ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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健全なお話だ(白目)


~延珠、財布の金を盗まれる~②

 路地裏にて声を掛けた金髪少女、コーデリアは目の前に立ち止まった七海を見て小さく笑う。”またカモがネギをしょってやって来た”と。

 

「・・・この日本では、テンチューガールズとやらが流行ってるそうじゃない」

 

「うん、流行ってるよ。 今じゃ世界に通用する文化になりつつあるから」

 

「そこまで発展してたとは思わなかったわ。ジャパニーズカルチャー、恐るべし・・・」

 

街を歩いていれば、嫌でも目に入ってしまう大画面に映る広告の少女たちがそこまで有名だとは知らなかったと、コーデリアは改めて日本の文化の深さを思い知る。相手がマニアだとこちらのニワカさが丸分かりになる。

 

・・・これをネタに釣るのならもう少し勉強が必要ね。

 

と、内心で続けて目の前の少女に問う。

 

「それで、私もハマリましてカードも集め始めましたの。でもどのキャラクターデッキが良いかわからなくて・・・オススメのキャラとか――」

 

「バイオレット」

 

「・・・はい?」

 

思わず、聞き直してしまったコーデリアだったが、目の前の七海が目を輝かせてこちらに詰めてくる。

 

「紫がチャーミングでッ チーム最高のトリッキー能力を誇るッ バイオレットがおすすめッ」

 

何かとんでもないスイッチのボタンを押してしまった気がしたが、間違いではないだろう。

 

「で、でも私はできれば黒の方が」

 

「ブラック? はん、ダメだね。 コーデリアちゃんが選んだ天誅ブラックはね、腹黒だよ。 変な銃持ってキャッほうしてるの。某エロゲにあんな感じの女忍者がいたし、レッドと中立的なポジションっていうところも解せないポイント。はっきりいってオススメしないね」

 

「貴女どれだけブラック嫌いなの」

 

ふっふっふ、と俯いて黒い雰囲気を纏ながら七海が呟いた。

 

「パープルが地味色? カラーキャラって”緑”と”黄色”が不人気なんじゃないの。 勇者アニメとかそうじゃん、まぁ月の美少女戦士はまだいいかもしれないけど・・・それでもなんで、なんでパープルは許されないの?」

 

そして、

 

 

 

「つまりバイオレットが最高なんだよッッ」

 

 

―――三十分経過。

 

 

 

 

・・・まずいですわ、まったくペースが掴めないッ 会話の主導権を決して握らせないように私に付け入る隙を与えないなんて、なかなかやるじゃない。

 

 

もはや果実の鎧武者宜しく、”こっからは俺のステージだッ”と言わんばかりの固有結界。そんなことも微塵も分からず、コーデリアは冷や汗を感じ取る。

これまでのコーデリア自信が相手してきた者達はどちらかというと話術とタイミングだけでどうにでもなるいわば簡単な相手だった。

 

先ほどのツインテールの少女も、少しだけこちらが能力を開放して”誘い”をかけるだけで簡単に堕ちた。

しかし、この七海には自分の”これまで”が通用しないような相手だという事をコーデリアは今のやり取りで感じ取る。

 

 

・・・多少強引でも構わないッ 全力でお相手して、『屈服』させてみせますわッ

 

壁という物は高ければ高い程越え甲斐がある。この一筋縄では行かなそうな相手を自身持てる技術で支配してこそ、最高のカタルシスが得られるというものだ。

 

その為の一手をコーデリアは放つ。

 

「実はここだけの話、今日発売の天誅ガールズのカードパック、色々と買いまして・・・お店にいったら私が買ったので最後でしたの」

 

 

「なん・・・だと」

 

まだこちらが何も仕掛けていないのにも関わらず、七海の足元が絶望の表情とともにふらついている。よほど新パックを買いたかったのだろう。

 

 

「それでですね、いくつかバイオレット系のカードが当たったので・・・宜しければ、貴女に差し上げましょうか」

 

「ええ!? マジでッ!? いいのッ!?」

 

死の淵から蘇るかの如く、七海の瞳に光が宿る。コーデリアは”ええ”と少し目を逸らしながら彼女に言った。

勿論、カードがあるなんて嘘であり、全てはこちらのシナリオのために用意した芝居である。

 

 

