私の安らぎは去り、私の心は重い。
それを私が再び見つけることはない、もう二度と。
彼のいないところは、私には墓場だ。
世界中が、私にはつらい。
私の弱い頭は、狂ってしまった。
私の哀れな心は、こなごなに砕けた。
「糸を紡ぐグレートヒェン」より引用
神化教団のメンバー達が去った後、店の方では片づけが行われていた。
皆、何も言わず黙々と作業を進めている。アイゼンに開けられた穴はひとまず大きめの布で隠した。
そんな中、ヘンダーソンは壁にもたれかかり、床に直に座っていた。その様子に、普段の威厳ある風格はなく、まるで力が抜けた老人のようだった。
「せんせえ、だいじょぶますか?」
「あ、ああ・・・」
心配そうに顔を覗き込むアーニャ。ヘンダーソンは力なく返事をしながら無理やり笑顔を作った。
「あの・・・よかったら、話してもらえますか?」
「……イグニスのことをか?」
「話せば楽になるかもしれませんよ?」
「……15年前だ。」
ヘンダーソンはスッと深呼吸をすると、ゆっくりと語り始めた。
――――――――――――――――――――
私がイグニスと出会ったのは15年前……彼は私のクラスの生徒だった。
「イグニス、何か作っているのか?」
「はい!マフラーを編んでます!」
当時、イグニスは6歳だったが、編み物や裁縫が得意な子でな。取れたボタンなどもすぐに直してキレイにしてしまう。イグニスは昼休みにはよく編み物をしていた。聞けば、共働きの両親のためにマフラーを編んでいたらしい。
しかし、男が編み物・・・というのは珍しかった。それをからかう生徒も多かった。
「お前男の癖に編み物すんのかよ!」
「顔も女みたいだもんな!女が男の制服着るなよな!」
イグニスは中性的な顔立ちでな・・・遠目から見れば女子にも見えてしまうほどだ。それが原因でいじめられることもあった。
「コラ!貴様達何をやってるか!」
よく私が他の生徒達を注意したものだ。しかし、生徒からからかわれる度にあの子は泣いていた……
「グスッ・・・グスッ・・・」
「泣いてはダメだ、イグニス。お前はイーデン校の生徒だろう?胸を張っていなさい。」
「はい・・・でも・・・」
「ふむ・・・そうだ、とっておきの場所を教えてやろう。」
私はそう言って、イグニスをある場所に連れて行った。それは体育館の裏だった。
「ここなら誰にも邪魔されないだろう?」
「は、はい・・・」
「いいか、イグニス。男が編み物をするのは、確かに珍しい。だが、それは恥じることではない。それはお前の立派な個性だ。誇るべきだ。」
「誇っても・・・いいんですか・・・?」
私がうんと頷くと、イグニスは涙ながらに笑みを浮かべた。それを見て私も嬉しくなった。・・・だが、あの男がイグニスに目を付けてしまった。
「おい、貴様。男の癖に編み物をするらしいな?」
マードック・スワン……奴はイグニスのことを知り、からかってきたのだ。イグニスはマードックのことを毛嫌いしていた。面接試験の時、マードックはイグニスの両親をバカにしたのだ。それをずっと根に持っていたんだ。
「わ、悪いですか・・・?」
「なに?なんだその口の利き方は!」
イグニスの態度に腹を立てたマードックは、まだ作りかけだったマフラーを取り上げ・・・めちゃくちゃにしてしまったのだ。
「あ、ああっ・・・!そんな・・・!」
「二度とワシに盾突くな!」
イグニスは泣いた・・・だが、諦めなかった。マフラーを両親に作ってあげたい一心だったのだろう。それからマードックからの嫌がらせは続いたが、それでもイグニスは編み続けた。
私も何か手伝えないかと思い、マードックに嫌がらせをやめるように言った。だが、奴は権力を盾にし、私を脅した。私はそれに抗えなかった……そしてついに、事件は起きてしまった。
イグニスの両親が・・・事故で亡くなった。両親は工場を経営していたのが、その工場で事故が起き、二人は死んでしまった。
さらに不幸なことに、イグニスに他に親族がなく、引き取り手がいなかった。そうなると、学費を払うことができなくなり・・・自主退学を余儀なくされる。
「イグニス・・・」
私はイグニスに何か声をかけようと思った。だが、なんと声をかければいいか分からなかった。
その時、私よりも早くマードックがイグニスに話しかけた。なんとも嬉しそうに、見下しながらイグニスに向かって、こう言い放った・・・!
