SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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今回、見る人によってはショッキングな展開になっています。
お気を付けてご覧ください。




第50話「絶望と暴走」

 

「うおぉぉぉおぉぉぉっ!!」

 

ルデスは叫ぶと同時に拳を突き出した。拳は隊員達に当たらなかったが、拳の風圧で隊員達を吹き飛ばした。

 

「フゥゥ……!!ガァウッ!!」

 

ギルスは腕から伸びる触手を鞭のように振るい、隊員達を叩き飛ばす。

 

「なるべく殺さないようにしてくれ!」

 

ロイドは目の前の敵…隊員達を殴り飛ばしながらギルスとルデス、ヨルに語りかけた。

 

「そう簡単に言うなって…!」

「でも、努力します!」

 

ロイド達は目の前の隊員達を軽く蹴散らしながら、ロイドの案内に従って進んでいく。

その様子を監視カメラで見ていたアベルは、歯がゆさを覚えていた。

 

「チッ……役立たずどもが……!シルヴィア!!」

「ハ、ハッ!」

「V-1システムを出せっ!」

 

怒鳴るようにアベルが言うと、シルヴィアは驚いたように目を見開いた。

 

「アレを出すのですか!?アレは未完成で……」

「構わん、出せ!」

 

そんな会話がされているとは知らず、ロイド達はまっすぐ牢屋へと突き進んでいた。

 

「もう少しだ!この先の階段を下ってまっすぐいけば……!」

 

と、その時だった。ロイド達の進む先に異様な物が現れた。

それは全身銀色で、どこかG3システムに近いものを感じさせた。だが、顔はG3とは大違いだった。

 

「アレは……!?」

「フフッ、驚きましたか?黄昏……」

 

銀色の戦士がしゃべり始めた。その声は聞き覚えがあるものだった。

それは、法条の声だった。

 

「法条……!」

「このスーツこそ、西国版G3ともいえる存在……いや、それ以上の存在。V-1システムです!」

 

法条は両手を広げて高らかに叫んだかと思うと、銃を抜いてロイド達に向けた。

 

「まさか、その試運転の相手があなた方になるとは。」

「くっ……!」

「黄昏……私は昔からあなたが不愉快でしたよ。薄汚い元兵隊の分際で、エリートである私の上に君臨するあなたにね……」

 

法条は銃を強く握りしめた。これで、自分はようやくロイドに、黄昏に勝つことができる……そう確信した。しかし次の瞬間、

 

ドゴォンッ!!

 

突如激しい衝突音が響いたと同時に、一台のトレーラーが本部内に侵入してきた。

 

「なにっ!?」

 

法条が驚くのをよそに、トレーラーのコンテナが開いた。

その中から出てきたのは、

 

「姉さんっ!ロッティ!無事!?」

「G3現着!」

「あぁ、WISEに盾突くことになるなんてなぁ……俺、死んだな……」

 

G3-X、G3、G3-MILDの東国保安局が誇るG-3システムの3機だった。

 

「ユーリ!来てくれたのね!」

「姉さんのためなら、どこだっていくよ!」

「フランキー……まさかお前が来るなんて……!」

「アイネの姐さんに無理やり引っ張られたんだよ!!」

 

G-3Xにはお馴染みユーリが、G3-MILDにはフランキーが装着している。となると、疑問が浮かぶ。

 

「あれ?じゃあ普通のG3は……?」

 

ロイドは疑問に気づき、G3の方を見た。

 

「俺のこと、覚えてない?」

 

G3の装着者はそう言いながらピースサインを作り、指をクイックイッと動かした。

ロイドとヨルは、その声に聞き覚えがあった。だいぶ前に、ユーリと一緒の時に……

 

「やっぱ忘れてるか。対策班の整備員、リョーマだよ!」

『……あっ!!』

 

名前を聞き、ようやく思い出した。G3の装着者はユーリの先輩で対策班でG3システムの整備をしているリョーマだった。

 

「侵入者ですか……ですが関係ありません。あなた方全員まとめて……」

 

G-3達の出現を見て、一瞬たじろいだ法条だったが、すぐに落ち着きを取り戻し、銃を向けて撃とうとした。だが、次の瞬間銃声が鳴り響き、法条が手にしていた銃が叩き落された。