「ちょっと人前では見せられなくて・・・こっちに来てくださる?」

 

そう誘うように笑みを投げてかけて、彼女は能力を開放した。

 

「え・・、あ、うん」

 

自分のこの能力に即効性がないのが難点だが、その毒牙はしっかりと七海に食い込んだようで、少し眠気を感じたか、七海の瞼が上下に動いている。

 

「こっちですのよ」

 

七海を人気のない場所へ誘導するようにコーデリアが手招き。

まるで街灯の光に引き寄せられる蛾のように、七海が路地裏へと入り込んでいく。

 

・・・そろそろかしら。

 

ゆっくりと足を止めて、辺りを見渡す。塀に囲まれたこの場所は出口よりだいぶ離れているし、人気を感じさせない。まさに狩場にはうってつけの環境だ。

 

「あらあらどうしたの。顔が赤いわ、体調が悪いのかしら」

 

「い、いや・・・なんでも」

 

時間が経った影響か、彼女に仕込んでいた『毒』の効果が現れてきたようだ。蒸気を感じさせるような顔の火照り、そして揺れ動く足元。呂律が回らなくなってきているのもその証拠だ。ここでコーデリアは決めてに入る。時間的には充分だ、と。

 

 

「ところで貴女・・今日はお金はどのくらい持ってきているのかしら」

 

「えっ、それは・・・三千円くらい、かな」

 

 

息継ぎをしながらそう喋る七海は辛そうだ。身体の火照りのせいで足元がふらついているが、なんとかその言葉を口にしている。

 

・・・シケてますわねぇ。

 

だが一方で、コーデリアは彼女の所持金を聞いて落胆していた。これなら先ほどのツインテールの少女の方がまだ持っていたくらいで、同じ年代の子供にターゲットを絞っているが、コーデリアにとって、七海はハズレということになるだろう。

 

 

・・・まぁ、お金はお金。 貴重なものですのよコーデリア。貰っておいて損はなし!

 

自身に言い聞かせるようにコーデリアは拳を握る。 これから行う行為は貰うのではなく、『奪う』というものだが、それに対して突っ込む者は当然ながら居ない。

 

 

「では、そのお金を頂いても宜しいかしら」

 

「え、ちょっ・・・ダメだよ。 これはバイオレットの為の・・・」

 

目を逸らして、七海は否定する。こちらの目が紅いという事も気付いていないのだろう。だが、どちらにしても毒の効果から解放されれば、先ほど見ていた彼女の『現実』は、全て『夢』の出来事として処理される。そう考えれば、なかなか都合の良い能力だとコーデリアは思った。

 

だから、基本的にこうやって抵抗する相手に自分は強引に迫る事が出来る。

 

 

「・・・いいじゃありませんの」

 

「・・・へ?」

 

そう言い放つコーデリアが七海の肩を掴むと、ダンスでもするような静かな動きで、彼女を壁際に立たせた。

 

 

「無理しなくてもいいんですのよ?」

 

 

と、七海が逃げることができないように片腕を彼女の顔の横に突き出す。所謂、”壁ドン”という奴だ。

 

 

・・・”あの人”が言うには、女の子はこのシチュエーションにめっぽう弱いとか。

 

自身の主とも言える男の言っていた事を思い出しながら、コーデリアは手を進めていく。まずは相手の状態を把握する。

 

「な、なんで・・・こんな事を・・」

 

 

息があがり、完全に頬が紅潮している。こちらの顔が近い事もあってか、まるで”発情”しているかのようにも思えてしまう。

しかし、あながち間違いではない。こちらの”毒”は、時間が立つにつれ、相手の脳を覚醒させ麻痺させる。その状態はさながら性的興奮を抱かせているようなものなのだ。

確実にペースを取り戻していることを確信しつつあるコーデリアが笑みを浮かべて迫る。その距離は七海の耳元だ。

 

「私の”夢”のためですの」

 

「ひゃっ・・!」

 

小さく艶を孕んだくすぐったい息が七海の耳元に吹かれる。コーデリアの能力に囚われつつある七海にとってはちょっとした刺激でも効果的な物なのである。

 

 

・・・ちょろいですわ。

 

身体からの熱と、彼女の震えを見るだけでも感じ取ったコーデリアは内心でガッツポーズ。

七海の震えは恐怖から来ているものではない。全ての外部からの刺激がこういったこそばゆさを生みだしている。身体の火照りと耳への同時攻撃は快楽的責めに近いのだ。

 