「マフラー、親に作ってあげられなくて残念だったなぁ?しかも自主退学・・・ハハッ!お前の人生、意味なかったな!!」
その瞬間、私は立場も忘れて怒りに任せてマードックに飛び掛かりそうになった。だが、私よりも怒りに震えていた、イグニスが・・・
「あああああああああああああああ!!!!」
イグニスは雄たけびを上げ、ポケットに入っていた裁縫用のハサミをマードックの太股に突き刺したのだ!
「があああああああああっ!!?」
「死ねェェェェェ!!」
イグニスはまた叫び、今度は腹にハサミを突き立てようとした。私は一瞬驚いたが、すぐさまイグニスを止めた。
「やめろ!!やめるんだイグニス!!」
私が呼びかけると、イグニスは視線を私の方に移した。その目は怒りに満ちていた。同時に・・・泣いていた。まるで私に訴えるかのようだった。
「どうしてこの男を止めてくれなかったのか」「この男さえいなければ、もっと早くマフラーが完成した」・・・そう言ってるようだった・・・
「イグニス・・・!」
私は思わず力が抜けた。その瞬間、イグニスは私の手から離れ、血のついたハサミを持って外へ出て行ってしまった。
「イグニスッ!戻ってきなさい!イグニスーーーーッ!!」
――――――――――――――――――――
「それからあの子の行方は分からずじまいだったが・・・まさか、宗教団体に入っていたとは・・・」
「それは・・・先生のせいじゃありませんよ。」
慰めるように、フリッドはヘンダーソンに声をかける。それに皆は頷いた。ヘンダーソンの話を聞いてから、皆の顔は暗くなっていた。しかし、一人だけ表情と態度を変えない男がいた。それはグリムだった。
「いや、アンタも悪いだろジジイ。」
「グリム!」
フンと鼻息を鳴らし、グリムはヘンダーソンに対して悪態を突き始めた。
「だってそうだろ。イグニス・・・あの鳥野郎は、アンタが助けてくれると思ってたんだろ?だったら最後まで助けてやれよ。中途半端に助けるぐらいなら、最初っから関わるんじゃねぇよ!」
「グリム!やめなさい!」
「いや、いいんだ・・・」
悪態をつくグリムに、フリッドは大声を上げて叱ろうとした。しかし、ヘンダーソンはそれを止めた。
「その少年の言う通りだ。私が・・・もっと真摯に接していれば・・・」
「ヘンダーソン先生・・・」
ヘンダーソンは力なく言うと、フラフラと立ち上がった。
すると、皆の顔を見渡し始めた。
「・・・お前達が何故教団と揉めているのか・・・それは聞かないでおく。その代わり、このことは他言無用で頼む。」
「あ、はい・・・それはもちろん。」
ヘンダーソンの言葉に、フリッドはうんと頷き答えた。ヘンダーソンは最近教頭に就任したばかり・・・今話した過去の事件が公になれば、自分の立場も危うくなるだろう。少なくとも、フリッドはそう思った。
「フォージャー、料理・・・美味だった。」
「い、いえ・・・お気をつけて。」
「待てや!」
ヘンダーソンが店を出ようとしたその時、グリムは声を上げた。
「さっきの鳥野郎の言う通りだな!アンタ腐ってるよ!」
「グリム、いい加減にしろっ!」
フリッドは怒鳴り声を上げ、グリムに掴みかかったが、グリムは構わずずかずかとヘンダーソンに近づこうとする。
そこにユーリや敬介、フランキーも加わったが、それでも近づくのをやめようとしない。
「他言無用だ・・・?真摯に接するとか言っといてそれかよ!マードックの野郎もクソだけど・・・アンタもクソだ!!自分の立場守りてぇだけの、腐った大人だよ!!俺の一番嫌いなタイプだ!!」
「・・・っ!!」
グリムのその言葉に、ヘンダーソンは顔を見せなかったが、一瞬だけ体が強張ったように見えた。図星だと思ったのか、それとも何か別の想いがあったのか・・・
「・・・失礼する。」
ヘンダーソンは一言だけ呟き、そのまま何も言わずに店を出て行った。
「二度と来るな、クソがっ!!」
「いい加減に・・・しろっ!!」
態度を変えようとしないグリムに、フリッドは制裁とばかりに顔面を殴り、グリムを床に倒した。
「あの人の気持ちも考えろ!あの人だって辛いんだ!」
「ハッ!じゃあ、あの鳥野郎の気持ちはどうなんだ?被害者はアイツだろ!」
「うっ・・・」
フリッドは言葉が詰まった。グリムの言う通り、元を言えば被害者はイグニスだ。イグニスを無視してヘンダーソンだけを贔屓するのは確かに間違いだった。
すると、ダミアンがその場に座り込んだグリムに近づいた。
「ア、アニキ・・・アニキはなんでアイツの味方するの?アイツは敵だろ!?」
「確かに敵だよ・・・でも、分かるんだよ。アイツの気持ち・・・俺も、チビの時に周りの大人に騙されてきたからな・・・」
その言葉に、皆黙り込んだ。グリムはさらに言葉を紡いだ。
「あの時、俺はアイツの攻撃を食らった……その時感じたよ。アイツの怒りや悲しみがな……心に傷を抱えて、家族も何もない人間ってのは、失うモンがない。失うものがないから、体が壊れてもいいぐらい力が入る。アイツも同じだったよ。」
