SPY×AGITΩ   作:ぴりもに

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PART.12 ただ傷つけて、ただ苦しんで、ただ失うなら

5日目……

ロイドは喫茶シオンにいたが、この日は店を開けていなかった。休日でないにも関わらずだ。

 

「先輩……今日、お店は?」

「……閉店だ。なんだか……店を開ける気になれなくてな。」

 

店を訪れたフィオナに尋ねられ、ロイドはシエルを抱きながら店内を見回した。

 

『はい、パスタランチとピザランチお待ちっ!ロイドー!パンの追加ー!』

 

店内を見ていると、忙しい店を手伝ってくれたグリムの姿が嫌でも思い浮かんだ。

 

「……ダミアン・デズモンドは、今日学校を休んだそうです。」

「……ああ、アーニャもだ。二人とも、アイツのことを慕ってたからな……」

 

アーニャとダミアンはこの日、初めて学校を休んだ。

昨日、病院に運び込まれ手術を受けたグリムは、なんとか一命を取り留めた……だが、意識は回復せず、植物状態になってしまった。

医師が言うには、全身の筋肉が壊死しており、体も内蔵もロクに動かない状態だという。生きているだけでも奇跡と言っていた。

それを聞いたアーニャとダミアンは、ショックのあまり部屋に引きこもってしまったのだ。

 

「フリッドは?」

「変わらず学校に行ってます。でも……今まで吸ったことのない煙草を吸うようになって……昨日も、泣きながら寝てて……」

「そうか……」

 

フリッドにとってグリムはかわいい甥っ子。その甥っ子が植物状態になれば悲しむのは当然だった。

 

「それから、ユーリ・ブライアの方ですが……ガールフレンドのノエルの話だと、寝る間を惜しんで訓練に明け暮れているようです。」

 

ユーリにとってグリムは憎たらしいガキではあるが、ヨルを大切にしているという点は自分と同じ……敵討ちぐらいはしてやろうと思ったのだろう。

 

「ほぎゃあっ!!ほぎゃあっ!!」

 

その時、シエルが泣き叫んだ。

 

「おおっ、どうしたシエル?お腹空いたか?今、ミルク作ってやるからな。」

「そういえば……」

 

「ミルク」と聞いて、フィオナは店の中を見渡した。シエルが腹を空かせれば、いつも母乳を飲ませてあげたヨルの姿が見当たらなかった。

 

「ヨルちゃんは……」

「……グリムの傍にいる。病院が閉まるギリギリまで一緒にいたいって……あの人が一番、グリムを可愛がっていたからな……」

 

────────────────────────

 

そのころ、グリムが入院しているバーリント総合病院では……

 

「グリムくん、今日クッキーを作ってみたんです!食べてみてください!」

 

ヨルは袋に入ったお手製クッキーをベッドで眠るグリムに差し出した。しかし、グリムがクッキーを手に取ることはなかった……

 

「……グリムくん、これ覚えてますか?」

 

ヨルは首元に下げているタンポポの”ネックレス”を手に取った。

しかし、それは本来ネックレスではなく髪飾りだった。

 

「グリムくんが初めてくれたプレゼントですよ。」

 

以前、グリムはタンポポの髪飾りをプレゼントするつもりだったが、誤って壊してしまい、それを捨てようとしたところをヨルがネックレスにした。

ヨルはそれを今も大事に取っていた。

 

「私…嬉しかったんです……グリムくんが、こんなに素敵なものくれたのが……なのに……!」

 

ネックレスを貰ったときのことを思い出しながらしみじみとするヨルだったが、すぐに目から涙がこぼれ落ちた。

 

「お願いです……!グリムくん起きて……!!クッキー食べてください……!!また『美味しくない』って、『マズイ』って言ってください……!!」

 

滝のように涙が流れ、グリムの手に落ちていく。

しかしどれだけ泣いてもグリムが目を覚ますことはない。あの生意気な態度も、あの笑顔も、もう二度と見れないという現実が嫌でも押し寄せてくる。

そんな時、病室のドアが開いた。ヨルは慌てて涙を拭い、後ろを向いた。

 

「カミラさん……ドミニクさんも……」

 

病室に入ってきたのはカミラとドミニクだった。二人は入るなりグリムの姿を見て目を見開いて愕然としていた。

 

「あんた……何やってんのよ……」

 

