SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

21 / 159
第21話「抱擁」

 

「すいません、ヨルさん……」

「いえ、遠慮なさらず……」

 

偶然ヨルと出会ったフリッドは、肩を担がれ、自分の住むマンションへと移動してもらっていた。

 

「この路地裏を抜ければ、近道です……」

「わかりました。」

 

フリッドの指示に従い、ヨルは路地裏に入った。

その後ろ姿をこっそりついていく男がいた。それはロイドだった。

 

(まさかヨルさんも今日は遅かったとは……しかも偶然にもフリッドと遭遇するとは。)

 

ロイドはその後のフリッドの動向が気になり、こっそりと尾行していた。

そしてロイドも路地裏に入った。

 

「でも、何があったんですか?体調も悪そうですし……」

「はははっ、なんと言えばいいか・・・」

 

フリッドは苦笑いを浮かべた。まさか自分はギルスです、とは言えなかった。言っても信じてもらえないと思っていた。

 

「あ、もうすぐ着きますよ。」

 

フリッドが住むマンションまでもうすぐまで近づいていた。

と、その時だった。

 

「グオウッ!!」

 

獣の唸り声とともに前にギルスと戦った紅い豹のアンノウンが現れた。

 

「アンノウン!?」

「くそっ、こんな時に……!ヨルさん、離れてください。」

 

フリッドは疲れ切った顔をしながらも、ヨルの前に立った。

すると、ヨルはフリッドの腕を掴み、向かっていこうとするフリッドを止めた。

 

「何を言ってるんですか!?相手はアンノウンですよ!?普通の人じゃ勝てません!」

「大丈夫ですよ。俺、普通じゃないですから……」

 

そう言って、フリッドはヨルの方を見て笑った。その顔はどこか悲しそうだった。

アンノウンの方に顔を向き直すと、フリッドは顔の前で両腕を交差させた。

 

「変身ッ!!」

 

フリッドの叫びと同時に、その体は変化し、ギルスへと変身した。

 

「ウオオオオオオオッ!!」

 

ギルスは牙をむき出しにして、獣のような雄たけびを上げた。

 

「あの時の、緑色のアギト・・・!?フリッドさんが・・・!」

 

ヨルが驚く中、ギルスは果敢にアンノウンに突進した。

 

「うっ!」

 

しかし、先ほど地下で銃弾の雨を浴びたのが堪えたのか、前方にフラッとぐらついた。しかし、その反動を利用して前転して倒れながらアンノウンに蹴りを浴びせた。

蹴りを喰らい、ふらついたアンノウンだったが、倒れたギルスを狙い、剣を振り下ろした。

 

「フッ!」

 

しかし、ギルスは倒れた状態で伸ばした踵のヒールクロウで剣による攻撃を弾く。そして、アンノウンの足を挟み込み、そのまま足を捻って横転させた。

そしてそのまま馬乗りになり、アンノウンの顔面をひたすら殴り続けた。

しかし次の瞬間、ギルスの腹から血しぶきが飛び出した。

 

「!!」

 

アンノウンが隙をついて、剣でギルスの腹を切ったのだ。さらにすかさず胸を剣で貫こうとした。

 

「ガァウッ!!」

 

しかし、ギルスはクラッシャーを開き、牙をむき出しにしてアンノウンの腕に嚙みついた。

 

「グッ!ガアァァァッ!!」

「グウゥゥゥ……!!」

 

ギルスは怒りのままに牙をアンノウンの腕に食い込ませ、そのまま腕の肉を噛み千切った。

さらにそのまま頭を掴んで、後頭部を何度も地面に叩きつけた。そしてそのままアンノウンを起こして投げ飛ばし、電柱に叩きつけた。

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

痛みのせいか息が切れ始めているが、ギルスは踵のヒールクロウを伸ばした。

 

「ハッ!」

 

片足を頭上まで振り上げながら高く跳躍し、アンノウンの肩に踵落としを繰り出す。同時に踵から伸びた爪が背中から心臓に突き刺さった。

 

「ウオァァァァァァ!!」

 

ギルスは叫ぶと同時にもう片方の足でアンノウンを蹴り飛ばし、刺さった爪で切り裂いた。

 

「グアアアアアッ!!」

 

アンノウンは断末魔を上げ、爆発した。

戦いが終わり、ギルスはその場で膝をつき、元のフリッドの姿へ戻った。

その時、フリッドはチラリとヨルの方を見た。

 

(ヨルさんにも見られたか……怖がるだろうな。あんな化け物に変わって、あんな戦い方をして……)

