ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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結構、間が空いてしまいましたなぁ。 久しぶりのお仕事! 新キャラ美濃の殺し技もとくとご覧アレ。




第五話~仲間無用~①

 満月が、窓の向こうからその姿を覗かせる。

街は静まり返り、辺りは数箇所の街灯だけが道を照らしているのはこの街が夜は人気のない通りだということを分からせてくれる。

 

夜は誰も好んでこの付近を通りたがらない。 ひったくりや殺人などが多く発生するからだ。

 

 

「やっちゃーん。 そんなところでドスケベなオッサンみたく窓覗いてんなよ。 そんなとっから、女の裸でも見えるのかぃ、ちょっと俺にも見せてくれ」

 

窓の付近で外を眺めていた勇次が振り返ると、耳にピアス、右腕にブレスレット、黒い着物の坊主が一升瓶を片手にそんな事を言う。

 

 

・・・まったくコイツは変わんねぇな。

 

勇次は窓を閉めて、鍵を掛けた。 携帯の画面を見たのは、先に出かけた静香と美濃の二人が出てから何分経ったと確認するためだ。

 

「墨、おめぇ・・・まだ生きてたのか」

 

やがて重々しく口を開いて、勇次は腰を落ち着かせる。 八畳一間のこの部屋で静香と二人で暮らすには事足りる空間だ。

 

 

「今更なに言ってんだ・・・けど、ガストレア大戦が起きて皆が散り散りになってから10年か。 まぁ、あんな事があったんだ。たしかに死んでても可笑しくはねぇ」

けどよ、と墨は酒をお猪口に注ぐとそれを持って高らかに言うのだ。

 

 

「俺は生き残ったぜ。 化物共の牙から、爪から、終いには人に化けた奴等までもが俺に襲い来る中、俺は死ななかった・・・なぜだか分かるか?」

 

「しらねぇな」

 

そうかい、と彼は一口酒をその口に含むと呑み干して言うのだ。

 

 

「お天道様がなぁ・・俺にここで死ぬなとほざきやがるのよ。 ここで死ねねぇ分、お前にはもっと相応しい残酷な死に様を用意してるんだぜって仰ってるのさ」

 

 

「お前のそういう発想がまたアレだな。 頭が逝ってらぁ・・・いいか? 俺たちは散々人殺してきたんだぜ? それがお前、いつ首くくられてもおかしくねぇんだ。 そういう最後しか期待できねぇのはあたりまえじゃねぇか」

 

 

墨もまた晴らし人であり、勇次もまた晴らし人だ。 二人とも、ロクな死に方をしないというのは心の中で最初から分かっていたことだ。

 

「お前・・・今でも殺しを?」

 

 

勇次のその問いに、墨は笑顔で首を縦に動かした。

 

「あの大戦が起きた後、要人が死にすぎたせいで『仕事』がなくなっちまった。 生計が成り立たねぇんでな。 金欲しさにバラニウム鉱山の採掘現場で働いてた」

 

 

彼は一口注いでその当時の事を思い出したか、目が完全に据わっていた。

 

「地獄だったぜぇ・・・あんま知られてねぇことかもしれねぇが、あそこにも裏の顔がある。 採掘現場の作業員は殺人やら、裏商売でお縄を食らったスネに傷持つ奴等ばっかりよ。 中には普通の場所もあるだろうが、俺は悪いところに当たっちまった」

 

「そういう奴らを『お国の為に』と銘を打って死ぬまでコキ使う訳だ。 当時はバラニウムが発掘されててんやわんやだったからな・・・酷ェ話だ」

 

 

だからね、と墨はにっこりと勇次に微笑みかけた。

 

 

「俺こわくて逃げてきちゃったの」

 

「やっぱりか」

 

そんな墨の言動にも対して裕二は驚かなかった。 この男はいつもこうなのである。

 

嫌なことはイヤ! 楽しいことは死ぬまで楽しみたい! お酒と女大好き! 

