以前、コメント欄で「グリムって野良猫っぽい」って書いた人がいて(そのコメントはなぜか削除された)、「なるほど」と思ったので、今後、猫っぽいグリムを書ければと思っています。
「もう一人、アギトが現れたか……」
暗い部屋の中、一人の男が静かに呟いた。そこに、鷹の姿をしたアンノウンが男の背後に現れた。
「私が始末いたしましょうか。」
鷹のアンノウンは男に跪いて、頭を下げながら呟いた。すると、男はアンノウンの方を向いた。
「すでに水のエルは負けているぞ。貴様にできるのか?」
「は……エル・ロードの一人として、奴の首を……差し出しましょう。」
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そのころ、ロイド達の家ではユーリ、フリッド、グリムが集まっていた。
3人はどこか不機嫌そうな顔で座る中、翔一はニコニコ笑っていた。それを不安そうにフォージャー一家は見ていた。
「えー……グリムが新しく仲間に加わったということで!今日!この日を持って、『アギトの会』を設立することを宣言しまーす!!イエーイッ!!」
『イエーイ……』
翔一が高らかに宣言する中、周りは不服そうに声を上げた。
それを見て、翔一は不満そうに頬を膨らませた。
「ちょっと~!もうちょい盛り上がってくださいよ~!」
「うっせぇタコメンチ!!」
「そもそも・・・アギトの会がなんのか聞いてもいいかな、津上君?」
フリッドが尋ねると、翔一は笑顔を浮かべ説明を始めた。
「ほら、フリッドさんやグリムと会うまで、アギトって俺しかいなかったじゃないですか!それが今は3人になって……俺嬉しくて!ほら、会員証だって作ったんですよ!」
翔一はそう言うと、手書きで作った会員証を3人に手渡した。
「よくまぁ、こんなものを……」
「……って津上ィ!!僕の奴なんだよコレ!?『補欠』って書いてんだけど!?」
ユーリは自分の会員証を見て声を上げた。その会員証をよく見てみると、名前の頭のところに「補欠」と書かれていた。
「だって、ユーリさんアギトじゃないじゃですか。」
「なっ!?お、お前もう少しオブラートに包めよ!何度か助けてやっただろうが!!」
「プッ……!」
その時、グリムが突然笑い始めた。それを聞いたユーリは眉間に皺を寄せながらグリムを睨んだ。
「お、お前今笑ったな!?」
「ケッ、アギトじゃねぇ雑魚にはお似合いじゃねぇか、補欠なんてよ!」
「なんだと!?」
グリムの一言に腹を立てたユーリは思わず胸倉をつかんだ。すると、グリムも負けじと胸倉を掴み返した。
「やんのかコラッ!!言っとくけどな、てめぇなんざ一捻りだ!G3-X着なきゃ戦えないような雑魚なんてな!」
「何をっ!!イキるしか能のない単細胞の分際で!!」
「てめぇ!!」
「このガキィッ!!」
怒りが頂点に達した二人は、互いに拳を握り殴りかかった。
しかし次の瞬間、
「二人とも……やめなさー--いッ!!」
「んがっ!?」
「ひぎっ!?」
2人の脳天にヨルの手刀が振り下ろされ、直撃を喰らった二人はその場にうずくまった。
「二人とも喧嘩はダメです!めっ!」
「ね、姉さ~~~~ん♡」
「こ、の……バカ力女……!!」
2人に「めっ!」と言って叱るヨルに、ユーリはメロメロになっていたが、対しグリムは怒りの方が強いのか罵倒しながら立ち上がった。
「何がアギトの会だ!やってられるか!」
グリムはそう吐き捨てると、会員証を投げ捨てると乱暴にドアを開け、その場から立ち去ってしまった。
グリムが立ち去ったのを見て、その場にいた全員はため息をついた。
「なんか、心配ですねグリム……」
