思ったより長くなりそうなので、章をつけることにしました。
あれから3日が過ぎ……
「う、ん……」
フライパンで何かを焼く音が聞こえる。その音でユーリは目を覚まし、部屋から出た。
「あ、おはようございます!ユーリさん!」
リビングに行くと、そこには朝食の準備をしている翔一がいた。
その姿に、ユーリは眉間に皺を寄せ、嫌そうな顔をした。が、すぐにため息をついた。
「はぁ……起きて男の顔見るとか……なんでこうなったんだ……」
「ユーリさん?何か言いました?」
「なんでもない!くそっ・・・!」
ユーリは今更ながら翔一を自分の家に泊めてしまったことを後悔した。
そして渋々翔一の作った朝食を食べるのだった。
(何が辛いって、こいつの作る料理が……姉さんが作ったのより100倍も美味いのが辛い……!)
朝食を食べながら、つい姉であるヨルが作った料理と比べてしまい、ユーリは心の中で涙を流していた。
「・・・津上、お前これからどうすんだ?言っておくけど、僕はいつまでもお前をここに泊めてやる気はない!さっさと出てけ!」
「え……早く出ないと、ダメですか?」
「当たり前だ!ここは僕の家だ!」
ユーリとしてはいつまでもここに翔一を泊めておく気はさらさらなかった。プライベートの問題もあるため、当然といえば当然ともいえる。
すると、翔一は眉をへの字に曲げて悲しそうな顔をした。
「なんか、ひどいなぁ……記憶喪失で身寄りのない俺に、出てけなんて……」
「うっ……」
翔一の一言が、ユーリの良心を咎めた。そして翔一は露骨に落ち込み始めた。
「わ、わかったよ!しばらく泊ってていいから!」
(くそっ!この男、計算高いのかバカなのか分からん!)
翔一のペースに乗せられ、ユーリは悔しそうに歯ぎしりを立てた。
────────────────────────
それから時間は過ぎ、フォージャー家では……
「アーニャちゃん、どうしたの?今日は元気ないね。」
家庭教師に来ていたフリッドは、アーニャが落ち込んでいることに気づいた。
しかし、アーニャは何も答えなかった。その側にいたロイドとヨルも、何も言わなかった。
「……そういえば、津上君は?買い物か?」
「……翔一君は、もういない。」
翔一のことを尋ねるフリッドに、ロイドは静かに答えた。
「どうして?喧嘩でもしたのか?」
「いえ……翔一さんは何も悪くありません。悪く、ないんです……」
ヨルは俯きながら答えた。その顔からは悲しみが見て取れる。
(……彼らはアギトの正体を知った。無理もないか。)
フリッドはあの時、フォージャー一家がアギトから翔一に戻るところを目撃した現場に居合わせていた。
その彼らの心中をフリッドは察していた。
「いろいろあったんだな。彼には聞きたいことがあったんだが……」
(聞きたいこと?翔一君に・・・?この男、何を考えているんだ?)
ロイドは翔一のことを気にしているフリッドを怪しんだ。そのことをフリッドに聞こうとしたその時、天井の明かりの一つがチカチカと点滅し始めた。
「ん・・・?一つ限界になってるか……」
「私、予備の電球取ってきますね。」
ヨルが予備の電球を取りに行ってる間、ロイドは椅子の上に乗って電球を取り外した。
そして、戻ってきたヨルから予備の電球を受け取り、新しく電球をつけた。
すると、フリッドは外された古い電球を手に取った。
「……津上君は、予備の電球みたいだな。」
「は?」
突然フリッドが呟いた。それに対しロイドは声を上げた。
「電球は2、3個もあれば部屋全体を明るく照らせる。そこに4個目の電球が加わると、さらに明るくなって部屋だけじゃなく、家全体を明るく照らす。……津上翔一という人間は、そういう人間だと思う。」
『……』
フリッドの言葉に、ロイド達は「そうかもしれない」と思い始めた。
最初は3人だけで始まった疑似家族としての生活……3人で笑い合って、楽しく暮らせていた。しかし、そこに翔一が加わったことで笑い合うことが増え、いつも以上に楽しく暮らせた。
「俺は他人だからとやかく言える立場じゃない。それでも、選ぶのは君達だ。
フリッドはそう言うと席を立った。
「今日はここまでにしよう。アーニャちゃん、また来週。」
フリッドは身支度を整えると、家から出て行った。
「予備の電球、か……」
ロイドはフリッドがさっきまで手に取っていた古い電球を見た。
