ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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急に文字数増えやがったチクショウ! やっと幼女が書けるー。


~民警無用~②

東京エリア、それは元々一つの都道府県東京だったがガストレアによる侵攻により隣接する神奈川県と千葉県の一部が吸収され生まれた都市国家である。 

 

ここは、その東京エリアの駅前通り。 蓮太郎と延珠はこの人だかり賑やかな通りにあるラーメン屋へやって来ていた。

 

 

「蓮太郎・・・大丈夫か?」

 

カウンターの席で隣に座っていた延珠にそう言われた連太郎は心配してくれている彼女の頭に手をぽん、と乗せた。

 

「大丈夫だ・・・別に大きな怪我をした訳じゃねぇからよ」

 

「やぁ、お ま た せ」

 

カウンターの奥からやって来た男が蓮太郎の隣に座る。オールバックにメガネを掛けているこのインテリヤクザっぽさを醸し出している男、浜田 由紀夫(はまだ ゆきお)。 この人物によって蓮太郎と延珠はこの場所に連れてこられていた。

 

 

この男が、前回のガストレアの駆除の依頼を天童民間警備会社にした依頼人だ。

 

「ここのラーメン屋はね、とても安くて学生向けにボリュームがあるから人気なんだ」

 

そう言うと、厨房からハチマキを巻いた店員がラーメンを持ってくる。 浜田から延珠まで均等に配られたそれを見て蓮太郎は目を疑った。

 

「も、もやしで麺が見えない・・・ッ」

 

どんぶりを覆い尽くすほどの山盛りで重ねられたもやし。 その下には麺があるのだろう。 そしてもやしの上に乗せられた巨大な一枚の豚肉が貧乏人二人の鼻を刺激する。

 

「あぁ、安心してくれ。 今日は僕の奢りだ・・・報酬金が遅れてしまっていることもあるし、蓮太郎くんには同じ職業の人間が迷惑をかけたみたいだからね」

 

 

地獄に仏とはこのことか、と蓮太郎は思った。

 

蓮太郎は浜田に最初出会ったときの印象を思い出していた。 所見でその手の人間だと思い、懐から警察手帳を見せようとしただけなのにその場にいた全員が各々の武器を構えたのは今だと恥ずかしい限りだ。

 

「教えてくれ、あの男・・・一体誰なんだ」

 

ラーメンを食す前に蓮太郎は明らかにしておきたかった。 あの男が何者でどうしてあんなことをしたのか分かるまでは、とても奢りであるラーメンを口にすることはできない。

 

 

そうだね、と浜田がお冷を飲み干すとコップを置き、語りだした。

 

「彼の名前は八洲許 勇次(やすもと ゆうじ)、巡査部長だ」

 

「・・・巡査部長?」

 

「そう、だけど『部長』じゃない。 万年ヒラみたいな人だ」

 

「れんふぁろー、このらーめんふといぞぉ」

 

真剣な男の話そっちのけで隣の延珠は既に形成されているもやしタワーを胃に収め、下の層である麺まで到達していた。 麺が手作りなのかかなり太い、それに苦戦しているようだ。

 

「あの人は色々と問題の多い刑事だ。 月一回でも真面目に働いているかどうかだし、君たちから聞いたように、呪われた子供達がいたら殺してしまう・・・とにかく、いい噂は聞かないよ、賄賂をよくもらってるっていうし」

 

賄賂、その言葉に蓮太郎が首を傾げた。

 

「つまり、あの金の延べ棒を上からもらって悪事を見逃したり・・とか?」

 

「蓮太郎くん、時代劇でも好きなのかい?」

 

浜田は笑って続けた。

 

「まぁ間違っていないさ。 でも呪われた子供を殺す理由はなんでだろうな」

 

「アイツは『奪われた世代』って言ってたけど。 親族でも殺されたのか」

 

いや、と浜田は麺をすする。

 

「奥さんはご健在の筈だ。 僕もそこまで彼について知っているわけじゃない。 警察はそこまでアットホームじゃないから」

 

「そうか・・・俺は、アレを同じ人間なのかって疑ったよ。 最初にリンチしてた奴らもそうだ・・こんなんで今の東京エリアは平和を謳ってるのだとしたら・・・狂ってやがる」

 

蓮太郎は、ずっと湯気を上げているラーメンを見たまま動かない。 

 

