SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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私の安らぎは去り、
私の心は重い。
それを私が再び見つけることはない、
もはや二度と。

私の胸は
彼のもとへ迫りゆく、
ああ許されることならば
彼をこの手にとらえ、抱きしめて、

そして彼に口づけたい
私ののぞみどおり
彼のキスに
この身が消え失せようとも!

─────────────────────

※文章を一部変えました。




PART.14 最後の炎

 

「ウォオオオッ!!」

「ハアァァァッ!!」

 

2人の炎の化身は互いに拳を繰り出し、ぶつけ合った。すると、2人の体は炎そのものに変わり、その炎は複雑に絡み合いながら教室の中で宙を舞う。

絡み合いながら元の体に戻り、ギルスはプロメテスの腕に爪を食い込ませた。

 

「ガァウッ!!」

 

そしてそのまま投げつけ、床に叩きつけた。

しかし、プロメテスは負けじと立ち上がり、口に火球を溜める。

 

「ハッ!!」

 

口から火球をマシンガンのように放ち、ギルスのみならず、後ろにいる無差別に攻撃する。

 

「うわっ!?」

「キャアッ!!」

 

しかしその時、

 

「ハッ!」

 

ギルスは右手を背後にいるダミアン達の前に突き出した。すると、ダミアン達の前に炎の壁に出現し、飛来する火球を防いだ。

そしてギルスに飛んでくる火球は、ギルスが自ら拳で弾き飛ばした。

 

「炎の壁……」

「熱くない……むしろあったかい……」

 

ダミアン達の前に現れた炎の壁からは熱さがなかった。むしろ暖房にも近い、安心を感じるような暖かさだった。

それと同じ炎を、ギルスは手のひらに出現させ、火球にして投げつけた。

 

「くっ!」

 

プロメテスは咄嗟に腕で火球を防いだ。

次の瞬間、プロメテスは驚愕することになる。

 

「なっ…!?これは……!!?」

 

なんと、火球を防いだ腕の一部が人間に戻っていたのだ。

その光景に、プロメテスだけでなく、ダミアン達も驚いていた。

 

「な、何がどうなって……?」

「ダ、ダミアン様!」

 

その時、エミールが声を上げた。

 

「さ、さっき殴られた傷が治ってます!!」

「えっ……?」

 

ダミアンは指摘され、さきほどイグニスに殴られた頬に触れた。エミールの言う通り、傷がなくなっており、痛みもなかった。

 

「もしかして……」

 

ダミアンはギルスが作った炎の壁を見た。もしかしたら、この炎のおかげなのか……と、ダミアンは思った。

ダミアンの考えは当たっていた。

 

「ハアァァァァァァ……デヤッ!!」

 

ギルスは両手両足に炎を纏い、連続のパンチとキックを繰り出した。

プロメテスは次々と繰り出される攻撃を防ぎ、かわそうとするが、ギルスの攻撃は素早く、懐に潜り込まれて連撃を叩き込まれた。

攻撃が体に直撃するたびに、プロメテスの体は人間の体に、イグニスの体に戻っていく。

ギルスの炎は、”浄化の炎”……悪しきもの、汚れたものを消し去る優しさの炎。ギルスはその炎で、悪しき存在であるプロメテスの体を消し去り、イグニスの体に戻そうとしている。

 

「ハァッ!!」

「うぐっ……!!」

 

次の瞬間、ギルスの拳が顔面に直撃し、プロメテスは吹き飛び、床に転がった。

 

「うっ……!くぅ……っ!!」

 

プロメテスはなんとか立ち上がり、ギルスを睨みつけた。殴られた顔面が人間に戻り、イグニスの顔が見えていた。

イグニスの表情は、悔しそうな、かつ悲しみを訴えるような顔をしていた。

 

「どうして…僕じゃなくてお前なんだ……!」

 

イグニスはずっと自分が炎の天使になることを望んでいた。しかし、それがいきなり現れた男によって奪われた。

なりたいものになるために、青春を、友を、仲間を、全てをかなぐり捨て、目の前に立ちふさがる敵は全て殺してきた。

その果てに手に入れたのは怪物の姿……加えて、目の前にいるギルスの方が、炎の天使に相応しい姿をしていた……

 

「なんで……!!」

 

イグニスの目から涙がこぼれ落ちる。それを見て、ギルスは拳を強く握った。

 

「……悪い夢は、終わりにしよう。」

 

これはイグニスにとっての悪い夢。イーデン校を去ったあの時から続く悪夢……起きながら悪夢を見続けるイグニスを哀れに思うギルスは、全てを終わらせるため、床に赤く、燃える紋章を浮かばせた。

