SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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今回、ロイドファンにはちょっと申し訳ないことしたかなぁって思いました。
「解釈違いです!」とか「黄昏はこんなウジウジ悩まない」って言われちゃいそうですが、どうか温かい目で見守ってください。




第41話「乗り越えて進め」

 

がつがつ……モグモグ……むしゃむしゃ……

 

"ガーデン"の庭の中、グリムは一人食事をしていた。300gのステーキを約10枚ほど食べ、現在11枚目に突入していた。

 

「勝手なことをしてくれたな……」

 

そこに、イワークが不機嫌そうにグリムの前に現れた。

 

「あ?何が?」

「とぼけるな。ヨル・フォージャーの正体を明かしてしまうなど……!誰のおかげで飯が食えてると思っている?」

 

イワークはグリムの勝手な行動に怒り、叱りつけようと声を上げた。

すると、グリムは眉間に皺を寄せ、カトラリーナイフをイワークの喉元に突きつけた。

 

「うるせぇんだよ……勝手なことしてんのはアンタだって同じだろ。何も知らねぇあのアーニャ(ガキ)翔一(アギト)に……アンタは何したか……」

「もういい!黙れ!!」

 

その時、イワークは怒鳴り声を上げた。

しかし、すぐに深呼吸して落ち着いた声で話し出した。

 

「……もう勝手にするがいい。だが、我々の目的を忘れるな。」

「分かってるよ……黙って見とけ。」

 

グリムはそう言ってカトラリーをテーブルに置き、地面に置いた袋からポテチを取り出して開けた。

中に手を突っ込み、無造作にポテチを掴み口の中に放りながらその場を去っていった。

その背中を、イワークはため息をつきながら見送った。

そこに……

 

「いやはや、まだまだ若いですね。グリム君は・・・当たり前ですが。」

 

"ガーデン"のボスである店長が庭の奥から現れた。

 

「店長、ご迷惑をおかけします。」

「いえ、お気になさらず。グリム君は非常に仕事熱心ですよ。……かなり荒っぽいですがね。」

「ヨル・フォージャーは?」

「先ほど電話でお話しましたが……やはり家族に知られてしまったショックが大きいようで……『しばらく休みたい』と連絡がありました。」

「そうですか。」

 

店長からの話を聞いて、イワークは坦々と事務的な相槌を打った。

 

「しかし、目的に支障はありません。全てはこの世界のため、アギトのため、アーニャのため……犠牲は致し方ないでしょう。」

「・・・そうですね。私もあなたが見せた未来(ビジョン)を見てしまった以上……全力で協力します。」

 

────────────────────────

 

そのころ、フォージャー家では……

 

(ヨルさんが、ガーデンの殺し屋……)

 

グリムがヨルの正体を皆の前で明かしたその翌日、ロイドは仕事を休んで自分の部屋に閉じこもっていた。

ヨルも同様だった。仕事を休んでリビングのソファでただボーっとしていた。

 

(もう、何を信じればいいんだ……)

 

ロイドは頭を抱えた。ロイドは自分でも気づかない内に、ヨルに恋心を抱いていた。一緒に暮らしていく内に徐々に惹かれ、初めてキスをしたときも言葉にならないほど嬉しく思った。

それなのに、ヨルが殺し屋・・・それも「WISE」の敵対組織の女であったことが、ロイドにとってショックが大きいものだった。

 

「何を迷ってるの?」

 

その時、部屋の中で小さい子供の声が聞こえた。アーニャのものではない。

ロイドは目の前に顔を向けた・・・と同時に目を見開いた。目の前にいたのは少年だった。

ロイドはその少年に見覚えがあった。それは、過去の自分。両親を失い、泣きじゃくっていたころの弱いころの自分だった。

少年時代のロイドは、真顔で大人のロイドをじっと見つめていた。

 

「なんであの女を売らないの?今までだって何回も女を……他の人間を裏切ってきたじゃない。」

「うるさい……!」

 