「だが蓮太郎くん、東京エリアはまだいい方だよ」

 

ずるり、と浜田が麺を飲み込む。

 

「『呪われた子』に対する差別運動はこのエリアでは穏やかなくらいさ。 『呪われた子』を引き取ると報奨金でお金が払われるのも、この東京エリアだけだしね」

 

知ってるかい、と浜田は箸を置き腕を組んだ。

 

「大阪エリアでは、ここよりも排除運動は活発だ。 今日みたいな出来事はほぼ日常茶飯事、あちこちで悲惨な目にあってる『呪われた子』がいると言ってもいい」

 

 

 

 

蓮太郎は隣にいる延珠を見た。 どうやらもう麺は食べ尽くしてしまったのか今度は脂分のある濃厚なスープを飲み干そうと、ギトギトスープめぇ、こうしてくれるわ!ぬおー、と丼を一気に飲み干すことに挑戦している。

 

 

 

「時々、わからなくなる・・・俺たち民警がこうやって活躍することで、世界でちょっとでも『呪われた子どもたち』の認識が変わればいい、そう思ってた」

 

だが、現実は違うのだ。

 

「あの場所にもし、今日助けられなかった場所に・・・もし延珠がいたら俺はッ」

 

がしっ、と強く蓮太郎の肩を掴む手があった。 それは延珠のものではなく、浜田の物だ。

 

「蓮太郎くん、希望を捨てちゃいけない」

 

浜田の熱い視線は諦めてはいけないと言っていた。

 

「君が少しでも希望を持っているならば、絶望しないで進んでいくことが君には大切なことだ。 もちろん、延珠ちゃんにもね」

 

 

 

人間、捨てたものではないな、と蓮太郎はこの時溢れ出そうな涙をこらえた。 ただただ嬉しかった。少ない味方がこの場所に存在してくれていたことが。

 

「僕にも目標がある。 今は警部補だが、最終的に目指すのは警視総監だ。 そこで今までのような警察の悪しき風習も見直して、君たち民警との関係も改善していこうと思ってる」

 

 

「警視総監・・・あんたなら、できるぜ浜田さん」

 

そうかい、と照れて笑った浜田がポケットの中をまさぐった。 振動音と一緒に取り出されたのは浜田の黒いケータイだ。

 

「ん? ちょっと失礼」

 

と、浜田は断りをいれるとその場で携帯の通話ボタンを押した。

 

「ああ、お疲れ。 『仕事』かい? じゃあちょっと待っててくれよ、今行くからさ」

 

そう言って携帯の電話を切った浜田は食べかけのラーメンの丼の上に箸をおいて立ち上がる。

 

「すまない蓮太郎くん、僕はこれから野暮用でね。 同僚に呼び出されてしまった」

 

「そうか、急な呼び出しに対応しなきゃいけないなんて・・・やっぱ警察ってのは大変なんだな」

 

「君たちほどではないさ、延珠ちゃん、僕の分も食べてくれ」

 

うむ、と嬉しそうな笑みを浮かべて延珠が丼をもらうと、浜田は店の暖簾をくぐって外へと出て行った。

 

 

 

「延珠・・・」

 

浜田がいなくなったあと、蓮太郎は二杯目のラーメンに手をつけている延珠を見て呟く。 

 

「なんだ蓮太郎」

 

「これから・・・頑張ろうな」

 

 

「・・・・ふぁっ!?」

 

突如とした蓮太郎の発言に延珠は面食らったように、喉を詰まらせて慌てて咳き込む。蓮太郎はどうしたといったように咳き込む延珠の背中をさすったのだ。

 

 

「どうしたんだよお前?」

 

「れ、蓮太郎! 『これから頑張る』って急すぎるぞ! 流石の妾も不意打ちだ! まるで野獣、野獣のようだぞ!そんなに夜の相手がしたいのか!」

 

 

「そっちじゃぁねぇッ!」

 

一瞬にして周りがざわついていた。 同時にひそひそと声が聞こえてくる。 「いやだ、ロリコンよ」、「へんたいよ、変態がいるわ、警察に連絡よ」

 

批難の視線が連太郎に向けられていた。 どうしてこう、自分はこんな目に逢う事が多いのか。 そう考えずにはいられず肩を落とした蓮太郎であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蓮太郎が浜田に奢られている同時刻、東京エリア18地区にある居酒屋『行灯(あんどん)』で三人の男が座敷に座って酒を飲んでいた。

