ブラック・ブレットー暗殺生業晴らし人ー 作:バロックス(駄犬
世の中、『知っている』ことよりも『知らない』事のほうが多い。 それはどの時代でも変わらない。アイツの家がどうした、とかアイツの家は金持ちだ、とか至極どうでもいい話だが、大抵その『知らない』事はほとんどが『知らないほうが良かった』といったものである。
「延珠ちゃーん、おはよーう!」
彼女、七海 静香(ななみ しずか)には秘密がある。 表でこそ、彼女は可愛らしくも笑顔を見せるごく普通の小学生だ。
「うむ、七海ちゃんおはようなのだ!」
「おはよー二人とも~」
向かってくる七海に延珠と舞が手を振っていた。 彼女らは三人仲良しで、普段遊ぶのなら大体がこのメンバーである。
「そう言えば、この前のバイオレットの新技が出たんだよ!」
肩を並べて歩き出した途端、彼女たちはアニメの『天誅ガールズ』の話に突入した。
「ああ、あの鎌をぐるんぐるん振り回すやつだろう? 相変わらず地味だな」
「違うよ! バイオレットシザーズハリケーンだよ延珠ちゃん!」
鼻で笑った延珠に対して、七海が両手を振り回しながら技名の解説をし始める。
「30mの範囲だったらどんな敵でも粉みじんに切り刻むあの技は私の心を掴んだの! 電流が走った! まさにハートキャッチッ!!」
嬉々として目を輝かせている七海に呆気に取られる二人だったがやがて延珠の隣にいた舞が物申した。
「静香ちゃん」
「どうしたの舞ちゃん」
「あの技使ったその日、バイオレット以外も巻き込んでたじゃない、しかも味方ごと」
そう、何を隠そう、バイオレットがその日放った必殺技は敵を切り刻むだけでなく味方のレッド達にも被害を及ぼしていた。 それをバイオレットがあざとくも「ゆるしてー」と涙を流しただけで、その日バイオレット以外の天誅ガールズファンから痛烈な苦情が殺到したらしい。
「舞ちゃん・・・」
事実をあらかじめ知っていた七海はどこか遠くを見る目で言うのだ。
「戦いに勝つ上で犠牲は付き物だよ」
「よーし行くぞ舞ちゃん! 教室に誰が最初につくか競争だ!」
悲壮感漂わせる七海をよそに、延珠がはつらつとした声を上げていきなりレースを開始した。 隣にいた舞はまるで阿吽の呼吸の如く同時にスタートしたが何か浸っていた七海は完全に出遅れていた。
「アレ!? 無視!? 無視されるの!? やめて! 私までバイオレットみたいな扱いをしないでぇ!」
これはテロだ。 テロという名のイジメなのだと七海は涙を飲んだ。そして彼女は思うのだ。
・・・はぁ、なんで私の『表』ってこんな感じなんだろう。
話を元に戻すが、まさかこんな少女が人の恨みを晴らす為に刀を握って『ドブネズミ、死ね!』なんて吐く暗殺者だったなんて誰も知るよしもないだろう。
・・・もういっそのこと、「イニシエーター」になっちゃおうかなぁ。でもプロモーターは勇次じゃないとダメだし。
七海静香はいわゆる「呪われた子供たち」だ。 モデルとなった動物は単純にも『犬』・・・つまり、モデル・ドッグだ。 能力を解放する瞬間、彼女の姿はウィルスの因子が濃くなり、その影響で耳が生えるという。 髪の毛が伸びて変色するのは彼女の担当している医者でも「理解不能」と言われている。
・・・昔はあの犬耳と白い髪が制御できなくてめっちゃ苦労したんだっけ。
過去の未熟な自分を思い出す。 今も未熟なままだが、あの時は色々と苦労したものだ。
・・・でも序列がないと自分たちの強さがどれくらいなのか分からないのが嫌だなァ
自分の父親代わりとなっている八洲許が警察官でプロモーターではないように、七海もまたイニシエーターではない。
故に、二人にはIISOが規定し、発行している『IP序列』というものが存在しない。 そんな彼女が今日までしっかりと生きてこれたのは食事や学校に行かせてくる八洲許の他に、薬などを提供してくれている後援者の存在によるものが大きいだろう。
以前、七海は勇次になんでIISOに登録させないのかと質問したことがある。 朝食で梅干を丸呑みした彼は涙目を浮かべながらこう言った。
『IISOに登録したら要はお国の飼い犬だろ? そんなところに登録してお前ェ「裏の仕事」やってみろ、下手したら登録した情報から足が割れちまうかもしれねぇ』
もちろん、飼い犬は嫌だ。と彼はそう付け加えてこの話題を切り上げたのを七海は覚えている。 深く問いたださなかったが、何か深い意味はあるのだろうか。
・・・いや、それよりも気になることがある。
もっと、彼は自分に隠している事があるんじゃないかと、『裏の仕事』を通して感じるようになった。 常に殺しの最後の段階を勇次が行っているのではなく、七海に行わせているのは何か理由があるのかもしれない。
