ロイド達とアギト達の活躍により、元の姿に戻ったアーニャは日常に戻っていた。
学校に登校し、いつも以上に笑顔を見せていた。
「アーニャちゃん、最近よくニコニコしてるわね。」
「えへへ……」
ベッキーに尋ねられたアーニャはニコニコ笑っていた。
アーニャは喜んでいた。元の日常に戻れたことに。
その時、アーニャの視界にダミアンの姿が写った。姿を見て、アーニャは席を立った。
「じなん!」
「お、おう……なんだよ?」
突然呼びかけられ、ドキドキしながらもダミアンはアーニャの方を向いた。
「このまえは、たすけてくれてあざざますっ!」
「うっ……!」
アーニャはペコリと一礼すると、ニコッと可愛らしい笑顔を浮かべた。するとダミアンはその可愛らしさにやられたのか、さらにドキドキと胸が高鳴った。
(か、かわいい……!)
「フ、フンッ……べ、別に助けたかったワケじゃ……」
ダミアンは照れ隠しでぷいっとそっぽを向こうとした。すると、アーニャは照れるダミアンに近づき……頬にちゅっとキスをした。
『!!?』
アーニャの突然の行動にベッキー、及びダミアンの周りにいたエミールとユーインは赤面しながら驚いていた。そして、キスされた当人は、一瞬何をされたのか分からなかったが、だんだんと顔を真っ赤に染めていった。
「な……な、ななななな、何してんだお前!?」
「?・・・ありがとうのチュー。」
ダミアンが何故赤面したのか分からず、アーニャは首を傾げた。
「じなんのおじ、じなんにキスしたらよろこぶいってた!」
(お、叔父さんが……?)
「あと、ぱいせんがニヤニヤしてた。」
(アニキまで……人をからかって……!)
フリッドとグリムがアーニャに入れ知恵をしたのだと思い、ダミアンは怒りを覚えると同時に喜んでもいた。
ダミアンはゴホンと息を整えながら、チラリとアーニャを流し見た。
「ま、まぁ、素直に感謝されてやるよ……な、なぁ……」
すると、ダミアンは声を上げた。勇気を振り絞って言いたいことを言おうとしている。
「こ、こ、今週の日曜……デ、デ、デ、デート、してやっても、いいけど……?」
勇気を振り絞り、ダミアンはアーニャをデートに誘おうとした。そんなダミアンを見て、ベッキー達はざわめいていた。
しかし、
「すまん、じなん!そのひはショーイチとデート!」
「………へ?」
突然の一言に、ダミアンは頭の中が真っ白になった。それと同時に、学校のチャイムが鳴り響いた。
その音を聞き、アーニャや他の生徒達は一斉に席に着き始めた。ダミアンも席に着いたが、先ほどのアーニャの一言のせいで、授業の内容が頭に入ってこなかったという。
同時に、ダミアンは思った。「相手がアギトじゃ、勝ち目ない……」と。
────────────────────────
そのころ、ロイドは「WISE」本部の指令室にいた。指令室にはロイドだけでなく、法条とフィオナの姿もあった。
「……では、辞令は以上だ。」
『はい。』
3人の目の前にはアベルがおり、アベルは3人に向けて"辞令"を下していた。3人はアーニャの暴走に密接に関わり、かつ「WISE」内部で裏切り行為を働いてしまった。辞令はその処罰でもある。
「長官……!私は納得できません!」
「以上、と言ったはずだ。」
辞令に納得がいかない法条だったが、アベルはそれを一蹴し、黙らせた。
その後3人は同時に指令室を出た。
「異動、か……」
ロイドには異動の辞令が下された。異動先は「情報伝達部」。「WISE」のスパイ達に任務を伝達したり、情報屋からの情報を渡したり、上官からの指令を伝えたりする……だけの部署。いわゆる窓際部署というものだった。
ロイドは上官であるアベルに反旗を翻した上、何も知らない他のスパイ達に暴力を振るって傷つけた。それは許されることではないが、ロイドの"黄昏"としての今までの実績を考慮した結果……と、アベルは言っていた。
