アナザーアギトへと変身したグリムは、まずヨルと幼女を抱きかかえて脱出した。
「か、仮面ライダー!?」
アナザーアギトの姿を見たドミニクとカミラは驚いていた。そんな二人をよそに、アナザーアギトは近づきヨルと幼女を二人に預けた。
「こいつらを頼むわ。また無謀なことしないように見張っとけ。」
「は、はい……ってアレ?その声……」
その時、ドミニクは声を上げた。アナザーアギトの声が、グリムと同じことに気が付いたのだ。
「まさか、グリ……!?」
「余計なこと言うんじゃねぇ。」
ドミニクの言葉を遮り、アナザーアギトは再度ビルの方を向いた。すると、今にも走り出しそうに足を開いて、腰を深く落とした。
「トップスピードだ……行くぜ!」
次の瞬間、地面を蹴って思い切り駆け出した。すると、アナザーアギトは目にも止まらぬ速さでビルの中を駆け回っていく。
そして、逃げ遅れた人達を見つけては外に出し、見つけては出しを繰り返していく。
時間にして、5分もかかっていない。圧倒的なスピードの成せる技だった。
「よし……これで全員だ……!」
ビルの中にいた人間たちは、全て助け出した。その瞬間、その場にいた野次馬達と救助された者達は歓声を上げた。
それを聞き、アナザーアギトは思わずビクッと体を震わせた。
「ありがとう仮面ライダー!!」
「あいつも仮面ライダーなんだよな!滅茶苦茶速かったぞ!」
「やっぱ仮面ライダーはすげぇや!」
周りの人間たちからの賞賛の声……グリムが今まで生きてきた中で体感したことの体験だった。
反応に困りながら、アナザーアギトはヨルの方をチラリと見た。すると、ヨルは何も言わずにただニコッと微笑むだけだった。
それを見たアナザーアギトはまた反応に困り、目を反らした。
その時だった。アナザーアギトはただならぬ気配を感じ取った。それと同時に、先ほどまで屋上にいたアンノウンが、アナザーアギトの眼前まで迫っていた。
「!!」
アナザーアギトはとっさに後ろに跳んで逃げようとしたが、それよりも早くアンノウンは右腕を力強く振るった。
すると突如として突風が巻き起こり、アナザーアギトを吹き飛ばして電柱に叩きつけた。
「ぐあっ!そ、そうだったな……てめぇがいたんだったな……!!」
アナザーアギトはフラフラと立ち上がり、身構えた。対し、アンノウンの方は身構えない。ただ棒立ちになっていた。
「チッ、なめてんのか?」
「……」
「なんとか言えやコラッ!」
「……愚かな復讐者よ。」
黙り込んでいたアンノウンが口を開いた。
「貴様が憎しみを向けている相手は、遥か遠くの存在……貴様がどうあがこうが、無駄なことだ。」
「……何言ってんだ……!」
アナザーアギトは拳を強く握りしめた。
「アンノウン風情が……俺に指図すんじゃねぇぇぇぇぇ!!」
雄たけびを上げ、駆け出した…かと思うと、アナザーアギトは高速移動でアンノウンの背後に回り、拳を繰り出した。しかし、突然アンノウンが目の前から消えた。
「愚かな……風を司るエル・ロードであるこの私に……」
その時、背後から声が聞こえ、アナザーアギトは振り返った。
「速さで勝負するとはな。」
その一言とともに、アナザーアギトの方に刃物のようなものが食い込んだ。それはよく見ると弓だった。
アナザーアギトはとっさに風のエルを蹴り飛ばし、高速移動で姿を消す。対し、風のエルも姿を消した。
「き、消えたぞ!」
「どこ行った!?」
突然姿を消した両者に、野次馬達は声を上げた。その時、上空からガキンッ!とぶつかり合う音が聞こえた。
上空を見ると、黒い影と白い影がぶつかり合い、火花を散らしていた。しかしその戦いは常人では目に止めることすら適わない領域。ヨルですら、一瞬姿を見ることが精一杯だった。
(グリム君、苦戦してる……!!)
一瞬だけ見ることができたアナザーアギトに、傷がついていた。高速戦闘が始まってからおよそ1分も経っていない。にも関わらず、すでに風のエルにダメージを負わされているのだ。
(クソッ!さすがにエル・ロードってだけあるな……!やっぱ、あのアギトの力じゃねぇと……!!)
