SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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PART.10 欲にまみれた常人のなりそこない

カトルが指定した前線基地へとバイクを走らせるグリム。周りに木々が生い茂る道路に差し掛かる。

 

「!!」

 

グリムは途端に減速し、バイクを停めた。目の前にバイクと車が止まっていたからだ。

 

「……どうやってここまで?」

 

グリムはため息交じりに語りかけた。目の前にいたのは、フリッドとユーリだった。

二人はグリムの質問を無視して叫んだ。

 

「お前……一体何するつもりだ!?」

「フランキー君の仇を取りに行くつもりだろう!やめるんだ!」

 

二人の言葉に、グリムはそっぽを向いた。

 

「アレはお前のせいじゃない……事故だ!事故だと思えっ!!」

「……事故か。おっさんはダミアンとフィオナが同じ目に遭っても同じこと言えんのか?」

「なに……!?」

 

そっぽを向いていたグリムはフリッドの顔を睨みつけた。

 

「あの二人がボロボロにされても、事故だから仕方ない……『戦うな』って言われたからやり返さない!自分が死にたくないから、仲間がやられても仕方ないことだから何もしないって!!……アンタはそう言い切れんのかよ?」

「いい加減にしろっ!!!」

 

グリムの言い分にフリッドは怒って大声を上げた。そして、近づいて胸ぐらを掴んだ。

 

「たまには、ちゃんと言うことを聞けよっ!!」

「……悪い。今のうちに謝っとく。」

「あ……?」

 

グリムはフリッドの手を振りほどき、みぞおちに拳を叩きつけた。

 

「ぐぇっ……!!」

「オラッ!!」

 

さらに乱暴に蹴りを繰り出し、フリッドを突き飛ばした。

不意を突かれたフリッドはその場に転がった。

 

「フリッドさ……!ぐあっ!?」

 

ユーリはフリッドの方に顔を向けた…が、その隙を突かれてグリムに殴り飛ばされた。

 

「……俺を止めるつもりなら……死ぬ気で来いっ!!!」

「僕らを舐めるなよ、クソガキ……!!」

「俺は一度、お前に勝ってるからな……!もう一回地面に転がしてやる!!」

 

二人は上着のコートを脱ぎ捨て、ファイティングポーズを取った。対し、グリムも形見のコートを脱ぎ捨て、拳をゴキゴキと鳴らした。

 

『うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!』

 

3人は同時に雄叫びを上げ、同時に拳を振り上げて突っ込んでいった。

 

──────────────────

 

そのころ、カトル達三兄妹が待ち構えている元前線基地では……

 

「兄者。」

 

元前線基地ではテントが何個か立ち並んでおり、ザカはその内の一つに声をかけた。

耳を立てると中から何やら水音と肉がぶつかり合うような音が聞こえ、さらに声が聞こえてきた。

 

「はっ…!はっ……お兄ちゃん…お兄ちゃぁん……!!」

「クハハハ……フランは可愛いなぁ……」

 

テントの中からカトルとフランの声が聞こえる。

ザカは慣れているのか、続けて声をかけた。

 

「兄者。」

「ザカ…どうした?」

「殺し屋が集まった。ざっと100人程度集まった。」

「まぁ、急だったからなぁ……それだけ集まれば十分か…ふぃ〜っ……」

 

ザカの話を聞きながらカトルはスッキリしたような声を出した。

その時、ザカの背後から二人の屈強な男が近づいてきた。

 

「ふへへ……お前の兄貴、自分の妹とヤッてんのかよ?」

「まあ、なかなかエロい女だからなぁ!ヤリたくなるのも無理はな……」

 

男の一人が指を差した瞬間、その指は一瞬にして切り飛ばされた。

 

「がっ……!!?あぁぁぁぁぁぁぁ……!!」

「ひっ!?」

「俺の前で兄妹を馬鹿にするな……」

 

ザカは腰に携帯した鉈で殺し屋の男の指を切り飛ばした。そして血がついた鉈を隣の男に突きつけた。

 

「四の五の言ってないで……お前らは俺達の言うことだけ聞いてればいいんだ。」

「わ、わかったよ……わかったから……!!」

 

男は慌てて言うと、隣の男を連れてその場からそそくさと立ち去っていった。

すると、その様子が聞こえたのかカトルが笑い始めた。

 

「クハハハ……!頼もしいな、ザカ……特別にグリムはお前が殺してもいいぞ。」

「えーっ!?ザカお兄ちゃんばっかりズル〜い!!」

 

