SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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更新が結構遅れてしまい申し訳ありません。最近仕事疲れで、ご飯食べた後パソコンに向かって寝落ちすることが多かったのと、今回の話で相当悩んだことがあったので・・・

今回、ちょっと人によってはショッキングな内容になると思います。






第33話「力はなくとも、その人のために」

 

水のエルに襲われた翌日、ヨルはいつも通り公務員の仕事をしていた。

 

「はぁ・・・」

 

しかし、ヨルはため息をついていた。それは昨日の翔一のことに関してだった。

昨夜、翔一はヨルの本当の姿、殺し屋としてのヨルを見た。そしてその後に水のエルに襲われた。

水のエルは翔一にとって因縁がある相手らしい。それこそ彼にトラウマを刻み、震え上がらせるほどだった。

 

(翔一さん、大丈夫でしょうか・・・)

 

昨夜家に帰ってから、翔一は部屋に籠もって布団にくるまって震え上がった。しかし、朝になったら忘れたかのようにロイド達に明るく振る舞っていた。

ヨルはそれが、翔一が無理をしていると思っていた。自分達に心配をかけないようにする為の配慮だと。

 

「はぁ・・・」

「ちょっとヨル先輩。昼食の時までため息やめてくださいよ〜!」

 

ヨルがまたため息をつくと、同僚のカミラが口を出してきた。ヨルは同僚とともに近所の喫茶店で昼食を取っていた。

ヨルは朝から昼食時に至るまで高い頻度でため息をついていた。カミラはそれにウンザリしたようだ。

 

「す、すいません。」

 

ヨルは申し訳なさそうに謝った。すると、同僚達は笑い始めた。

 

「そんなにため息ついちゃって・・・旦那さんと上手くいってないんですか〜?」

「マジ?もしそうだったらウケる!」

「倦怠期ってやつ?」

 

同僚のカミラ、ミリー、シャロンはため息をつくヨルに皮肉を言ってクスクスと笑っている。それにヨルはどう答えていいか分からず、狼狽えた。

そんな時だった。

 

「ヨルさん!」

 

ヨルを呼ぶ男の声が聞こえた。四人はそちらに顔を向ける。

その声の主を見て、ヨルは笑顔を向け、カミラ達三人は目を見開いた。

 

「フリッドさん!」

「やっぱりヨルさんだ!」

 

声の主はフリッドだった。フリッドはヨルの元に近づいて傍らに立った。

 

(イ、イケメン・・・!!)

 

フリッドを初めて見て、そのイケメンさにカミラ達は驚愕していた。

 

「せ、先輩、その人は・・・?」

「あっ、この人は娘の家庭教師のフリッドさんです。」

「どうも。フリッド・リードです。」

 

フリッドはカミラ達に顔を向け、ニコッと微笑んだ。

しかし、すぐさまヨルの方に顔を向け始めた。

 

「ヨルさん、津上君のことお借りしてもよろしいですか?」

「翔一さんを、ですか?」

「ええ。ほら、あの・・・この前の列車の・・・」

 

するとフリッドはしどろもどろになり、ちらちらとカミラ達に目配せしながら、口パクで「アンノウン」と言った。

 

「あ、ああ!アレですね!」

「そ、そう!アレです!」

 

知り合いの前で「アンノウン」と口にするワケにもいかず、二人はただ「アレ」と言って誤魔化した。

 

「あっ、フリッドさん。翔一さんのことで少し話が・・・いいですか?」

「構いませんが……」

「ちょっとこっちに・・・」

 

ヨルは立ち上がり、カミラ達に一礼すると、フリッドを連れてその場から離れた。

ヨルが離れていき、カミラ達は顔を寄せあった。

 

「・・・ねぇ、この前の津上さん?の時もそうだったけど……何?ヨル先輩、モテ期なの?今更になって?」

「というか、なんであの人の周りにイケメンが集まるワケ・・・?」

「しかも、どいつもこいつも爽やかなイケメンばっかだし・・・」

 

ロイド、翔一、フリッド・・・イケメンが立て続けにヨルと知り合いということが、3人は納得できないでいた。

 