 

「ささ、お財布お財布」

 

「ひゃ、ひゃめてぇ・・・」

 

ポーチからはみ出ていたその長財布を手に取り、ゆっくりと引き抜く。自分のこの能力が別の刺激で解かれないようにゆっくりと引き抜くのだ。

 

 

「勝った・・・ッッ」

 

 

細心の注意を払って、完全に財布を抜き取ったコーデリアが勝利を確信した時だった。

 

 

「がうッ!!」

 

「なっ!!」

 

コーデリアが驚愕する。七海が財布に噛み付いたのだ。

 

 

「い、犬!? 貴女犬でしたの!? それにしてもなんて力してるのかしら・・!!」

 

 

「ふしゅーーー!! びゃ、びゃいおれっとぉーーー!!」

 

財布を口に含んだまま発した言葉を理解はできなかったが、まだ意志が残っている。しかもしっかりと歯を立てて、ホールドされた財布はコーデリアの力では引き剥がすことが出来ない。こちらが無理に引き剥がすことも考えたが、強引に引っ張った衝撃で能力が解ける可能性がある。その手段はコーデリアにとっては宜しくない。

 

 

・・・なら。奥の手を使わせていただきますわ。

 

無理に引き離せないと悟ったコーデリアが、財布を手に掴んだまま顔だけを七海の首元に近づけていく。彼女の首筋が目前に迫るが、財布を取られまいと必死になっている七海にとってはコーデリアがこれから自分に何をしようとしているかが分からない。

 

 

「ん―――ッ!?」

 

直後、身を震わせるかのような痺れが背筋を駆け抜け、一瞬だけ七海の意識がとびかける。思わず財布を口から離しそうになるが力を込めて、ぐっとこらえた。

 

 

「・・・どうかしら」

 

聞こえた声に視線を下ろすと、コーデリアが七海の首筋に舌を這わせていた。

 

 

「ん・・犬の・・・くせにッ、弱点である喉元を晒すとは・・・んん」

 

言葉の区切りごと、彼女の喉元に舌を垂らしながら小さく、つつくきながらコーデリアは問いかける。

 

「・・・離せば楽になりますわよ」

 

「だゃ、だゃれが・・・」

 

 

「あら、残念」

 

そう言うと、彼女は首筋から舌を遠ざけた。それでも、財布を七海から引き剥がそうとする力を緩めるつもりはない。まだ揺さぶる事が出来るからだ。

 

「もっとイイコト・・・できますのに」

 

「ふぇ・・・にゃ、にゃに・・」

 

片目だけを開いた七海がこちらを認識している。まだ体力には余力が残っているというところだろうか、右手を伸ばして距離を空けようとする、だが。

 

「たとえば、こんな」

 

「ふあ・・・っ!!」

 

首元に吹きかけられた息に七海の伸ばしていた手が一気に引っ込む。それを見計らって、コーデリアが左の空いている手で七海の右腕を壁に押し付ける形で抑え込んだ。

 

 

・・・なかなか素質がありそうですわ。

 

だらしなく涎を垂らし、目尻に涙を浮かべながら耐え忍ぶ七海の姿に思わずコーデリアは沸き上がる嗜虐心とともに生唾を呑み込んだ。

本来なら、二次成長を迎えていないこの身体を能力で無理やり過敏にしているのでこの反応は仕方ないのだが。

それでも、刺激に対して過敏になっているとはいえ、必死にこちらの誘いを耐える姿はとてもたまらない。

 

首元は彼女自身の汗もあってか、未だに湿り気を帯びている。コーデリアがその部分に優しく息を吹きかけると。

 

「んん―――――っ!!」

 

冷気が刺激となって脳髄を刺激する。先ほどよりも強く、そして甘く。

七海は叫ばずに耐えようと口に咥えている自身の財布に一段と噛む力を込めた。

 

 

・・・大成功ですの。

 

コーデリアは身も心も手中に収めつつある七海を見て、思わずうっとりとしていた。

彼女自身がこの手を使うにあたって、何が何でも守り続けている最低限のルールが存在する。それは相手を恐怖させない事だ。

 

