今回、また遅くなって申し訳ありません……またパソコン操作しながら寝落ちすることが多くなりまして……
ダミアンが攫われる少し前……フリッドは自宅に戻り、ソファで一息ついていたが、頭を抱えて唸っていた。
「あの子のことが気になる?」
「ダミアンは『大丈夫』だと言っていたが……やっぱりショックだったろうなぁ……」
あの後、フリッドはダミアンをイーデン校の学生寮へ送り届けた。その時、ダミアンは去り際に、
「大丈夫だよ!俺なら全然平気だよ!」
と言っていたが、フリッドにはそれがやせ我慢だと分かっていた。
あの時、無理にでも一緒にいてやるべきだったと後悔していた。それを家に戻った今でも引きずっていた。
「……それにしても、ドノバンに隠し子がいたなんてね。」
その時、フィオナは話題を変えた。フリッドに対する多少の気遣いのつもりだった。
すると、フリッドは深いため息をつき、ソファにもたれかかった。
「……彼を、グリムを止めないと……」
「は?」
フリッドの一言に、フィオナは声を上げた。フリッドは続けて言った。
「彼はまだ若い。もうこれ以上、取り返しがつかなくなる前に止めないと。」
フリッドは思った。グリムはまだ若いが、殺し屋をしている。これまで何人も人を殺してきたのだろう。そして今度はダミアンを、子どもを殺してしまう。子どもを殺してしまったら、彼は深みにはまってしまう。
闇の中に落ちてしまう。光の道を歩けなくなってしまう。それを大人として、同じ人間として止める……フリッドはそう思っていた。
(どこまでもお人好しね……)
そんなフリッドを見て、フィオナは呆れると同時に怒りも覚えた。
もっと自分の命を大事にできないのか……そう思っていた。
その時、ふとテーブルを見ると、フリッドは紙に何かを書いていた。
「何書いてるの?」
「ロイド君と、ユーリ君に手紙をね。ヨルさんのことで……ショック受けてるだろうから。」
(ヨルちゃん……)
ヨルが殺し屋だと分かり、ショックを受けているのはフィオナも同じだった。
近くに敵対組織の殺し屋がいたのに、自分はそれに気づかず、あまつさえ憧れの先輩の傍にそいつがいたことが許せなかった。
だが同時に、ヨルのことを友達として意識してしまっている自分がいたことも許せなかった。
「あなたは・・・ショックじゃないの?ヨルちゃんのこと。」
フィオナは思わずフリッドに尋ねた。すると、フリッドはすぐに返事を返してきた。
「ショックだよ。彼女は俺達に嘘をついてた。それが真実だ。でも……ヨルさんはヨルさんだ。」
手紙を書きながら、フリッドは笑って言った。そして書き終えた手紙を折り始めた。
「彼女のおかげで、俺はダミアンと仲直りできた。それだって真実だよ。俺は、彼女の言動や行動の全てが嘘じゃないって信じたい。」
折った手紙を内ポケットに入れると、壁にかけてあったジャケットを羽織った。
「たぶん、ロイド君とユーリ君もそう思ってるはずだ。だから、この手紙を渡さないと。」
そう言ってジャケットを羽織ったフリッドはニコッと笑った。それを見て、つられてフィオナも笑った。
その時、家の電話が鳴り響いた。
「はい、リードです。」
『よぉ、ギルス先輩……』
受話器から低い少年の声が聞こえてきた。その声には聞き覚えがあった。
「まさか……!?」
『そうだ、グリムだ。覚えてたか?』
「……何の用だ?」
敵意を向けるような低い声で呟くと、グリムは急に笑い始めた。
『おいおい、つれねぇなぁ……大事なこと教えてやろうと思ったのに。・・・今、誰と一緒にいると思う?』
『お、叔父さん……!』
その時、グリムの声に続くように少年の声が聞こえた。その声にも聞き覚えがあった。いや、聞き間違えるはずのない、大事な人の声だ。
「ダミアン……!?」
『叔父さん!来ちゃダメだ!俺は大丈夫だから……むぐっ!?』
『おいおい、勝手に喋っちゃダメだろ?』
「貴様ァ……!!ダミアンに何をした!?」
フリッドが怒鳴り声を上げると、グリムは可笑しいのか笑い始めた。
『まだ何もしちゃいねぇさ。助けたいなら……街はずれの廃工場に来な。じゃあな。』
「ま、待て……!」
止める前に電話が切れた。
「……ッ!!ダミアンが攫われた!」
フリッドは乱雑に受話器を置き、そのまま急いで家を出ようとした。と、その時、フィオナはフリッドの服を掴んだ。
「フィオナ?どうし……」
「どうした?」と聞こうと後ろを振り返った瞬間、フィオナはフリッドに抱きついてきた。
「……戻ってきなさいよ。私、まだあなたのこと、全部知り終えてないんだから。」
フリッドの顔を見ることなく、胸に顔を埋めたまま語り掛けてくるフィオナに、フリッドは優しく抱きしめ返した。
「大丈夫だよ。だから、治療の用意と……後、ご飯作って待っててくれ。」
そう言って抱きしめ、頭を撫でると、フリッドは家を出ていった。
一人残されたフィオナは、力が抜けたようにソファに座り込み、近くにあったクッションに顔を埋め始めた。
(……バカなの、私は……?「戻ってきて」なんて……生娘かッ!?今すぐこの記憶を消したい……!!)