さらにフランの声が聞こえてきた。ザカだけが”ご褒美”をもらったことが不服な様子だ。

 

「そう言うな。お前にはメリンダを殺らせてやる。」

「えー、あのババァ?なーんか殺りがいなさそ〜」

「だが、これで兄者の目的まで後少しだな。」

「ああ……」

 

ザカに返答しながら、着替え終えたカトルとフランはテントから出てきた。

するとカトルは両手を広げて天を仰いだ。

 

「俺以外の全てのデズモンド家の人間を殺し……ドノバンの遺産は全て俺の物にする!だが…ただ殺すんじゃ面白くない……」

「絶望のどん底に叩き落としてから!だよね♪」

 

カトルの代わりに代弁したフランはウィンクをしながら笑った。カトルも釣られて笑い声を上げた。

 

「クハハハ……そうさ。自分のせいで大切な者が死ぬという絶望感を叩きつけ…殺す!それが俺達の最高の娯楽だ……!!クハハハ……!!フハハハハハハハハハハハッ!!!」

「キャハハハハハハハハハハハッ!!」

「ハハハハハハハハハハハハッ!!」

 

3人はその場で空にまでこだまするほどの高笑いを上げた。

その顔は、なんとも醜く歪んでいた……

 

──────────────────

 

「ハァ……!ハァ……!残念だったな……二人とも……」

 

そのころ、グリムの方は襲いかかってきたフリッドとユーリを返り討ちにし、逆に地面に転がしていた。

 

「俺は『ガーデン』の最大戦力だぞ……お前ら二人が、俺に勝てるワケないだろ……」

「クソッ……!」

 

この1年でグリムの強さは成長の一途を辿っていた。単純な戦闘力だけでなく、場数を踏んだことで養われた判断能力も得ていた。

 

「足が……!」

 

二人の足は折られていた。特にフリッドに至っては複雑骨折させられていた。

二人がこれ以上自分の後を追うことができないようにグリムが折ったのだ。

 

「……ユーリ、俺はお前のこと大キライだったよ。」

「あぁっ…?僕だってお前なんて……!!」

「でも…!」

 

ユーリが「嫌い」と言おうとした瞬間、グリムが割って入るように声を上げた。

 

「なんでお前のこと嫌いなのか分かった……俺、お前が羨ましかったんだ。生まれてからずっと、ヨル先輩と一緒にいたお前をな……」

「……!!」

 

グリムは続けてフリッドの方に顔を向けた。

 

「……おっさん、ありがとな。」

「え……?」

「俺を…受け入れてくれたこと。アンタが俺の頭かち割ってくれなきゃ……今とは別の人生歩んでたかもだからな……」

 

グリムはそう言うと、言いたいことを言い終えたのか二人に背を向けた。その顔はどこか寂しそうだが、どこかスッキリしていた。

 

「……出てこいよ、タクミ!」

 

グリムが叫んだ後、物陰から男が一人現れた。乾 巧だった。

巧が現れるにも関わらず、グリムは背を向け続けた。

 

「俺の後つけてたんだろ?どこからだ?」

「……病院からだ。」

「わざわざごくろうさん。でも、もう放っておいてくれよ。」

 

グリムはそう言うと、バイクに跨がろうとハンドルに手をかけた。

 

「……お前、それカッコいいと思ってんのか?」

 

その時巧は声を上げた。

 

「いるんだよな……お前みたいな自分の命捨てて戦おうとするバカが。」

「俺がバカだって言いてぇのか?」

「大バカだろうがっ!!!」

 

巧は大声を上げると、グリムの胸ぐらを掴んできた。

 

「お前はいいかもしれねぇけど、周りの奴らのこと考えろ!!お前に死んで欲しくない人間がいるってことぐらい分かんだろ!!それに……お前はまだ夢を見つけてねぇだろ!!」

「……夢なら、見つけてるよ。」

 

グリムは巧を睨みつけると、掴んできた手を振り払った。

 

「あの人の……ヨル先輩のために命を使って、死ぬ。それが俺の夢だ。」

「そんなモン夢じゃねぇだろ!!単なるエゴだろ!!」

 

巧は首を横に振って叫んだ。すると、今度はグリムが巧の胸ぐらを掴んできた。

 

「夢だよ。お前言ってたじゃねぇか!どんなにくだらなくても、どんな2アホみてぇでも、そいつにとっては夢だって!!」

「ッ!!」

 

巧は言われて何も答えられなかった。確かにそれは自分が言ったことだ、と思った。

巧は後悔した。あんなことを言わなければ、グリムもこんなことをせず、こんなことを言わずに済んだかもしれない……巧はそう思った。

 