────────────────────────

 

「そうですか……今度のアンノウンは津上君の……」

 

店の裏に回ったヨルは、フリッドに水のエルと遭遇した時のことを話した。そこで翔一が水のエルにトラウマを持っているらしいことも。

 

「はい……私、どうしたらいいんでしょう。翔一さんはいつも、誰かの居場所を守るために戦ってるのに……力になりたい、何かしてあげたいって思うのに……」

 

ヨルは以前から、翔一に対して何もしてやれない自分を情けなく、悔しく思っていた。

そんな彼女の心中を察したのか、フリッドは口を開いた。

 

「……これは、津上君の問題です。俺達がどうこう言える問題じゃない。」

 

しかし、その口から出たのは冷たい言葉だった。その言葉に歯向かうようにヨルが口を挟んだ。

 

「そんな・・・!でも!」

「ですが。」

 

その時、ヨルが口を挟もうとした瞬間、フリッドは声をかぶせてきた。

 

「その手伝いをすることはできます。やり方はその人次第ですけど。」

「その人、次第・・・」

「ええ。ヨルさんはヨルさんなりのやり方で、彼のトラウマを乗り越える手伝いができるはずです。」

「私の、やり方……」

 

フリッドの言葉を聞き、ヨルはギュッと拳を握りしめた。

自分にしかできないことで、翔一を助ける……その言葉を胸に刻みつけた。

 

「フリッドさん、ありがとうございます!」

 

ヨルは笑顔でフリッドに礼を言うと、ペコリと一礼し、その場から去ってカミラ達の元に戻った。

 

「・・・あの人は本当にいい人だな。」

 

フリッドは他人である翔一を気遣い、助けたいと願うヨルの姿を見て、フッと笑みをこぼした。

翔一に対する羨ましさを感じながら、フリッドもその場を立ち去った。

 

 

────────────────────────

 

時間は過ぎ、夕暮れ時になり・・・

 

「さーてと・・・今日は何を作ろうかな。」

 

翔一はパン屋の仕事を終え、ロイド達の元に帰ろうとしていた。

その時、

 

「翔一君!」

「あ、ロイドさん!」

 

同じく仕事終わりのロイドが声をかけてきた。

 

「近くまで来たから、寄ったんだ。」

「じゃあ、一緒に帰りましょう!」

 

2人は一緒に家に帰ることになった。その道中、バイクを押していた翔一が口を開いた。

 

「あの、ロイドさん・・・ロイドさんって、トラウマってあります?」

「もちろんあるさ。こう見えても、従軍経験があるからな。」

「兵隊さんだったんですか?どうりで体つきいいと思った!」

「ははは、アギトに比べたら負けるよ。」

 

従軍経験があるというのは、嘘ではなかった。ロイドはスパイになる前は兵士として戦っていたのだ。その後にスパイになったが、そのことは翔一に言わなかった。

 

「それで、その・・・どうやって、トラウマって乗り越えました?」

 

翔一は申し訳なさそうに、尋ねてきた。しかし、ロイドは即答できなかった。

ロイドは兵士時代、子どもの頃からの友人達を失った。そのことは今でもトラウマになっていた。なので、ロイドは正直に答えた。

 

「・・・乗り越えられてないよ。昔の俺は無知で、無力だった。いや、今もだな。アンノウンのこともアギトのことも何も分からない……こんなことじゃ誰も助けられやしないな……」

「そんなことないですよ!」

 

自分を悲観するロイドに、翔一は声を上げて励まし始めた。

 

「今のロイドさんはお医者さんです!お医者さんとして、色んな人を助けてるじゃないですか!それに、俺やヨルさんのことを助けたじゃないですか!ロイドさんと出会わなかったら、ヨルさんはずっと一人ぼっちだったかもしれないし、ロイドさんが俺を家に置いてくれたから、俺は衣食住を確保できたんです!」

「翔一君……」

「カッコイイじゃないですか、ロイドさん!ロイドさんは、ヨルさんやアーニャちゃん、それとボンドにとっての、仮面ライダーなんです!」

 