グリムも心に傷を抱える人間…イグニスとは似たような境遇のためか、グリムは同情しているように見えた。
「でも…一個だけ納得いかねぇんだよな……」
「な、何が?」
「アイツ、マードックのこと毛嫌いしてんだよな?なのに、なんで同じ神化教団にいるんだ?」
確かにグリムの言う通りだった。イグニスは殺そうとするほどマードックのことを毛嫌いしている。それなのに一緒の組織にいる…なんとも奇妙だ。
――――――――――――――――――――
そのころ、アポロガイスト率いる神化教団の4人は教会に戻ってきた。
「おかえりなさいませ、アポロン様、アイゼン様、ペルラン様、グレン様。」
4人を出迎えたのは赤茶色のスーツを着た男……と思われる存在。
「Kか…出迎えとは珍しいな。」
Kと呼ばれた存在は、メタルの頭部を持ち、喋っても口が動かない…まるでロボットのようだった。加えて、動くたびにウィーンと駆動音が鳴っている。
「先ほどの喫茶店での様子を見ておりましたので。あなた方の、及びこの世界の観測が私のTaskですので。」
英単語混じりに話すKを無視し、アポロガイスト達はそのまま通り過ぎる。グレンが通り過ぎようとしたその時、Kは声を上げた。
「グレン様、私はまだ聞かされていないのですが……『炎の天使計画』とは、どういうものなのでしょうか?」
「……何故気になる?」
グレンの足が止まり、顔をKの方に向けた。
「不可解な部分がありまして……あなたはマードック様を嫌悪しています。それが何故同じ組織にいるのか、理解不能なのです。それが、以前に小耳に挟んだ『炎の天使計画』に関することなのかと思ったものですから。」
「いずれ分かるよ、K。」
――――――――――――――――――――
翌日、フリッドはいつも通りバイクに跨り、イーデン校に通勤していた。
その道中、フリッドの脳内には昨日の出来事と15年前のイグニスの事件が浮かんでいた。
(ヘンダーソン先生…大丈夫だろうか……)
本人は「大丈夫だ」と言っていたが、それでも辛そうだった。それもそうだろう。昔助けられなかった生徒が、怪しい宗教団体のメンバーとなり、しかも他のメンバーが怪物だというのだから。
そんなことを考えながら、フリッドはイーデン校にたどり着き、駐車場にバイクを停めた。その時、見慣れないトラックが停まっていることに気づいた。荷台にはポールや大き目の布などが積まれている。
(そういえば、もうすぐ文化祭だったな・・・)
フリッドはもうすぐこのイーデン校の文化祭が始まることを思い出した。
トラックの荷台の荷物を見て、文化祭に使う道具だと気づいたのだ。
(ダミアンも張り切ってたな、「大勢を呼び込める看板を作る」って・・・)
イーデン校の規則で、文化祭に出店を出せるのは高等部と中等部と決まっている。ダミアン達初等部はその手伝いやチラシやポスター、看板などの制作を担当する。
それを思い出し、フリッドは息を整えた。
(俺も手伝ってあげないとな・・・)
一生懸命作業をするダミアン達を思い浮かべながら、フリッドはニコニコ笑いながら玄関へ向かった。
「ん?」
玄関前に着くと、何やら生徒達が玄関ドアの前に集まっていた。
「みんな、おはよう!」
フリッドはにこやかに笑いながら、生徒達に朝の挨拶をした。それを聞いた生徒達は一斉にフリッドの方を向いた・・・が、そこにあったのは笑顔ではなく、冷たい、汚物を見るような目だった。
「え・・・?」
「先生、これどういうことなんですか?」
生徒の一人がドアの方を指差した。ドアには無数の紙切れが貼られていた。そこには、「フリッド・リードは人殺し」、「フリッド・リードは親殺し」、「人殺しの教師」などと書かれていた。
その無数の紙に書かれたことを見た瞬間、フリッドは全身に汗を掻き、動悸が激しくなるのを感じた。
「お前達何をしている!!さっさと教室に入らんか!」
そこに、ヘンダーソンが現れた。その傍らにはアーニャ達もいた。ヘンダーソンが生徒達に中に入るよう促す中、アーニャ達はドアに貼られた紙を急いで剥がし始めた。
「クソッ!誰だこんなこと書いたの!叔父さ・・・先生がこんなことするはずない!!」
「フリッド・リード・・・これに書いてることは全部嘘だろう!?事実無根だな!?」
ヘンダーソンは紙を一枚剥がすと、フリッドに突きつけた。
「はっ・・・!はっ・・・!」
フリッドはまるで息切れを起こしたかのように過呼吸になり、全身に汗を掻いて後ずさりした。
その時、アーニャはフリッドの心を読んだ。
『母さん・・・?母さんまで俺を捨てるの・・・!?嫌だ、捨てないでよ母さん!母さんっ!!母さんっ!!!』
『母さん・・・そんな・・・!』
『う・・・嘘だぁぁぁぁぁぁ!!!』
フリッドの心を読んだ瞬間、アーニャは目を見開いた。
(かてーきょーしが、じぶんのママを……!?)
