ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー   作:バロックス(駄犬

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ちょいと遅れてしまいましたが無事第二話更新でございます。 幼女成分が少なくて死にそうだぜ。


第二話~八洲許、高校生にボコボコにされる~

 この世の中、『暗殺』を生業として生活をする者たちがいる。 それは2031年、人類がモノリスより内側に篭ってからも変わることはなかった、現在進行形の現状である。

 

 そもそも、暗殺とは政治的に権力的に、要人殺害を計画して不意打ちで相手を謀殺することである。何千年という歴史を辿れば、『暗殺』というカテゴリーに当てはまった歴史上の人物は数知れない。

某国の大統領、独裁者が狙われるのは珍しいことではないのだ。

 

 

 

 その暗殺集団の中で人の『恨み』をお金で買い、望む相手を殺す・・・そんな職業が存在する。それが『晴らし人』だ。もともとの起源は江戸の前期から始まっていたらしい。 

 

『晴らし人』という名前も、数ある暗殺稼業の一つであり、もっと多くの名が以前より存在していた。

 

 

 

 始まりとなった『仕掛人(しかけにん)』、『からくり人』、『仕業人(しわざにん)』、『仕置人(しおきにん)』、『商売人(しょうばいにん)』、『仕事人(しごとにん)』、『剣劇人』・・・などなどと人の恨みを晴らすためのこの暗殺稼業は、事あるごとに名前を変えてその存在を維持し続けてきた。

 

うらごろしを入れてない? あれはなんか違うだろ。

 

 

 

そして、現代2031年には『晴らし人』・・・と、そう呼ばれるべきだがガストレア大戦により多くの人間が死んでしまった事もあって『暗殺業』自体が成り立たなくなってしまい、その存在は曖昧となりつつあったのだ。

 

 

 

 

~東京エリア、第18地区警察署~

 

 

 

「なぁ、渋野くん聞いてくれよ」

 

 

「はぁ・・・」

 

 

 

 書類整理をしていた前髪を垂らした渋野(しぶの)という男は、デスクの上にてド派手な雑誌を広げて椅子にどかっと背を預けた中年のオッサンの話し相手に付き合わされていた。

 

 

八洲許 勇次(やすもと ゆうじ)、44歳・・・巡査部長、その人である。

彼もまた暗殺を稼業とする「晴らし人」の一人だった。

 

 

 

「この前新台でいい台を見つけたのよ。 釘の調整もなめらかで、今が狙い時な旬の台をな」

 

「はぁ」

 

「あれは時速で10万は手に入る今季希に現れる神台だ。 お前、給料明日になりゃあ出るだろ? ちょっと下見に打ってこい」

 

 

 

 一応、この男は仮りにも『警察官』という職業に身を置く人間です。 

 

「はぁ」

 

「お前さっきから『はぁ』しか言わねぇなオイ! さてはまだ『パチンコ』を経験したことないなッ!?」

 

「はぁ」

 

今度はこくん、と首を縦に振った彼は勢い良く自分のデスクを叩いて立ち上がる。

 

「ようし、渋野巡査。 最近ここに配属された君に大人の世界を教えてやろう・・・まず手始めに20年ほど前に流行っていた某アイドルグループのCR機からやらせて――――」

 

 

「八洲許さん!」

 

 

途端に割って入ってきた甲高い声に、八洲許の背筋がピンっと立たさった。

 

・・・この耳に残り続けるようなオカマ口調ッ。

 

「なんでしょうか田中さん」

 

背後に立っていた甲高い声をあげた者の正体は、意外にも男性だった。 細身の体で肌は色白く、背は八洲許より少しだけだが低い。

 

「私のことは田中刑事課長とお呼びなさい。 それより、また貴方は『警察』という職業に身を置きながらパチンコですか?」

 

 この男、田中 熊九郎(たなか くまくろう)と言う、この第18地区警察署では有名な男だ。 主に、オカマ口調の警部として。

 

 

「別に禁止されてるわけじゃないでしょう。 知人に居ますよ、休暇の日に一日中店の中で右手を捻ってる男が」

 

「八洲許さん」

 

八洲許のけらけらとした笑いに田中もにっこりと笑顔で対応、だがその直後にその笑顔は豹変して。

 

 

「それは貴方のことでしょうッ!!!」

 

 

盛大に突っ込まれたのだ。 そのツッコミに、周りの刑事たちもくすりと笑っている。 これはこの警察署では見慣れた光景なのだ。

 

