くへ引っ越しさせた。時に引っ越し費用代わりに大金を払い、鉱脈に近づこうとする者がいれば人を使って殺害、神隠しを起こしたこともあった。

そうしてバルドナク家は土地を、鉱脈を独占して財を築いていった。

 

《……これがバルドナク家の歴史と罪だ。すべては初代が起こしたこと……生まれてきた子ども達にも罪があるといえば微妙なところだ。だが、いずれはこの金塊は処分しなければならない。そこで、ロゼッタにこの金塊を託す。どう処分するかはお前に任せる。バルドナク家最後の仕事をお前に託す。》

 

……手紙はここで終わっていた。

 

「……なんか、無責任だな。」

「……お父様、昔から大雑把なとこあったから……」

「大雑把すぎね?でもまぁ、処分していいっていうなら遠慮なくもらっとこうぜ。」

 

こうして、グリムとロゼッタは10億ダルクもの金塊を手に入れ、半分の5億ダルクはWISEに、もう半分はブリッツファミリーの元に納められたのだった。

 

────────────────────────

 

「はっ!?この街を出ろって!?」

 

墓参りの帰り道、ロイドから受けた言葉に思わず声をあげたグリム。

 

「ああ、そうだ。お前……この街に来てからロクなことなかっただろ……育ての親、幼馴染、兄貴分、弟……」

 

ロイドの言う通り、グリムの人生は今まで失ってばかりだった。親兄弟だけでなく昔なじみまで失っているグリムの人生をロイドは憂いた。

 

「この街が、いや……こんな国があるから、お前は苦しんだ……だから、悪いことは言わない。ロゼッタさんと一緒にこの街を出て……」

「悪いけどパス。」

 

ロイドからの提案をグリムはあっさりと断った。

 

「……確かに俺は失ってばっかだった……でも、俺の居場所はここだけだ。この街に来てから、俺はロゼッタやアンタらと……かけがえのない仲間に出会えた。俺は、アンタらとこの街になんの恩も返せてない。」

「グリム……」

「だから……そんなこと言わないでくれよ。その、ずっと俺の仲間でいてくれよ……」

 

自分で言ってて恥ずかしくなったのか、グリムは頬を赤く染めながら自分の願いを語った。すると、アーニャが抱きつくようにグリムの脚にしがみついた。

 

「ういっ!ぱいせん、アーニャのなかま!」

「きゃっきゃっ♪」

「ふふっ、シエルちゃんも同じ気持ちみたいです!」

「わかった……お前がそう言うなら、俺は何も言わない。」

 

ロイドはフッとため息をつきながらグリムの肩を軽く叩いた。

すると、今度はショウマがグリムに声をかけた。

 

「俺も、おんなじ気持ちだよ。俺はこの世界から離れることになるけど……遠くからでもグリムのことを見守ってるから……」

「ありがとな、ショウマ……」

「それと……」

 

ショウマはチラリとロゼッタの腹を見て微笑んだ。

 

「お腹にいる子どものことも……ね。」

「へへっ……ありがとな!」

「……ん?」

 

その時、ロイドが声をあげた。同時にアーニャとヨルも首を傾げた。

 

「そういえば……ロゼッタさん、お腹大きくないですか?」

 

ロイドの言う通り、ロゼッタの腹をポコっと突き出ていた。まるでお腹の中に新しい命を宿したような……

 

「えーっと……1週間前に妊娠が発覚したんですけど……お医者さんが言うにはお腹の子は3ヶ月ぐらい経ってるって……」

 

フォージャー家は頭の中が混乱しかけていた。1週間前に妊娠が発覚した……にも関わらず、お腹の子どもは3ヶ月ほど経っている……

 

「……俺らなりに考えたんだけどよ、ギアンとの戦いの時……デカいアギト出てきただろ?アレが俺らの子どもで、俺を助けるために力を覚醒させた……その影響で妊娠3ヶ月が経過した……ってことなんじゃないかと思ってよ。」

「うーん……分かるような分からないような……」

 

アギトは未知の力……いまだ解明されていないこともある……グリムの解釈も正しいかもしれない、とロイド達は納得することにした。

 

────────────────────────

 

