「あー……ここの遺跡も人の生活感は残ってはいるけど、それ以上の物は……あ、コレクレー」
草原にポツンと存在する、崩れた民家の様な遺跡。
天井も壁も壊れ、朽ちた石積み造りのそれを調査していると、
声をかけると即座に逃げ出したそいつは、すぐに姿が見えなくなる程すばしっこい。
代わりに残された、
『はこフォルム』と呼ばれる、箱に入った方は動かないから捕まえやすいんだが、箱に入っておらずコインを背負った『とほフォルム』は、その多い目撃例に対して捕獲例がほぼないポケモンだ。
こいつらはどちらも遺跡にいる事が多く、職業柄遺跡に関わる事の多い俺も『はこフォルム』の方は捕まえている。
「パルデア地方、露出した遺跡は多いんだが目ぼしい資料は見つからないな……。風雨に晒されて遺失したか、それともとっくに誰かが持って行ってるのか……」
ブツブツと言いながら遺跡の調査を続けるが、呟いたどちらの可能性も充分にある。
そもそもパルデア地方の文明・王朝は、御伽噺レベルの伝承も含めればおよそ2度に渡って大規模な崩壊が起きたのが知られている。
俺の調べている遺跡は、近くにある物見の塔とおおよそ同じ時代の構造物であろう事から、戦乱を続けていたという
とりあえず、調査結果のレポート書いておいて……っと。
「さて、仕事終えたら飯にするか。今日はどこで食うか……」
パルデア地方に赴任して、まだ日は浅い。
男の一人暮らしに必須のスキルである、安くて量が食えてそこそこに美味い店リストの構築もまだまだなので、新規開拓も進めなくてはならない。
「そういえば、チャンプルタウンの宝食堂ってのには行った事がなかったな……」
数日前に知り合った、この地方のポケモンリーグの職員さんに教わった、サラリーマンの味方という飯屋。
確か「おにぎりが美味い」というのが彼の話だった。
決めた、今日はそこにしよう。
「おや、こんなところで……。先日はどうも」
「あらま、アオキさん。アオキさんも飯でしたか」
宝食堂に着くと、カウンターにいた先客はオレにこの店を教えてくれた、ポケモンリーグ職員のアオキさんだった。
この人、前に会った時もそうだったけど、マジでくたびれたサラリーマンって感じが凄いんだよな……。
にしても何だこの人の前に積まれてる、山盛りのおにぎり……。
米何合分食べてるんだこの人……。
とりあえず、アオキさんオススメのおにぎりのを店員さんに頼みつつ、お冷やを一口。
「今日は遺跡の調査の後……といったところですか?」
「そうですよー。収穫はほぼゼロでしたけどね。まあ、それが分かるのもまた1つの成果とは言えますけども。アオキさんは営業職でしたっけ?どんなもんなんです?」
「私も成果らしい成果は……。むしろアカデミーがそろそろ課外授業……宝探しの時期に入るので、そちらの方で忙しくなりそうですね」
「あー、あのオレンジアカデミーの宝探しですか。パルデアには来たばかりなんでよく分からないんですけど、アオキさんにも影響あるんです?」
「ええ、それなりに」
「はー……ポケモンリーグの職員も大変ですねぇ……」
話している間に、オレのおにぎりが来たのでヒョイパクとツマミながら話を続ける。
あ、これ美味い。調査で疲れた体に、塩気が沁みるわー。
「ポケモンリーグといえば、この地方のジムには挑戦されるのですか?」
「いやぁ……5年前ならやったんですけどねぇ……。今はそこまでギラギラできなくて……」
「お仕事もありますでしょうしね」
「やっぱり、考古学者とトレーナーの二足の草鞋とはいきませんわ。他の仕事に比べて、自分の裁量で働きやすいとはいえ、調査にはスポンサーも必要だから成果だしてアピールしないとですし。トレーナー業に勤しんで、本業を疎かにはできないですからねぇ」