 

 

まさしく自由奔放、伊堵里 墨とはそういう男だ。

 

「さっきのガキもお前が拾ったのか?」

 

「正解」

 

 勇次が言うガキとは、墨が連れていた跳ねた赤髪の少女の事だ。やたら笑顔でいたのが印象的だったのを自分は覚えている。

 

 

「3年くらい前だったかぁ、鉱山の仕事逃げてる途中に美濃を拾ってなぁ。 呪われたガキどもの今までの例の如く、捨て子だとよ」

 

 

「よく”こっち”の世界に引き込んだな」

 

 好き好んで殺しの世界に踏み込む者などあまりいない。 勇次はそれを理解していた。始める者は大概が色々と事情を抱えているものである。 勇次も墨も同時にこの殺しの世界に入ったが、あの少女が殺しの世界に張り込んでしまったのにはそれ相応の理由があるのだろう。

 

 

・・・そういえば七海を殺し屋にする時は俺は結構、猛烈に渋ったけなぁ。 思い出すわ。

 

 

 随分と昔の事を思い出しながらも彼はお猪口に注がれている酒を飲む。 空になったお猪口に墨がまた酒を注いできた。

 

 

 

 

「まぁ・・・それは追々、話してやる。それよりもやっちゃん、チームの結成の話さ、考えてくれかよオイ」

 

 

ああ、と勇次は顔を険しくて腕を組んだ。

 

 

「昔みたくチームを組んで仕事するってんだろ? 俺と七海、お前とあのガキンチョか」

 

「おうよ。 チーム組めば、一人でやる危険な仕事も楽に出きらぁ。 その分デケェ山にも当たれる・・・そしてなにより、お前んとこの七海ちゃんには裏で仕事する仲間が必要だろ?」

 

 

 墨の言う事も最もで、過去の暗殺者たちは一人の有力な権力者を暗殺する際にそれぞれの暗殺者達と協力して暗殺をすることが多かった。 一人で行う殺しのリスクはかなり減るというのが一番のメリットだろう。

 

 

・・・たしか七海も友達欲しそうだったなぁ。

 

 

勇次は、過去に静香に聞かれた事がある。 勇次はお仕事仲間がいないの?と。 それに対して自分はいないと答えたのだが、静香は小さく笑って言った。

 

 

『勇次はぼっちだね。だいじょーぶ、私も立場的にはぼっちだから』

 

 多分だが、学校に友達がいないという訳ではない。 いつぞや帰宅中に静香が変な喋り方をするツインテールの少女と楽しそうに談義していたのを見たことがある。 友達はいるはずだ。

 

ただ『暗殺者』と『呪われた子供』という身分を隠している彼女にとって、普通の子供達との関係はどこかで苦しいと感じる部分があるのだろう。

 

要は、腹を割って話せる同年代がいないのだ。 だが同年で、しかも呪われた子供で暗殺者なんてそうそういない。

 

「チームのことだが」

 

それを全て、静香の諸事情も踏まえた上で勇次は答えを出す。

 

 

 

 

「俺は反対だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「え? なんで断ると思うの? 七海ちゃん」

 

 

 相良美濃は夜の月がよく見える一件の住宅の屋根の上に静香と居た。 

現在は深夜0時過ぎ。 どこも家の灯りが消えているので頼れるのは真上の月の光だ。

 

 

美濃の問いに対して七海は腕を組みながら言うのだ。

 

 

「だって勇次は金の亡者だよ。 ”分け前が減るから絶対やだ!”って絶対言うね」

 

「なんか大人なのにセコイね」

 

「いや、なんかあの人の言う分には”大人はね、セコイくらいがちょうどいい”らしいよ」

 

よくわからんね、と静香はお手上げのように手を掲げた。 自分の相棒である墨にも似たようなところがあるが、殺し屋に限らず、まさか警察官までそういう考え方をする人がいるとは。

 

「それより」

 

屋根に座った静香が口を開く。

 

「お仕事の内容・・・もういっかい確認しよ」

 

「うん、今回は二人で組んでの暗殺だからね」

 