 

「一般市民を守るという大義を任せられた我々警察に、貴方のような人がいるというのが、私は全くもって理解ができません! ・・・まったく、まだ『民警殺し』の犯人は見つかっていないというのに」

 

「ああ、ありましたねぇそんな事件」

 

 数日前から民警の会社のみを狙っていた民警殺しは、件数を10件目にしてピタリとその凶行をやめていた。それもそのはずである、事件の元凶であったその犯人は、もうとっくにこの世にはいないのだから。

 

「でももうあれから一件も起きていない訳ですし、別のエリアに逃げちゃったんですよきっと」

 

 

「貴方は馬鹿ですか?」

 

即座に田中が八洲許を睨みつけた。

 

「『大量殺人犯』が一箇所で多くの人間を集めて一気に殺害を起こす習性があるように、『連続殺人犯』の殺人には必ず期間が空く『冷却期間』があります、今回がソレなんですよ」

 

 

「へぇ、よくご存知で」

 

・・・まぁその犯人殺しちゃったの俺なんだけど。

 

 

内心ではそう思いながらも、八洲許は上司の機嫌を損なわせないために敢えての反応だった。

 

 

「だからこの事件はまた起きるでしょう。 そしてこの私の独自の考察により、この事件の犯人・・・おおよそ見当はついています」

 

 

自身のデスクから写真を取り出し、田中は八洲許へと突きつける。 その写真には黒塗りの大剣を背にぶら下げた大男と、小さな少女が写っていた。

 

「これは?」

 

「今回の容疑者であろう、プロモーターの伊熊 将監(いくま しょうげん)です・・・このちっこいのはイニシエーターの千寿 夏世(せんじゅ かよ)」

 

 

ほう、と八洲許は顎に手を当てながらその写真をまじまじと見た。

 

 

「こりゃ厳つい男ですなぁ、こんな馬鹿でかい剣持って肩疲れないんですかねぇ」

 

「ホント貴方はどうでもいいところしか気にならないんですね!!」

 

唾まで飛ぶんじゃないかというくらいの勢いの怒声が田中の口から放たれて八洲許は思わず指で耳を栓をする。

 

「 喧嘩早く、よくトラブルを起こす輩で、殺害された全ての民警に接触経験はあるそうです・・・なによりも見てくださいよこの悍ましい風貌、チャラそうな顔です。 きっとあのスカーフの下は人を殺した薄気味悪い笑みを隠しているのでしょう」

 

この男が犯人です、と言い切った田中に対して八洲許は唖然としていた。

 

 

「いやそれ見た目だけの判断じゃ」

 

事件捜査の方向性ももはやこの男によって捻じ曲げられてる気がするというくらいの勘違いっぷりに八洲許は頭を掻いた。

 

人を見た目で判断しない、ダメ、絶対。

 

 

「とにかくいいですか? 貴方は近々、この男の近辺の情報収集を渋野くんと一緒に行ってくださいッ いいですねッ」

 

「ええ? 私一人でいいじゃないですか。 この『はぁはぁ』新人と仕事なんてしたくありませんよ!」

 

「おだまりッ!!」

 

田中は八洲許のデスクを強く叩いて彼の意見を一蹴する。

 

 

「貴方は目を離せばどっかに抜け出すかもしれませんからねッ 渋野くんはその監視役で―――――あれぇっ!?」

 

 

くるっ、と背を向けた瞬間に田中の足が宙へと投げ出される。 そのまま背中を地面に預けて、すっ転んでしまった。

 

 

「イタタタ・・・・なんですかこれはッ!!」

 

何事か、と痛みのする背中をさすりながら辺りを見渡した田中が指でつまんだソレは、銀色の玉、パチンコ玉であった。見るとそこら辺には数発転がっているのが目に見える。

 

 

さきほど田中が八洲許のデスクを叩いた時に上に置いてあったのが床に落ちたのだろう。

 

「八洲許さんッ!!」

 

声を張り上げて原因の男を捉えようと視線を戻した時には、そこに八洲許の姿はなく、元凶はそそくさに扉から逃げようとしていた。

 

 

「あ、田中さん私・・・お昼ご飯食べに行ってきますんで」

 

 

田中の制止も目に止めず、彼はバタン、と笑顔で扉を閉めてその場を後にした。

 

 

「や、八洲許ォォォォォォ!!」

 