 

「ハアァァァァァァ……ハッ!」

 

紋章のエネルギーを両足に集中させ、その場からジャンプして跳び上がる。

 

「ウォオオオオオオオオッ!!」

 

そして雄叫びを上げながら、炎を纏った必殺の飛び蹴りを繰り出した。そして、蹴りはイグニスの胸に命中し、蹴り飛ばした。

吹き飛んだイグニスは壁に叩きつけられた。

 

「うっ……!かはっ……!!」

 

壁に叩きつけられたイグニスの体は、元の人間の姿に戻った。

同時に、ギルスも変身を解き、フリッドの姿に戻った。同時に、フリッドの胸からシャイニングカリバーが出てきた。

シャイニングカリバーはフッと浮かんだかと思うと、淡い光を放ちながら姿を消してしまった。

 

(ありがとう……津上君。)

 

どんな手段を使ったかは分からないが、時空を越えて助けに来てくれた翔一に、心の中で礼を言ったフリッド。

そしてフリッドは壁にもたれかかるイグニスに目を向けた。

 

「……殺せよ。もう、何も残ってない。」

 

投げやりになりながら吐き捨てるイグニス。

完全に諦めがついたような顔をしていた。目に光もなくなっていた。

 

「イグニス……君は、どうして”炎の天使”になりたいと思ったんだ?」

「……昔、ヘンダーソン先生に聞いたことがある。あの日、僕は先生と一緒に、体育館裏で夕日を眺めてた……その時僕は……『先生、どうして夕日はあんなに赤いんですか?』」

「っ!!」

 

イグニスのその一言に、ヘンダーソンは目を見開き、驚いた。

すると、ヘンダーソンはイグニスに近づき始めた。そして、ゆっくり口を開く。

 

「……『それはなイグニス、赤い色は遠くまで届く色だからだ』。」

 

ヘンダーソンのセリフを聞き、イグニスはフッと笑う。そしてイグニスは続けて言った。

 

「『遠くまで届く……僕も、遠くまで行けるようになりますか?』」

「『行ける。お前には素晴らしい個性がある。将来はなりたいものになるがいい。』」

「『はい……!先生……!!』」

 

それはまるで、昔の光景を再現しているかのようだった。心なしか、イグニスは幼くなり、ヘンダーソンは若返ったように見えた。

 

「覚えていたのか…イグニス。」

「はい……忘れませんよ。だから僕は”炎の天使”になりたかった。夕日よりも赤い紅蓮の炎……そうすれば、僕はどこまでも遠く行けるって思ったから……でも、結局ダメだった……さぁ、殺せよ。」

 

イグニスは話し終えると両手を床につけ、目を瞑った。このまま殺されようと思ったのだ。

だが、

 

「……殺さない。」

 

フリッドはそう言った。

イグニスは驚いたような顔でフリッドの顔を見上げた。

 

「君はまだやり直せる。ヘンダーソン先生を見る君の目は、先生と話す君の顔は、誰よりも安らかだった……君はまだヘンダーソン先生を慕ってる。だから殺したくない。」

 

イグニスは呆然としていた。散々罪を侵した自分を、目の前にいるこの男は殺さないつもりなのだから。

すると、フリッドは教室の窓に足をかけた。

 

「君の罪の代償は……奴に、アポロガイストに払ってもらう!!」

 

言い終えると同時にフリッドは窓から飛び出した。

それを見たイグニスはポカンと口を開けるも、すぐにフッと笑い、フラフラとその場から立ち上がった。

 

「先生……イーデン校には、あんな先生がいたんですね。」

 

そう言うと、イグニスはふらつきながら教室のドアに手をかけた。

 

「イグニス…?ど、どこに行くんだ?」

「ケジメを……つけにいきます。」

 

────────────────────────

 

「トアァァァッ!!」

「チィッ!!」

 

校門前で繰り広げられていた、Xライダーとアポロガイストの決闘はまだ続いていた。

 

『ハァッ……!ハァッ……!』

 

長い時間戦っているせいか、二人とも息が上がり始めていた。体にもいくつもの傷がついていた。

 

(これ以上続くとマズいな……!アポロガイストも同じか……!)

