ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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もうチャージマン研のようなノリで作ってしまった今回。カオスへまっしぐらなギャグ回をお楽しみください。一応、原作主人公がメインです。



注意、今回に限り、原作の時系列がメチャメチャなIFストーリーなっています。


第七話~蓮太郎、目玉焼きを作る~

―――いつもの朝が来た。

 

 

それはこれまでとは全くもって変わらない、まさしく、不変の朝。空が雲によって濁る事も無ければ、陰鬱な雰囲気を消し飛ばす和やかな小鳥のさえずりさえも聞こえてくる。この蓮太郎の住んでいるアパートにも平等に変わらぬ朝がやって来ていた。

 

 

「ふしゅー・・・・・」

 

二階に住む男、里見蓮太郎は台所に一人立ち、精神を落ち着かせるべく深く肺に息を吸い込み目を閉じながら雑念を放り出すように息を吐く。臨戦態勢、今まさに戦いが始まるかのような静けさを前に蓮太郎は思考開始。

 

 

・・・今日の朝食は目玉焼きだ。

 

そんな事か、と誰もが総じて突っ込むことかもしれない。だが、蓮太郎にとって卵というのは貴重な食料源だ。一般家庭において卵というのは買い貯めしておいても最終的に焼いてしまえば良い。という考え方が出来る食材だ。貯めるといっても限度はあるものの、消費期限を計算に入れた上で蓮太郎は買い貯めをしている。

 

そして卵というのはよくセールの対象になり易い。蓮太郎がいつも買いに行くもやしもセールの度に喉から手が出るほど欲しい物になるのだが、卵もその対象だ。こうやって食材の事に思考を常に巡らせるのは、蓮太郎の部屋に住む同居人の延珠の為でもあった。

 

 

蓮太郎と延珠はこのアパートで暮らし始めてから今年で一年となる。だが、最初は敵意の眼差しを向ける延珠と向き合う為に料理を出したことがあったが、あまり出来が良くなかった為か苦い顔だった。そこから料理の勉強を始め、自信作を彼女に食させた所、満足した笑顔が戻ってきて自分も同じくらいに嬉しくなった。以来、彼は低予算でいかに彼女を自身の家計を守れるくらいの料理を編み出せるかを念頭に生活することとなる。そこで出されたこの目玉焼きというのは低コストの商品、まさしく蓮太郎の理想の食事だった。

 

 

・・・俺自身が目玉焼きを無性に食いたくなったのも事実だがなッ!!

 

 

だが一方で、自分の謎の欲望に駆り立てられたのも事実。それを相棒である延珠にも食してもらいたい。二つの思惑が絡み合った彼だが、延珠の事を優先に考えて調理の決意を固める。

 

 

「さて・・・」

 

朝六時。お互い、学校に行くには時間があるわけだが早めの行動が大切だ。と蓮太郎はエプロンを取り出して、腰に巻いて見せるとフライパンをコンロの上に置き、点火。フライパンが温まるその間にパンをトーストにセット。ダイヤルを回し、冷蔵庫から溜まっている一番上の卵のパックを取り出した。道具を粗方揃えた時には程よい位にフライパンは熱されていたので彼は油のキャップを外す。

 

 

適量をフライパンの上に流し込み、水を一滴垂らして跳ねるのを確認してから、パックから卵を一個取り出した。左手でフライパンを持ち、右手で卵を割、その流れでフライパンに流し込む。白身が熱されて焼かれる音を耳に心地よく感じながら、蓮太郎は水を少量入れて即座にフタをした。蒸気が行き場を求めてフタを揺らすが片手で蓮太郎が押さえ込む。ここからは時間の勝負だ。

 

 

・・・目玉焼きはフタをしてからの次に開けるタイミングでその硬さが決まる。それはもう、その時点で目玉焼きの味を決めると言っても過言ではない。そのタイミングは・・・今ッ!!

 

 

目を一気に見開き、フタを開いた瞬間、溜まっていた蒸気が溢れ出た。眼下に映った目玉焼きは形が崩れることもなく、美しい形を保っている。

 

 

―――完璧だ。そんな二文字が彼の頭に浮かび、笑みを作ろうとしたその時だ。

 

 

「ッッッ!?」

 

蒸気に隠れて良く見えなかったが、注視してみると目玉焼きの黄身の部分に小さな欠片が幾つか突き刺さっている。これは卵の殻だ。そう気付いた時に蓮太郎は自分が膝を折り、危うく倒れかけている事に気付いて体制を立て直す。

 

 

・・・どうする。これを延珠に食わせるか?