その言葉に静香がこくん、と首を縦に振る。 美濃が同じくして静香の隣に座った。

 

 

「殺しの的は大平病院の院長、朝野龍平(あさのりゅうへい)っていう人と、山泥組(さんでい)の寺田淳(てらだあつし) 」

 

「あ、その人知ってる。 たしか結構テレビで有名になった医者だよね。 医療ミスとか執刀中の居眠りとかで」

 

うん、と美濃はその男に関する情報の提供を続ける。

 

「最近だと急患を引き取れる状態だったのに、断って裁判にかけられたけど無罪だったんだよね・・・断られた患者さん、死んじゃったのにさ」

 

 

「詳しいね」

 

 

「実はね、その死んだ患者さん。 私たちがこっちに来てからよく按摩屋に来てくれてる常連だったんだ・・・最近、調子悪いから心配してたんだけど、まさかあんな事になるなんて」

 

 

酷い話だね、と美濃は言った。 東京エリアに墨と二人でやって来て、按摩屋をやり始めてからの第一号の客であり、美濃の初めての按摩の相手だった。 

 

初老の女性で、笑顔が素敵な人だった。 仕事で会う度にお菓子とか渡してくれたし、何より自分の手を『優しい手』だと言ってくれたのはあの人が初めてだったかもしれない。

 

こういう人を大切にしていきたいと思っていた矢先に起きてしまった不幸だった。

 

 

「朝野って人が処罰されないのは、裏で手を組んでる人がいるのさ。 それが山泥組(さんでい)の寺田淳(てらだあつし)・・・」

 

 

「その二人が手を組む理由って?」

 

 

「なんか難しい話で良くわからないけど、死んじゃった人の目とか身体の物を高く売るんだってさ。 朝野はその死体の提供者だね」

 

 

こういった話が本当にあるものだろうかと、美濃は改めて疑ってしまう。 仮にも人を助けるはずの医者が、命を弄ぶなどしていいはずがない。

 

 

「それは、許せないね・・・名前が名前だけにチームバチスタ的な事をやってそうなのにッ」

 

静香も怒りがこみ上げていたのか、刀を手の取り、その刃を一瞬だけ覗かせる。 刃に映ったその表情が明らかに人殺しのソレだった。

 

 

・・・凄い、殺気だ。

 

能力も開放していないのにこの感じられる殺気は本当に同年代なのかと疑った。 自分も確かに『晴らし人』だ。もちろん墨ともこれまで色々な殺しを経験している。 殺気の纏かた、目つきなどは精通している者ほど据わるというが、静香のは同年でもそれを感じさせたのだ。

 

 

・・・いけないいけない。

 

呑まれてはいけない、と自分に言い聞かせて美濃は話を戻す。

 

「今夜は月一回の朝野と寺田が会う日なんだ。 そこで金をもらってるらしいよ。場所はもう分かってるから後は・・・段取りだけ決めよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「段取りだけ決めよう」

 

 

 

 冷静にそう言う美濃に対して、静香は刀を納めて落ち着きを取り戻した上で思。、彼女は冷静な判断力を持っているのだと。依頼人の事情を踏まえた上で、関係のない自分が怒りを感じているのに、彼女は同じ年代にも関わらず冷静に仕事の段取りを持ち出してきた。

 

 

・・・結構、場慣れしてるのかな。

 

 

 静香は勇次と共に裏の仕事を初めて今年で一年だ。 最初はよく小さいヘマを起こして、迷惑をかけてた未熟な自分を思い出していたが、それを乗り越えることである程度は熟練されたのではないかと思っていたが、冷静な美濃を見ると、それが錯覚だったと感じてしまう。

 

 

何年くらいこの仕事をしてるのかな、と素直に思っていた静香に美濃が段取りを説明していく。

 

 

「場所は組長・寺田の邸宅。 周りには見張りが二人いるけどあの人達は私がやるから、七海ちゃんは寺田を。 んで、逃げようとする朝野を私が殺る」

 

おお、と美濃の説明に静香が感嘆の声をあげた。

 

