「はぁ……はぁ……!」
街の中を荒い息遣いで、足を引きずるように歩き回る者がいた。ボロボロの布で体と顔を隠し、その荒い息遣いはまるで獣のよう。
その時、足が止まった。
「ボンド、マン……ボンドマン……」
壁に貼られた、テレビアニメ「ボンドマン」のポスターを見ながら引っ掻くように撫でる。
その時、チラリと布からその者の顔が見えた。赤い目に金色の牙を持った黒い獣……黒い獣は周りを見回した。
「何アレ・・・?」
「気持ち悪いなぁ……どっか行けよ……」
街の住民達が怖がるような、面白がるような目でこちらを見てくる。黒い獣はその目線に耐えられなくなり、その場から走り去った。
一体どれだけ走ったのか分からなくなったころ、黒い獣は辺りを見回した。
「あ……がっこうの……」
目の前にあるのはイーデン校の学生が使う学生寮だった。その時、ふと黒い獣の脳裏に子ども達の顔が思い浮かんだ。
その子ども達は、エミール、ユーイン、ベッキー、そしてダミアン……
「みんな……じなん……」
その時、
「うわぁっ!!?」
悲鳴のような叫び声が聞こえ、黒い獣は声がした方に顔を向けた。
そこには、ダミアンがいた。ダミアンはこちらを見て驚いたような顔を見せている。
「じ、なん……!」
「だ、誰だお前!!アンノウンだな!?」
黒い獣はダミアンに近づこうとした。しかし、黒い獣をアンノウンだと思ったダミアンは、近くにあった石ころを掴み、投げつけた。
「あっちいけ、化け物!」
「!!」
「お前なんか、仮面ライダーがやっつけちまうからな!叔父さんに知らせなきゃ……!」
石をありったけ投げつけたダミアンは、フリッドに黒い獣のことを伝えようと、その場から逃げようとした。
しかし、
「じなんっ!!」
「え・・・っ!?」
黒い獣は叫んだ。その叫びにダミアンは足を止めた。叫び声に怯えたワケではない。黒い獣の、その呼び方に驚いたのだ。
自分のことを「じなん」と呼ぶ者は一人しかいなかった。それなのに、今目の前にいる怪物は、自分を「じなん」と呼んだ……
「なんで、お前がその呼び方を……?」
「たすけて……」
黒い獣は赤い目から大粒の涙を流した……かと思いきや、その赤い目が徐々に小さくなり、下から子どもの顔が一部だけ出てきた。
「!!」
ダミアンは自分の目を疑った。黒い獣の顔の下から出てきた子どもの顔は、自分の知っている人物だった。自分のことを「じなん」と呼び、よく笑い、よく怒って、よく泣いていた、ピンク髪の少女……
「アーニャ、なのか……?」
その顔はアーニャに間違いなかった。しかし、その顔はすぐに消え、また赤い目をした黒い獣に戻ってしまった。
その時、バイクのエンジン音が近づいてきた。
「おいっ!おい、クソガキ!!」
「ア、アニキ!」
そこにダミアンの腹違いの兄、グリムが現れた。グリムはバイクから降りると、黒い獣にずかずかと近づいて行った。
「ここにいたのか……おい、戻るぞ!」
「う、ううっ……」
グリムは黒い獣に手を差し伸べるが、黒い獣は首を横に振り、振り返って逃げようとした。
「ロイドのおっさんとヨル先輩が心配してんだ!早くいくぞ!」
と言って、グリムは黒い獣の肩を掴んだ。しかし次の瞬間、
「アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
黒い獣は悲鳴のような叫び声を上げたかと思うと、グリムの腕を掴んで投げ飛ばした。もの凄い力で投げ飛ばされたグリムはレンガの塀に激突し、地面に倒れた。
「くっ……!」
「アニキ!」
グリムは背中を強打し、その痛みに歯を食いしばった。その隙に黒い獣は逃げてしまった。
「ま、待て……!!」
「ね、ねぇ、アニキ……今の化け物って……まさか……!?」
「ああ、アーニャの野郎だよ!」