その後、墓参りを終えたグリム達は喫茶シオンへと戻ってきた……だが、喫茶シオンの前に、他の仲間達がたむろしていた。

 

「あれ……どうしたんだよ、みんなして。」

「いや……もしかしたらグリムとロゼッタさんが街から出るんじゃないかって、ユーリが……」

「お、お前……!それを言うなって言ったよな!?」

 

首を傾げるグリムに、フランキーはからかい半分で話す。対し、ユーリは顔を赤くしながら声を荒げた。

 

「……で、どうなの?アンタ、この街から出ていくの?」

 

フィオナはグリムに尋ねた。ここに来ている仲間達は、グリムのことを心配して来てくれた……それを理解したグリムは頭を掻きながら、ヨルの方に顔を向けた。

 

「……ヨル先輩、後頼むわ。」

「えっ?」

「シラフで何度も言えるかよ……あんなこと……!」

 

グリムは顔を真っ赤にしたかと思うと、皆の間を通り過ぎて向こうの方へ行ってしまった。

 

「ダーリン待って!」

 

ロゼッタは慌ててその後を追いかけた。残された仲間達はグリムの背中を見送っていた……が、ヨルは笑ってさっきのことを話し始めた。

 

『プッ、アハハハ……!!』

 

仲間達の笑いがこだました。

 

フィオナ……

「へぇ、そんな恥ずかしいことを?」

 

ユーリ……

「本当にそんなこと言ったの、アイツ?」

 

フリッド……

「グリムらしいじゃないか……」

 

フランキー……

「なぁ、そのかけがえのない仲間達って、俺達のことだよな!」

 

シルヴィア……

「もちろん私も入ってるんだろうな?」

 

そしてフォージャー家……他にも、ノエルにドミニク、カミラ達……皆、グリムにとってかけがえのない仲間……失ったものもあるが、それ以上に得たものも多い。

そのことを噛み締めながら、グリムは近場のベンチに腰掛けた。ロゼッタもその隣に座った。

 

「みんな、ダーリンのこと大好きなんだよ。」

「……言うんじゃねぇよ……」

「あっ、今、中でお腹蹴られたよ!」

 

ロゼッタは嬉しそうに自分の腹を、中にいる子どもを撫でた。

それを見てグリムは立ち上がり、ロゼッタの腹の前でかがんだ。

 

「……いいか、これだけは聞いとけ。」

 

グリムはロゼッタの中にいる子どもに向かって語りかけた。

 

「……人間、生きてりゃぁどん底に落ちるようなこともあるかもしれねぇ……そんな時は、ひたすら上に進むしかねぇ。ずっとずっと上に進んでいけば……その先は希望で輝いてんだ。」

「……うん、そうだよね……」

 

グリムの語る言葉に賛同し、ロゼッタも腹を撫でて子どもに語りかけた。

 

「私もどん底だったけど……いつの間にか光の中にいたから……生きていけば、きっとなんとかなるから……ね。」

 

父と母からの温かい言葉……それを聞いているのかいないのか、お腹の中の子どもはまたロゼッタの腹を蹴ったのだった……

それからしばらくして……

 

「ほんぎゃあ!!ほんぎゃあ!!」

「ダーリン……男の子だって……」

 

赤ん坊は無事に生まれ、元気な男の子がロゼッタに抱かれていた。

 

「うっ、うっ……本当に俺の子かよ……猿みてぇじゃねえか……!」

 

そんなことを言っていたグリムだったが、嬉しさのあまり号泣し鼻水を垂らしていた。

 

「おぉ……グリムに似てかわいい……」

「てめぇ触んな!!」

 

赤ん坊に触れようとしたフリッドの手を、グリムは勢いよく叩いた。さらにグリムはアルコールが入ったボトルを皆の前に差し出した。

 

「おめぇら、汚い手で俺の子に触んじゃねぇ!!触るなら手ぇ洗ってアルコール消毒しやがれ!!」

「さっそく親バカ発生してる……」

「きゃっきゃ♪」

 

生まれて間もないのにさっそく親バカを発揮するグリムに、仲間達は呆れていたが、当の赤ん坊は楽しそうに笑っていた。

赤ん坊の名は「タスク」と命名された。タスクとは牙という意味と、同じく「キバ」と読む木場勇治から名前が取られた。

 