 

「うむ、ここの酒は全体的に質がいいな・・・烏賊の塩辛なんてそこらじゃこの店に叶わねぇ」

 

ビールを片手に、小さな皿に乗せられた烏賊の塩辛を口に含んだ八洲許はしたづつんだ。 後ろでは厨房で若い小太りの男が照れ隠しに笑みを浮かべている。 この男が作ったのだろう。

 

「やっさん」

 

向かいの中年の男性が八洲許にそう言ってビールを置いた。

 

「なんだ多田島警部どの。 そういえば今日はお前の呼び出しでもあったよなぁ・・・一体どう言う了見だよ」

 

「しらばっくれるなこの昼行灯(ひるあんどん)」

 

 

さてなんのことだか、と八洲許はビールを持つ手で隣を見る。 八洲許のとなりには黒縁メガネをかけた中年の男がいた。

 

「木下ァ、なんのことだと思う?」

 

八洲許にそう聞かれて、木下と呼ばれる男は無我夢中で山盛りにされていたフライドポテトを口へと運んでいた最中だった。 当然、話の流れなどわかるはずもなく、さぁ? と言わんばかりの首の傾け。

 

多々島は頭を掻いた。

 

「スーパーで学生の万引きをゆすって見逃したな? あと、路地裏で発砲したのもお前だろ」

 

あちゃ、バレてた? と八洲許は歳に合わないくらいの笑顔で舌を出して自分を小突いた。 てへぺろである。

 

 

「俺の部下が偶然見たのと、顔をブルーにして小便漏らしながら逃げてきた男が『人殺しィィ!!』って口走ってたんだ・・・特徴を聞いたら深緑のコートにガラケーの男ときたもんだ。 お前しかいねぇだろ」

 

 

あのなぁ、と八洲許は呟いた。

 

 

「言っとくが温情措置なんだぜ? 万引きの学生なんて金持ち大学、法学部の出だ。 これからの彼の将来を考えた上で前科を付けるにはかわいそうだからと思ったこその約束金よ・・・あと、最後に関してだが、生憎俺は人は殺してねぇ」

 

人呼吸おいて、八洲許は言った。

 

「目の赤いガキどもは、『人』だと認められてねぇ。 むしろ、一般市民を脅かす可能性のある存在だ。 あいつらが本気を出せば、あの程度のガキどもなんてすぐに殺せるんだぜ。 撃って何が悪い」

 

 

 

「危険なのは百も承知だ。 確かに『呪われた子供たち』による一般市民の集団リンチ殺人事件だって起きてる。 俺が言いたいのは、安易に銃を抜いて解決を図るなって事だ」

 

 

「こんな飲み屋でそんな喧嘩したって酒がまずくなるだけですよ二人とも」

 

まぁまぁ、と一触即発ムードの二人を制止に入ったのは木下だった。 彼に言われて納得したのか、二人はお互いに深呼吸するなりビールを飲むなりして落ち着きを取り戻す。

 

 

暫くして、木下(きのした)が口を開いた。

 

 

「多々島よ、お前『民警殺し』の犯人を追ってるんだって?」

 

 

瞬間、八洲許の目つきが変わった。 二人はその変化に気づくことなく、会話を進めていく。

 

「ああ、ホシのつけ所が全くもって難航しているが、色々と掴めてきたぜ。 やっぱりこの『民警殺し』・・同じ民警による殺人で間違いないと思うぜ」

 

 

多田島は、持っていた手帳を開いた。 手帳には箇条書きで今回の『民警殺し』についての要点が書かれている。

 

 

 

 

・殺害されるのは決まって民警ペア。 それも、酷く小さな民間警備会社。 プロモーターと社長を兼業で行っているといったほうがいいだろう。

 

 

・二人とも、頭部を打ち抜かれて即死。 使用された弾丸はガストレアに弱点のある弾、バラニウムの弾。

 

 

・イニシエーターはプロモーターに覆いかぶさるような体勢で死亡している。これは全ての事件に共通していることだ。

 

 

以上が、多田島が得た『民警殺し』の情報だ。

 

 

 

「ふぃー、多田島。 やめとけやめとけ」

 

ビールをちび、と口につけた八洲許が顔を赤くしていう。 恐らく、酔っているのだろう。

 