 

「なっ……!?」

「先輩の邪魔はさせない。」

 

銃を撃ち落としたのは、夜帷ことフィオナだった。フィオナの銃口は法条をしっかり狙っていた。

 

「夜帷……!」

「フィオナ!」

「先輩、ここは私達に任せて先へ!」

 

フィオナはロイドに向けて叫ぶと、同時に法条を睨みなおした。フィオナの後に続くようにユーリ達も銃口を向けた。

その時、

 

「ロッティ!」

 

ユーリが声を上げた。

 

「さっきの話は聞いてたよ。盗聴器越しにね……」

「……ああ。」

 

ロイドは自分の服の襟元を探った。襟の中には盗聴器が仕込まれている。アベルに首を絞められそうになった時、咄嗟にフリッドとグリムが助けに来てくれたのも、この盗聴器のおかげだった。

と、その時法条は銃弾を撃ってきた。

 

「おっと!」

 

しかし、その弾を咄嗟にリョーマがガードアクセラーで防いだ。

 

「邪魔するなって!ユーリ、時間は稼ぐから……伝えたいこと、伝えろよ!」

 

リョーマは軽くユーリの肩を叩くと、ガードアクセラーを振り回しながら法条に突進していった。

 

「……僕は、まだお前を認めてない。でも……姉さんを守れるのは、任せられるのは……僕以外には、お前しかいない。」

「ユーリ君……」

 

ユーリは銃を握りしめた。相当な覚悟があったのだろう、それを示すかのように力強く握った。

そして、ユーリは続けて言った。

 

「黄昏は……黄昏なんて最初からいなかった。『ガーデン』と同じ、ただのおとぎ話だ。……そういうことにしとく。」

 

保安局の秘密警察としてではなく、一人の男としてユーリは言った。

ユーリはずっと迷っていた。ロイドが、自分の追っていた黄昏が姉の夫だと知り、それを上官に報告するか否か……しかし、ロイドが覚悟を決めたのを知り、ユーリ自身も覚悟を決めた。

自分が優先すべきは姉の幸せ、それができるのはこの男だと……

 

「だから、必ず連れ戻せよ!チワワ娘を!!」

「わかってるさ・・・!」

 

ロイドは、ユーリの覚悟を感じ取った。それに応えるように力強く頷いた。

すると、

 

「ユーリ……ありがとう。」

 

ヨルは礼を言いながら、マスク越しに頬にキスをした。

嬉しかったのだ。ようやく、ユーリがロイドのことを認めてくれたのだと。

 

「……姉さん、幸せにね。ロッティと、チワワ娘と……!」

 

マスクで分からなかったが、ユーリは泣いていた。複雑な感情が混ざり合って、ワケが分からなくなったことを示すようだった。しかし、頭に翔一の顔が浮かんだ瞬間、涙が一瞬で引っ込んだ。

 

「……つ・い・で・にッ!津上も一緒にね!」

「フフッ……もちろん!」

「いくぞっ!」

 

ロイドは声を上げ、走り出した。ヨル達はそれに続いて駆け出していく。

 

(……先輩、どうか幸せに……)

 

フィオナは寂しそうにロイドの背中を見つめた。

フィオナも、前から覚悟を決めていた。ロイドはヨルを愛している……それに気づいた瞬間からだ。自分のこの想いが届かないのなら、自分のやるべきことは一つ。愛した先輩の未来を、幸せを、陰ながら守ること。

そのためなら、たとえ組織を敵にしても構わない……その覚悟を決めた。

 

「フィオナ!……死ぬなよっ!!」

 

去り際、フリッドがフィオナに向けて叫んだ。それを聞き、フィオナは笑った。

もちろん、フィオナは死ぬつもりなどなかった。愛した先輩を守るために、そして……自分を愛してくれる人と、一緒にいるために……

 

「フフッ、多勢に無勢じゃないか?」

「お、俺はカウントするなよ?俺、戦闘力ゴミだから!」

 

ユーリがロイドへのメッセージを伝えている間、時間稼ぎをしていたリョーマとフランキーは法条と渡り合っていた。

とはいえ、戦闘力自体は法条とV-1システムの方が上だった。

 

「いくら来ようが無駄ですよ……このV-1システムには、誰にもかなわな……っ!?」

 