ロイドは思わず耳を塞いだ。しかし、その声はそんなこと関係なく聞こえてくる。

 

「愛情が沸いたの?今までいろんな女と交際してきたのに、あの女にだけ愛情が沸いたの?君が裏切ってきた女の中には、君のことが好きだった奴もいたはずだよ。なのに、あの女だけ贔屓するの?」

「黙れ……!」

「君にそんな資格なんてないよ。だって君は人でなしだもん。」

「違う、俺は人でなしなんかじゃない……!」

「人でなしだよ。あの日……君がお父さんに嘘をついたあの日から、君は人でなしなんだよ。」

「ッ!!」

 

その瞬間、ロイドの脳裏に過去の記憶がフラッシュバックした。

参考書を買いに行くと言って嘘をついて小遣いを貰い、その金でおもちゃの銃を買ったこと・・・それを知らなかった父親の笑顔・・・ロイドはそれを謝りたいと思っていた。しかしその前に父親は亡くなってしまった。

 

「父さん、父さん……!!」

 

過去を思い出したロイドは、両目から涙が零れ落ちた。

その姿を見た少年のロイドはニヤリと悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「売っちゃいなよ……楽になるよ。君を悩ませるものなんて、全部処分しちゃえばいい。所詮嘘で塗り固めてきた人生、所詮人でなしなんだから。」

 

少年のロイドの声が変わった。異様に低く、まるで怪物のような声でロイドに囁いてくる。

 

「俺は……!俺は……!!」

 

と、その時だった。

 

「ロイドさん!ロイドさん!!」

 

部屋の外で翔一の声が聞こえ、ノックが激しくノックされた。ロイドはハッと気が付き、ドアを開けようとしたが、開けられなかった。

部屋の外にはヨルがいる。今開ければ、ヨルの姿を見てしまう。

 

(ダメだ……今、ヨルさんを見たら……俺は、もう二度と……!!)

「今、フリッドさんが来て・・・!ダミアン君が攫われたって……!!」

 

部屋の外から翔一の大声が聞こえ、ロイドは目を見開いた。

その瞬間、ロイドの脳裏にあの男・・・グリムの姿が浮かんだ。

 

(あの男か……)

「フリッドさん、一人で助けに行くって言いましたけど……俺達も助けに行かないと!ロイドさん!!」

「ちち!はやくでて!!」

 

翔一とアーニャの懇願する声が聞こえてくるが、それでもロイドは動けなかった。

今はなにより、ヨルの姿を見たくなかったのだ。だが、その時だった。

 

「ロイドさん。」

 

部屋の外からヨルの声が聞こえてきた。

 

「返事しなくてもいいですから、聞いてください。……隠しててごめんなさい。でも私、不思議と後悔してないんです。なんでかなって考えたら……分かりました。ロイドさん、初めて会った時……カミラさん達の前で言ったこと、覚えてますか?」

 

そう言ったヨルの口から、前にロイドが言ったセリフが紡ぎ出された。

 

『誰かのために、何かのために過酷な仕事に耐え続けることは、誇るべきことです』

 

そのセリフを聞き、ロイドは思い出した。確かに自分が言った言葉であることを。

 

「それで私、思ったんです。私の正体がいつかバレたとしても……ロイドさんならきっと認めてくれる、許してくれるって、思ったんです。だって、ロイドさんは優しい人だから。」

(違う……違うんだヨルさん。)

 

ロイドは部屋に隠れながら、首を横に振った。自分はそんな優しい人間じゃない、優しいように見えたのは良い夫を演じるための嘘だと言うように。

それを知らないヨルは、言葉を続けた。

 

「……私、フリッドさんとダミアン君を助けにいきます。それからもう一人……グリム君も助けないと。」

(何っ!?)

 

続くその一言にロイドは驚き、ドアを開けそうになったが踏みとどまった。

グリムはヨルの正体を皆の前で明かした張本人。それなのに、ヨルは彼を「助ける」と言い始めたのだ。

 

「あの子もきっと苦しんでます!だから助けないと!それに……私、あなたの隣にいても恥ずかしくない女でいたいですから。」

(ヨルさん……!!)

