「……黒夢は、その昔私のパートナーだった男だ。」
店にいる客がほとんどいなくなった頃、シルヴィアは静かに語り始めた。
「黒夢はスパイとして優秀な男だった。だが同時に……スパイに向かない男だった……」
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「黒夢!貴様、どういうつもりだ!?」
「……何の話だ。」
その時、黒夢は暗殺の任務で見事ターゲットを暗殺した。だが……暗殺対象の屋敷で働いていた使用人の少年だけは見逃した。
「……まだ子供だ。殺すことはない。」
「向こうはお前の姿を見たかもしれないんだぞ!?」
「だとしても、年端も行かない、未来のある若者を殺す権利なんて誰にもない。俺にも、お前にもな。」
……アイツは優しすぎた。スパイとしてはな。
「本当の人でなしに生まれたかったよ。そうすれば悩まずに済んだのかもな……」
アイツはよくそう言ってた……
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シルヴィアの話を、ロイド、フィオナ、法条は黙って聞いていた。するとシルヴィアはコーヒーをグビッと飲み干し、深いため息を吐いた。
「アイツはバカなんだ。スパイは組織にとって歯車でしかない……歯車が余計なことを考える必要なんてない……」
シルヴィアはそう言うとカップを持ち上げ、ロイドにコーヒーのおかわりを頼もうとした。しかしその時、
「懐かしいな……よくお前に言われたな。白檀……」
背後から男の声が聞こえてきた。その声にシルヴィアは聞き覚えがあった。
シルヴィアはバッと後ろを向いた。そして、目の前に現れた男に目を見開いた。
「お、お前……!?」
「久しいな、白檀。」
そこにいたのは、かつてシルヴィアのパートナーだった男、黒夢ことニコルが立っていた。その後ろからヨルとグリムが出てきた。
「ただいま帰りました!」
「お、おかえりなさいヨルさん……えっと、この人は……?」
「へへっ、聞いて驚け!俺の育ての親!ニコルでーす!!」
『………えっ!!?』
にこやかに笑いながらニコルを紹介するグリム。対し、「WISE」のスパイ達は声を上げた。
その後、ニコルは半ば無理やり地下の会議室に連行された……
「……答えろ。お前は本当に、黒夢か?」
シルヴィアは椅子に座るニコルに向けて拳銃を抜き、銃口を向けた。すると、すぐさまグリムが立ちふさがった。
「このババア!!ニコルに何する気だ!!」
グリムは思わず殴りかかったが、それを止めるようにニコルが二人の間に入った。
「相変わらずだな……白檀。」
「あの……白檀、というのは……?」
ヨルが恐る恐る聞くと、シルヴィアはため息を吐きながら答えた。
「……私の昔のコードネームだ。」
「そんなにため息をつくな、白檀。俺は…昔のガツガツしてた頃のお前が好きだな。」
すると、ニコルはシルヴィアの顎に手を触れた。しかし、シルヴィアはすぐさまその手を払い除けた。
「触るな……!!」
「……もう、共に歩むことはできない……ってことか?」
「当たり前だ……そもそもお前は死んだはずだ!私が殺したはずだ!!」
その瞬間、シルヴィアの言葉にニコル以外の全員が驚いた。ニコルが昔死んだということは知っていたが、まさかそのことにシルヴィアが関係しているとは思わなかったからだ。
すると、ニコルは困ったような顔をしながら頭を掻いた。
「うーん……どこから説明したらいいものか……」
少し考えると、ニコルはもう一度会議室の椅子に座り、語り始めた。
「……話は12年前に遡る。」
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「WISE」は当時からドノバンをマークしていた。あの男が次の東西戦争の引き金になると踏んでな。
「WISE」は奴の情報を集めるため、俺に任務を与えた。ドノバンの知人、友人、家族関係……デズモンド家に関する情報……それに奴が目論んでいるであろう戦争計画を探る任務をな。
その時にグリム……お前に会った。
「ボウズ、お前名前は?」
「………グラハム。」
「俺は…ニコルって呼んでくれ。」
だが、蓋を開けてみればお前は俺以上にドノバンのことを知らなかった……無理もない話だ。生まれてすぐ自分を捨てた父親のことなんて知るはずもない。
俺はそれからお前とは別れるつもりだった。だが……別れる直前、お前は俺の手を握った。
「お前……」
お前は何も言わなかったが、助けを求めていた。俺はその手を、振り払うことができなかった。
まだ小さかったお前を、必死に生きようとしていたお前を……見捨てることなんてできなかった。
それから俺はグリムと同じ“家無し“として生活を始めた。“家無し“なら、暇な時間が多いから、情報を集めやすいと思ってな。
だが……
「黒夢、任務の方はどうなんだ?もう1年経つぞ。」
「……進んでる。」
俺は白檀に嘘をついた。任務は進んでなかった。奴の知人や家族関係はわかったが……ドノバン自身の情報は全く掴めなかった……思った以上にガードが硬かった。