「タスク〜♪父ちゃんだぞ〜♪」

「お母ちゃんだよ〜♪」

 

2人はたっぷりとタスクに愛情を注いだ。どれぐらい注いでいるかというと……

 

「もしもし。」

 

グリムは電話に出ていた。相手はガーデンからだった。

 

『お仕事ですよ、グリムくん。相手は……』

「は?無理。俺、子育てで忙しいし。つーか弟切先輩にやらせとけよ。」

『いや、グリムくんそう言って仕事休みまくってますけど……』

「無理、じゃあな。」

 

仕事が手につかない……というよりサボり気味になっていた。

 

『……仕事してください、グリムくん……』

 

それから数日後……いつものように喫茶シオンを訪れたハワード一家。

 

「あぶー♪」

「みんなに会えて嬉しいみたい♡タスクちゃんったら♡」

「タスクはほんとかわいいな〜♡どっち似だろうな〜」

 

以前までの2人のイチャイチャぶりはなりを潜め、二人ともすっかり親バカになっていた。

 

「さすがに親になったから、イチャイチャはやめたか……」

「安心というかなんというか……」

 

しっかりと親としての役目を全うしている二人を見て、ロイド達は安心感を覚えていた。その時、タスクは突然泣き始めた。

 

「あらあら、どうしたの?オムツ……じゃないみたい。お腹空いたのかな?すいません、お手洗い借りていいですか?タスクちゃんにおっぱいあげないと……」

「ああ、どうぞ。」

 

ロゼッタはタスクを抱いたままトイレへ向かった。なぜかその後をグリムがついて行った。

 

「…………あれ?なんで今、グリムも行ったんだ?」

『あっ』

 

グリムも一緒にトイレに行ったことを不思議に思いながら、数分が過ぎて3人が戻ってきた。戻ってきたロゼッタはなぜか火照ったような顔をしながら息が少し荒くなっていた。抱かれているタスクはお腹いっぱいとばかりの表情。グリムの方も、なぜか満足そうな顔を浮かべていた。

 

「……お前、まさか飲んだのか?」

「えー、なんのことー?」

 

なぜ、グリムが一緒にトイレに行ったのかを察した仲間達だったが、あえてそのことは尋ねなかった。

 

「フッ……変わらないな、お前達は。」

 

その時、入り口の方から声が聞こえ、皆そちらを向いた。そこには、ロイド達とともにかつての仲間がいた。

 

「エ、エース!」

「よっ!」

 

仮面ライダーギーツこと浮世英寿(エース)の姿がそこにあった。

 

「エース!いつ来たんだ!?」

「ついさっきだ。だが……あんまり話していられない……重大な話がある。実は、別の世界でウォルターを見かけた。」

 

英寿の言葉にユーリを始めとして、他の皆も驚いている。ウォルターとは、ユーリにとって先輩であり、愛する人の兄でもある。

ずっと行方不明だったが、それが見つかったとなれば驚きもする。

 

「どこにいるんだ!?ウォルター先輩は!」

「落ち着け。あいつはあの時の戦いから様々な世界に流れついているらしい……だから、今はどこの世界にいるか……」

「だったら探しにいく!お前、他の世界に行けるんだろ!?」

 

ユーリの怒涛の勢いに押されながらも、英寿は静かにコクリと頷いた。

 

「確かに行ける……だが、他の世界に行くための扉は不安定なんだ。目的の場所に行けるかわからない上に、目的の場所に行けたとしても、戻ってこれる保証はない……」

「そんな……」

 

そんなことを言われてしまっては、ユーリは思わずすごんでしまう。もし英寿についていってウォルターを探しに行ったとしても、元の世界に戻れずヨルやノエルと離れ離れになってしまう可能性があるということだ。

そんなこと、誰が自分から望んでいくだろうか。

 

「……俺が行く。」

 

その時、一人の男が名乗りを上げた。その男は、グリムだった。

 

「グリム!?」

「正気か!?」

「正気も正気だ。俺……色々考えたんだよ。ライドのアニキが死んで、ミゲルも死んで……死んでいった奴らに、俺ができるケジメをどうするのかって……」

 