「す、凄い、まるでリーダー! リーダー並みの指示力だよ!」

 

「そ、そう? ウチはいつも墨さんが考えてくれてたから、それを真似してみただけなんだけど・・・」

 

「いや、それ真似できるのが凄いよ! 私なんて家入って後ろから”グサッ!”逃げてる奴を”グサッ!”しか言えないからね!」

 

我ながらゲスい、と思う。 刀なんて扱ってるからかもしれないが。

 

 

「で、でも。 論より証拠・・だよ? 細かい作戦よりも頭の中でのイメージを実行できるかだし、七海ちゃんが浮かべてやりやすいならそのシンプルさがいいんじゃ・・・あ、あと私をあまり、ほ、褒めないで」

 

 

え? と首を傾げる静香は目の前で顔を赤くしている美濃を見る。 見たところ、彼女は両の人差指をつん、つんと合わせていて、ちょっと身を捩っている。

 

 

「え、もしかして照れ屋? 照れ屋さんなの美濃ちゃん!?」

 

 

事実を突きつけられたか、美濃は静香の肩を掴んで大きく揺らし始めた。

 

 

「だ、だってぇ! 私、あまり慣れてないんだよ人に褒められるの! 墨さんに褒められるのは大体慣れたから平気だけど、初対面で同い年の子に言われるのは初めてで・・・・うわー!」

 

 

「ぐへっ、美濃、ちゃん! 人が起きるよ!」

 

静香の途切れ途切れの言葉に反応した美濃が、はっ!と気付いて動きを止める。

 

 

「深呼吸、深呼吸しましょ。 大抵の心の乱れは深呼吸で解決できるから・・・さん、ハイッ!」

 

 

「ひっひっふ――――っ! ひっひっふ――――っ!!」

 

 

 

・・・まさかのラマーズ法ッ! ハイレベルな深呼吸だね美濃ちゃんッ!

 

 

既存である呼吸法を行う美濃が数回ほど繰り返して落ち着いたか、小さく息を吐いて肩をぐったりと落とす。

 

 

「お、お恥ずかしいところを・・・お見せしました」

 

「う、うん。 し、仕事に差し支えるから、これからはあまり褒めないようにするね? うん、それがいい!」

 

え、と声が漏れた。 それは静香の口からではなく、美濃の口からだったのに気づいた静香は美濃の顔を見て目を数度見開く。

 

 

その時の美濃はまるで捨てられた子犬のような目だった。 これから自分がダンボール箱に詰めて雨の中捨てるかのようなそんな罪悪感を自分は今感じている。

 

 

悪逆非道。 そんな言葉が脳裏を過ぎった。

 

「いや、違うよ! 悪逆非道の静香じゃないよ! 私は皆の愛犬! ラブラドールレトリバー! 柴犬ビックリ! 今日のワンコに特集されそうな癒し系のワンコだよ! だからそんな目で見ないで!」

 

 

勇次がいたら”心まで芸人になっちまったか。 お前は今日から芸人犬(げいにんいぬ)だな!”と言われそうだ。 それに対しての美濃の反応は。

 

 

「もうだい、じょうぶ、だから・・・仕事、いくよ? ね?」

 

 最初から最後までツッコミ満載のネタを披露し、重い雰囲気を和らげるつもりの静香だったが、そんな渾身のギャグに応える事もなく、涙目を浮かべながら美濃は立ち上がって、その足で屋根を走り幅跳びの要領で次から次へと飛び移っていく。 能力を開放しているのか、凄まじいスピードだ。

 

 

 

ひとり残された静香は息を飲んで、先ほどの涙目を浮かべた美濃を思い出しながら一つの結論を出した。

 

 

 

 

「やっべー! マジやべー! 仕事に影響する! 絶対死ぬ! 私たちまとめて絶対しぬー!」

 

 

 

静香は飛び去った美濃を全力ダッシュで追い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある邸宅の一室に、男が二人居た。 和室にて、灯篭だけの光で周りは暗いと思うかもしれないが、二人だけならば充分な明るさだ。