「腑抜けたな……黒夢。」
「大きなお世話だ。」
その後も俺は情報を集め続けたが、大した情報は得られなかった。それでも俺は手に入れた情報を本部に報告しながら、グリムを育ててきた。
だが、それから4年後……グリムが10歳になった時だ。
「グリム!どこに行く気だ!?」
「決まってるだろ……ドノバンの野郎をぶち殺すんだよ!!」
グリムはどこからかドノバンのことを知った。自分の父親であることもな……そして復讐しようとしていた。
「やめろ!相手は大物政治家だぞ!?会えるわけないだろう!」
「じゃあ待ち伏せする!出てきたとこをナイフで刺してやる!」
「バカなことはよせ!人生を棒に振るつもりか!?」
俺はグリムの肩を掴んで必死に説得した。だが、グリムは俺の手を振り払った。
「どうせ俺の人生なんて呪われてるようなもんだ!だったらやりたいようにやってやる!」
「お前の人生は呪われてなんかいない!お前はまだ若い!未来への可能性はいくらでもある!!」
「うるせぇんだよ!!親でもねぇクセに!!!」
その瞬間、俺はカッとなってグリムの頬を殴ってしまった。
「あ……」
俺はハッとなって拳を引っ込めて、グリムの顔を見た。
グリムは一瞬驚いたような顔をしていたが……すぐに涙目になって俺を睨んだ。そして俺の前から逃げ出した。
「ま、待て!待つんだグリム!!」
俺はすぐさまグリムの後を追いかけた。だが……追っている最中に、俺の目の前に……白檀が現れた。
「白檀……?一体何を……!?」
「……これはお前が招いた結果だ。」
白檀は俺に銃を向けてきた。
なんでも、前に俺が見逃した使用人の少年が保安局に、秘密警察に密告したらしい。そのせいで、「WISE」のスパイの一人が逮捕されてしまった。
その責任を、俺に取ってもらうことになった。さらに言うと、俺がもう何年もドノバンの情報を掴めなかったことに、上層部は痺れを切らした。
役立たずはいらない……ということだろうな。
「すまない黒夢……死んでくれ。」
俺は白檀に撃たれ……死んだ、はずだった。
「うっ……」
死んだはずの俺は、見知らぬ部屋で目を覚ました。周りを見ると、手術室のようだった。そして俺は手術台の上に寝かされていた。
「ようこそ、ニコラス・ハワード君。いや、黒夢君と呼ぶべきかな?」
そこにいたのは、赤いマントに身を包んで顔を隠した、老人のような声をした男だった。
「君は生まれ変わった。我がショッカーの改造手術によって……!」
ショッカーの科学陣によると、俺は殺された後、ショッカーに身柄を保護されたらしい。そして4、5年の間、生命維持装置を使いながら改造手術を施していた。
そうして生まれたのが、仮面ライダー3号……通称“サード“。
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「……それから俺はショッカーで戦闘訓練を受け、ショッカーの世界征服に協力をする……はずだったんだが。」
長々と語るニコルの歯切れが悪くなった。
「その直後にアギトとアンノウンの戦いが始まった。ショッカーはその戦いに巻き込まれないように息を潜めた。」
「じゃあ、ショッカーが今まで出てこなかったのは、アンノウンがいたから……?」
ニコルの語りを聞いて、ロイドは声を上げた。その一言にニコルはコクリと頷いた。
ニコルの語った内容から察するに、ショッカーが今になって出てきたのは、アンノウンがいなくなって頃合いがよくなったからだと察することができる。
しかし、そうなると分からないことがある。
「ニコルさん……あなたはどうしてショッカーを裏切ったんですか?」
法条が疑問の声を上げた。さきほどグリムから聞いた話だと、ニコルは仮面ライダーとしてショッカーの怪人と戦ったとのことだ。
ショッカーからすればこれは立派な裏切り行為だ。
「理由は決まってるさ……グリムを守るためだ。」
ニコルは迷うことのないまっすぐな瞳をしながら言ってのけた。
その瞬間、ロイドは彼に親近感を覚えた。
(そうか……この男も、俺と同じ……)
ニコルを見て、ロイドは自分と重ねた。ロイドもアーニャと…小さな命と出会い、自分を変えた。ニコルも自分と同じく小さな命と出会い、変わったのだと理解した。
「とにかく、フリッドとユーリ君達にもこのことを報告しよう。」
「おう!なら俺が呼んでおくぜ!」
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「……おい、グリム……これはどういうことだ……?」
グリムはロイドに言われた通り、電話でフリッドとユーリ達に連絡をした、のだが……
「なんでパーティみたいになってるんだ!?」
店の中はいつの間にかパーティ用の飾りで彩られており、わざわざクラッカーや飲み物まで用意されていた。
「いいじゃねぇか、みんなにニコルのこと紹介したかったし、それに今日はニコルが帰ってきたお祝いだ!ニコルー!!楽しんでるか〜〜!?」