相手の心に、”恐怖”を植え付けるのではなく、まるで夢の世界へ誘うように”快楽”を与える。

痛みによる征服も出来るだろう。ひたすら拒む相手を自身の力で押さえつけ、嬲るように従わせる事も出来るのだ。だがそれをコーデリアはしようとはしない。なぜなら、

 

・・・それは相手の心を傷つける愚かな方法、ですものね。

 

自分がそうだったから分かる。痛みというものは、一度屈してしまえば絶対的な強制力を持ち、人間の深い意識にしぶとく根付くものなのだと。与えられる痛みが恐怖を誘発し、その痛みから逃れるために服従の意を示すように、やがて心を相手に差し出す。

 

逆らうならば”痛み”をもって更なる”支配”を。

従うというのなら”服従”という首輪を嵌めて逃げられぬように更なる”痛み”を。

それが、コーデリアが辿った業苦の世界。

 

 

「っと、時間がないですわね」

 

物思いにふけるのも考えものだ、とコーデリアは我に帰る。

目の前には息も絶え絶えな、もう一度刺激を与えれば簡単にその心を差し出してくれそうな少女を見て、薄く笑みを浮かべながら締めに入ろうとする。

 

・・・さぁ、終わりです。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

『ハジマリハゼロwオワリナラゼッww』

 

 

唐突に、七海のポーチから奇妙な日本語ラップを含んだ着信音が流れたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ハジマリハゼロwオワリナラゼッw』

 

 

「・・・!!!」

 

ポーチから伝わった僅かな振動と、己のハイセンスから選ばれた着信音で、七海の意識が一気に覚醒する。先ほどから存在している自身の体温や頭のダルさがまだ残っているが、次第にその支配からも解かれていく。

 

・・・これは夢じゃないッ。

 

口に咥えている財布と、その先でこちらから財布を奪わんとする少女、コーデリアを再度認識してこれが夢ではなく、幻なのだと七海は理解する。

 

「なんですの、コレ」

 

謎の着信音に気を取られているコーデリアは、不用意にも視線をポーチの方へと移している。これ程大きな隙を見逃す七海ではなかった。

 

「このォ・・・・」

 

さっきまでとは段違いに動くようになった四肢に力を込めながら、七海は油断しているコーデリアの腹部に狙い定め、左の拳を強く握り始める。

そして、噛み締めている財布を食いちぎらんと力を更に込め、マウスピース替わりの役割を果たす事で生まれる全力の左ボディーを、

 

 

「ズェアッッ!」

 

コーデリアの腹部にピンポイントで突き刺した。

 

 

「ごふぅ!!」

 

めり込んでいく拳に、コーデリアが肺に溜まっていた空気を吐き出して、膝を折って倒れこむ。やりすぎかと思った七海だが、こちとら財布を奪われそうになった上、催眠プレイぎりぎりの所業を許す所だったのだ。正当防衛なのだ。

 

「はぁ、はぁ・・・痛くして悪かったけど、そっちが悪いんだよ。人の財布を盗んだら犯罪なんだって、勇次も言ってたから」

 

息を数度吐いて、倒れているコーデリアをゆする。まだ痛みが引いていないか、震えているようだった。

 

 

・・・あちゃー、結構キツイのが決まっちゃたか。

 

あの夜、蛭子小比奈との勝負の最中、刀を折られても相手と渡り合えるように”素手”での格闘を身に付けようとしていた事が原因か、まだ起き上がれないコーデリアに申し訳なく思う。

といっても、格闘術はてんでわからないのでボクシングの動画を見るだけだったが。

 

「あー、ごめんごめん。私が悪かった。 もう許してよ、ね?」

 

そう言ってコーデリアの顔を見ようとして七海は目を数度見開いて、身体を硬直させる。

 

「う・・っ、ぐすん。 う・・ううっ」

 

嗚咽を漏らしながら、コーデリアは涙と鼻水を流していた。地面の土と涙が入り混じったその顔面は先ほどの端正なお嬢さまからは想像が出来ないような汚れっぷりである。

 

「うわ―――ん!この薄情もの―――!!」

 

「ええ・・・」

 

終いには大声で泣き始めてしまったコーデリアに七海が呆気にとられながらそう言葉を漏らした。

 

「殴ることないじゃないのよもうっ!! 馬鹿! 駄犬! この雌犬!!」

 