ほくそ笑む法条だったが、次の瞬間ユーリは思い切り駆け出し、勢いよく拳を突き出した。突き出された拳はマスクに命中し、そのまま殴り飛ばした。

 

「ごちゃごちゃ能書き垂れるな……!!お前があの二人を攫ったんだってな……五体満足でいられると思うなよ……!!」

 

────────────────────────

 

「こっちだ!」

 

ユーリ達が救援に来てくれたおかげで、ロイド達はスムーズに牢屋への道を進むことができた。

地下への階段を降り、まっすぐ進んでいた。

だがその時、

 

「グッ!?」

「がっ、あぁ……!!」

 

突然、ギルスとルデスが頭を抱えて苦しみ始めた。

 

「どうしたんですか!?」

「ア、アンノウンが、ここに来てる……!!」

「それも、相当強い奴だ……!!」

「……急ごうっ!!」

 

その瞬間、ロイドは何か嫌な予感を感じていた。言葉にできない、何か不吉なことが起きてしまうような……しかし、ロイドはそれを振り払い、すぐさま牢屋の方へ向かった。

 

「アーニャーーーっ!!」

「翔一さーーーんッ!!」

「二人とも、返事をしろーーーっ!!」

 

牢屋につくや否や、ロイド達は叫び声を上げながら二人を探した。

その時、ギルスとルデスの頭に響く音は次第に大きくなっていた。

 

「や、やべぇ……近いぞ……!」

「このままじゃ二人を探すどころじゃない……ここで倒すしか……」

 

二人はここでアンノウンを倒すつもりだった。と、その時だった。

 

「うわああああああああっ!!」

 

男の叫び声がこだました。

 

「今の……!」

「翔一さんの声です!」

 

たった今聞こえた叫び声は翔一のものだった。聞いたことがある声なので、間違えるはずがない。

4人はすぐさま声が聞こえた方へ向かった。

 

「アーニャ!!翔一……!くん……」

 

声がした方へたどり着いた4人……だったが、すぐに言葉を失った。目の前で起きている惨状が信じられなかった。

 

「あ、あぁっ……!アーニャ、ちゃん……」

 

アギトに変身している翔一は、首を絞められながら宙に浮かんでいた。そして驚いたことに、その首を絞めている相手は、アーニャだった。

馬乗りの状態で、アギトの首を絞めていた。目はどこか虚ろで、首を絞めている両腕は異形のものに変化していた。その腕はどこかアギトに似ていた。

 

「ア、アーニャ……?」

 

状況に戸惑いながらも、ロイドはアーニャに呼びかけた。すると、アーニャはビクッと体を震わせロイドの方を向いた。

さらにアギトとロイド達を交互に見たかと思うと、自分が何をしていたのか察したのかその場から離れ、壁際に後ずさった。

 

「アーニャ、アーニャ・・・いま・・・!」

 

アーニャは自分の両手を見つめた。朧気な記憶の中で確かに感じた、首を絞めている時のなんともいえない感触……アーニャは思い出しただけでも吐き気を催した。

そんなアーニャを慰めるように、ロイド達は声をかけてきた。

 

「アーニャ……もう、大丈夫だから!こっちにきなさい!」

「アーニャさん!」

 

しかし、アーニャは首を横に振った。

記憶がなかったとはいえ、アギトの首を絞めてしまったから……それだけではなかった。アーニャは、自分の中にある、どす黒く暗い、闇のようなものを感じ取った。しかもそれは、どんどん湧き上がって、外に出てきそうになっていた。

その時だった。

 

「フッフッフッ……」

 

部屋の奥から低い男の声が聞こえてきた、かと思うとすぐに姿を現した。

それは、獅子の姿をしたアンノウンだった。

 

(この感じ……エル・ロードか!?)

