SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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第45話「心のアイロン(後編)」

 

アナザーアギトへと変身したグリムは、まずヨルと幼女を抱きかかえて脱出した。

 

「か、仮面ライダー!?」

 

アナザーアギトの姿を見たドミニクとカミラは驚いていた。そんな二人をよそに、アナザーアギトは近づきヨルと幼女を二人に預けた。

 

「こいつらを頼むわ。また無謀なことしないように見張っとけ。」

「は、はい……ってアレ?その声……」

 

その時、ドミニクは声を上げた。アナザーアギトの声が、グリムと同じことに気が付いたのだ。

 

「まさか、グリ……!?」

「余計なこと言うんじゃねぇ。」

 

ドミニクの言葉を遮り、アナザーアギトは再度ビルの方を向いた。すると、今にも走り出しそうに足を開いて、腰を深く落とした。

 

「トップスピードだ……行くぜ!」

 

次の瞬間、地面を蹴って思い切り駆け出した。すると、アナザーアギトは目にも止まらぬ速さでビルの中を駆け回っていく。

そして、逃げ遅れた人達を見つけては外に出し、見つけては出しを繰り返していく。

時間にして、5分もかかっていない。圧倒的なスピードの成せる技だった。

 

「よし……これで全員だ……!」

 

ビルの中にいた人間たちは、全て助け出した。その瞬間、その場にいた野次馬達と救助された者達は歓声を上げた。

それを聞き、アナザーアギトは思わずビクッと体を震わせた。

 

「ありがとう仮面ライダー!!」

「あいつも仮面ライダーなんだよな!滅茶苦茶速かったぞ!」

「やっぱ仮面ライダーはすげぇや!」

 

周りの人間たちからの賞賛の声……グリムが今まで生きてきた中で体感したことの体験だった。

反応に困りながら、アナザーアギトはヨルの方をチラリと見た。すると、ヨルは何も言わずにただニコッと微笑むだけだった。

それを見たアナザーアギトはまた反応に困り、目を反らした。

その時だった。アナザーアギトはただならぬ気配を感じ取った。それと同時に、先ほどまで屋上にいたアンノウンが、アナザーアギトの眼前まで迫っていた。

 

「!!」

 

アナザーアギトはとっさに後ろに跳んで逃げようとしたが、それよりも早くアンノウンは右腕を力強く振るった。

すると突如として突風が巻き起こり、アナザーアギトを吹き飛ばして電柱に叩きつけた。

 

「ぐあっ!そ、そうだったな……てめぇがいたんだったな……!!」

 

アナザーアギトはフラフラと立ち上がり、身構えた。対し、アンノウンの方は身構えない。ただ棒立ちになっていた。

 

「チッ、なめてんのか?」

「……」

「なんとか言えやコラッ!」

「……愚かな復讐者よ。」

 

黙り込んでいたアンノウンが口を開いた。

 

「貴様が憎しみを向けている相手は、遥か遠くの存在……貴様がどうあがこうが、無駄なことだ。」

「……何言ってんだ……!」

 

アナザーアギトは拳を強く握りしめた。

 

「アンノウン風情が……俺に指図すんじゃねぇぇぇぇぇ!!」

 

雄たけびを上げ、駆け出した…かと思うと、アナザーアギトは高速移動でアンノウンの背後に回り、拳を繰り出した。しかし、突然アンノウンが目の前から消えた。

 

「愚かな……風を司るエル・ロードであるこの私に……」

 

その時、背後から声が聞こえ、アナザーアギトは振り返った。

 

「速さで勝負するとはな。」

 

その一言とともに、アナザーアギトの方に刃物のようなものが食い込んだ。それはよく見ると弓だった。

アナザーアギトはとっさに風のエルを蹴り飛ばし、高速移動で姿を消す。対し、風のエルも姿を消した。

 

「き、消えたぞ!」

「どこ行った!?」

 

突然姿を消した両者に、野次馬達は声を上げた。その時、上空からガキンッ!とぶつかり合う音が聞こえた。

上空を見ると、黒い影と白い影がぶつかり合い、火花を散らしていた。しかしその戦いは常人では目に止めることすら適わない領域。ヨルですら、一瞬姿を見ることが精一杯だった。

 

(グリム君、苦戦してる……!!)