お冷を飲み、ちょっと一息。
それからすぐに、またおにぎりに手を伸ばす。
皿が空になるも、腹にはまだ余裕があるので追加注文をする。
「そういえば、確か今度アカデミーで講義をされるとか?」
「ええ、こちらの遺跡を調査するに当たり、アカデミーが協力してくれる事にはなったんですけどね?その代わりに生徒たちの宝探しの一環として、パルデア以外の地方の歴史を教えて欲しいって事で」
「なるほど」
「とはいえ、実はオレって学校ってものに通った事がないんで、何をどうやって教えたもんかよく分からないし、まだ悩んでいるんですよね……」
「それは……大変ですね?」
「一応、歴史のレホール先生に相談して、最初に教える事は決めたんですけどね。オレの出身がシンオウ地方なんで、シンオウ神話から始めようかと」
「シンオウ神話……ですか。確かにこちらでは馴染みが薄いですし、良いのではないでしょうか」
「この間までガラル地方にいたから、ガラルで数年前に発見された……と言うよりも隠されてたのが発覚した歴史についてとも考えたんですけどね。まあ、まずはオレ自身に馴染みがある事から、という事ですよ」
遺跡の調査なんて仕事こそしているが、実際問題オレ自身に学はない。
姐さんが家庭教師的に勉強やそれ以外に必要な事を教えてくれたが、逆にいうとそれだけだ。
資格はない。学位もない。
オレにできることなんて、現地の調査とポケモンバトルくらいのものだ。
とはいえ、協力の見返りとして求められたならば、できないなりに応えるしかない。
遺跡の調査には、常にバックアップしてくれる機関が必要なのだ。
金銭面的にも、資料的にも。特に金銭面。
加えて、姐さんの面子を潰すわけにもいかないし。
追加で来たおにぎりも平らげて、アオキさんへ挨拶をしたらお勘定を済ませて店を出る。
……うん、良い店だった。これからの職場になるアカデミーから、山を挟んでほぼ反対側になるから頻繁には来れないだろうけど、また来よう。
そういえばあの山、カルデラみたいになってて内部は『エリアゼロ』と呼ばれる立ち入り禁止区域になっているんだったな。
うーむ、未発見の遺跡があるかもしれないし、一度行ってみたいところだ。
ただ、結構な危険地帯らしいんだよなぁ……。立ち入り許可でるかな……?
流石に出ねえだろうなぁ……。
いや、ワンチャン……?でもその前にテラスタル使えるようになるための、専用の講義と試験を受けないとか。
折角パルデア地方に来たんだから、テラスタルは是非使えるようになりたい。
ガラルのダイマックスもなー、楽しかったんだけどガラル以外だと使えないからなぁー……。
なんにせよ、やる事や準備する事が多い。
一つ一つ、しっかり片付けていこう。
「会うのは2度目ですが……ふむ」
偶々同じ店で食べる事になった、先程まで話していた
歳の頃は20代中盤、鍛えられた体の男性。
声は低く、私ほどではないけれどもよく食べていた。
髪の色は金髪だが、染めているのか根本が黒い。
近くにいると微かに香る匂いは、香水ではなく電子タバコのフレーバーでしょうか。
ここまで特徴を並べても、珍しい職業という点を除けばそこら辺を歩く若者。といった所で留まるでしょう。
しかし、ここに上司から事前に伝えられた情報が加わると、話が少し変わって来ます。
「彼がシンオウリーグ元チャンピオン、シロナさんの内弟子……ですか」
その肩書きは、ポケモントレーナーとしても、考古学者としてもどちらの意味でも真実との話。
彼がこのパルデア地方に関わる事で、私の仕事が増えたりしなければ良いのですが……そうもいかないでしょうね。
……ああ、先の事を考えていたら、食事の手が止まってしまっていました。
あらためて、いただきます。