「お前の気遣いは嬉しいぜ……じゃあな。あっ、ロイドに伝言頼むわ。…『絶対にヨル先輩を悲しませんな』ってな。」

 

グリムは再び背を向け、バイクに跨ってエンジンをかけた。そして伝言を残してその場から走り去っていった……

 

「……ちくしょう……!!」

 

巧は何もできなかった自分が情けなく、腹を立てながら拳を握りしめた。

 

「草加……!木場……!お前らならどうしてた……!?」

 

──────────────────

 

それから1時間ほどバイクを走らせ、グリムは目的の場所へとたどり着いた。

 

「よく来たなぁ、落ちこぼれ……」

「カトル……!!」

 

バイクから降りたグリムはカトルを睨みつけた。カトルの前にはざっと100人ほどの殺し屋達がひしめいていた。

殺し屋達はグリムを見るなりニヤニヤと笑っている。しかし、そのニヤついた顔は、すぐに驚いた顔に変わることになる……

 

「カトルさんよぉ、このガキ本当ぶっ殺していいのかい?」

「ああ、好きにしろ。」

「へへへ……だとさ、チビスケ。」

 

殺し屋の何人かは不用意にもグリムに近づいてきた。

 

「こんなチビが『ガーデン』の殺し屋とはなぁ……」

「ガキを雇うとは、『ガーデン』も落ちぶれたもんだなぁ。」

 

殺し屋の一人がナイフを取り出し、グリムに差し向けた……その次の瞬間、グリムの目の前にいた殺し屋達の首から鮮血が吹き出した。

 

「なっ……!?」

「ただの『ガーデン』の殺し屋じゃねぇぞ……俺は、『ガーデン』の最高戦力だっ!!!」

 

グリムの両手には、懐から取り出した斧が握られていた。グリムはその斧をさらに思い切り振るうと、目の前にいた殺し屋達5人の首を一度に切り落とした。

さらにグリムは、目の前のたった今できた死体を踏み台にして宙に跳び上がった。

 

「シャッ!!」

 

懐から手裏剣を取り出し、斧と一緒に空中から投げた。手裏剣は何人かに当たったが、致命傷には至らない。

さらにグリムはナイフを取り出し、着地と同時に目の前にいた殺し屋二人の喉元に突き刺した。

 

「死ねやシャバ僧が!!」

 

その時、背後から別の殺し屋が刀を手にグリムに向かって振るってきた。

しかし、グリムはそれを受け流すようにかわし、

 

「ウガァッ!!」

 

思い切り歯をむき出しにし、首元に噛みついた。

 

「うぐっ!!?」

「グルルルルル……!!」

 

グリムは獣のような唸り声を上げながら、殺し屋の喉元に歯を食い込ませた。今にも噛みちぎってしまいそうなほどに。

しかし次の瞬間、グリムの背中にナイフが突き刺さった。

 

「死ねぇ!!」

 

そこに群がるようにグリムの背中に殺し屋の凶器が、次々と突き刺さっていく。

中には胸や腹を貫通するものもあった。

これで「殺った」と誰もが思った。普通の人間ならここで死んでもおかしくない。だが……グリムは違った。

 

「グルルルルルァァァァァァッ!!!」

 

獣のような声を上げ、噛みついたその首の肉を食いちぎった。その瞬間、グリムはその背後にいた殺し屋の首にも噛みついた。

 

「ひっ!!」

「ウガァァァァッ!!」

 

さらにグリムは、噛みついたと同時に両脇にいた殺し屋達の顔面を掴み、そのまま腕力だけでグチャッ!と握りつぶしてしまった。

 

「なんだと!?」

 

その様子を見たカトルは思わず声を上げた。それもそのはず、グリムの体には何本もの武器が突き刺さり、体を貫かれているにも関わらず動き、目の前の敵を殺しているのだから。

すると、グリムは渇いた声で笑い始めた。

 

「クカカカカ……!!やっぱり俺は……血みどろな場所には縁があるらしい……返り血に染まるのが俺には合ってるみてぇだ。」

 

グリムは落ち着いた口調で言うと、背中に刺さった武器を引き抜いた。途中、口からは血を吐くも、構わず抜いていく。

そして、手についた自分の血をペロリと舐めながら、殺し屋達を睨みつけた。

殺し屋達は恐怖で後ずさった。そのグリムの眼は、瞳孔が開き、まるで人間とは思えず、化け物のようだとその場いた誰もが思った。

 

