「ロイドさん!ヨルさん!」
「ちちっ!ははっ!」
急いで家へと戻った翔一とアーニャは大声で叫んだ。
「翔一君、アーニャ!戻ってきたか……」
二人が戻ってきたのを見て、ロイドとヨルは安心したようにため息をついた。
その二人の後ろには、フリッド、ユーリ、グリムの姿があった。
「3人とも!来てたんですか!・・・ってことは、テレビを見たんですか?」
「ああ……それにしても、とんでもないことになりそうだな……」
「あの野郎……どう考えても宣戦布告だぜ、ありゃあ!」
舌打ちを鳴らすグリムに対し、ユーリは落ち着いた口調で口を開いた。
「今、保安局でもそのことで持ち切りになってる。会議をしてるみたいだけど、大方、市民の避難誘導と歩兵の出動が予想されるって噂だけど……」
「歩兵だけじゃダメだ!いや……たとえ戦車や戦闘機が導入されても……奴らは倒せない。」
ロイドの言う通りだった。現に皆は知っている。アンノウンの、黒テオスの圧倒的な力……人知を超えた神の力……そこにいくら軍隊がかかっていっても、敵わない。
そう思わせてしまうほどの力だ。
「このままじゃ、東国と西国は……いや、世界中が滅亡する。」
最強のアギト・シャイニングフォームですら勝てなかった。絶望感に苛まれるのも無理はない。しかし、まだ希望は一つだけ残されていた。
「大丈夫です!
翔一の言葉通り、ソニアが遺してくれたアギトの力の元ともいえる石……
「……だったな。」
「その石には、まだ力があるように感じる……きっとそれが勝利の鍵になるはずだ。」
石は粉々に砕けていたが、その中にはまだ未知なる力が秘められているように感じた。少なくとも、翔一、アーニャ、フリッド、グリム…アギトの力を持つ者には確かに感じていた。
「明朝って・・・言ってましたよね。」
「ああ、決戦は明日の朝だ……」
「泣いても笑っても、これが最後の大喧嘩だ……!」
「よーし……じゃあみんなでご飯食べましょう!」
皆が決戦へ意気込む中、翔一はいきなり素っ頓狂なことを言い始めた。
それを聞いたみんなは気が抜けたようにガクッと首を傾げた。
「つーがーみぃー……!!」
「先輩よぉ……」
「津上君……」
「翔一君……」
「翔一さん……」
「ショーイチ……」
突拍子もないことを言ってきた翔一に、皆は冷たい目を向けた。
すると、翔一は寂しそうな表情を見せた。
「だって……これでみんなとご飯食べるのも、最後かもしれませんから……」
「最後……」
「最後」、それを聞いて、皆は黙り込んだ。
それもそのはず、アンノウンとの戦いが終われば、必然的に翔一は元の世界に帰らなければならないからだ。元の世界に、翔一の帰りを待つ人達がいるはず・・・そう考えると、この世界にとどめておく理由はない。
「・・・わかった。みんなでご飯にしよう。」
すると、ロイドは微笑みながら翔一の言うことを承諾した。それを聞いて翔一は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます!じゃあ俺、腕によりをかけますから!」
「俺も作るよ、翔一君。」
翔一とロイドはさっそくエプロンを身に着け、台所に向かった。
「じゃあ私、買い出しに行ってきますね!」
「あ、僕も行くよ姉さん!」
「俺も行きましょう。荷物持ちします!」
ヨル、ユーリ、フリッドの3人は食材の買い出しに向かい、
「えっと、じゃあ俺どうすっかな……」
「グリムはアーニャの面倒を見てくれ。」
「ぱいせん、あいてしてやる。」
「うっせ、クソガキ。」
グリムはアーニャの子守りを始めた。
────────────────────────
「それじゃ……」
『いただきまーす!』
時間が経ち、料理が完成し、皆は食卓につき、翔一とロイドの手料理を食べ始めた。
ロイド達の、アギトの会の最後の食事会だ。
「うーん、やっぱ美味いな!先輩の飯!」
「ロイド君も負けちゃいないが……津上君のは格別だな!」
「へへっ、今日はとことん腕によりをかけましたから!最後の翔一スペシャルです!」
その時、皆の食事の手が止まった。「最後の翔一スペシャル」・・・それを聞いて、これで翔一の作る料理が食べられなくなるという事実に、皆は寂しさが募った。
「……先輩。」
その時、グリムが声を上げた。
「もう言えないかもしれないから、言っとくぜ。津上先輩……俺、もう少し早く会いたかった。アンタみたいな人が傍にいたら……俺も何か変わったのかもしれない。」