その時、ダミアンは思った。自分はとんでもないことをしてしまったと。知らなかったとはいえ、アーニャのことを「化け物」と言ってしまった。アーニャ自身だってなりたくて化け物になったワケではないはずだ。それなのに、それに気づかなかった自分を、ダミアンは恥じた。
「……謝らなきゃ!俺、アイツに謝らなきゃ!」
「そうか……だったら、協力しろや!」
「え?」
「元々、俺はお前に用があって来たんだ。」
────────────────────────
「はぁ……!はぁ……!」
黒い獣に変わってしまったアーニャは、逃げ続けた。息を切れようと、できる限り遠くまで逃げようとした。気づけば、公園にある森の中にいた。
その時、目の前にとある二人が立ちはだかった。
「アーニャ!」
「アーニャさん!」
ロイドとヨル、二人がアーニャの前に現れた。しかし、アーニャは二人の顔を見た途端すぐに逃げようとした。
その時、ロイドはポケットから筒状の弾を取り出し、足元目掛け投げつけた。すると、筒から煙幕が噴き出し、アーニャの姿を覆い隠した。
「今だ!」
さらに、鞭状の触手とワイヤーが伸び、アーニャの両腕に巻き付いた。
「捕まえた!」
「足を頼む!」
アーニャを拘束したのはG-3Xの装備「GA-04」のワイヤーとギルスの触手だった。さらにフィオナとフランキーが装着者のG-3MILDが飛び掛かり、両足にしがみついた。
「よっしゃ!これでしばらくは動けねぇだろ!」
「ぐううううっ!!うああああああああああっ!!」
「翔一君!」
「はいっ!!」
ロイドの呼びかけに答え、ロイドの背後から翔一が走ってきた。アーニャに向かって猛スピードで突進していく。
「変身ッ!!」
走りながらアギトへと変身し、アーニャの眼前まで近づいた。
「うおおおおおおおっ!!」
同時に、アギトは拳をアーニャの胸にある長方形の水晶に向かって繰り出した。拳は水晶に直撃した……かと思った次の瞬間、眩い光が辺りを照らし、アギトはその中に、水晶の中に吸い込まれていった。
そして、アーニャはガクンと意識を失ったように項垂れた。
「こ、これで津上は、アーニャの精神世界に・・・?」
「多分な……ロイド君!ヨルさん!」
ギルスはロイドとヨルに声をかけた。
「アーニャちゃんに、呼びかけてやるんだ。あの子が寂しくないように、な。」
「ああ、わかってる。」
ロイドはうんと頷くと、ヨルとともにアーニャの元に近づいた。
しかし、
「そうはさせんぞ……」
その時、低い男の声が響いてきた。
ロイド達は声がした方に顔を向けた。そこには、本部内でも見かけたアンノウン……地のエルが身構えていた。
「お前はあの時の……!」
「その
「どりゃああああ!!」
地のエルは剣を手にした、かと思いきや横からバイクに乗ったグリムが現れ、バイクで地のエルを跳ね飛ばした。
「グリム!」
「待たせたな!」
グリムの後ろにはダミアンが乗っていた。二人はバイクから降りると、グリムは地のエルの方を、ダミアンはアーニャの方を向いた。
「アーニャ……!」
「ダミアン、アーニャちゃんに戻ってきてほしいか?そう思うなら、戻ってほしいように、声をかけ続けろ!」
ギルスはダミアンに向けて呼びかけた。ダミアンはその呼びかけに対し、力強く頷いた。
「さーて、てめぇの相手は俺だ!」
グリムは地のエルをにらみつけながら、両腕を腰の前で交差させた。
「変身ッ!!」
その叫びとともに、グリムはルデスへと変身し、ベルトからトマホークを抜いた。
そして、両者は互いに駆け出し、互いに武器をぶつけた。
────────────────────────
「ここは……」
水晶の中に吸い込まれた翔一は不思議なことに、青空の中、何もない原っぱのど真ん中にいた。