「ビビってんのか?ガキ一人にか?クカカカカ……それでも俺と同じ殺し屋かよ……?」

 

グリムは戻ったのだ。昔の、ヨルと会ったばかりの頃の、どす黒い復讐心を持った、クズへと。

 

「てめぇらも同じ殺し屋なら……死ぬ気で来いやぁっ!!!」

「お前達、何してる!?さっさといけぇ!!」

 

恐怖で尻込みしている殺し屋達を見かね、カトルは檄を飛ばした。すると殺し屋達はハッと我に帰って武器を構えた。

そして、鎖鎌を持った殺し屋がグリムめがけて鎌を投げた。しかし、グリムはその鎖鎌の鎖を掴み、逆に引っ張った。

 

「ぬおっ!?」

「グオァァァァァァァァァッ!!!」

 

鎖鎌の殺し屋は体重は100キロはあるかという巨漢。にも関わらず、グリムはその巨漢をまるでハンマー投げのハンマーのように振り回し、そのまま脳天を地面に叩きつけてやった。

 

「ごふっ……!!」

 

巨漢は始末した…だが、大怪我をしてる状態で行動したためか、グリムは口から血を吐いた。しかし、グリムは止まらない。

自分が倒れれば、次は自分の仲間達に被害が及ぶ……何より、ヨルをまた戦場に駆り出させることになりかねない。

 

「この程度じゃ……俺は止められねぇぞゴラァァァァァァッ!!!」

 

まだ大量に残っている殺し屋達に向かって雄叫びを上げた。

その時、誰もが想像つかなかった。一人の少年が、グリムが……伝説の殺し屋「いばら姫」を越える瞬間を……

 

 




おまけ「〇〇には勝てなかったよ」

「グリム、行くんじゃない!!」
「うるさい!!俺は行くんだいっ!!」

必死で引き留めようとするフリッド達に対し、グリムは頑として聞かなかった。
すると、フリッドはある策へと出た。

「グリム……今戻れば……ヨルさんがおっぱいでギュ~ってしてくれるって。」

フリッドは分かりやすい嘘をついた。だが、

「……………マジ?」
「マジマジ。明日は1日中、お前のこと甘やかしてあげるってさ。」
「あ……!!?甘えて、いい……!?せ、せ、せ、先輩の、パイに……!!?」

グリムはもはや陥落寸前だった。そこに、フリッドは追い打ちをかけた。

「あっ、後・・・お前が望むなら、"あまあまASMR"もしてあげるって言ってたぞ?」
「ッッッッ!!!!」

その瞬間、グリムは目を見開き、頭の中で妄想した。ヨルが自分を胸で抱きしめながら、耳元で囁いてくる姿を……

『ふふっ、いい子いい子♪グリムくんはとっても可愛いですね……今日はいっぱい甘えていいですからね?グリムくんは私の可愛い可愛い赤ちゃんです♪よちよち♡』

「……ほ、ほ、ほ、ほぁぁぁぁぁぁぁっ!!!お、俺はなんて想像を……!!お、俺は先輩をそんな目で見てたワケじゃ……いや、先輩のおっぱいに顔埋めたいとは思ってたけど!赤ちゃん扱いされたいとかそんなことは決して……!!でででで、でも、先輩が『いい』って言ってくれてるって……!?せ、せ、せ、せ……センパァァァァァァァァイ!!!!」

その瞬間、グリムは叫び、フルスロットルで来た道を全力で戻っていった……

「……あー、グリムがおっぱい大好きっ子でよかった。これでもう大丈夫……ぶほっ!!」
「人の姉使って何してんだアンタ!!?」

ユーリは激怒し、鉄パイプでフリッドの頭を思い切りぶん殴った。

「い、いやグリムだったらヨルさんで釣れると思って……それに、ヨルさんだったら案外許してくれるかもって思って……」
「僕は許しませんよ!!ね、姉さんがあのガキと授〇プ〇イするなんてェェェェェ!!」
「いや、誰もそこまで言ってないだろ?」

二人が話している間、巧は「もうやってらんね」と言って帰った。

────────────────

おっぱいには勝てなかったよ……
この先暗い展開が続くのでギャグをひとつまみ……

奇しくも豪華客船編のヨルさんと同じく大量の殺し屋と戦う展開。タイムリー。

3兄弟の名前の由来ですが、カトルはフランス語で「4」を意味する言葉。フランはフランス語で「白」を意味する「ブラン」が元。ザカは「カイザ」の「イ」を取ってから逆さに読んで「ザカ」です。

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