「グリム……うん、ありがとう。俺、グリムに先輩って呼ばれたの嬉しかった。俺、後輩がいた記憶なかったし。」
グリムは自身の翔一への想いを語った。それに礼を言いながら、翔一も想いを語った。
すると、グリムに続くように、フリッドも口を開いた。
「津上君……君に会えてよかった。まるで、弟ができたみたいで楽しかった。」
「フリッドさん……ありがとうございます。俺も、お兄ちゃんができたみたいで楽しかったです。アギトの会・・・後を任せます。」
フリッドは何も言わず、コクリと頷いた。翔一の言葉を、託されたものをしっかりと噛みしめた。
つづいて、ユーリが口を開いた。しかし、その声は涙ぐんでいた。
「津上……!僕は、僕はもっと早くお前と……!!」
「ユーリさん……分かってます。分かってますから……」
言えなかった。翔一に「もっと早くお前と仲良くすればよかった」と言えなかった。こんなに早く別れが来るとは思わず、ユーリは激しく後悔していた。そのせいで涙がこぼれてくる。必死に抑えようとしても流れてくる。
すると、それに感化されてヨルも泣き始めた。
「翔一さん……!翔一さんには、いっぱい笑顔をもらいました……本当に、いっぱい、いっぱい……!」
「俺も、ヨルさんから笑顔をもらいました……ヨルさんの笑顔、大好きです!」
翔一は満面の笑みを浮かべた。それにつられて、ヨルも泣きながらも笑みを浮かべた。
ヨルに続くようにロイドも微笑みを浮かべた。
「翔一君、君に会えてよかった……今の俺達があるのは、今のこの生活があるのは……君のおかげだ。ありがとう、翔一君。」
「ロイドさん……俺も、ロイドさん達に会えてよかったです。」
翔一の言葉を聞き、ロイドはコクリと頷いた。すると、ロイドはアーニャの方に顔を向けた。
「アーニャ、翔一君に何か言いたいことはあるか?」
「………」
アーニャは何も言わなかった。否、言いたいことはたくさんあった。しかし、これで最後だと思うと、言葉が詰まって、何も言えなくなっていた。
すると、アーニャの心情を察し、翔一は頭を優しく撫でた。
「いいんだよ、アーニャちゃん。無理して言わなくて。気持ちはちゃんと伝わってるから。」
「ショーイチ……」
翔一のやさしさに、アーニャは泣きそうになった。しかし、それをグッとこらえ、さらにスーッと息を吸って、アーニャは叫んだ。
「ショーイチ!」
「うん?」
「ア、アーニャ!おっきくなったら、ショーイチのおよめさんになるっ!!」
『ブッ!!?』
アーニャは突然突拍子もないことを大声で言い始めた。それを聞いたロイドとユーリは、飲もうとした水を思わず噴き出した。
対し、自分で言ってて恥ずかしくなったのか、アーニャは今まで見たことがないほど顔が真っ赤になっていた。
「本当に!?ありがとう~、アーニャちゃん!じゃあ俺……待ってるから。」
「う、うぃっ!」
翔一とアーニャは指切りを交わした。果たされる約束かは分からない。しかし、いつの日か……
二人のやり取りを見て、ヨル、フリッド、グリムは微笑ましく見守っていた。対し、ロイドとユーリは慌てていた。
「ま、待て待て待て!聞き捨てならないぞ今のは!!俺は許さんぞ、アーニャ!」
「そ、そうだ!こんなプータローと結婚なんて許さんぞ!!」
「こら、ユーリ!翔一さんに対して失礼でしょ!」
「なーんで姉さんはこいつに甘いんだよぉ!!」
先ほどまで微笑んでいたヨルだったが、ユーリの暴言を見かねて叱り始めた。
ヨルに続くように、フリッドとグリムが口を開く。
「まぁまぁ、子どもの言うことじゃないか。目くじら立てないで……」
「つーか、ロイドのおっさんはともかく、お前が目くじら立てる必要ないだろ。まさか……うっわ……」
すると、グリムは突然ユーリを引き始めた。
「お前……まさかロリコンか?シスコンな上にロリコンとか……引くわぁ」
「だ、誰がロリコンだ!お前に言われたくないんだよ!!人の姉さんをいやらしい目で見やがって!!」
「だ、誰がいやらしく見てるってんだ!?このシスロリコンがっ!!」
「このクソチビが!!」
二人は言い争いを始め、しまいには互いの胸倉をつかみ始めた。
と、その時……
「喧嘩はやめなさーーーいっ!!」
『ぐほぉっ!!!』
ヨルの叫びとともに拳が飛び、二人の頬に炸裂した。
殴り飛ばしされた二人は、そのまま壁に激突した。
「みにくいあらそい……」
殴られた二人を見て、アーニャは冷たくじっとりとした表情になっていた。