 

ギルスの姿を見られたフリッドは、ヨルはきっと怖がって逃げるだろうと思っていた。

だが、その予想とは逆に、ヨルはフリッドの元へ駆け寄った。

 

「フリッドさん、大丈夫ですか!?」

「え・・・?」

「お腹切られてますよ!?すぐに手当しなきゃ・・・!」

 

ヨルは怖がるどころか、フリッドの心配をしていた。予想していた反応と異なり、フリッドは茫然としていた。

 

「ヨルさん、怖くないんですか・・・?俺のこと・・・」

「何を言ってるんですか?あなたは私のことを守ってくれたじゃないですか!そんな人を……怖がるワケありません!」

 

ヨルにとって血や死体などは殺し屋(本業)でたくさん見てきた。今更怖がるわけもない。それに、目の前で自分を守ってくれたフリッドは命の恩人。それも怖がる理由にはならなかった。

と、その時、フリッドの目から涙が零れ落ちた。

 

「フリッドさん・・・?」

 

ヨルは突然泣き出したフリッドを見て、心配そうに顔を覗いた。そして次の瞬間、フリッドはいきなりヨルのことを抱きしめた。

 

「ふえっ!!?」

「なっ・・・!?」

 

ヨルは顔を真っ赤にし、物陰で覗いていたロイドも、突然のことに目を見開いた。同時にフリッドに対して怒りを覚えた。

 

(あ、あいつ、馴れ馴れしい・・・!!)

「どどど、どうしたんですかフリッドさん!?」

 

顔を真っ赤にし、胸がドキドキと鳴りながらフリッドに尋ねた。

フリッドは声を出すのを堪えながら泣いていた。それを聞いた瞬間、ヨルの真っ赤になった顔が元に戻った。

 

「すいません……!そんなに優しい言葉をかけてもらったのは……久々だったから……!!」

 

ギルスに変身できるようになってから、フリッドは不幸なことが多かった。そんな中で、ヨルからの優しい言葉はまるで女神の一言にも聞こえた。

そして今まで堪えたものが溢れたかのように、涙を流したのだった。

 

 

────────────────────────

 

フリッドは泣き止んだ後、ヨルはフリッドが住むマンションの一室に運びこんだ。

 

「すいません……いきなり抱き着いたりして。」

「い、いえ……それより、ケガの方は大丈夫なんですか?」

「ええ。もう治りましたから……」

 

フリッドはそう言うと、服をめくって先ほど切られた腹を見せた。そこには傷跡はなく、切られた傷はキレイに消えていた。

 

「すごい・・・これもアギトの力なんですか?」

「正確にはギルス、っていうらしいです。俺のこの力は……」

「ギルス、ですか・・・?」

「はい。でも、その言葉にどういう意味があるのか……」

 

2人はギルスについての話をしていた。そしてその様子を、ロイドは外から窓越しの覗き、盗聴器で会話を聞いた。

余談だが、ロイドは以前フリッドの家に侵入したことがある。その時に家の中に何個か盗聴器をしかけていたのだ。

 

(ギルスか……アギトとは別のものなのか?)

 

ロイドはギルスとアギトの関係について考えこんだが、引き続き二人の会話に耳を傾ける。

 

「それにしても、本当にすいません。コートもずぶ濡れにしてしまって……」

「いえ、気にしないでください。・・・フフッ。」

 

その時、ヨルはふと笑い始めた。そのことにフリッドは首を傾げた。

 

「あっ、すいません。翔一さんと初めて会った時のことを思い出して……」

「津上君と?」

「はい。」

 

ヨルはゆっくりと翔一と初めて出会った時のことを話し始めた。

 

────────────────────────

 

翔一さんと初めて出会った時も、雨が降ってました。

その日、私は傘を差して家に帰る途中でした。そうしたら、通りかかった公園で人影を見たんです。

よく見たら、その人は雨の中倒れていたんです。その人が翔一さんです。

 

「大丈夫ですか?!」

 

私はすぐ駆け寄って声を掛けました。そしたら翔一さんはゆっくりと目を開けて周りを見回して、すごく困った顔をしてました。

 

「しっかりしてください!近くに私の家があります!まずそこで温まってから、病院に……!」

 

私は翔一さんを家に連れて行こうとしました。

そしたら、翔一さんは何て言ったと思いますか?

