SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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長かった急章もようやく終わりが見えてきました……




第51話「過去の真実」

 

ロイド達は、G3トレーラーに乗り込み、どこか遠くの方へ逃げていた。

「WISE」の追手が来るかもしれないからだ。

1時間ほど車を走らせ、トレーラーは森の中にある施設にたどり着いた。

 

「ここは……」

「保安局の訓練施設の一つよ。ここなら少しは休めるわ。」

 

アイネの説明を受けながら、ロイド達は車を降り、施設の中に入っていった。

そして、中の休憩室で一休みしながら、状況を整理した。

 

「じゃあ、あの黒い化け物……本当にチワワ娘……!?」

 

何があったのかを知り、ユーリは声を上げた。対し、ロイドとヨルは何も言わず、暗い顔でコクリと頷いた。

 

「アンノウンの野郎に何かされたんだ……」

「ああ、"あの方"って言っていた……一体誰のことを言ってるのかは分からないが……」

 

フリッドとグリムも、同様に暗い顔を浮かべていた。

それもそのはず、もう少しで助けられると思っていた少女がいきなり豹変してしまったのだから当然だ。

その時、

 

「……人間には。」

 

暗く、お通夜状態になったその場の空気を壊すように、リョーマが口を開いた。

 

「人間には善と悪……二つの顔がある。どちら側に傾いているにせよ、それを隠して生きているのが人間です。」

「リョーマさん……?」

 

突然語り始めたリョーマに、ユーリは怪しむような眼で見つめた。さらにリョーマは続けた。

 

「しかし、もし……何かの拍子に悪の部分が人格を支配してしまったら……」

「その結果が、アーニャちゃんだというのか?」

 

フリッドがそう言うと、リョーマはコクリと頷いた。

 

「あの子がどんな人生を歩んできたのかはわかりませんが……今まで抑圧された人生を送ってきたのでしょう。研究所で自由を許されず、それが終わり外の世界に出たと思いきや、自身の能力を打ち明けることができない……能力を使えば気味悪がられ、場合によっては迫害される……その今までに溜まった負の感情が、あの男(・・・)の手によって解放された……」

 

リョーマの言っていることは推論にすぎない。だが、話を聞いてロイドは今までのアーニャのことを考えた。ロイドと出会うまで……アーニャはどんな気持ちで生きてきたのだろうか。

誰にも助けてもらえず、頼れる者もおらず、親もいない……まだ小さい子どもなのに、アーニャは必死に生きていた。

そう思うと、胸が張り裂けそうになった。

 

「リョーマさん……あなた、何者なんですか!?一体何を知っているんですか!?」

 

その時、ユーリがリョーマに向かって叫んだ。ユーリの言い分は他の皆も思っていたことだ。

リョーマはただの整備員……のはずだが、いつもと様子が違う上に、何か重大な事実を抱えているようなミステリアスな印象を受けた。

すると、リョーマは休憩室のソファに腰掛け、ゆっくり口を開いた。

 

「……リョーマという名前は、本当の名ではありません。本当の名は……テオス。」

「テオスって……!?津上先輩とこっちの世界に来たっていう……!」

「じゃあ、翔一さんのお友達……」

 

ヨルが「友達」と言うと、テオスはフッと笑った。

 

「友達……?とんでもない。私と彼は敵対関係ですよ。そもそも私達二人がこの世界に来てしまった原因が、彼との戦いなのですから……」

「戦い……?あなたもアギトだったのか?」

「いえ……私は、あなた方がアンノウンと呼ぶ、ロード達の生みの親……神、オーヴァーロードなのです。」

『か、神……!?』

 

テオスのとんでもない一言を聞き、皆一斉に固まった。それも仕方のないことだ。いきなり「神」と言われても反応に困るだけだ。

すると、フランキーは突然笑い出した。

 

「プッ、アハハ!バ、バカじゃねーのお前!?神様ってのは、もっとこう……なんか偉そうなもんだろ!髭とか生やしてさ!それに、お前がアンノウンの生みの親なら、なんでお前はG-3側についてんだよ!!」

 

フランキーの言うことももっともだった。テオスが本当に神で、アンノウンを生んだ親であるなら、全ての元凶……ということになる。それなのに保安局についてアンノウンと戦う立場にいる。