辺りを見回してみると、向こう側に大きな切り株があった。そしてその上には……
「アーニャちゃん!」
アーニャの姿を見た瞬間、翔一は走り出した。しかし、アーニャに近づこうとした途端、周りの環境が変化し始めた。さっきまで青空だった空が暗くなっていき、一面緑だった原っぱが、どんどん荒野へと変わっていく。
「これは……!?」
翔一は周りの変化に戸惑いながらも、アーニャの元にたどり着いた。フッと息を整え、アーニャと目線を合わせるため、その場でかがんだ。
「・・・アーニャちゃん、おうちに帰ろ?」
優しい声で呼びかけた。しかし、アーニャは首を横に振った。それでも翔一は続けて言った。
「お腹空いたでしょ!今日はハンバーグ作ってあげる!お風呂にも入って、キレイになって……みんなでご飯食べよ?もう一度、みんなで笑おうよ!」
「……かえれない……!」
涙ぐむような声で、アーニャは反対した。
「アーニャ、おもいだした……アーニャのせいで、けんきゅうじょのみんな……しんだ……!!」
そう言って、アーニャは泣き出してしまった。すると、翔一はアーニャの肩を掴んだ。
「違うよ!アレは事故だ!アーニャちゃんが悪いんじゃない!」
「ちがうっ!アーニャが、アーニャがいなかったら……アーニャがいなかったら、みんないきてたっ!!」
研究所には、アーニャの知り合いや友達が大勢いた。それが自分のせいで、一瞬で消してしまった……そのことがアーニャに呪いとなってのしかかっていた。
それに呼応するように、現実世界では……
「ウアアアアアアアアッ!!グアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
黒い獣のアーニャは暴れ出し、拘束を解こうとしていた。
「クソッ……!なんて力だ……!」
「なんとしても抑えろ!」
ギルスもユーリも、必死になってアーニャを止めている。さらにロイドとヨル、ダミアンもアーニャに掴みかかり、拘束を手伝った。
「アーニャ……!落ち着いてくれ……!」
「クルシイィ!!クルシイィィィィィ!!アアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
アーニャの力は想像以上だった。まるで戦車を引きずっているかのようだった。しかし、それでもロイド達は決してアーニャを離さなかった。
離してしまえば、もうアーニャを取り戻せない……そう思ったからだ。
「苦しいのか!?だったら全部吐き出せ!俺が……俺達が全部受け入れてやるから!」
「グウウウウ……ッ!!ウルサァァァァイ!!」
ロイドが優しい言葉をかけた瞬間、アーニャは悶え苦しみ始めた。
精神世界の方でも、アーニャは必死に耳を抑えていた。まるでロイドの言葉を聞かないように。
「やめて……!ききたくない……!」
と、その時……
「おい、後輩!」
ルデスの声が聞こえてきた。ルデスは地のエルと戦いながら、アーニャに向かって叫んだ。
「俺はな……お前をアギトの後輩として、こき使おうと思ってたんだ!それなのに勝手に暴走しやがって……!計画がパーだ!……ちょっとでも悪いって思ってるなら……さっさと戻ってこい!!」
さらに、ルデスの・・・グリムの叫びに感化されたか、ギルスもアーニャに向けて呼びかけてきた。
「アーニャちゃん!俺は……君のおかげで、俺はもう一度ダミアンと笑い合うことができた。俺は、君に恩を返したい……一生かかってでも!だから戻ってくれ!」
続けてユーリ、
「おい、チワワ娘!僕は、お前の家庭教師役……あきらめてないからな!だから……お前もあきらめるな!!」
さらにフランキーが、
「俺さ……口では『子守りなんてゴメンだ』なんて言ったけど……お前と遊ぶの、結構楽しかったぞ!だから、もう一度遊ぼうや!!」
続いてフィオナも、