 

一瞬だけ見ることができたアナザーアギトに、傷がついていた。高速戦闘が始まってからおよそ1分も経っていない。にも関わらず、すでに風のエルにダメージを負わされているのだ。

 

(クソッ!さすがにエル・ロードってだけあるな……!やっぱ、あのアギトの力じゃねぇと……!!)

 

高速戦闘の最中、アナザーアギトは脳裏にバーニングフォームのアギトを思い浮かべた。あの力ならばエル・ロードに勝てる……しかし、今の自分にそこまでの力はない。

負けるかもしれない……その一瞬の弱気が、一瞬の隙を生んだ。

 

「グッ!?」

 

アナザーアギトはうめき声をあげた。肩に光の矢が突き刺さっていた。

一瞬の弱気から生まれた、一瞬の隙……そこを狙って風のエルは弓矢を使い、アナザーアギトを攻撃したのだ。

 

(しまった……!!)

 

アナザーアギトは矢を抜こうとした。しかし、それより早く風のエルは蹴り飛ばし、地面に叩きつけた。

 

「がはっ!!」

(や、やべぇ……!強い……!!)

 

アナザーアギトはうめき声を上げながら地面に倒れてしまった。そんなアナザーアギトを見下ろすように、風のエルはゆっくりと地面に着地した。

 

「愚かだ。なんと愚かなアギトだ……アギトとして生まれたことを呪うがいい。」

 

アナザーアギトを見下しながら、ゆっくりと弓を構える風のエル。

その様子に、野次馬達は絶望に包まれた。仮面ライダーがやられたら、次は自分達がやられる……そう思っている。

 

(こ、こんなとこで終わりかよ……!まだ、何もできてねぇのに……!!)

 

その時、アナザーアギトの、グリムの脳裏に自身の過去が走馬灯のように浮かんできた。

 

(……クソみてぇな人生だったな。ここでクソみたいに死ぬのも……俺らしいかもしれねぇ……)

 

グリムは心の中で諦めようとしていた。そして、死を受け入れようとしていた。自分と相手の力の差は歴然。戦おうとしたのが間違いだった。

そんなことを考えていた、その時だった。

 

「立ってください!ライダー!!」

 

女性の叫び声がその場にこだました。その叫び声は、ヨルのものだった。

 

(せ、先輩……!?)

 

周りが驚くようにヨルの方を見るのと同じく、グリムもヨルを見た。ヨルはそれに構わず続けて叫んだ。

 

「負けないで……立って!!仮面ライダー!!」

「そ、そうだ……!諦めるな、ライダー!!」

「さっさと立ちなさいよ仮面ライダー!!」

 

ヨルのその叫びに続くようにドミニクとカミラも叫んだ。

そして……

 

「頑張れ!仮面ライダー!」

「頑張って、仮面ライダー!!」

「負けるなーっ!!」

 

野次馬達も一斉に声を上げ始める。それは全て、目の前で倒れているグリムに送られている。

その異様な光景に、風のエルは周りを見渡すが、気にすることなく弓を引き絞る。

 

「死ね、アギト。」

 

弓の弦から手が離れ、光の矢が放たれた・・・が、アナザーアギトは倒れながらもその矢を掴んだ。

 

「なにっ!?」

 

風のエルは声を上げて驚き、アナザーアギトはゆっくりと立ち上がり始めた。

 

(どいつもこいつも……俺のこと仮面ライダーなんて言いやがって……!俺はそんなガラじゃねぇっての。でも……なんでだろうな……)

 

拳を握りながら、それで胸を抑えつける。

 

(こんなに、胸が熱くなるのは!!)