「こりゃ結構、あぶねぇヤマだ。 下手したらお前もタダじゃ済まねぇぜ」

 

だがよ、と八洲許は続けた。 ちょっと顔を沈めて周りにあまり聞こえないように多田島に近づく。

 

「もし犯人の目星がついたらよぉ、その手柄・・・俺に譲ってくれね?」

 

「クズ野郎」

 

毒を吐き捨てるような目で、多田島は言った。 そうすると木下がまたしてもまぁまぁ、と多田島のジョッキにビールを追加していく。

 

それを見てか八洲許が口元を歪めた。

 

 

「いいなぁ木下ちゃんはさー。 あのバリバリやり手の浜田由紀夫(はまだ ゆきお)くんとこの部下になって、仕事いっぱいもらえて、もうすぐ多田島と同じ警部になっちゃうしー、美人な奥さん捕まえてるしー」

 

はは、と苦笑を浮かべている木下に対して多田島が悪い笑みを浮かべて言った。

 

「お前ところにもいるじゃねぇーか、立派な『お嫁』さんが・・・りっちゃんだっけ?」

 

「おい馬鹿やめろ。 あれは『嫁』じゃねぇ。 亭主をこき使う悪女そのものだぜ」

 

「婿養子は辛そうだねぇ」

 

変なタイミングではあったのだが、三人は笑ってしまった。 一体先程までの険悪な雰囲気はどこにいったのかと、周りの客もそう思っているだろう。

 

そして手を二三回叩いて軽快な音を鳴らした八洲許がビールを持つ。

 

「さァ、我ら警察の『お仕事』のお話は終わりだ。 むしろこういう酒飲む場所で仕事の話をするのが無粋ってもんだぜ。取り敢えず、飲んじゃいましょ飲んじゃいましょ」

 

「お前が『仕事』の話すんじゃねぇっ お前のデスクの上、競馬雑誌とパチンコ玉でいっぱいじゃねーかっ!」

 

「おーい! 生三つ追加で!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっさん、飲みすぎだぜ」

 

 

月が完全に笑っているようにしか見えないこの真夜中、八洲許と木下は繁華街を歩いていた。 と言っても、八洲許が酔っ払っている為、木下が肩を貸している状態だが。

 

 

飲みが本格的に始まってから2時間で、八洲許がトイレに駆け込んでゲロした瞬間に今日の飲み会はお開きとなった。 

 

「ちくしょー多田島の野郎ォ、いつの間にか俺らを追い越していきやがって。 調子乗ったなァ」

 

「調子に乗ったのはやっさんだぜ。 なんで熱燗をイッキでやろうと思ったのさ、学生のノリじゃないんだから」

 

「ばかやろーおめぇ、あれぐらい飲めなきゃ、や、やってられねぇよばきゃろー」

 

もう酔いが周りに回っているのせいか、八洲許の口調は酔っ払いのそれだ。 やれやれ、といったメンドくさい表情で木下は頭を掻く。

 

 

「でもやっさん、俺らもいい年になったなァ」

 

「ああ、もうお互い44歳・・・あと20年以内にはお役御免よ」

 

 顔を酒気で帯びた八洲許が答える。 東京エリアが出来上がる前から二人は知り合っていた。 同じ警察官学校に入学し、ともに口うるさい教官の愚痴をバレないように持ち込んだ酒を飲みながらこぼし合う。 二人で協力して事件を捜査したこともあった。

 

結局『真面目な木下』と『不真面目な八洲許』で大きな差が開いてしまったが。

 

「やっさん、15年以上あんたと付き合っているがあんたについては、未だに分からないことの方が多い。 分からないことは、この東京エリアだってそうだ。 一つだけわかってることがあるとすれば、警察の仕事も、民警も、一般市民も、呪われた子も、この世の中では理不尽な事が多すぎる」

 

だから、と木下は続けた。

 

 

「そんなところを、知らなければいいことをアンタは知っちまったから、そうなっちまったんじゃねぇのか」

 

 

木下に言われて、八洲許は夜風にあたって少し酔いが醒めたか、肩を借りることなく歩き始めた。 そしてコートのポケットからタバコの箱を握り、一本だけ取り出すとライターで火を点けて吸い始めた。

 