 

欠片を除けば食べられるレベルの物だろう。だがそんな事をすれば、黄身は崩れ中身が溢れてしまう。そんな未完成と言ってもいい物を自分の相棒に食べさせて良いものだろうか。

 

 

・・・否ッ!!

 

断じて、だ。と蓮太郎は更に、横から甲高い音を上げて突き出てきたトーストを見てその意思を固める。出来上がったトーストは真っ黒焦げになってとても食べられるものとは言えない。幸い早起きした御陰で時間はたっぷりと用意されている。蓮太郎はもう一度調理することにした。

 

 

だが、ここから苦難とも呼べる、彼の長い戦いが始まりだった事を誰が予想できたか。

 

 

 

 

二度調理しよう物なら、

 

 

・・・しまったッ! 殻を割る段階で黄身がッ!!

 

黄身自体を握ってしまい黄身は崩れてフライパンへと殻も含めて崩れ落ちてしまい。

 

「ま、まだだ」

 

 

三度調理しよう物なら、

 

 

・・・俺の、汗がッッ!!

 

熱中していたあまり、卵をフライパンに乗せた拍子に自身の額から飛び出した汗がその目玉焼きの上に降り注ぐ。暫く呆然としていた彼は一通りの流れで作ると、

 

「畜生ッッ!!」

 

中身を更に移した後、思わず声を出してフライパンをコンロへ乱暴に叩きつけた。 こういう時に限って何故綺麗に出来上がってしまうのか。

 

 

四度目。

 

 

「・・・ん?」

 

殻も抜いて、綺麗に出来上がった筈が一番見失っていはいけないフタを開けるタイミングを損ない、慌ててフタを開けた時には目玉焼きがフライパンから離れないくらいに張り付いてしまった。

 

目玉焼きはフライパンを逆さに振っても剥がれない。

 

 

 

―――数分後。

 

 

「出来た・・ッ」

 

会心の仕上がりに、今度こそと蓮太郎は額に浮かんでいた汗を拭い、フライパンに乗っていたものを皿へと移した。だが・・・。

 

 

「なん・・・だと・・」

 

蓮太郎がミスなく、完璧に作り上げたと思っていた物は目玉焼きではなく、まさかのチャーハンだった。まるでいつから自分が目玉焼きを作っていたと錯覚していた?と言わせんばかりに、蓮太郎は二つほどのチャーハンを作っていたのである。

 

「・・・うそ、だろ?」

 

思わずそう呟いていた蓮太郎がその目に確認したのはちゃぶ台の上に乗っていた物だった。

 

 

「なんでケーキがあるんだよ・・・ッッ!!」

 

何故かケーキがちゃぶ台の上には存在していたのだ。しかもご丁寧に、クリームによるデコレーション、そして表面にはチョコペイントで”小学生は最高だぜ”と描かれている。 

 

 

ふと、蓮太郎は自分の指を見る。そこには生クリームとチョコペイントが付いていた。この事から蓮太郎は衝撃的な事実に辿り着く。このケーキやチャーハンは自分が作ったのだと。

 

 

もはや、現実逃避だったのかもしれない。何度も目玉焼きを作ることに自分の力を、存在を信じられなくなっていった彼はどこぞの弓兵の英霊のように心を摩耗させ、現実から目を背けるようになってしまった。その結果、卵焼きではなく、チャーハン、果てはケーキまで作るという結果になったのだ。

 

 

「なんてことだ・・・ッ!!」

 

 

拳を思いっきり、延珠がまだ寝ているのにも構わず台所の壁に打ち付ける。勿論、敷金の事を考えて壁が破壊されないように気を配ったが、下手をすればそれくらいしてしまいかねない程の心の乱れがそこにあった。

 

 

・・・俺は、妥協しようとしていたのかッ!