 

ドクンッ、ドクンッと胸が高鳴ってくる。心が叫んでいる。「立ち上がれ!立ち向かえ!」と。

その時、グリムの視界に一枚の紙きれが目に入った。それは漫画の広告だった。「DEATH FANG」と書かれていた。

 

「おのれ……まだ戦うか、アギト!」

「違う!俺は……ただのアギトじゃない……!俺は、ライダー!お前らアンノウンに死をもたらす死神……仮面ライダールデスだッ!!」

 

今ここに、アギト、ギルス、G-3Xに続く、新たな仮面ライダーが誕生した。その名は、「仮面ライダールデス」。

グリムは応援してくれる住民のために、率先して応援してくれたヨルのため、そして自分自身のため……立ち上がった。

 

「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

産声と呼べる叫び声。その叫びとともに、ルデスは両手をベルトの前に出した。すると、ベルトから二本の棒のような物が現れ、それを一気に引き抜いた。

そして出てきたのは、二振りの斧……トマホークだった。グリム自身が得意とする武器だ。

 

(これが、俺の新しい力!)

「くっ・・・!行けっ!!」

 

風のエルは舌打ちを打ちながらも叫んだ。その叫びに呼応するように地面の中から大量のアリ型アンノウン、アントロードが現れた。

物量でルデスを圧倒するつもりだった。しかし次の瞬間、ルデスの一番近くにいたアントロードの首が飛んだ。

 

「邪魔だ……!」

 

ルデスはトマホークを逆手に持つと、柄の部分を連結させた。トマホークはハルバード状態に変化した。

それを回転させ、棒術のように振り回していく。アントロードは反撃の間もなく次々と倒されていく。

だが、それでもアントロードは地面の中から次々と現れていく。

 

「めんどくせぇ……!」

 

すると、連結していたトマホークを分解し、今度は背の部分同士を連結させた。トマホークは今度は両刃の大斧に変化した。

武器の組み換えをしている間に、アントロードはルデスに飛び掛かってきた。

 

「うおおおおっ!!飛んでいきやがれぇッ!!」

 

大斧を叫びながら思い切り振りかざし、横に一閃する。目の前にいたアントロードを全て真っ二つにした。さらにその後ろにいたアントロード達を斧を振った風圧で消し飛ばしてしまった。

 

(強い……!グリム君、強くなってる……!!)

「チィッ!」

「ハッ!」

 

風のエルとルデスは互いに、誰にも追いつけないスピードで地面を蹴り上げ空を舞う。

そして先ほどと同じ様に空中でぶつかり合う高速戦闘が始まった。

二振りのトマホークと弓がぶつかり合い、火花を散らす。

 

「もっとだ…!もっと速く……!!」

 

ルデスが得た新たな力は、武器だけではなかった。ルデスの持ち味である圧倒的スピード。そのスピードも向上した。

ルデスは風のエルと同等…それ以上のスピードで飛び回る。

 

(速いっ!?)

(もらった……!!)

 

風のエルめがけてトマホークを思い切り振りかざす。しかしその瞬間、ルデスは全身の筋肉が軋むのを感じた。

 

「!?」

 

スピードは上がった。しかしその代償は…全身の筋肉にダメージを負うこと。

風のエルの飛行速度は時速500km。それと同等のスピードを、アギトとはいえ人間が出すのだ。そのスピードに人体が耐えられない。

しかし……

 

(構うもんかッ!!!)

 

その痛みに構うことなく、ルデスはトマホークの一撃を風のエルに浴びせた。

 

「墜ちろォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

「グッ……!!グオォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

さらに力を込め、風のエルとともに地面に落下し、地面に叩きつけた。

 

「はぁっ…!はぁっ…!」

 

倒れた風のエルを見て、ルデスはやり切ったように膝をついた。

だが……

 

「グッ、ウウッ……!!」

 

風のエルは立ち上がった。あの時、風のエルは一瞬後ろに下がった。それで致命傷を防いでいた。

 

「マジかよ……!!」

「死ね…!アギト……!!」

 