「俺はなぁ木下ァ、ただ単にメンドくせぇだけなんだよ。 民警の御陰でやつらの補助作業が多くなった今の警察の仕事なんかよりも、競馬で一発当てたり、銀玉をへそにぶち込んで大当たりを目指している方が、俺はまだ楽しいもんだぜ」

 

 

やれやれ、と言って木下は肩を落とした。この男は、15年以上の付き合いのある同僚に対しても隠さなければいけないことがあるらしい。

 

 

「・・・・」

 

本来なら、また笑って済ましておきたい木下であったがその表情は真剣な表情だ。 その木下が呟く。

 

 

「なぁ、やっさん。 この先、俺に『何か』があったらさ、息子と妙子の事・・・頼むぜ」

 

「どしたァ? 意味深だなァオイ。 これから死ぬみてぇじゃねぇか」

 

八洲許がタバコを口から離すと木下は小さく笑った。

 

「もちろん、簡単にくたばりはしねぇよ。 でも『もしも』ってやつがありそうだからさ、この仕事は」

 

 

ガストレア大戦以降、民警が結成されてからガストレア関連の現場に警察が直接関わるには、民警の協力が不可欠となったこの時代、仕事のお株を奪われたと思っている警察と民警は非常に仲が悪い。

 

なのでいざ現場で行こうものなら民警より先に手柄を取ろうとして感染源のガストレアに襲われて死んでしまった血の気の多い若き警察官が多くなった。

 

「ほらやっさん。 そろそろ急いで帰らねぇとお前の娘さんが心配するぜ」

 

「おっと、そうだった・・・じゃあな木下ァ、『民警殺し』の件が落ち着いたらまた三人で飲もうぜ」

 

その時は既に木下は遠くに居たが八洲許の声は届いたのだろう。 一度止まってから振り返って大きく手を振っている。 

 

 

「あー寒い寒い」

 

小さく背を丸めた八洲許は寒さを増した夜風に耐えながら彼は帰路へと着いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 里見蓮太郎の相棒のイニシエーターこと、藍原延珠の通う勾田小学校は、蓮太郎の通う勾田高校の二つ隣にある。 蓮太郎に自転車で送られていくのがいつもの流れだ。 

 

今日もその流れで登校し、自分のいるクラスの教室へと駆け込んでいく。

 

「む、舞ちゃん! おはようだー!」

 

「あ、延珠ちゃんおはよー」

 

教室に入ってすぐ目の前には延珠と同い年くらいのくせっ毛のある少女ともう一人。

 

「七海(ななみ)ちゃんもおはようだ!」

 

「おはよう延珠ちゃん、そして勝負よ延珠ちゃん」

 

不敵に笑った同い年の少女、七海 静香(ななみ しずか)がそう延珠に向かって呟いた。 腕を組んで首あたりまでに伸びた艶のある茶色の髪、前髪はピンで留めたその少女は周りの女子がスカートでいる中、一人だけジーンズの半ズボンの彼女は少女といよりちょっと男の子ぽい。

 

「いきなり勝負とは・・・昼ではダメか、七海ちゃん」

 

「待てない、延珠ちゃん風に言わせてもらうなら『待てぬ!』

 

「延珠ちゃんでもそんな喋り方しないかもよ~」

 

拳を握り締める七海に舞が語りかける。 延珠は長いツインテールを揺らしながら机にランドセルを置くと改めて七海と向き合った。

 

「はっきり言うとだぞ。 昨日の天誅ガールズ、天誅レッドのお株を奪ったのは戦犯バイオレットだぞ? 前回の次回予告から既に裏切りを開始していたのだ。味噌大根食べたさに敵に寝返ったのだ!」

 

 

延珠が言う『天誅ガールズ』というのは、義父・朝野を殺された大石内蔵助良子(魔法少女)が仲間である同じ魔法少女を引き連れて憎き仇である吉良邸に討ち入るまでを描いた大長編アニメである。

 

 ここ最近の言葉で表すと、赤穂浪士系魔法少女萌えというらしい。 

その中でレッドやブラックなど色々なキャラが存在するのだが唯一、人気のない存在が今延珠が口にしたバイオレットなのだ。

 

巷のヒーローショーなどでは夢と希望に満ちあふれた子供たちの歓声がレッド、ブラックなどにかけられる中、バイオレットの着ぐるみだけは子供たちから殴る蹴るというぞんざいな扱いを受けてる暗黙の了解が存在する。