 

第18地区警察署に、田中熊九郎の怒りの叫びが木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・俺のせいじゃねぇからな、自業自得だざまぁ見やがれ。

 

 

そそくさに警察署を抜け出した八洲許はコンビニに入ってお茶とおにぎりを二つほど購入する。鮭のマヨネーズが彼の好物だ。 

 

 

お昼の時間はかなり長い(八洲許が勝手に時間をのばしている)為、彼はその足でいつものように公園でぶらからとしていても良かったのだが、彼は今日は『ある場所』に足を伸ばすことにする。

 

 

 

「うーん・・・海の青さを見ていると、まるで日頃の疲れが抜け、心が洗われていくようだ」

 

 

彼がやって来たのは、地区の端っこ・・・外周区と地区を海で国境線のように挟んだ場所だった。 八洲許から見て海の向こうに見える場所には戦争によって形を変えたアスファルトの上に何人かの少女たちが座っているのが見える。

 

 

その者たちは全員、目が紅い。 呪われた子供達だ。

 

 

八洲許は目が特別に良いというわけではないが向こうの数人がこちらに向けて手を振ってきたのが見えたので返事とばかりに手を振り返してみる。

 

 

・・・よくまぁあんな場所で生きてられるよなぁ。

 

まったくもって謎だ、と率直に思う。 呪われた子供たちはその身に宿したウィルスが原因で怪我などの治癒、細胞の再生が異常に早い。 また、病気などとは無縁などと人間にとっては良いとこ尽くしだろう。

 

なので、外周区のような生活環境の整っていない場所でも、ある程度の食料があれば生きていられる。 それどころか、向こうの少女たちはいつも元気で活発だ。

 

既に何人かの少女たちはこちらに向かって体を使った人文字で遊んでいる。 7~8人の少女たちが組体操で何か文字を表していた。 

 

 

・・・ありゃあ、『ABC』か? よく表せたないオイ。

 

 

「さて、帰らないと上司がうるさい・・・あばよ幼女達」

 

 

 やって来てすぐ帰ってしまうのはどうかと思うがここに来るだけの電車の時間で帰った時にはお昼の時間終了間際まで来ている。 あのオカマ上司に色々言われるのは大変だとそう思って歩き出した時だ。

 

向こうから、近づいてくる影があった。 

 

 

「・・・・・ん?」

 

 

「・・・・・ん?」

 

八洲許の真正面、自転車に乗った高校生らしい少年がいた。 それはどこかで見たことがあると彼が目を凝らしてみると。

 

 

「お前は・・・あの時の刑事!!」

 

突如として顔を曇らせたのは以前、あの路地裏で出会った里見 蓮太郎だった。

 

 

 

「ああ、なんだお前か」

 

 

・・・やっべー、なんか超めんどくさそうな奴が来たんだけど、マジやべぇー。 どれくらいヤバイかっていうとマジヤバイ。

 

冷ややかな一言の裏にある明らかな動揺。 八洲許は感じていた事があった。 この少年は放っておいたら自分に危険なことを及ぼすのだと。

 

その前に逃げなければならないと。

 

 

「学校はどしたァ、サボりなら学校に連絡するぞ不良少年」

 

蓮太郎の前でタバコを取り出した八洲許は人目が無いことをいい事にどうどうと吸い始める。

 

 

「アンタ・・・この前の『アイツ』は・・・?」

 

 

対して連太郎は静かにそう言った。 八洲許は考える、目の前の男が言う『アイツ』とは。

 

 

「はて?」

 

「とぼけんじゃねぇよッ! あの日、お前が殺したあの子だ!」

 

 

 

・・・そらみろ、やっぱりメンドくせぇ事だった。

 

 

目を背けながら海を見た八洲許は大きくため息をつく。 紫煙が同時に吐かれたのとき、彼はこう言うのだ。

 

「あー? ンなもん分かるかよ。 何人殺ってると思ってるんだァ馬鹿が、そんな事いちいち聞いてんじゃねぇ」

 

 

ふざけるな、と目の前の蓮太郎は叫ぶが、八洲許はとんとん、と指で自分の頭を数度小突いた。

 

「お前は・・今まで食ってきたパンの枚数をいちいち覚えてるのかァ?」

 

「340枚とその内パンの耳が1360本だッ!」

 

「ネタにガチレスしてんじゃねぇよッ!!」

 