「そろそろ決着をつけるか、Xライダー……!」

 

互いに限界を感じたのか、互いに身構え、最後の決着をつけようとした。

だが、その時だった。二人は自分達とは違う気配に気がついた。

 

「むっ……!?」

「フリッド……!?」

 

二人が横を向くと、そこにはフリッドがおり、鬼のような形相でこちらに向かっていた。

 

「アポロガイスト……!俺は貴様を許さない……!!」

「何を言うか!」

「お前は、弱い人間の心を利用して、化け物にした!その罪の重さを……味わえっ!!」

 

フリッドはアポロガイストに向かって叫び、顔に青筋を立てながら両腕を顔の前で交差させた。

 

「変身ッ!!!」

 

大声で叫び、フリッドはギルスへと変身した。心なしか、体中の筋肉の血管が浮き出ているかのようだった。

それはギルスがアポロガイストに対して激怒している証拠だった。

 

「フリッド!」

「神さん……二人でやりましょう!」

「ああっ!俺とお前で、ダブルライダーだ!!」

 

二人は身構え、その赤い目を輝かせた。

身構える二人を見て、アポロガイストはたじろいだ。今の自分の体力を考えて、二人を相手にするのは分が悪いと感じ取ったのだ。

 

「き、貴様ら……!これを見ろ!!」

 

アポロガイストは苦し紛れに、懐からリモコンのようなものを取り出した。

リモコンには赤い大きなボタンがついていた。

 

「この学校に爆弾を仕掛けた!!爆破されたくなければ、大人しくするがいいっ!!」

「なに……!?」

 

アポロガイストは嘘をついた。爆弾など仕掛けていなかった。ただのブラフだった。このブラフで二人を戸惑わせている間に、アポロガイストは二人を一気に倒すつもりだった。

しかし次の瞬間、アポロガイストはリモコンを持った手に痛みを感じた。

 

「うっ!!?」

 

見てみると、手には銃剣が突き刺さっていた。アポロガイストは思わずリモコンを地面に落とした。

そして、それを投げたのは……イグニス。

 

「間に合った……!」

「イグニス!」

「貴様ぁ……!!力を与えてやった恩を忘れたか!!」

 

アポロガイストは激怒し、懐から別のリモコンを取り出した。今度は間髪入れずにすぐさまボタンを押した。

その瞬間、ボンッ!という音が聞こえ、イグニスは破裂したボールのように体を跳ねさせ、口から大量の血を吐いた。

 

「かはっ……!!」

「イグニス!!?」

 

ギルスは思わず困惑した。何故いきなりイグニスの体が、弾けたようになったのか、何故吐血したのか分からなかった。

その時、Xライダーが声を上げた。

 

「分かったぞ!イグニスは改造手術で、痛覚を遮断されている!だから、俺のライダーキックを生身で食らっても平気だったんだ!」

 

Xライダーの推理を聞き、ギルスは一瞬納得しかけたが、それではイグニスが吐血した理由が分からない。

Xライダーは続けて言った。

 

「アポロガイストが押したのは痛覚遮断を解除する装置だ!解除された瞬間……イグニスの体には、今まで受けたダメージが返ってきたんだ!!」

 

イグニスが今まで、どれだけ傷を負ってきたのかは分からない。しかし、Xライダーの推理が正しければ、莫大なダメージがイグニスに襲いかかったことになる。

イグニスはその痛みに耐えられず、その場に倒れた。

 

「恩を仇で返すとはな……この裏切り者め!!」

「………ッ!!!アポロガイストォォォォォォォ!!」

 

怒りのままにギルスは雄叫びを上げた。そして、アポロガイストに向かって突進し、殴りかかった。Xライダーも同時にアポロガイストに襲い掛かり、ギルスとともに拳を食らわせた。

 

「ぐおっ!!」

「トオッ!!」

「ガァウッ!!」

 

アポロガイストに連撃を加える二人。中でも、ギルスの勢いは凄まじかった。怒りを拳と足に乗せてアポロガイストに一撃一撃を食らわせる。

ギルスは許せなかった。イグニスは改心する可能性があったというのに、目の前でやられてしまったことが許せなかったのだ。

 

『ハァッ!!』

 

二人は同時に拳を繰り出し、アポロガイストを殴り飛ばした。

 

「ぐぉぉぉぉぉっ!!」

「いくぞ、フリッド!!」

「はい!」

 

アポロガイストが怯んだのを見て、二人はその場で跳躍し、空中で一回転する。

 

「ライダー……!」

「ダブル!」

『キーーーーック!!!』

 

二人はその叫びとともに、同時に必殺のライダーキックを繰り出し、アポロガイストの胸に激突させた。

 

「ごはっ……!!グオァァァァァァァァァッ!!!」

 

必殺の蹴りを食らったアポロガイストは、その場で吹き飛び、そのまま地面に激突し、ボールのように転がった。

 

「うっ……!!こ、これで…終わりではないぞ……!!」

 

その時、アポロガイストはフラフラと立ち上がった。そして、二人のライダーに向けて指を差した。

 