「誰が雌犬だコラ! 仏の心を持つ私も流石に怒るよ!!」

 

コーデリアに対して飛びかかる動作を見せたとたん、彼女の泣き声が止まった。

しかし、その鬼気迫る七海の表情にコーデリアは身体を震わせてまた、

 

 

「うわぁぁぁああん!! 痛いのやだぁぁぁああ!!」

 

 

さっきよりも大声で涙を洪水のように流しながら叫ぶのであった。

正直、先程までのお嬢さまのような風格はどこにもない。

 

・・・ど、どうしよう。

 

今更ながら、殴ってしまった事を痛烈に後悔してる七海だ。幸いこの場所は人気がないこともあってか、コーデリアの叫びが今は他の誰かに気づかれる事はない、だがそれも時間の問題だ。

 

「う、うう・・・秀さん、助けて・・ぐすっ」

 

「いや、秀さんって誰さ」

 

嗚咽とともに漏らした誰かも分からぬその名に七海が肩を落とす。

取り敢えず、この泣き虫お嬢さまをどうやって沈めればいいかと案を模索しようとしていた時だ。先ほど自身のケ携帯が鳴っていたのを思い出す。

 

「あ、勇次だ」

 

スマートフォンの画面の着信履歴に彼の名が表示されていたので泣いているコーデリアそっちのけで七海は八洲許へかけ直す。

数度の呼び出し音の後、彼との回線が繋がった。

 

『おう、出るのおせーじゃねぇか。なんかあったか』

 

「あ、いや・・・ちょっと。 で、どうしたの勇次」

 

横目でまだ泣いているコーデリアを見ながらそう答え、電話の向こうにいる彼に問う。八洲許はややあってから、

 

『ああ、墨とか美濃には言ってるんだが・・・一度観音長屋に来て欲しいんだが大丈夫か』

 

「え、今はちょっと・・・」

 

「うわああああああん! 秀さぁああああん!!」

 

『・・・・』

 

数秒ほどの沈黙の後、何かを察した八洲許が口を開く。

 

『イジメかな?』

 

「違うからッ!! カード買いに行ったらイタリア人の金髪お嬢さまに声を掛けられて!催眠プレイすれすれの果てに、バイオレットのカード見せてもらおうとしたらいつの間にか相手にボディブローを決めてたのッッ!!」

 

 

色々と端折ってしまっているそのめちゃくちゃな答えに八洲許は、

 

『はいアウトー、ちょっと色々とまずい気がするから取り敢えずアウトー』

 

「だーからー! 誤解だってばー! 本当によく分かんないんだって!!」

 

と、電話の向こうで未だにこちらを疑ってる八洲許に七海は苛立ちを覚える。電話という端末でこの事の顛末を説明するのは難しい。

どうしたものか、と落ち着き無くコーデリアの周りを歩き始めていた七海だったが、電話の向こうで八洲許が溜息をついたのが聞こえて足を止める。

 

『で、そいつは今どうしてる・・?』

 

そう問われた七海は視線を下へと向ける。 コーデリアは未だに地面に体育座りをし、両腕で顔を隠しながら、

 

「ひ、秀さん・・・うぅ、助けて。 最後に一度、私を抱いてください」

 

 

「泣きながら”秀さん”、と、もの凄い重いセリフを口走ってます」

 

『秀・・・?』

 

その言葉に思う所があったのか、再度八洲許が間を空ける。誰かと話しているようだったが話が済んだのか再び電話に出た彼は一度咳き込んでから淡々と言った。

 

 

『ようし分かった。 七海、取り敢えずそのガキも一緒に連れて来い。観音長屋で保護者が待ってる、ってそう伝えろ』

 

 

 

 

 

 

 

昼時を過ぎた東京エリアの山に存在する、八洲許たちの隠れ家『観音長屋』にて小さくすすり泣くような女の声が聞こえていた。

 

「う・・・うぅ、お前さん、酷いですわ」

 

畳の上に座る金髪の少年の膝下に顔を伏せながらそう言う少女がいる。その少女もまた金髪だ。

泣いている少女、コーデリアを慰めるように秀は頭を撫でながら、

 

「ごめんなコーディ、でも言ったろ? 仕事探してくるまではあんま出歩くなって」

 

「うう、これは・・・その」

 