手に持っていたバッグをその場に落とし、フラフラとした足取りでカミラはグリムに歩み寄った。

 

「なんでこんなとこで寝てるのよ……!起きなさいよ!!」

 

さらにカミラは病院であるにも関わらず大声を上げた。そして寝ているグリムの胸ぐらを掴もうとした。しかしすぐさまドミニクがそれを止めた。

 

「何やってんだカミラ!」

「アンタ……!私にあんなこと言っておいて寝てんじゃないわよ!!」

「やめるんだカミラ!!グリムくんは……グリムくんはもう……!」

「う、ううっ……」

 

ドミニクの言葉を聞き、カミラはその場で泣き崩れた。

その時、ヨルはカミラが言った言葉が気になり、おずおずと尋ねた。

 

「あの……カミラさん、グリムくんに何か言われたんですか……?」

「……似てるって、言われました。死んだお母さんに……」

「えっ……?」

 

ヨルは思わず声を上げた。同時にグリムの心情を察した。

これまでグリムはカミラに対して「ババァ」と言ったり軽い悪口を言ったりしてからかっていたが、それはもしかすると、カミラに対して亡き母の面影を見ていたのかもしれない……ヨルはそう思った。

 

(グリムくん……カミラさんのことも大切に思っていたんですね……)

 

そう思ったヨルは、思わずまた涙を流しそうになったが、今度は耐えた。

その後二人はグリムに見舞いの花束を送り、何も言わずに出ていった。

カミラの涙を見て、ヨルは考えた。グリムがこんな目に遭ったのに、自分はただ泣いているだけでいいのかと。一矢報いるべきではないのかと、自問した。

 

(答えは……決まってます。)

 

────────────────────────

 

「あの…すいません。もう面会時間は終わりです。」

「あ…すいません。今、出ます。」

 

夜中になり、ヨルは看護師から注意を受けて病室を後にした。そのまま病院から出ようとする……その前に公衆電話に目が止まった。

ヨルは受話器を手に取り、ある場所へ電話をかけた。

 

「店長……今、大丈夫でしょうか。」

『おや、いばら……ヨル君。どうしました?』

「私のドレスと武器の予備、まだそちらにありましたよね?」

 

ヨルは単刀直入に店長に尋ねた。店長はしばらく黙り込んだ後、答えた。

 

『……敵討ちですか?』

「止めないでください。私だけ安全圏でただ泣いてるワケにはいかないんです。」

『……実は、グリムくんから頼まれたことがありまして……「自分が死んでも、ヨル先輩を殺し屋に戻さないで欲しい」と。』

 

それを聞いた途端、ヨルは驚いて声を上げそうになった。しかし、すぐさまフフッと笑った。

 

「そうなんですか……やっぱりグリムくんは、優しい子ですね……」

 

それはグリムからの気遣いだと思ったヨルは、優しい声色とともに受話器を強く握りしめた。より一層、報復しなければ、という気持ちを膨らませながら。

 

その後、電話を切ったヨルはタクシーを使って目的の場所まで向かおうとした。その時、病院の入口で巧とすれ違ったが、ヨルは素通りした。

 

「どこ行く気だ?」

 

素通りしようとするヨルの腕を掴んだ。しかし、ヨルは巧のその手を振り払った。

 

「……止めないでください。」

「そうはいかねぇんだよな。アイツと同じで、一人で突っ込んでいこうとするバカを、ほっとく気はないんでな……」

 

巧はヨルを止めるため、言葉を投げかけるが、ヨルはそれを聞かずに立ち去ろうとした。

それを見て巧は声を荒げた。

 

「どいつもこいつも……!いい加減にしろよっ!!」

 

巧は声を上げ、再度ヨルの手を掴んできた。

 

「アンタには家族がいるだろ!!アンタのことを待ってるダンナや子どもがいるだろ!!そいつらが大事じゃないのかよ!!」

 

巧のその言葉に、ヨルは怒りを覚えて逆に巧の腕を掴んだ。

 

「私は……!!」

「俺はっ!!」

 

ヨルが大声を上げようとした瞬間、巧がさらに大きな声を上げた。

 

「……もうたくさんなんだ……誰かが死ぬのは……!!」

 

その一言とともに巧は俯き、ヨルの手を手放した。その顔は何人も犠牲になった人間を見たような目だった。

それを見て、ヨルは段々と怒りが消えていくのを感じた。

 