「先輩にはあなたが必要なの……早く、戻ってきなさい!」
さらにダミアンも、
「お、おい……ア、アーニャ!い・・・今まで、ごめんっ!!」
ダミアンは大声で叫び、謝った。そしてさらに続けた。
「お、俺……本当は、お前と仲良くなりたいんだ!!仲良くなって、それで、それで……!!と、とにかく!なんでもいいから!戻ってこーーーーーいっ!!!」
口では上手く伝えられず、ダミアンはとにかく叫んだ。しかしそれでも正直な気持ちを伝えたつもりだった。
「じなん……」
その時、アーニャの動きが一瞬止まった。その瞬間、ロイドとヨルはアーニャを抱きしめた。
「アーニャさん……ありがとう。私を、ロイドさんと巡り会わせてくれて……!アーニャさんがいなかったら、私はずっと一人ぼっちでした。それがロイドさんと会って、翔一さんや他の皆さんと出会えて……本当に感謝してます!アーニャさんは、私の……いいえ、みんなの希望です!!」
そう言って、ヨルはいっそう強く抱きしめた。すると、アーニャの赤い目から大粒の涙がこぼれた。
「はは……」
さらにヨルに続き、ロイドが口を開いた。
「聞いてくれ、アーニャ。俺とお前が出会ってから、いろんなことがあったな。大変なことも、楽しいことも、悲しいことも、嬉しいことも……いっぱいあった。俺の人生で、こんな日々が来るなんて思わなかった。大切な思い出になった。でも……!」
その時、ロイドの目から同じく涙がこぼれ始めた。
「そこには、いつだってお前がいた!なのに……!お願いだ、アーニャ!!俺は、お前がいない生活なんて考えられないんだ!!俺は……お前がいないとダメなんだッ!!!」
涙を流しながらの、心からの叫び……ロイドにとって、初めての出来事だった。目から滝のように涙が流れ出る。アーニャも同様だった。赤い目から滝のように涙が出ていた。
そして、精神世界のアーニャも同じだった。
「かてーきょーし・・・おじ・・・モジャモジャ・・・おねーさん・・・じなん・・・はは・・・ちち・・・!!」
戻ってきてほしいという、皆の想い……それはアーニャの胸に深く刻み込まれた。アーニャは優しい言葉をかけられるたびに、皆の想いを聞くたびに涙があふれ、胸が苦しくなった。
しかし、それでもまだ迷っていた。アーニャはブンブンと首を横に振った。
「もどれない……!アーニャ、もどれない……!アーニャがいたら、メイワクかかる……!」
「それは俺も同じだよ。」
翔一は泣くアーニャに向かって言い放った。すると、アーニャの涙は止まり、アーニャは翔一の顔を見た。
翔一はニコッと笑い、アーニャの頬に触れた。
「俺もみんなに迷惑かけてばっかりだよ。ヨルさんが助けてくれなかったら、俺は野垂れ死んでたかもだし、ロイドさんがいなきゃ、生活できてないし……アーニャちゃんが『いっしょに暮らそう』って言わなかったら……俺、一人ぼっちだった。ありがとう、アーニャちゃん。」
「ショーイチ……」
「それにね、俺……思い出したんだ。アーニャちゃんと大切な約束してたこと!」
突然の翔一の一言に、アーニャは首を傾げた。アベルに記憶を操作されたせいか、その約束を覚えていなかった。
それを察してか、翔一は約束のことを話し始めた。
────────────────────────
研究所にいた時、君はいつも寂しそうにしてたよね。
俺はいつもみたいに声をかけて……
「アーニャちゃん、どうしたの?」
「ママ、またジッケンいった……アーニャとあそぶやくそくしたのに……」
ソニアさん……お母さんと遊べなくて、落ち込んでたよね。
「じゃあ、今日は俺と遊ぼうよ!何しようか!?」
俺がそう言っても、君は元気なくて……そしたら、君は俺の方を見て……
「ショーイチ、どっかいったりしない?」
「え・・・?どうしたの?」