「あんな奴、心配する必要ないって!」
グリムのことを心配する翔一に対し、ユーリは放っておくように諭した。しかし、そこにフリッドが口を開いた。
「それはできない……あの子の境遇は知ってるだろ?」
「それはそうですけど……アイツ、態度悪すぎますよ!」
「なんとか仲良くできないでしょうか……」
「……いや、それは難しいと思いますよ。」
その時、ロイドが口を開いた。
「アイツ、ドノバンに……親に捨てられたんだよな?そのせいでああなったのなら、納得できる。」
ロイドは表向きは精神科医として働いている。精神科医としてグリムを分析していた。
「人間の性格や精神というのは、だいたい幼少期の環境によって形成される。グリムのあの性格を考えると……そうとう荒んだ環境で育ったんだろうな。今になってそれを直すのも難しいだろう。ただ……」
「ただ?」
「あの性格を直せるとしたら一つ……母親の存在だな。実は、前にフランキーに頼んでグリムの母親のことを調べてもらったんだが……死んでたよ。」
その一言に、全員息を飲んだ。ロイドは続けて言った。
「首を吊って自殺したらしい。その時グリムはまだ5歳……まだまだ母親に甘えたい年ごろだ。それが急に死んでしまったんだ。甘える相手もいなくなって、環境はどんどん悪化して……現在に至る、というところだな。肉親が生きていれば、まだ救いようはあっただろうが……」
「なるほど……つまり、今のあの子には……バブバブさせてくれるママが必要ってことか。」
「ブフッ……!!」
ロイドの話を聞き、その内容をフリッドは端的に一言で表した。が、それを聞いたロイドは思わず吹き出した。
「ま、まぁ、わかりやすく言えばそうなんだが……お前が言うとなんか変に面白いからやめてくれ。」
「すまん。」
「とにかくだ。今のアイツの心はひどくグチャグチャになってる。アイロンがけしてないグチャグチャのシャツみたいにな。それを癒してやれる術は……」
ロイドは「ない」と言い切ろうとした。しかし、
『あります!』
ヨルと翔一が突然声を上げた。
「え?」
「シャツがグチャグチャになったら、アイロンをかけてあげればいいんですよ!」
「い、いや、今のは比喩表現であって……」
「グリム君の心にアイロンをかけてあげましょう!!」
ロイドが意見する中、二人は構わず語りだし、高らかに叫んだ。
「グリムとの仲良し大作戦!やりましょう!」
「名付けて、『心のアイロン大作戦』です!!」
二人はニコッと笑いながら胸を張って言い放った。対し、ロイド達は……
「こころの」
「アイロン」
「だいさくせん」
真顔になったと同時に、脳裏に「不安」の一文字が浮かんでいた。
(だいさくせん……ワクワク!!)
そんな中、アーニャは目を輝かせていた。
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「……もういっぺん言ってみろや、先輩……」
その夜、グリムはため息をつき、眉間に皺を寄せながら一人の女性を睨んでいた。
「はい!今日から一週間、私はグリム君のママです!」
目の前にいたのはヨルだった。ヨルはフンスッと鼻息を荒くし自信満々に言った。
それを見たグリムは、何も見ていないとばかりに何も言わず玄関ドアを閉めようとした。
「ちょっ!?そ、そんな何もなかったみたいな反応しないでください〜〜〜っ!!」
「うるせぇよ!何がママだコラッ!!」
ドアをこじ開けようとするヨルに、対抗するグリム。互いに力は拮抗し、ドアはミシミシと音を立てている。
(こ、このままではドアが……!し、仕方ありません!フリッドさん直伝のアレで……!!)