 

グリムの予想通り、今目の前にいるアンノウンはエル・ロードの一人、地のエルだった。

ロイド達は一様に地のエルを睨みつけた。

 

「貴様……!アーニャに何をした!?」

 

ロイドはアーニャの様子がおかしくなったのは、アンノウンが何かしたからだと予想した。その予想は当たりだったのか、地のエルは笑い始めた。

 

「いかにも……あの方(・・・)のお力で、この女子(おなご)の闇を、欲望を解放させた……」

「闇……?どういうことだ!?」

「全てはお前たち人間が犯した咎だ。その身で思い知るがいい……」

 

地のエルはそう言うと腕を振り上げ、その場で砂埃を巻き上げた…かと思うと姿を消してしまった。

 

「ちち、はは……」

 

アーニャはロイドとヨルを呼んだ。その目には涙をにじませていた。さらにアーニャは苦しそうに胸を押さえていた。

すると、二人はアーニャを抱きとめようと両手を広げた。

 

「アーニャ……こっちおいで!」

「アーニャさん、一緒に帰りましょう……?」

 

だが、アーニャは首を横に振る。先ほど電話であれほど「帰りたい」と言っていたのにも関わらずだ。

すると、アーニャは笑った。普段見せるような可愛らしい笑顔ではなく、今にも泣きそうな、苦しそうな笑顔だった。

 

「ごめんなさい……アーニャ、もう……まえのアーニャじゃない……」

 

そう言って、アーニャは涙を流し始めた。それと同時に、眼球が真っ赤に染まり始めていた。

 

「アーニャ、ワルいこになっちゃう……だから、バイバイ……」

 

次の瞬間、真っ赤に染まったアーニャの目が肥大化し、アギトのような複眼のある巨大なものに変わってしまった。

 

「あっ……!!ああああああああっ……!!」

 

目だけでなく、体も肥大化し始めた。等身が高くなり、全身が真っ黒に変化していき、金色の角と牙が生え始める。まるで、アギトのようだった。

だが、それはアギトでありアギトではなかった。言うなれば……アギトの姿をした異形の怪物だった。

 

ヴァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!

 

怪物に変わってしまったアーニャは獣のような雄たけびを上げた。それを見て、ロイドとヨルは絶望した。

アーニャが化け物に変わってしまったという現実が、二人の心を押しつぶそうとしていた。

そんな中、アーニャは四つん這いになって駆け出し、ロイド達に向かって突っ込んできた。

 

『危ないっ!!』

 

ぶつかりそうになった寸前、ギルスとルデスはロイドとヨルを引っ張り回避させた。

アーニャはそのまま牢屋の外に出て駆け上がっていった。

 

「あっぶねぇ……!何してんだ二人とも!?」

 

ルデスは怒鳴り声を上げたが、二人の耳には届いていなかった。

 

「アーニャが、アーニャが怪物に……」

「こんなの・・・こんなのってないです……!!」

 

二人はただただ絶望に打ちひしがれていた。それを見て、ギルスとルデスはかけてやる言葉が見当たらず、黙り込んでしまった。

その時、先ほどまで首を絞められ倒れていたアギトが立ち上がり、フラフラと歩き始めた。

 

「はぁ……はぁ……!い、行かなきゃ……!」

 

アギトは変身が解け、翔一の姿へ戻った。しかし、それでも翔一は歩みを止めなかった。

 

「待て、津上君!フラフラじゃないか……無理をするな!」

 

フラフラの翔一を支えるようにギルスは肩を抱くと、休むように促した。しかし、翔一は首を横に振り、足を進めようとした。

 

「ダメなんです……!アーニャちゃんがああなったのは……俺のせいでもあるから……!!」

 

────────────────────────

 

「デヤァッ!!」

「がはっ!!」

 

そのころ、ユーリ達の方は法条を叩きのめし、地面に這いつくばらせていた。

 

「か、勝った……!」

「こっちはもう大丈夫そうね……先輩と合流しましょう!」

 

と、その時だった。どこからともなく、ドドドドドド……!と何かが近づいてくる音と振動が聞こえてきた。

 

「な、なんだ!?地震か!?」

 

その音と振動にユーリ達が動揺する中、リョーマは突然G-3のマスクを外し始めた。

 

「リョーマさん……?」

「……始まってしまいましたね。あの子の覚醒が……」

 

いつものリョーマとは思えないセリフ、口調だった。いつもはこんなに丁寧な喋り口調ではなかった。

ユーリはそのことに不思議に思った。その時、

 

「ジャァァァァマァァァァ!!!」

 