 

 

 艶のある黒塗りのテーブルを挟んで男が向かい合っている。 一人はヒゲ生やした目に隈のある中年の男。もう一人は、脂の乗った角刈りの太った男だ。

 

 

「朝野さん」

 

 

角刈りの太った男が、テーブルの上にアタッシュケースを乗せた。 ケースは随分と重みを増しているのか、テーブルに置いた瞬間、ゴトッという鈍い音を立てる。

 

 

「今月も、なかなかいい値段で臓器の売買ができました。 貴方のお陰です」

 

感謝するように言われて、彼は傍にあったワインをグラスに注ぐと、目の前の朝野と呼んだ男に差し出した。

 

「いえいえ、寺田さんの商売ルートがあってこその、私も医師としてのやりがいがあるというものですよ。 私に目を掛けてくださって・・・感謝するのは、こちらの方です」

 

 

上っ面の、明かに下手にでる朝野はそう笑うと、深々と頭を下げる。 寺田もそれを見て、花柄の扇子を開いて自身を仰いだ。

 

 

「では、次回も頼みますよ。 いいですか、新鮮な臓器でお願いします。 鮮度ではありません、若々しい臓器です。 今好意にしてくださってる商売相手は裏の取引用に10~30代前半の臓器をリクエストしているようです。間違っても、機能が低下している老人の臓器はもって来ないでくださいよ」

 

 

卑しい笑みを浮かべた寺田に対して、朝野も小さく、フフと鼻で笑ってワインを飲み干す。 アルコールが喉を、食道を、胃をと、それぞれの器官を通っているのを感じながら彼は言う。

 

 

「いいでしょう。 ちょうど今、18歳と25歳のガン治療の患者、脳梗塞で半身麻痺になったギリ30歳の女性が一人・・・この人は手術中の助手の睡眠薬の量のミスという事で上手いこと死亡させましょう・・・その時の『ごまかし』も、よろしくお願いします」

 

 

ほっほっほ、と扇子を閉じた寺田が高らかに笑った。

 

 

「任せなさい。 我々にかかれば、裁判は確実にあなたに有利になる。 ふふ、これで次回も商売が捗ります。 それにしても、朝野さんはまさしく、『名医』でございますなぁ!」

 

 

「寺田さんも、見事な『商売人』でございます」

 

 

儲け話に華を咲かせる外道共は、こうして金を受け取り、数々の非道を繰り返してきたのだ。 助かる命、助からない命を全て『死』へと向かわせ、その魂抜けた身体の一部を金で世界へ売り飛ばす堕ちた極道、そしてのその御零れで甘い汁をすする堕ちた医者。 命弄ばれ、散った命、その恨みは数知れず。

 

 

 

 

 

 

今こそこの恨み、晴らすべき時は来た。

 

 

 

 

「一掛け(いちか)、二掛け(にか)、三掛けて(さんか)――――――」

 

 

 

 

障子の向こうからの謎の声に、二人は思わずその冷たい歌に身を震わせた。

 

 

「だ、誰だ・・・!!」

 

 

 

 無用心だが、そのリスクを覚悟で灯篭おの光で商事に映し出された小さい影に、寺田は近づいていく。

聞こえてきたのは冒頭の部分だけでも分かる、知っている人は知っている、鹿児島の西郷隆盛に関連するわらべ歌だ。

 

 

 

 

 

 

「仕掛けて、殺して、日が暮れて―――――」

 

 

 丁度障子一枚挟んだ距離まで寺田が近く。 不可解にも、歌はそこで途切れ、続かなくなる。 その影の正体を確認すべく、寺田が息を呑んで障子を開こうとしたその時だった。

 

 

 

「ぎっ・・・・!!」

 

 

 突如として、寺田の胸部に異変。 何か、冷たい物が心臓の辺りに入り込んでいるような感覚。 数秒後、その違和感はやがて激痛となり、全身を駆け巡る。

 