高速戦闘の最中、アナザーアギトは脳裏にバーニングフォームのアギトを思い浮かべた。あの力ならばエル・ロードに勝てる……しかし、今の自分にそこまでの力はない。
負けるかもしれない……その一瞬の弱気が、一瞬の隙を生んだ。
「グッ!?」
アナザーアギトはうめき声をあげた。肩に光の矢が突き刺さっていた。
一瞬の弱気から生まれた、一瞬の隙……そこを狙って風のエルは弓矢を使い、アナザーアギトを攻撃したのだ。
(しまった……!!)
アナザーアギトは矢を抜こうとした。しかし、それより早く風のエルは蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。
「がはっ!!」
(や、やべぇ……!強い……!!)
アナザーアギトはうめき声を上げながら地面に倒れてしまった。そんなアナザーアギトを見下ろすように、風のエルはゆっくりと地面に着地した。
「愚かだ。なんと愚かなアギトだ……アギトとして生まれたことを呪うがいい。」
アナザーアギトを見下しながら、ゆっくりと弓を構える風のエル。
その様子に、野次馬達は絶望に包まれた。仮面ライダーがやられたら、次は自分達がやられる……そう思っている。
(こ、こんなとこで終わりかよ……!まだ、何もできてねぇのに……!!)
その時、アナザーアギトの、グリムの脳裏に自身の過去が走馬灯のように浮かんできた。
(……クソみてぇな人生だったな。ここでクソみたいに死ぬのも……俺らしいかもしれねぇ……)
グリムは心の中で諦めようとしていた。そして、死を受け入れようとしていた。自分と相手の力の差は歴然。戦おうとしたのが間違いだった。
そんなことを考えていた、その時だった。
「立ってください!ライダー!!」
女性の叫び声がその場にこだました。その叫び声は、ヨルのものだった。
(せ、先輩……!?)
周りが驚くようにヨルの方を見るのと同じく、グリムもヨルを見た。ヨルはそれに構わず続けて叫んだ。
「負けないで……立って!!仮面ライダー!!」
「そ、そうだ……!諦めるな、ライダー!!」
「さっさと立ちなさいよ仮面ライダー!!」
ヨルのその叫びに続くようにドミニクとカミラも叫んだ。
そして……
「頑張れ!仮面ライダー!」
「頑張って、仮面ライダー!!」
「負けるなーっ!!」
野次馬達も一斉に声を上げ始める。それは全て、目の前で倒れているグリムに送られている。
その異様な光景に、風のエルは周りを見渡すが、気にすることなく弓を引き絞る。
「死ね、アギト。」
弓の弦から手が離れ、光の矢が放たれた・・・が、アナザーアギトは倒れながらもその矢を掴んだ。
「なにっ!?」
風のエルは声を上げて驚き、アナザーアギトはゆっくりと立ち上がり始めた。
(どいつもこいつも……俺のこと仮面ライダーなんて言いやがって……!俺はそんなガラじゃねぇっての。でも……なんでだろうな……)
拳を握りながら、それで胸を抑えつける。
(こんなに、胸が熱くなるのは!!)
ドクンッ、ドクンッと胸が高鳴ってくる。心が叫んでいる。「立ち上がれ!立ち向かえ!」と。
その時、グリムの視界に一枚の紙きれが目に入った。それは漫画の広告だった。「DEATH FANG」と書かれていた。
「おのれ……まだ戦うか、アギト!」
「違う!俺は……ただのアギトじゃない……!俺は、ライダー!お前らアンノウンに死をもたらす死神……仮面ライダールデスだッ!!」
今ここに、アギト、ギルス、G-3Xに続く、新たな仮面ライダーが誕生した。その名は、「仮面ライダールデス」。
グリムは応援してくれる住民のために、率先して応援してくれたヨルのため、そして自分自身のため……立ち上がった。
「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!」
産声と呼べる叫び声。その叫びとともに、ルデスは両手をベルトの前に出した。すると、ベルトから二本の棒のような物が現れ、それを一気に引き抜いた。
そして出てきたのは、二振りの斧……トマホークだった。グリム自身が得意とする武器だ。
(これが、俺の新しい力!)
「くっ・・・!行けっ!!」
風のエルは舌打ちを打ちながらも叫んだ。その叫びに呼応するように地面の中から大量のアリ型アンノウン、アントロードが現れた。
物量でルデスを圧倒するつもりだった。しかし次の瞬間、ルデスの一番近くにいたアントロードの首が飛んだ。
「邪魔だ……!」
ルデスはトマホークを逆手に持つと、柄の部分を連結させた。トマホークはハルバード状態に変化した。
それを回転させ、棒術のように振り回していく。アントロードは反撃の間もなく次々と倒されていく。
だが、それでもアントロードは地面の中から次々と現れていく。
「めんどくせぇ……!」
すると、連結していたトマホークを分解し、今度は背の部分同士を連結させた。トマホークは今度は両刃の大斧に変化した。
武器の組み換えをしている間に、アントロードはルデスに飛び掛かってきた。
「うおおおおっ!!飛んでいきやがれぇッ!!」
大斧を叫びながら思い切り振りかざし、横に一閃する。目の前にいたアントロードを全て真っ二つにした。さらにその後ろにいたアントロード達を斧を振った風圧で消し飛ばしてしまった。
(強い……!グリム君、強くなってる……!!)