 

「服、濡れちゃいますよ・・・」

 

・・・って言ったんです。それを聞いて、私は思わず笑っちゃいました。自分の方が大変なのに、私の服のことを心配して・・・

その時、私、思ったんです。「ああ、この人は絶対にいい人だ」って。

 

────────────────────────

 

「・・・そしたら、思った通り翔一さんは優しくていい人でした!」

 

翔一と初めて会った時のことを語り終え、ヨルはニッコリ笑った。

それにつられてフリッドも笑った。

 

「そうですか・・・なんか、津上君がうらやましいな。」

「?」

 

フリッドの言葉に、ヨルは首を傾げた。

するとフリッドは続けて言った。

 

「ヨルさんみたいな素敵な女性と会えたんですから。」

「えっ・・・えっ!?」

 

その一言にヨルは目を丸くし、さらに声を上げて驚いた。

それを窓から覗いていたロイドも同様の反応を見せていた。

 

(な、何を言ってるんだあの男・・・・!?)

「いえ、本当に素敵ですよ。あなたは見た目だけじゃなく、心も美しい。」

「あうぅ・・・」

 

唐突にフリッドから賛美を受け、ヨルは恥ずかしくなり、顔を赤らめながら俯いた。

 

「ロイド君がうらやましいです。あなたのような魅力的な女性と一緒にいるのですから。」

「も、もういいですからぁ!!」

 

ヨルは褒めちぎってくるフリッドの口を塞ぎ、その言動を止めさせた。

ちなみにフリッドはヨルを口説くつもりなどさらさらなく、ただ素で褒めているだけだった。

しかし、そんなことなど知らない、窓から覗いていたロイドは敵対心を燃やしていた。

 

(フリッド・リードがあんなに軽薄な男だったとは・・・!しかもよりによってヨルさんに・・・!!ん?ちょっと待て!なんで俺はこんなにイライラしている!?ヤキモチ・・・?いーや、この黄昏がヤキモチなどするはずがない!!100%、あ・り・え・な・いッ!!)

 

ロイド自身は否定していたが、間違いなくフリッドに対してヤキモチを焼いていた。

しかしそんなことは認めたくないと、ロイドは心の中で悶々としていた。

そんな中、ヨルは立ち上がった。

 

「じゃ、じゃあ!私はこれで!」

 

ヨルはそそくさとフリッドの家から出ようとした。

その時、

 

「待ってください!」

 

フリッドは声を上げた。

 

「帰ったら、津上君に伝えてもらえませんか?『次会ったら、一緒にアンノウンと戦おう』と……」

(そっか、フリッドさんもアギトが翔一さんだってこと知ってるんでしたっけ・・・)

 

フリッドの言葉を聞き、以前のパーティー会場にアンノウンが現れた時のことを思い出した。

 

「……はい!」

 

そしてヨルは力強く頷きながら返事をし、その場を後にしたのだった。

 

────────────────────────

 

翌日の朝、

 

(昨日は全ッ然眠れなかった・・・それもこれも、フリッド・リード・・・!!アイツがヨルさんに変なことを言わなければ……!!)

 

ロイドは昨日の夜、フリッドがヨルに対していった口説きのようなセリフに、いまだヤキモチを焼いていた。

 

(ちち、ヤキモチ・・・)

 

この時、アーニャはロイドの心を読み、ロイドの心情を察した。と同時に、あることを思いつき、ニヤリと笑った。

 

「はは、ちちがきげんわるい。」

「え?」

「べ、別に悪くない。」

 

アーニャの一言を聞き、ヨルはロイドの顔を見たが、顔を合わせづらいのか、ロイドは目をそらした。

それを見たヨルは内心ショックを受けていた。

 

「す、すいません・・・私、何かしてしまいました?」

「別に。なんでもありません。」

 

ロイドの言う通り、ヨルは何も悪くはないのだが、ロイドを意地を張っているのかヨルと目を合わせようとしない。

その状況を見て、翔一が声を上げた。

 

「ダメですよ喧嘩なんかしちゃ!二人とも最近仲良くなってきたのに!ロイドさん、何かため込んでるなら、吐き出した方がいいですよ?スッキリしますよ~?」

 

事情を知らない翔一はニコニコ笑いながらロイドに言う。それを見たロイドは「確かに」と思うのと同時に怒りが沸々と沸き起こってきた。

 

「あー、わかった!だったらスッキリさせる!ヨルさん、こっち!」

「え・・・きゃっ!」

 

ロイドは怒りまじりでヨルの腕を引っ張ると、寝室に連れ込んで部屋に鍵をかけ、ヨルをベッドに座らせた。そして自身もその隣に座った。

 