電球は3つでも充分。だが、4つならもっと……
ロイドは胸がざわつくのを感じ、胸を抑え、深く深呼吸した。
「……ヨルさん、アーニャ。」
「はい……」
「うぃっ・・・」
深呼吸を終えたロイドは二人の顔を見合わせ、フッと笑った。
「・・・
「はい!」
「うぃっ!」
ロイドのその一言に、二人はキリッとした顔で笑顔を浮かべ、力強く返事をした。
「よし、翔一君を探そう!」
3人はさっそく出かける準備をした。4つ目の
────────────────────────
「うーん……」
そのころ翔一は本屋の前に置かれている求人誌を読み漁っていた。というのも、ユーリから「ここに長い間住む気なら働いて金稼げ」と言われたからだ。
翔一は元々パン屋で働いていたが、その店にはよくヨルが買いに来る。今の状況で顔を合わせるとお互い気まずいだろうと思い、しばらくパン屋のバイトを休んでいた。
「どうしようかなぁ……」
「おい、そこのお前!買う気がないなら帰ってくれ!」
求人誌を読んでいると、店から店長が現れ、翔一を叱って来た。
「あ、すいません!」
翔一は慌てて求人誌を戻し、そそくさと立ち去った。
翔一は本当はフォージャー家に戻りたいと思っていた。しかし、それでは自分のことを考えてくれたロイドの厚意を無駄にすると思い、戻ることができなかった。
しかし、そう思っても、頭の中にはロイド達と過ごした日々ばかりが浮かぶ。
「俺、結構弱かったんだなぁ……」
心の弱い自分が情けなく思う翔一だった。と、その時いつものあの音が耳の奥に鳴り響いた。
アンノウンが現れたのだ。
翔一はすぐさまバイクに乗り、現場へ向かった。
────────────────────────
「う、うわあぁぁぁ!!た、助けてくれぇ!!」
「グルルルル……」
前回も現れたジャッカルのアンノウンがサラリーマン風の男ににじり寄る。
どこからともなく大鎌を取り出し、男を切り裂こうと振り上げた。
その時、到着した翔一がバイクでアンノウンを突き飛ばした。
「逃げてください!早く!!」
翔一は男に向かって叫んだ。男は言うことを聞いて慌ててその場から逃げ出した。
男が逃げたのを見計らい、翔一はバイクを降りベルトを出現させた。
「ハアァァァァ……」
そしていつものように変身しようとした。だがその時、もう一体のアンノウンが背後から現れ、翔一を羽交い締めにした。
「なにっ!?」
羽交い締めにしたところをもう一体のアンノウンが、翔一の腹を殴った。さらに顔面や胸など、体を何度も殴って来た。
(まずい、このままじゃ……!!)
このままではやられる。そう思った次の瞬間、
「私達の家族に……!何をしてるんですかッ!!」
威嚇するような強烈な叫び声とともに、ヨルが勢いよく翔一を殴っているアンノウンを蹴り飛ばした。
「ヨルさん!?」
翔一だけでなく、羽交い締めにしているアンノウンも驚いき、思わず翔一から手を離した。
その瞬間、ロイドが懐に入りこみ、アンノウンを背負い投げで投げ飛ばした。
「ボンド、やれ!」
「ボフッ!」
そこにボンドに跨ったアーニャが現れ、アーニャの命令を聞いたボンドは足を上げ、アンノウンの顔に小便をかけた。
「ロイドさん!アーニャちゃん!ボンドまで……!」
「探したぞ、翔一君。」
「みんな、どうして……」
戸惑う翔一に、ロイドは肩を叩いた。
「翔一君、俺はこの前、君にこう言ったな。『君ならもっと多くの人間を救える』とな。だが、俺が間違いだった。」
「え?」
「よくよく考えたら、君にそれができるほど立派な人間じゃない!!」
「ええっ!?」
ロイドは腕を組みながら断言した。その態度に翔一は困惑し、思わず声を上げた。
「バカだし、寒いギャグは言う、無意識に相手を怒らせる、お人好し、定職に就かない!ダメなところだらけだ!!」
「ううっ……」
散々欠点を言われ、翔一は落ち込み始めた。すると、ロイドはフッと笑った。
「だから……追い出すのは先送りにする。」
「え……?」
「君が、本当に多くの人間を救えるような人間になるまで……家に残ってもらう。」
「だから、戻ってきてください!翔一さん!」
「アーニャ、ショーイチといっしょがいい!」
「ボフッ!」
ロイド達が投げかけてくる言葉に、翔一は涙が零れ落ちそうだった。
だが、そんな場面でアンノウンが空気を読まずに唸り声を上げた。
「グルルルル……!」
