SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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PART.12 炎の天使

午後4時ごろ……イーデン校では学園祭の準備が行われていた。

アーニャ達のクラスは看板とポスターの制作をしていた。

 

「……アン、ダミアン!」

「え?」

「そっちの絵の具取ってってば!」

「あ、ああ……悪い。」

 

作業中、うわの空になっていたダミアンはベッキーに怒られながら、絵の具を渡した。

そんなダミアンを心配してエミールとユーインが話しかけた。

 

「大丈夫ですか、ダミアン様……」

「やっぱり、フリッド先生のことが……」

「……まぁな。」

 

先日学校の入口に貼られたフリッドに対する誹謗中傷の貼り紙……そこに書かれたことがダミアンは気がかりだった。

フリッドは親殺し……もしそれが本当だったら……ダミアンはその時、フリッドになんと言えばいいか分からず、心の中で困惑していた。

 

「じなん。」

 

心を読み、ダミアンの心情を知ったアーニャは声をかけた。

 

「だいじょぶっ!せんせーはせんせー!」

「お前……」

 

ダミアンはアーニャの言わんとしていることがなんとなく理解できた。

例え人殺しだったとしても、フリッドはこの学校の教師で、自分の叔父であることに変わりはない。

アーニャの言葉を聞いて、ダミアンはコクリと頷いた。

 

「ああ……そうだよな。叔父さんは、叔父さんだっ!」

 

絶対にフリッドを信じる。ダミアンは自分の中で言い聞かせた。

その時、ベッキーはクンクンと匂いを嗅ぐように鼻を動かし、辺りを見回した。

 

「ねぇ、なんか焦げ臭くない?」

 

そういえば、と皆は一様に辺りの匂いを嗅ぎ始めた。ベッキーの言う通り、焦げ臭い匂いが漂っていた。まるで何かが燃えるような……と思った次の瞬間、教室のドアが勢いよく開いた。

 

「みんなっ!!」

 

現れたのはヘンダーソンだった。額に汗を掻き、かなり慌てている様子だ。

 

「火事だ!みんな早く外に……!!」

 

ヘンダーソンが皆に外に出るように伝えようとした瞬間、教室の窓ガラスが音を立てて割れ、外から一人の男が現れた。

 

「キャーッ!!」

「な、なんだ!?」

「アイツ……!」

「イ、イグニス……!!」

 

そこに現れたのは、全身が真っ赤に染まった修道服に帽子を被り、鳥の嘴を模したマスクをつけた男……グレン、本当の名をイグニス。

 

「また会いましたね、先生……!」

 

イグニスはヘンダーソンを睨んだかと思うと、手に持った火炎瓶をばら撒き、あっという間に教室を火の海にしてしまった。

 

「や、やめるんだイグニス!この子たちは関係ないだろう!!」

「関係ありますよ。僕の復讐対象は、マードック……それからマードックを野放しにしたこの学園……!!そして、その学園に在籍する生徒達も同罪だ!!」

 

その場にいた誰もが「めちゃくちゃ」だと思った。マードック本人に復讐するのなら、まだ分かる。だが全く関係のない人間を巻き込もうとするイグニスは、もはや狂ってるともいえる。

 

「でも……殺しません。僕はこの炎で生徒達を天国に送るんです。子どもは純粋無垢……無垢なまま、浄化の炎で全身を燃やし尽くし、天へと送る。そして……!その時こそ僕は……!!炎の天使になるっ!!」

 

イグニスは拳を握り、天を仰ぎながら叫ぶ。イグニスの行動と言動は支離滅裂だった。さっきまで「同罪」だと言っておきながら、今度はまるで聖母のように笑い「天に送る」と言っている。

明らかに常軌を逸しているが、イグニスはマスクと帽子を外し、さらに続けて言った。

 

「ヘンダーソン先生……その時は僕を見てくださいっ!!生まれ変わった僕を!!あの頃の弱かった僕じゃないっ!強くなったんだ、僕はッ!!」

 

ヘンダーソンを見ながら、大声で叫ぶイグニス。まるで訴えるように、自分を見て欲しいとイグニスは訴えた。

と、その時……コンッと何かがイグニスの頭に当たった。イグニスは目を向けると、床に絵筆が落ちていた。

それを投げたのは……

 

「へ……へんっ!ダサいな、お前!!」

 