寺田が自分の胸に目を移した時、その表情はみるみる青ざめていった。 鉄のような棒が、自分の心臓に値する位置に突き刺さっていたのだ。

 

彼は、それが刀だということも認識する事は出来なかっただろう。 痛みで定まらなくなった思考で確認できたこととすれば、その鉄の棒が障子の先から伸びているという事だった。

 

 

「そ、そん・・・なッ」

 

 苦し紛れに鉄の棒を握り締める寺田だが、それが刀だということに気づかず、握った手からは止めど無い血が刀を伝い、流れ、数滴が畳の上へと落ちていく。

 

 

薄れゆく意識の中、寺田は障子の向こうから、自分に向けての最期の言葉を聞かされる。 

 

 

「アンタ如きがッ 『商売人』を語るんじゃないッ!!」

 

 

そう吐き捨てた障子の向こうの少女はトドメと言わんばかりに刀を捻りながら押し込んだ。 寺田は痛みに耐え切れず体を丸めるがそれが更に刃を深めていくことになり、次第に立つ力も失い、畳へと沈んだ。

 

 

 

「ひっ! こ、これは一体・・・・!!」

 

 

後ろから見ていた朝野は終始何が起きたか理解できていた。 突然と寺田の背から飛び出たのが刀で、そこから出てきた夥しい量の血で彼が刺されたのだということを彼は確認できたのだ。

 

 

逃げようとする朝野が足を動かそうとした時、一箇所だけ穴の空いていた障子が勢い良く開かれる。 そこには一人の少女が居た。

 

 

「晴らし人、七海静香ッ 外道の命、貰いに来たッ」

 

黒の羽織を纏、刀を構えた、そして動物の耳を生やした白い長髪の少女がそこに居た。

 

 

 

 

 

 

 

 晴らし人、七海静香の暗殺技は『刀』を用いた斬撃・突きである。 その剣技は歳に合わず、それなりに精錬されているものであるが、武器も持っていない殺しの的に対して、彼女が仕損じる可能性はまずないだろう。

 

 だが、『刀』という得物は必ずしも『暗殺向き』という訳ではない。 理由は、壁に挟まれた路地や柱、壁などがある室内で振り回すのは空振りをした拍子に壁に突き刺さるなど大きな隙を生むからだ。

 

余程の熟練者でなければ、狭い室内で刀を振るうという行為は出来ないだろう。

 

 

しかし、静香がこのデメリットを解決したのは、彼女が会得しようと、現在修練中の『流派』の賜物であると言っても良いだろう。

 

 

 

――――奥山新陰流(おくやましんかげりゅう)。 それが彼女の修練している流派だ。 これは戦国時代から安土桃山時代までに活躍いた剣客、奥山公重の流れを汲んだ事により生まれた流派である。

 

 

 

あらゆる死角から、殺気を閉じ込めた一撃必殺の『突き』に特化したこの流派は、長刀を扱う彼女には絶対必須な技術である。

 

 

・・・急所をしっかり突けたッ! 今日もナイスエフェクトッ!

 

 

 

寺田に押し込まれていた長刀を引き抜くと、べっとりと付着していた寺田の血を刀を振って払う。 その動作で、血飛沫を見た目の前の朝野は完全にビビっていた。

 

 

「ひ、ひぇえええ!!」

 

 

 

なんとだらしない姿だろうか、鼻水も涙も垂らしたその朝野の姿は先程までの悪人の顔とは思えないほどの豹変ぶりである。

 

 

死んでたまるか、と一言残して朝野は後ろの障子を開けてその部屋から逃げ出した。

 

 

・・・ま、私の片付けは終わったからね。

 

和紙を取り出して絶命している寺田の服を和紙を挟んだ手で掴むと血のついた刀を綺麗に拭き取る。 錆は刀の天敵だ。 この後、手入れはするのだが取れる汚れは今のうちに取っておいたほうがいい。

 

 

・・・美濃ちゃん、なんか心配だなァ。

 

 

この邸宅に入り込む直前に見た美濃の表情を静香は思い出す。 先ほどのように暗く沈んだ顔はしてはいなかったが。

 