「チィッ!」
「ハッ!」
風のエルとルデスは互いに、誰にも追いつけないスピードで地面を蹴り上げ空を舞う。
そして先ほどと同じ様に空中でぶつかり合う高速戦闘が始まった。
二振りのトマホークと弓がぶつかり合い、火花を散らす。
「もっとだ…!もっと速く……!!」
ルデスが得た新たな力は、武器だけではなかった。ルデスの持ち味である圧倒的スピード。そのスピードも向上した。
ルデスは風のエルと同等…それ以上のスピードで飛び回る。
(速いっ!?)
(もらった……!!)
風のエルめがけてトマホークを思い切り振りかざす。しかしその瞬間、ルデスは全身の筋肉が軋むのを感じた。
「!?」
スピードは上がった。しかしその代償は…全身の筋肉にダメージを負うこと。
風のエルの飛行速度は時速500km。それと同等のスピードを、アギトとはいえ人間が出すのだ。そのスピードに人体が耐えられない。
しかし……
(構うもんかッ!!!)
その痛みに構うことなく、ルデスはトマホークの一撃を風のエルに浴びせた。
「墜ちろォォォォォォォォォォォォォッ!!!」
「グッ……!!グオォォォォォォォォォォォォォォッ!!」
さらに力を込め、風のエルとともに地面に落下し、地面に叩きつけた。
「はぁっ…!はぁっ…!」
倒れた風のエルを見て、ルデスはやり切ったように膝をついた。
だが……
「グッ、ウウッ……!!」
風のエルは立ち上がった。あの時、風のエルは一瞬後ろに下がった。それで致命傷を防いでいた。
「マジかよ……!!」
「死ね…!アギト……!!」
膝をつくルデスに、風のエルは怒りがまじった声で弓を引き絞る。
もはやこれまで……誰もがそう思った。だがその時、銃声が鳴り響き、銃弾が風のエルに命中した。
「!?」
「ア、アレ!」
野次馬の一人が建物の屋上を指差した。そこにはG-3Xを装着したユーリが銃を向けて立っていた。
「フンッ、クソガキの癖にやるじゃないか……」
ユーリは納得いかないながらも、一人でボロボロになりながらも戦ったグリムも称賛した。
さらに……
「デヤァッ!!」
「ガァウッ!!」
アギトとギルスが現れ、風のエルに飛び蹴りで吹き飛ばした。
「待たせてゴメン。」
「一人でよく頑張ったな。」
「遅いんだよ……!」
アギトとギルスは、ルデスを守るように風のエルに立ちふさがった。
風のエルは後ずさった。目の前にアギトが3人……しかも自分は負傷している…圧倒的不利な状況だった。
「…ッ!!このままではすまさんぞ……!!」
風のエルは捨てゼリフを吐くと、両腕を振るって突風を巻き起こした。その突風とともに風のエルは姿を消した。
「か、勝った……?」
戦いが終わり、勝利したルデス。しかし力が抜けたのか、その場に倒れそうになった。そこに、ギルスがさっと背中に手を回して支えた。
「大丈夫か?」
「大丈夫なワケねーだろ……ボロボロだよ。頑張るモンじゃねぇな。」
「そうかい?周りを見てみろ。」
ギルスに言われ、ルデスは周りを見た。そこには歓声と賞賛の声を上げる民衆達の姿があった。
「ありがとうーーーっ!!」
「やっぱり仮面ライダーは最高だよ!」
「ルーデースッ!ルーデースッ!」
その民衆の姿に、ルデスは思わず戸惑った。
みんなが自分のことを褒めてくれている。今まで生きてきて、そんなことは一度もなかった。
「どう?みんなに褒められるって、悪くないでしょ?」
「そう、だな……わる、く……」
「悪くない」、そう言おうとしたが、だんだんと意識が薄れていった……
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「う、ん……?」
「あ、気がつきました?」
「先輩……」
目を冷ますと、目の前にヨルがいた。起きぬけで片想いの女性の顔が近くにあり、グリムは頬を熱くさせた。
「ここは……」
「私の家ですよ。」
「ぱいせんっ!」
ヨルに膝枕されているグリムの元に、アーニャが横から声をかけてきた。それに驚いたグリムは思わず飛び起きた。
そして辺りを見回すと、向かいのソファに座ってグリムの様子を見るフリッドとロイド、ヨルの背後でグリムを睨むユーリ、台所で作業をする翔一がいた。
「大丈夫か?あの後、すぐ気を失ったんだぞ。変身が解けかけてたから大変だったんだぞ。」
フリッドの話を聞き、翔一達が自分をここに運びこんできたのだと理解した。
すると、フリッドはニコッと微笑んだ。
「今日はよく頑張ったな。」
そう言うと、グリムの頭を撫でるフリッド。
「今日はグリムの歓迎パーティだよ!」
すると今度は翔一が声を上げた。食卓の方を見てみると、そこには大量の料理と大きめのホールケーキが並んでいた。
