ヒスイにいたボクへ、パルデアにいるオレより   作:逸環

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6話:雨の日の

「…………しまった」

 

キハダ先生にテラスタルの講習をしてもらい、2人で肉を食った翌日。

珍しくテントではなく職員寮で目を覚ましたオレは、非常に深い後悔に苛まれていた。

いや、別に隣にキハダ先生が寝てるとか、そういうのがあったわけではない。

 

ここで1つ、オレの習慣を教えよう。

オレのスマホロトムは、諸般の事情(・・・・・)によりメッセージや着信の通知をオフにしている。

今となってはその必要はないのだが、諸般の事情(・・・・・)があった当時に身に着けた習慣が今でも抜けていないのだ。

 

さて、先日図書館で友人の本を見つけ、それを本人に写真付きでメッセージを送ったわけだが。

ふと今朝になりメッセージを確認したところ────

 

「完全に未読スルー……ッ!」

 

────数件入っているメッセージの最後は、「はいはい、どうせいつもの通知設定オフなんでしょ」だった。

オレ知ってる。こういう時の女性ってマジで怖いの。

オレ、痛恨のミス……!

 

いや、アレなんですよ。

別に我々の関係って好いたの惚れたのとかはない、純然たる友情と親愛なわけだけどね?

散々心配と迷惑をかけたりもしたもんで、無下にはできないし頭も上がらないしでね?

 

とりあえず、まずはあれだ。

敵情視察から始めよう。

こういう時にまずかけるべきは……ソニアちゃんの助手をしているホップくんか?

いや、待て。ホップくんは素直な良い子だ。

気も働く子なんだが、ソニアちゃんに聞かれたら先にホップくんに連絡を取って、機嫌を伺ったのを言ってしまうだろう。

そうなればオレに待っているのは……死ッ!

ならばソニアちゃんの幼馴染、ダンデくんか?

いや、奴はもっとダメだ。何の悪気もなく「ソニアー、エゾマから連絡があったぞー」とかやりかねないッ!

そうなればオレに待っているのは……滅ッ!

となれば今のガラルチャンピオンで、ホップくんの幼馴染かつソニアちゃんとも親交があるユウリちゃんはどうだ?

いや、これもダメだ。女子同士の結び付きの強さは、男の想像を遥かに超える。

そうなればオレに待っているのは……消ッ!

 

となればオレに残された結論、それは。

 

「……あ、もしもしソニアちゃん?エゾマなんだけどもね?えっとねぇ……」

 

 

 

 

 

「この度は誠に申し訳ございませんでした……!」

 

電話による直接の謝罪。

結局のところこれが一番なんだよね。

え?なんか声が遠いって?

土下座してるからね、仕方ないと思ってよソニアちゃん。

 

 

 

 

 

さて、ソニアちゃんへの全力の謝罪を済ませた(指定の論文を送る事で手を打ってもらった)ところで、朝食の準備だ。

まずはお湯を沸かし、インスタントコーヒーを淹れる。

コーヒーを飲みながらトースターにパンを2枚突っ込み、焼けるまでの間に目玉焼きを作るわけだが、今日はベーコンを敷いてベーコンエッグにしよう。

オレは目玉焼きを作る時には、フライパンに少し水を入れてから蓋をすることで蒸し焼きにする派だ。

味付けは塩胡椒を振る。これだけで良い。

出来上がった半熟のベーコンエッグをトーストの上に乗せて、2杯目のコーヒーを用意すれば今日の朝食の完成。

 

「おいで、みんな。朝飯の時間だぞ」

 

ソニアちゃんへの謝罪電話のため、少し遅れた朝食に不満げなポケモンたちにもポケモンフードをそれぞれ与えながら、オレも朝食を食べる。

うむ、朝飯ってのはこういうシンプルなので良いんだよ。

 

食べ終わり、皿洗いも済ませたら洗濯。そして仕事の時間だ。

明後日にはまた講義があるので、その資料を作らないといけない。

ノートパソコンで文章と画像をポチポチ、と。

事前にテーマは決めているので、作業自体はスムーズなものだ。

 

「……ん?」

 

ふと窓から入り込んだ冷気に気付けば、外では雨が降っていた。

急いで窓を閉めて……しまった、洗濯してるけどこのままだと部屋干しになるな。

天気予報を見ておけば良かったぜ。

 

「フィアー」

「ん-?どうしたー?」

 

洗濯したことにちょっと後悔していると、ニンフィアがオレのズボンの裾を引っ張る。

これはどこかに連れて行こうとしているらしい。

そのままついて行くと、そこは洗濯機がそろそろ止まる頃合いの脱衣所だった。

 

「フィー」

「……おう、マジか」

 

ニンフィアがテシテシと前足で指し示すものは、洗濯機についている「乾燥」と書かれたボタン。

つまりこれは、乾燥機付きの洗濯機だったということか。

今まで外で干してたし、職員寮で寝泊まりする事も少なかったから全然知らなかったぜ……。

 

