ヒスイにいたボクへ、パルデアにいるオレより   作:逸環

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7話:講義練習

翌日、オレはアカデミーの保健室に来ていた。

いや、別に体調が悪いわけではないんだ。

 

「あ、どうもミモザ先生。今日はよろしくお願いします」

「やっほー。初めましてだねー、エゾマ先生」

「そうですね。あ、これどうぞ」

「あら!ムクロジのお菓子じゃない!そんな良いのにー!」

「いえいえ、お世話になりますんで」

 

今日はアカデミーの学校保健師ミモザ先生、それと保健室の子たちに練習の相手をしてもらいに来たわけだ。

 

「ほら、君たちも集まれー。楽しい講義の時間だぞー」

「昔の紙芝居屋さん……!?」

 

プロジェクターをセットして壁に画像が映る様にしたら、ハンドベルをカランカランと鳴らして生徒たちの視線を集め、お菓子を配っていく。

昨日クラベル校長に相談したところ、業務上手が空くことが多いミモザ先生なら練習相手として都合が良い事と、普段は授業を受けられない保健室登校の子たちや保健室でサボっている子たちにも、講義の機会をということで話を通してくれたのだ。

いやあ、本当にありがたい。

 

「はい、それじゃあ今日のお話はね。みんな大好きポケモンについての、とある昔話です。シンオウ地方に伝わるシンオウ神話。それには人間とポケモンにまつわる、今では考えられないようなお話も残っています」

 

電気を暗くして、プロジェクターで画像を投影っと。

今回のテーマはこれだ。

 

「『異類婚姻譚』……。今日(こんにち)ではそう呼ばれる、人間とポケモンが結婚できた時代のお話です」

 

なお、サブテーマは『いつの時代も女は怖いよ』だ。

 

 

 

 

むかーしむかし。これはまだシンオウ地方がシンオウ地方とは呼ばれていなかった頃より更に前。神話の時代のお話。

あるところにサーナイトというポケモンがいました。

サーナイトはみんな知っているかな?そうだね、緑の頭に、ドレスみたいな恰好をした綺麗なポケモンだね。

一応スライドでドンッ!これがサーナイトの姿だ。

はい、この綺麗なサーナイトにある日ですね、1人の人間の男の人が一目惚れでズッキュンと恋をしてしまいました。

その日から男は、サーナイトにメロメロです。

手先が器用だったので彼女を飾るアクセサリーを自作したり、彼女に語り掛けるための愛の言葉を寝ないで考えました。

しかし、男は超絶シャイボーイでした。作ったアクセサリーを渡す事も、彼女に話しかける事もできないまま、ただただ月日は経って行きます。

もちろん、美しいサーナイトにはその間にも、多くの男たちやポケモンたちがアプローチをかけていました。

その全てがサーナイトにフラれていくのを見た男は、ますます声をかけるのに臆病になってしまいました。

 

そんなある日のことです。

サーナイトが突然、男に近付きこう言いました。

「喋らなくて良いの。全部知っているから」

 

あ、ザワつかないで。違うから、これサーナイトがストーカーだったとかじゃないから。

違うの!サイコスリラーじゃないから!

 

えー、ここで1つサーナイトのとくせいを整理します。

まず一般に知られているのは、シンクロとトレースですね。

そこに特殊な例として、稀にテレパシーをとくせいとするサーナイトがいます。

はい、お分かりですね?

そうです。男の気持ちは、最初から全部筒抜けだったわけです。

男が告白してくれるのを待っていたサーナイトでしたが、男にその勇気がない事は分かっていました。

そして待ちきれなくなったその日、全部わかっているから話さなくて良いと言ったわけですね。

こうして相思相愛だと分かった1人と1匹は、その数日後に結婚し、幸せに暮らしました。

めでたしめでたし。

 

 

 

 

「はい、そうですね。これは昔話、神話時代の話しですが、明らかに現代では考えられない事が起きています。今現在、というよりもこの神話の時代を抜けてから、人とポケモンが友愛と親愛で結び付くことはあっても、結婚することはできません」

 

これは法律的にもそうだが、そもそもポケモンと人間が違う生き物であるという前提があるからだ。

しかし、この神話の時代にはその前提がなかったらしい。

 

「それでは、こちらのスライドを見てください」

 

ひとと けっこんした ポケモンがいた

ポケモンと けっこんした ひとがいた

むかしは ひとも ポケモンも

おなじだったから ふつうのことだった

 

そう書かれたスライドが壁に表示される。

 

「これはシンオウ地方に伝わる昔話です。昔は今と違い、人とポケモンの境が薄かったという事ですね」

 

まあ、神話時代の話しであり真偽は流石に不明だが。

とはいえゴーストポケモンたちの一部には、人の死後の魂がポケモンになったとされる種類がいたりもするので、無い話ではないだろう。

あと、たまにいるエスパーなどの人間の中でも特殊な能力を持った人は、人とポケモンの合いの子たちの子孫なのかもしれない。

だとすれば、隔世遺伝というやつだろうか?