膝をつくルデスに、風のエルは怒りがまじった声で弓を引き絞る。

もはやこれまで……誰もがそう思った。だがその時、銃声が鳴り響き、銃弾が風のエルに命中した。

 

「!?」

「ア、アレ!」

 

野次馬の一人が建物の屋上を指差した。そこにはG-3Xを装着したユーリが銃を向けて立っていた。

 

「フンッ、クソガキの癖にやるじゃないか……」

 

ユーリは納得いかないながらも、一人でボロボロになりながらも戦ったグリムも称賛した。

さらに……

 

「デヤァッ!!」

「ガァウッ!!」

 

アギトとギルスが現れ、風のエルに飛び蹴りで吹き飛ばした。

 

「待たせてゴメン。」

「一人でよく頑張ったな。」

「遅いんだよ……!」

 

アギトとギルスは、ルデスを守るように風のエルに立ちふさがった。

風のエルは後ずさった。目の前にアギトが3人……しかも自分は負傷している…圧倒的不利な状況だった。

 

「…ッ!!このままではすまさんぞ……!!」

 

風のエルは捨てゼリフを吐くと、両腕を振るって突風を巻き起こした。その突風とともに風のエルは姿を消した。

 

「か、勝った……?」

 

戦いが終わり、勝利したルデス。しかし力が抜けたのか、その場に倒れそうになった。そこに、ギルスがさっと背中に手を回して支えた。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫なワケねーだろ……ボロボロだよ。頑張るモンじゃねぇな。」

「そうかい?周りを見てみろ。」

 

ギルスに言われ、ルデスは周りを見た。そこには歓声と賞賛の声を上げる民衆達の姿があった。

 

「ありがとうーーーっ!!」

「やっぱり仮面ライダーは最高だよ!」

「ルーデースッ!ルーデースッ!」

 

その民衆の姿に、ルデスは思わず戸惑った。

みんなが自分のことを褒めてくれている。今まで生きてきて、そんなことは一度もなかった。

 

「どう?みんなに褒められるって、悪くないでしょ?」

「そう、だな……わる、く……」

 

「悪くない」、そう言おうとしたが、だんだんと意識が薄れていった……

 

────────────────────────

 

「う、ん……?」

「あ、気がつきました?」

「先輩……」

 

目を冷ますと、目の前にヨルがいた。起きぬけで片想いの女性の顔が近くにあり、グリムは頬を熱くさせた。

 

「ここは……」

「私の家ですよ。」

「ぱいせんっ!」

 

ヨルに膝枕されているグリムの元に、アーニャが横から声をかけてきた。それに驚いたグリムは思わず飛び起きた。

そして辺りを見回すと、向かいのソファに座ってグリムの様子を見るフリッドとロイド、ヨルの背後でグリムを睨むユーリ、台所で作業をする翔一がいた。

 

「大丈夫か?あの後、すぐ気を失ったんだぞ。変身が解けかけてたから大変だったんだぞ。」

 

フリッドの話を聞き、翔一達が自分をここに運びこんできたのだと理解した。

すると、フリッドはニコッと微笑んだ。

 

「今日はよく頑張ったな。」

 

そう言うと、グリムの頭を撫でるフリッド。

 

「今日はグリムの歓迎パーティだよ!」

 

すると今度は翔一が声を上げた。食卓の方を見てみると、そこには大量の料理と大きめのホールケーキが並んでいた。

そのケーキには「ようこそグリム!」と書かれたチョコプレートが乗っていた。

 

「歓迎するよ、グリム。」

 

続いてロイドが立ち上がり、グリムに手を差し伸べてきた。

グリムは戸惑いながらも手を差し出し、ロイドと握手を交わした。

 

「ま、まぁ……認めてやらなくも……ないかな。」

 

さらに、ユーリはそっぽを向きながらブツブツと呟く。

すると、今度はアーニャがグリムの足にしがみついてきた。

 

「いらさいませ、ぱいせんっ!」

「お前ら……」

 