 

最後にそう言って、ヨルはドアの下のわずかな隙間に一枚の紙を入れた。

 

「フリッドさんからです。ロイドさんに渡してくださいって言ってました。」

「じゃあ、ロイドさん・・・俺達、行きます!」

 

そう言い残し、ヨルと翔一、アーニャはドアの前から遠ざかっていく。

最後にガチャンと音が聞こえ、玄関から3人が出ていったことが分かった。3人がいなくなったことに気づいたロイドは、その場でドアにもたれかかるように床に座り込んだ。

 

(ヨルさん……俺は優しい人間なんかじゃないんです……俺は、最低な人間なんです。一瞬でもあなたを組織に売ろうと思ってしまった……弱くて、最低で……あなたには相応しくない男です……)

 

ロイドは自分で自分を蔑んだ。ヨルは自分の正体が明かされても、それでも自分らしくいようとした。その上、ロイドのことを信じようとしていた。

ロイドは自分で自分が恥ずかしくなり、何もできずにその場に蹲った。

だがその時、床についた手に違和感を覚えた。見てみると、そこには一枚の紙、ヨルが隙間から入れてきたフリッドの手紙だった。

ロイドはその手紙を広げ、書いてあることを読み始めた。

 

「これは……!!」

 

────────────────────────

 

家を出ていき、ヨルは翔一のバイクに乗ってとある場所に向かっていた。そこはデパートにある喫茶店だった。

 

「メリンダさん!!」

「あら、ヨルちゃん。」

 

喫茶店にいたのはダミアンの母親、メリンダと愛国婦人会の主婦達。ヨルはメリンダを見つけるなり、すぐさま詰め寄った。

 

「大変なんです!ダミアン君が、息子さんが大変なんです!」

「え?」

 

声を上げるメリンダに、続いて翔一が詰め寄った。

 

「攫われたんです!ダミアン君、殺されるかもしれないんです!!」

「……そんな嘘を信じてるの?」

 

慌てふためく二人に対し、メリンダはため息をつき、冷たい言葉を吐いた。

そんなメリンダを見て、二人は信じられないように目を見開いた。

 

「そ、そんな・・・本当だったらどうするんですか!?フリッドさんだって、今ダミアン君を助けに……!!」

「フリッド……ああ、あの金魚の糞ね。」

「は……?」

 

メリンダの一言に、ヨルは殺意を覚えた。

この女は何を言っているのか・・・フリッドはダミアンのことをどれだけ考えているのかも知らずに・・・

 

「毎度毎度あの子に会って、何のつもりなのかしらねあの男は。おこぼれでも欲しいのかしら。」

 

息子が大変な目に遭っているのに、何を言っているのか……

 

「案外、息子を攫ったのもあの男なんじゃないの?そんなの気にすることないわよ、ヨルちゃ……」

 

その瞬間、ヨルの拳が喫茶店のテーブル目掛けて振り下ろされ、次の瞬間テーブルは粉々に砕けた。

メリンダと婦人会の主婦、および周りの客達をあっけに取られ、声を出す暇もなかった。

そして、

 

「ふざけたことを……言わないでくださいッッッ!!!」

 

ヨルの叫びが店内にこだました。

 

『ヒ、ヒイィィィツ!!?』

 

その瞬間、婦人会の主婦は悲鳴を上げ、メリンダは目を見開いて驚いた。

そしてヨルはキッとメリンダを睨みつけた。

 

「フリッドさんがどれだけダミアン君のことを思っていると思ってるんですか!?フリッドさんはダミアン君のこと・・・本当に楽しそうに語ってくれて……私は二人が触れ合ってる姿を少ししか見てませんけど、とても幸せそうでした!そんなフリッドさんが……人攫いなんてすると思うんですかっ!!?」

 