「コイツ私を辱めながらその隙に財布のお金を盗もとしたんだよ!!」

 

口篭るコーデリアに七海が顔を怒りで真っ赤にしながらそう指摘する。その事実を聞いて美濃が立ち上がった。

 

「・・・ちょっとコーデリアちゃん、だっけ? お外、いこっか」

 

「ひっ」

 

笑顔でそう言いながら、指をポキポキと鳴らす美濃に、コーデリアが小さく悲鳴をあげる。 周りの者たちもその威圧感に圧されたか、周りの大人二人も静かに壁際へと退避した。

それを見て、震えているコーデリアを抱きしめながら、秀が言う。

 

「すまん赤髪幼女、美濃ちゃん。 コイツが全般的に悪い、それは分かってる・・・友達の為に怒るなら、その怒りを俺にぶつけてくれ」

 

と、コーデリアを庇うように前に出る秀。 

その行為に一瞬戸惑った表情を見せる美濃だったが程なくして、彼が目を輝かせていることに気付く。

秀は両腕を広げながら高らかに、

 

「だが俺を倒せると思うな! 幼女の攻撃なんぞ俺にとっては回復の材料! ヒールスキル! どんなに殴っても無駄無駄ァッ!!」

 

告げる。 次の瞬間、秀の顔面に直撃する足があった、八洲許のドロップキックだ。

 

「オラァッ!!」

 

「ぎゃあああああ!!」

 

華麗に決まったドロップキックに叫びながら秀が畳を転がる。彼は壁に激突し、上に飾ってあった木材が頭に落下して動かなくなった。

 

「お前さぁああああん!!」

 

悲痛なコーデリアの叫び声が響く中、この劇場を見ていた墨が叫んだ。

 

「テメェらいい加減にしろォ!! 俺たちのアジトぶっ壊すつもりかッ!!」」

 

その怒号に、八洲許も同じく怒号で答える。

 

 

「うるせぇ! このロリコン小僧は一回シバき倒してやるんだ!!」

 

「そんなんだから嫁にも姑にもいびられんだ!!」

 

「いまカカアとババアは関係ねぇだろうが!!」

 

「まぁまぁ落ち着いて二人とも!!」

 

「そうだよ。話を進めてよ」

 

その間に割って入る七海と美濃。 とても四十を過ぎた大の大人とは思えないようなやりとりに呆れながら、二人を落ち着かせるように促した。

 

 

 

 

 

 

 数分後、気絶した秀が目を覚まし、七海や美濃、そしてコーデリアを含めて話が進められる。

内容としては、この目の前にいるロリコン少年こと秀とその相棒であるコーデリアを晴らし人とするかどうか、という物だった。

 

静まり返った空間の中で、八洲許が口を開く。

 

「これは俺の個人的な意見だが・・・フリーの殺し屋だったら、なんで俺らと組む必要があんだ」

 

確かに、と同じ意見を持っていたのか隣にいる墨が肩を鳴らす。

 

「依頼料総取り出来るじゃねぇか。 わざわざチームを組んで金を減らすなんてメンドくせぇ事してんだ」

 

 この仕事を行う上で、必ず承知しなければいけないのは依頼料の分配だ。元締めから貰った依頼料は必ず均等に分配しなければならない。

問題なく事が進めば良いのだが、希に依頼料を全て総取りする為に仲間を裏切る輩がいる。 八洲許が秀だけでなく、墨などのチーム加入を渋った理由としてはこれが最も当て嵌っている。

 

ならばこの少年、秀もその類ではないかと八洲許は疑った。 だが、秀は動揺する事も、二人の殺し屋に視線を刺されながらも物怖じすることなく口を開く。

 

「俺みたいなフリーの殺し屋は、必ずとも収入が安定してる訳じゃない。 元締めを介して仕事が入ってくるアンたらとは違って、こっちは生活に支障が出るくらいだ・・・俺の両親は殺しの腕を叩き込んですぐ死んじまった」

 

「・・・一家揃って殺し屋かよ」

 

 

頭を掻いた八洲許に秀が頷いて続ける。

 

「親父が殺し担当で、母ちゃんが情報担当。 二人ともある日突然、死体になって帰って来やがった」

 

足を組んで、彼は自身の手一点だけを睨みつけながら続ける。

秀にとって、それが裏の仕事関連であったことは幼い自分にとってもすぐに理解出来た。

 