その時、フリッドはその場から逃げるように駆け出した。
「あっ!?フリッド!」
「叔父さん!」
二人の静止に構うことなく、フリッドは走った。今まで自分の中に隠していたどす黒い記憶、思い出したくもない過去・・・だれが張り紙を張ったのかは分からないが、フリッドはただ逃げることしかできなかった。
――――――――――――――――――――
「おい・・・どういうことだよ、これ・・・」
そのころ、「喫茶シオン」ではグリム、ユーリ、フィオナが朝早くから顔を見せに来ていた。
「・・・朝起きて、店の前を掃除しようと思ったら・・・この張り紙が貼ってあった。」
テーブルの上にはイーデン校の時と同様、フリッドに対する誹謗中傷が書かれた紙が置かれていた。その張り紙が店のドアが見えなくなるほど貼られていたのだ。
「これ、嘘・・・だよね?」
「当たり前じゃないですか!フリッドさんが親殺しなんてするはずありません!」
恐る恐る言ったユーリを窘めながら、ヨルはフィオナの方に顔を向けた。
「フィオナさんもそう思いますよね!?」
「え、ええ・・・」
口ではそう言ったフィオナだったが、不安がよぎっていた。ロイドも同様だった。それはフリッドの母親の死因にある。死因は猛獣による事故死・・・もし、母親を殺したのが猛獣ではなく、ギルスに変身したフリッドだとしたら辻褄が合ってしまう。
二人は「絶対に違う」と思いながらも、フリッドが犯人なのではないかとも思ってしまい、半信半疑になっていた。
その時、店のドアが開きベルが鳴った。
「あっ、すいません。今はまだ開店時間じゃ・・・!?」
ロイドは目を見開いた。そこにいたのは、なんとあのマードックだったのだ。
「いやいや、客じゃないんだ。」
「・・・なら何をしに来たんですか?」
ロイド達は一様にマードックのことを睨みつけている。マードックはニヤニヤ笑いながら、ずかずかと店に入ってきた。
「そう睨むなよ。そういえば、あのフリッドとかいう偽善者、殺人犯らしいなぁ!あんな優男みたいな顔しといてえげつないことするんだなぁ!」
「あ?てめぇなんでそのこと知ってんだ?」
その時グリムが疑問の声を上げた。この張り紙のことはまだ誰にも知られていないはずだった。ロイド達やフリッド本人を除けば、犯人ぐらいしか・・・
「まさか・・・てめぇか!?てめぇがこんなことしたのか!?」
「なんのことかなぁ~?」
知らん顔をして口笛を吹くマードックに、グリムは怒りを覚え、掴みかかろうとした。しかしユーリがそれを止めた。
「離せゴラッ!」
「バカ!店の中だぞ!備品壊れたらどうすんだ!」
グリムは緊急時以外店の中で暴れないように心掛けていた。備品を壊してロイド達に迷惑をかけないようにするためだ。
「それにしても酷い男だなぁ、フリッドという男は。人殺しの癖にお前達を騙してたんだぞ?それに、こんな美人の彼女もいるなんてな・・・」
すると、舌なめずりをするような目でフィオナを見つめるマードック。フィオナは全身に寒気を覚え、思わず懐の拳銃を抜こうとした。が、それよりも早く、フィオナを庇うようにヨルが前に立ち、同時にロイドはマードックに近づいた。
「彼の悪口はやめてもらえますか?彼は僕たちの友人です。」
ロイドはドスの効いた声で、マードックを睨みながら言い放つ。しかし、マードックは動じず、ニヤニヤと笑っている。
「はぁ~~~~?あんな人殺しの偽善者を庇うのか?あんな奴信用していいのか?表ではニコニコ笑ってても、裏では何をやってるかもわからんだろ。それなのに友人?お前達頭がおかしくなって・・・」
その時、ザクッ!という音が聞こえ、マードックは左肩に痛みが走るのを感じた。見ると、グリムが懐に隠していたナイフを肩に突き刺していた。