目頭が熱くなった。思わず泣きそうになったが、グリムは必死に抑え息を吸った。

 

「……フン、仕方ねぇ奴らだな!しょうがねぇからお前らに付き合ってやるよ。」

 

グリムは声を上げると、得意げな顔で笑った。

 

「俺がいなきゃ、お前らも困るだろ?特に、お前!」

 

そう言うと、グリムはユーリを指さしニヤリと笑った。

 

「お前はアギトじゃない雑魚だからな。守ってやるよ。」

「はぁ!?誰がお前なんかに……!」

「おっ、美味そう。」

「聞けよ!」

 

生意気な口を聞き、ユーリは憤った。しかしグリムは無視してテーブルに置かれた料理に目をつけた。フライドチキンに手をつけ、一口食べた。

 

「うおっ!う、美味っ!!こ、これ、津上先輩が作ったのか!?」

「そうだよ!それはね、衣に砕いたピーナッツを加えてんの!」

「最高だな!ヨル先輩のクソマズい飯とは大違いだな!」

「ううううっ……ごめんなさい……」

 

それからグリムの歓迎会は始まり、皆、大いに食べ、大いに飲んだ。

 

「そういえば、結局『アギトの会』って何する会なんだ?」

 

その時、ロイドが翔一に尋ねた。

すると、翔一はニコッと笑って答えた。

 

「週に一回、みんなで集まってご飯を食べるんです!俺の作った料理とか、外の店で。

「うん・・・それで?」

「いや、それだけです!」

『えっ』

 

翔一のその一言に、全員声を上げた。「アギトの会」などと言うから、もっと重大なことだと思っていたのだ。それがただの食事会だとわかり、全員気が抜けるような感覚を覚えた。

 

「そりゃただの食事会だろうが……」

「まぁ、いいんじゃないか?津上君らしいというか……」

「アーニャもアギトのかい、はいる!」

「ダメですよアーニャさん。アーニャさんはアギトじゃないんですから……」

 

会の内容を聞き、ユーリは肩透かしを食らったようにため息をつき、フリッドは笑う。

ヨルのアーニャを窘める言葉にアーニャは不服そうに頬を膨らませる。

その光景に、グリムの口元は緩み、笑っていた。

 

「さてと……」

 

その時、グリムはふと席を立った。

 

「どうした?」

「ちょっと外の空気吸ってくるわ。腹ごなしもしたいしな。」

 

────────────────────────

 

家を出たグリムは近くの公園を訪れ、ベンチに腰掛けて一息ついた。

と、そこに……

 

「グリム君!」

「ヨル先輩……」

 

こっそりついてきていたヨルが現れ、グリムの横に座った。

 

「パーティーは嫌いですか?」

「いや、慣れねぇだけだ。大人数で飯食うなんて……そんな経験ないからな。」

「……さっき家に電話があって、カミラとドミニクさんからです。『助けてくれてありがとう』って、グリム君に伝えてほしいって。」

「あの二人が?」

 

グリムは思わず声を上げた。あの二人は別に火事に巻き込まれたワケでも、アンノウンに襲われたワケでもない。礼を言う理由がない。そのことにグリムは疑問に思った。

 

「俺はあの二人助けてねぇぞ。」

「でも、みんなを守ってくれましたよね?」

「それは……」

 

自分でもわからなかった。人を助けるなんて、今までしてこなかった。人間は所詮自分のことしか考えない。グリム自身もそうだった。だが、あの時だけは体が動いた。

 

「……わかんねぇよ。俺にだって。」

 

その時だった。グリムは、聞きたかったことをヨルに尋ねた。

 

「アンタは・・・どうなんだ?なんで俺に気にかけてくれるんだ?赤の他人だろ・・・俺とアンタは。」

 

グリムからの質問に、ヨルはどこか悩ましげな目をしたかと思うと、グリムの手を取り、ギュッと握ってきた。

 

