SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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第59話「決戦前夜(後編)」

 

「ロイドさん!ヨルさん!」

「ちちっ!ははっ!」

 

急いで家へと戻った翔一とアーニャは大声で叫んだ。

 

「翔一君、アーニャ!戻ってきたか……」

 

二人が戻ってきたのを見て、ロイドとヨルは安心したようにため息をついた。

その二人の後ろには、フリッド、ユーリ、グリムの姿があった。

 

「3人とも!来てたんですか!・・・ってことは、テレビを見たんですか?」

「ああ……それにしても、とんでもないことになりそうだな……」

「あの野郎……どう考えても宣戦布告だぜ、ありゃあ!」

 

舌打ちを鳴らすグリムに対し、ユーリは落ち着いた口調で口を開いた。

 

「今、保安局でもそのことで持ち切りになってる。会議をしてるみたいだけど、大方、市民の避難誘導と歩兵の出動が予想されるって噂だけど……」

「歩兵だけじゃダメだ!いや……たとえ戦車や戦闘機が導入されても……奴らは倒せない。」

 

ロイドの言う通りだった。現に皆は知っている。アンノウンの、黒テオスの圧倒的な力……人知を超えた神の力……そこにいくら軍隊がかかっていっても、敵わない。

そう思わせてしまうほどの力だ。

 

「このままじゃ、東国と西国は……いや、世界中が滅亡する。」

 

最強のアギト・シャイニングフォームですら勝てなかった。絶望感に苛まれるのも無理はない。しかし、まだ希望は一つだけ残されていた。

 

「大丈夫です!賢者の石(ワイズマン・モノリス)が……ソニアさんが遺してくれたものがあります!」

 

翔一の言葉通り、ソニアが遺してくれたアギトの力の元ともいえる石……賢者の石(ワイズマン・モノリス)があった。アーニャはポケットからその石を取り出した。

 

「……だったな。」

「その石には、まだ力があるように感じる……きっとそれが勝利の鍵になるはずだ。」

 

石は粉々に砕けていたが、その中にはまだ未知なる力が秘められているように感じた。少なくとも、翔一、アーニャ、フリッド、グリム…アギトの力を持つ者には確かに感じていた。

 

「明朝って・・・言ってましたよね。」

「ああ、決戦は明日の朝だ……」

「泣いても笑っても、これが最後の大喧嘩だ……!」

「よーし……じゃあみんなでご飯食べましょう!」

 

皆が決戦へ意気込む中、翔一はいきなり素っ頓狂なことを言い始めた。

それを聞いたみんなは気が抜けたようにガクッと首を傾げた。

 

「つーがーみぃー……!!」

「先輩よぉ……」

「津上君……」

「翔一君……」

「翔一さん……」

「ショーイチ……」

 

突拍子もないことを言ってきた翔一に、皆は冷たい目を向けた。

すると、翔一は寂しそうな表情を見せた。

 

「だって……これでみんなとご飯食べるのも、最後かもしれませんから……」

「最後……」

 

「最後」、それを聞いて、皆は黙り込んだ。

それもそのはず、アンノウンとの戦いが終われば、必然的に翔一は元の世界に帰らなければならないからだ。元の世界に、翔一の帰りを待つ人達がいるはず・・・そう考えると、この世界にとどめておく理由はない。

 

「・・・わかった。みんなでご飯にしよう。」

 

すると、ロイドは微笑みながら翔一の言うことを承諾した。それを聞いて翔一は嬉しそうに笑った。

 

「ありがとうございます!じゃあ俺、腕によりをかけますから!」

「俺も作るよ、翔一君。」

 

翔一とロイドはさっそくエプロンを身に着け、台所に向かった。

 

「じゃあ私、買い出しに行ってきますね!」

「あ、僕も行くよ姉さん!」

「俺も行きましょう。荷物持ちします!」

 

ヨル、ユーリ、フリッドの3人は食材の買い出しに向かい、

 

「えっと、じゃあ俺どうすっかな……」

「グリムはアーニャの面倒を見てくれ。」

「ぱいせん、あいてしてやる。」

「うっせ、クソガキ。」

 

グリムはアーニャの子守りを始めた。

 

────────────────────────

 

「それじゃ……」

『いただきまーす!』

 

時間が経ち、料理が完成し、皆は食卓につき、翔一とロイドの手料理を食べ始めた。

ロイド達の、アギトの会の最後の食事会だ。

 

「うーん、やっぱ美味いな!先輩の飯!」

「ロイド君も負けちゃいないが……津上君のは格別だな!」

「へへっ、今日はとことん腕によりをかけましたから!最後の翔一スペシャルです!」

 

その時、皆の食事の手が止まった。「最後の翔一スペシャル」・・・それを聞いて、これで翔一の作る料理が食べられなくなるという事実に、皆は寂しさが募った。

 

「……先輩。」

 

その時、グリムが声を上げた。

 