真剣に答えた蓮太郎に一杯食わされたと突っ込みながら八洲許は怒号を上げる。 どこの時代でも、こういう熱い男はメンドくさいのだ・・・と、彼は適度に話をしながら切り上げる事を画策する。

 

 

「お前と会ったあのガキならなぁ・・・そこらへんのゴミ収集車にブチ込んでやったぜ」

 

 

「・・・なんだと?」

 

 

目の色を変えた蓮太郎に、八洲許はだから、と続けた。

 

 

「後始末はちゃんとしなくちゃいけねぇや。 街に落ちてるゴミはなぁ、しっかりゴミ箱に捨てる・・・・お母さんから教わらなかったのかい高校生」

 

 

けらけら、と頭を抱えながら言う彼に対して、蓮太郎は肩の震えが止まらない。

 

 

これは明らかに怒りから来るものだった、気づくまでにあと何秒ほどかかるのだろうか。

 

 

「嘘だろ・・・ッ」

 

「冗談じゃねぇぜ?」

 

 

即座に八洲許は返す。

 

 

「俺はァ、ガキがプレスで潰されていく様をビデオ撮影しながら実況中継したのよ。 金属プレスがガキを巻き込んだ時のあの骨が潰れる音? ありゃあ家の瓶割った時とはまた違う音がするんだな」

 

 

八洲許は思う、我ながら正義にあふれる好青年をこう絶望させるのは楽しいものだと。

 

 

以前、多田島に注意された『大学生を相手に万引きを金で見逃した』事を思い出す。 あの二人は、『俺たちが日本の法を変えるのだ』と大義名分を掲げながら、入学した当初から万引きを繰り返す小さき器の人間だった。

 

 

正義を謳い、小さきを見逃せとは・・・この世の中はまったくもって腐っていると、八洲許は考える。

 

 

「お前・・・人間じゃねぇよッ!」

 

唐突に、蓮太郎が吠えた。 

 

「ウィルスを宿したからなんだってんだッ あいつらだって・・・・ちゃんと産まれて、『命』を宿した『人間』だろうがッ!!」

 

蓮太郎は、怒号を吐きながら頭の中で常に笑っていた延珠を思い出した。 彼女も確かに一度は人間を諦めた。蓮太郎も、彼女とプロモーターとイニシエーターの関係だけで済まそうと考えていただろう。だが今は違うと断言出来る。

 

 

泣いたりも、笑ったりも、友達だって作ることができる人間なのだと、蓮太郎は言う。だが、目の前の男は、そう簡単に首を縦に振ろうとはしなかった。

 

「違う」

 

あくまで冷静に八洲許は返すのだ。

 

 

「将来必ず、『ガストレア』になる希少と殺意を身に纏った『化物』だ」

 

 

性懲りもなく力任せに返そうとする彼に、八洲許はうんざりしたのだろう。 だが、うんざりしたのとは別に、違う事もあったのかもしれない。

 

 

「体内侵食率からは逃れられない、限界に到達すればお前が『人間』だとほざいているあのガキが、次の日には世界を破滅させる大群のお仲間だ!」

 

一歩ずつ、ゆっくりと彼は蓮太郎に近づいていく。 蓮太郎は熱くなる自分の体温を感じたまま、その場を離れようとしない。

 

ついに、八洲許がニヤけた笑みを浮かべながら蓮太郎の耳元で卑しさたっぷりにこう呟くのだ。

 

 

「お前も・・・そう思ってるんだろう」

 

 

 

次の瞬間、八洲許の顔面を蓮太郎の拳が抉っていた。

 

 

 

 

「ごふぅ・・・」

 

 

・・・え? なに? お前の手、どうなってんの?

 

 

殴られた痛みよりも、八洲許には違和感バリバリの蓮太郎の拳がこの上なく気になっていた。

 

だが、目の前で怒号を上げながら突っ込んでくる蓮太郎には聞く耳はきっとないだろう。

 

 

「お前ぇぇぇぇッ!!!」

 

 

追撃とばかりに立ち上がった八洲許に渾身のストレートが炸裂する。 まるで投げられた紙飛行機が空気の抵抗でくるくると回るような回転ぶりを見せつけて彼は地面へと倒れふす。

 

 

・・・これ、何、ガンダニウム合金ででも出来てるのコイツ!?