もう彼の殺しを見てないのはどれくらいになっただろうか。 そんなことを考えながら、彼女は小学校へと入っていくのだった。
ここで七海静香についてもう少し語らせていただこう、ついでに藍原延珠についてもだ。
彼女たちは一見普通の女子小学生に見えるのだが、その実は、藍原延珠がイニシエーター、七海静香が暗殺者という奇妙な組み合わせである。
だが奇しくも、この事実を藍原延珠と七海静香はお互いに隠している。 延珠は七海が暗殺者だと知らないし、七海は延珠がイニシエーターだということを知らない。
お互いが身分を隠す必要があるのは、仕事の都合上と、自分たちが『呪われた子供たち』だということだ。
延珠の場合は民警のペアの中にはイニシエーターを普通の一般人と偽って学校に通っているイニシエーターも少なからずだが存在している。 これで浮かび上がってくる問題は自分たちの正体がバレてしまった時だ。
確実に、延珠は学校には居られなくなるだろう。
七海は暗殺者という職業柄、こんなものがバレればそれは殺人鬼の領域の所業だし、ヘタをすれば牢獄行きにこの世界にまだ首切りの刑が残っているのなら、断頭台に送られることも止む無しなのだ。
だから二人は正体がバレないように普段の紅い目を封じ、身体能力も極力抑えるという条件で学校に通っているのだ。
・・・だけども、最近このバレるかバレないかの瀬戸際で繰り広げられる緊張がたまらんのですよ!
と、内心でこの状況を楽しんでいる七海静香なのであるが、そんな彼女たちにも注意を引くような単語がある・・・例えば。
「うるせぇ化物ッ!!」
延珠と七海が背筋を伸ばす程の大きな声に、教室一帯が響き渡る。
「なんだろ」
「あれだよ、延珠ちゃん。 いつもの吉田くんの・・・」
思わず、自分たちに向けられた言葉ではない事を理解した二人が内心で安堵する。
延珠の隣に居た舞が目で送った視線の先には二人の男女がにらみ合っていた。
「よ、吉田くん! ど、どうして、どうして私に酷いことするの!?」
にらみ合っていた片方の少女は、口調を震わせながら涙目であった。 向かいの少年は鼻をふんと鳴らして反論する。
「うるせぇ! お前がいつまでもトロくてデブだからいけねぇんだろ!」
この二人は同じクラスメイトの松子ちゃんと吉田くんだ。 いつも事あらば吉田くんが松子ちゃんに対して暴言など吐いて場を騒がせていくのがこのクラスのお決まりみたいなものだ。
「ちょっと男子ぃ、いい加減にしなさいよ! いくら松子ちゃんが飼育係の餌やりを忘れたからってそこまで怒ることないじゃない!」
「い、いいのよケメコ。 私が悪いのよ! 私がデブなのは認める! 確かに私はデブよ! 松子デラックスのように身体がアレな私だけど、せめて『ふくよか』って言ってもらいたいわ!」
周りで見てられなくなった女子の一人が割って入ったが、すぐさま松子が制して涙を拭う。
・・・うーん、モノは考えようなのかな。
もうちょい怒ろうよ、と一向に泣くだけで反論を見せない松子に七海は溜息をついていた。
「よし、妾が止めてこようではないか!」
その横で延珠がすくっ、と立ち上がっていった。 何か戦いに向かう戦士のような勇ましさで彼女はハリケーンの中へと突っ込んでいく。
「延珠ちゃんって大胆だねぇ」
舞のセリフにうん、と頷きながら七海は腕を回している延珠を見る。 彼女は未だに喧騒を続ける男女の中に割ってはいるとどうどう、と場を諌めた。
「落ち着くのだ二人とも、理由はともあれ、松子ちゃんをそこまで愚弄するのはいかがなものか」
「藍原、ひっこんでろよ。 うさちゃんがどれだけ空腹な思いをしたかわかってるのか!」
うっ、と延珠は内心で吉田の言う言葉に一理あると感じてしまった。
このクラスの決まりで飼育小屋のうさぎの当番はこの吉田と松子になっている。その役割は絶対に忘れてはならないものだし、見つかったときのうさぎの状態はものすごい空腹で震えていたとか。
ましてや延珠はモデル・ラビットのイニシエーター。 あまり関係はないのかもしれないが、『うさぎ』という単語に思うところがあったのだろう。
続けざまに吉田の罵倒が炸裂する。
「だいたいいつも思うんだよ。 決めたことも守らないようなやつに、飼育係を任せられるかってんだ! そうだよな皆!」
と、彼は後ろに佇んでいる数人の男子に呼びかけると、お、おう、という弱い声が帰ってきた。 負けじと延珠も反論する。
「いいや、お主だって人のことは言えんぞ! この前の飼育小屋の掃除も松子ちゃんに任せてばかりでお主はずっと遊んでおったではないか! 」