「・・・ヨルさん。」

「は、はい!」

「俺、見たんです。ヨルさんが……フリッドといるところを。」

「あ・・・」

 

ヨルは声を上げた。フリッドといるところを見た、ということは変身した姿も見たということだと思った。

すると、ロイドは続けて言った。

 

「だ、抱きしめられてましたよね?しかも、頬を赤らめて・・・!」

「あ・・・それは・・・いきなりだったから・・・」

 

ロイドに言われ、ヨルは昨夜のことを思い出し、恥ずかしくなって頬を赤らめた。

それを見たロイドは気に食わないといった様子で眉間に皺をよせた。すると、ロイドはヨルの両肩を掴んだ。

 

「ヨルさん!俺意外の男相手に、赤くならないでください!俺の方を、見ててください!」

 

ロイドは思ったことをそのままヨルに伝えた。だが、内心恥ずかしいと思ったのか、ほんのり顔が熱くなった。

対し、ヨルの顔は段々と赤くなっていった。

 

「ロ、ロイドさん・・・?き、急にどうしてそんな・・・」

「そんな?言うに決まってるじゃないですか!俺はヨルさんのことが大好きなんですから!!」

「えっ・・・?」

「あっ・・・」

 

ロイドは叫ばんばかりの勢いでヨルに向かって言った。それを聞いたヨルはカーッと顔が熱くなるのを感じた。それはロイドも同じだった。そして次の瞬間、二人の顔はトマトのように真っ赤に染まった。

 

(お、お、俺は一体何を言ってるんだ!?俺達は仮面夫婦であり、疑似家族なんだぞ!?そ、それを大好きだなんて・・・!)

「い、いや、今の『大好き』というのは・・・ヨ、ヨルさんの人間性に対して言っただけであって、別にそんな・・・!?」

 

ロイドはすぐさま言い訳をしようとしたが、次の瞬間ロイドは固まった。ヨルがいきなり抱き着いてきたからだ。

 

「ヨ、ヨルさん・・・?」

「すいません……今、顔見ないでください……嬉しすぎて、変な顔になっちゃってますから……」

 

そう言ってヨルは顔を見せないように俯きながらロイドの体を抱いた。その顔は真っ赤になりながら嬉しそうに笑っていた。

すると、ロイドも同様にヨルを抱きしめた。

 

「な、なら・・・俺の方も、顔を見ないでください……とても見せられない顔をしているので……」

「はい・・・」

 

2人は互いに落ち着くまで抱き合った。その間に流れる時間は、まるで永遠にも感じられた。

その様子を、翔一とアーニャはドア越しに耳をくっつけて聞いていた。そして二人が一緒にくっついているのが分かると、微笑ましく笑った。

 

「アーニャちゃん、先行ってようか。」

「うぃっ。」

 

翔一とアーニャは二人の邪魔にならないよう、こっそりと家を出た。

その間も、二人は抱き合ったままだった。

 

「ヨルさん、遅刻しますよ。」

「・・・今日だけは遅刻しませんか?もう少しだけ、こうしていたいです……」

「……奇遇ですね、俺もです。」

 

2人は互いに抱きしめる力を強めた。落ち着いて離れた時には、1時間ほど時間が経っていた。

その後慌てて出勤した二人。当然上司からは怒られたが、それ以上に喜ばしいことがあったことに、二人はその幸せを嚙み締めた。

 

 





おまけ「なんか忘れちゃってんだ Part2」

2人が部屋の中で抱き合っている中、ヨルはあることを思い出した。

(あれ?私、翔一さんに言わなきゃいけないことがあったような……)

ヨルはフリッドから翔一へのメッセージを伝えることを忘れていた。
一瞬思い出しかけたが、ロイドから「大好き」と言われたことが嬉しすぎて、完全に忘れてしまったのだった。

(まぁ、いっか!)

—――――――――――――――

久々のロイヨル回です。最近、ロイヨル要素ねぇなって思ってたので久々に書けました。
本編を見てると、ヨルさんの方がヤキモチ焼いてる場面が多い気がするので、たまにはロイドがヤキモチ焼いてもいいんじゃないかなーって思って書きました。

楽しかった(小並感)

作品内において、どのライダーの話が一番好きですか?期間は4月10日から4月17日まで。アンケート結果は後日作品内で発表します

  • アギト編(翔一+フォージャー一家)
  • G-3編(ユーリ+対策班、ノエル)
  • ギルス編(フリッド+ダミアン、フィオナ)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。