すると、ヨルはスッとグリムの耳元に顔を近づけていった。
「グリム君……開•け•て?」
耳元で甘い声を出しながら囁いた。
「!?」
「お、お邪魔しまーす!」
それを聞いたグリムは顔を真っ赤にし、思わず動きが止まった。
その隙にヨルは家の中に入った。
「あ、ちょい待てぇ!!」
「意外と部屋キレイなんですね。」
「見るなコラッ!!」
ヨルは部屋の中を見渡しながらコートを壁にかけた。
ヨルは気づかなかった。コートの襟元にロイドが仕掛けた盗聴器があることを。
「大丈夫だろうか……」
その盗聴器から聞こえる音声を、グリムが住むマンションの庭の茂みでロイド、フリッド、ユーリは隠れて聞いていた。
「姉さんがあんな奴のママだと……!もし姉さんに変なことしたら処刑してやる!!」
「大丈夫だと思うけどなぁ……グリム、ヨルさんに対してアレみたいだし。」
「それはそうだが……」
ロイドとフリッドが話していると、その時ユーリが声を上げた。
「ちょっと待て!アレって何?」
『えっ』
「えっ?」
ユーリの一言に、ロイドとフリッドは目を見開いた。
「……えっ、まさかユーリ君、気づいてないのか?」
「何が?」
「グリムのヨルさんに対してのあの反応見ただろ?」
「だから何がですか?」
グリムのヨルに対する感情……ロイドとフリッドは理解しているのに、ユーリは全く気づいていなかった。
そのことに、二人はため息をついた。
「……君に彼女ができない理由が分かった気がする。」
「同感。」
「な、なんだよぉ!!」
二人は仕方なく、ユーリにグリムのヨルに対する感情を話した。
すると、
「は、はぁぁぁぁぁぁぁ!?あ、あいつ、姉さんのことが好きィィィ!!?」
「声がデカい!さっきから!」
ユーリは予想通りというべきか大声を出した。
「で、でも!それならなおさら姉さんが危ない!あいつ、姉さんに何をするか……!!」
「大丈夫だと思うぞ。多分、グリムにとってこれは初恋だろうからな。いいか?アイツはこの16年間ひどい生活をしてきた。当然恋をする暇なんてないはずだ。だが、初めて恋をして…あいつはどうすればいいか分からなくなってるはずだ。」
(そういうもんか……?)
3人が話していると、盗聴器の方に動きがあった。
『グリム君、ぎゅ~ってしてあげます!』
「なっ!?」
「はいぃ!?」
ヨルのその一言に、ロイドとユーリは声を上げた。
続いてグリムの声が聞こえてきた。
『いらねぇよ!ガキじゃあるまいし!』
『今は私がグリム君のお母さんです!いっぱい甘えていいんですよ?ほら、遠慮しないで……』
『ちょっ、マジでやめろ!は、離せ!離せって……わぷっ!』
『ぎゅ~っ♪』
盗聴器から二人の声が聞こえてくる。どうやらヨルはグリムを抱っこしているらしい。そしてそれを聞いたロイドとユーリは、互いに歯ぎしりを立てていた。
「ユーリ君、あいつ殺すか。」
「奇遇だね……僕も今、そうしたい気分だ……」
二人は氷のように冷たい目と声でつぶやくと、懐から拳銃を抜いた。
その瞬間フリッドは二人の腕を掴んだ。
「待て待て待て!そう怒るな!何も性的な行為をしてるわけじゃないんだから……」
「だって……だって姉さんがあんなクソガキとぉぉぉぉ!!」
「ヨルさん……俺の時は滅茶苦茶顔真っ赤にして恥じらってたのに……なんでアイツだけ……!!」
二人は悲しみに暮れ、その場で蹲った。そんな二人を、フリッドは冷めた目で見ていた。
(いや……多分ヨルさん、グリムを異性として見てない……というか子どもだと思ってるから、恥ずかしい感覚がないんじゃないか?……まぁ、面白いから言わないでおくか。)
その場で打ちひしがれる二人を見て、面白さを感じたフリッドは何も言わず放置した。
そんなことが起きているとは知らず、グリムとヨルの方は……
「ねーんねーん、ころーりーよー……」
(なんでこんなことに……!)