その一言に、ロイドはキョトンと目を点にした。しかし、すぐに笑いがこみ上げ、ロイドは笑った。

 

「アハハハハッ!俺が仮面ライダーって……仮面がないと意味ないじゃないか。」

「あ、確かに!」

 

ロイドは笑っていたが、密に嬉しく思っていた。ロイドはアギトである翔一の強さに密に憧れを抱いていた。純粋な力だけでなく、その優しさや心の強さに対してだ。

しかし、そのことは口に出さないでいる。

 

(恥ずかしいから言わないでおくか……)

 

そのことを言わない代わりに、ロイドはトラウマに対する助言をしようと思った。

 

「翔一君、トラウマについてだが……」

「ッ!」

 

その時だった。翔一の耳に、あの音が鳴り響いた。

 

「すいませんロイドさん!俺、行かないと!」

「アンノウンか・・・わかった!気をつけろよ!」

 

翔一はバイクに乗り込み、ロイドに向けて右手の親指を立てた。それを返すようにロイドも右手の親指を立てる。

そして翔一はバイクを走らせた。

 

バイクを走らせて10分ほど経ったころ、

 

「津上君!」

 

後ろからバイクのエンジン音とともに翔一を呼ぶ声が聞こえた。翔一はミラー越しに後ろを見ると、そこにいたのはフリッドだった。

 

「フリッドさん!」

「いくぞ!」

「はいっ!」

『変身ッ!!』

 

2人は互いに叫び、翔一はアギトに、フリッドはギルスに変身し、バイクもそれぞれマシントルネイダー、ギルスレイダーへと姿を変えた。

 

────────────────────────

 

アギトとギルスは現場にたどり着いた。

そこは海が見える港の近くで、すでにアンノウンによって死体が作られていた。

 

「ッ!」

「アイツは……!」

 

周りにある死体は5人……そして、それを作ったアンノウンは、水のエル。翔一のトラウマであるアンノウンだ。

 

(クジラのアンノウン・・・そうか、アイツが津上君の・・・!)

「あ、うっ・・・」

 

水のエルを見た瞬間、怯えたのかアギトは後ろに後ずさる。しかし、ギルスはそんなアギトの背中を支えた。

 

「津上君、逃げるな!逃げずに立ち向かうんだ!」

「わ、分かってます・・・!」

 

ギルスに叱咤され、アギトは水のエルの方を向いて構えた。

翔一自身も分かっていた。怯えてばかりではいられない。越えなければ、倒さなければいけないと。

すると、水のエルは右手を前に突き出した。

 

「いけ。」

 

その小さな一言にともに、地面の中からアリの姿をしたアンノウン、アントロードが大量に現れた。

 

「な、なんだこの数は!?」

「こんなにアンノウンが・・・!!」

 

アントロード達は一斉に二人に襲い掛かって来た。

二人はたまらず応戦する。アントロード1体1体の強さはさほどでもないが、集団で来られるとアギトとはいえ、手をこまねく。

 

「クソっ!これじゃキリがない!」

「津上君、雑魚は任せろ!君は奴と決着をつけるんだ!」

「フリッドさん・・・分かりました!」

 

アギトはアントロードの群れを振り払った。その場をギルスに任せ、自身は拳を握りしめ、水のエルに向かって突っ込んだ。

 

「うおおおおっ!!」

 

勢いよく拳を突き出したが、水のエルは右手だけで止めた・・・というより、拳が当たる前に見えない壁によって止められたような感触だった。

アギトはたて続けに拳や蹴りを連発して繰り出すが、いずれも水のエルが作り出す見えない壁によって止められる。

 

「ハッ!」

 

そして、水のエルは手から衝撃波を放ち、アギトを吹き飛ばした。

 

「くっ!」

 

吹き飛ばされたもののアギトは立ち上がり、ストームフォームへと姿を変え、ベルトからストームハルバードを抜いて構えた。

水のエルは手から衝撃波を凝縮し、球体へと変化させたものを飛ばしてきた。アギトはハルバードを振り回してそれを切り裂く。

 