 

「なんか凄い地雷臭がするんだけど・・・アレ? もう既に私、地雷踏んでる?」

 

美濃にとっての『褒める』ということは、ただ単に『照れ屋』という事を表している事だけなのかもしれないが、褒めることを自分が否定したとき、彼女が浮かべた表情はたしか。

 

 

・・・『悲しい』というか、『怖い』というか・・・まぁ、ニオイ的にだけどねッ

 

 

 動物の、しかもモデル・ドッグ故か嗅覚に対しては非常に敏感だ。 嗅覚に優れすぎたせいでキツイ臭いとかにはかなり応える時があるが、他人の臭いを嗅ぎ分ける事によって、ある種『感情』が臭いとして解るようになってしまった。

 

 

・・・勇次はタバコと親父臭しかしないから中身が分からないけど・・・美濃ちゃんのは間違いなく地雷! 私、地雷踏んでますッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 寺田の邸宅の屋根に座った相良美濃は、家の中から男の叫び声を聞いて、それが寺田が死んだ事の合図だということを感じ取った。

 

 

・・・やっぱり、七海ちゃんはかなりの手練。

 

 

 段取りの時点で纏っていたその殺気はただならぬものだったが、実力違わず、彼女は本物だった。 寺田が彼女に始末されたとなれば、いずれ出口に一番近いこの場所に現れてくるだろう。

 

「どうした!!」

 

 

その屋根の真下、寺田と朝野の護衛役でもある黒スーツの男が声を上げる。 合流される前にこの二人を黙らせなければならない。

 

 

・・・この人達は殺しの的じゃないもんね。 だったら!!

 

 

 能力を開放し、屋根に両足を引っ掛けて、ぶら下がるように上半身を投げ出すと、丁度慌てた護衛二人の背後を美濃は取った。 護衛二人の間隔が両腕の届く距離であったのを確認して二人の首めがけて手刀を振りかざす。

 

 

・・・まず、極限まで力をセーブして、かるーく!

 

 

ドスンッと、その手刀がヒットした瞬間、まるで糸が切れた人形のように二人はその場で崩れ落ちた。美濃は二人がすぐに二人に駆け寄って首筋に手を当てて、脈があるのを確認するとほっとした息を吐いた。

 

 

・・・よしッ 二人とも生きてるッ ワンチョップ気絶成功!

 

よくアクション映画で見られるワンシーンを真似てやってみたのだが、案外うまくいったりする。 子供の力では成し得ないが、能力を開放してはオーバーキルで首の骨を折ってしまいかねないので、極力セーブを心がけてやらなければいけないのがこの技の難点か。

 

 

ちなみに、首チョップで気絶する原理は脊椎を叩かれた事により、脳内の情報混乱が起きて失神を招くからとか。

 

「ち、ちくしょう! どうなってんだ!」

 

落ち着いたのも束の間、美濃の前方の障子が開け放たれて逃げてきた朝野が息を上げて現れる。

 

 

「来たね・・・朝野!!」

 

 

自分にとっての本命。 そんな敵が現れても彼女の心は冷静だった。 今目の前のターゲットである朝野が心臓を細かく刻んでいるのに対して、美濃の心臓は常に一定のリズムだろう。

 

 

「おばさんの恨み・・・生きたいと願っていたあの人の命を弄んだお前を、私は許さない」

 

 

「クソガキがッ」

 

 ヤケにもなったのだろうか、相手が赤目の少女だということも承知の上で、冷静な判断を欠いたまま、朝野は美濃に接近する。

 

狙うは美濃の首。 両手で掴んで力のある限り握りこんで、その骨をへし折ってやる魂胆だった。

 

 

「ふんッ!!」

 

 狙い丸分かりの攻撃は自分にとっては誠に都合が良い。 狙っている場所が首だと分かった美濃は両手で朝野の手を合わせて掴むと、組み合う形となった。

 

 

「こ、コイツ・・・な、なんだこの力は!」

 

 