 

 

 

某掲示板ではバイオレットを慰める会などが存在するとかしないとか。

 

 

延珠の目の前にいる七海は不遇扱いされている、天誅バイオレットの肩を持つ数少ないファンなのである。

 

「違う、違うよ延珠ちゃん! あれは囚われてた街人を助けるための芝居だったの! 敵を騙すにはまず味方からというじゃない!」

 

「見終わった後、妾はネット掲示板で検索をかけたところ、レッドとブラックを演技で引っぱたいて高らかに高笑いしたあのシーンだけでサーバーが落ちたらしいぞ」

 

「『無駄にシーン引っ張って、しょうもない事で出番増やそうとするんじゃねぇッ』って凄い叩かれてたね」

 

笑顔で言う舞がちょっとだけ怖いと感じた延珠である。 唯一のバイオレットファンの七海は涙目で頭を抱えた。

 

「どうして、どうして皆バイオレットに厳しいのッ  天誅ハートチェーンがせこくて卑怯だなんて言うのッ こんなの・・・こんなの絶対おかしいよッ」

 

「振り回して引っ張ったら戻ってきて首に当てるというのはどうも・・・地味じゃあないか?」

 

「せめて『トリッキー』って言ってよッ!!」

 

 

天誅ガールズバイオレット、彼女が陽のあたる世界がいつか来るのだろうか。 そんな事を考えながらその二人の相対を見ていた舞は思い出す。

 

「あれ~? 一体なんの勝負だったの?」

 

それを聞いた瞬間、延珠と七海は同時に振り返ると、それは・・・と続けて、ぎゅっと拳を握って言い放った。

 

「「愛だよッ」」

 

「どういうことなの?」

 

見事に息ぴったりな事に随分とお二人さん、仲がよろしいようで。

 

 

「はーい皆おはようー、席についてー」

 

扉の戸を引いて入ってきたのは延珠たちのクラスの担任の男性教諭だ。 教師の掛け声に反応して全員がそれぞれの席に着き始めた。 延珠や七海は話の続きができないのを残念がったが、舞を含めて延珠のすぐ近くの席には七海がいるのであまり気にはならなかった。

 

 

「えー、今日はちょっと皆にお知らせがあります。 皆も今日気付いていると思うけど、同じクラスの木下正樹(きのした まさき)君がいません」

 

ほんとだ。と、延珠や七海、ほかのクラスメイトも周りを見渡した。 教師の言う正樹くんはクラスではあまり目立ちたがらないがどこか心が強く、正義感あふれる少年だった。

 

 

 

 

 

 

「実は、彼の警察官のお父さんが・・・今朝亡くなりました」

 

 

 クラスの皆は思い出していた。 いつかクラスの中で授業中にあった『将来になりたいもの』、各々がそれぞれの夢を描いた。

 

 

延珠なら『死ぬまで蓮太郎の嫁』、舞ちゃんなら『天誅ゴールド』、七海は『必殺剣劇人』。

 

 

その中、警察官の父を持つ正樹くんは健気にも『お父さんのような警察官』であった。 彼いわく、弱い人を助けて、悪い人はお父さんと一緒に捕まえるのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 木下正樹の父、木下 誠治郎(きのした せいじろう)が亡くなったのは、19地区のとある公園だった。 その公園は、ホームレスなどが勝手に持ち出してきたドラム缶に火が灯っており、誰がその火を維持しているのか不明だが、雨や風が極端に吹かない以外ならば一日中火がある公園で有名だった。

 

 

 

彼は、この公園でなくなっていたのである・・・他殺だった。

 

 

原因は頭部に開けられた穴を見ればわかる・・・単純な事に、銃による殺人だ。

 

 

 殺しの起きた現場では既に遺体は鑑識によって運ばれ、捜査員が辺りを詮索し、木下が倒れていたであろうブランコの側には倒れていた形に沿って、チョークでマークされていた。

 

 

「・・・・・」

 

その光景をタバコをふかしながら見つめる男がいた。 八洲許である。

 

 

――――この先、俺に『何か』があったら、息子と妙子の事、頼むぜ。

 

 

・・・お前は、何を知っていた。 そして、何に巻き込まれたんだ木下ァ。

 

 

「やっさん!」

 

 

その現場に走ってかけてくる男がいる。 息を荒くしているのは多田島だ。

 