「もう言えないかもしれないから、言っとくぜ。津上先輩……俺、もう少し早く会いたかった。アンタみたいな人が傍にいたら……俺も何か変わったのかもしれない。」

「グリム……うん、ありがとう。俺、グリムに先輩って呼ばれたの嬉しかった。俺、後輩がいた記憶なかったし。」

 

グリムは自身の翔一への想いを語った。それに礼を言いながら、翔一も想いを語った。

すると、グリムに続くように、フリッドも口を開いた。

 

「津上君……君に会えてよかった。まるで、弟ができたみたいで楽しかった。」

「フリッドさん……ありがとうございます。俺も、お兄ちゃんができたみたいで楽しかったです。アギトの会・・・後を任せます。」

 

フリッドは何も言わず、コクリと頷いた。翔一の言葉を、託されたものをしっかりと噛みしめた。

つづいて、ユーリが口を開いた。しかし、その声は涙ぐんでいた。

 

「津上……!僕は、僕はもっと早くお前と……!!」

「ユーリさん……分かってます。分かってますから……」

 

言えなかった。翔一に「もっと早くお前と仲良くすればよかった」と言えなかった。こんなに早く別れが来るとは思わず、ユーリは激しく後悔していた。そのせいで涙がこぼれてくる。必死に抑えようとしても流れてくる。

すると、それに感化されてヨルも泣き始めた。

 

「翔一さん……!翔一さんには、いっぱい笑顔をもらいました……本当に、いっぱい、いっぱい……!」

「俺も、ヨルさんから笑顔をもらいました……ヨルさんの笑顔、大好きです!」

 

翔一は満面の笑みを浮かべた。それにつられて、ヨルも泣きながらも笑みを浮かべた。

ヨルに続くようにロイドも微笑みを浮かべた。

 

「翔一君、君に会えてよかった……今の俺達があるのは、今のこの生活があるのは……君のおかげだ。ありがとう、翔一君。」

「ロイドさん……俺も、ロイドさん達に会えてよかったです。」

 

翔一の言葉を聞き、ロイドはコクリと頷いた。すると、ロイドはアーニャの方に顔を向けた。

 

「アーニャ、翔一君に何か言いたいことはあるか?」

「………」

 

アーニャは何も言わなかった。否、言いたいことはたくさんあった。しかし、これで最後だと思うと、言葉が詰まって、何も言えなくなっていた。

すると、アーニャの心情を察し、翔一は頭を優しく撫でた。

 

「いいんだよ、アーニャちゃん。無理して言わなくて。気持ちはちゃんと伝わってるから。」

「ショーイチ……」

 

翔一のやさしさに、アーニャは泣きそうになった。しかし、それをグッとこらえ、さらにスーッと息を吸って、アーニャは叫んだ。

 

「ショーイチ!」

「うん?」

「ア、アーニャ!おっきくなったら、ショーイチのおよめさんになるっ!!」

『ブッ!!?』

 

アーニャは突然突拍子もないことを大声で言い始めた。それを聞いたロイドとユーリは、飲もうとした水を思わず噴き出した。

対し、自分で言ってて恥ずかしくなったのか、アーニャは今まで見たことがないほど顔が真っ赤になっていた。

 

「本当に!?ありがとう~、アーニャちゃん!じゃあ俺……待ってるから。」

「う、うぃっ!」

 

翔一とアーニャは指切りを交わした。果たされる約束かは分からない。しかし、いつの日か……

二人のやり取りを見て、ヨル、フリッド、グリムは微笑ましく見守っていた。対し、ロイドとユーリは慌てていた。

 

「ま、待て待て待て!聞き捨てならないぞ今のは!!俺は許さんぞ、アーニャ!」

「そ、そうだ!こんなプータローと結婚なんて許さんぞ!!」

「こら、ユーリ!翔一さんに対して失礼でしょ!」

「なーんで姉さんはこいつに甘いんだよぉ!!」

 

先ほどまで微笑んでいたヨルだったが、ユーリの暴言を見かねて叱り始めた。

ヨルに続くように、フリッドとグリムが口を開く。

 

「まぁまぁ、子どもの言うことじゃないか。目くじら立てないで……」

「つーか、ロイドのおっさんはともかく、お前が目くじら立てる必要ないだろ。まさか……うっわ……」

 

すると、グリムは突然ユーリを引き始めた。

 

「お前……まさかロリコンか?シスコンな上にロリコンとか……引くわぁ」

「だ、誰がロリコンだ!お前に言われたくないんだよ!!人の姉さんをいやらしい目で見やがって!!」

「だ、誰がいやらしく見てるってんだ!?このシスロリコンがっ!!」

「このクソチビが!!」

 

二人は言い争いを始め、しまいには互いの胸倉をつかみ始めた。

と、その時……

 

「喧嘩はやめなさーーーいっ!!」

『ぐほぉっ!!!』

 