「親戚もガストレア大戦のせいで死んじまったから頼れる人間はいない、二人が残してった金だけでやり繰りするのはキツイ。 しかも大戦が収束してから、暴徒とかも居て自分の身を守らなきゃいけなかった。殺しの技を持っている俺がこの道に入っちまうのも・・・わかるだろ」

 

「・・・・」

 

静かにそう語る秀に八洲許は黙った。 高校生のような若い人間にしては、あまりにも辛い道だ。

 

 

・・・こいつらも”生きるため”に必死なヤツ、か。

 

煙草を吸おうとして、切らしていたのを忘れていたか、まさぐったポケットに何も入っていないのが分かると忌々しげに舌打ちをした。

自身は生活する為に殺しの稼業に躍起になることは無かった。 むしろ、殺しをしなくても警察という職業柄、別に無理して殺しをしなくてもいい。

 

だが、今まで殺してきた仲間の事を考えたとき、自分だけおめおめと逃げる訳には行かなかった。 

そして今は、仲間たちが向かった地獄へ行く事をひたすら怖がっている。いつのまにか、自分の人生の目的が”ひたすら長く生きる”事へと変わってしまったほどに。

 

「お前さん・・・」

 

秀の横で正座に耐えられなくて足を崩したコーデリアが心配そうな瞳を向ける。 

大丈夫、とその頭の上に手を置いて秀は微笑んだ。

 

「別に居候のお前のせいだとは思ってない。 安心しろよ・・・俺がもし一人だったとしても、こうなるのは時間の問題だった」

 

そう言って秀は自身の両膝に手を置いた。景気のいい音が響いて、彼は八洲許と墨に視線を戻す。

どこか大人びたようなそんな目だ。

 

「頼む。 役に立たねぇなら、それで切り捨ててもらってもいい。 でも、できる限りのことはなんでもする・・・仲間にしてくれ」

 

土下座をして、頭を下げる秀に隣にいたコーデリアも同じく正座をしてから頭を下げた。

 

「私からもお願いします」

 

 

やや間ができても、二人は頭を上げない。 例え、ひたすら八洲許たちが黙っていようが二人はこちらが声をかけない限り、決して頭を上げないだろう。

強い覚悟が見えた。

 

「墨・・・」

 

怪訝な表情で、八洲許が言うと墨は視線だけをこちらに向けた。

 

「俺はつくづく思うぜ・・・”こんな稼業、やらなきゃ良かった”ってな」

 

「へへ、じゃあ辞めるか? オイ」

 

冗談じゃねぇぜ、と八洲許は続ける。

 

「今更逃げられるかよ。 それに、お前がよく言ってたじゃねぇか」

 

 

―――地獄への道連れは多い方が楽しいからな。

 

 

「・・・言ってたっけ、俺そんな言葉」

 

「墨さん・・・自分の発言には責任もとうよ」

 

恍けるように後頭部をさする墨に美濃が呆れたように溜息をついた。

ふざけんなよ、と内心で八洲許は思いながら土下座をしている二人を見て、口を開く。

 

「次の仕事次第だ」

 

そう言われて、秀が顔を上げた。八洲許は続けて、

 

 

「いい気になるなよ若造。 使えねぇと思ったら俺はマジで切るからな・・・墨、こいつの事しっかり見とけ」

 

「え、なんで俺?」

 

自身を指差して、彼は頭上にクエスチョンマークを浮かべている。どうしてこういつも抜けているのだろうか。

そう思いながらも、八洲許は彼を無視して無理やりその役を押し付けることにした。

 

 

「じゃあコーデリアちゃんは私達が監視してもいいかな」

 

「仲良くしようよ」

 

謎の笑みを浮かべてそう言うのは七海と美濃だ。 特に美濃に関しては若干恐怖を感じる笑い方である。

コーデリアはその笑みに引きつった表情を浮かべながら、

 

「いいですわよ・・・こちらこそ宜しくお願いしますわ。えーっと・・・」

 

名前が分からず、戸惑うコーデリアを見て七海と美濃がお互いに見合わせて、彼女に柔らかな笑みを浮かべる。

 

「私は七海!」

 

「私は美濃!」

 

「ナナミ、と、ミノ・・・と。うん、うん・・・」

 