 

頭を抱えてる。まるでそうせよと見えない力が働くように、彼は弱気になった。卵を握ってフライパンに垂らそうとしたが、それを拒絶するように手が震えだす。

 

 

「ダメだ・・・・・やれない。俺は・・・・・」

 

 

―――逃げ出したい。

 

 

まるで超電磁砲モジュール内で東京エリアの命運を担った当時のような緊張感。故に、悔しさから下唇を噛み締める。もう二度と逃げないと、どこかで誓った筈だ。木更や延珠の世界を守る為に、最大限の努力をするとその胸に誓った筈だ。己のパートナーの食事を、目玉焼きすら満足に作れない男が、二人を守る事など出来るものか。

 

・・・越えなくては。

 

己の弱気心の壁を乗り越えなくてはいけない。ましてや、これまでの自分の料理にかけてきた熱い情熱とプライドが、それを許す筈もなく。

 

「やってやる・・・」

 

シャツの袖をまくり、気合が入る。再度深呼吸で気を落ち着かせ視界を鮮明にしていく。

 

 

「元陸上自衛隊東部方面隊第七機械化特殊部隊『新人類創造計画』里見蓮太郎・・・これよりお相手仕ろう」

 

煮えたぎるような想いを押し殺して、蓮太郎は静かに構えた。この天童式戦闘術”百載無窮の構え”とは、天地が永久無限の存在である事を示す攻防一体の構えである。

 

まさに全力全開。どこかの魔法少女も認める本気モードとなった蓮太郎は意地の戦いへと彼はまた身を委ねる。そう、まるで人を寄せ付けぬ狂った獣のように。

 

 

 

 

 

「ん・・あ」

 

 

 

油が跳ねる音が妙に耳についたか、布団の上から起き上がる少女がいた。藍原延珠だ。眠気眼をこすって、彼女が最初に感じたのは芳醇な香りであった。

 

きっと、蓮太郎が自分の為に朝ごはんを用意してくれてるのだろう、とその結論はあっさりと出て来るのは、ここで暮らし始めてからの彼女が何百回と見た光景だからか。

 

・・・ふふ、蓮太郎め。妾をびっくりするために気合を入れているな。昨日とは桁違いな良い匂いだ。一体何を作っているのだ?

 

胸に期待を寄せながら、彼女は最低限の身支度済ませる。寝ぼけている顔を軽く手で叩いて筋肉を覚まさせたら本来ならいつも蓮太郎が片付ける布団だが、たまには良いだろうと延珠が片付ける。

 

「・・・ぃようし!!」

 

だがあまり布団をしっかりと畳んだことがない延珠はめちゃくちゃにその布団を丸める行為を畳んだということにした。ならば次は愛しの相棒の場所へ行き、目覚めのキスでも食らわしてやろうという思惑を抱いて延珠は台所へと向かう。

 

 

「れんたろー!おはようなのだ!」

 

 

暖簾をくぐって目に入ったのは相棒である蓮太郎の調理する後ろ姿だ。エプロンをそこら辺の主婦よりも着こなして、自分の為に料理を作っている彼のその姿に彼女は羨望の眼差しを移さずにはいられない。

 

 

 

「・・・れん、たろー・・・?」

 

 

だが、今日の蓮太郎は彼女の想像を遥かに越えていた物だった。それは彼の背中が物語る、勇ましくも禍々しいオーラによるものだ。これを延珠は息を飲んで、あるものと酷似していると感じ取った。これは、まさしく・・・

 

 

・・・ガスト、レア。

 

いや、間違いなのだが、その背中が纏う深い負のオーラがどこかで異形の生命体を感じさせた。そしてこちらの気配に気付いたか、彼はこちらを見ずに、だが肩だけを少し動かして反応する。

 

 

「延珠か・・・」

 

「ああ・・・」

 

口調もハリも全て本人のものだ。衣食住を共にしてきた延珠としても聞き間違えるはずのない蓮太郎そのものの声である。だが、それでも動物の因子を持つ彼女の本能が未だに彼を蓮太郎とは認めていないのか、曇った声が出る。

 

 

「・・・・ッッ!! コレはッッ!?」

 

現実から少しだけ逃避しようと目を向けた床を見て、延珠は絶句する。その目線の先には今日の蓮太郎の調子を表すように、あるものが大量に置かれていた。

 

 

 

 

 

床に置かれていたものは目玉焼きだった。

 

 

「なん・・・だと」

 

 

 

 

目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き。目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き目玉焼き。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う・・あっ」

 

 

 

辺り一面を埋め尽くさんばかりの目玉焼きに延珠の思考が救難信号を上げる。これ以上は何も考えてはいけない、と。

 

この床に置かれている目玉焼きは、異常な数だった。台所のありとあらゆるスペースを占領し、終いには床にも置かれていったのだろう。

 

 

傍から見れば、皿に盛られた目玉焼きが蓮太郎を中心に囲んでいる光景は軽くホラーである。だが、蓮太郎はまるで気にしていないような口調で続けるのだ。

 

 

「・・・延珠、朝ごはんはちょっと待ってろよな。目玉焼き、食べるだろ」

 

 

そう告げた言葉に延珠は思う。

 

・・・蓮太郎は、疲れているのか?