ヨルの叫びとともに拳が飛び、二人の頬に炸裂した。

殴り飛ばしされた二人は、そのまま壁に激突した。

 

「みにくいあらそい……」

 

殴られた二人を見て、アーニャは冷たくじっとりとした表情になっていた。

それを見かねた二人は叫んだ。

 

『お前が変なこと言うからだろうが!!』

 

その瞬間、食卓に笑いがこだました。翔一は、この瞬間を心に刻みつけた。

この瞬間だけではない。この世界でできた思い出ひとつひとつが、心の隅々まで色鮮やかにきらめいている。

優しくなだめた日も、嬉しくて泣いた日も、心の中に書き足されていく。いつまでも、ずっと……

 

────────────────────────

 

明朝……

 

「じゃあ、俺、行きます。」

 

食事会を終えたメンバー達は自分達の家に戻り、明朝までの準備を整えた。そして現在、翔一は最後の戦いに向かうため、マンションの入り口前に停めたバイクの元にいた。そこにはロイド達もいた。

 

「すまない、翔一君……本当は俺達も手伝ってやりたいが……」

「いいんですよ。その代わり、二人は避難所を守ってください。もし、俺達が負けた時……避難した人達を守れるのは、ロイドさんとヨルさんだけです。」

 

ロイド達は避難の準備を終えていた。避難場所に指定されたのはイーデン校……イーデン校ならば施設も広く、食料もある。さらにそこには東国の軍隊が警備をするらしい。

しかし、万が一ということもある。だからこそ、翔一は二人に避難所を守るように言ったのだ。

二人は納得し、コクリと頷いた。

 

「じゃ、いってきます。」

 

翔一はロイド達に別れをつげ、バイクにまたがろうとした。しかしその時、アーニャが翔一の服の裾を掴んだ。

 

「アーニャちゃん……?」

「いっちゃダメ……!」

「アーニャさん……」

「アーニャ、翔一君は行かないといけないんだ。みんなを守る義務があるんだ。行かせなさい……」

 

ロイドとヨルは、アーニャが翔一と別れるのが辛いため、引き留めたのだと思っていた。

しかし、それは違った。アーニャには、危惧していることがあった。それは、ボンドが視た未来予知……白のアギト、ミラージュアギトが翔一を串刺しにしてしまう未来……

 

「ショーイチ、しんじゃヤダ……!」

 

アーニャは涙を流し始めた。

 

「しんだショーイチ、みたくない!ずっと、ずっと……ずっといっしょにいたい……!」

「アーニャちゃん……」

 

翔一は泣くアーニャを見かね、アーニャの前で膝をついた。かと思うと、突然何も言わずにアギトへと変身した。

そして、アーニャを抱きしめた。

 

「ありがとう、アーニャちゃん。アーニャちゃんは本当にいい子だね。心配してくれて……でも大丈夫!俺は絶対帰ってくるから。」

 

アギトはアーニャを抱きしめ、頭を撫でながら語った。すると、アギトの声がだんだん震えてきた。

 

「だから……!もう……行かなきゃ……!」

 

その瞬間、ロイドとヨルは涙を流した。なぜ翔一が突然何も言わずに変身したのか、最初は理解できなかった。しかし、震える声を聞いて、全てを理解した。

 

そして、アギトはアーニャから離れ、バイクにまたがりエンジンをかけた。そしてそのままバイクを走らせた……

 

「翔一さんっ!!」

 

ヨルは咄嗟に道路に飛び出し、走り去ったアギトの後ろ姿を見送った。そして、今までで一番大きい声で叫んだ。

 

「……絶対に……!!絶対に戻ってきてくださいっ!!翔一さーーーーーんっ!!!」

 

翔一は、アギトは、仮面ライダーは行く。

愛する者の生きる世界を、笑う未来を……大切な者達の今日を、明日を、夢を、声を守るため……全ての涙を止めるために。

それ以外に理由はいらない。仮面ライダーは戦う。悲しみの涙は、仮面の下に隠して……

 

 




おまけ「根に持つタイプ」

「フリッド、フィオナの奴は来なかったのか?」

食事会には、フィオナの姿がなかった。そのことをロイドはフリッドに尋ねた。

「ああ、なんか……『そこまで津上翔一に思い入れないし、むしろ嫌いだから行かない。』って言っててな……」
「そ、そうか……」
(前のテニスでの一件(※)、まだ怒ってるのか……)

※第17話参照

――――――――――――――――

「ショーイチのおよめさんになるっ!」
このセリフの下りは、最初入れる予定はありませんでしたが、なんといいますか・・・無邪気な子供らしさを出したかったので……

それから、流れる涙を仮面で隠す・・・という展開は、前々からやりたかったのです。それこそ、この作品を公開したその日から。
仮面で涙を隠す、というのは全ての仮面ライダーに共通するものだと思ってますので……

さて、いよいよ次回、最終決戦の幕開けです!

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