「ぎ・・・ぎああああああああああああっ!!」
「あ~・・・もう我慢ならねぇ・・・」
マードックは痛みのあまり叫び、その場に転げ回った。グリムは冷めたような表情に、瞳孔を開いて転げまわるマードックを踏みつけた。それをロイド達は静観していた。
「な、なにを・・・!?」
「一個教えてやるよ・・・人ってのはな、口論が出来なくなると最終的に暴力に走るんだよ・・・」
グリムはそう言うと、マードックの肩に突き刺さったナイフを足の裏でグリグリと奥まで突き刺していく。
マードックは悲鳴を上げながらのたうち回るが、グリムはお構いなしだった。
すると、マードックはロイドの方を見た。
「お、おい!早く助けろ!このままじゃ殺人事件になるぞ!?店が殺害現場になっていいのか!?」
その時、カチャ・・・という音とともにロイドはどこからともなく拳銃を抜き、銃口を向けた。
「へ・・・!?」
「それがどうした?死体を隠す方法ならいくらでもある・・・山の中に埋めてしまうか、それか薬品でドロドロに溶かすか・・・」
ロイドの一変した態度と言葉遣いに、マードックは面食らっていた。すると、ヨルもキッチンから包丁を抜き、マードックの眼前に近づけた。
「お生憎ですが・・・私はお掃除が得意なんです。だからアナタがここで死んだとしても、一向にかまいません。」
「それもそうだね・・・」
そしてヨルに続くように、ユーリも拳銃を抜き、銃口を向けた。
「でも、殺す前に謝ってもらおうか。フリッドさんに、僕らの友人に・・・」
ユーリはそう言うと撃鉄を降ろし、いつでも撃てる態勢に入った。それを見たマードックは、慌て始めた。
「お、お前らどうかしてるぞ!?な、なんでワシがこんな目に・・・ッ!!?」
命乞いをしようとするマードックの口を、グリムは手で抑えた。
「喋んな、クソが。」
「むぐっ!!むーっ!!むぐーっ!!」
「言葉が足りなかったぜ、クソ以下だ・・・!」
グリムのその言葉を皮切りに、他の面々はマードックに向けて武器を・・・
「やめろっ!」
その時、ロイド達を静止する声が響いた。そこにいたのは、フリッドだった。
「やめるんだ!」
「でもおっさん・・・!こいつは根も葉もねぇこと言ってアンタを貶めようと・・・!」
「事実だ!」
「え・・・?」
フリッドのその言葉に、グリムは声を上げた。ロイド達も驚いているようだった。
そして、フリッドは続けて言った。
「俺が、殺した・・・!俺が母さんを殺したんだ!!」
フリッドは叫んだ。その叫びを聞いたロイド達はただただ驚いていた。マードックを殺そうとするのも忘れて。
その隙に、マードックは急いで立ち上がり、逃げ出した。ロイド達は追いかけなかった。
フリッドが本当に親殺しだった・・・その事実に、ただ打ちのめされたのだった。
おまけ「触れてはいけない」
「ついにフリッドの闇が暴かれてしまうのか・・・!」
「そういや敬介のジジイ、ちょっと聞きてぇんだけど・・・」
グリムが敬介に尋ねた。
「アンタ、昔"ハヌマーン"っていう白い猿みたいな奴と一緒に戦ったって聞いたんだけど、どんな奴か・・・」
しかし、グリムが聞いた直後、話の途中であるにも関わらず敬介はバイクに乗って逃げ出してしまった。
「あっ、逃げた!?待てコラッ!!」
誰にでも触れてはいけないものはある……
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前書きの詩は、Episode:Fのとある登場人物の心情に当てはまっていたので引用しました。
皆さん、その人物が誰だかわかりますか?後の回で残りの詩を載せるつもりなので、その時答えが分かるでしょう。