「ハァァァァァァ……ハァッ!!」

 

ハルバードを振り回しながら突風を起こし、その突風とともに水のエル向けてハルバードを突き出す。

しかし、攻撃した瞬間、水のエルは持っていた戦斧を振り上げ、ハルバードを弾いた。弾かれたハルバードはアギトの手から離れて宙を舞った。

 

「あっ!?」

「ふんっ!」

 

驚くアギトをよそに、水のエルは戦斧を振りかざす。しかし、アギトは咄嗟にフレイムフォームへと姿を変え、ベルトからフレイムセイバーを抜いて攻撃を防いだ。

剣と戦斧がぶつかり合う中、水のエルによって弾かれたハルバードが二人の戦いの中に落ちていく。

 

「ハッ!」

 

その時、アギトは跳び上がってハルバードをキャッチした。その瞬間、アギトは三つの力が合わさった姿「トリニティフォーム」へと姿を変えた。

 

「ハァッ!!」

 

そして、剣とハルバードを水のエル目掛けて振り下ろす。しかし、水のエルは戦斧で攻撃を防ぐと同時に、アギトの腹に衝撃波の球体を押し当て、そのままアギトを吹き飛ばした。

 

「ぐああああっ!!」

「ハッ!!」

 

叫び声を上げて倒れるアギトに、水のエルは追い打ちをかける。右手が光り、それを前へと突き出した。すると、アギトの足元に巨大な水色の紋章が現れた。かと思うと、その紋章が突然爆発し、アギトは爆炎に飲み込まれた。

 

「う、うああああああああっ!!」

 

爆炎によって多大のダメージを受けたアギトは、その変身が解かれ翔一の姿へと戻った。

 

「あ・・・あっ・・・!」

 

小さいうめき声を上げ、翔一はその場に倒れ込んだ。そんな翔一に、水のエルは近づき始める。

 

「死ぬがいい、アギト。」

 

小さく呟き、もう一度紋章による爆発でとどめを刺そうとする。だがその時、カキンッ!という音ともに水のエルの首元に何かが当たった。"ソレ"は水のエルの肌を貫くことはなく、地面に落ちた。地面に落ちたのは、殺人用の武器"(スティレット)"だった。

 

「アレは・・・!?」

 

その武器を見て、翔一は声を上げた。その武器に見覚えがあった。何故ならその武器は、彼女が持っていたものだからだ。

そして……

 

「あの・・・すいません。ここに、私の家族を狙う糞アンノウンがいるとお聞きしました。」

 

そこに現れたのは、ガーデンが誇る最強の殺し屋、いばら姫・・・

 

「息の根を止めさせていただいてもよろしいでしょうか。」

 

ヨル・フォージャーだった。

 

「ヨルさん・・・!?なんで・・・!?」

 

突然のことに翔一は目を見開いて驚いていた。何故彼女がここにいるのか、何故アンノウンと戦おうとしているのか、アギトでなければ攻撃は通じないことは彼女も分かっているはずだった。

しかし、ヨルは黒のドレスに身を包み、その目は殺し屋モードに入り、いつもの優しい目はそこになく、敵を確実に殺すという意思を感じさせる鋭い目があった。

 

「翔一さん。」

 

その時、ヨルは水のエルを睨みながら翔一に呼びかけた。

 

「あなたは、いつだって私達を・・・いえ、みんなの居場所を守ってきました。だから今度は・・・私があなたを助ける番です!!」

「愚かな・・・」

 

失笑したように水のエルは俯くと、右手を前に出して衝撃波の球体を放った。

しかし、ヨルはかがんでそれをよけ、そのまま直進し(スティレット)を振るった。攻撃は水のエルに当たった。しかし、ダメージはなかった。

 

「シィッ!!」

 

ヨルはさらに回し蹴りを繰り出し、頭部に命中させる。だが、これもダメージはなかった。そもそも水のエルの力なら、攻撃を受けずとも、その寸前で止めることができる。

だが、水のエルはそれをしなかった。それは、人間であるヨルに自身の無力さを痛感させるためであった。そのため、よけることもせず、ただただ攻撃を受け続ける。

 