そのケーキには「ようこそグリム!」と書かれたチョコプレートが乗っていた。
「歓迎するよ、グリム。」
続いてロイドが立ち上がり、グリムに手を差し伸べてきた。
グリムは戸惑いながらも手を差し出し、ロイドと握手を交わした。
「ま、まぁ……認めてやらなくも……ないかな。」
さらに、ユーリはそっぽを向きながらブツブツと呟く。
すると、今度はアーニャがグリムの足にしがみついてきた。
「いらさいませ、ぱいせんっ!」
「お前ら……」
目頭が熱くなった。思わず泣きそうになったが、グリムは必死に抑え息を吸った。
「……フン、仕方ねぇ奴らだな!しょうがねぇからお前らに付き合ってやるよ。」
グリムは声を上げると、得意げな顔で笑った。
「俺がいなきゃ、お前らも困るだろ?特に、お前!」
そう言うと、グリムはユーリを指さしニヤリと笑った。
「お前はアギトじゃない雑魚だからな。守ってやるよ。」
「はぁ!?誰がお前なんかに……!」
「おっ、美味そう。」
「聞けよ!」
生意気な口を聞き、ユーリは憤った。しかしグリムは無視してテーブルに置かれた料理に目をつけた。フライドチキンに手をつけ、一口食べた。
「うおっ!う、美味っ!!こ、これ、津上先輩が作ったのか!?」
「そうだよ!それはね、衣に砕いたピーナッツを加えてんの!」
「最高だな!ヨル先輩のクソマズい飯とは大違いだな!」
「ううううっ……ごめんなさい……」
それからグリムの歓迎会は始まり、皆、大いに食べ、大いに飲んだ。
「そういえば、結局『アギトの会』って何する会なんだ?」
その時、ロイドが翔一に尋ねた。
すると、翔一はニコッと笑って答えた。
「週に一回、みんなで集まってご飯を食べるんです!俺の作った料理とか、外の店で。
「うん・・・それで?」
「いや、それだけです!」
『えっ』
翔一のその一言に、全員声を上げた。「アギトの会」などと言うから、もっと重大なことだと思っていたのだ。それがただの食事会だとわかり、全員気が抜けるような感覚を覚えた。
「そりゃただの食事会だろうが……」
「まぁ、いいんじゃないか?津上君らしいというか……」
「アーニャもアギトのかい、はいる!」
「ダメですよアーニャさん。アーニャさんはアギトじゃないんですから……」
会の内容を聞き、ユーリは肩透かしを食らったようにため息をつき、フリッドは笑う。
ヨルのアーニャを窘める言葉にアーニャは不服そうに頬を膨らませる。
その光景に、グリムの口元は緩み、笑っていた。
「さてと……」
その時、グリムはふと席を立った。
「どうした?」
「ちょっと外の空気吸ってくるわ。腹ごなしもしたいしな。」
────────────────────────
家を出たグリムは近くの公園を訪れ、ベンチに腰掛けて一息ついた。
と、そこに……
「グリム君!」
「ヨル先輩……」
こっそりついてきていたヨルが現れ、グリムの横に座った。
「パーティーは嫌いですか?」
「いや、慣れねぇだけだ。大人数で飯食うなんて……そんな経験ないからな。」
「……さっき家に電話があって、カミラとドミニクさんからです。『助けてくれてありがとう』って、グリム君に伝えてほしいって。」
「あの二人が?」
グリムは思わず声を上げた。あの二人は別に火事に巻き込まれたワケでも、アンノウンに襲われたワケでもない。礼を言う理由がない。そのことにグリムは疑問に思った。
「俺はあの二人助けてねぇぞ。」
「でも、みんなを守ってくれましたよね?」
「それは……」
自分でもわからなかった。人を助けるなんて、今までしてこなかった。人間は所詮自分のことしか考えない。グリム自身もそうだった。だが、あの時だけは体が動いた。
「……わかんねぇよ。俺にだって。」
その時だった。グリムは、聞きたかったことをヨルに尋ねた。
「アンタは・・・どうなんだ?なんで俺に気にかけてくれるんだ?赤の他人だろ・・・俺とアンタは。」
グリムからの質問に、ヨルはどこか悩ましげな目をしたかと思うと、グリムの手を取り、ギュッと握ってきた。
「それは……グリム君は、もう一人の私だからです。」
「あ?」
「私も、死んだ両親を恨んでました。どうして私とユーリを置いて死んだのかどうしても分からなくて、親は悪くないのに、逆恨みして……でも、私にはユーリがいました。ユーリがいてくれたから……守りたいって思ったから、私はやさぐれることはありませんでした。もし、ユーリがいなかったら、私もグリム君みたいになってたかもしれません。」
ヨルのその話をグリムは黙って聞いていた。すると、ヨルは突然ハッと何かに気づいたように目を見開いた。
(わ、私ったらこんな話し方じゃ、グリム君は私と同類みたいな言い方になっちゃいます!)