「ママ……アギトになったら、とおくにいっちゃう……」
アーニャちゃんは、お母さんがアギトになったら、もうお母さんじゃなくなる気がしてたんだ。そう思った俺は、君の頭を撫でて……
「大丈夫だよ。俺はアーニャのそばにいるよ?」
「ほんとう?」
「うん。約束する!俺はずっとアーニャちゃんのそばにいるよ!」
俺はそう言って、小指を立てて……君と指切りをした。
そしたら、君は笑ってくれた。
「やくそくっ!」
「うん、約束!」
────────────────────────
アーニャは思い出した。翔一と大切な約束をして、指切りをしたことを。
すると、翔一は自分の右手の小指を立てた。
「交わした約束を果たすよ……もう君に寂しい思いなんてさせない。悲しませない。ずっと……一緒だよ。」
「ショーイチ……」
その瞬間、アーニャはまたも涙を滝のように流した。しかし、今度は悲しい涙ではなく、喜びの涙だ。
ずっと待っていた人が、追いかけた背中が、瞼に焼き付いているその姿が……約束を果たしに来てくれた。
アーニャにとっての、永遠の
「一緒に帰ろう、アーニャちゃん!!」
「・・・ういっ!!」
「変身ッ!!!」
二人は手をつなぎ、翔一は叫んだ。
愛する人達の元へ、二人を待つ人達の元へ戻るために。
パキッ……
その時、現実世界では……
黒い獣のアーニャの体にひびが入り始めた。
「っ!」
「これは……」
「まさか!?」
そのひびは広がり、全身へと……そして、そのひびは勢いよくはじけ飛び、拘束していたロイド達は吹き飛ばされた。
「……みんな。」
そして、その下から現れたのは……アーニャを抱きかかえたアギトだった。
「アーニャ……!」
「本当に、本当にアーニャさん!?」
「ちち……はは……!アーニャ、きかんしたっ!!」
『も、戻ったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』
元に戻ったアーニャはとびきりの笑顔を皆に見せながら敬礼してみせた。それを見た瞬間、その場にいた全員が沸いた。
ユーリは泣き、フランキーとダミアンは生還に喜び、ギルスとフィオナは嬉しくなって互いに抱き合い、ロイドとヨルは、アギトからアーニャを受け取ると強く抱きしめた。
「無事でよかった……!」
「本当に……!」
「ちち、はは……!ぶえぇぇぇぇ~~~~っ!!!」
抱きしめられた瞬間、涙腺が一気に刺激されたのか、アーニャは声を上げ泣き叫んだ。
「フッ……人騒がせな……うわっ!!」
アーニャの生還に安堵したルデスだったが、その隙を突かれ、地のエルに殴り飛ばされた。
すると、地のエルは驚いたようにアーニャの方を見て、拳を握った。
「何故だ……!?何故あの方の呪縛が解けた……!?」
その時、皆は一様に地のエルを睨み始めた。
そして、アギトは皆の前に出ると倒れたルデスを引っ張り上げた。
「ありがとう、グリム。」
「ケッ……後は休ませてもらうわ。頼んだぜ、先輩。」
そう言って、ルデスは後を託すようにギュッとアギトの手を握った。
そして、託されたアギトはコクリと頷き、地のエルに向かっていった。
「誰も、人の未来を奪うことはできない!!お前なんかに、アーニャちゃんの未来は……奪わせないっ!!」
アギトは叫ぶと同時にバーニングフォームへと変化した。さらに、装甲にひびが入り始めた。
(アーニャちゃん。)
その時、アーニャは心の声を聞いた。それは、翔一のものだった。
(君のおかげで、俺、全部思い出せた。俺にはロイドさん達だけじゃなくて、他にもたくさん大切な人達がいた!木野さん、葦原さん、尾室さん、小沢さん、氷川さん、先生、太一、真魚ちゃん……忘れちゃいけない人達が……いっぱいいた。俺には大切な人達が出来すぎた・・・でも、だからこそ、俺はもっと強くなれる!!)