「なんとも愚かしい・・・」

 

戯れは終わりだと言わんばかりに、ヨルの腹に衝撃波の球体を直撃させ、吹き飛ばした。

 

「ヨルさん!!」

「かはっ・・・!!」

 

吹き飛ばされ、地面に転がるヨルだったが、なんとか立ち上がろうとする。

 

「ごふっ!ごふっ!!」

(なんて一撃……前に巨漢の人に腹を脇腹を殴られたことがありましたが……あの比じゃない!)

 

咳き込むと同時に口から唾液が滴り落ちる。同時に、ヨルは船の上で殺し屋の集団と戦った時のことを思い出した。その時に巨漢に脇腹を殴られたことがあった。あの時も相当な一撃だったが、水のエルの一撃に比べればカスのようなものだった。

ヨルは立ち上がり、再度水のエルに向かっていった。しかし、またも衝撃波によって吹き飛ばされていく。

 

「やめろ・・・やめてくださいヨルさん・・・!」

 

ヨルは何度も立ち上がり、水のエルに向かっていくがその度に衝撃波の餌食になる。

体中に衝撃波と地面に激突したことによるアザができ、息も切れかけていた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・!うああああああああっ!!」

 

それでも、ヨルは向かっていった。雄たけびを上げ、水のエルの眼球目掛けて(スティレット)を突き出す。しかし、攻撃は水のエルには当たらず、その手前で止まってしまった。

 

「哀れ。あまりにも哀れだ。」

 

水のエルは呟くと同時にヨルの首を思い切り掴み、そのまま持ち上げた。

 

「ぐっ・・・!」

「貴様はアギトではない。アギトになるべき人間でもない・・・」

 

水のエルはヨルに向かって「ただの人間」だと吐き捨てた。ヨルは人間とは思えないくらいの戦闘センスと腕力を誇る。しかし、アンノウンにとってそんなものはアギトとは比べ物にならない、ゴミのようなものだった。

その時、ヨルは言った。

 

「・・・そうです。私はアギトじゃありません。どんなに力が強くても、結局はただの一人の人間でしかありません。でも・・・!誰かを守りたい、その気持ちがあればどんな相手とだって戦えます!たとえそれが化け物でも!」

 

首を掴まれ、呼吸が苦しくなりながらもヨルは水のエルに向かって叫ぶ。

 

「あなたなんかに・・・あなたなんかに翔一さんはやらせませんっ!!」

 

ヨルは決して怯える姿勢を見せなかった。それは殺し屋としての覚悟ではなく、一人の人間としての覚悟の現れだった。

しかし、それを嘲笑うように、水のエルはヨルの腹に右手を当てた。

 

「ならば、思い知るがいい。お前達人間の無力さを。」

「やめろ・・・!やめろォォォォ!!」

 

水のエルが何をする気なのか予想し、翔一は思わず叫んだ。しかしその叫びも空しく、ヨルの腹に直接衝撃波が放たれた。

 

「かはっ・・・!!」

 

一発だけでは終わらなかった。二発、三発、四発・・・と何度もヨルの身体に直接衝撃波が叩き込まれる。一発だけでも、車に轢かれたような衝撃が走るほどだったが、それを何度も人体に叩き込まれるのだ。衝撃波を一発撃ちこまれる度に、ヨルの身体は跳ね上がった。

そして、10発ほど叩き込まれた直後、ヨルの身体はダランと伸びていた。それを見るや否や、水のエルはまるでゴミを捨てるようにヨルを投げ捨てた。

 

「ヨルさんッ!!」

 

翔一はすぐさま倒れたヨルの元に駆け寄り、抱き起こす。

 

「しょう、いちさん・・・すいません、負けちゃいました・・・」

「どうして、どうしてこんな無茶なことしたんですか!?」

 

ぐったりとしながら微笑むヨルに、翔一は目に涙を浮かべて叫んだ。

 