「先輩が窓際族になってしまうなんて……」
「いや、いいさ。気にしてない。」
ロイドは今回の異動について、全く気にしていなかった。"黄昏"として積み上げてきた今までの実績、スパイとしてのプライド、実質クビの状態になっても、その全てがなくなってしまっても気にしなかった。
むしろ、今回の辞令を
「家族と一緒にいられる時間が増える。それだけで俺は満足だ。」
確実に増えた家族との時間……それがロイドにとって一番大切なことだった。
そんなロイドを見て、フィオナは「変わった」と思っていた。かっこよくて、自分が憧れていた先輩が、今はまるでただの良い父親に見えていた。
「お前のが一番マシかもな。謹慎処分だろ。」
「はい。」
フィオナに下された辞令は、一カ月の謹慎だった。ロイドと同じく、裏切り行為を働き、他のスパイ達に暴力を振るった。しかし、それはロイド……"黄昏"に命令されて仕方なく行った行為である、と処理された。
だが、それで処罰なしでは他の構成員達に示しがつかないため、謹慎という形で辞令が下った。
「休みをもらったと思って、思い切り羽を伸ばします。」
「フリッドと仲良くな。」
「別に、アイツはどうでもいいです。」
ロイドの言葉に、フィオナは否定的なことを言った。しかし心の中では少し嬉しく思っていた。
任務続きでフリッドとともにいる時間が短くなっていたため、今回の謹慎で一緒にいられる時間が長くなる、と思っていた。
その時だった。ドンッ!と殴るような音が後ろから聞こえてきた。二人は後ろを向くと、そこには壁を殴って二人を見つめる法条の姿があった。
「納得いきません……!こんな結果、納得できません!」
法条に下った辞令は、左遷だった。東国よりも東の国……東洋への左遷が決まった。
法条自体は裏切り行為をしていないが、アーニャと翔一をさらったのは、法条の独断行動によるものだった。アベルから翔一とアーニャがアギトであることを聞き、法条はこれを黄昏を越えるためのチャンスだと思った。
しかし結果として大失敗に終わり、独断専行がバレた法条は左遷が下った。
しかし、法条が気に食わなかったのは左遷のことではなかった。
「あなた、往生際が悪いわよ。左遷が気に食わないからって……」
「そんなことどうだっていいんですよ!」
怒る法条を窘めようとするフィオナに、法条は声を荒げた。そしてロイドの方を睨みつけた。
「黄昏……!あなたが窓際族……?そんなこと、認めませんよ!」
「は・・・?」
ロイドは声を上げた。それもそのはず、法条は何度かロイドのことを敵視していた。
ならば、ロイドが窓際部署に異動したのは法条にとって喜ばしいことのはずだった。
「私は……!この『WISE』
法条は叫んだ。ロイドはその誉めてるのかけなしているのか分からない叫びを聞いて、ポカンとしていた。しかし、法条は続けて言った。
「前にも言いましたよね……私は前からあなたが気に入らなかった!兵隊上がりの分際で、組織最高のスパイに成り上がったあなたをね!私は誓ったんですよ……最高のスパイであるあなたを、陥れ、蹴落とし、見下し、地に這いつくばらせる!!その時こそ、私はあなたに勝ったと言えるんだ!!」
法条は今まで隠し持っていた本心を赤裸々に叫んだ。それを聞いた二人は、何故法条がロイドを敵視していたのかを理解した。法条はただ単にロイドを敵視していたのではなく、ライバル視していたのだ。
エリートである自分とは違って、兵隊から成り上がったロイドをいつか叩きのめすため、策を講じてきたのだろう。
イーデン校の教頭に就任したのも、フリッドを罠にはめて捕えようとしたのも、西国の技術を東国に渡してG-3Xを完成させたのも、アーニャと翔一を攫ったのも、全ては"黄昏"というライバルを越えるため……
(………めんどくさっっっ!!この男!!)