翔一の心が、心に掛かっていた鍵が壊れた。その鍵が壊れると同時に、バーニングフォームの装甲は全て剥がれ、アギトは銀色の輝く装甲を持つ、
「ハァァァ……!!」
アギトは腰を深く落とした、かと思いきや突然姿を消した。
「!?」
戸惑う地のエルだったが、次の瞬間アギトは突然目の前に現れた。
「フンッ!!」
さらに思い切り拳を振るい、地のエルの腹にめり込ませた。そして次の瞬間、地のエルは勢いよく吹き飛んだ。
「うおおおおおおおおおおっ!!?」
地のエルは何本もの樹を貫きながら吹き飛んでいった。すると、アギトはまた姿を消し……否、アギトは光の速さで動き回っていた。その光速の動きで吹き飛ばされた地のエルに追いつき、かかと落としで地のエルを地面に叩きつけた。
叩きつけられた瞬間、地面にクレーターが出来、さらに激しい衝撃波が発生した。
「くっ……!なんて力だ……!」
「これが、進化したアギトの力か……!」
あまりに激しい衝撃波に、ロイド達は吹き飛ばされそうになったが、樹にしがみついてなんとか耐えた。
その時、ロイドの脳裏にアベルの言葉が浮かんできた。
『アーニャのアギトの力は、他のアギトの力を増強させるというものだった。親しければ親しいほど、その力が強まっていった。』
その言葉を思い出した瞬間、ロイドは思った。翔一の、アギトのあの圧倒的な強さは……アーニャによるものなのではないかと思った。
(これが、アーニャのアギトの力か!)
その時、地のエルは戦力差を埋めるためか、地中から大量のアントロードを呼び出した。
対し、アギトはベルトからシャイニングカリバーを出現させると、それを2つのに分離させた。それを手にし、向かっていく…かと思いきや、上に向かってシャイニングカリバーを投げた。
そして、アギトはアントロードの方を指差した。
その次の瞬間、シャイニングカリバーは独りでに動き出し、アントロードに突き刺さった。
「ハッ!」
さらに、アギトは指差した手をバッと開いた。すると、シャイニングカリバーは縦横無尽に飛び回りながら、アントロード達を全て細切れにしてしまった。
「………!!」
あまりの強さに、地のエルは驚愕していた。しかし、それはロイド達も同じだった。圧倒的な強さを見せつけられ、ただただ呆然とするしかなかった。
「つ、強すぎだろ……!」
「こ、これが進化したアギトの力……!!」
その時、地のエルは逃げ出した。勝ち目はないと思ったのか、はたまた恐怖を感じたのか…
しかし、アギトは逃すまいと、シャイニングカリバーを操作して地のエルの腕に突き刺した。そしてそのままもの凄い力で地のエルを空中に吊り下げた。
「は、離せっ!!」
「ハァァァァ………!!」
アギトは足を開き、腰を深く落とす。すると、空中に青色に輝くアギトの紋章が浮かび上がった。
「ハッ!!」
アギトはその紋章めがけて跳び上がり、必殺の飛び蹴りを繰り出した。すると、アギトが紋章を通過した瞬間、紋章エネルギーがアギトの全身を纏った。
「デヤァァァァァァァァァァッ!!!」
そのまま地のエルの体を貫き、巨大な穴を開けた。
「バ、バカな……!!グ、グオォォォォォォォッ!?」
地のエルは断末魔を上げながら爆散し消えていった。
爆炎が燃え盛る中、アギトは変身を解き、アーニャの元へ歩み寄った。
「アーニャちゃん、おかえりなさい。」
翔一はその場でかがみ、両手を広げた。
「ういっ!ただいま、ショーイチ!!」
対し、アーニャは満面の笑みを浮かべて翔一の胸に飛び込んだ。そして翔一もアーニャをギュッと抱きしめた。