テオスは戸惑うことなく淡々と語り始める。

 

「話せば長いことながら……私はアギトとの闘いの折、天上界(別の世界)に逃げようとしました。しかし……そこにアギトから追撃を食らい、私とアギトはそのままこの世界に流れ着いてしまったのです。」

 

話を聞いて、ロイドは翔一の方をちらりと見た。翔一はアーニャのことを引きずっているのか、俯いていたがテオスの方を睨むように見ていた。

テオスの言うことに意見していないところを見ると、どうやら本当のようだった。

 

「それからは……」

「待った。私が言おう。」

 

その時、入口の方から男の声が聞こえてきた。皆一斉に振り向くと、そこにはアベルの姿があった。

 

「アベル!?」

「このジジィ……!追いかけてやがったか!」

 

突然現れたアベルに敵意を向けながら、グリムは懐からトマホークを抜いた。

 

「待て。私は戦いに来たワケではない……」

 

トマホークが差し向けられる中、アベルは足を進め、テオスの前に立った。

 

「まさか、あなたが保安局にいたとは……」

「お久しぶりですね。お変わり……いや、火傷で変わりましたか。」

 

テオスは包帯で巻かれたアベルを見てフッと笑った。すると、アベルは思いつめたような顔でうつむいた。

 

「やはり覚えていましたか……あの時のことを。」

「もちろん覚えてますとも。」

 

二人だけで淡々と話が進む中、ロイド達は疎外された気分を味わった。その時、グリムは声を上げた。

 

「あ~~~っ!!何盛り上がってんだ!俺らにも分かるように説明しろよ!!」

「分かっている。」

 

グリムの言い分に従うように、アベルは語り始めた。

 

────────────────────────

 

津上君とテオスが研究所に来てから1週間ほど経ったときのことだ……私は研究所の医師とともに二人の健康診断をしていた。

津上君の方は問題なかったが……テオスは、一言でいえば不安定状態になっていた。

 

「ぐぅっ……!ぐおおおおおおっ……!!」

 

その状態をなんと表現すればいいか……テオスの体から、もう一人のテオス(・・・・・・・・)が現れようとしていたのだ。

聞けば、アギトとの闘いで受けた傷のせいで体に異常が出たらしい。そのせいでテオスの体は分裂を始め、テオスは二人になろうとしていた。

一人は、今我々の目の前にいるテオス……もう一人は……こいつがかなりの問題児だった。

 

「私に触れるな人間!!汚らしい!!」

 

もう一人のテオスとは真逆の性格で、プライドが高く、何よりも私達人間を嫌っていた。

私は二人の区別をつけるために、性格がおとなしい方を「白テオス」、プライドが高い方を「黒テオス」と名付けた。

黒テオスが問題だったのは……何かと理由をつけては我々研究員に暴力を振るってくることだった。

私や他の研究員は止めようとしたが、相手は分裂したとはいえ、神だ。ありとあらゆる超能力で我々を返り討ちにした。

そんな時だった。

 

「テオスに、会いたいですと……?」

「うむ、案内してくれ。」

 

私の前に、ドノバン・デズモンドが現れた……どこで聞きつけたのか分からないが、テオスの存在を、津上君を、アギトの存在を知ったドノバンは我々に近づいてきた。

私は密かに「WISE」の上層部にこのことを知らせた。上層部からの返答は、「アギトとテオスの存在は交渉に使える、しばし様子見せよ」だった。

見張りとして腕利きのガードマンをドノバンにつけた。私の方は、一人の被験者に会っていた。

 

「博士。」

「気分はどうだい?ソニア。」

 

被験者にソニアという女性がいた。ソニアは研究所で……いや、この世で一番最初にアギトになった女性だ。

 

「変身はできそうかい?」

「ええ、津上君が教えてくれたから……変身!」

 

そう言ってソニアは私の前でアギトに変身してみせた。

ソニアは気さくで、誰とでも仲良くなれる女性だった。津上君ともすぐに打ち解けて仲良くなった。

結局その日は何事もなく終わったが……その日から1カ月後のことだった。

 

「ソニアさんっ!!」

「ソニア……やめるんだっ!!」

「いやっ……!いやっ!いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突如としてソニアは暴走を始めた。実験室にいた研究員達を殺害し、暴れまわった。

津上君は必死になって彼女を止めようとしたが、彼女が相手では力が出せなかったのだろうな……止められなかった。

そして、次の瞬間……

 

ドスッ!!