そうだそうだ! と、延珠の後ろにいる女子数名から批判の声が上がった。
「うるせぇ! ヒモ野郎とつるんでる奴なんかに言われたくない!」
吉田くんの突如とした一言に、延珠の動きが止まった。
「お、お主・・・今、なんと言った」
「何度でも言ってやるぞ藍原、お前の所に住んでる男は女に飯を食わせてもらっているヒモ男で情けない男だ!」
瞬間、延珠の中で何かがぷつん、とキレた音がしたのを七海たちは心の耳で聞いた。
「よくも妾の『ふぃあんせ』をッ 侮辱したなァ!!」
一歩足を踏み込んで延珠は言う。蓮太郎は悪くないと。
「確かに蓮太郎はアレだ! 一度妾からお金を借りて生活したことがあった! それで周りの人から『情けないヒモ男』と呼ばれたとも。でもそれは家賃とやらを払うためだ。 そして本当の蓮太郎は情けなくはないッ 夜の方は凄いんだぞ!」
「アレ、ヒモであることは認めるんだ延珠ちゃん」
と七海。
「夜が凄いってどういうことなんだろうねぇ・・・」
「舞ちゃん、それはきっと、夕食の料理のことだよ。 延珠ちゃんのお兄さんはもやしに選ばれた『もやしマイスター』だからその事を言ってるんだよ、ウチは作ってる人がアレだからたまに朝昼晩で納豆が出てしまうけど」
七海はふと料理のことで思い出す。 そろそろ彼の納豆レパートリーから抜け出したいと。 彼は実家から抜け出してこの地区のエリアのアパートにひとり暮らしをしているわけだが、当然のように七海がやって来るまでも男としての料理の腕はイマイチだ。
だいたい44歳のオッサンが作る料理なんてカップ麺が基本なのだろうが。
そうこうしていくうちに、話はどんどんと進んでいく。
「蓮太郎の文句はッ 妾に言えッ!!」
どこぞの暗殺拳伝承者の台詞を吐きながら延珠が吠えた。 それに対して、目の前の吉田くんは腕を組みながらその怒号を悠々と受け止める。 まるでその姿はどこかの世紀末覇者のごとく。
「いいだろう藍原、ならば貴様との因縁もこれで決着をつけてやろう・・・」
・・・ノリがいいよなぁ延珠ちゃんと吉田くん。
遠い目で眺めていたのは七海はそんな事を思う。 クラスの悪ガキの吉田くんだが、天真爛漫の延珠とはノリの良さだけはかなり合っているようだ。
・・・でもなんで吉田くんって松子ちゃんにちょっかいだすんだろう?
思えば、この吉田と松子の喧騒は今に始まった事ではない。だが、あまり大ごとにはならないのも事実だ。 何故か先生が一度だけ割って入ったが、男子数人に連れられて数分後先生がちょっとホッコリした顔で
『君たち、度を過ぎたことはしないようにしておくんだぞ早く解決しなさい』
と言っていたのを思い出す。
・・・なんか賄賂もらってる勇次を浮かべちゃうなぁ
なんて、教師が生徒に脅される図はないだろうと七海は自身で結論を出す。 さっさと働け勇次、と心の中で同時に思うのだが。
・・・考えることとすれば。
もしかしたらと思うが吉田が何回も松子に突っかかるのは何か深い理由があるのではないか。そう思わずにはいられない七海だった。
「勝負はサッカー対決だッ 場所は明日の昼休み、人数はちゃんと11対11でやるからな仲間集めとけよ藍原! 」
「いいだろうッ 負けた側のチームは勝ったチームの言う事を『なんでも』聞くッ ただし吉田くん! 君は必ず謝ってもらう、松子ちゃんにだ! インテリヤクザばりの銀行員並みの土下座を私は要求するからなッ」
「望むところだ!」
・・・ん? 今なんでもするっていったよね? でもサッカー対決って、それ不味いんじゃないかな。
吉田と延珠のやり取りに、七海は思い止まる。 確か吉田くんはサッカーが得意だ。 その取り巻きでも言える彼らの男子は同じく休み時間でよくサッカーをしている。
これはもう分かりきったことだった。 サッカーが得意な吉田くんの土俵に延珠は既に引き込まれてしまった。
だが制止しようにも二人のこの昂りようはもう限界点を超えていた。 今更、やっぱやめようとは到底言えない雰囲気である。
かくして、勾田小学校で一人の少女の仇を討つための戦いが明日、行われる事になった。
「いやぁ熱い戦いの予感だねぇ七海ちゃん」
「そうだねぇ、私は解説に回ることにするよ舞ちゃん、私の名前はサッカーの解説をするためにつけられた名前だと思うのッ!!」
ふっふっふ、と笑みを余裕の笑みを浮かべていた七海。 彼女はこの争いには我関せずというのを貫く覚悟でいた。
スポーツというのは戦いだ。 ふとしたことで、自分の正体がバレそうになってしまうという展開はごめんである。この勝負も、ひたすら観戦するという形で見守ろうとしていた七海ではあったのだが。
○
・・・アレ? なんで私囲まれてるの?