法条の本心を聞き、それを理解したフィオナは法条をめんどくさい男だと思い、心の中で叫んだ。
しかし、それとは逆にロイドは微笑んでいた。
「ありがとう、法条。」
「?」
「ライバルでいようとしてくれて。」
「黄昏……」
ロイドは今、自分が抱いているこの感情をどう表現していいか分からなかった。しかし、自分をライバル視し、最後までライバルでいようとしてくれた法条に感謝したいと思っていた。さらに言えば、自分と家族との時間を増やしてくれたのは、法条のおかげでもあると思ったのだ。
ロイドの言葉を聞いた法条は、怒りが収まったのかスンとした態度に戻り、背を向けた。
「……私は戻ってきますよ、この場所に。いずれ……あなたを越えます。」
「ああ……待ってるぞ。」
「さらばです。……ロイド・フォージャー。」
法条はその場から立ち去った。ロイドを、黄昏ではなく、ロイド・フォージャーと呼んで。
それを聞いたロイドはフッと笑い、同じく背を向け、その場を後にした。
────────────────────────
夕方、ロイドは駅前の広場にいた。そこに……
「ロイドさん!」
「ヨルさん。」
仕事帰りのヨルが駅から出てきて、ロイドの元に駆け寄ってきた。二人が互いに顔を見合わせたかと思うと、苦笑いを浮かべた。
「あはは……俺、窓際族になっちゃいました。」
「私も……殺し屋、クビになっちゃいました。」
実はヨルの方でも、「ガーデン」の店長から処罰が下されていた。ヨルは組織ではなく自身の家庭を優先し、その結果組織の協力者であるアベル及び「WISE」に危害を加えた。その結果、ヨルは長年働いてきた「ガーデン」をクビになった。
「そうでしたか……でも、ヨルさんは最高戦力ですよね?大丈夫なんですか?」
ヨルは「ガーデン」の最高戦力。それをクビにするのは「ガーデン」にとって痛手のはずだった。すると、ヨルは言った。
「グリム君が私の後釜になるって言ったんです。」
「アイツが?」
「はい。グリム君、張り切ってました。」
「そうですか。」
ロイドはフッと笑った。ロイドは気づいていた。グリムが何故後釜をかって出たのか。それは好意を寄せているヨルに尽くしたいからに他ならない。
すると、ヨルはふと思いつめたような顔をした。
「でも、ロイドさん……今まで国のために頑張ってきたのに……」
ヨルはロイドが窓際になったことを気にしているようだった。しかし、ロイドは心配をかけまいと笑い、ヨルの肩に手を回して自分の方に引き寄せた。
「いいんですよ、俺のことは。今は、ヨルさんと、アーニャと、ボンドと、翔一君と……みんなといられることが、大切なことなんですから。」
「ロイドさん……」
ロイドのその一言に、ヨルは胸がキュンと熱くなり、ロイドの手をとった。
すると、ロイドはヨルの手を握った。
「少し寄り道しませんか?見せたいものがあるんです。」
そう言って、ロイドが連れていったのは公園だった。
ヨルはその公園に見覚えがあった。
「ここって……」
「はい。俺達が3人で初めて一緒にでかけて……その時に立ち寄った公園です。」
そこは3人にとって思い出の場所。しかし、ヨルは何故この場に連れてこられたのか分からなかった。
すると、
「ヨルさん。」
ロイドに呼ばれ、ヨルはロイドの方を向き、互いに見つめ合った。
「俺達は、互いに肩書がなくなった人間です。でも……だからこそ、だからこそ自分の本当の気持ちと向き合います。」
ロイドはそう言うと、スーツの内ポケットから小さい箱を取り出した。
「給料一カ月分って言いますよね。これ……」
さらに続けて言うと、箱を二つに開いた。その中には同じ形をした指輪、ペアリングが入っていた。それを見た瞬間、ヨルは目を見開いた。それは、結婚指輪だった。
「今度は手榴弾のピンなんかじゃありません。本物です。ヨルさん……!」
ロイドはヨルの名を呼んだ。その顔は紅潮し、体は緊張して固くなっていた。ロイドの人生の中でこれほど緊張したことがないほどに。しかし、ロイドは勇気を振り絞った。
「あ、愛してますっ!!僕と、本物の夫婦になってください!!」
顔を真っ赤にし、ロイドは頭を下げ、同時に指輪を差し出した。顔から火が出そうなほど赤面した。告白がこんなにも恥ずかしく、ドキドキするものだとは予想していなかった。
すると、グスッグスッと涙ぐむような声が聞こえてきた。ロイドは頭を上げると、そこには涙を流して泣きじゃくっているヨルがいた。
「ヨ、ヨルさん!?ど、どうしたんですか!?」
(な、何がダメだったんだ!?ま、まさか寝ている時に勝手に指のサイズ測ったのを怒っているのか!?いや……もしかして指輪のデザインがダメだったのか!?)