 

思えば、自分の学校の送り迎えに加えて事務所の魔女・天童木更にこき使われて、家に帰れば自分の世話というハードのスケジュールだ。そんな毎日に彼が疲れないわけではない。所詮は彼は人だ。自分たちのように特に頑丈でもない普通の人間なのだ。

 

 

・・・スマヌ。妾はフィアンセと名乗りながら、蓮太郎の異常に気づくことが出来なかった! 許してくれ蓮太郎!!今日はもう、いい子にするからっ!!

 

 

とんでもない勘違いをさせてしまっているわけだが。所詮は目玉焼き生成が永遠と上手くいかなくてこうなっているわけだが。

 

 

「・・・う、うん」

 

先ほどの蓮太郎の問いに答えるように、延珠がそう手を伸ばしたのは自分の足元にあった目玉焼きだ。床に置いてあった食べ物を拾う事に、蓮太郎と出会う以前の生活を思い出してしまって一瞬だけ体を強ばらせたが、愛する彼の為だ。今日は出来るだけ刺激することないようにしようと考えて腕を動かす。

 

 

白い皿に、延珠の小さな手がかかろうとしたその時だった。

 

 

「――――――触るなッッッ!」

 

 

「ひぅ・・・!!」

 

突如として豹変した蓮太郎の声にビクッと手と心臓が跳ねる。蓮太郎の顔を目にしたとき、延珠は思わず口を開けて呆然としていた。まるで敵と対峙している時のような戦闘態勢時の瞳だったからだ。

 

 

「妥協はしない・・・延珠、お前には最高の目玉焼きを食べさせてやるッ」

 

 

 

・・・別にこれ、悪くない形だと思うんだが。それよりも、卵足りるのかコレ?

 

内心でそうツッコミながら、延珠は小さく頷いてみせた。蓮太郎はエプロンを再度つけると、何度タワシで洗ったかは分からないフライパンをコンロの上に置いて見せる。深呼吸をした後で蓮太郎は呟いてみせた。

 

 

「・・・俺に出来るのは、美味い目玉焼きをお前の為に作ることだけだ」

 

 

「お、おう・・・」

 

・・・な、なんだろう。すごく嬉しいセリフのはずなのだが、素直に喜べない。

 

 

木更が見たら自分と同じく残念な気持ちになるのではないかと思った延珠だが、突如、蓮太郎の身に変化が起きる。

 

 

「れ、蓮太郎・・・ッッ!?」

 

 

「大丈夫だ延珠。俺は、俺はまだ戦える」

 

 

「いや、一体お主は何と戦うのだ蓮太郎。 それに、その姿にはもうならないって・・・」

 

延珠が目にしたのは変貌した蓮太郎の姿だった。右腕と右脚の人工皮膚が青白く燃えたその上に現れたのは肌色ではなく、黒の金属。 超バラニウムの義肢だった。人前で、この姿を晒さないと誓っていた彼が、たかだか目玉焼きを前にしてこの姿を晒すとは何事か。

 

 

「―――義眼、開放」

 

 

蓮太郎の黒目内部に幾何学的な模様が浮かび上がる。グランフェン・トランジスタ仕様のナノ・コアプロセッサが起動し、演算が開始された証拠だ。蓮太郎の視界はより鮮明に広がっているはずである。

 

 

「・・・な、なんだコレはッ!?」

 

 

見えぬ敵と戦う相棒を見守っていた延珠が異変を感じ取る。その視線の先に存在していたのは、またしても床に置かれていた目玉焼きだった。

 

 

 

 

目玉焼きの黄身から、蓮太郎の義眼と同じ幾何学的な模様が浮かび上がっていったのだ。それも床に置かれていた目玉焼き全てに。

 

 

・・・これは、夢なのか。

 

 

見るもの全てが朱に染まっていく中、まるで呪詛を投げかけてくるようなこの部屋の雰囲気に思わず延珠は頬をつねる。

 