ヨルは捲し立てるように叫んだ。ヨルはフリッドとダミアンの仲の良い姿を見ていた。二人が互いの絆を取り戻す瞬間、その目で見ていた。だからこそ言えたのだ。

何も知らないメリンダは、ただただ黙って聞くことしかできなかった。

すると、ヨルはそんなメリンダに背を向けた。

 

「メリンダさん……あなたは最低です。子どもにもしものことがあったらって考えないなんて……母親失格です!」

「………」

 

ヨルのその言葉に、メリンダは何も言わず黙り込んだ。

ヨルはそのまま、翔一とアーニャを連れてその場を立ち去っていった。

 

────────────────────────

 

「むぐーっ!むぐーっ!」

 

場所は変わり、夜の廃工場……連れ去られたダミアンは縄で縛られ、口に猿ぐつわを嚙まされていた。

その時、猿ぐつわが解かれた。

 

「ヒヒッ、泣いてもいいんだぜ?『パパ~!ママ~!たちゅけて~!』ってよぉ!」

 

猿ぐつわを解いたのは攫った本人、グリムだった。グリムはトマホークを突きつけながら笑った。

 

「ダミアンッ!!」

 

その時だった。叫び声とともにフリッドが二人の前に現れた。

 

「叔父さん!!」

「おっと。」

 

フリッドはすぐさまダミアンの元に駆け寄ろうとした。しかしそれより先にグリムがダミアンの頭にトマホークを差し向けた。

それを見たフリッドは足を止めた。

 

「そうだ、それでいい。それ以上動いたら、こいつの頭をかち割る。」

「……何が目的だ!?復讐か!?ドノバンへの、父親への!」

「ああ、そうだよ!悪いか!?」

 

フリッドは睨みながらグリムに問いかけると、グリムは開き直ったように答えた。

 

「なら、ダミアンは関係ないだろ!その子を巻き込むな!!」

 

フリッドはさらに叫ぶ。グリムがドノバンに復讐したいのであれば、直接ドノバンを殺しにいけばいい話だ。なのにグリムはダミアンを巻き込んだ。

すると、グリムは急に笑い始めた。

 

「クハハハ……!関係あるんだよぉ!俺はな、このガキをあの男の前で殺してやるんだ!あいつの前に、このガキの生首を突き付けてやる!アイツを絶望させてやるんだ!……だがどうだろうなぁ?」

 

その時、グリムは態度を変えてトマホークの背の部分でダミアンの顎をクイッと上げた。

 

「あいつ、子ども愛してねぇから……お前が死んでも、泣いてくれねぇだろうな。」

「ッ!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、ダミアンは目に涙を浮かばせ、今にも泣きそうになった。

 

「可哀想になぁ……生きてても辛いだろ?心配すんな。親子揃って仲良く殺して、イーデン校の校門前にお前ら親子の生首並べてやるよ。俺、アイツより慈悲があるつもりだからさ。」

「正気じゃない……!!」

 

ダミアンを見下し、嘲笑うように言うグリムにフリッドは歯ぎしりを立て、怒りながら静かに呟いた。

すると、今度はフリッドの方を睨んできた。

 

「ああ、正気じゃねぇよ……だが、誰のせいでこうなったと思う!?全部あの男が悪いんじゃねぇか!あの男がいなきゃ、こうはなってなかった!このガキだって生まれてこなかった方が幸せ……」

「うあああああああああああああっ!!」

「ッ!?」

 

その時だった。ダミアンは雄たけびを上げ、グリムに向かって突進した。

ダミアンはグリムの足にぶつかり、グリムはバランスを崩して倒れたが、倒れると同時にダミアンを蹴り飛ばした。

 

「ダミアン!」

「くっ……!」

 

蹴られ地面に転がるダミアンだったが、なんとか立ち上がった。その顔に土埃と蹴られた傷がついたが、それでも臆することなくグリムを睨んだ。

 

「この、クソガキィィッ!!何のつもりだテメェ!!」

 

怒りの表情を浮かべ、仁王立ちでグリムは叫ぶ。一瞬ビクッと体を震わせるが、ダミアンはそれでも臆せず口を開いた。

 