名前と顔を交互に確認しながら、コーデリアは何度もつぶやいていく。 

顔と名前が完全に一致して、大丈夫だ、という笑みを浮かべた彼女は高らかに笑って見せた。

 

「宜しくてよ七海、美濃! 今から私の華麗なる下僕になる事を認めてあげますわ!!」

 

腕を組んで態とらしくエラそうに言う彼女に二人は、

 

 

「さぁ、早速調子に乗って参りました!! やっちゃいます美濃ちゃん?」

 

「やっちゃいましょう七海ちゃん」

 

 

二人が手の関節を鳴らして笑みを浮かべる。だが、今度浮かべたのはゲスな笑みだ。特に美濃に関してはゲスを越えた外道の笑みである。

 

「な、なんですの!? なんですの!?」

 

「昼間の仕返しじゃーい!!」

 

「せいやッ!!」

 

 

勢い良く突き出された美濃の突き刺し指がコーデリアの額を突き刺さる。まるで世紀末伝承者が秘孔を突いたの如く、”ビキーン”というSEが響くとコーデリアの身体がまるで糸の切れた人形のように動かなくなった。

 

 

「え、ちょっ! 動かないのですけど!!」

 

涙目で訴えるコーデリアに答えるのは、

 

「そう動けないよ、そして動けないコーデリアちゃんを私たちがどうするか、わかるよね? わかるよなぁ? わかるでしょ?」

 

「ダイジョブ。 マッサージするだけだよ。うん、ここまでの道のりは大体13キロだから足に疲れが溜まってるはず。 まずは足から行きましょうね」

 

ゲス道を極めたかのような笑みを浮かべた幼女だった。

 

「手つきが! 手つきが二人ともいやらしいですの! そう言って、私にエロい事するつもりですのね!! エロ同人みたいに!」

 

全く抵抗するどころか、動けないコーデリアに二人が飛びかかる。

 

相変わらず馬鹿なことしてるな、とそう思った八洲許がひとつの異変に気付く。

彼が見据えるその視線の先には、何故かカメラを持った秀の姿が。

 

「なんでお前カメラ持ってんだ」

 

そう問うと秀は目を輝かせてカメラを再び、七海たちの方へと構えた。

 

「幼女三人がッ 健全に絡み合・・・遊んでいるこの微笑ましい光景を収めなきゃ、と俺の使命感がそう告げるんだッ」

 

「・・・・」

 

その発言に一度咳をした八洲許は無言でそのカメラを掴むと、

 

「え、ちょ」

 

大きく振りかぶって、

 

「や、やめて」

 

力任せに、

 

「ヤメろぉぉぉぉぉ!!」

 

壁へと叩きつけ、完全に破壊した。

 

 

「うわああああああああ!!!」

 

観音長屋に、秀の叫びが木霊した。ちなみに、そのカメラは幼女撮影専用に後三つあるらしい。

 

 

 

 

  

 

 

 

 

オマケ

 

 

 

 

 

「ぐすん・・う、ううっ・・・汚された、私は汚されましたわ!!」

 

「ちなみに私思うんだけどさ美濃ちゃん」(ゲス顔)

 

「どうしたの七海ちゃん」(恍惚)

 

「コーデリアちゃんって・・・死にそうだね。序盤で」

 

「そうだね、サガフロ的に、コーデリアは死亡フラグだからね」

 

「ちょっ! どういうことですの!! 答えなさいよ!! 答えなさいってば―――!!」

 

 

 

 

 

 

 

―――延珠、財布の金を盗まれる~  完  ~

 

 

 

 

 




第九話、長ったらしいので要約すると、変態お嬢さまとロリコンが仲間になった。これでおkです。

コーデリアさんのせいで、これだといかがわしいタグが一つ増えるんじゃないかなぁ。でもこんな描写もやってみたかったんだ。挑戦するしかない⇒すいません、結局下手くそでした。

サガフロの分岐ルートでコーデリアを選択し後悔した人は私だけじゃないはずだ(血涙を流しながら)


次回は休憩回にするので次回予告はなしです。代わりにこの小説では初の聖天使さまと菊之丞さんに出番が・・・あとゲス脇。

多分前に読者の皆さんには言ったと思いますが、この作品は原作の一巻がラストになりますのでご了承ください。
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