言葉の通り、放課後となった七海は教室にて数人の男子に囲まれていた。
延珠や舞は忘れ物を取りに行くと言って先に帰らせてしまっている。 忘れたものを見つけた時だった。突如として、教室の扉を閉められ、ロッカーから教卓から、机の下から、全員で8人くらいの男子が現れたのだ。
・・・こ、これはッ なんだ! 薄い本的な展開なのかッ
この小説はある程度は健全です。
「ちょっと、一昔前の映画にいたエージェントなんちゃらみたいに出てこないでよ。 私に何の用?」
手短に七海がそう言った時だ。 一人の少年が勢い良く地面へと伏した。 文字通り、土下座である。
「頼む七海! 力を貸してくれッ」
下げていた頭を上げたのを見て、七海は驚愕する。 その人物は、吉田くんだった。 そう懇願する吉田の横から少しガッチリとした体型の少年が現れる。
「すまん、七海・・・俺からのお願いや。 コイツの力になってくれんか?」
「君は・・・同じクラスでサッカー好きの本田(ほんだ)くん!!」
本田と呼ばれる少年、彼は第のサッカー好きでサッカーに対してはとことんストイックな性格だ。地元のサッカー少年団からも声がかかるほど上手く、小学生にして無回転ボールが蹴れるらしい。 関西弁と標準語をきれいに使い分けることができる。
一度ある有名な選手に憧れて小学生にして金髪にしたことから『不良』のレッテルを貼られた事がある。
「でも本田くん、いくらなんでも今回の事は情状酌量の余地はないよ。 どう見ても吉田くんが悪いよ」
それは分かってる、と本田はそう繋ぐと座っていた吉田が口を開いた。
「俺が悪いことは分かってる。 俺はアイツに謝りたいだけなんだ」
「どういうことじゃ?」
首を傾げる七海に対して隣の本田がかいつまんで説明していく。
「実はな・・・コイツ松子の事が好きなんだってよ」
「ファッ!?」
「ち、ちげーよ馬鹿! 誰があいつなんかと!!」
一瞬、目が飛び出そうな感覚に襲われ、七海はのけぞった。 横に居た吉田が顔をまるで湯立ったように赤くして慌てて立ち上がる。
「俺はただちょっと言いすぎただけだから謝りたいだけだし! 好きなわけねーし! あんな奴全然好きなんかじゃねーし!」
「と、まぁこのようにコイツは筋金入りのツンデレや」
「なるほど」
「納得すんなよ!!」
吉田が突っ込むとがくっ、と膝を抱え込んだ。 ほかの女子に知られる事が相当へこんだらしい。
「コイツもそこまで悪気があったわけじゃないんや、いつも。 ただなんていうんやろ・・・うーん」
腕を組んで唸る本田に七海は閃いた。
「好きな女の子にはちょっかいを出したくなってしまう・・的な?」
「そう、それ。 今まではこいつがちょっかいを出して先生がくるやん。 でも先生も男だから、結構陰ながら応援してくれてる」
なるほど、と七海は納得する。
そういうことなら、これまでの不自然なほどの吉田くんの松子ちゃんへの暴言の原因や先生がどうして大袈裟にしない理由が分かった。
・・・いや、それでもその現場を見逃すなよ教師。
「だったら今回の事も勝負で決めないでフツーに謝ったら? そのほうが絶対解決早いよ」
七海のいうことも一理あり、無駄な争いを避けて、彼が本心で謝れれば何も問題はないのだ。 だが、吉田はそれを否定する。
「それは無理だ七海。 俺は藍原と決闘の約束をした、男が女に勢いとは言え一度言いだしたことに背を向けるわけにはいかねぇ」
・・・変な所で男らしいッ!!