グリムはゆっくりと語り始めた。死んでいった者達のために、自分が何ができるのか……

 

「俺は、みんなを腹いっぱいにしたい……だけど、それだけじゃ足りない気がするんだ。だからそれを見つけるために、他の世界に行く。まぁ、見聞を広めるためだな。」

「だからってお前……奥さんと子どもがいるのに……!」

「ロゼッタさんも何か言ってください!」

 

他の仲間達は声を荒げた。それもそのはず、グリムは子どもが生まれたばかりの身……それなのに遠くへ行くということは、妻と子どもを置き去りにすることと同じこと。

そのことをロゼッタも批判すると思っていたが……

 

「いってらっしゃい、ダーリン!」

「いや、そこは止めましょう!?」

 

なんと、ロゼッタは別に止めることはせずにグリムを送り出そうとしていた。

 

「冷静に考えてください!タスクくんはまだ赤ちゃんで手がかかるんですよ!?グリムだって帰ってくるか分からないのに……」

「確かにそうですけど……でも、なんとかなります!それに……ダーリンは必ず帰ってきます。」

 

ロゼッタはグリムのことを信じていた。グリムは何があっても自分と息子の元に帰ってくる。そう信じて疑わなかった。そしてグリム自身も、必ず2人のところは帰ってくると決めていた。

 

「ああ……必ず帰ってくる!それまで……タスクを頼む。」

「うん!」

「ふ、二人とも……」

 

ヨルは二人を止めようとしたが、ロイドは肩を叩いてそれを止めた。

 

「ヨルさん、もうこうなったらこいつらは止められませんよ……」

「……うーん……」

 

こうなってはもう仕方ないと、仲間達は匙を投げた。

そして……

 

「グリム、ちゃんと歯を磨くんだぞ。」

「おう。」

「グリムくん、お腹出して寝ちゃダメですよ?」

「はい。」

「グリム、違う世界で変なもの食べないようにな。」

「はいはい。」

「グリム、あっちの人に迷惑を……」

「わかった!わかったっての!!」

 

仲間達に見守られる中、ついにグリムは別の世界へ旅立つ。

 

「それじゃ、準備はいいか?」

「おうよ!」

 

英寿の案内の元、グリムは別の世界へ通じるトンネルへと進んでいく。

こうして、グリムの旅は始まった。その後、グリムは鮫山ソウゴに名前を変えたウォルターと出会うことになるが……それはまた別の話……

 

 

 

 

 




おまけ「戻った先で……」

グリムが旅立った頃、元の世界に戻ったショウマはいつも通りの生活に戻っていた。

「それにしてもさ、ウマショーどこいってたわけ?ウチら心配したんだよ?」
「まったくだ。ラキアみてーに消えちまったかと思ったぞ!」
「ごめんね、二人とも……色々あって……」

街を仲間の幸果、絆斗と歩き、ショウマは2人に謝っていた。ろくに連絡もしていなかったため、ショウマは申し訳ない気持ちになっていた。
と、その時……ショウマは道を歩く通行人とぶつかってしまった。

「あっ、すいません!」
「いえ、こちらこそ……」

ぶつかったことでショウマと通行人の男は互いに荷物を落としてしまった。2人はしゃがんで荷物を拾い上げた。その時、2人は声をあげた。

『あっ、グミ……』

2人は互いに同じメーカーのグミを持っていた。その時、ショウマはハッと何かに気づき、男の顔を見た。その男の顔は、見覚えがあった。死んだはずの、あの男に似ていたのだ。

「なにか……?」
「い、いや……あの、グミ……好きなの?」
「好きっていうか……昔……誰かとこれを食べる約束をした気がするんです。名前も思い出せないけど、いつか一緒に食べるために……これをカバンに入れてるんです。」

その話を聞いて、ショウマは確信した。目の前にいるこの男は、彼だと。生まれ変わりなのか、ここに流れ着いただけなのか分からないが、少なくとも生きている事実に、ショウマは自然と涙をこぼした。

「だ、大丈夫ですか……?」
「大丈夫……!ねぇ……よかったら、一緒にグミ食べよう……?」

ショウマの言葉に男は首を傾げたが、すぐに笑顔を浮かべた。

「うん……食べる!」



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