「……確かに、俺は……愛されてないかもしれない。」

「あ?」

「父上も母上も、俺のことなんて見てないかもしれない……でも!それでも俺は信じてる!!二人は心の奥で、俺の事を愛してるって……!!それにもし、愛してなかったとしても……俺の事愛してるって人がちゃんといること知ってるから!!」

「ダミアン……!!」

 

ダミアンは叫び、フリッドの方を見た。それを見てフリッドは目頭を熱くさせ、力強く頷いた。ダミアンも同様だった。

ダミアンは、フリッドが自分のことを愛してくれていると知っている。だからこそ、胸を張って、勇気を持って言えるのだ。

しかし、それが面白くないのか、グリムは舌打ちを打った。

 

「……そうかい。じゃあいいや。ここでテメェをぶっ殺してェ……!お前の屋敷の前にその首送りつけてやるよ!!」

 

グリムは叫ぶと同時にトマホークを勢いよく振り上げた。そしてそのまま振り下ろし、ダミアンの頭を割ろうとした。

だが次の瞬間、グリムはトマホークを地面に落とした。

 

「ぐっ!?」

 

グリムの手にある物が突き刺さった。それは、ヨルが使う暗殺用の武器スティレットだった。

 

「ヨルさん!!」

「すいません、お待たせしました!」

 

フリッドが後ろを振り向くと、そこにはヨルとアーニャの姿が。

 

「ヨルゥゥゥ!!テメェェェェェ!!」

(今だ!)

 

グリムはその視線をヨルの方へ向けた。その隙を突き、フリッドは右腕をギルスに変え、触手を伸ばしてダミアンの体に巻き付けた。

そしてそのまま力強く引っ張って空中に放り投げた。

 

「う、うわあああああああっ!!?」

「ヨルさん、お願いします!」

「はいっ!」

 

フリッドの言葉に従い、ヨルは宙を舞って投げられたダミアンを抱きとめ、地面に着地した。

 

「大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうぶれす……」

(か、顔中に柔らかいのが……)

 

呂律の回らない声で返事をするダミアン。今は助けれたことに対する感謝と安堵よりも、顔にくる胸の感触が気になってしかたなかった。

 

「ふざけやがってェェェェ!!」

 

人質を奪われたグリムは怒りのあまり大声で叫び、手に刺さったスティレットを抜き、落ちたトマホークを拾ってヨルに向かって突進した。

 

「ハアッ!!」

「なっ!?ぐあっ!!」

 

しかしその時、アギトに変身した翔一が飛び蹴りを繰り出し、グリムを蹴り飛ばして壁に叩きつけた。

 

「津上君……!」

「遅くなってすいません!」

「ア、アギトォォォォ!!」

 

突然アギトが現れ、自分の邪魔をされたグリムはまたも叫んだ。そして再度突進しようとするが、その瞬間銃声が鳴り響き、グリムの足元に銃弾が命中した。

 

「次は・・・」

「当てるぞ!」

 

その銃弾を撃ったのは、ヨルの弟ユーリと、夫のロイドだった。

 

「ユーリ!ロイドさん!」

「遅くなってごめんね、姉さん!」

「立ち直るのに時間がかかって……だが、フリッドの手紙のおかげで目が覚めた。」

 

そう言うと、ロイドとユーリはポケットからフリッドからの手紙を取り出し、その場で広げた。

その手紙には、こう記されていた。内容は二人とも同じだった。

 

『まず、俺個人の、デズモンド家の問題に君達を巻き込んでしまったことを謝罪する。ヨルさんが殺し屋だと知って、俺も最初は驚いた。でも、俺個人としてはヨルさんは悪い人間じゃないと思う。あの人は他人のために涙を流せる人だ。君達には、あの人が悪い人間に見えたか?もし悪い人間に見えたのなら……家族として君達がヨルさんを止めるんだ。悪い人間に見えなかったら……彼女が変わらないように、支えてあげるんだ。君達ならそれができる。俺は、君達家族の愛と勇気と絆に期待する。 フリッド・リード』