(タクミさんも……もしかして……)

 

もしかしたら、巧も自分と同じで大切な人をやられたのに何もできなかった者の一人なのではないか……とヨルは思った。

 

「……すいません。心中お察しします……」

 

ヨルは怒ってしまったことを詫び、頭を下げた。しかし、

 

「でも…ごめんなさい。私のことは放っておいていただけませんか?」

「お前……!!」

「私は……グリムが辛い時、何もできませんでした……」

 

すると今度はヨルが俯き、拳を握りしめた。

 

「グリムくんはきっと、怖くてたまらなかったはずです。誰かに頼りたかったはずです。なのに……私は……!!だからせめて、グリムくんをあんな目に遭わせたあの二人をこの手で……!」

「……お前には勝てねぇよ。ライダーじゃないからな。」

「分かってます……でも、このまま何もしないで、何もなかったように過ごすなんて……嫌ですっ!!」

 

ヨルは声を上げ、首を横に振った。それを見て、ヨルは覚悟を決めていることを察し、巧はため息を吐いた。

 

「……勝手にしろ。」

 

巧はため息を吐きながら、病院前に止めたバイクに跨り、エンジンをかけた。

ヨルはそれを見て、自分を見逃してくれたと思い、そのまま通り過ぎようとした。

 

「待てよ。」

 

その時、巧は通り過ぎようとするヨルの手を掴んだ。

 

「……乗れ。」

「えっ?」

「一人じゃ行かせない。俺も一緒に行ってやる……アイツがやられて悔しいのは、お前だけじゃないんだよ。」

「……はいっ!」

 

巧の言葉と気遣いに喜び、ヨルは笑顔を浮かべ、同じくバイクに跨り、巧にしがみついた。

ヨルが乗ったのを確認し、巧はアクセルをふかしてバイクを走らせた。

 

バイクを走らせ、まず二人はガーデンへ向かった。そこでヨルは仕事用の黒いドレスに着替え、武器のスティレットをバッグにしまってもう一度巧の後ろに乗った。

 

「タクミさん、お願いします。」

「ああ……いくぞ!!」

 

二人はキリッとした顔つきになると、バイクを走らせてガーデンを去っていった。

その後ろ姿を、店長と部長のマシューは見送った。

 

「いってしまいましたね……」

「ええ……命を賭してでもやらなければならないことがある……美しい姿ですね……」

 

覚悟を決めて突き進むヨルを見て、しみじみとした様子を見せる店長。すると、暗がりの中から聞き慣れない声が聞こえてきた。

 

「日本ではあのような行動を“カミカゼ”……というのでしょうか。」

「何者ですか?」

 

マシューは咄嗟に構えた。すると暗がりの中からカシン、カシンと鉄のような音が聞こえてきた。

そして現れた侵入者を見て、マシューは目を見開き驚いた。

 

「『ガーデン』の首領とお見受けします。私は”K”と申します。」

 

現れたのは、ショッカーが作り出した自律型ロボット”K”だった。マシューが驚く中、店長は冷静さを保ちながら”K”と会話を始めた。

 

「これはこれは……いばら姫から聞いています。かのショッカーの一人だと……」

「はい。実は……あなた方にお願いしたいことがありまして……これはショッカーの意思ではなく、私個人の意思です。」

「ほぉ……」

 

店長が興味ありげに顎に手を触れるのを見て、”K”は片手に下げたアタッシュケースを開き、中を店長に見せた。

 

「これは……」

 

────────────────────────

 

あれから数時間後……二人はある場所へとたどり着いた。

そこは昨日、グリムが激戦を繰り広げた末に倒れた、元前線基地だった。

そしてそこには……

 

「おやおや……誰が来たかと思ったら……いばら姫とファイズか。」

 

憎むべき相手、カトルとフランがいた。

 

「その顔を見るに、敵討ちか?あの落ちこぼれのために!」

「黙りなさい……!グリムくんの悪口は許しません……息の根を止めさせていただきます……!!」

 

ヨルは怒りを露わにしながらバッグからスティレットを取り出し、構えた。同時に、巧は腰にベルトを巻き、さらにファイズフォンのコードを入力した。

すると、バイクが急に変形を始め、人形ロボット「オートバジン」へと姿を変えた。

 