 

・・・アレ、痛くない。夢なのか、幻術なのか。

 

もう夢と幻術を別と捉えている辺り、自分の精神が限界なのかもしれない。そう思っていた矢先、

 

 

「いくぜッ」

 

蓮太郎が動いた。超バラニウムの右手が卵を掴み、油をひいたフライパンが熱くなるのをひたすら待つ。もはやシュールとしか言い様がない。

 

 

繊細な動きとともに、卵の殻が砕け、中身がフライパンへと雪崩込んでいく。だが不覚にも、この時すでに卵の白身には卵の殻がひっついていた。

 

だが、それを見逃す蓮太郎ではない。今の蓮太郎は、左目の義眼を開放している状態。高性能コンピューターを内蔵したその義眼がもたらす恩恵は、体感速度の倍加。つまり、蓮太郎は自分の体感速度を倍加することにより、見るもの全ての動きがゆっくりと動いているように見える。

 

 

しかしこの恩恵は全てがメリットという訳ではない。実際に蓮太郎が早く動いている訳でもないし、使い続けていれば脳が負担を受けて壊死する可能性もあるのだ。 主に使われるのは相手がトリガーを引いた時の瞬間を見分けて、回避運動を取ることだけである。

 

 

彼にとって殻が割れた瞬間から、白身に殻の欠片がついてくるのは見えていた。だから次の行動は誰よりも早い。

 

 

「―――隠禅・黒天風ッッ」

 

天童式戦闘術を飛び上がりながら、その回し蹴りをお見舞いする。といっても、放たれた蹴りは空を斬る結果に終わるが、その蹴りから生まれた風圧が殻だけを見事に吹き飛ばした。

 

 

着地と同時に、更なる試練が蓮太郎を待っていた。その動いた反動で額に溜まっていた汗が目玉焼きへとこぼれ落ちている。 だがこれも蓮太郎にとっては想定の範囲内だ。

 

 

 

既に彼の射程圏内。義眼の力を借りずとも、長年培われたその直感がこの事態にスムーズに蓮太郎の身体を躍動させる。

 

 

 

「天童式戦闘術一ノ型十五番ッッ  雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)!!」

 

無双の硬度を持つ蓮太郎の剛拳が真っ直ぐに突き伸ばされる。神速とも呼べるかもしれないその拳速が生み出した衝撃波は蓮太郎の汗を正面の壁に叩きつけた。直後、卵が漸くフライパンの上に誘われ、その身を傷つけること無く、油により焼かれていく。

 

 

「ハアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

勢い良く、トドメを刺さんとばかりに蓮太郎は鍋蓋を取り出すと右の腕部からカートリッジを爆発させてフタを振り下ろした。

 

「隠禅・哭汀・鍋蓋撃発(なべふたバースト)ッ!! ――――――焼けろよッッ!!」

 

 

快音が決まり、力の限り蓋を押さえつける。数十秒後、適時に蓋を開けた瞬間に蓮太郎は歓喜に似た笑みを浮かべて見せた。

 

「・・・・ふぅ」

 

綻んだ笑みが示したように目玉焼きは見事な美しさのまま焼きあがっていた。

 

 

 

 

長きに渡る激闘に終止符を打ち、延珠は蓮太郎に言われて先に居間の方へと移動していた。現在は畳に正しく正座をしてひたすら蓮太郎が現れるのを待つのみである。

 

「・・・静かな朝だな。というか、静かすぎるな」

 

 

「今は戦争中だからな。住民も皆避難して、自衛隊や民警は皆前線で戦っている」

 

 

「そうなのか・・・」

 

投げかけた延珠の問いに、返ってくる声がある。蓮太郎の口から”戦争”という物騒この上ない二文字が聞こえたが、これは夢なのだなと理解していた延珠はさほど重要な言葉とは捉えることもなかった。

 

 

暫くして、蓮太郎が皿を持ってやって来た。彼はいつもの仏頂面ではなく、笑みを浮かべている。出来上がった目玉焼きの完成度に、さぞご満悦なのだろう。

 

 

「さぁ、延珠。食べてみてくれ目玉焼きを。お前の為に作ってみせた」

 