ダミアンだった。キッとした目で、毅然とした態度で、前に出てイグニスを睨みつけていた。だが、やはり恐怖を感じているのか、足はガタガタと震えていた。

 

『ダ、ダミアン様っ!!?』

「じなんっ!」

「お前……確かフリッド・リードの……」

 

イグニスは前に出たダミアンの胸倉を掴み、宙にぶら下げた。

 

「今、なんて言った?」

「ダ、ダサいって言ったんだ!」

 

宙にぶら下げられ、睨まれても、ダミアンは怯まなかった。

 

「先生から聞いたぞ!お前の過去!15年も経ったのに、昔のことばっか引きずって前に進めない情けない奴ッ!!お前なんか怖くないぞ!!」

「………」

 

ダミアンの怒号にイグニスは黙り込んだ。さらにダミアンは続けて叫ぶ。

 

「お前なんか叔父さんの足元にも及ばない!あの人は……ッ!!」

 

その瞬間、ダミアンは顔を殴られた。しかもグーで。手加減無しにだ。

それを見てヘンダーソンや他の生徒達は驚愕した。しかし、ダミアンは泣かず、イグニスを睨んだ。本当なら今すぐにでも泣き叫びたいほどの痛みが走っているのだが、ダミアンは耐えた。

 

「……ッ!!全ッッ然痛くない!!あのちんちくりんに食らったのと比べたら、全然痛くない!!」

「じなん……!」

 

ダミアンはアーニャに殴られた時と痛みを比べていた。もちろん今食らった一撃の方が痛いが、ダミアンは強がっている。

それに気づき、アーニャは苦しそうに拳を握った。同時に、イグニスはそっとダミアンの顎に触れた。

 

「あの男は、もう腰抜けになった。腰抜けが僕より強いとでもいうのか?」

「そうだ……!あの人は、逃げない!例え負けたとしても最初から逃げることなんかしない!最初から逃げたお前なんかとは違うんだ!!」

 

ダミアンは怯えながらも、ひるまずにイグニスへの罵倒を続けた。しかし、イグニスはダミアンの頬を掴んで無理やり口を塞いだ。

 

「むぐっ!?」

「黙れ……!どうせ全て終わる。お前も天へと送る……!その前にお前を粛清するっ!!」

 

胸倉を掴んで持ち上げたダミアンを、イグニスはさらに上に持ち上げた。すると、驚いたことにイグニスはダミアンを床に向かって投げつけ、叩きつけようとした。

 

「やめろぉ!!」

 

ダミアンが投げられた直前、ヘンダーソンが飛び出してきた。

飛び出したヘンダーソンはダミアンが地面に叩きつけられる瞬間、ギリギリのところで抱きとめた。

おかげでダミアンはなんとか無傷で済んだ。ダミアンが無事であることを確認すると、ヘンダーソンはイグニスに顔を向けた。

 

「イグニス、もうやめてくれ……!お前は優しい子だったはずだ……!こんなことができる人間じゃなかっただろう!!」

 

ヘンダーソンの目には涙が浮かんでいた。ヘンダーソンの知るイグニスはこんな残酷なことをするような人間ではなかった。

編み物や裁縫を好み、共働きの両親のためにマフラーを編むような優しい子だった。

だが今のイグニスは人殺しも簡単にできる冷酷な人間になっていた。

 

「もし…!もしお前がそうなってしまった原因が私なら……!!私を殺せッ!!」

 

ヘンダーソンはダミアンを自分の後ろに隠すとその場で仁王立ちしながら両手を広げて叫んだ。

ヘンダーソンの言葉に、その場にいた全員が驚いた。イグニスさえもだ。

その時、ヘンダーソンの目から滝のように涙が流れ出た。

 

「私がもっと、お前に向き合っていれば……こうはならなかった……!イグニス…すまなかった……!!」

 

涙を流しながら、ヘンダーソンは懺悔する。元をただせばマードックが原因だが、ヘンダーソンが助けていればこんなことにはならなかったかも知れない。

そのことをこの15年間、ずっと気にしていたヘンダーソンはあの日からずっとイグニスに謝りたいと思っていた。

 

「すまない……!すまない……!」

 

イグニスは何度も何度も謝り続けた。それを見たイグニスは思うところがあるのか、拳を握って震わせた。しかし、すぐに腕の袖口から銃剣を引き出し、指の間に挟み込んだ。

 

「……今更すぎますよ、先生。今更謝ったところで……もう遅いんだッ!!」

 