 

ソニアの背中に、剣が突き刺さり、胸を貫通した……

 

「え……?」

「ソニアッ!!」

「ソニアさんっ!!」

 

ソニアの変身は解かれ、血を流して倒れた。その後ろには……ドノバンの姿があった……!

ドノバンは剣を手にしたまま、倒れたソニアを見下して笑っていた!

 

「素晴らしい……これが、(テオス)の力か……!」

「ドノバン!貴様何を……!」

「契約したのだ。テオスとな……」

 

私は耳を疑った。テオスと契約した……確かにそう言った。

 

「私の体を依り代にする代わりに、神の力を存分に使わせてくれるとな!なんとも素晴らしい力だ……!」

「貴様ァァァァ!!」

「フハハハハハ……!」

 

私は怒りのあまりドノバンに飛び掛かった。だが、ドノバンは高笑いを上げながら、煙のように姿を消してしまった。

その傍らで、津上君は倒れたソニアを抱き起こしていた。

 

「ソニアさん……!ソニアさん!しっかりしてください!」

 

津上君は必死にソニアの名を叫んで呼びかけたが……ソニアは即死だった。刺された瞬間に死んでしまったんだ。

私と津上君は悲しみに暮れた……だが、浸ってる時間はなかった。

 

「ア、アーニャ!」

 

その時、運が悪いことにアーニャが部屋に入ってきた。

 

「ママ……?」

 

血を流して倒れるソニアを見て、アーニャは目を見開き、瞳孔が開いていた。

ソニアが倒れていることがショックというだけではなかった。

 

「アーニャちゃん……!」

「ひっ……!!」

 

泣きそうになっている津上君を見て、アーニャは声を上げた。津上君の手と腕にはソニアの血がべっとりとついていた。それを見て、アーニャはこう思ったんだろう……津上君がソニアを、母親を殺したと……

 

「ち、違うっ!違うんだアーニャちゃん!!」

「あ、ああ……」

 

津上君は必死に弁明しようとしたが、もうアーニャの耳には届いていなかった。

そして……

 

「ああああああああああああああっ!!いやああああああああああああっ!!!」

 

今度は、アーニャの力が暴走を始めてしまった……暴走したアーニャは研究所そのものを爆破させた。

研究所にいた研究員や、被験者であるアギト達は全員死亡してしまった……

 

────────────────────────

 

「私も体に火傷を負い、津上君とアーニャは気を失ってしまった。目が覚めれば、アーニャはまた暴走を始める……そう思った私は、津上君の記憶と心に鍵をかけ、アーニャには偽の記憶を植え付けた。二度と、あの研究所のことを思い出すことがないようにな。」

 

アベルの話を聞いたロイド達は、絶句していた。

分裂したテオス、アーニャの母、ソニアの存在、ドノバンの凶行、アーニャの暴走……立て続けに起こった出来事と悲惨な事件に、かける言葉が見つからなかった。

 

「アーニャさんの、お母さんが……」

「なんで……なんでそんな大事なこと言わねぇんだよ!!?」

 

その時、グリムは大声を張り上げ、アベルの胸倉をつかんだ。しかし、アベルは冷静さを保っている。

 

「言ったところで信じないだろう。」

「なら、なんでチワワ娘の記憶を消したんだ!?津上の記憶まで……!!」

 

さらにユーリがアベルに食ってかかった。すると、アベルは拳を握りしめ、声を上げた。

 

「きっかけがどうあれ……アーニャが暴走してしまったのは事実だ……!アーニャが暴走して、人を殺してしまったのも事実だ!!」

「ッ!!」

「あんな小さい子に、そんな重荷を背負わせるのか!?そうさせないために、私は偽の記憶を作った!津上の心にも鍵をかけた!アーニャが心を読んでも、読めないようにな!」

 

アベルのその叫びに、ロイド達はまたも何も言えなくなった。

アベルの言うことももっともだった。アーニャがその気がなかったとはいえ、人を殺してしまったのは事実だ。それを5、6歳の子どもが抱えるには重すぎる……だからこそアベルはアーニャの記憶を改竄した。せめてもの親心だったのだろう。