太陽のような笑みを浮かべて、延珠が内心で脈打った鼓動と共に目線をそらす。逸らした先には彼が作った目玉焼きには既に醤油が垂らされていて、箸でちょっとでもつつけば簡単に黄身が割れてしまいそうな絶妙な焼き加減だった。

 

 

上手く箸の上に乗せて、目玉焼きを口に運んで、咀嚼。黄身の味を感じながら喉を通り、井の中へと入り込んでいったのを感じた後に、延珠は一言。

 

 

「うーん、イマイチだ」

 

「ハハッ」

 

目を閉じて唸っていた延珠の額を小突くものがある。開眼してそれが蓮太郎の人さし指だと気付いた槐だったが、次第にその視界が暗転し、

 

 

「アレ?」

 

若干吐き気にも似たような気持ち悪さに体が傾いていく。薄れ行く意識の最中、蓮太郎に向けて手を伸ばした延珠だったが、それが届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「起きてよ、延珠ちゃん」

 

 

「むぅ・・」

 

呼ばれる声に、延珠は目を覚ました。 意識を覚醒させた延珠だが、同時に耳と鼻を刺激する銃弾と激昂のオンパレードが空に響いている。

 

 

気づいた延珠は周りを見た。自分はどうやら、岩陰にて寄りかかるように気絶していたらしい。それが今まで見ていた事が全て夢であったということを物語っていた。目玉焼きもなく、狂った蓮太郎も見られない。

 

 

「漸く起きたね延珠ちゃん」

 

「・・・お主、誰だ?」

 

ふと、目の前を見るとそこには見知らぬ少女の姿があった。着物姿に動物の耳を生やした刀を持った白髪の少女。どこかで聞いた覚えのある声だが姿形が違う事もあって、知り合いではないという線が消えていく。

 

着物の少女は続けると笑みを浮かべて言った。

 

 

「さぁ行こう延珠ちゃん、私たちの戦場へ。 皆も待ってるよ」

 

「皆って・・・」

 

「それが蓮太郎さんの意志でもあるんだよ!」

 

そう言って、着物の少女は荒廃した平地を走り出す。延珠は思い出した。今この場所で、自分は一体何をしていたのか。

 

 

 

 

―――第三次関東会戦。モノリス倒壊による東京エリアの命運を掛けた一大決戦。多くの自衛隊と民警が手を組んで、侵入してきたガストレアを殲滅すべく、自分たちもその作戦に参加していたのだと。

 

 

「蓮太郎の・・・?」

 

 

思わず、周囲を見渡して延珠は相棒の存在を認識しようとしたが、戦闘によって激しさを増すこの場所で、蓮太郎個人を探す事はできない。一体、彼はどこへ行ってしまったのか、と延珠が焦り始めたその矢先。

 

 

 

「・・・・ッッ!?」

 

足元が柔らかく変化する。ガストレアが真下に潜り込んでいたのかと視線を向けた延珠は思わず目を見開いた。

 

 

 

延珠がいた地面が目玉焼きのような、柔らかい黄身へと変化していたのである。絶対にまだ夜明けまで時間があるであろうという空からは陽光が差し伸ばされ、辺り一面を照らしていく。

 

 

だがその陽光に照らされて、地鳴りと呼べる叫びと共に一体の巨大な影が現れた。まるで亀のよう首なが龍のような長い首とアルマジロのような甲羅を持ったその怪物の名を延珠は口にする。

 

 

「アルデバラン・・・」

 

この戦争の最大の壁。全ての元凶。あの敵を倒さない限りは東京エリアには未来がない。東京エリアの民警と自衛隊があの怪物を倒す為にこの場所に集まったのだ。

 

「え・・・?」

 

自分が見たものが幻か、と思ったような言葉が延珠の口から漏れていた。見上げるその延珠の目には、信じられない光景があったのである。

 

 

 

なぜかアルデバランの頭上に、腕を組んだ里見蓮太郎の姿があったのだ。

 

 

 

・・・どうして、蓮太郎が?