「いいか?戦うならこいつの傍にいろ。少しは安全のはずだ。」

「はい……お気遣いありがとうございます。」

 

ヨルは巧に礼を言うと、言われた通りオートバジンの傍らに立った。

 

「おい、死ぬ気で守れよ。」

 

巧が睨みながら言うと、オートバジンはウィーンと音を立てながら頷いた。

するとカトルはククッと笑い出した。

 

「悲劇だなぁ……勝てもしないのに立ち向かい、無駄に命を散らすとは……」

「悲劇……?笑わせんな!」

 

カトルの言葉に、巧は逆にニヤリと笑い、ファイズフォンの「5.5.5」のコードを押した。

 

「ハッピーエンドに変えてやるよっ!!」

 

巧はそう言うのと同時に「ENTER」ボタンを押した。

 

《standing by...》

「変身ッ!!」

《Complete.》

 

ファイズフォンをベルトに装填し、巧はファイズへと変身した。

 

「いくぞ、フラン。変身……!」

「うん……こいつらの首を、ザカ兄ちゃんに捧げるわ……変身!!」

 

同時に、カトルとフランも変身し、4号とサイガに姿を変えた。

両者は互いに睨み合い、すぐには飛び出さなかった。その時、一陣の風が吹き、近くの岩から小石が地面に落ちた。

 

「いくぞ!!」

「はい!!」

「血祭りだっ!!」

「ザカ兄ちゃん、見てて!!」

 

4人と1体はそれぞれ駆け出し、ついに戦いの狼煙を上げた……

 

────────────────────────

 

そのころ、夜の病院では……

病院内は中を歩く者は少なくなり、警備の人間が数人歩いているだけだった。

その警備員の目を掻い潜り、中を歩く男がいた。その男はローブで全身と顔を隠しているいかにも怪しい男だった。

男は警備の目を掻い潜りながら、とある病室に入った。その病室にいたのは、グリムだった。

 

「……見つけた……」

 

男はベッドの上についているカーテンを閉め、ローブを脱ぎ捨てた。そして顔に半透明の模様を浮かべると、全身を灰色の怪人に姿を変えた。さらに何もない空間から同じく灰色の剣を取り出した。

 

「………」

 

怪人は剣を逆手に構えると、ベッドで寝ているグリムの胸に剣を突き立てた。

 

「……ハッ!」

 

そして怪人は一気に剣をグリムの胸に……

 

 




おまけ「最強の武器」

「その顔を見るに敵討ちか?あの落ちこぼれのために!」
「黙りなさい……!グリムくんの悪口は許しません!私が相手になります……この、サタンサーベルで!!」

その時、ヨルはどこからともなく仮面ライダーBLACKの宿敵、シャドームーンが使う凶悪な剣「サタンサーベル」を取り出した。

「ええええええええっ!!?」

カトルは思わず声を上げた。

「どっから手に入れたんだ、そんな凶悪な武器!?」
「シャドームーンさんにお願いしました!」
「嘘つけぇ!!貸してくれるワケないだろうが!というか、そんなもの抜いたらどうなるか分かってんのか!?」
「粉微塵にしてあげます!!」
「そうっ!粉微塵になっちゃうから!!」

カトルはなんとかしてヨルを止めようとするが、ヨルはそれを無視してサタンサーベルの持ち手をガシッと掴んで徐々に鞘から抜いていく……

「待て待て待て!!抜くな!!ヤバいヤバいヤバい!!」

そのころ……

「なんなんだあの女は……!」
「信彦!どうしたんだ?」

頭を抱えるシャドームーンに、BLACKが声をかけていた。

「おい、ブラックサン!あのヨルとかいう女はお前の知り合いか!?」
「ヨル・・・?知らないが・・・」
「私が人間の女に威圧されるなど……!屈辱だ……サタンサーベル取られたし……!」
(信彦を威圧だけで怯ませるとは……どんな女性なんだ?もしや……!)

その時、BLACKは拳を強く握りしめ、

「ゴルゴムの仕業かッ!!!」

と、叫んだ。

────────────────

ヨルさんの戦闘力×サタンサーベル=ベストマッチ?

この間シャドームーンのフィギュアーツを買ったので、その記念に。

長かったEpisode:Gも、残り数回となりました。ラストバトルにはとあるサプライズゲストを用意しています・・・というか、勘がいい人にはもうバレてるかもしれませんね。

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