 

「おう」

 

「お前も・・来ちまったか。 昨日の今日だからよぉ、俺はァまだ信じられねぇんだ」

 

視線の先には、木下が倒れていたであろう人の形に沿って描かれたマーカーだ。

 

 

「今回の『民警殺し』と関係がありそうだ・・・」

 

「なんでそう思う」

 

八洲許がタバコを外すと、多田島が言うのだ。

 

「使われたのは、バラニウム弾だ・・・くそっ、遂に『民警以外』にも手を出しやがった!」

 

 

手口が、これまでの民警殺しとほぼ同じなのだ。そういうことなのだろう。

忌々しく多田島は吐き捨てるように言うと、八洲許は近くで片付けをしている捜査員の肩を叩く。

 

「おい、聞きたいことがあんだけどよ」

 

「あ、ご苦労様です」

 

八洲許に反応した捜査員に彼は続けて問う。

 

「木下・・いや、死体はどんな風に倒れてた?」

 

「は?」

 

と、突然の事にそう答えた捜査員に八洲許が舌打ちしながら続ける。

 

「なんでもいい。 死体がどんな感じで倒れてたか、使われた弾の種類とか」

 

「そ、それでしたら」

 

剣幕におされたか、捜査員は当時の状況を説明していく。

 

「死亡推定時刻は午前4時頃、現場で見つかったのは被害者の死体付近から見つかったライフルの弾です」

 

「あとは・・・気になるところとか」

 

えーっと、と思い出そうとする捜査員から、何も聞けなさそうな気がしたので八洲許が帰ろうとした時だ。

 

 

 

 

「そう言えば、気になる事が一つだけ・・・被害者の携帯、死亡したであろう時刻に奥さんの方に電話が入ってるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間とかからなかった。 現場にはKEEPoutと書かれた黄色の帯が公園の出入り口に貼られている。 多田島は途中で帰った。 なんでも、もう一度『民警殺し』についてもう一度洗うとのこと。 

 

そして、絶対に犯人をこの手で捕まえてやると目を赤くしていたのを八洲許は忘れない。

 

 

「俺の予想が正しければ・・・ん?」

 

 

 粗方話を聞いて、もうこの場所にいる必要のないと判断した八洲許が帰ろうとした時だ。 黒塗りのリムジンが彼の真横に止まる。リムジンといえば、高級車で、電話一本で呼べるのだとどこかの民間警備会社の社長は仰ってるらしいが、定かではない。

 

少なくとも、八洲許は買った覚えも読んだ覚えもないのだから。

 

 

 

 車のパワーウィンドがゆっくりと下げられ、中に居たのはヒゲを伸ばした運転手である黒服の男と後部座席に座る、一目見ただけで外人ではないかと勘違いするような銀髪の少女だ。 胸元には長さ余った銀の髪を二つの三つ編みを垂らしたその髪型は黒い女子制服に身を包んでいる。   凛とした佇まいはお嬢さまそのものの風格だ。

 

 

 

「八洲許さん」

 

透き通るような彼女の声に八洲許は顔を合わせることなく敢えて背を向けたまま話を聞いた。

 

「急ですが依頼が入りました・・・『仕事』です」

 

 

小さく頷き、ゆっくりと紫煙を吐いた八洲許はタバコを捨てて、足で完全に踏み潰してその場を去郎とした時だ。

 

「八洲許さん・・・」

 

少女の呼びかけに、思わず足を止めた八洲許が振り返るとパワーウィンドから露出した黒い制服に包んだ彼女の二の腕が地面を指している。 

 

そこには先ほど捨てた八洲許のタバコがあった。

 

 

「ポイ捨ては・・・いけません」

 

「・・・へい」

 

やる気なさそうに言う彼はもう一度その場所に戻り、捨てたタバコをまた拾う羽目になったのだ。

 

 




仕事人風にやろうとすると文字数が重なるというのが今回分かりました。 一応、次で一話完結するのですがこれからもこんな感じで一話が大抵三つぐらいに分かれると思うのでご理解をいただければと思います。 できれば端的にわかりやすくできるよう努力していきますんで。取り敢えず、幼女もっと書きたいぜ(迫真)

原作と仕事人を同時に見て参考資料としている私ですが最近『アカメが斬る!』という作品も参考資料として加わるかもしれません。
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