「これは、始まりだ……!私はただの斥候だ……!!」

「斥候……?」

「そうだ……!神化教団はただの踏み台にすぎん!我らの大ショッカーのな!!」

「大ショッカーだと!?」

 

アポロガイストの言葉に、Xライダーは驚き声を上げた。

ギルスは何が起きているのか分からず、首を傾げた。

 

「そうだ…!この世界は、大ショッカーのものなのだ!!次から次へと……この世界に刺客がくるだろう……!!地獄で、貴様らの末路を……!!見届けて……!!」

 

その時、アポロガイストの体は震え、その場に倒れた。そしてアポロガイストの体は爆発し、その体は塵になった。

 

「大ショッカーがこの世界に……?」

「イグニス!」

 

Xライダーはアポロガイストの最後のセリフに驚きを隠せなかった。しかし、フリッドは変身を解き、すぐさまイグニスの元に駆け寄った。

 

「イグニス…!イグニス!しっかりしろ!!」

 

フリッドに抱き起こされたイグニスは、まだかろうじて目の光が残っていた。

しかし、呼吸はかなり苦しそうだった。

その時、

 

「イグニス!!」

「叔父さーんっ!!」

 

ヘンダーソンとダミアン達が駆けつけてきた。

ヘンダーソンはイグニスの姿を見て、膝をつき、その場に泣き崩れた。

 

「イグニス……!!どうして……!!」

「言ったでしょう……?ケジメをつけるって……これが、僕のケジメです……」

 

イグニスのその言葉を聞き、フリッドは目を見開いた。

 

「まさか……!お前、死ぬつもりで……!?」

「僕には、これぐらいしか…できないから……」

「馬鹿……!!」

 

フリッドは思わず涙がこぼれ落ちた。それを見て、イグニスはフッと笑った。

 

「泣いてるのか……?同情なんていらない。」

 

決して同情ではなかった。フリッドは心の底からイグニスの死に涙していた。

すると、フリッドの気持ちを代弁するかのように、アーニャはイグニスの手を握った。

 

「どーじょーじゃない。」

「……?」

「アーニャ、ずっと”ひとりぼっち”だった。だから、きもちわかる。」

 

アーニャも昔は孤独だった。孤独だったからこそ、同じく孤独だったイグニスの気持ちが分かったのだ。

すると、それに続くようにダミアンもイグニスの手を握った。

 

「…もう一人ぼっちじゃないよ、大先輩。」

 

ダミアンも昔は孤独だった。アーニャと同じ気持ちになり、イグニスを安心させるように手をギュッと握る。

両手に小さい温もりを感じる……その温もりを感じ取り、イグニスは笑った。子どものように安心しきった、無邪気な笑顔だ。

 

「……嬉しいなぁ。先生……いい生徒を、持ちましたね。」

 

もう死は近いというのに、穏やかな笑顔を浮かべるイグニスにヘンダーソンは涙が止まらなかった。しかし、イグニスの呼びかけには応え、何度も頷いた。

 

「先生……僕は、あなたを……尊敬してました……」

 

イグニスはニコッと笑った。同時に目から一筋の涙がこぼれ落ちた。

そして……

 

「最後に会えて……よかっ……」

 

その瞬間、イグニスの瞼は塞がり、その頭はガクリと項垂れた。

 

「イグニス……!?イグニスーーーーーッ!!!」

「うああああああああああ……!!」

 

二人の叫びがこだました。二人はイグニスを救えなかった。

だが、イグニス自身は最後の最後に、魂を救われた。かわいい学校の後輩達に手を握られ、いい先生に心を救われ、そして最後に、敬愛する恩師に再会することができた。

遺体は遺らなくても、穏やかに逝くことができた。

それだけで、イグニスは満足だっただろう……

 

「やはり、人間は面白い。」

 

遠巻きに、誰にも分からない物陰から、”K”がその様子を覗き見ていた。小さく呟くと、イグニスを弔うように、胸ポケットに白い花を差した…かと思いきや、すぐさま花を地面に落とした。

 

 

 

 




前書きの詩、「糸を紡ぐグレートヒェン」はずっとイグニスの内面を表していました。
イグニスはイーデン校のマードックを含む全ての教師を嫌っていました。しかし、ヘンダーソンのことだけは慕っていて、あの先生のことだけは大好きだったのです。
それを表現するために、前書きに詩を引用することに決めました。

※クライマックスの一部の文章を変えました。少しだけ可能性を残しました。


次回、長かったEpisode:F、最終回です。
まさかこんなに長くなるとは思わなかった……

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