 

自分の頬をえぐる拳が、金属を打ち付けてきている音を叩きだしているのに八洲許は違和感を拭えない。 それもそのはず、蓮太郎の右腕はバラニウムよりも高度のある金属、『超バラニウム』で作られている義手なのだから。

 

 

 

「どうしたクソ野郎! 不意打ちじゃなけりゃこんなもんかッ!」

 

肩で息をしながら近づいてくる蓮太郎は腕をぐるぐると回しながら八洲許の襟首をつかみ、高校生の腕力買って思うくらいに彼を持ち上げる。

 

 

怒りに燃える蓮太郎に対して八洲許は。

 

 

・・・これが若さかッ!!

 

 

血でかすむ視界に八洲許はそう感じていた。 感情に任せて行動する・・・実に幼稚だ。 だが、そこには、その拳には揺るぎない信念を感じる。 どれほどの思い入れがあるか知らないが、本気で呪われた子供たちを人間だと思っているのは間違いないようだ。

 

警官という立場の自分を問答無用で殴りにかかる・・・まさしく主人公の特権だ。

 

 

「どうしたオッサン!」

 

無造作に、力任せに彼を投げ飛ばしたあと、そう吐き捨てるが当の八洲許にはダメージが効いているのか反応が悪い。

 

 

・・・ちょっ、マジでやばいんだけど。

 

 

頭を揺らされるという生易しいものではない、トゲ付き棍棒で思いっきりぶん殴られた気分だ。 もはや意識もだんだんと遠くなるのを感じる。

 

身近に迫ってきている死を、八洲許は感じていた。

 

 

 

 

彼は「晴らし人」という地獄の稼業をするにあたって覚悟していることがある。それは、死ぬときはロクでもない死に方しかできないということだ。

 

人の命を頂戴するからには、いずれ私も地獄行き、言葉の通りで、八洲許の仕事仲間たちもロクな死に方しかしていない。

 

 

ある時はヤクザに拷問の末に舌を噛み切った奴。

 

殺害相手の母親からの復讐による凶刃に倒れた奴。

 

身元が割れて警察に滅多撃ちに会った奴。

 

 

兎に角、ロクな死に方をしないのだ。 そういう事を見てきた彼だからこそ、生涯現役を心がけて、必ず七海に見守られる形で布団の上で死ぬというのが理想の人生だった。

 

だが、それもこれで達成できないのだろう。 まさか、死因が怒りを買った高校生にタコ殴りにされて死ぬだと誰も思わなんだ。

 

 

・・・やっぱり俺はロクな死に方をしねぇな。 すまねぇ七海。

 

 

「うおおおおおおお―――――いでっ!!」

 

八洲許が死を覚悟した瞬間だった。 拳を上げていた蓮太郎の頭にぶつけられた物があった。 ぶつけられた痛みに頭を抑えると彼は地面に転がった石の塊を発見する。

 

「なんだ一体―――――ぐぼッ!!」

 

 

石を拾い上げて、正面を向いた時だ。 突然、蓮太郎の臀部の当たりに痛烈な衝撃が駆け抜けた。 その丸太による突きをくらったかのような衝撃に身を守る事もできなかった蓮太郎は思いっきり後方へと飛ばされる。

 

 

「な、何が起きたんだ・・・」

 

 

起き上がった蓮太郎が見たのは、衝撃的な光景だった。 それは顔の血を拭った八洲許にも言えたことだろう。

 

 

「・・・・・」

 

 

綺麗な水色の髪をなびかせたのは、少女だった。 服装は、お世辞にも綺麗とは言えない酷く汚れ、所々に針で塗ったようなツギハギの服を着ている。

 

 

「・・・・なんでお前が?」

 

 

蓮太郎は目を疑った。 なぜなら、あの時、路地裏で無慈悲にも八洲許の手によって射殺された筈の呪われた子供の少女が目の前にいたのだから。

 

 

「オイオイオイオイオイ」

 

 

むくりと立ち上がった八洲許はふらつく体をなんとか立たせて少女の元へと歩み寄った。

 

 

「お、お前なんでこんなところに来てんだよ~。 俺にはもう関わるなって言っただろうがぁ」

 

 

 

・・・は?