こう言ったプライドが邪魔しているから話がこじれてきたのではないだろうか。 と七海は男について呆れる。
「でも私は観戦だよ。 延珠ちゃんの方にも誘われるかもしれないけど断る方針でいるから――――」
と七海が断固たる決意で断ろうとした時だ。 ふと、机の上に本田の手から何かが置かれる。
置かれたものは袋に詰められたお菓子だった。 中には七海が好きな『天誅ガールズキャンディ』もある。 思わず手を伸ばしかけて彼女は手を引っ込めた。
「・・・こんなもので私を釣ろうなんて百年早いわ」
「すっごい釣られそうだったけど。 絶対後数秒くらいで掴みそうだった!!」
「そんなわけがない! 延珠ちゃんは私の友達よ。 それを裏切るなんて、そんな・・・有り得ないわ」
と、先程から机の上にあるお菓子を何度もチラ見するその様子を見て、後一押しだと考えた策士・本田は次の一手に出る。
「なら七海、コイツはどうや」
ポケットから奥の手を繰り出す本田に七海は目を疑う。 その手に握られていたのは一枚のカードだった。
「なッ! 馬鹿なッ ソレはッッッ!!」
息を呑み、彼女はそれを見つめる。 まるで探し求めた財宝を見つけ出した海賊の如く、その眼差しは欲望にまみれている。
「天誅バイオレットのXレアカードッッ」
「男子顔負けの身体能力を持つ藍原・・コイツに対抗するにはお前が必要や」
もはや人気になって説明する必要もないだろうこの天誅ガールズにもカードが存在する。 人気なレッドやブラックのXレアになるとネットオークションでは1万を越える金額を付けられる程だ。 なんでも相当有名な絵師が描いたイラストが人気でそれがオタクたちに広まったとか。
ではこのバイオレットのカード、どれくらいの価値があるかと問われば・・・衝撃なことにあまり価値はない。
・・・しかしこれは初期の限定版ッ あまりの不人気ぶりに開発陣が発狂してそのまま製造中止になったレア中のレア。
いくらXレアというくくりではあっても、『所詮バイオレットですしおすし』と蔑まれ、オークションでは最も安くついた値段でなんと20円。
まさかの20円、チロルチョコと同等。
そんな『誰がいるか捨ててしまえ!』と言われ、家にはカラス除けとして使われるバイオレットカードでも、目の前にいる超がつくほどのバイオレット好きの七海にとっては喉から手が出るほど欲しいものなのだ。
「賢いお前ならわかるはずや。 これが手に入るには、何をしなければならないか」
悪い笑みを浮かべて七海は苦悶の表情だ。 なぜならこれを取ってしまうということは、友達である延珠を裏切るという事になるのだから。
入学してすぐ、その自由で元気な性格からすぐに打ち解け合った二人。 舞なども連れて色々な場所に行くのもいつも一緒だった。
競争の時も同じ運動神経の良さから張り合っていた二人・・・言葉を変えればまさしくそれは強敵(とも)と呼べる存在。
そんな彼女を七海は裏切ることが出来るのか。 彼女の決断はこうだ。
「も、もう一声・・・」
「握手会イベント限定、バイオレットオプションカード『不人気の連鎖』L(レジェンド)レアカード追加」
「よしのった」
それはこれ以上にない力強い返事だったという。
「というか、本田くんはなんでいつも両腕に腕時計つけてるの?」
「これか? これは常にclassicを求めてるからや」
次回に続く。
この小説を書きながら、この作品のスポーツ状況はどうなってるのかと考えたバロックスです。 ガスとレア対戦で相当な死者が出たはずですし、日本も都市国家となって分断された今、甲子園球場や東京ドームはどうなったのか。
サッカーで私の好きな選手たちは一体どうなってしまったのか。 結構気になっている私です。
あまり小学校のお話が掘り下げられてなかったためちょっと作ってみた今回のお話。ええ、これは日常回でギャグ回ですよ。 ワールドカップに熱中してたからサッカー題材にしてお話作りたかっただけですよ。
前予告でホモと木更さんがでる話になっていましたがナゾのデータ破損により次のお話で出ることになりました。 ついでに、データ破損と一緒に木更さんの出番も無くなりました。
感想などいつでもお待ちしております。