言った後になって、自分の発言が恥ずかしくなり、クッションで顔を隠すフィオナだった。
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そして現在、
『うおおおおおおおっ!!』
ギルスとアナザーアギトの拳が互いの頬に入り、クロスカウンターが決まった。
互いによろけるが、すぐに足に力を入れて踏ん張った。
「ウオアアアアアアアアア!!」
雄たけびを上げながら、ギルスは連続での回し蹴りをアナザーアギトに繰り出す。アナザーアギトは最初の何発かは喰らっていたが、最後の一発が繰り出された瞬間足を掴んだ。
「シャッ!!」
その瞬間、アナザーアギトは掴んだギルスの足に思い切り肘鉄を食らわせた。
「ぐっ!?」
あまりの痛みに声を上げそうになったが、ギルスは耐えた。しかし、アナザーアギトはなんの躊躇もなく連続で足に肘鉄を食らわせていく。
「ぐっ……!グウウウ……!!ウオアアアアアアアアア!!」
「なっ……!?があああああっ!!」
しかし次の瞬間、ギルスはアナザーアギトの耳元で大きく口を開いて叫んだ。叫びは超音波となってアナザーアギトを苦しめ、足から手が離れた。
その瞬間、ギルスはお返しとばかりにアナザーアギトの腹に拳を何度も叩き込んだ。
「この……舐めるなァッ!!」
すると、アナザーアギトは鋭い爪を振りかぶった。一瞬反応が遅れたのか、ギルスはその爪の一撃を胸にモロに喰らってしまった。
それからアナザーアギトは何度もギルスに攻撃を食らわせていく。
「まずい、押されてる……!俺、やっぱり手助けを……!」
ギルスが押されているのを見て、アギトは助けに行こうとした。
しかし、その時ロイドが待ったをかけた。
「待て!何か様子が変だ……あのフリッドがこうも押されてるなんて……」
ロイドはギルスの異変に気付いていた。単純な力量ならアナザーアギトに軍配が上がるが、知識など、総合的な面で見ればギルスの方に利があるはずだとロイドは思っていた。
そもそも、ギルスは直接殴りに行くだけでなく、周りにある物を利用したりなどの搦め手も使う。なのに、今回はそれを使っていない。
(それに、さっきから攻撃を受けすぎてる……まさか……!)
「てめぇ……なんのつもりだ?」
ロイドがギルスの考えていることに気づいたと同時に、アナザーアギトは声を上げた。
アナザーアギトも気づいていたのだ。ギルスが何をしているのか。
「てめぇ、なんで攻撃をよけねぇ?ふざけてんのか?」
今、アナザーアギトが言った通り、ギルスは攻撃をよけなかった。よけずに、わざと攻撃をくらっていたのだ。
「手ぇ抜いてんのか?ふざけやがって……!!」
「ふざけてはいない……!!俺は、君の怒りを……全部受け止める!!」
そう叫んだギルスは再び構えた。最初からよけるつもりはなく、攻撃を全て受け止めるつもりだった。
それが不死身の身体を持った自分にできる最良の選択だと思ったのだ。それを知ったロイド達は感心した。だが同時に呆れてもいた。
(フリッドさん……凄い覚悟です……!でも……!!)
(無茶だ!いくらフリッドが不死身でも、攻撃を受け続けたらどうなるか……!!)