 

と、蓮太郎は目を丸くしてみせた。 一体どうなっているのか分からない。 なぜ目の前で殺された筈の少女が生きているのか。

 

 

「だって・・・おじさんは命の恩人・・・だよ」

 

 

小さくそう呟いた少女に蓮太郎は首を傾げる。

 

 

・・・命の恩人? ど、どういうことだよオイ。

 

 

 

「私が殺されそうになったとき、『死んだフリしろ』って言ってくれたから。 実際撃たれたのも、最初の一発だけだったし、あとの全部血糊を仕込んだ弾だったよ」

 

 

「いやいや、一発目で気絶してたお前がなんでそんな事知ってんだよ」

 

 

「私を治療してくれた女のお医者さんが教えてくれたよ」

 

 

・・・あの野郎、余計なことしやがって!

 

内心で日夜大学の研究室で血色の悪そうな顔で薄気味悪い笑みを浮かべる女医者の顔を殴りたいと思った安元だ。

 

 

「はぁ~」

 

大きくため息をついた八洲許は少女の両肩に手を置いた。

 

 

 

「どうしてくれんだよ。 せっかくダーク♂路線のブラックでダーティ系の主人公を狙っていこうと頑張ってたんだぜ俺。 ちょっと心が痛かったんだけどなんとか悪キャラつかもうとしてたんだぜ・・・主演男優賞おじさんはよぉ狙ってたんだぜぇ・・・お前なんてことしやがるッ!」

 

 

唐突に怒鳴った八洲許は立ち上がると同時にその水色の少女を担ぎあげた。 そのまますっぽりと八洲許の背中に収まった少女は落ちないように首に手を回す。

 

 

「あぁもう色々とメンドくせぇ! おいそこの高校生! 俺はコイツを送り届けてやることになった! あんまこの事言いふらすと暴行罪でワッパ(手錠)かけてやるからな!」

 

 

指差してそう言い放つ八洲許は少女を背負ったままその場から走り出した。そして携帯を取り出してガラケー特有の片手のスナップを聞かせた開き方をしたあとにある人物へと電話をかける。

 

 

「おい松崎ィ! ガキが俺の所に来ちまってんだけど! 早く引取りに着やがれッ 仕事サボってんじゃねぇッ!」

 

 

 

 

 

・・・な、なんか俺は凄い勘違いをしてたのか?

 

 

今更ながらにも蓮太郎は地面に座ったまま蓮太郎は走り去っていく八洲許を眺めていた。 真実とは、意外なことであったりするものだと改めて実感する。

 

 

「あぁ~もう、どうなってんだか分かんねぇよッ!!」

 

 

頭を掻きながら彼は大きな声で叫んだ。 色々と腑に落ちない点でいっぱいだ。 なぜ呪われた子供達を殺したと見せかけて逃がしているのか、敢えて汚名を被るような事を自分から進んでやっているのは何故なのか。

 

 

だが、あの少女が生きていたのは事実。 若干だが、彼の中であの男の評価が変わりつつあった。

 

 

・・・取り敢えず、帰ろう。

 

 

留まるべき理由もなくなった蓮太郎が帰ろうとしたその時だ。

 

 

ガチャ。

 

「ん?」

 

 

右足に引っかかっている何かを感じ取った蓮太郎は思わず自分の足元を見た。 良く見ると、自分の座っている場所の足元には自転車があり、いつの間にか手錠が自転車のフレームと繋がれていた。

 

 

「ハッハーざまぁ見やがれクソ高校生ッ!」

 

 

 

遠くから聞こえた嘲笑の声に、蓮太郎が視線を変えると遠くでこちらに向けて指を差しながら大笑いしている八洲許の姿があった。

 

 

「誰が『タダ』で帰すと思った! 警官殴ってんだ、それぐらいで済むんだから安いもんだと思いやがれ!!」

 

 

「やったのはわたしだけどねー!」

 

後ろにいる少女が快活にも大きく手を振ってそう言ってるのが聞こえた。

 

 

 

 

・・・・訂正してやる、やっぱりクソ野郎だった。

 

 

蓮太郎が、一瞬でもあの男を評価したことが誤りだったと気づいた時には、もう遅かった。 そして蓮太郎は足につながったままの自転車を抱えたまま、自宅へと帰る羽目になったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ勇次、そいつ斬り殺してもいい? 仕返しならいつでもやるよ」

 

 

 

夕食中の七海の口から飛び出した物騒な一言に勇次は飲んでいたお茶でむせてしまった。

 

 

「オイオイ、なんて物騒な事を言うんだお前は。 そんな事やんなくてもいいんだよバカヤロ」

 

 

「だって勇次なんも悪いことしてないのに一方的に殴られただけだよ! こんなのないよ! あんまりだよ!」

 