 

「……姉さんは、姉さんだ!それは今も昔も……たとえ、殺し屋だったとしても変わらない!!」

「ユーリ……!」

 

ユーリは胸を張って叫んだ。それを見てヨルは目頭を熱くさせた。

きっと無理をさせているかもしれない、辛いかもしれないと思いながらも、それでも殺し屋であるヨルを受け入れようとするユーリに、ヨルは感動したのだ。

そして、ロイドも……

 

「……ヨルさん。俺も、あなたに隠していたことがあります。」

「え・・・?」

「……俺は、俺の本当の職業はスパイ!コードネームは黄昏!『WISE』のスパイ、黄昏だッ!!」

『えっ!!?』

 

ロイドは目を見開き、思い切り、心のままに叫んだ。それを聞いた他の皆は驚いていたが、ロイドは気にしなかった。

 

「ロイドさんが、スパイ……!」

「ヨルさん、さっきの言葉……お返しします。」

 

ロイドはそう言うと、ヨルに顔を向けフッと微笑んだ。

 

「俺が正体を明かしたのは、ヨルさんだったら……俺を認めてくれる、許してくれるって思ったからです。それに……俺は、あなたの隣にいても恥ずかしくない男でいたいです。」

「ロイドさん……!ロイドさぁん……!!」

 

その言葉は、ヨルが先ほど家でロイドに言った言葉と同じものだった。それを聞いたヨルは、思わず涙を流してしまった。

同時に力が抜け、肩の荷が下りたようだった。

すると、ロイドはコホンと咳払いをした。

 

「ヨ、ヨルさん、そろそろ離してあげた方が……」

「へ?」

 

ロイドはヨルの胸に抱かれたダミアンを指差した。ヨルはそこに目を向けると、ギョッと目を点にした。

なんと、ダミアンは顔をトマトのように顔を真っ赤にし、白目をむき、鼻血を垂れ流していた。

 

「ちょあー--っす!!?あわわわわわ……!!ダミアン君大丈夫ですかぁ!!?」

「マシュマロ……おっきいマシュマロ……」

 

ダミアンの安否を気遣い、ヨルは肩を掴んで前後に揺さぶった。対しダミアンは頭をガクガクと揺らしながらうわ言のように「マシュマロ」と呟いていた。

それを見たロイドは、思わず歯ぎしりを立てた。

 

(うらやましい……な、なんて思ってないぞ!この状況で!!)

「まったく、こんな時に……」

 

同時に、フリッドはダミアンの姿を見てため息をついた。

と、その時・・・

 

「うあああああああああああああっ!!何和んでんだテメェらァァァァァァ!!」

 

グリムは怒りが頂点に達したのか、怪鳥音のような声で雄たけびを上げた。

 

「ああ、許さねぇ!!ああああああああ、許さねぇ!!お前ら全員……!!ここでぇ!!ぶっ殺してやるッッッ!!!」

 

怒りに身を任せ、グリムは腰の前で腕を交差させた。

 

「変身ッッッ!!!」

 

叫び声と同時に、グリムはアナザーアギトへと変身を遂げた。

その姿を見て、アギト達は驚いた。

 

「アイツ……!」

「グリムがあのアギトだったのか……!」

 

アナザーアギトは驚くアギト達をよそに、構えて臨戦態勢に入った。それを見て、アギトも構えた。

しかし、それを止める様にフリッドは腕を出してきた。

 

「……俺がやる。」

「フリッドさん?」

「デズモンド家の決着は……デズモンド家の人間がつける!!」

 

フリッドは叫び、顔の前で両腕を交差させた。

 

「変身ッ!!」

 

そして叫び、グリムと同じくギルスへと変身した。

両者、構えを取り……

 

「ガァウッ!!」

「シィィィッ!!」

 

同時にその場から駈け出し、互いに拳を繰り出した。

 

 





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