 本来なら大人である自分が負けるはずはない。 だが相手は呪われた子供、多少の腕力に差が出てしまうだろうが、それでも目の前の少女は足場を揺らすどころか、眉一つ動かしていない。 美濃は完全に腕力のみで朝野を押さえ込んでいた。

 

 

 

 

 

ガストレア因子はベースになった生物によって、様々な能力をその子供に与える。 ウサギならずば抜けた瞬発力、フクロウなら夜目が効き、イルカなら高知能、クモなら粘着性の糸を出せるなど。

 

 

 

相良美濃に与えられたのはパワー系の因子。 パワーといっても様々な生物が存在するのだが、彼女は昆虫をベースにした因子を持っていた。

 

 

 

ならば、一体どんな昆虫なのか。

 

 

 例えば、力の代名詞『カブトムシ』。 この昆虫は自重の五十倍の物体を牽引するが、カギ爪を持った昆虫が条件の整った足場ならこの程度の力を持つ昆虫はいくらかいる、だが――――。

 

 

全生物を人間大の大きさにした時、カブトムシよりも上の・・・自重の百倍の重さを牽引することができる生物がいる・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――それは、蟻(アリ)である。

 

 

 

相良美濃のベースとなった因子はモデル・アントだった。 それ故に、強力な怪力を有している。

 

 

「ぎゃあああッ!!」

 

 美濃が力任せに握力のみで朝野の手の骨を粉砕した音が響き、同時に悲痛な叫びが上がる。膝を着いて痛みに唸る朝野だったが、髪を掴まれた彼は顔を無理やり上を向かされ、首に美濃の指が突き刺さる。

 

 

「――――――ッ!?」

 

 

次の瞬間、全身に電気が走ったかのような衝撃を朝野は叫ぼうとするが、驚いたことに、その声を発することが出来なくなっていた。

 

 

「声が出なくなる秘孔突いた・・・・お前はもう叫ぶことは出来ないッ」

 

「―――――――ッ! ―――――ッ!」

 

 必死に、何かにすがるように、涙を流し、嗚咽を漏らしながら彼は首を振る。 死にたくないとそう訴える彼だが、目の前の少女は許す価値すらないと決め、その両頬に手を添える。

 

 

次の瞬間、浅野の首が鈍い音と共に百八十度以上回転した。まさしく力を誇張した技でもあるこの『首廻し』は美濃の十八番でもある。

 

 

「そうやって助けを求めた人を・・・お前は何人殺したんだ」

 

 

泡を吹きながら、完全に絶命した朝野の体が地面へと沈むのを確認すると切なげな表情でその場を後にした。

 

 

 




 なんとなく、今回の仕事の依頼形式は『アカメが斬る!』方式になってしまいました。 だれかが取り敢えず依頼を持ってきて、依頼人の事情を淡々と話してすぐさま仕事が始まり・・・みたいな。

 仕事人とアカメが違う部分は依頼人と仕事人たちが密接に話に食い込んでくるという事。 アニメだと30分でまとめなきゃならないかもしれませんが、依頼人とナイトレイドの関係があんま濃く描かれてなかったなというのが印象的。

原作では結構濃いのかもしれませんが、仕事人は時代劇ということもあり、一時間という長い時間があるのでそれくらい濃くなるのは仕方ないかもしれません。


取り敢えず、八洲許のチームに犬とまさかの蟻が揃いました。 というか、美濃ちゃんのモデルの説明、どう見てもテラフォーマーズでした。スミマセン。 だってやりたかったんだもん! 七海の『奥山新陰流』とか! オリジナル流派も考えたけど仕事人意識したらこれしかなかったんだもん!

 美濃のキャラのモデルが仕留人の『糸井貢』ということですが、殺し技はどちらかというと念仏の鉄。 ん、なんか違うぞ? と思うかもしれませんが、ご容赦ください。


次回はぱぱっと短くまとめて、終わりにします。 そんな間隔は空かないと思いますので。あぁ~早くイルカちゃんを書きたいぜ。


では次回!

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