「……私、前から思ってたんです。翔一さんの記憶が、元に戻らなければいいって。そんなこと考えたらダメだって分かってたのに……でも、記憶が戻ったら翔一さんが、どこか遠くに行っちゃうような気がして……」

 

ヨルは自身が考えていたこととその思いを打ち明けた。それを聞きながら、翔一はヨルの手をしっかりと握っていた。

 

「そして、考えたんです……どうしてそんな風に思っちゃうのか……そしたら、分かりました。私、翔一さんのこと……好きです。」

「!!」

「ロイドさんと同じくらい、翔一さんのことが好きになったんです。」

 

その告白を聞いて、翔一は驚いて目を見開いた。同時に嬉しさと悲しさを覚え、翔一は両目からポロポロと涙を流し始めた。同様に、ヨルも目から涙を流していた。

 

「……最低ですね、私って。ロイドさんがいるのに、他の男の人にこんなこと言って……」

 

ヨルは泣きながら笑い、自分自身を嘲笑った。そんなヨルに、翔一は首を横に振って否定した。

 

「そんなことないです!俺、嬉しいです・・・!ヨルさんは素敵な人ですもん!!」

「フフッ・・・翔一さんは、本当に・・・いい、人・・・」

 

その時、ヨルはまるで眠るように目を閉じると、そのままガクリと項垂れた。

 

「ヨルさん・・・?ヨルさんっ!!ヨルさぁぁぁぁぁんっ!!!」

 

翔一は必死に呼びかけ、体を揺すった。しかし、ヨルが目を開けることはなかった。その事実に翔一は叫んだ。

目の前で大切な人が命がけで戦ってくれたのに、「好きだ」と言ってくれたのに、何もできなかったことに翔一は絶望した。

そしてそれに追い打ちをかけるように水のエルは戦斧を差し向けた。

 

「死ね、アギト。」

 

水のエルは戦斧を振り上げ・・・勢いよく振り下ろした。しかしその時、赤い触手が伸び、翔一とヨルに巻き付き、水のエルの攻撃から救った。

 

「津上君!!ヨルさん!!」

 

現れたのはエクシードギルスとなったギルスだった。助けた二人を自身の元に引き寄せた。

 

「フリッドさん!ヨルさんが・・・ヨルさんが・・・!!」

「待て!」

 

ギルスはそっとヨルの胸元に耳を傾けた。すると、そこからは僅かだがドクンと心音が聞こえてきた。

 

「大丈夫。まだ生きてる!急いで病院に行くぞ!!」

 

ギルスは叫ぶと同時に遠くにあった、オイルの入ったドラム缶を触手で持ち上げ、水のエル目掛けて投げつけた。そして、そこにギルススティンガーでドラム缶を突き刺し、その中で触手同士を交差させて火花を起こす。

その瞬間、ドラム缶の中のオイルが引火と同時に爆発した。

 

「くっ・・・!」

 

その爆発の中、水のエルの視界が遮られた。その隙にギルスと翔一はヨルを連れてその場から逃げていった。

 

「・・・逃がしたか。だが、アギト・・・貴様の運命は決まっている・・・」

 

爆炎の中、水のエルは動じず静かに呟いた。しかし、水のエルは知らなかった。この爆発が、この燃え盛る炎が……自身を滅ぼすことになることを。

 

 

 

 





今回、かなり展開悩みました。ヨルさんを水のエルと戦わせるか否かで。
破章の終盤は個人的に大事な局面、アギトが覚醒するための大事な部分を担うので、そう簡単に覚醒させたくないのと、推しであるヨルさんを傷つけたくない気持ちが半々で、かなり悩みました。

まぁ、結果としてヨルさんをアンノウンと戦わせてしまいました。
ヨルさん推しの方々、すいませんでした!

作品内において、どのライダーの話が一番好きですか?期間は4月10日から4月17日まで。アンケート結果は後日作品内で発表します

  • アギト編(翔一+フォージャー一家)
  • G-3編(ユーリ+対策班、ノエル)
  • ギルス編(フリッド+ダミアン、フィオナ)
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