その光景はまるでずっと一緒に暮らしてきた兄弟のようだった。それを見たロイドとヨル、他のみんなも微笑ましく思いながら見ていた。
と、その時、グー…っとグリムの腹が鳴った。
「あー、腹減った……津上先輩、飯っ!」
「お前なぁ……空気読めよ!」
肩透かしを食らい、グリム以外の皆はため息をついた。空気を読まないグリムに、ユーリは叱咤した。すると、グリムはムッとユーリを睨んだ。
「あ?空気は読むもんじゃねぇ、吸うもんだろ?」
「そういうことを言ってるんじゃなくて……!」
「まぁまぁ、いいじゃないか。」
喧嘩しそうになる二人の間に、フリッドが入って止めた。
「今日はアーニャちゃんの生還パーティってことで!」
「あっ、いいですねそれ!やりましょうよ!」
フリッドの言葉に賛同するように、翔一が声を上げた。さらにフランキーとフィオナも賛同してきた。
「よっしゃ!じゃあ俺、格安で貸してくれるパーティ会場探してくるぜ!」
「料理に使う食材は私とフリッドで探してきます。後、美味しいケーキを売ってる場所知ってるので……」
「うわぁ、ありがとうございます!」
翔一は二人に礼を言うと、今度はロイドとヨルの方に顔を向けた。
「二人とも!何か食べたいものありますか?パーティですし、なんでも作りますよ!」
翔一の言葉を聞き、ロイドとヨルは互いに顔を見合わせ、アーニャとも見合わせた。すると、3人はニコッと笑い言った。
「それはもちろん……」
『翔一スペシャルで!!』
「はい、わかりました!」
こうして、アーニャは皆の元へ戻った。
暴走してしまい、周りの人を傷つけてしまったことは変わらない。しかしそれでも、アーニャは進んでいく。自分の周りには、それを受け入れてくれる人、一緒に乗り越えようとしてくれる人がいることを知ったから。
大好きな人達とともに進んでいく日々を、これからも噛みしめていく。
おまけ「あいつは〇んでヨシ!」
「アーニャ……みんなをきずつけた……」
「いいんだよ、アーニャ……お前が悪いワケじゃない。」
暴走したことを気にしているアーニャに、ロイドは慰めていた。
「スワンせんせいもボコボコにした……」
「ああ、あのクズは気にしなくていいぞ。翔一君殴ってお前とヨルさんを侮辱しやがったクソ野郎だから。」
「わかった!アーニャ、きにしない!」
「気にしないんかい。」
二人をやり取りを見たグリムは、思わずツッコみを入れた。そのままグリムはツッコむのをやめた。
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途中の暴走してるアーニャに、ユーリがかけるセリフですが、最初は「もういい……もういいだろ!」と原作のセリフを使う予定でした。しかし、あのセリフは氷川さんの恐怖と悲壮感があったから成り立つセリフであって、誰かを取り戻すためのセリフではないかも思ったため、変えました。
サブタイトルの「涙には戻らない」ですが、これはアギトの後期OPの歌詞から引用しました。選んだ理由としては、僕はこの一節の意味をずっと考えてたんですが、後に続く「僕らには、相応しい時があるだろう」の一節も考えると、この歌詞の意味は「泣いてた過去に戻らなくていいよ。笑顔が相応しい時が来るよ。」という意味なのではと解釈し、今回サブタイトルに選びました。
後、原作でシャイニングフォームはドラゴンボールみたいな戦闘しないし、シャイニングカリバーをソードビットみたいにはしないんですが、圧倒的な強さを見せつけたかったのと、「カリバーをソードビットみたいにしたらカッコいいんじゃね?」と思い、あの展開にしました。
次回、長かった急章のエピローグです!