 

「博士……!アーニャちゃんは、アーニャちゃんはどうすれば戻せるんですか!?」

 

その時、翔一は立ち上がってアベルの肩を掴んだ。

しかし、アベルは首を横に振る。

 

「私が知る限り……分からない……」

「いえ、一つだけありますよ。」

 

だが、テオスは対照的に静かに呟いて言った。

それを聞いたロイド達は食い入るようにテオスの元に集まった。

 

「ほ、本当なのか!?」

「ええ。その方法は……あの子の精神世界に入ることです。」

「精神・・・世界?」

 

テオスはコクリと頷くと、話を続けた。

 

「今のあの子は暴走状態……普通に語り掛けるだけでは目を覚ますことはありません。そこでアギトであるあなたがあの子の精神に入り、あの子の心そのものに語り掛けるのです。」

「そうすれば、アーニャは元に……?」

「あの子の心次第ですね。」

「でも、それに賭けるしかない……!」

 

ロイドは拳を強く握り、噛みしめるように呟いた。すると、翔一の方に顔を向けた。

 

「翔一君……アーニャのために、命を懸けてくれるか……?」

「今更何を言ってるんですか?懸けるに決まってるじゃないですか!」

 

愚問だった。翔一は最初からアーニャを助けるために全力を尽くすつもりだ。

そして、他の皆も……

 

グリム……

「後輩のピンチだ、先輩である俺が助けねぇとな!」

 

フリッド……

「今こそ、あの子に恩を返す時だ。」

 

フィオナ……

(先輩の幸せのためにも……)

 

フランキー……

「お、俺だってやるぜ!でも…マジで止まられるのかよ……?」

 

アイネ……

「今更びびってるの?やるしかないんだから、気合入れなさい!」

 

ユーリ……

「待ってろよ、チワワ娘!」

 

そして、ヨル……

「ロイドさん、行きましょう!」

 

ヨルの一声に答えるように、ロイドは力強く頷いた。そして、ロイドは皆と一緒に外へ出ようとした。アーニャを助けるために。

だが、その時アベルは叫んだ。

 

「ま、待て!本当にあの子を助ける気か……?そんなことをすれば、あの子は全ての記憶を取り戻す!罪を背負わせることになるんだぞ!」

 

アベルの言葉に、皆黙り込んだ。鵜吞みにしたワケではない。そんな話をしてる暇はない。そう思っただけだ。すると、翔一は声を上げた。

 

「だったら……博士はなんでアーニャちゃんのそばにいてあげなかったんですか!?」

「ッ!」

「アーニャちゃんが悲しいとき、寂しいとき……どうしてそばにいてあげなかったんですか!?博士はお父さんでしょ!それなのに……なんで……!!」

 

翔一は珍しく声を荒げた。翔一の言う通り、アベルがアーニャのそばを離れず、そばにいてあげれば・・・今回のようなことは起きなかっただろう。

アベルは何も言えなくなり、黙り込んだ。

 

(私は……私は……!)

 

アベルは頭を抱えてしまった。

アンノウンを全て殲滅すること、ドノバンを止めること……それがソニアへの何よりの手向けになると思っていた。そうすれば、アーニャも喜ぶと思った。

しかし、翔一の言葉でそれは違うということに気づかされた。

 

「……翔一君、行こう。」

「……はい。」

 

頭を抱えるアベルを捨て置き、翔一はロイド達とともに進んだ。

 

今、オペレーション(ストリクス)は完遂されようとしている。

生まれた時間も、国も、職業も、組織も違う・・・かつては敵同士だった。だが、今は共通の目的のために動いている。

今こそ東と西が手を取り合い、この任務に臨む時……一人の少女を助ける時だ。

 

 




おまけ「不敬者」

「テオスはアギトとの闘いのダメージのせいで分裂した……私はおとなしい方を『白テオス』、プライドが高い方を『黒テオス』と名付けた。」

話を聞き、その場にいた皆は思った。

「こいつ、仮にも神様相手に失礼じゃね?」

と、思っていた。しかし真面目なムードが漂っていたため、何も言えなかった皆だった。


―-----------

アベルはもう少しクズなキャラになるはずだったのですが、書いていくうちにどうも中途半端にいい人が出ちゃうんですよね……こういうの性格出るのかな……

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