グリムははしゃぎながら、ジュース片手にニコルに近づいていった。
「ああ、楽しんでるさ。」
「ほら、料理も食えよ!ロイドの飯、結構美味いぞ!」
グリムはそう言うとニコルの皿に料理を盛り付けていく。
その様子を見て、ユーリはため息をついた。
「ったくあのガキ……人を呼び付けといて自分だけ楽しみやがって……」
「まあ、いいじゃないか。あんなに嬉しそうなグリムは初めて見たよ。」
不服そうなユーリに対し、フリッドは嬉しそうにニコニコ笑っていた。フリッドは何度かグリムのことを気遣っていたため、嬉しそうなグリムを見て、自分のことのように嬉しかった。
「グリム、ちょっといいか?」
「ん?ああ。」
その時、ニコルがグリムの肩を叩いた。するとグリムは立ち上がってニコルとともに外へ出た。
「二人とも、どこへ行く気ですかね?」
「積もる話もあるだろうさ……二人きりにさせてやろう。」
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店の外に出た二人は月の光と街灯に照らされる中で静かに会話を始めた。
「どうしたんだよ、いきなり外に連れ出して……」
「……グリム、お前にはすまないことをしたと思ってる。」
グリムと二人きりになると、ニコルは急に謝り始めた。突然の謝罪にグリムは戸惑ったが、ニコルは続けた。
「もっとお前の傍にいたかった。お前の成長を見守っていたかった。」
それはまるで懺悔するかのようだった。
「……俺はお前に何もしてやれなかった。お前の親代わりのはずだったのにな。」
「そんなことねぇよ……」
グリムは首を横に振った。
「俺が生きてこられたのは、アンタが生きる術を教えてくれたから……」
「いや……俺がお前にしてやれたことなんて何もない。お前が今まで生きてこられたのは、お前自身の力だ。」
ニコルは微笑むと、グリムの頭に手を置き、優しく撫で始めた。
「よく生きていてくれた。」
「……ッ!!ニコル……!!」
頭を撫でられた瞬間、グリムの目にブワッと涙が浮かんだ。そして次の瞬間、グリムはニコルに抱きついた。
「ニコル……!!やっと会えた……!!」
「すまなかったな、本当に……!!」
ニコルは抱きついてきたグリムを抱きしめ返した。その様子は、周りから見ればまるで本当の親子のようにも見えた。
「ニコル……これからはずっと一緒だろ?」
「ああ……」
「もうどこにも行かないよな……?」
「もちろんだ。」
抱き合いながら、二人は会話を交わす。グリムの言葉に、ニコルは慰めるように頭を撫でながら返答していった。
しかし、
「ショッカーとだって、一緒に戦ってくれるよな?」
その問いに、ニコルは答えなかった。
グリムは構わず続けていった。涙で目を腫らしながらもニッと笑った。
「俺とニコルだったらどんな敵だってやっつけられるだろ!!フリッドのおっさんもいるし…ああ、後おまけでユーリのアホも……」
「グリム。」
喜々として話すグリムを止めるように、ニコルは声を上げた。
「……今のお前に、こんなことを言うべきじゃないかもしれない……だが、言わなければお前のためにはならない。」
「ニコル……?」
グリムは思わず戸惑った。ニコルは何故か申し訳なさそうにしている。そして眉間にシワを寄せて辛そうな顔をしている。
そして、ニコルは覚悟を決めたように口を開き、静かに呟いた。
「……もう、戦わないでくれ。グリム……」
おまけ「小さいは得」
「グリム、少し背が伸びたか?」
「そうか?」
フリッドはグリムの頭に手を当てて、一年前のグリムを思い出しながら、今のグリムとの身長を比べていた。
グリムの身長は一年前と比べて3cmほど伸びていた。
「まだ成長期なんだな、よかったな。」
「でも俺……身長は今のままの方がいいかな……」
フリッドはその一言に首を傾げた。グリムの性格ならずっとチビでいるのはプライドが許せない、と思ったのだ。
「い、いや……その、俺の今の背丈だと……ヨル先輩の胸が目の前に来るんだよ……」
その言葉にフリッドは大体察したが、気にせず続きを聞いた。
「だから…その……たまに先輩が激しく動いたりすると……っぱい……」
「ん〜?なに〜?聞こえないぞ〜?」
フリッドは何と言うか分かっていたが、意地悪く聞いた。すると、グリムは顔を真っ赤にして叫んだ。
「だ、だからぁ!!せ、先輩の…お、お、お……おっぱいがっ!!ぷ、ぷるんって……揺れて……眼福……」
「うーん、素直でよろしい♪」
フリッドはニコッと笑うと親指を立てた。
この後二人はロイドとユーリによって半殺しにされかけたという。
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思春期の多感な時期にヨルさんの私服姿とかドレス姿なんか見たら、色々性癖に刺さると思うんですよね……私もその一人です。
グリムの制作秘話3
グリムは当初、二十歳ぐらいの青年キャラでいくつもりでしたが、クソガキキャラを作りたかったので一気に年齢を高校生ぐらいに設定し、今のキャラに落ち着きました。