その時、ユーリがアギトの肩を叩いた。そして耳元に顔を近づけて囁き始めた。
「津上、何かあったら僕達が行こう・・・!フリッドさんが止めても構うな!」
「わかってます……!」
ユーリからの提案に、アギトは小声で返事をしながらも力強く頷いた。
「その減らず口……これでも叩けるかよぉっ!!」
その時、アナザーアギトは背中のマフラーを風も無しにたなびかせた・・・かと思いきや突然姿を消した。
「なにっ!?消え……ぐあっ!!」
突然消えたことに驚くギルスだったが、突然うめき声を上げた。後ろに顔を向けると、そこには消えたはずのアナザーアギトがいて、鋭い爪をギルスの背中に食い込ませていた。
負けじとギルスは裏拳を繰り出すが、アナザーアギトはまた姿を消してしまう。
(これは、前にどこかで……!)
「ぐあっ!!」
死角からアナザーアギトの攻撃が繰り出される。ギルスはそれに反応出来ず、続けざまに攻撃を喰らってしまう。
これと似た状況が前にもあった。それはマンティスロードとの戦いの時だった。あの時マンティスロードは暗闇の中で高速で動き回り、死角から攻撃をしてきた。
アナザーアギトの戦い方はそれと似ていた。違いといえば、マンティスロードの時とは比べ物にならないほどのスピードであることだ。
(あの時と同じ……暗闇の中での高速戦闘……対処法はある。後は俺の体力と精神力だ……!!)
「ウオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」
ギルスは雄たけびを上げた。すると、ベルトからまばゆい光が溢れ、ギルスの肩と両腕から新たにクロウが生え、背中から赤い触手が出現し、ギルスはエクシードギルスへと変身した。
「グルルルル……フッ!!」
ギルスは背中の赤い触手、ギルススティンガーを暗闇の中に向けて放った。しかしそれはアナザーアギトに当たることはなく、虚空を貫いた。
(どこ狙ってやがる……ダメージの受けすぎでおかしくなったか?もっとおかしくしてやるよっ!!)
ギルスの行動を嘲笑うように、アナザーアギトは先ほどと同様、死角からの攻撃を繰り返した。
「ぐっ……!がぁぁぁ……!!」
ギルスは何度も攻撃を受け、うめき声を上げた。しかしそれでも、倒れることなく仁王立ちを貫いた。
その様子に、ロイド達はたじろいだ。何故反撃しようとしないのか、何故、立ったままなのか……しかし、ロイド達はまだ気づかなかった。ギルスはひそかに反撃の態勢を整えていたことを。
「こいつで……くたばりやがれぇぇぇぇッ!!」
その時、アナザーアギトは雄たけびを上げ、ギルスにとどめを刺そうと手刀を作って勢いよく突き出した。
しかし、
「今だッ!!」
ギルスは両手のクロウで背中から伸びるギルススティンガーを切り裂いた。
次の瞬間、切り離された赤い触手がアナザーアギトの頭上に落ち、体に絡みついた。
「な、なにっ!!?」
絡みついた触手の一本は両腕を縛り、もう一本は地面に突き刺さり左足に絡みついて動けなくした。
「な、なんだこりゃあ!!?」
「昆虫の神経節を知ってるか?」
慌て戸惑い、触手を引きちぎろうとするアナザーアギトに、ギルスは解説に入った。
「昆虫は体が二つに分かれても、しばらくは動いている。これは昆虫にある神経節という独立した脳のような存在が要因だ。それを……この赤い触手でも応用できないかと思ってな。」
ギルスの解説を聞き、ロイドはハッと理解して目を見開いた。
(そうか……さっきまで仁王立ちのままだったのは、切り離した触手をコントロールするために、意識を集中させて……!!)