獣のような雄たけびとともに、黒と金色の怪物がユーリ達を跳ね飛ばしていった。そして怪物はそのまま壁を突き破って外へと飛び出していった。

 

「い、今のは……!?」

「フッ……」

 

困惑する状況の中、ただ一人、リョーマだけがほくそ笑んでいた。

その状況を監視カメラで見ていたアベルは、ロイドとヨルと同じく絶望していた。

 

「……遅かった……!アーニャが暴走を始めた……私は、我々は何もかも遅すぎた……しかも、あの男が保安局にいたことすら知らずに……テオス……」

 

誰もが予想しなかった展開だった。否、ごく少数の人間だけが、この状況を予測していた。アベルと・・・そしてもう一人、テオス……だが、このテオスの存在が事態を一変させることになるとは、この時は誰も気づかなかった。

 

────────────────────────

 

「ふぅ・・・ふぅ・・・」

 

しばらくして、アーニャは元の姿に戻って街の中をさまよっていた。人気のない通りなのか、人通りが少なく、アーニャはフラフラした足取りで歩いていた。

その時、一人の男とぶつかってしまった。

 

「おい貴様!前を見て歩かんか!これだから若いのは……ん?き、貴様!」

 

その男は、以前はイーデン校の教師だったが、法条ことジョージにクビにされたマードック・スワンだった。

マードックの片手には酒瓶が握られており、マードック自身も酔っていた。

 

「き、貴様・・・!よくも私の前に現れたな!そもそも、貴様が私がイーデン校にさえ来なければ、私はこうなってなかったんだ!!どけっ!」

 

マードックは自業自得であるにも関わらず、身勝手なことを言ってフラフラのアーニャを乱暴に蹴とばした。

 

「うぅっ……アーニャ、ワルくない……!」

 

アーニャは倒れながらも、マードックをキッと睨みつけた。しかし、マードックはその目が気に食わなかったのか、アーニャのことを思い切り踏みつけてきた。

 

「このガキめっ!ナマイキなんだ、このっ!!」

 

マードックは乱暴に、手加減なしに何度も踏みつけてきた。

 

(いたい、いたいいたいいたい……!!)

 

痛みが全身を襲ってくる。同時に、アーニャは思った。どうして自分だけがこんな目に遭わなければならないのか、本当に自分が悪いのか?

その時、

 

『悪くない』

 

その一言が頭に浮かんできた。

 

そうだ、自分は悪くない。悪いのはこいつだ。痛みを与えてくるこいつだ。

 

「アーニャ……ワルくない……ッ!!」

 

壊してしまえばいい。自分に恐怖を与えるもの、痛みを与えてくるものを全て壊してしまえばいい、分からせてしまえばいい。

 

それは欲望の声だった。その声を聞きいれたアーニャは全身を先ほどの化け物に変化させ、マードックの頭を掴んだ。

 

「へっ・・・?」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

頭を掴んだ瞬間、雄たけびとともにマードックを地面に叩きつけた。

 

「アヤマレッ!!アーニャに……アヤマレェェェェェ!!」

 

さらにアーニャは拳を握りしめてマードックの顔面を殴りつけた。一発だけでなく、何度も何度も……顔が変形し、骨折しようとお構いなしに殴っていた。

 

「ば、化け物だっ!!」

 

その時、通りがかった住民が声を上げた。

それを聞いた瞬間、アーニャはハッと我に返り、道に落ちていたガラス片に写った自分の姿を見た。

 

「あ・・・ああ・・・!!」

 

今の自分を見た瞬間、アーニャはその場から逃げた。

ずっと「カッコいい」と思っていたアギトの姿……だが、それに近い姿になっている自分は、それとは程遠いほど化け物じみていた。

それが怖くなり、恐怖のあまり逃げ出した。

 

(たすけて……たすけて……!!)

 

アーニャは心の中で助けを求めた。だが同時に欲望の声が囁いてきていた。

助けを求める声と、欲望の声が響く中、アーニャはただただ逃げ続けた……

 

 




おまけ「出番は?」

「オラァッ!!」

バキッ!!

「ぐはっ!V-1システムの出番……ないんですか……!!?ガクッ……」

────────────────────────

V-1システムは犠牲になったのだ……

アーニャが暴走するという展開は前々から考えていました。第10話くらいからすでに考えてました。

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