 

ちゃぶ台に思いっきり手を叩きつけた衝撃で本日の汁物が大きく揺れる。 

 

 

「仕方ねぇだろ。 アイツ等を逃がすには一度その場で死んでもらうしかねぇんだよ。 人間ってのはな、有名人か知人でもない限りは死んだ人間を時間が経てば経つほど忘れるのさ」

 

・・・それに、死んだ人間は警察は追う必要はない。 

 

 

「だったら勇次、依頼人として私に依頼して、それなら文句無いでしょ。  お金だしてよ・・100万くらいもってるでしょ」

 

 

「なんか後半の文面だけだと娘に恐喝される弱い父親の構図に捉えられるからヤメロ」

 

 

晴れた顔の状態とは裏腹に軽快に口に米を運ぶ八洲許はその後もしつこい七海になんと言われようとも依頼する気はないと突っぱねた。

 

 

まず相手の名前を知らないし、ああいう真面目で己の正義を貫く男は殺したくはなかったからだ。

 

 

 

「取り敢えず、お前は飯食ったんなら早く注射して寝ろ。 もう風呂入ったろうな」

 

 

食事を終えて、後片付けも済ませた八洲許はドライヤーで髪を乾かしているパジャマ姿の七海に言う。

七海はいつもの箱から何かを取り出す。

 

取り出されたのは、針を使わない圧力式の注射器だ。 イニシエーターに配られている体内侵食率を抑える薬をそのまま使わせてもらっている。

 

「もちろんですとも」

 

手慣れた手つきで自ら腕を出す。 最初は八洲許が行っていたが、今では自分で注射をするようになった。

 

 

・・・まぁよくもこんなに成長してくれたなぁ。

 

 

一時期、引き取った七海を連れてこのアパートで住み始めた当初は、七海は今ほどご飯を食べていなかった。 いや、食べていなかったと言っていいだろう。 理由は色々と複雑で、食べても吐いていたのを八洲許は覚えているが、今はたくましくもご飯をしっかりと食べて、苦手な注射を自分で行っている。

 

 

「・・・ん?」

 

そんな昔のことを思いながら七海を見ていた八洲許は腕に注射器を当てている彼女がこちらを見つめているのを知って声を漏らした。

 

 

七海は注射器のピストンを押すと、悪い笑みを浮かべて言うのだ。

 

 

 

「へっへっへ・・・これが最高に効くんですよ」

 

 

「ハイ、タイーホ」

 

注射を終えた七海に八洲許は手錠を彼女に振り回した。

 

 

「うわっ! ごめんごめん! 冗談だって! ちょ、ノリ悪いって勇次!」

 

 

「タイーーーホ」

 

 

「にょわ――――――!許してェェェ!!」

 

 

 

色々とあった一日だが、今日も八洲許家は平和だ。

 




必殺2014を見たあとに作ってしまったこの第二話、だからといってどこも影響を受けているわけではありませんが。東山さんの殺陣がもっと見たかったと思ったり。

今回出てきた田中 熊九郎、仕事人そして田中と聞いたら必殺好きなら誰もが知っているあのオカマ上司。 伊熊将監の名前が出てきたのはまぁ、シリアスの伏線です。 次回ギャグ回、ノーマル、仲間登場、夏世ちゃん。 という感じでやっていきたいと思います。

次回予告、カオスにつき。



――――――次回予告。



木更「『黙れ化物!』と、延珠ちゃんの通う勾田小学校の教室に響くのは無情の声」

延珠「違う! 妾は人間だ!」

蓮太郎「おい! ギャグ回じゃなかったのか!」

木更「そして突如として開幕する勾田小学校サッカー大会! 悲しみに沈む少女の恨みを晴らす為、延珠ちゃんと七海ちゃんが立ち上がる!」

延珠「妾のラビットシュートをくらえぃ!!」

蓮太郎「延珠止めろ! ボールが粉々になるぞ!」

木更「次回、暗殺生業晴らし人第三話「悪戯無用(いたずらむよう)」。 荒ぶる舞ちゃん、はじけ飛ぶ延珠、燃やせ魂ィ勾田小学校サッカー部ッ!」

延珠&七海「ボールは友達ィッ!」

木更「そして勾田高校に通う里見くんにホモの魔の手が迫るッ!!」

蓮太郎「やっぱりギャグ回じゃねーか!!」
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