 

 

まるでガステレア側に寝返ったかのような構図に延珠は戸惑いを隠しきれない。ふらつく足元も目玉焼き特有のブヨブヨとした柔らかさで気持ち悪いと感じる程だ。

 

「これも・・・夢なのか」

 

受け入れられない現実に彼女の視界が、再び暗転していく。同時にガストレアが咆哮と共に延珠のいる場所に雪崩込んで来たのが、彼女がその世界で見た最後の光景だった。

 

 

 

 

 

 

―――これが世界終焉のカウントダウンとなったのかもしれない。人類からガストレアへ裏切った里見蓮太郎が率いるアルデバラン軍に東京エリアの民警と自衛隊は敗北。数万と言うガストレアは東京エリアに雪崩込み、エリアの98%の住民が死亡・ガストレア化。

 

 

―――東京エリアの最高権力者、聖天使も行方不明となり、実質東京エリアは壊滅。バラニウムの生産元である日本がガストレアによって抑えられた事により数年後、世界のバラニウムの採掘量が限界値に到達。決定打とも呼べる武器を失った人類は次第にその生活圏を狭めていった。

 

―――天童菊之丞はひたすら前線にて戦い、数千という数のガストレアを駆逐していたようだが、三年後には彼自身が人類の敵であるガストレアに変貌した。

 

―――そして2040年、核も失い、相次ぐステージⅤの襲撃により最後の要であった一桁台のイニシエーターも全滅。宇宙へ行き、新たなる場所を求めようものなら、サジタリウスの狙撃によって撃墜され、リブラによる大気汚染が始まった時には地球に、人間という生命体は存在していなかった。人類は絶滅したのである。

 

 

 

「さぁ、行こう延珠。俺たちの新しい世界へ」

 

ステージⅤ、スコーピオンの頭上から、その腕に一人の少女を抱いた元・人間だった男は破壊し尽くしたその世界を再び二人で歩き始めたのだった。

 

「俺は・・・新世界の神となる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・という、夢を見たのだ。七海ちゃん」

 

「って、夢オチかよォォォォォ!!」

 

 

現実、勾田小学校にて七海のツッコミが木霊したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――オマケ。

 

 

 

 

「さて、いつまでも隠れていないで、出てきたらどうなの」

 

深夜。仕事を終えた七海が帰り途中、路地裏にてただならぬ気配を感じ、その声を投げかける。

 

「気づいちゃったんだ・・・ウェヒヒヒ」

 

その言葉に反応するようにドラム缶の影から現れる一人の少女がいた。瞳を紅くした彼女が自分と同じ呪われた子供だという事は容易に理解出来る。そして、その両の手に握られている刀が意味することも。

 

 

「私、蛭子小比奈(ひるここひな)。10歳・・・唐突だけどワンちゃん。斬ってもいい?」

 

黒ドレスを着た小比奈と名乗る少女は二本の太刀を構えると七海に向かって狂った笑みを浮かべながら襲いかかってきた。




これが・・・無限月詠の世界。ハスタロウがまさかの闇落ちというこのオチは以外と自分の中で最初浮かんでいたものでした。というか、今回の話に限って、ブラックブレットが完結してるっていう。もちろんバッドエンドですが。

え?タウロスとかを単独撃破している一位のイニシエーターがそう簡単に負けるはずがない?三体のステージⅤならどうだ!三体に勝てるわけないだろ!なんとも安直な考えか、まこと愚かの極み。と思った次第です。

まぁ今回はギャグで夢オチで、しかもIFストーリーという事でご勘弁を。元ネタは、偉大なる某忍者アニメの特典。公式が病気なアレ。



―――次回予告。

木更「まだ私たちとはまったくといっていいほど接触をしていない蛭子影種の娘、蛭子小比奈が晴らし人、七海静香の前に立ちふさがり、問答無用の真剣勝負が始まるッッ」


延珠「これより、貴様が挑むのは無限の剣。恐れずしてかかってこい!!」

蓮太郎「おい延珠、お前まさか”正義の味方”になんてならないよな!」

延珠「何をいう蓮太郎、妾の命は常に誰かの為に使われなくてはならない。そして誰もが望むハッピーエンドを妾は目指すのだ!!」

蓮太郎「それはヤバイ方の正義の味方だァ!ヤメろォ!!」

木更「ぶつかり合う剣と剣。ただの真剣で応戦する七海とバラニウムの太刀で襲いかかる小比奈に対し、七海はどう戦うッ!?」

延珠「目玉焼きを焼こう」(提案)

蓮太郎「それはやめろォッ!!」

木更「次回、暗殺生業晴らし人、第八話~犬の七海、カマキリ少女と喧嘩する~」

延珠「最後の一撃は・・・せつない」

蓮太郎「もう作品変わってんだよッ!!いい加減にしろッ!!」


では、次回。
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