グリムはヨルに半ば無理やり膝枕をされ、子守唄を聞かされていた。
ヨルは母親らしく子守唄を歌って寝かしつけようとしていた。しかし、幼児とは違ってグリムは16歳の男子。子守唄で眠るわけがない。
しかし、グリムはだんだんと瞼が閉じかけていた。子守唄の効果・・・というより、ヨルの膝の柔らかさとぬくもり、それにヨル自身の声によるものだった。
(先輩の声……落ち着く……)
「スーッ……スーッ……」
完全に目を閉じ、グリムは寝息を立てた。それを見て、ヨルはホッとするのと同時にグリムに対して愛らしさを見た。
「フフッ、こうしてると、ちゃんと子どもですね……」
寝ている時のグリムは、荒々しく生意気でプライドの高い普段の姿とは違い、安らかで愛嬌のある、いい意味で子どもらしい顔をしていた。
それを見たヨルは微笑み、グリムの頬をツンとつついた。
すると、グリムは顔をしかめ、口をもごもごと動かした……かと思った次の瞬間、パクッとヨルの人差し指に食いついた。
「へ?」
ヨルは声を上げたが、グリムは寝ぼけているのか、指にしゃぶりついている。チュッ……チュッ……と吸い付く音が静かな部屋の中に響く。
ヨルは何が起きているのかわからず茫然とするが、やがて満足したのか、グリムはヨルの指から口を離した。
「ふふっ……先輩……」
そしてグリムは微笑んだ。まるで乳飲み子が母乳を飲み終わって満足したかのような笑みだった。
「は……は……!!」
ヨルはしゃぶられた人差し指を見て震えた。同時に、顔がだんだんと真っ赤になっていた。
(グ、グリム君が私の指を……!?も、もしかして、夢の中でおっぱいを飲んでるんですか!?それも私のを!?ハッ!わ、私ったらなんて妄想を……!!)
ヨルは思わずよからぬことを考えてしまった。グリムは夢を見ていて、それは母親になったヨルの母乳を吸っている夢……それを想像した瞬間、ヨルは顔が熱くなり、顔は真っ赤になり、恥ずかしさが頂点に達し……
「ふ、ふんぐーっ!!」
恥ずかしさを紛らわすように両手をブンブンと振り始めた。そして振ったその両手はもの凄い勢いでグリムの顔と腹に直撃した。
「あだだだだだだっ!!なになになになに!!?」
「ふんぐーっ!!私は母親失格ですぅーっ!!ふんぐーっ!!」
「いや何が!?あだだだだだだっ!!まず落ち着けぇ!!」
落ち着いたひと時は一気にパニックに陥り、二人は困惑していった。そしてその様子は音だけロイド達に伝わっていた。
(何してんだ二人とも……)
と、3人は思っていた。
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それから一週間後の最終日……
「グリム君、今日は何食べたいですか?」
「なんでもいいよ。どうせアンタの飯マズいし。」
突然の同居生活にも慣れ始めた二人は、街に買い物に出ていた。ヨルが買ったものを、グリムが荷物係として持っていた。
そんな時、
「あれ?ヨル先輩?」
「あっ、カミラさん!それにドミニクさんも!」
「どうも。」
ばったりとヨルの同僚であるカミラと、その恋人であるドミニクと会った。
「デートですか?」
「まあ、そんなとこ・・・?」
カミラは隣にいるグリムに目がいった。
「先輩、この子は……?」
「え、えーっと……」
ヨルは冷や汗をかきながら口ごもった。まさか「殺し屋の後輩です」とは言えないため、ヨルは焦った。
と、そんな時グリムは……
「誰だ、このババア?」
「バ、ババア!!?」
とんでもないことを口走った。それを聞いたカミラは当然怒り、ドミニクとヨルは冷や汗をかいていた。
「あぁ?ババアだからババアって言ったんだよ。」
「わ、私、この人の後輩なんですけどぉ!?」
悪口を言ってくるグリムに、カミラは歯ぎしりを立てながらヨルの方を指さした。
すると、グリムはフッと笑い、さらに煽り始めた。
「へぇ~、じゃあ老け顔ってことか?その厚化粧が物語ってるぜ。」
「ぐぎぎぎぎぎ……!!!」
「ま、まぁまぁ落ち着いて……子どもが言ってることなんだし……ね?」
怒りが爆発しそうなカミラを、ドミニクはなんとか宥めようとした。そんな中、グリムはさらに火に油を注いでいく。