「やっぱり、アギトの攻撃じゃないと効かないみたいですね……」
「みんな、下がってください。俺がいきます!」
翔一は胸を張って堂々と3人の前に盾のようになって立つ。
翔一の胸に熱いものがこみ上げてきた。だが、この騒がしい感情に言葉などいらない。
ただ、叫べばいい。
「変身ッ!!」
翔一は叫び、ベルトの両側のスイッチを叩き、アギトに変身した。
さらにその状態でもう一度両側のスイッチを叩いた。すると、アギトに変化が起きた。
左腕がストームフォームに、右腕がフレイムフォームの装甲に変わり、さらにベルトからストームハルバードとフレイムセイバーを抜き、両手に構えた。
「姿が変わった……!」
「あれが、アギトの新しい姿……」
アギトの三つの力と、ロイド、ヨル、アーニャの三人の思いを受け、アギトは3つが合わさった新たな姿「トリニティフォーム」へと変わった。
「グオアッ!!」
「キシャアッ!!」
アンノウンは大鎌を手に、アギトに向かっていった。アギトはハルバードとセイバーで2体同時の攻撃を防ぎ、さらにそこから武器を弾き、一体を蹴り飛ばし、もう一体を二つの武器で攻撃を加える。
アンノウンは武器のダメージによりよろめいた。しかし、アギトの攻撃は終わらない。
「ハアァッ!!」
セイバーに炎を、ハルバードに風を纏わせ、アンノウンを風と炎の力で滅多切りにし、最後に横に一閃。
アンノウンは断末魔を上げる間もなく爆発した。
「ぐっ・・・!!」
もう一体のアンノウンはそれを見てたじろいだ。
アギトは武器をベルトにしまい、頭部の角を翼のように開き、必殺の構えをとった。
「ハアァァァァ……!!」
熱くなる体、心、それに従って強くなる想い、願いを胸に、戦士は独り動く!
「ハッ!」
アギトはそれ高く飛び上がり、
「デヤァァァァァァァァ!!」
必殺の飛び蹴りを繰り出し、アンノウンに強烈な一撃を与えて吹き飛ばした。
そのまま着地し、"残心"をとる。
「グッ!ウウウウッ!!グオオオオオッ!!」
その後ろで、アンノウンは頭の上に光輪を浮かばせながら断末魔を上げて爆発した。
爆炎を背にし、アギトは変身を解いて翔一の姿に戻り、ロイド達の元に歩み寄った。
「ロイドさん・・・俺、正直言うと・・・戻りたいです。」
「翔一さん……」
「俺、ロイドさん達が大好きです。隠し事だらけで継ぎ接ぎだらけの家族だけど……俺!」
「それでも大好きです」と言おうとしたその瞬間、ロイドは手を出して翔一の口を塞いだ。
「言わなくていい。確かに俺達は疑似家族で、仮初めまみれの日常を生きてる。でもそこにはいつだって俺達がいて……翔一くんがいる。そんな日常を生きていきたい。」
「ロイドさん……」
「私も同じですよ、翔一さん!」
ロイドに続いて、ヨルが口を開く。
「翔一さんがいないと、私に料理を教えてくれる人がいませんから!」
「ヨルさん……」
「アーニャも!」
さらに続いてアーニャも声を大にして叫び、翔一の足にしがみついた。
同様にボンドもすり寄ってくる。
「ショーイチがあそんでくれなきゃヤダ!」
「ボフッ!」
「アーニャちゃん、ボンド……!」
ロイド達の優しさに、翔一は目から何か零れ落ちそうだった。しかし、それを必死に耐え首を横に振り、深く深呼吸をした。
「じゃあ……ただいま!」
「翔一君!」
「翔一さん!」
「ショーイチ!」
『おかえりなさい!』
フォージャー家にもう一人の家族が増えた。その男はアギトで、これからとんでもない事件や騒動に巻き込まれていくだろう。
しかしそれでも彼らは、この一掴みの奇跡を噛み締めていく。
────────────────────────
「アギトが第一段階に覚醒した……津上翔一とアーニャ、二人に巻き起こる運命を背負いきれるか?黄昏……いばら姫……」
序章「彼の者はアギト」 完
今回で序章は終了になります。次回から破章がスタートします。
サブタイは「ミックスナッツ」か「Believe your self」のどっちにしようか迷いましたが、翔一が継ぎ接ぎだらけの家族の仲間入りを果たしたという意味で「ミックスナッツ」にしました。
作品内において、どのライダーの話が一番好きですか?期間は4月10日から4月17日まで。アンケート結果は後日作品内で発表します
-
アギト編(翔一+フォージャー一家)
-
G-3編(ユーリ+対策班、ノエル)
-
ギルス編(フリッド+ダミアン、フィオナ)