それを見かねた二人は叫んだ。
『お前が変なこと言うからだろうが!!』
その瞬間、食卓に笑いがこだました。翔一は、この瞬間を心に刻みつけた。
この瞬間だけではない。この世界でできた思い出ひとつひとつが、心の隅々まで色鮮やかにきらめいている。
優しくなだめた日も、嬉しくて泣いた日も、心の中に書き足されていく。いつまでも、ずっと……
────────────────────────
明朝……
「じゃあ、俺、行きます。」
食事会を終えたメンバー達は自分達の家に戻り、明朝までの準備を整えた。そして現在、翔一は最後の戦いに向かうため、マンションの入り口前に停めたバイクの元にいた。そこにはロイド達もいた。
「すまない、翔一君……本当は俺達も手伝ってやりたいが……」
「いいんですよ。その代わり、二人は避難所を守ってください。もし、俺達が負けた時……避難した人達を守れるのは、ロイドさんとヨルさんだけです。」
ロイド達は避難の準備を終えていた。避難場所に指定されたのはイーデン校……イーデン校ならば施設も広く、食料もある。さらにそこには東国の軍隊が警備をするらしい。
しかし、万が一ということもある。だからこそ、翔一は二人に避難所を守るように言ったのだ。
二人は納得し、コクリと頷いた。
「じゃ、いってきます。」
翔一はロイド達に別れをつげ、バイクにまたがろうとした。しかしその時、アーニャが翔一の服の裾を掴んだ。
「アーニャちゃん……?」
「いっちゃダメ……!」
「アーニャさん……」
「アーニャ、翔一君は行かないといけないんだ。みんなを守る義務があるんだ。行かせなさい……」
ロイドとヨルは、アーニャが翔一と別れるのが辛いため、引き留めたのだと思っていた。
しかし、それは違った。アーニャには、危惧していることがあった。それは、ボンドが視た未来予知……白のアギト、ミラージュアギトが翔一を串刺しにしてしまう未来……
「ショーイチ、しんじゃヤダ……!」
アーニャは涙を流し始めた。
「しんだショーイチ、みたくない!ずっと、ずっと……ずっといっしょにいたい……!」
「アーニャちゃん……」
翔一は泣くアーニャを見かね、アーニャの前で膝をついた。かと思うと、突然何も言わずにアギトへと変身した。
そして、アーニャを抱きしめた。
「ありがとう、アーニャちゃん。アーニャちゃんは本当にいい子だね。心配してくれて……でも大丈夫!俺は絶対帰ってくるから。」
アギトはアーニャを抱きしめ、頭を撫でながら語った。すると、アギトの声がだんだん震えてきた。
「だから……!もう……行かなきゃ……!」
その瞬間、ロイドとヨルは涙を流した。なぜ翔一が突然何も言わずに変身したのか、最初は理解できなかった。しかし、震える声を聞いて、全てを理解した。
そして、アギトはアーニャから離れ、バイクにまたがりエンジンをかけた。そしてそのままバイクを走らせた……
「翔一さんっ!!」
ヨルは咄嗟に道路に飛び出し、走り去ったアギトの後ろ姿を見送った。そして、今までで一番大きい声で叫んだ。
「……絶対に……!!絶対に戻ってきてくださいっ!!翔一さーーーーーんっ!!!」
翔一は、アギトは、仮面ライダーは行く。
愛する者の生きる世界を、笑う未来を……大切な者達の今日を、明日を、夢を、声を守るため……全ての涙を止めるために。
それ以外に理由はいらない。仮面ライダーは戦う。悲しみの涙は、仮面の下に隠して……
おまけ「根に持つタイプ」
「フリッド、フィオナの奴は来なかったのか?」
食事会には、フィオナの姿がなかった。そのことをロイドはフリッドに尋ねた。
「ああ、なんか……『そこまで津上翔一に思い入れないし、むしろ嫌いだから行かない。』って言っててな……」
「そ、そうか……」
(前のテニスでの一件(※)、まだ怒ってるのか……)
※第17話参照
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「ショーイチのおよめさんになるっ!」
このセリフの下りは、最初入れる予定はありませんでしたが、なんといいますか・・・無邪気な子供らしさを出したかったので……
それから、流れる涙を仮面で隠す・・・という展開は、前々からやりたかったのです。それこそ、この作品を公開したその日から。
仮面で涙を隠す、というのは全ての仮面ライダーに共通するものだと思ってますので……
さて、いよいよ次回、最終決戦の幕開けです!