「それは……グリム君は、もう一人の私だからです。」

「あ?」

「私も、死んだ両親を恨んでました。どうして私とユーリを置いて死んだのかどうしても分からなくて、親は悪くないのに、逆恨みして……でも、私にはユーリがいました。ユーリがいてくれたから……守りたいって思ったから、私はやさぐれることはありませんでした。もし、ユーリがいなかったら、私もグリム君みたいになってたかもしれません。」

 

ヨルのその話をグリムは黙って聞いていた。すると、ヨルは突然ハッと何かに気づいたように目を見開いた。

 

(わ、私ったらこんな話し方じゃ、グリム君は私と同類みたいな言い方になっちゃいます!)

 

今の話だと、グリムと自分は同類・・・ということになってしまう。グリムからすればそれは嫌だろうと思い、ヨルは慌てた。

 

「え、えーっと、だからですね!わ、私には大切な人がたくさんできました!ロイドさん、アーニャさん、ボンドさん、翔一さん、ユーリ……それにフリッドさんとグリム君も!皆さんがいたから、今の私がいるんです。」

「……」

「だから、何が言いたいかというと……グリム君にも、大切な人ができますように!」

 

ヨルは慌てて言いながら、グリムの手を両手で握った。そしてニコッと笑った。

手を握られ、にこやかな、聖母のような笑みを向けられ、グリムは顔が赤くなった。

 

「た、大切な人……そ、それは……」

 

「それはアンタだ」と言いかけたが、言えずにゴニョゴニョと口ごもった。

 

「そろそろ戻りましょう!みんなが心配しますよ!」

「あ、ああ……」

 

結局言いたいことはいえず、グリムはヨルと一緒に家に戻ることにした。手をつなぎながら。

 

(な、なんで手ぇ繋いでんだよ……!手ぇ柔らかい……!)

 

片想いの相手と手をつないでいるという状況に、グリムは心臓がバクバクと高鳴っていた。

そんな時、ヨルが口を開いた。

 

「また遊びに来てくださいね。」

「え?」

「グリム君の心がグチャグチャにならないように、私が……私たちがいつでもアイロンをかけてあげますからね。」

 

そう言ってヨルはまた笑顔を見せた。しかしグリムは急に「心」だの「アイロン」だの言われても意味が分からず首を傾げた。

しかし、ヨルの優しい言葉を聞いて、グリムは心の中である決心を固めた。

 

(先輩、俺は……アンタのことが好きだ。でも、今の俺じゃダメだ……いつか、アンタの前に立っても恥ずかしくない男になるから、その時は……ちゃんと言うから。)

 

好きな女の前にいても恥ずかしくない男……それは個人的な野望で、くだらないと言われるかもしれない。だがそれでも構わない。どれだけくだらなくても、それが自分にとってのスタートラインだと、グリムは確信していた。

 

 

 




おまけ「新武器」

ダークトマホーク

仮面ライダールデス(アナザーアギト)が使用する斧型の武器。二振りの基本形態ツインモード、柄を連結させてリーチの長いハルバードモード、背の部分を連結させた破壊力抜群のビッグモードの三形態に組み換え可能。
その刃は戦車すらチーズのように真っ二つにできる。必殺技は紋章エネルギーを武器に纏わせて敵を両断する「アサルトスラッシュ」。

────────────────────────

元は武器だけでなく新しい仮面ライダーを作るつもりだったのですが、アナザーアギトの姿をそのまま残したかったので、武器だけ追加にしました。
後、名前の「ルデス」ですが、これはデザイナーである出渕裕氏の画稿に記されていたものを使っています(非公式)。

それから、アナザーアギトがなんかスピードキャラみたいになってますが、これはあくまでグリムの変身するアナザーアギトがスピード特化という設定になっているので、原作のアナザーアギトは別にスピードキャラではありません。

歌詞の一部にYOASOBIさんの「祝福」を引用しました。そもそも今回の話自体、「祝福」からかなりインスピレーションを得ているので、歌詞も引用させてもらいました。

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