イグニスは右手の指の間に挟み込んだ銃剣を振り上げた。

今更、反省して真人間に戻ろうとしても、無駄なこと。イグニスは自分の目的のために、教団のために、大勢の人間を殺し、返り血を浴び続けた。

イグニスは悲しみと怒りを滲ませながら、思うままに銃剣を振り下ろした。

 

『先生ッ!!!』

「……ッ!!」

 

いよいよ自分の命が終わる。そう思ったヘンダーソンは、目をギュッと瞑った。しかし次の瞬間、ガキンッ!と金属同士がぶつかり合う音が響いた。

 

「……?」

「ヘンダーソン先生……あなたは生きてください。あなたはこの学校に必要な人だ!」

「貴様……!」

「き、君は……!」

 

一人の男が現れた。その男は腕を異形のものに変え、そこから伸びる爪で銃剣を防いだ。

その男を見た瞬間、多くの者が驚愕し、目を見開いた。しかしその中で、アーニャは希望を見出したように笑顔を浮かべ、ダミアンに至っては満面の笑みを浮かべながら、両目から大粒の涙を流した。

 

「あなたが罪を感じているのなら、生きて、生きて…!生き続けて、その罪を償ってください!!」

 

その男も、一度は絶望し投げやりになって、人生に希望を見い出せなかった。

しかし、今は違う。今度得たものを、希望を持たせてくれた大切な人達を失わないために……男はまた立ち上がった。その男の名は……

 

「フリッド・リード!!」

『フリッド先生ッ!!』

「叔父さぁんっ!!」

 

フリッドは仁王立ちしながら、後ろにいる生徒達に顔を向け、何も言わずにコクリと頷いた。そして、ダミアンの方に顔を向けると、笑顔を浮かべた。

 

「ダミアン…よく頑張ったな。最高にカッコよかったぞ!」

「…うんっ!!」

 

ダミアンは涙を拭い、笑顔を見せる。それを見たフリッドは安心したようにフッと息を吐き、イグニスに顔を向き直す。

 

「……まさか、立ち直ってくるとはな。」

「ああ……君を止めるためにな。」

「止める……だと?」

 

フリッドの一言に、イグニスは首をかしげた。フリッドは自分を「殺す」ではなく「止める」と言ったのだ。

イグニスはフリッドを貶めようとした人間の一人でもある。なので恨みがあるはずだ。それなのにフリッドは止めるつもりでいる。

 

「君はさっき、『もう遅い』と言った。だが……遅くない!やり直すのに、遅いも早いもない!いつからだって……やり直せるっ!」

「止められるもんか……!お前なんかにっ!」

「止めるさ……俺は、仮面ライダーだからな。変身……ッ!!」

 

顔の前で両腕を交差させて叫んだ。フリッドは体を異形のものに変化させ、ギルスへと変身した。

 

「フ、フリッドが、仮面ライダー……!?」

「しかもギルス…」

 

このイーデン校で、フリッドがギルスであることを知るのはアーニャ、ダミアン、ベッキー、エミール、ユーインのみ。ヘンダーソンと他の生徒達はフリッドが変身したところを見て驚愕していた。

驚愕する皆をよそに、ギルスは両腕から鋭い爪を伸ばし、イグニスに襲いかかった。イグニスも銃剣を振るい、互いの武器がぶつかり合い火花を散らした。

 

「チィッ!」

「ガァウッ!」

 

ギルスは爪でイグニスの拳に傷をつけ、銃剣を弾き飛ばした。

その隙にギルスは踵のヒールクロウを伸ばして踵落としを繰り出す。イグニスはそれを後ろに転がってよけ、よけながら袖口から新しい銃剣を取り出した。

新しく取り出した銃剣には鎖が取り付けられており、それを鎖鎌のように振るった。

 

「ウォオオオオオオオオッ!!」

 

ギルスは雄叫びを上げた。すると姿が変わり、腕と肩に新たに鋭い爪が生え、背中からは赤い触手が生えた。

エクシードギルスに姿を変えたギルスは、背中の触手「ギルススティンガー」で鎖に繋がれた銃剣とぶつかり合った。

 

「シイィィィッ!!」

 

負けじと鎖を振り回すが、触手に弾かれてしまう。その隙にギルスは懐に入り込んだ。

 

「ガァウッ!!」

「シェアッ!!」

 