なんでそれを、洗濯機を使わないはずのニンフィアが知っているのかは疑問だが。

 

まあ、それは良いか。

ニンフィアを撫で回し、ゴロゴロしたら丁度洗濯も終わったので、そのまま乾燥ボタンをポチッと押す。

洗濯干しの心配はなくなったので、また仕事の時間だ。

コーヒーの代わりに電子タバコをお供に変え、作業を再開する。

蒸気に乗ってアマカジの汗の甘い香りが室内を包み、外の雨に対してどこか南国を感じさせてくれるのが良い。

 

講義は明後日。今日の内に資料作りを終わらせて、明日は講義の練習に当てる予定だ。

さあ、頑張って終わらせよう。

 

 

 

 

その数時間後、無事に資料を作り終わったので、予定より早いが講義の練習をしようとしたのだが……。

 

「……お前らは内容知ってるしなぁ」

 

手持ちのポケモンたちでは、練習相手にはならないことに気付いてしまった。

そもそも人間相手にする講義の練習を、ポケモン相手にするのもちょっと違う話なわけだが。

そうなると、だ。

スマホロトムを取り出し、着信をかける。

相手はこういう時に頼りになる人だ。

 

「……あ、どうもお世話になりますエゾマです。クラベル校長、今お電話大丈夫でしょうか?」

 

 

 

 

さて、電話の結果、練習の当てはできたからここからは今日はフリータイムだ。

ちなみに乾燥した洗濯物は、ニンフィアが畳んでくれた。

畳んだ洗濯物に毛も付いてないし、事前に他のポケモンにブラッシングをしてもらって毛を落としてからやったらしいな。

なんでこいつはこうも洗濯が得意なんだろうか。一緒にいて長いが、いまだに謎だ。

俺と一緒に姐さんに拾われる前は、別にそんな事なかったはずなんだが……。

 

とりあえず昼飯……いや、時間的にはもうじきで早い夕飯だな。

作業をしていたら、昼飯を食べ逃してしまった。朝がちょっと遅かったから良いけども。

しかし今日はどうするか……ああ、そういえばパルデア地方といえばサンドウィッチが有名だな。

いや、でも朝がパンだったしな。

そうなるとご飯物だな。久しぶりにカレー作るか。

多めに作って、夕食と明日の朝食にもしてしまえば楽だしな。

使うきのみはオレンのみとフィラのみで良いだろう。今日はからくちカレーの気分だ。

具はどうするかなー?冷蔵庫の中は……ベーコンに卵……これ今日の朝と同じになっちまうな。

スライスチーズ……お前は夕食の時にカレーグラタンにする時に使おう。

そうなると缶詰系が床下収納に……お、わぎりリンゴがあった。とくせんリンゴの代わりに使ってみるか。

 

「ガスコンロの利点は、焚火と違って火加減が簡単な事……っと」

 

子供の頃から焚火には慣れているが、料理をするとなるとガスコンロの便利さには叶わないな。

きのみをカレーにぶちこんでー、グルグルかき混ぜてー、まごころをー……ほいっと。

できたカレーを写真に撮っておけば、その内授業で使うネタにもなるだろう。

 

……どうせだから、姐さんにも写真送るか。

メッセージは「パルデアでもちゃんと食べてます」、と。はい、送信。

 

よし、そうしたら最後にライスをレンジでチンして、わぎりリンゴを乗せて、カレーをかければからくちアップルカレーのできあがり!

それじゃあ早速。

 

「いただきます」

 

そういえば味見をしていなかったことを思い出しながら、まずは一口。

我ながら良い出来だが、まあ良いところダイオウドウ級か?

やっぱり1人だとリザードン級は無理だなー。

とりあえず今後の講義の一環でやれるか?

そうすれば大人数でカレー作れるから、リザードン級もできるだろ。

ああ、その前にシンオウ地方からケムリイモを取り寄せて、ケムリだまとイモモチを作るっていう講義をするか。

家庭科のサワロ先生巻き込んで、家庭科の授業と合同でできたら一番だな。

 

……さて、食べたら明日の人を相手にする練習の前に、1人で読み練習しますか。

って、スマホロトムにメッセージが入ったとの通知?ソニアちゃんに怒られてから、すぐに通知オンにして良かったな。

相手は……なんだ姐さんか。さっきのカレーの画像の返信だ。

 

「────ハハッ、なんだそうだったか」

 

「今日は私もカレーです」か。

オレと同じ様に写真付きのそのメッセージには、シンオウ地方にいた頃に作ってもらっていた、懐かしいカレーライスが写っていた。

……ああ、そうだな。懐かしい(・・・・)、だ。

 

「……もう15年か」

 

ふと外を見れば、まだ降り続いている雨。

雨とカレー。なんだろうな。

 

 

 

 

こういうのが、センチメンタルな日とでもいうのだろうか?

 

 

 

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