「ガキの言ってることにいちいち腹立てやがって……ババアは頭の中まで老けてんのか?ハッ!」
「この、クソガキ……!!」
「グリム君っ!!ダメでしょ!めっ!!」
「チッ……」
ヨルに注意され、グリムは舌打ちをしながらそっぽを向いた。
すると、カミラは怒りながらヨルに詰め寄ってきた。
「先輩っ!なんなんですかこのクソガキは!?」
「カ、カミラ、落ち着いて……」
「え、えーっと……す、すいません!ちょっとこっちに……!」
ヨルはちらりとグリムの方を見ながら、二人を連れて路地裏の方に移動した。
一人残されたグリムはフンと鼻息を鳴らした。
「俺は悪くねぇからな……!言いたいこと言っただけだ……」
悪びれもせず、グリムはつぶやいた。少しして3人が戻ってきた。
「グリム君、今から4人でお昼ご飯食べにいきましょう!」
「は?なんでこいつらと……!」
「グリム君っ!」
反対しようとするグリムに、ヨルはムッとした表情でグリムをにらんだ。それを見て、グリムはため息をついた。
「チッ、わかったよ……」
その後4人は近くにあるレストランに入った。
頼んだ料理を食べていると、ドミニクが口を開いた。
「グリム君・・・だっけ?君、ヨルさんの甥っ子なんでしょ?」
「あ?」
ドミニクの言葉に、グリムはチラリとヨルの方を見た。すると、ヨルは「お願いします!」と言いたげな目で見つめていた。
(そういう設定できたか……)
「あー……まぁな。」
軽く返事をしながら、グリムはステーキを頬張った。
すると、ドミニクは小皿に自分のムニエルを分け渡してきた。
「ほら、ここのムニエル美味しいよ?食べてみて?」
「あ?なんだてめぇ?」
「いいからいいから!」
グリムは勧められるままムニエルを食べた。
「あ、美味いな……」
「でしょ?」
その後も何気ない会話とやり取りが続き、食後にまで及んだ。
その時、ヨルは席から立ちあがった。
「すいません、ちょっとお手洗いに……」
「おう。」
ヨルはペコリと会釈すると、そのままトイレの方へ行ってしまった。
すると、カミラとドミニクはヨルがいなくなったのを見計らい、スッと息を吸った後口を開いた。
「……あのね、ヨルさん……すごい心配してたよ。」
「は?」
「さっき路地裏でね、俺たち二人にこう言ったんだ。『あの子を許してあげてください。あの子は本当はいい子なんです!』って、頭まで下げて……」
「え……」
ドミニクの話を聞き、グリムは信じられないといった感じに目を見開いた。
それに構わず、ドミニクは続けた。
「この食事会だって、ヨルさんが君のことを理解してほしいって設けたんだ。」
「そんな……なんでそんな……」
目に見えて動揺するグリム。それを見て、カミラは水を飲み干し、ドンとテーブルに置いた。
「わかんないワケ?アンタ、愛されてんのよ!先輩に!」
「愛されてる……?俺が……」
またも動揺するグリム。「愛される」……グリムの人生の中で聞きなじみのない、しかしひそかに求めていたもの……
さらにカミラは追い打ちをかけるように言い放つ。
「そうよ!それなのにアンタは先輩の気持ちを考えずに好き勝手言って!もっと周り見たらどうなの!?」
「カ、カミラ……そこまで言わなくても……」
「ふんっ!」
カミラから説教を受けたグリムだったが、怒る気になれなかった。「愛されている」と聞いて実感が持てず、ただただ戸惑い、何も言えなくなっていた。
と、その時グリムの耳にノイズのような音が響いてきた。
「ッ!!」
その音は、アンノウンが現れたことを示す音……しかも音はかなり近い。
「な、何よ急に立ち上がって……何、怒ったの?」
「ちげぇよババア!」
「なっ!?またババアって……!!」
また罵倒され、カミラは怒ろうとした。しかし次の瞬間、離れたところで激しい爆音が聞こえてきた。
「な、なに!?今の音!?」
「テロか何かか!?」
「くそっ!」
グリムはとっさに外に出て行った。二人もその後に続いた。
外に出てみると、レストラン近くのビルが全階火事になり、炎が燃え盛っていた。
そして、その屋上には鷹の姿をした怪人がいた。
「アンノウン!?」
(こ、この押しつぶされそうな気迫……まさか、エル・ロードか!?俺一人でやれるか……!?)