今の話だと、グリムと自分は同類・・・ということになってしまう。グリムからすればそれは嫌だろうと思い、ヨルは慌てた。
「え、えーっと、だからですね!わ、私には大切な人がたくさんできました!ロイドさん、アーニャさん、ボンドさん、翔一さん、ユーリ……それにフリッドさんとグリム君も!皆さんがいたから、今の私がいるんです。」
「……」
「だから、何が言いたいかというと……グリム君にも、大切な人ができますように!」
ヨルは慌てて言いながら、グリムの手を両手で握った。そしてニコッと笑った。
手を握られ、にこやかな、聖母のような笑みを向けられ、グリムは顔が赤くなった。
「た、大切な人……そ、それは……」
「それはアンタだ」と言いかけたが、言えずにゴニョゴニョと口ごもった。
「そろそろ戻りましょう!みんなが心配しますよ!」
「あ、ああ……」
結局言いたいことはいえず、グリムはヨルと一緒に家に戻ることにした。手をつなぎながら。
(な、なんで手ぇ繋いでんだよ……!手ぇ柔らかい……!)
片想いの相手と手をつないでいるという状況に、グリムは心臓がバクバクと高鳴っていた。
そんな時、ヨルが口を開いた。
「また遊びに来てくださいね。」
「え?」
「グリム君の心がグチャグチャにならないように、私が……私たちがいつでもアイロンをかけてあげますからね。」
そう言ってヨルはまた笑顔を見せた。しかしグリムは急に「心」だの「アイロン」だの言われても意味が分からず首を傾げた。
しかし、ヨルの優しい言葉を聞いて、グリムは心の中である決心を固めた。
(先輩、俺は……アンタのことが好きだ。でも、今の俺じゃダメだ……いつか、アンタの前に立っても恥ずかしくない男になるから、その時は……ちゃんと言うから。)
好きな女の前にいても恥ずかしくない男……それは個人的な野望で、くだらないと言われるかもしれない。だがそれでも構わない。どれだけくだらなくても、それが自分にとってのスタートラインだと、グリムは確信していた。
おまけ「新武器」
ダークトマホーク
仮面ライダールデス(アナザーアギト)が使用する斧型の武器。二振りの基本形態ツインモード、柄を連結させてリーチの長いハルバードモード、背の部分を連結させた破壊力抜群のビッグモードの三形態に組み換え可能。
その刃は戦車すらチーズのように真っ二つにできる。必殺技は紋章エネルギーを武器に纏わせて敵を両断する「アサルトスラッシュ」。
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元は武器だけでなく新しい仮面ライダーを作るつもりだったのですが、アナザーアギトの姿をそのまま残したかったので、武器だけ追加にしました。
後、名前の「ルデス」ですが、これはデザイナーである出渕裕氏の画稿に記されていたものを使っています(非公式)。
それから、アナザーアギトがなんかスピードキャラみたいになってますが、これはあくまでグリムの変身するアナザーアギトがスピード特化という設定になっているので、原作のアナザーアギトは別にスピードキャラではありません。
歌詞の一部にYOASOBIさんの「祝福」を引用しました。そもそも今回の話自体、「祝福」からかなりインスピレーションを得ているので、歌詞も引用させてもらいました。