ギルスの意思を、作戦を理解したロイドはグッと拳を握り、自分のことのように喜んだ。
しかし、アナザーアギトはハッと笑い飛ばした。
「それがどうしたっつーんだよ!これぐらいで俺の動きを止められたと思うのかよ!」
「……思わないさ。」
ギルスは静かに呟くと、その場で構え、地面に緑色の紋章を浮かばせた。必殺の一撃を繰り出すつもりだ。
「てめぇだって俺と同じだろ!アンタだって、父親に捨てられたんだろうがッ!!」
その時、アナザーアギトが叫んだ。彼の言う通りだった。フリッドは母親とともに、父親に捨てられた過去を持つ。しかし、フリッドは、ギルスは動じなかった。
「……確かに、俺は母さんと一緒に捨てられた。父さんを『許せない』と思ったよ。殺してやろうとも思った。」
その構えのまま、ギルスは語り始めた。同時に拳と両足に込める力が強くなっていく。
「でも……母さんが言ったんだ。『あの人を、恨まないでやってほしい』って。母さんはたとえ捨てられても父さんのことを愛してた!母さんの言葉とその意思があったから、俺は父さんを恨まないでいれた。一途な愛情が、どれだけ素晴らしいのかもわかった!」
語りながら、ギルスはさらに拳と両足に力をこめる。すると、地面に浮かんだ紋章が両足に吸い込まれていく。
すると、アナザーアギトは突然笑い始めた。
「クカカカカカカ……ふざけたこと……ぬかすんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
次の瞬間、アナザーアギトは全身の力を込め、一気に触手の拘束を解いた。
さらにそのまま構え、ギルスと同じく地面に紋章を浮かばせ、両足に吸い込ませていった。
「ぶっ殺すッ!!」
「必ず止めるッ!!」
『ハッ!!』
両者は同時に宙に跳び上がった。
「グオアアアアアアアアアアアアアッ!!」
「トアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
同時に紋章のエネルギーを吸い取った足を突き出し、飛び蹴りを繰り出した。
雄たけびを上げながら蹴りと蹴りがぶつかり合う。その瞬間、火花が起こり、同時に爆発が起こった。
爆発が起きたと同時に爆風が起き、廃工場の窓ガラスが全て割れた。
「なんて爆風だ……!!」
皆、吹き飛ばされないようにその場で足を踏ん張った。その時、何かが地面に落ちた。
「がはっ……!!」
それはダメージを受けて変身が解除されたグリムだった。同時に、ギルスが地面に着地し、変身を解除した。
「フリッドさん……!!」
「かてーきょーしがかった!」
フリッドの勝利に、ロイド達は歓喜した。そんな中、フリッドは倒れたグリムに手を差し伸べた。
「な、なんのつもりだてめぇ……!!」
「一緒に戦おう。みんなと一緒なら、君の考えだって……」
「うるせぇぇぇぇ!!」
その時、グリムは雄たけびを上げた・・・かと思いきや、地面の少量の砂を掴んで思い切りフリッドの顔面に投げた。
「うっ!?」
突然のことに反応出来ず、フリッドはモロに砂を被ってしまった。その隙を突き、グリムはフリッドの顔を殴った。
「俺は、負けられねぇ!!絶対に負けられねぇんだよ!!」
「やめろ!!もう勝負はついただろ!!」
突然半狂乱になってフリッドを殴ったグリムに、ユーリは叫んだ。しかし、グリムはそれでもなお叫んだ。
「てめぇらに分かってたまるか!!俺は負けるわけにはいかねぇんだ!!負けたら、負けたら……!!また見捨てられるじゃねぇかよ!!」
今にも泣きそうな顔で、グリムは叫んだ。それを聞いた皆は、一瞬固まった。
グリムの叫びは、まるで親に振り向いてほしい子どものようだった。
「強かったら、誰も俺を捨てたりしない……!!見捨てない……蔑んだりしない……必要としてくれる……!!」
息を切らし、眉間に皺を寄せて苦渋の表情を浮かべ、拳を握った。
「でも、ここで負けたら……俺には何も残らねぇんだよ!!」
再度泣きそうな顔を浮かべながら、グリムはフリッドに向けて拳を突き出した。だが、その拳はフリッドに当たることはなかった。
「なっ……!?」
「ヨルさん……!」
拳を止めたのは、ヨルだった。咄嗟に二人の間に入ってグリムの拳を片手で受け止めたのだ。
すると、ヨルは急にグリムのことを抱きしめてきた。
「な、なんのつもりだテメェ……!!」
「もう、いいんですよ。」
静かに、語り掛ける様にグリムに囁くと、ヨルは抱きながら頭を撫で始めた。
「グリム君は、ずっと一人で頑張ってきたんですよね?意地張って、無茶して、踏ん張ってきたんですよね。でも……もういいんですよ。」
「……ッ!」
ヨルの言葉が、グリムの胸に染み渡っていく。同時に、涙腺が刺激され、緩んでいく。
「いっぱい泣いていいんですよ。今まで我慢してきたんでしょう?ほら、泣いても大丈夫ですよ?」
「うっ……うっ……!!」
その瞬間、ヨルに抱かれながらグリムは泣きじゃくった。今までため込んでいたもの、抑え込んでいたものを吐き出すように嗚咽し、涙を滝のように流す。
ヨルはそれを受け入れ、小さい子どもを慰めるように頭や背中を撫でていった。
グリムは気づいた。自分が本当に欲しかったもの、求めてきた温もりに。それが分かった瞬間、自分は負けたのだと、気が付いた。
次回、VSアナザーアギト編のエピローグとなります。そのため、戦闘シーンは多分ないかと思います。あったとしても少ないかも。