アンノウンの姿を見て恐怖から叫び声をあげる民衆をよそに、グリムは屋上にいるアンノウンをにらんだ。
と、その時……
「誰かぁーーーっ!!助けてぇーーーーッ!!」
ビルから助けを求める声が聞こえてきた。よく目を凝らして見ると、そこには助けを求める女性がいた。
そこだけではない。
「ママァーーーッ!!」
「死にたくない……死にたくないよぉ!!」
他の階にも逃げ遅れた人間がいた。中には子どもや老人の姿もあった。
(ったく、こんな時に……!)
「あっ!?ヨルさん!?」
その時、ドミニクの声が聞こえ、顔を向けると視界にヨルの姿が通り過ぎた。
そのままヨルは燃え盛るビルの中に入っていった。
「女の人が入っていったぞ!?」
「助ける気か!?死ぬぞ!!」
「あのバカ……クソォッ!!」
逃げ遅れた者を助けに向かったヨルを見て、グリムは頭を掻きむしりながらも、同じくビルの中に入っていった。
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「誰か!いたら返事をしてくださいっ!!」
燃えるビルの中、ヨルはハンカチを口に当てながら誰かいないか叫んだ。
すると、
「うわああああんっ!!」
子どもの泣き声が聞こえてきた。ヨルはとっさに近くの部屋に入った。そこには、ぬいぐるみを抱きながら泣きじゃくる幼女の姿があった。
ヨルはすぐさま駆け寄り、抱き上げた。
「もう大丈夫ですからね!さぁ、早く……!」
「あぶねぇ!!」
その時だった。後を追って現れたグリムがヨルと幼女に向かって突進し突き飛ばした。
同時に天井が抜け落ち、床に落ちた。
「あぶなかった……!グリム君、来てくれたんですね!おかげで……」
「この、クソバカ野郎ッ!!!」
助けられたことに礼を言おうとするヨルに、グリムは大声を張り上げた。
「むやみに飛び込みやがって!てめぇ一人に何ができるってんだ!一人か二人助けるのがせいぜいだろ!最悪死ぬのがオチだ!なんでそんなに他人のために命張れんだよッ!!?」
グリムは思ったことをそのまま叫んだ。グリムの中で、ヨルの行動は意味不明だった。すべての人間を助けられるワケがないのに、躊躇なく飛び込んだヨルが理解できなかった。
すると、怒られてキョトンとしていたヨルはフッと微笑んだ。
「……グリム君だって、来てくれました。」
「そ、それは……」
「人を助けるのに、理由なんていりません。グリム君もそう思ったから、来てくれたんですよね?」
図星だった。ヨルがビルに飛び込むのを見て、グリムも思わず飛び込んでいた。その時、グリムの心の中で「助けたい」という気持ちがあった。だからこそ、燃える炎の中でも恐れずにいけた。
「……うるせぇ……」
その時、グリムはうつむきながら拳を握り、ヨルに背中を向けた。
「理由なんていらない?バカが……どんな物に、どんな行動にも、ちゃんと理由があんだよ……」
グリムの中で、何かが……目の前に炎のように……否、目の前の炎を消してしまうような、吹き荒れる嵐のように感情が昂る。
「俺の……俺の理由は……誰かに助けられた人間は、誰かを助けたくなるってことだッ!!!」
その叫びに呼応するように、グリムの腰にベルトのバックルが出現した。
「変……身ッ!!!」
そして、腰の前で両腕を交差させて叫んだ。グリムはアナザーアギトへと変身を遂げた。
今こそ、呪縛を……自分を縛っていた過去を断ち切る時。
本来、寝ぼけたグリムがヨルさんの指をしゃぶるシーンはなかったのですが、「スパイファミリー」第79話のヨルさんが「ふんぐーっ」ってやるとこが可愛すぎたので、こっちでも「ふんぐーっ」ってやりたくなりました。後悔はしてない。