下手すればいじめにつながりかねないので、生徒たちにする話ではないから割愛するけども。

 

「人とポケモンは、現代では結婚できなくなりました。でも、それで友情や親愛が薄れるわけではありません。みんなも、共に暮らすパートナーであるポケモンたちと、いつまでも仲良くしてください」

「はーい!」「わかったー!」

 

オレの言葉に、手を挙げて了解してくれる子供たち。

ミモザ先生もそれを見ながら頷いている。

よしよし、好感触。

 

だがしかし、気付いているだろうか。

まだ講義は終わっていない事を。

プロジェクターを落として、部屋を真っ暗にして、と。

ヒトモシを出せば、準備完了だ。

 

「さて、ポケモンと人間の異類婚姻譚。他にはこんなお話もあります」

「……あれ?先生?ちょっと雰囲気変わったよ?」

「……こんなお話もあります」

「強引に進めるの!?」

 

昔々、雪山の中で年中雪に閉ざされた村がありました。

その村に住む1人の青年は、それは大層美形で村の女たちは青く若い独り身だけではなく、熟れた人妻たちまでキャーキャーと……あ、ミモザ先生この表現はダメです?はい、じゃあ村の女性たちから大人気のイケメンでした。

このイケメン、外見がイケメンならば心もイケメンで、野生のユキワラシがお腹を空かせて泣いていると自分のお弁当をあげたり、そのユキワラシの群れまで付いて行ってあげたりしていました。

そんなイケメンはある日、猟の帰りに道に迷ってしまいます。

現代とは違い雪山での遭難は、救助を呼ぶ方法もロクになく、まさに絶体絶命のピンチです。

ウロウロと白い雪と夜の闇の中を彷徨っていると、ふと暗闇の中でボンヤリと灯りが見えました。

なんとかその明かりまで辿り着くと、それは山の中に建てられた一軒の家から漏れ出た光でした。

イケメンが扉をノックすると、出てきたのは髪の長い、雪の様に白い女性。それも絶世の美女でした。

そうだね、ザックリ言えばミモザ先生みたいな感じだね。でもタイプの違う大人しい感じ美人が出てきました。

……あれ?ミモザ先生照れてる?照れてます?生徒の前で美女って言われて照れてま……あ!ちょ!?物を!物を投げないでくださーい!!

 

……はい、ハプニングが起きましたが続けます。

体は凍えるは正直死にかけていたイケメンは、命辛々で美女の家に転がり込む事ができました。

家で暖まっている間に、気付けば外は吹雪です。

とても朝になったところで、帰る事はできなくなってしまっています。

夜になれば吹雪は収まるのですが、今の時代と違って街灯もなく遠くに見える町明かりすらない時代。

暗闇の山の中を歩いて帰る事は危険すぎます。

そして次の日に帰ろうとすると、また吹雪。

そうして同じ様に雪に閉ざされた毎日が続き、いつしかイケメンと美女は役場に書類を出していないだけの事実婚状態に。

2人仲良く、幸せに暮らしましたとさ。

めでたしめでたし。

 

……めでたしめでたしで終われば良かったのに。

ある日、イケメンは美女に言います。

「どうにか村に帰って、お前を紹介しないと。ずっと戻っていないから、村のみんなも心配しているだろうし」

美女は言います。

「いいじゃないですか、あなた。一年以上戻っていないのですから、きっともう皆さん諦められてますよ。それよりずっとここで、私と幸せに暮らしましょう」

イケメンは言います。

「いや、そういうわけにはいかない。村には年老いて来た両親もいる。村の人たちが良くしてくれているだろうが、迷惑をかけ続けるわけにもいかない」

女は言います。

「知らない、そんなのは知らない。知らない知らない知らない」

知らないと重ねる女は続けます。

「あなたの両親なんて知らない。あなたの村なんて知らない。迷惑だなんて知らない」

 

 

「人の理屈なんて、絶対に知らない」

 

 

それからも、男が村に戻る事はありませんでした。

女が家から出してはくれなかったからです。

そうこうしている内に、気付けば女は男の子供を産み、雪山の中の家は幸せな牢獄となっていました。

ある日、子供の世話にかかりきりになっている女の目を盗み、男はなんとか家を抜け出ます。

なに、少しの間だけだ。

村の様子を確認できたら、すぐに戻ろう。

もう子供もいるんだ。

そうだ、もう一度女を説得して、一緒に村へ行こう。

子供は1人で育つものじゃない。

これから大きくなれば他の子が。そう、友達が必要なはずだ。

男は必死で山を降り、なんとか覚えのある場所まで来れました。

男の村まで、あと少し……。

 

男はなんとか、村に辿り着くことができました。

そして言葉を失います。

 

村は、ありませんでした。

雪崩に巻き込まれたのでしょう。

全て、全て、雪の下でした。

立ち尽くす男の背に、声がかけられます。

 

「あなたが戻ろうとしてたから、戻る場所を無くしたの。ほら、帰りましょう。私たちの家に」

 

振り向いた男の視線の先にいたのは、ユキメノコでした。

男は悟ります。

彼女は男が助けた、ユキワラシがしんかした姿だったのだと。

 

 

 

「……最後に、ユキメノコの図鑑説明を引用します」

 

 

マイナス50度の 息を 吹きかけ 凍らせた 獲物を 秘密の 場所に 飾っていると 言われる。

 

雪山登山に 来た 山男を 氷漬けにし 棲家に 持ち帰る。

美男子 しか 狙われない。

 

恨み抱え 雪山に 消えし 女人の魂 宿りし ポケモン。

行い悪し 男を 呪い殺すと 伝承あり 肝 冷えたり。

 

 

「以上、『異類婚姻譚。いつの時代も女は怖いよ』でした」

 

ヒトモシがモンスターボールに戻り、部屋が暗闇に包まれる。

シン……とした保健室の中、生徒たちが喋る事も動く事もできなくなった中。

 

「……いや、怪談噺!!??」

 

いち早く復帰したミモザ先生のツッコミが響いた。

いえーい、その通りー。

 

 

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