「す、すいませんでした!もっと慎重になるべきでした!指輪も……二人で一緒に選んで……!!」
ロイドはヨルが何故泣き出したのか分からず、うろたえた。とにかく謝ろうと頭を何度も下げた。
すると、ヨルは何度も首を横に振った。
「違うんです……!私、嬉しくて……!殺し屋から足を洗って、好きな人と一緒にいて、一緒に暮らせる日がくるなんて思いませんでしたから……!」
「ヨルさん……」
「もう、私……ここで死んでもいいです……」
ヨルにとって、今のこの時間はかけがえのないものだろう。愛している人から告白され、指輪を渡される……これ以上ないほどに、死んでも悔いがないほどに喜ばしいことだった。
その時、ロイドは泣きじゃくるヨルを抱きしめた。
「やめてください……死ぬなんて、死んでもいいなんて言わないでください!」
ロイドは叫び、より一層強く抱きしめた。
「一緒に生きてください!一緒に長生きしましょう!病気に気を付けて、食事も野菜中心の健康的な食事にして、腹八分目にして、事故にも気を付けて……年寄りになっても、ずっと……ずっと、ずっと、ずっと……一緒に生きましょう。」
「はい……!」
ロイドも一緒に泣きじゃくっていた。泣きじゃくりながらヨルに語り掛けた。それを聞いたヨルは泣きながらも笑顔を浮かべ、ロイドを抱きしめ返した。
そして、
「ロイドさん、愛してます。」
「ありがとう、ヨルさん。」
二人は互いの愛を確認し合い、互いの唇を重ね合わせた。
その時、景色は黄金色に輝く黄昏時から、優しい暗闇が包む夜へと変わっていった……
────────────────────────
二人は家路に着き、愛する家族が待つ我が家へ戻った。
「ただいま。」
「ただいま帰りました!」
二人は笑顔で家のドアを開け、中に入った。
「ちち、はは!おかえり!」
「おかえりなさい!」
「ボフッ!」
翔一とアーニャが笑顔で出迎え、「おかえり」と言うようにボンドが吠えた。
その後、ロイドとヨルは自分達が本職をクビになったことを伝えたと同時に、「本物」になったことを伝えた。
アーニャは喜び、翔一は嬉しさのあまり泣いていた。聞けば、翔一はずっとこんな日が来ることを望んでいたらしい。
いつか二人が、否、3人が本物の家族になることを。
それを聞いた3人は、アーニャは翔一に抱きつき、ヨルはその二人を覆うように抱きしめ、ロイドはさらにその上から3人を抱きしめた。ボンドも翔一の涙を拭うように顔を舐めた。
「よかった……!ホントによかったです……!」
「ありがとう、翔一君……!!」
東国に一つの家族があった。父、ロイド・フォージャー…職業・スパイ、母、ヨル・フォージャー…職業・殺し屋。娘、アーニャ・フォージャー…超能力者。ペット、ボンド・フォージャー…同じく超能力者。居候、津上翔一…仮面ライダーアギト。
最初は互いの目的のためだった。だが、彼らは次第にお互いを愛し合い……共に煎られ、揺られ、踏まれながらも……その果てに手に入れた。
スパイ、殺し屋としての職も、プライドも、立場も失った。その果てに彼らが手に入れたもの……それは、「本物の家族」だった。
「SPY×AGITΩ」
急章「進化を続ける閃光」完
おまけ「告知」
「た、大変ですよみなさん!」
翔一は大慌てで皆の元に駆け付けた。
「どうしたんだ?」
「聞いてください!この『SPY×AGITΩ』……後日談が制作されるらしいですよ!!」
『な、なんだってー!』
翔一の言葉に、皆は一様に驚いていた。
「ほ、本当なのかよ先輩!」
「うん!しかもその後日談……昭和・平成・令和……それぞれの世代のライダーが一人ずつゲスト参戦するらしいよ!」
『おおおおおおおおっ!!』
皆は声を上げ、さらに盛り上がっていた。そんな中、ロイドは不安そうになっていた。ロイドは知っていた。その後日談の重大な事実を……
(こんな盛り上がってる中で・・・い、言えない!制作側が、別枠でその後日談を作るかどうか迷ってるなんて……)
果たしてどうなる?後日談……
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ようやく終わりましたね、急章……ロイドとヨルさんの結末ですが、二人は今まで通り本職を続けさせようとも思ったんですけど、二人は今まで頑張ってきたんだし、別の人生を歩ませてもいいんじゃないかと思ったんです。
サブタイトルもそこから引っ張られまして……サブタイトルの一文はアギトだけじゃなく、スパイファミリー的にも合っていると思って選びました。
それから後日談についてですが……この作品とは別枠として制作するか検討中です。
今作の方はタグに「ロイヨル」ってついてるんですけど、後日談の方はロイヨル要素が全然ないので……
後日談は別枠でやるべき?
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ロイヨル要素ないなら別枠で
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別に別枠じゃなくていい