二人は互いにハイキックを繰り出し、蹴りが宙でぶつかり合った。さらに二人はそこから宙を跳んで回し蹴りを繰り出した。

しかしそれも攻撃がぶつかり合って相殺された。

 

「くっ…!」

「チッ…!」

 

両者の実力は拮抗していた。両者の勝敗を分けるのは…意地。どちらの意地が強いか……その一点。

 

『うおおおおおおおっ!!』

 

二人は叫び、互いに武器を突き出した。その瞬間、赤い鮮血が飛び散った。

 

「……こざかしい……!」

 

イグニスは低い声で呟いた。この一瞬で、イグニスの右手は潰れた。銃剣と爪がぶつかり合った瞬間、銃剣が砕け、そのまま拳にギルスの爪に貫かれたのだ。拳は血で真っ赤に染まり、形はグチャグチャに歪んでいた。

負けじとイグニスは残った左手で攻撃しようとした。しかし次の瞬間、ギルスは爪で左手を切り飛ばしてしまった。

 

「くぅっ……!」

「両腕は潰した……もう終わりだ、諦めろ!その両手は手術すれば治る!降参しろ!」

 

イグニスの両腕は潰れた。もはや武器を持つことはできない。勝負は決まったも同然だった。

イグニスはフラフラと後ろに下がり、壁にもたれかかった。敗北を感じたのだと、ギルスは思った。だが、それは思い間違いだとすぐ思い知らされることになる。

 

「クックックッ……!降参しろだと……?断る……!」

 

イグニスは笑い声を上げると、着ている赤い修道服を脱ぎ捨て、上半身裸になった。

いきなり裸になり、その場にいた者達は困惑した。

しかし、イグニスの胸をよく見ると、そこには銃のトリガーのようなものが生えていた。

 

「僕にはまだ、隠し玉がある……」

 

イグニスはそのトリガーに手をかけた。その時、ギルスの脳裏に疑問が浮かんできた。

何故、イグニスはペルランやアイゼンと違って怪人態に変身しなかったのか。単純に変身できないのか、それとも変身する必要がないほど強いのか…その理由が、すぐに分かった。

 

「今こそ僕は……炎の天使になる!灼熱ッ!!」

 

仮面ライダーの「変身」と似たような掛け声を放ちながら、イグニスは叫ぶと同時にトリガーを引いた。

その瞬間、イグニスの体に火がつき、体を、全身を燃やす。さらに次の瞬間、イグニスを中心に巨大な火柱が上がり、イグニスを包みこんだ。

 

「うわっ!?」

「キャアッ!!」

「な、なんだ!?」

 

炎の中で、イグニスの体は変化していった。全身が灰色に染まり、その上に炎が鎧のように纏わりつく。顔は獣のように豹変していく。

 

「フゥゥゥゥゥ……」

 

火柱が消え、姿が変わったイグニスが姿を現した。グチャグチャになったはずの右手は治り、左手もいつの間にか新たな手が生えていた。

イグニスは炎の化身の如き怪人へと姿を変えた。

 

火炎の化身、プロメテス……それが、生まれ変わったイグニスの新たな姿だった。

 

 




おまけ「トラウマ」

フリッド「今日はよく頑張ったな、ダミアン。」
グリム「おう、よく泣かなかったな。」
ダミアン「へへっ、当たり前だよ!だって……『SPY×AGITΩ』本編で俺がどれだけトラウマを刻まれたと思ってんの?」

※これまでダミアンに刻まれたトラウマ
・大好きな叔父さんが化け物(ギルス)になった(第4話)
・その叔父に2回も助けられたのに自分はお礼も言わず、お別れのエクレアを泣きながら食べた(第11話)
・目の前で叔父が串刺しになる(第31話)
・父の愛人の息子(グリム)が現れ、自分を殺そうとした(第40話)
・しかも父が簡単に愛する人を捨てる人間だと分かり絶望(第40話)
・片思いの相手が化け物に変わってしまう(第52話)
・父親が人間であることを捨て、アンノウンの親玉になっていたことを知る(第56話)
・しかもその父親は家族のことなど考えていなかった(第56話)

フリッド「あー……」
グリム「まぁ、無理もねぇか……」

―――――――――――――――――――――

今回のおまけを書く際、もう一度ダミアンが登場する回を読み直しましたが・・・この作品でのダミアンの人生、ハードすぎない?まぁ、書いたの僕ですけど……

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